No.600744

cross saber エピローグ

九日 一さん

突然で驚く方もいるかもしれませんが、謝罪を込めた最終話投稿です。

なかなか上達もせず、終盤の展開が決まっていてもそこまでつなげるアイデアも浮かばない。
実は2ヶ月ほど前から迷っておりまして、決心をつけようにも句切れのいい終わりが見えず、かと言ってこのままダラダラと書くのにも抵抗を覚えてしまい、こうして本来なら40話近く先になっていたであろうホンモノの最終話を書き上げた次第です。

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2013-07-23 18:17:51 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:540   閲覧ユーザー数:538

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ 〜少年が最期に祈ったもの〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我 紅の契りを断つ者なり

 

 

身を無為に賭し

心を創世に帰す

 

 

振るうは煉獄の果てに堕ちた劔

纏うは時空の狭間に漂う羽衣

 

 

座さば死人 立たば猛禽

狂わば大悪 臆さば偽善

 

 

 

其が混沌の全てを負う代価を以てして

今ここに 無我の魔王と杯を交わす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獣騎転生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もかもを打ち砕くような痛快な音を立てて、顔を覆っていた目障りな仮面が弾ける。

 

何もかもを昇華するようなささやかな音を立てて、背に生えた漆黒の翼が四散していく。

 

 

彼は自分の身の最期を悟り、そして思った。

 

 

 

ーーーーひとつだけ、心残りがあるとするならば。

 

 

 

彼は祈るように天空へと手を伸ばす。 そこには抜くような白も、翳る黒も無く、ただただ清々しい青だけが、どこまでも、どこまでも広がっていた。

 

その中に、彼は一つの幻影を見る。

 

この荒れた地に咲くはずもない純白の百合の花弁。 それはまるで何かを躊躇うかのようにひらりひらりと儚く宙を舞い、遂には彼の白い掌の上に降りたった。

 

彼は確かに、その花を、温もりを感じた。

 

 

 

「………せめて、最後くらいは、この呪われた翼で……………君の元へと飛んでいきたかった………」

 

 

頬を熱いなにかが伝う。

 

それが涙であると理解するまでに、彼は長い時間を要した。

 

彼には、自分が泣いているということが信じられなかった。

 

 

故郷を捨て、己を捨て、友を捨て、すべてのつながりを断ち切ってなお、空虚であるはずの自分の中にはこの熱い想いを溢れさせるだけの感情があったのか。

 

皮肉にも、唯一残っていたはずの嘲笑が浮かぶことはなかったが、彼にはもう、上辺を取り繕う空疎な笑みを無理につくる必要もなかった。

 

いつ以来やもしれない感情の任せるままに、彼は静かに涙を流し続ける。 もはやそれを止める方法さえも、彼はとうの昔に忘れてしまったからだ。

 

だが、彼が常にだらしないと蔑んでいたはずのその感情的行為は、死にゆく者への最後の慰撫だろうか、一種の安らぎを彼にもたらした。

 

今の彼にとって、その涙は、この世界で二番目に明確な自己肯定であるように思えた。

 

 

 

 

ーーーー俺が泣けるのは、人間だからだ。 俺が生きているのは、人間だからだ。

 

 

例えこのおぞましい色の流血が、背に生えた歪な翼が、腐れ切った濁声が、俺を異形へと変貌させていったとしても、その事実は変わらない。

 

世界の何億人に忌み嫌われてもいい。 世界の全ての秩序から見放されてもいい。 あいつらの中に、ちゃんとした一人の人間としてーーー望むならば友として存在できるのならば、俺にとってそれ以上の喜びはないだろう。

 

 

焼き切れそうな熱と共に薄れていく思考の幕の上に、苦楽を共にした最愛の仲間たちの顔が一人一人はっきりと浮かび上がる。

 

彼の胸に、彼が生涯抱いたことのなかった想いが込み上げる。 同時に、ずっと喉の奥で立ち止まり、凍り固まっていた言葉が今にも溶け出そうとしてしてきた。

 

 

この言葉は、きっと世界で最もありふれていて、最も大切なものなのだろう。 近くにいる人に対するほどそれを直接伝えることが困難になってしまう。

 

俺はそれ以前の問題だった。 人を拒絶し、温もりを断ち、失う悲しみを、捨てられる恐怖を避けてきた。 ゆえにその言葉を口にする権利も、契機もなかった。

 

だが、そんな俺でも、死ぬ時ぐらいは善人を気取ってもいいのではないか。 せめて、人の心を持った一人の男として終身を飾ってもよいのではないか。

 

最も愛した友人たちに、感謝の想いを伝う。 ただその行為を以て、友が友であり続けてくれることを願い、安らかな死を迎えてもよいのではないか。

 

 

 

最後までこんな俺と性懲りもなく付き合ってくれたあいつらに報いることができるとしたら、今の俺に許され、唯一可能な一つの贖罪があるとすればーーーー

 

 

 

 

そうして彼は、この世ではない何処かへと飛び立つ。

 

 

 

その刹那。 彼はたった一言、消え入りそうな、それでいて澄み切った声で、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あとがき》

 

これで計23話に及んだ僕の初公開作品“cross saber”は終わりになります。

非常に中途半端な終わり方になってしまったことは、謝罪に尽きません。

 

さて、このエピローグ。 物凄く意味深、あるいは意味不明だとは思いますが、実は僕は“cross saber”を書く上でまずこのシーンを最初に考えたんです。 ここにおける“彼”というのが誰であるかというのはみなさんの想像にお任せしますが、それによって捉え方は幾分か違ってくるはずです。

 

やたらと戦闘シーンを描くこと実に7ヶ月。 ほぼ全部の話にバトルがあるという、少年漫画さながらの文章を書いてきましたが、そこにあったのはただ単に作者たる自分の憧れだったのかもしれません。

 

僕が小説を書くきっかけとなり、同時に素晴らしい感動を与えてくれたかの大人気小説“ソードアートオンライン”。 みなさんの中にも「キリトのハーレム状態羨まし過ぎるんだよ、コノヤロー」という感情よりも前に………もしくはその次当たりに、異世界での彼らのストーリーに言い知れぬ羨望を感じた人も多いのではないでしょうか。

 

本当にデスゲームに閉じ込められたらトンデモナイとは思いますが、自分で書く小説だったらそれがいくらでもできるんですよね。 僕の場合だとそれに走りすぎて、読者にとって読みにくいことこの上ない作品をつくってしまったわけですが、やっぱり後悔はあんまりないんです。

 

僕はもちろん“cross saber”には強い思い入れがあるので、キャラクターや剣技はまたいつか別の作品にひょっこり登場するかもしれません。 (《ゲイル・クロウ》と《蒼日月》はほぼ確定的です)

同時に、この作品を執筆する中で学んだたくさんの事も重宝し、活かしていきたいと思っています。

 

 

それでは、投稿ペースがことごとく荒れ果ててしまっていたにも関わらず読んでくださったユーザーの皆さんと、僕のつまらない構想に付き合い、アドバイスをくれた友人に感謝の意を述べて最後にしたいと思います。

 

 

 

ありがとうございました。

 

 

 


 
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