No.599677 ゲイムギョウ界の歪風32013-07-20 19:42:00 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:1302 閲覧ユーザー数:1232 |
私は人間である。名前はアイエフ。
人間は貧弱な生き物だ。モンスターのような高い身体能力を持たず、かといって女神のような強靭な装備も持たない。では何があるのか、といえば知恵だろう。間違いなくそういえる。
人は考える葦であるとは誰の言葉だったか、この通りあっさりと腕を切り落とされ戦闘不能に陥る。これが女神ならそもそも切り落とされることもないだろうしモンスターならば少しあれば回復するだろう。だが人間の場合は集中的に治療しなければ生死にも関わる。これを貧弱といわず何を貧弱といえばいいのか。
人間の身で、女神を見返す。そんなことが可能なのだろうか?……信じるしかないか。
現在、私はプラネテューヌ本都内、コンパが勤める病院に搬送され療養中。目を覚ましたら違う場所で日付も変わってるのは別におかしくない。あんだけの傷だ、一日二日で目が覚めるほうがすごいといえる。そこまではいい。
だが、一つ見逃せない事態が存在した。
「……なんで、いんの?」
何故か、ネプギアがいた。すぐ近くに配置された椅子に座り、ベッドに倒れこみ眠っているようだ。
ネプテューヌならともかく、ネプギアとはあまり関わった覚えがない。ボッコボコにされたことならあるが。
……ネプテューヌに連れ去られるのを遠目にこいつに見られていたのはわかっていたが、まぁ、いいか。
さて、どうしたものか。私の右足に覆いかぶさっているコレを退かせば流石に起きるだろう。何故自分を助けたのかと聞かれて真実そのまま言えば……まぁ、大丈夫か。
目下の問題はそれだけではない。ふと右手を見る。そこにあるはずのものはもうなかった。
肩に包帯がぐるぐると巻かれ、押さえるようになっている。肩の先はない。
あの時は無我夢中だけどこうして落ち着くととんでもないことになったと思う。確かに国民としては人間一人の腕一本よりかは女神だけど当事者としてはたまったものではない。特に私みたいなのではね。
これからどうしようかなぁ。ただでさえ基本スペックで人間はモンスターに劣っている。だというのに人間の強みである腕の片方を失ってしまった。このハンデは余りにも大きい。義手とか用意できないのだろうか。保険的なのあったっけ。別に給料の使い道あんまないから余ってはいるけど。
「あいちゃーん、はいるですよー……あいちゃん!!!」
「は、ハローコンパ。色々聞きたいことあ「あいちゃあああああああああああああああああああん!!」ギャアアアアス!?」
病室に入ってきたコンパが私向かって飛び込んできた。い、いたい!すごくいたい!コンパの包容力(物理)がこんな強かったなんて私は知らなかったわよ!?
なんかすごく変な悲鳴まであげちゃったし。……あれ、何か静か。
「あいちゃん………腕……」
「あー…そうね。やっぱくっつけるとかは無理かー…。ラステイションかリーンボックスあたりで義手買えないかなー」
「…ごめんなさい、です…。なにもできなくて……」
「あー気にしない気にしない。結局は私のミスなわけだからさ。生きてただけでもめっけもんよ」
自分で言っておきながらなんだけど、正直早急に義手を用意しないといけない。理由は先述。しかしこれからどうするのだろうか。ネプギア任せなのはわかりきっているのだが、コレをどうするのか…。
…正直なところを言うと、あまりネプギアに関わりたいとは思っていない。
こいつは姉に比べて大真面目な女神だ。ついでにいうと、邪気がない。ネプテューヌとは別方向で無邪気なのだ。故にわかっていない。周りの人間(私など約一名)の劣等感を煽っているものを。度が過ぎた謙遜は嫌味と変わらない。そういうことだ。
「コンパ。私の退院、何時頃になりそう?」
「あいちゃんの回復力だと、明日には歩けると思う…です」
「ん、まぁいいでしょ」
コンパが【私の回復力】といったのは訳がある。
私は仕事や趣味上よく怪我をする。腕がなくなるほどのものはないがそれでも数日寝込むこともザラだ。こんな仕事じゃないと休み過多ね、ほんと。
「とりあえず、コレ回収してってくんない?私明日から有給取ってラステイション行くし」
『それには及びませんよ』
………突然、とても聞き覚えのある声が聞こえた。主に私を扱使う人間じゃねぇやつみたいな…あ、あいつ人間じゃなかったわ。
でも、流石にここにいるわけはない。…ネプギアの持つ腕輪型の端末からのようだ。
『おはようございます、アイエフ三佐。健康そうで何よりです』
「今健康じゃなくなったしそもそも左腕ないのに健康もクソもないんですけどね。で、何の用ですかイストワール様。で、何の御用で?病み上がりの私をまーた扱使うつもりですかクソ上司」
『似たようなものですね。明日、回復するそうですが……もう少し留まってもらえませんか?できればネプギアさんも一緒に』
「……コンパ。扉閉めて。鍵も」
「は、はいです!」
コンパがいそいそと鍵を閉める。ネプギアの名前が出てる当たりまたなんかあるんだろう。本当になんか手当ほしいわ、ほんと。
『…アイエフさん。あなたとコンパさんが墓場から戻り三日が経過しました。代償は、アイエフさんの左腕……だけではなかったようです』
「ネプギアに、何かが?」
『はい……ネプギアさんは、墓場で何かあったのか女神化機能が完全に停止しているようです。それでも通常モンスターには問題はないでしょうが、異常種や来るだろうマジェコンヌに太刀打ちするためには女神化は必須。そこでです』
あー嫌な予感しかしない。子守とかそんな方面のにおいがする。
大体女神化しなくても私より強いのよこいつ。左腕ない私が何しろってのさ。
『ゲイムキャラに協力してもらいます』
「ゲイムキャラ、ねぇ……」
ゲイムキャラ。私はあんまり詳しくはないけれど、とにかくこの世界、特に国を構成するのに重要な要素らしい。そうとしか教えられていない。私は【シェア供給源】だと睨んでいるけど、確証はない。
『ネプギアさんは現在精神が不安定です。一人で行かせるのはいささか不安があります。そこで、アイエフさん、コンパさん。貴女方二人にネプギアさんのお供を依頼します』
「わ、わたしも、ですかぁ!?」
『はい。あなたの(包帯関係を除いた)医療技術は必須だと判断しました。その病院には私から伝えますよ』
「で、なんで私なんですか?」
『ラステイション、リーンボックスに行きたいのでしょう?経費でいけます「承りました教祖様」あなたのそういうところ大好きです』
あんなこと言われれば誰だって受ける。事実私だってそーする。
左腕無しの弊害が今だ良くわからない以上子守という寄り道があったとしても充分だ。なんたって旅費が経費で落ちる。これに尽きる。
いやぁ上司に恵まれた生活って本当に素敵だわー。子守とかするだけで旅行できるし給料ももらえるとか本当恵まれてるわー。
プラネテューヌばんざーい。え?単純?人間単純に生きないとどす黒い精神になっちゃうから。仕方ないわ、うん。
『さて。コンパさん、アイエフさんの回復はどれほどでしょうか?』
「は、はい!流石に腕が生えたりとかは無理ですけど、明日には動けるようになるはずです」
『では、明日にでも退院してもらいましょう』
「うわっ、私酷使されすぎじゃない?待遇改善求む」
『モンスターに囲まれる生活よりかはネプギアさんのような美少女のおもりのほうが気も楽でしょう?』
「クソ教祖それは私の趣向をわかって言ってるわね?」
『勿論』
画面越しでニヤニヤと笑みを浮かべているであろうイストワールの表情を思い浮かべると非常に腹が立つ。イストワールは初代プラネテューヌに創られたって本人は言ってたけど多分その初代も性格悪かったんだろう。ネプ子とネプギアはそいつ見習えばいいと思う。
あ、でも見習わせたら多分私さらに酷使されそう。やっぱそのままのあんたらでいてほしい。私のためにも。
『では、これで失礼します。コンパさん、ネプギアさん連れて帰ってください』
「は~いです~」
画面が消失したのを見てからコンパがネプギアを担ぐ。身長差0cmなのによく担げる。私には無理だわ。
「休んでてくださいね」と優しく私に声をかけコンパも病室を出て行った。
外は夕方。三日寝ていたとは言っていたし大分身体も鈍っているだろう。腕立て伏せでもしたいけど片腕は無理。…そういえば持ち帰った左腕はどこに行ったんだろう。無理だったって言ってたから多分捨てられたんだろうなぁ。特に感慨もわからない自分に自分で少し驚いている。左腕がなくなったのに。女神みたいに替えられないわけでもないからかなぁ。人の命ってやっぱ安いわー。
んー……流石に三日も眠りこけてると眠気も微塵も感じない。
腹筋でもしたい。あー身体動かないや。携帯……ない。漫画、ない。携帯ゲーム機、ない。
ないない尽くしの病院生活。ひーまーだー。特に意味もなくナースコールでコンパ呼び出そうかな。流石に怒られそう。
電気も消え、カーテンも遠隔操作で閉めた。部屋の中は暗がりだ。
闇は好きだ。自分が世界に溶け込んでいく感覚がする。この感覚がなんとも言えない。中二病っつったやつちょっとこい。殴るから。
……眠くなってきた。暗いとやっぱ眠くなるもんだなぁ。
明日から旅行か…。楽しみだ…。危険はネプギアにでも任せよう……。おやすみなさーい、と……。
翌日。私は寝る前と同じ真っ白な光景を最初に視界に入れた。
三日間眠りこけてた癖に私はさらに寝ていたのか。睡眠不足だったのだろうか。
真横の時計を見てみる。6時……。
軽く身体を起こしてみた。結構な気だるさはあるが問題はない。右腕に繋げられた点滴は液切れしてるようだ。邪魔だったので針を抜いておく。栄養剤か何かだろうし問題はないでしょ。
それにしても、気だるさ以上に空腹が辛い。コンパー…なんか持ってきてーなんとかインゼリーでもいいからー……
「あいちゃーん、起きてるですー?」
願ったらきた。さすがコンパだ、私の嫁(断定)。手に持つトレーには病院食らしきものが置かれている。つくづく気が聞く子だ。包容力(胸囲)もあるし。
抜けている部分をカバーできればこれほど日常生活に頼りになる子はいないんじゃないだろうか。コンパいなかったらわたしの私生活すごいことになってただろうなぁ、主に不衛生的な意味で。
「おはようコンパ。はらへったわー、なんか食べさせてー」
「おはようですあいちゃん。ごはんですよー」
傍に座り、フルーツの乗ったスプーンを私の口元に寄せる。
「あむっ。んー…!三日…四日ぶりのご飯は沁みるわー」
「一杯食べてくださいです。今日から大変ですから!」
「そーねー…。コンパがいれば心強い……けど、子守は苦手なのよ。それに腕もコレだし」
「ギアちゃんは子供なのですか?」
私に疑問の視線を向けるコンパ。ああうん、言いたいことはわかった。でも怒れない、だってコンパだもの。
恐らく私のほうが身長小さいだろうとかそういうものだろう。大人子供の基準は身長、そう思う時期は私にだってあった。
「子供よ。ネプ子以上のね。って当然か、あいつの妹だし」
「……わたしにとっては、あいちゃんも子供ですよ?」
「はぁ?私も?」
「あいちゃんは、ねぷねぷとぎあちゃんがおもちゃを持っているのを羨ましいと思っているんです。だから、いじわるしちゃうと思うんです」
コンパの表情は、至極真面目だ。
かなりの天然だが、それでも私の幼馴染をやっていたんだ、当然精神的にもかなり強いはず。
コンパは、私を【玩具を買ってもらえず嫉妬する子供と同じ】だと言っているんだ。……かなりの侮辱だ。
「だから、あいちゃんは頑張ってるんです。おもちゃを買ってもらうんじゃなくて、自分で買うために、です」
「……嫉妬してんのは事実だけど、そうランクを下げた例えをされると流石に怒りたくなるわ」
「ごめんなさいです。でも、あいちゃんはがんばりやさんだから聞いてもらえないと思ってたです」
「あーそう。……あんたにゃ勝てないわ、ごちそうさま」
トレーにおいてあるものも一通り食ったし、そろそろ教会にでも顔を出そう。あーそうだ、寮から一通り荷物もって来ないとなぁ……
「あ、着替えならあるですよ。あいちゃんの荷物もまとめてあるから、準備が出来たら病院の受付で待ってるです」
「ん、ありがと。また後でね」
コンパが病室を出る。
反対側を見ると。着替え、携帯、武器。その他諸々が纏められていた。
…出来た人間だ。いい嫁になるね、やっぱり。
一通り準備を終え、コンパを連れ教会に来た。
現在時刻は大体七時。携帯ずっとあそこにおきっぱなしだったのか充電切れてたというオチが付いていた。やっぱコンパはコンパだったみたい。
なので充電器で充電しつつ使ってる。ポケットからコードが延びてる様はなんとも滑稽だ。
「おはようございます。アイエフ三佐、コンパさん」
「おはようございますイストワール様。アイエフ三佐、負傷療養を終え帰投しました」
「おはようございますです」
教会に来た私達を出迎えたのはやっぱりイストワールだった。そういえばこいつって眠るのだろうか?今まできにしたことはなかったけど。生命体ってぐらいだしやっぱ寝るのだろう。どうやってかは知らないが。
「それでイストワール様、パープルシスターは」
「あなたはこういう時だけはきっちりしていますね。…ネプギアさんなら、そちらに」
イストワールが指を差した先。長椅子の一部にはネプギアが座っていた。
…が、其の雰囲気は重くどんよりという擬音が浮き出てきている。あいつあんな根暗だったっけ?
「……あいつ助けたの失敗だったかなぁ」
「そんなことはない……とは思いますよ?ネプギアさん」
「ぁ……はい……」
イストワールの呼びかけに弱弱しく答え、私達のところまで歩いてきた。
…大分やつれている。三日どころか三年ああなっていたとすれば当然か。綺麗だった薄紫色の長髪に跳ねた毛が目立ち、目の下にも隈が目立つ。酷い有様だ。
コンパってカウンセリングできるのだろうか。え?丸投げする気満々じゃないかって?そりゃそうよ。私がやったら傷口抉りかねない。
「…ネプギアさん、本当に申し訳ありませんでした。…全員が捕縛されたのは、私のミスでした」
「そんなこと、ないです……。私は、何も出来ませんでした…。私の力が、足りなかったから……」
「……教えて、いただけますか?三年前の墓場で、何が起こったのかを」
イストワールに促され、ネプギアは話し始めた。
その内容は、驚くべきものだったのだ。てっきり物量に押されたのかと思っていたが、逸れは違った。
たった一人の女神に、負けたというのだ。
「四女神とあんたで、五対一でしょ?それで負けたっていうの……!?」
「そんな、です……」
四女神、そして最優の女神候補生と呼ばれるネプギア。
文句なしにこの世界の最高戦力だ。それが一人に負けたとすれば………
「この世界は、完全に敗北している……」
「……はい。それは間違いありません。マジェコンヌのワールドシェアは80%に届かんとしています。最早私達の行いは反乱に近いものになるでしょう」
「パープルシスターならともかくネプギアの顔が余り知られていないのはここでは優位に働くはずよ。これから仕掛けるのはゲリラ戦に近いでしょうし」
「ゲリラ戦…間違ってはいないでしょうけど……まずは基盤をそろえないといけません。これを見てください」
イストワールが出した画面には、世界地図が映っている。
西のプラネテューヌ、東のラステイション、北のルウィー、南のリーンボックス。各国の首都から少し外れた場所にそれぞれの国の色の点が浮かんでいる。
ソレとは別に、ゲイムギョウ界の中央に存在する巨大な山に大きく赤い点もあった。
「三日かけて調べた各国のシェアの収束地点です。ここに、この世界の構成要素であるゲイムキャラが存在していると思われます」
「ゲイム、キャラ……」
「国の女神に次ぐ重要要素です。彼女らの力を借り、そしてラステイションとルウィーの女神候補生に協力を仰ぎ、最終的には女神候補生を救出する。これがこの作戦の目的です」
「…で、ゲイムキャラの協力を取り付ける、ということは意志があるわけですね。拒否される危険性は?」
「ある意味、そのためのネプギアさんです。女神からの願いとあれば断ることもできないでしょう」
イストワールはネプギアに視線を向け、顔の位置に高さを合せ目線を合わせた。
「ネプギアさん。貴女に辛い思いをさせているのは重々承知しています。ですが、これはあなたにしかできないことなのです。あなたが、ネプテューヌさん、ノワールさん、ブランさん、ベールさんを救うのです」
「わたしが…………」
俯いたネプギア。……中身が見た目相応の彼女に言うには酷だろうけど、彼女に選択肢は、ない。
力には責任が、義務が纏わり付く。それこそ否応無しにだ。人間を大幅に超えた女神の力を持つネプギアに闘わない、動かないなんて選択肢は、存在しない。
それを言おうとしたら、コンパに手を引っ張られた。指を唇にあて、静かにというジェスチャーを私に向けている。
…………コンパは、優しい。優しすぎるんじゃないかと思う。そうでもないと、看護士なんてやってられないのかもしれない。
私には出来ないことだ。
「……やります。やらせて、ください」
小さい声で、はっきりした口調でネプギアは言った。
まだ怯えているような感じも含まれてはいるけれどそう言えただけ充分だろう。イストワールも満足したように目を細めている。
「ありがとうございます、ネプギアさん。アイエフさん、コンパさん。彼女の護衛よろしくお願いしますね」
「イストワール様、それ嫌味ですか?嫌味ですよね?」
「がんばるです!」
「では、ネプギアさん、アイエフさん、コンパさん。まずはプラネテューヌ郊外、バーチャフォレストの深部にてプラネテューヌのゲイムキャラに接触してください。それからはネプギアさんに持っている端末にその都度通信を入れさせてもらいます」
無視しやがったこの本。
あ、すっごいニヤついてる。若干俯いててわかりにくいけどこれ絶対笑ってるだろ。頭震えてるし。若干それっぽいの聞こえてくるし。
「御武運を」
あ、しかも話無理やり終わらせやがった。この本いつか殴る。絶対殴る。
「行ってきます、いーすんさん」
ネプギアもやる気に満ち溢れて歩き出してる。ああもう、やっぱ集団行動ってこうなるから嫌なのよ……
コンパまで「ぎあちゃん待ってくださいですー!」って慌てながら追いかけていった。
「アイエフさん。あなたの目的も、これで達しやすくなったのではないですか?」
「余計なお世話って言葉知ってますか?」
「おや、そうでしたか。それなら失礼」
「……では、私も行ってきます」
「いってらっしゃい、アイエフさん。……まだ彼女を恨んでいますか?」
「……さて、なんのことやら」
イストワールに背を向け、二人を追いかける。
後ろから何かの呟きが聞こえた気がしたけど、まぁ、いいか。どうせロクでもないことだろうし。
バーチャフォレスト入り口(看板付き)。
プラネテューヌから歩いて20分ってところにあるからかモンスターは弱いのしか出ない。ネプギアなら苦戦もしないだろう。
「それにしても、大変なことに首突っ込んじゃったわね。ほんと……」
「でも、ギアちゃんやねぷねぷの役に立てるなら構わない、です」
「あんたも真正直よね……あたしにはまねできないわ」
「あいちゃん見たいに一途なのも羨ましいです」
「うぐっ」
なんということだ、コンパにすら口で勝てないのか私は。
いや、7割ほど惚れた弱みだ。気にしてはいけない。嫁を立てるのが嫁の…………あれ?まぁいいや。
ネプギアは私達の数歩前を走り回っている。飛び跳ねながらアイテムボックスを探しまわる姿は小動物か何かだ。
あのミニスカ……というかあのセーラー服の上着だけみたいなファッションで飛び跳ねるってネプテューヌといいネプギアといい羞恥心というものが存在しないのだろうか。あ、巷で噂の見せパンって奴?私には理解できないわあれ。
いや、ぶっちゃけあれ普通の下着と大して変わらないでしょ?何、厚手とかそんな?誰か教えて。多分ネプギアは教えてくれないだろうし。
「しかしまぁ、なんとも子供が出来た気分ね」
「あいちゃんのほうがちっちゃいですよ?」
「言わないで気にしてるんだから」
「アイエフさーん!コンパさーん!」
「はいはい何よネプギア。あんまり騒ぐと体力なくなるわよ?」
急ぎ足で駆け寄ってきたネプギアを宥める。もう完全に小動物ってか犬だこれ。
精神に多大なダメージとか女神化できないほどのトラウマとか言ってたけどそうでもないように見える。やっぱイストワールだったか。
まぁ杞憂だったならばそれはそれで万々歳。なんたって女神だ。私らがやることなんて身の回りの世話ぐらいだろう。しかもネプギアならそれすらも自分で出来る。完全にお目付け役か何かだ。
これで給料がもらえるならなんてボロい仕事だろう。やっぱ教会ってホワイト企業だわ。イストワール様最高。
「探し回ってみたらアイテム沢山ありましたよ!」
「それはよかったわねー目的忘れてない?」
「……あ」
「おい駄女神。ここに来た目的言ってみなさい」
えへへー、とばつの悪そうな顔をしている。なんだこの小動物。子供か、子供なのか。
てか何も言わないってことは本気で忘れてたわね。目の前10mしか頭に入らないのだろうかこいつは。子供にありがちなことだが正しくその通り。姉妹そろって子供だった。
なんだろう、この保護欲を駆り立てる何かは。コンパといいネプギアといい私の周りはこんなんばっかか、割と本気でそう思った。
「とりあえずこんな浅部にいてもしょうがないわ。さっさと進むわよ」
「はい!」
「ですー!」
あれ、なんで私が仕切ってるんだろう。
森の中を進むと、途端に床が機械的になった
その下は湿地帯が広がっており高く木々が聳えている。やっとバーチャフォレストの深部と呼べる当たりまで到達したということになる。
ここまで大変だった。到着して既に二時間は経過しているだろう。
何が大変だったって身内二人だ。ネプギアはすぐふらふらしてアイテムサーチ始めるしコンパはコンパでふらふらしているし。こいつら絶対旅行かなんかだと思ってるだろう。私もそう思いたかった。
「さて。ネプギア、その手のもの早くしまいなさい」
「あ、は、はい」
ネプギアの両手には拾ったと思われる回復アイテム、アクセサリー、その他諸々がどっちゃりと乗っている。
そういえばこいつは一種のアイテムコレクターの類だった。コレクションというよりはとにかく集めるだけが目的のような気がする。集めるという行為に意義があるとかいう感じ。
ネプギアの腰にはNギアという平べったいゲーム機のような端末がついている。これはマップ、アイテム収納、辞書と多機能すぎる代物だ。問題はゲーム機っぽいけどゲームはできないこと(byネプギア)。
適当にモンスターを掃討しつつ進んでいく。左腕がないためか私はあまり上手く闘えてはいないがその分ネプギアがなんとも無双だ。ムカツク。
右腕に握られた剣一本で切り払い、吹き飛ばし、薙ぎ潰す。
あの細腕どうなってんだ。何で出来てるんだと思うほどにパワフル。ほしい。
コンパは戦闘要員ではないため後ろで待機。一応私も護衛に傍についてる、役得。
正直この辺のモンスターならネプギア一人で余裕だ。現に一人で大量のモンスター相手に大立ち回りを演じている。あのミニスカでよくあんだけ動けるよなぁ。やっぱ女神ってすごいわ。
そんなこんなで最深部らしき足場を発見。なんだか薄明るく光る物体が見える。あれがそうなのだろうか?
「薄紫に光る円盤……あれでいいのかしら?」
「誰かいるですよ?」
コンパの指差す方向に、誰か人間がいる。
鼠色のコートを来た…女性だろうか?あれの存在を知っているとしたら………まさか…
「ネプギア、急いで!あれは敵かもしれないわ!」
「は、はい!」
ネプギアが走り出したのを見て私もコンパの手を引いて走る。ちらっと確認すると走るたびにコンパの双球が揺れ動いているのがなんとも目にはいる。ちくしょう。
ネプギアが切りかかると鼠柄の女はネプギアを見ずに後ろに跳び避けた。
ガキンと地面を叩く金属音が響く。……【見ずに避けた】?
「ネプギア気をつけて!そいつ、ただの人間じゃない!」
コンパをディスクの傍に投げ飛ばし、ネプギアの隣に立つ。鼠柄の女は鉄パイプを握り締め、俯いたまま動かない。……いや、かすかに動いている。あれは、笑っている?
「気味悪いわ……ネプギア、人間相手ならあんたが負ける道理はないはずよ」
「は、はい……!」
片腕の私が役に立てるかどうかはわからないが、撹乱ぐらいなら出来るだろう。走るのは腕じゃなくて足でやることだし。
しかし、まだ動かない。なんなのだろうか。どこぞの国でアンドロイドなんて開発していただろうか……?
「クケ……クケケケケケケ…クァケケケケケケケケケケケケケケケ!!!!!!!!!!!!!!」
突然、笑い出した。両腕を広げ天に向かい笑い始めた。一頻り笑った後、女は心底うれしそうな顔で私達……というよりネプギアを睨み付けた。
「何かと思えば女神候補生じゃねぇかヨォ!!サイッコウじゃねぇか!鉄砲玉から幹部への大昇進間違いなしだ!ゲイムキャラも殺せる、女神候補生も殺せるなんて今日は吉日だよなぁ!」
狂ったように笑いながら女は握る鉄パイプを紅く光らせる。
…鉄パイプが、光る?特にライトもついていないただの鉄パイプがまがまがしく輝いてるのが非常に怪しい。
「コンパ、ゲイムキャラは!?」
「台座に固定されてるです。このままもっていくことは不可能…です」
「避難もできない仕様かよ、あのクソ教祖は何考えてんだ!ネプギア、そいつはなんとしても追い払うわよ!」
一応私も右腕にカタールを装着。構えては見るが正直役には立たないだろう。
ゲイムキャラの協力を取り付けるってどうやるの、もしかして周りにモンスターがいると出てこないとかそういうチキンな奴だったりすんの?稀にいるけどさそういうNPC的なの。でもこんな非常事態に出てこない重要人物とかマジ時間の無駄になるんだから……
「ああもう!今アンタの危機なんだから起きろネボスケディスク!!」
睨みあいはネプギアに任せ怒りのままに紫色に光るディスクがささげられた台座を蹴りつける。
すると建てつけが悪いのか劣化していたのか私が蹴った方向に傾き、その傾きは徐々に大きくなり……
――――――パリーン!!
「………あ」
「あ………」
「え……?」
若干耳に心地いい音を響かせ紫のディスクが粉々に砕け散った。
その様子を呆然と見つめる私達。最初に沈黙を破ったのは鼠柄の女だった。
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!バカだ、バカがいるぞ!」
「やかましい!大体大本アンタの所為だろうが!」
自分で言ってて恥ずかしいほどの責任転嫁。うん、もう誤魔化してこいつの所為にしちゃおう。護衛失敗とかそんな感じで誤魔化そう。イストワールなら信じてくれるって信じてる。
「あー…ヒヒッ、壊す手間が省けちまったァ……しゃあねぇ、女神候補生も殺してぇが報告しなきゃなんねぇな……ケヒッ、今は見逃してやるよ、じゃあな!クヒヒッ」
目を見開いて笑いながら鼠柄の女の姿が忽然と消えた。
ワープ……?どこの国でもそんなものは実用化の目処は建っていないはず……
「何にせよ助かったわ。問題は………コレだけど」
危機も去って一安心、と思ったら一難。
私達の目前にはバラバラに砕け散った紫色のディスク。……どうしよう。壊れたらまずいものよね、やっぱり。いや、あのままだったらだったで壊されてたかもしれないけど……
「あいちゃん。どうするです?」
「どうしよっか……。ちょっと教祖様にでも聞いてみましょう…か?」
「ゲイムキャラが………」
二人の冷たい目線を必死でスルーして愛用の携帯でイストワールに通話をかける。私用携帯だけど多分気付いてくれるだろう。イストワールだから。
数回の呼び出し音の後、『イストワールです』と無機質な声が聞こえた。営業スマイルならぬ営業無表情かあいつ。
「イストワール様、アイエフです。緊急の報告を」
『緊急、ですか。ゲイムキャラはどうなりました?』
「一歩間に合わず、破壊されました。マジェコンヌの手のもののようですが……どうやら肉体改造を受けている可能性があります」
ネプギアとコンパの視線が痛い。嘘にあんまり耐性がないのだろう。慣れてください、これが私とイストワールの日常だから。
電話の奥からイストワールの思案する息遣いを感じる。変態臭い?何年も仕えてるとわかるもんなのよ。
『ネプギアさん、女神に呼応するはずです。色々試してみてください。残留思念みたいなものも残っているかもしれません』
「了解しました。ネプギア、残留思念みたいなのが残ってるかもしれないから試してみて。ではイストワール様、通信を終了します」
『ああそうだアイエフさん。短気は損気、ですよ』
ぐはっ………やっぱりバレてた……
通話が切れ、どっと汗が吹き出てきた。ヤバイ、何でバレてたんだ……全くわからない……
チラっと後ろを見てみる。よし、望み薄。すっごい冷ややかな目で見られてるし。いやまぁ半分は私のせいだって認めるよ、うん。だからそのデカい注射器しまってくださいコンパさんお願いします。
「反省してるです?」
「超してます」
「どれぐらいです?」
「土下座で床を突き抜けられるぐらいには」
通信が終わった直後に正座の刑を食らう私。機械的な床にディスクの破片が散らばるこの状況での正座は地獄の一言に尽きる。若干足に刺さってる、すっごいいたい。
ネプギアはネプギアでディスクの破片をかき集めている。治せるのかあれ……
「あいちゃん?」「は、はイぃ!」
悪鬼羅刹女神獄卒な表情を浮かべるコンパさんには私では勝てない。なんかこう武力知力関係なしにこういう威圧感持ってるのいるよね。カリスマっていうの?あのほわほわ気分な看護師のコンパにカリスマがあるというの?理解できないし、納得もできないよ………
「…やっぱり、無理してるです?」
「………はい?」
すっとコンパから威圧感が消え、いつもの(というのもあれだけど)心配そうな表情に変わっていた。女は誰しも二面性を持っているというがコンパの場合コレなのだろうか。正直勘弁してください。
それはいいとして、無理をしているというは恐らく腕のことなのだろう。コンパを庇ったからああなった、ということだろうが私にとってはコンパが真っ二つにされるよりかは腕一本のほうが安い。お釣りが来るほどにだ。
「あいちゃん、ぎあちゃんのことあんまり好きじゃないですし……」
「あ、そっちなんだ」
若干期待ハズレ感はあるけれどコンパの表情は真剣だった。
………まぁ、確かにこんな私がねぷ子と親友なのはおかしいとは誰だって思うだろう。正直な話イストワールに関係続けろといわれなきゃやってないけど。
「…まぁ、こんな腕になってまで扱使われて終わったらねぷ子かイストワールに絶対奢らせようとは思ってるけど」
「あいちゃん……夢がなんとなく小さいです」
「あたしら人間の夢なんてちっちゃくていいのよ。大きな夢は女神様方が勝手に叶えてくださるもの」
コンパの表情は依然暗いまま。質問には答えてないしそりゃそうか。
この子は、私が嘘を付くことをやけに嫌う。部署柄そんなの無理なんだけど、どうにも女の子ってのはその辺割り切れないタイプのようで(あれ、私女じゃなかったのかな)。
「あいちゃんは……ねぷねぷやぎあちゃんと仲直りできるですか?」
「どうでしょうね。元々単なるあたしの僻みだし、叩き治せるもんならとっくに直ってるわよ」
「……」
「何にせよ、仕事はきちっとやるわよ。給料もらってるわけだし」
「あいちゃんが、ねぷねぷたちをちゃんと好きになれるといいですね」
その一言に、私は答えを返すことができなかった。
ちなみに、ネプギアがいつのまにか謎の技術によりディスクを応急修復、パープルディスクへの協力を取り付けた。
壊されたとき寝ていたそうだが、どういった原因で壊されたかは私がマジェコンヌの所為だと説明した。後ろからの冷ややかな視線が、何よりも痛かった。だって私が壊したなんていえなかったもん。ぐすん
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ネタバレ:正体は私