~北郷side~
桃園で結盟した俺たちは、公孫賛の本拠地へと向かい、街の中でしばらく情報収集を行った。
……というのも。
相手は今の俺たちよりも遥かに上の立場にいる。
そこへ、桃香が友達だからってズカズカ行ったとしても、足下を見られるだけだ、と思ったからだ。
まず、相手が何をしようとしているのか。
そして、それに対して俺たちは何をどう提供できるのか。
それを見極めなければ、力を利用されるだけの、ただの便利屋で終わる可能性がある。
相手の欲するものを効果的に提供する。
そして結果を残して、自らの評判を高めていく。
……ってソウが言っていた。
鈴々は面倒臭ーいって連発してたけど、まだまだマイナー勢力の俺たちにとっては、ここが切所。
桃香の友達ではあるけど、藁にすがる思いで手伝ってもらおう。
「と、いうわけで」
酒屋で朝食を終え、くつろいでいる三人と、街を見に行っていたソウを呼んで、今後の活動方針を伝える。
「一通り情報を集めてみると、この辺りに巣くう盗賊の規模は、約五千人と云ったところだそうだ。」
まぁ、大半の情報はソウが集めてきてくれたんだけど……
「対する公孫賛軍は約三千人。……いくら相手は雑軍だからって、この差は結構大きなものだろう。」
公孫賛軍は確かに雑軍一人より公孫賛軍一人が強いが、その差は大きなものではない。
公孫賛軍には趙雲という武官がいるらしいけど、一人だけでは軍全体の強化は厳しい。
故に、五千の賊にも相当苦労するだろう。
「そこで、だ。最も重要になってくるのが、部隊を率いる隊長の質だと思うんだ。」
それを聞き愛紗が言う。
「確かに。公孫賛殿の兵といっても、大半は農民の二男や三男などですからね。兵の質はやや勝っているくらい、兵を率いる者の質こそが最重要でしょう。」
「そういうこと。……そこで。愛紗たちって兵を率いた経験ってある?」
「無いのだ!!」
鈴々は笑顔で元気よく返す。
「やっぱそうだよなぁ。」
「僕は以前、仕えていたところで少々だけですが、やったことがありますよ。しかも、愛紗殿や鈴々殿はその武勇により、上手く率いることができるでしょうねぇ。」
「うん。それは俺も思うし、確信は持ってるよ。」
何たって二人はあの関羽に張飛なんだ。
……なんで女の子になってるのかは、良く分からんけど。
「だけど、例え俺たちがそう信じていたとしても、現状では兵隊のいない、ただの腕自慢ってだけになっちまう。」
「うう……それはそうだよねぇ……。でも、じゃあどうすれば良いんだろ?」
すると鈴々がいい案があると、立ち上がって言う。
「簡単なのだ!!公孫賛のおねーちゃんのところへ行くときに、兵隊を連れて行けば良いのだ!!」
「でも、どうやって人を集めるつもりなんだ?」
愛紗が鈴々に疑問をぶつけるが、ソウが「それは簡単にできるでしょうね。」と言う。
「お金を使い、人を雇って兵隊のフリをしてもらいましょう。」
桃香はわかっていないように唸る。
「んーと……??」
「つまり、公孫賛さんの城に行くまで、兵隊っぽい格好をして付いてきてもらうってことだよね?そうすりゃ、門番とかから俺たちが兵を率いて訪ねてきたって、公孫賛に伝わるだろ?」
俺はソウの意見に付け足すと、愛紗は「あ……」と呟く。
「……なかなかソウさんも人が悪いですね。」
「仕方のないことですよ。兵隊のみなさんを雇うお金はありませんし、知恵を絞って自分を大きな存在に見せることは、今後も必要になってきますからねぇ。」
「確かに、ソウの言う通り、時にはそういうのも大切だからな。」
「ふふっ、そうですね。ソウさんの機略には素直に感服しました。」
三人で話していると桃香と鈴々は頬を膨らます。
「う~。三人でいったい何話してるのー!ご主人様、私にも教えてよー!」
「そうだそうだー!鈴々にも教えるのだー!」
「ちょ、分からないの二人とも?」
「ぜーんぜん」
「鈴々もー!」
本当にわかっていないようで桃香と鈴々は顔を見合わせて「「ねー」」と言っている。
「……はぁ。つまりね。街で半日だけ人を雇って城について来てもらえば、兵隊を率いてきたって誤解されて、うまく行けばそのまま部隊長に任命されるかもっていうお話。」
「…………………………あ!なるほどー!」
「なるほどーなのだー!!」
「分かってくれてありがとう。……って訳で、みんなの所持金を確認したいんだけど。」
「私たちのお金は愛紗ちゃんが全部管理してるの。愛紗ちゃん、どれぐらいあるの?」
愛紗は少しの間、黙る。
「……これだけです。」
「僕のほうも、先ほどの飯屋の分でもうスッカラカンですよ。」
「お金というか、硬貨というか。……ここまで貧乏だとは思わなかったなぁ。」
「まぁ……約一名、大飯喰らいが居ますからね。」
すると鈴々は申し訳なさそうにするが、すぐ反論する。
「うぐぅ。鈴々のせいなのか……だけど、それは仕方のないことなのだ!!」
「育ち盛りだもんね。仕方ないよ。」
「お姉ちゃんの言う通りなのだ♪」
「甘やかしてしまって、いやはや……面目ありません……」
「まぁ、仕方ないよ。でも……どうやってお金を調達しようかなぁ……」
売ってお金になりそうなものと言えば、俺の持ち物ぐらいか?
「うーん……」
ゴソゴソ……。
「あ……これなら結構良い値段で売れるかも。」
「何、そのほそっこいの。」
「ボールペンって云う筆記用具だよ。この世界って文字を書くとき墨を摺って、筆で書くんだよね?」
「それ以外に何かあるのですかね?」
「だよな。だけど俺の世界じゃ、こういうのを使って書くんだ。ほらこうやって―――」
俺はボールペンで木簡に、文字を書く。
「すっごーい!!文字が書けてる!!」
「これは……さすが天の世界。摩訶不思議なものがあるのですね。」
「ほぅ、面白いものですねぇ……」
「スゴイのだー。お兄ちゃん、それ鈴々にちょーだい!!」
「ダメダメ。これ一本しか持ってないんだから。」
手を伸ばしてボールペンを取ろうとする鈴々から逃げる。
「これを実演して売りに出せば、結構な値段で売れそうなんだけど、どうかな?」
鈴々以外の三人に意見を聞いてみる。
「はい。これほどのものならば、良い値段をつける公事家も居ることでしょう。」
「そうですねぇ、これならばなんとかなるかもしれませんね。」
愛紗とソウが言うと、桃香は立ち上がる。
「じゃあ私が売ってきてあげるー!!」
「いや、桃香殿が行けば足元を見られるでしょう。僕が売ってきましょう。」
「えー。……ぶーぶー。」
「ま、桃香って駆け引きが出来そうにないもんなぁ。」
真名だけ見ると女の子らしいけど、この子が本当にあの劉備だっていうのなら、駆け引きとかには不向きだろう。
……案外したたかだったって説もあるけど。
「なに?ご主人様、私の顔に何かついてるー?」
「いや、したたかっていうのも、それはそれで当たってるのかもなーと思って。」
「???」
「何でもないよ。……それじゃ、ソウ。売るのはソウにお任せする。頼んだよ?」
「了解ですね。」
薄ら笑ってボールペンを受け取ったソウは、小走りに外へと出て行った。
それから数時間後。
俺たちの前にずらりと並ぶ人の列。
「こりゃまた……結構集まったなぁ。」
「一刀殿から預かったぼぉるぺんが、破格の値段を叩きだしましたからねぇ。百人ほど集めることが出来ましたよ。」
「うんうん。それだけ居れば大丈夫だろう。」
「でも、せっかくのお金を全部使っちゃうなんて、やりすぎだと思うのだ。ちょっとぐらい残しておいても良かったんじゃないかなー?」
「そんなことないよ。ソウさんが全部使ったのは間違いじゃないと思う。」
「だな。ここで後のことを考えてお金を残すより、全部使っちゃって陣容を整えるほうが、今の俺たちには大切だ。」
百万言の言葉を費やすより、俺たちの後ろに控える百人の兵士(っぽい人たち)を見た方が、はったりの効きも違ってくるってものだ。
言葉よりも実力。
これは、どの世界でも基本だろう。
「あとは桃香のはったり次第って訳。……頼んだよ、桃香。」
「まっかせーなさーい!!」
えっへん!!と胸を張ってる桃香が、心強くもあり……まぁ結構不安でもあるんだけど。
「じゃ、行こうか。」
何とかなるさ――――。
そう自分に言い聞かせ、俺は皆と共に公孫賛のお城へと向かった。
「そういえば一刀殿。」
「ん、どうしたの?」
「なんでも先ほど、街のはずれで人が六人ほど殺されていたそうですよ。一刀殿も気を付けてくださいねぇ。」
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恋姫夢想の二次創作です。
ダーク主人公なので好き嫌いが分かれると思います。
基本的には原作を進んでいきます。
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