騒乱の火種
C1 贄
C2 悪知恵
C3 離宮造営
C4 パイ
C5 遅参
C6 金策
C7 提案
C8 衝撃
C9 鎮魂祭
C10 尻尾の暴君
C11 発火
C12 崩壊への足音
C13 明星
C1 贄
ゼウステス王国首都ウラヌスの市街に聳え立つパレオーン神殿。中層にあるオンディシアン教会。前方のステンドグラスから漏れる光により聖母の像の輪郭が鮮明に輝く。長椅子に座り、聖母の顔を見上げる片眼鏡をかけ、白髪交じりの髪のゼウステス王国宰相のディライセン・クライガン。まばらに座る人々。
ダーダーヴァ『これはディライセン様。』
顔を上げるディライセンの眼に映るゼウステス王国文官のダーダーヴァ。
ディライセン『おお、これはダーダーヴァ殿。』
ダーダーヴァは会釈してディライセンの横に座る。
ダーダーヴァ『奇遇ですな。しかし、こんな朝早くに…。ネロス王子のことですか?』
音が鳴る。周りを見回すダーダーヴァ。長椅子に座る人々が顔を歪め、青ざめる。
ディライセン『王子のことは言うな。民が怯える。』
ディライセンは溜息をつき、額に手を当て中指で額を撫でる。
ディライセン『実はな。』
上体をディライセンの方に向けるダーダーヴァ。
ディライセン『娘の事でな。』
頷くダーダーヴァ。
ダーダヴァ『エニア殿のことですか。幼いナルキス王子の傅役という重責に就かれて大変ですからね。』
首を横に振るディライセン。
ディライセン『まあ、それもあるがな。』
ディライセンは顔を上げ、溜息をつく。
ディライセン『あの歳になって恋人の一人もおらん。』
ダーダーヴァ『はあ、しかし、格式の高いクライガン家の娘とあらば求婚が絶えぬのでは?』
ディライセンはダーダーヴァの顔を見つめる。
ディライセン『話を持って言ってるのだが、本人はその気がないのか…はぁ、カジノばかり行きおって…。』
ダーダーヴァ『カジノですか。』
頷くディライセン。
ディライセン『何でも輸入されたぱちんこ?しんだい?とまあさっぱり分からんのだが、それで大当たりを何回もしたと言っておったな。』
ダーダーヴァ『そんな物が…カジノも様変わりするものですなぁ。』
ディライセン『ワシが若い頃とは随分と違っているらしい。ワシも今度、そのぱちんことか言うものをやってみようかな。』
扉の軋む音。振り返る神殿内の人々。
扉がゆっくりと開き、石畳の床に伸びた人影の先には胸をはだけさせ、傷だらけの肌をぼろぼろの衣服から露出させる聖女のデボラが無表情で日の光を背に立っている。唖然とする一同。
デボラはゆっくりと聖母の像へ歩んでいく。デボラの動きに視線を合わせる一同。デボラは聖母の前まで来ると、膝を落とし、顔を上げてその眼に聖母の顔を映す。彼女の両目から涙があふれ出し、両手を広げて笑みを浮かべる。
デボラ『ひっ、ひひひ!大いなる母よ!奇跡の起こし手よ!お許し…ひっ、ひっ、お許しください!き、奇跡を!奇跡を!!み、見捨てないで…、あ、ああ、あのネロスめ!あの暴虐なネロスめぇえええええ!!私は何のために長年、貞操を守り続けてきたのよぉおおおおお!!神の子が、神の子がぁああああああ!!堕ちて逝くぅうううう!』
神殿の両脇にある扉から神官たちが現れてデボラを取り押さえて、連れていく。ディライセンとダーダーヴァは青ざめ、立ち上がると神殿から出ていく。
C1 贄 END
C2 悪知恵
ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿に黒毛の馬に騎乗するディライセンとスクーターに乗るダーダーヴァが疾走して階段を上って来る。槍を構える門番達の前で止まる両者。門番達は両者の顔を見ると槍を携える。馬から降りるディライセン及びスクーターから降りるダーダーヴァ。
門番A『これはディライセン様にダーダーヴァ様。いったい…。』
門番達を睨みつけるディライセン。後ずさりする門番達。
ディライセン『ネロス王子の件で国王に話がある!』
門番B『は、はぁ…こんな時間にいったい何の御用件で…。王は御就寝中。いくら宰相殿…。』
門番Bにつめよるディライセン。
ディライセン『王に用があるのだ!火急の事だ!早く取次げ!』
門番Bは頷いて扉を開けて宮殿内に走って行く。
オリンティア宮殿玉座の間。赤絨毯の上に跪くディライセンとダーダーヴァ。垂れ幕が揺れ、寝間着姿のゼウステス99世が駆け足で玉座に歩み、座る。ゼウステス99世の横に歩み寄る侍従で元武官のヘルメット。ゼウステス99世は満面の笑みを浮かべ、肘当てを叩き上体を前に出す。
ゼウステス99世『貴族連合は敗れたか!』
眼を見開くディライセンとダーダーヴァ。
ディライセン『い、いえ…。』
ゼウステス99世は眉を顰め、椅子の背もたれに背をもたれる。
ゼウステス99世『はあ、ならばこんな朝早くにいったい何の用だ?火急とのことなので来たが…。これでは飛び起きたかいが無い!』
顔を上げるディライセン。
ディライセン『ネロス王子の件でございます!』
ゼウステス99世は頬杖をつく。
ゼウステス99世『ほう。そんな些細な事でか。下らんどうでもいいことで呼び出して…。』
ゼウステス99世は欠伸をし、椅子の肘掛けを持つ。
ディライセン『そうはまいりません!パレオーン神殿の聖女を犯したのですよ!』
ゼウステス99世は椅子のひじかけから手を離し、背を伸ばして眉を顰めて眼を見開き、喉を鳴らす。
ゼウステス99世『ネロスを呼べ!』
ゼウステス99世は頭を抱える。ヘルメットは一礼して玉座の間から出ていく。
ゼウステス99世『あのバカ息子め!よりにもよってこの大事な時に法王と揉める材料をつくりよって!!鮮血殿など送られればひとたまりもないぞ!!』
眉を顰めるディライセンにダーダーヴァ。暫し、静寂。鶏の鳴き声が聞こえ、薄い青白い闇が窓に映る。足音が何十回か鳴り、玉座の間に現れるゼウステス王国王子で容姿端麗の巨漢のネロスとヘルメット。
ネロス『これは父上。この様な朝早くに。御機嫌麗しゅう。』
一礼するネロス。ゼウステス99世は立ち上がりネロスに駆け寄り、その頬を平手打ちする。
ゼウステス99世『この馬鹿ものが!よりにもよって聖女に手を出すとは!』
ネロスは顔を上げる。
ネロス『これは酷いしうちではありませんか!』
拳を震わせるゼウステス99世。
ゼウステス99世『お前、何をしたかわかっているのか!』
ネロス『ええ。』
ゼウステス99世『おまっ!この、この、この!!』
ネロスの首を締め付けるゼウステス99世をヘルメットが止める。
ネロス『ゲホッ、ゴホッ。まあまあ父上、落ち着いて下さい。』
ゼウステス99世『落ち着けるものか!お前のやったことは…。』
ゼウステス99世はネロスに詰め寄る。
ネロス『これは父上のお手伝い。結果として法王様の、いえ、法王様の暗部の方々の手助けをしただけなのですよ。』
ゼウステス99世『それはどういう…。』
ネロスは懐から赤い手帳を取り出す。
ゼウステス99世『それは?』
ネロス『これは聖女の日記です。奇跡に囚われた哀れな女のね。』
ゼウステス99世はネロスの手から赤い手帳を取り、頁を何回もめくる。ゼウステス99世は顔を上げる。
ゼウステス99世『処女受胎か…。』
ネロスは薄ら笑いを浮かべて頷く。
ネロス『ええ。』
ゼウステス99世『しかし、それだけでは…。』
ネロス『だからあの女、生まれてこの方まったく奇跡を起さない神ではなく、必ず奇跡を起してくれる悪魔と取引したんですよ。』
ネロスは懐からペンダントを取り出す。ガラスケースには桃色の肉片の様な物が入っている。唖然とする一同。
ゼウステス99世『アビスの破片…か。』
ゼウステス99世は手帳を見た後、ネロスを見る。
ゼウステス99世『しかし、この手帳には黒巫女と取引するような事は書かれていないが?』
ネロス『失礼ながら父上、背徳の証拠となるような物を書き残す者がいるとでも?』
ゼウステス99世はネロスを見つめ赤い手帳を閉じる。室内に響き渡る手帳を閉じる音。ゼウステス99世は笑いだす。
ゼウステス99世『ふ、ふふふはははは!でかした!でかしたぞ!!これで法王に恩を売る事が出来る。ははははははは!!』
ゼウステス99世は赤い手帳をヘルメットに渡し、笑いながら玉座へと戻って行く。玉座に座るゼウステス99世。
ゼウステス99世『よし、アレクサンドル法王には私から報告しておこう。』
薄ら笑いを浮かべるネロスを、眉を顰めて見つめるディライセンとダーダーヴァ。
C2 悪知恵 END
C3 宮殿造営
ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿玉座の間。玉座に座るゼウステス99世、その傍らにはヘルメット。左側にネロスと騎士団長フテネ及び副団長のダーレモガーと騎士団員達が並ぶ、右側にディライセンとダーダーヴァ、その他の文官達が並ぶ。ディライセンが一歩前に出て一礼する。
ディライセン『これより朝儀を始めます。』
ディライセンが一礼して一歩後ろに下がる。軍靴の音が鳴り響く。ゼウステス99世が頬杖をついて、眼を細め壁の方を見つめる。
ゼウステス99世『まったく…。朝儀の場というのにそうぞうしい。』
欠伸をするゼウステス99世。
ゼウステス王国兵士Aの声『急報!急報!!』
ゼウステス99世は眼を見開き、上体を前に出す。扉の方を向く一同。扉が開き、駆けこんでくるゼウステス王国兵士A。
ゼウステス王国兵士A『急報にございます!陛下!!』
ゼウステス99世は喉を鳴らし、ゼウステス王国兵士Aを見つめる。
ゼウステス99世『何か?』
顔を上げるゼウステス99世。
ゼウステス王国兵士A『アレス王国マール王戦死!貴族連合敗北にございます!』
ゼウステスは立ち上がり、眼を丸くしてゼウステス王国兵士Aを見つめる。
ゼウステス99世『マール王が死んだだと!それは真か?』
ゼウステス王国兵士Aは一礼する。
ゼウステス王国兵士A『間違いございません。貴族連合は相当な被害を被っており、盟主殿は行方不明と…。』
顔を見合わせる文官の一同。ざわめきが巻き起こる。文官達を見て、鼻で笑うフテネ。一礼して去るゼウステス王国兵士A。ゼウステス99世の高笑いが響く。ゼウステス99世の方を向く一同。ゼウステス99世は椅子に座り、更に笑う。顎に手を当てて眼を細め、薄ら笑いを浮かべるネロス。
ゼウステス99世『くくくははははは!貴族連合はロズマールの力量を見誤ったのだ!アレス王はエグゼナッセに殺されたようなものだ。気の毒に。』
肘当てを叩き、立ち上がるゼウステス99世。
ゼウステス99世『ロズマール、千年大陸と共闘して魔竜教を討伐した時、既にあの国の科学技術の高さは知っておったわ!我らよりも遥かに進んでいる。警告の意味で派兵をしなかったのだからな!』
ゼウステス99世は額に手を当てる。
ゼウステス99世『ふくくくく、もっとも…コルヴィデールは世論と属国の主戦論等とかいう下らんものに流されて貧乏くじを引いてしまったらしいが。しかし…まったく愉快痛快、怪物的な被害を被ってボロ負けするとは、エグゼナゾーズが生きていな事が残念だな。』
肘当てに手を掛け、笑いだすゼウステス99世。ネロスが一歩前に出る。
ネロス『流石に父上。誠に聡明であられます。』
笑みを浮かべ、ネロスを見るゼウステス99世。
ネロス『盟主の息子は市民に反乱を起こされていると聞き及びます。』
ゼウステス99世『そうそう。あの男にして愚息ありと。』
ネロスは一歩前に出る。
ネロス『しかし、この敗北は大きな混乱を諸国に巻き起こすでしょう。』
頷くゼウステス99世。
ネロス『混沌を収めるのは無傷だった我々の務めだと思います。我らが威光を示す為にも。』
頷くゼウステス99世。
ゼウステス99世『うむ。その通りだ。』
一礼するネロス。
ネロス『そこで重要なのは諸国との会談の場であると。』
ネロスを見つめるゼウステス99世。顔を上げるネロス。
ネロス『私はこの場にて離宮の造営を提案いたします。』
ざわめきが巻き起こる。ゼウステス王国の文官のアンガーフィールドが一歩前に出る。
アンガーフィールド『ネロス王子…。この時期に宮殿造営とは正気ですか?』
ネロスはアンガーフィールドの方を向く。
ネロス『無論。いや、この時期だから行うのです。敗北した貴族連合をまとめる為に。それに離宮は避暑地にも避寒地にもなりますよ。』
ディライセンが一歩前に出る。
ディライセン『避暑地に避寒地?場所はいったい何処に?』
ネロス『マイの地とセプテの地に。』
ダーダーヴァが一歩前に出る。
ダーダーヴァ『お、王子。それは…離宮を二つ造営するということですか!?』
頷くネロス。
ネロス『如何にも。諸国の方々に快適に暮らせ、荘厳な場を見せることで我が国の威光をお見せするのですよ。』
笑みを浮かべ、頷くゼウステス99世。
ゼウステス99世『それは良い考えだ。』
ダーダーヴァが一歩前に出る。
ダーダーヴァ『王!離宮造営…しかも二つの離宮を作ると言う事は莫大な費用がかかります!どうかご再考のほどを!』
ゼウステス99世はダーダーヴァの方を見た後、顎を人差し指で撫でながらネロスを見る。
ゼウステス99世『王子の事だ。既に金策面は何か考えておるのだろう。なあ。』
ネロスは一礼する。
ネロス『我々はロズマール帝国には派兵しておりません。よって軍備は既に十分か…と。』
眼を見開くフテネ。
ゼウステス99世『軍事予算を削減し、浮いた費用を離宮造営に回します。』
フテネが一歩前に出、ディライセンも一歩前に出る。
フテネ『王子!何をおっしゃる!』
ディライセン『王子!それはなりません!』
ディライセンを見つめるフテネ。ディライセンは一礼し、一歩下がる。
フテネ『王子!軍事は国家の要!これを疎かにする国家は必ず滅びます!』
ディライセンが一歩前に出る。
ディライセン『今、極めて混沌とした状態。いつ何が起こるやも分かりません。離宮造営を行う状況ではありません。』
ネロスはディライセンとフテネを睨みつける。
ネロス『離宮造営は貴族連合の連携を促す為に必要不可欠な仕事!貴族連合は敗れた。各国は態勢を立て直す為に一時的とはいえ和平を結ぶでありましょう。将来、各国と共に動く為には今、この場にて離宮の造営が必要なのです!』
眉を顰めるディライセンとフテネ。頷くゼウステス99世。
ゼウステス99世『ネロス王子の言う事が尤もだ。よし、マイとセプテに直ちに離宮建設の準備をさせよ!』
フテネ『王!』
ディライセン『王!!』
肘当てを叩くゼウステス99世。
ゼウステス99世『意義は認めん!』
一礼する一同。
ゼウステス王国兵士Aの声『報告!報告!!』
扉の方を向く一同。扉が開き、ゼウステス王国兵士Aが現れ、跪く。
ゼウステス王国兵士A『陛下!シュヴィナ王国、ヴォルフガング・オーイー殿より連絡!』
ゼウステス99世『何、シュヴィナが…。して、何と。』
ゼウステス王国兵士Aは顔を上げる。
ゼウステス王国兵士A『はっ。それが、帝国との会談でエグゼナーレ王子がごねた模様。事態の収拾を図る為に至急陛下に連絡をしてほしいと!』
ゼウステス99世は頬杖をつき、笑みを浮かべる。
ゼウステス99世『案の定泣きついてきおったわ。小倅め。ははははは!くははははははは!!』
ゼウステス99世は指を鳴らし、宙に画面が現れる。
C3 宮殿造営 END
C4 パイ
ゼウステス王国首都ウラヌス、プロメテウス宮秘蜜の間。丸いテーブルが置かれ、ディライセン、ダーダーヴァ、騎士団長で武断派のフテネ、副騎士団長のダーレモガーに女性騎士で会計係を務めるサホテンカが向かい合って椅子に座っている。フテネは部屋の内部を見回し、ディライセンとダーダーヴァの方を向く。
フテネ『我々に話があるというので来てみれば、会合の場所がかつての逢引の間とはな。なるほどお前らにはお似合いの場所だ。』
笑い出すダーレモガーとサホテンカ。ディライセンは笑顔を作る。
ディライセン『まあまあ、折角来て頂いたのですから紅茶でもいかがですかな。』
フテネは立ち上がるディライセンの方を見つめ、薄ら笑いを浮かべる。
フテネ『おいおい毒を入れるなよ。』
ディライセンは立ち止まる。ダーレモガーがフテネの方を向く。
ダーレモガー『それは無いで団長はん。あいはそうは思わん。ここは秘蜜の間やで。混ぜるんやったらのぉ…別の…。』
咳払いをするフテネ。サホテンカがダーレモガーの横腹を小突く。
サホテンカ『セクハラ親父~。』
顔を見合わせ笑いだす武断派の一同。ディライセンは紅茶を入れる。
フテネ『まっこと良い身分!俺達が激しい訓練と戦闘で血と汗を流し、隣国との国境で神経を張り巡らせている最中、お前らはお茶で優雅な時を流す。ケッ。』
眉を顰めるダーダーヴァ。ディライセンはお茶とホイップクリームを塗ったパイをフテネ、サホテンカ、ダーレモガー、ダーダーヴァの順番に配る。
ダーレモガー『それみぃ。このホイップ、白濁しとるわ。』
サホテンカは笑いだし、後ろにのけぞって、勢いよく顔面をパイに突っ込ませる。唖然とするディライセンとダーダーヴァ。フテネはディライセンの方を向く。
フテネ『それで話というのは?』
腕を組むダーレモガーとホイップだらけの顔を上げて足を組むサホテンカ。ディライセンとダーダーヴァはサホテンカの方を向いた後、フテネの方を向く。
ディライセン『武断派の方々…』
鬨の声。
コッケ・コーの声『ところで、ロズマール帝国は滅ぼさなければならない!』
鬨の声。
窓の方を向く一同。ディライセンは咳払いをする。
ディライセン『武断派の方々は御存じ…。』
コッケ・コーの声『ところで、ロズマール帝国は滅ぼさなければならない!』
鬨の声。
窓の方を向く一同。ディライセンは咳払いをする。
ディライセン『武断派の方々は御存じか…。』
コッケ・コーの声『ところで、ロズマール帝国は滅ぼさなければならない!』
鬨の声。
ダーレモガーは窓を睨みつけ、目の前のパイを持つと窓を開ける。
ダーレモガー『じゃかましいわ!』
ダーレモガーはパイをプロメテウス宮の外の街道を隊列作り、ビラを巻きながら進む壮麗な服を着た獣人達に向かって投げる。パイは先頭のゼウステス王国王子ネロスの部下で荘厳に着飾ったヨーケイ城城主の鶏獣人のコッケ・コーの後頭部に当たる。立ち止まるコッケ・コー。ビラに群がり食べる後列のヤギ獣人達。コッケ・コーは振り返って三歩歩き、上を見上げる。そして首をかしげ、頭に手を当てると、暫くして正面を向く。
コッケ・コーの声『ところで、ロズマール帝国は滅ぼさなければならない!』
鬨の声。
ダーレモガー『ほんま腹立つわ!あいつ!ほんまに鶏やな!!』
サホテンカ『言うこともやることも馬鹿の一つ覚え、あんな臭くてきめぇ奴らと共に一つ屋根の下で戦えるかっての!吐き気がするわ!おえっ!』
サホテンカは窓からコッケ・コー達を見下ろす。
サホテンカ『肉付きもいいし、いっそフライドチキンとジンギスカンにしちゃおうか?』
ダーレモガーがサホテンカの後ろに立つ。
ダーレモガー『それはあかんで。』
後ろを振り向くサホテンカ。
ダーレモガー『あいは唐揚げとゲバブの方がいいんや。』
フテネは立ち上がり窓から下を向き、拳を震わせ、コッケ・コー達を睨みつける。
フテネ『あんな奴らに支持されては、我々の格が下がる!』
ディライセンは眼を閉じて頷き、眼を開けてフテネを見る。
ディライセン『それだけではありません。彼らは軍事費がロズマール帝国討伐の為のものであると国民に思わせるだけでなく、彼らの様な下等な存在にも税金が大量に払われているということを感じさせるのです。彼らの服装を見たでしょう。』
フテネ『なるほどな。』
フテネはマントをなびかせて、振り返る。遠ざかるコッケ・コーの声。
フテネ『ネロス王子はふざけている!我らをないがしろにしにするだけならともかく、あのような下等な者共を使って貶めるとは!何の役にもたたぬ宮殿を二つも造営し、国家の要である軍を軽視する!王も王だ!!盟主の座を取り戻すことに執着し、自分の子もまともに制御できぬとは!』
床に唾を吐くフテネ。フテネはディライセンの方を向く。
フテネ『それで?』
ディライセン『いえ、まったく同感ですな。』
フテネ『珍しく意見が合うな。』
フテネは鼻で笑う。
フテネ『いや、合しているのか?お前ら文治派はそういうことばかり得意だからな。』
ディライセンは咳払いする。
ディライセン『そうではありません!ネロス王子の横暴さは周知の事実。我らの諫言も揚げ足をとって論破してしまいます!』
フテネ『ほぅ、お前らも王子の悪口か。この部屋にいるとお前らの陰湿さが伝染してしまうようだな。で?』
ディライセン『挙句に王子はパレオーン神殿の聖女を犯したのですぞ!これは由々しき事態!』
フテネは自身の顎を人差し指で2、3回叩く。
フテネ『聖女?狂人だろ。有りもしない処女受胎の幻想を抱き、神に苛立ち、裏切って道を踏み外した。当然の報いだ。』
ダーレモガーは椅子の背もたれを持つ。
ダーレモガー『アビスの破片で孕んだら、生まれた子供が救世主…。とんだ聖母様やな。あんなもん…どう使うつもりだったんや?』
サホテンカがダーレモガーを見た後、頬杖をついて、正面を向く。ダーレモガーが椅子に座る。
サホテンカ『処女で孕むとかありえないし、聖母とか救世主とかどんだけ幻想見てるんだよ。教会じゃなくて病院行けっつ~の!きゃはは!妄想妊娠!きゃは!妄想妊娠!きゃは!』
サホテンカは笑いだし、後ろにのけぞって、勢いよく顔面をパイに突っ込ませる。眉を顰めるディライセンとダーダーヴァ。
ディライセン『…ネロス王子は強姦、略奪等、あらゆる悪事に手を染め、民衆は戦々恐々として日々を暮らしております。このままではヒート王国、ロメン帝国の様に反乱が起こってしまうかもしれません!』
サホテンカが紅茶をすすり、口元についたホイップクリームを舌でなめる。
サホテンカ『反乱の動きを見せれば、それに加担する全都撫で切りにすればいいだけじゃない。きゃはは!』
サホテンカは笑いだし、後ろにのけぞって、勢いよく顔面をパイに突っ込ませる。眉を顰めるディライセンとダーダーヴァ。
ディライセン『このままでは王家の威信は失墜し、民は苦しみます。』
腕を組みディライセンを見つめるフテネ。
フテネ『で、ロズマールの二の舞になる。こう言いたいわけだな。』
フテネは鼻で笑いそっぽを向く。
フテネ『話はそれだけか?下らん世間話、流石文治…。』
ディライセン『それだけとは!政は王子のせいで不安定、貴族連合は敗北し、盟主は名も無き傭兵に討ち取られた!ロズマール帝国遠征に参加していない我々にとって、戦後の他国の動向に対処していかなければなりません!我々がいがみあって下らぬところで足をすくわれるわけにはいかないでしょう!これはゼウステス王国の命運を握っているのです!積年の軋轢を水に流し、この国の未来の為に共に尽力していこうではありませんか!』
フテネは勢いよく立ち上がりディライセンとダーダーヴァを睨みつける。
フテネ『今更我らと好を結ぶだと!』
フテネを見つめるディライセンとダーダーヴァ。フテネは机の上のパイをとる。
フテネ『これが答えだ!』
フテネはディライセンとダーダーヴァの顔面に投げつける。
サホテンカ『あ、パイ…。』
ディライセンとダーダーヴァの顔からしたに落ちていくパイ。ホイップだらけになる両者。フテネは椅子に座り、笑いだす。
フテネ『ハハハ、これで少しはスッキリしたわ。』
フテネは机に肘を当て、前に出る。
フテネ『いいだろう。貴様らと親交を結んでやる。』
立ち上がるフテネ。軋む椅子の音。
フテネ『証として貴様らの服のクリーニング代は出しておいてやろう!』
フテネは封筒を机の上に叩きつける。立ち上がるダーレモガーとサホテンカはフテネを先頭に笑い声を上げて出ていく。顔を見合わせるディライセンとダーダーヴァ。ディライセンは机の上の封筒を持ち、かざしてダーダーヴァの方を向く。
ディライセン『…足りるか?』
顔を見合わせて首をかしげる両者。
C4 パイ END
C5 遅参
ビヴァーノ浴場。湯船につかるダーダーヴァ。周りは湯気が立ち、壮年期の男性達が体を洗い、湯船につかっている。動き回る子供達。ダーダーヴァは顔を洗い、呼吸すると浴槽から出る。体をタオルでふき、洗面台へと歩いて行くダーダーヴァ。
洗面台でドライアーで髪を乾かす壮年の男の隣に座るダーダーヴァ。ダーダーヴァはシェービングクリームを泡立て、頬から顎、首へかけて塗って行く。隣の男はドライアーを止め、その場から去る。鏡を見、髭剃りを握るダーダーヴァ。照明の光が髭剃りの刃を光らせる。激しい足音。
コーリキーの声『大変でございます!』
ダーダーヴァ『うわ!』
ダーダーヴァは体を震わせ、後ろを振り向く。後ろに立つ長髪の女文官コーリキー。
ダーダーヴァ『びっくりしたな!皮膚が切れたらどうするんですか!』
コーリキー『切れていないですよ。』
コーリキーを睨みつけるダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『もう少しタイミングが遅かったら皮膚を切っていたでしょう。』
コーリキー『でも、切れていないですよ!』
ダーダーヴァ『確かに切れてないですが…。』
ダーダーヴァは片手を額に当て、首を左右に振る。コーリキーは両手を握り、前後に振る。
コーリキー『…そんな些細なことよりも。』
ダーダーヴァ『いや、重大…。』
コーリキーは眉を顰めるダーダーヴァを見つめる。
コーリキー『…シュヴィナがロズマールと争いました。』
眼を見開くダーダーヴァ。ダーダーヴァは顔を洗い、シェービングクリームを洗い流す。
コーリキー『現在、シュヴィナ王国と各国の間で会合が行われております。』
顔をタオルで拭くダーダーヴァ。
コーリキー『クリーニング屋に聞いたところ、ダーダーヴァ様がこちらにおられると聞いて急いで来た訳です。』
コーリキーの方を向くダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『ディライセン様の方へは?』
コーリキー『ディライセン様の自宅にはアンガーフィールド様が行っております。』
ダーダーヴァ『そうですか…。』
ダーダーヴァはコーリキーを暫し見つめる。眼を見開き、口を開くダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『コーリキー、実はもっと変態なことがあります。』
コーリキーが眼を丸くし、喉を鳴らしてダーダーヴァを見つめる。
コーリキー『なんでしょう。』
ダーダーヴァ『ここは男湯ですよ。』
コーリキーは周りを何回も見回す。
コーリキー『えっ!ええっ!!』
ダーダーヴァは溜息をつく。
コーリキー『や~ん!』
コーリキーは頬に両手を当て顔を赤らめてその場に座り込む。靴音が鳴り響き、浴場警察Aと浴場警察Bが走り込んでくる。ダーダーヴァは浴場警察達の方を見る。
浴場警察A『おい!いたぞ!』
浴場警察B『通報の通りだな。』
浴場警察Aがコーリキーに駆け寄る。
浴場警察A『ここは男湯だ!』
ダーダーヴァがコーリキーの横に歩み寄る。コーリキーがダーダーヴァに抱きつく。
コーリキー『ふぇえ!ダーダーヴァ様!』
浴場警察Bが眉を顰める。
浴場警察B『ダーダーヴァ?あの文官の…。』
浴場警察A『まったくどんなプレイをしているんだ。』
ダーダーヴァ『いえ、これは…。』
ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿へと続く階段を駆けあがって行くダーダーヴァとコーリキー。
ダーダーヴァ『あなたがだいたい男湯とも確認せずに入って来るからこんなに時間を取られてしまったではないですか!』
コーリキーがダーダーヴァの方を向く
コーリキー『なっ!私のせいなんですか?だいたい、いい歳して独身の癖に!』
ダーダーヴァがコーリキーの方を向く。人差し指を左右に振り、ウィンクするコーリキー。
コーリキー『ね、ダーダーヴァのおぢさま。』
片眉を吊り上げるダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『あなたは本当に反省しているのですか?』
階段から降りてくるディライセンとアンガーフィールドを始めとする文官達とフテネ、ダーレモガー、サホテンカを始めとする武官達。
ディライセン『王は上機嫌…。』
フテネ『エグゼナッセも天国で嘆いているだろうよ。あんな息子を得てしまって。シュヴィナももう終わりだな。』
ディライセンは顔を上げ、駆けあがって来るダーダーヴァとコーリキーの方を向く。階段を下りていくディライセン。
ディライセン『ダーダーヴァ殿、随分遅かったようだが…。』
ダーダーヴァは息を切らしてディライセンを見る。
ダーダーヴァ『いえ、コーリキーが男湯に入ってきたために銭湯警察に捕まりまして。』
眉を顰めるアンガーフィールド。
ディライセン『…銭湯に行っていたのか。』
フテネは笑いだす。
フテネ『パイが余程効いたらしい。』
サホテンカ『団長!男湯でオッパイって?』
ダーレモガー『そりゃペチャパイや!』
ダーダーヴァは頭を掻いて頷く。アンガーフィールドはコーリキーを睨みつける。
アンガーフィールド『お前、男湯とも確認せずに中に入って行ったのか?』
頭に手を当て頷くコーリキー。溜息をつくアンガーフィールド。
アンガーフィールド『こんなことなら私のほうがダーダーヴァ殿の方に行くべきでしたな。』
ダーダーヴァは苦笑いを浮かべる。サホテンカは口に手を当てる。
サホテンカ『それって痴女!?』
ダーレモガー『オッパイや…。』
ダーダーヴァはアンガーフィールドを見る。
ダーダーヴァ『まあ、そうですね。』
ディライセン『とりあえず、貴族連合間の会合は一時終了した。』
ディライセンを見つめるダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『一時?』
ディライセンは両手を組んで腰に当てる。
ディライセン『明日、貴族連合盟主が決まる。』
ダーダーヴァは喉を鳴らす。
フテネ『ロズマール帝国との講和を破り、小細工したエグゼナーレが予定されていた盟主の座から転落したのよ。』
コーリキー『なんと!』
頷くディライセン。
ディライセン『今、シュヴィナ、アレスにヨネスの三国はロズマール帝国と係争中。』
ダーダーヴァ『シュヴィナだけだなく、アレスとヨネスも。』
頷くアンガーフィールド。
アンガーフィールド『どうやら状況も確認せずにシュヴィナの協力要請に答えたようだ。』
ディライセン『王は上機嫌。ますます離宮への熱を燃やし始めたようだ。離宮造営はネロス王子に一任された。』
ディライセンは西南を見つめ、眉を顰めて溜息をつく。
ディライセン『王子は既にマイの地へ。仕事熱心な事だ。』
溜息をつくディライセン、首を横に振るフテネ。
ダーダーヴァ『そうですか。』
オンリンティア宮殿を振り向くディライセン。
ディライセン『今宵はもう遅い。』
ディライセンは周りを見回す。
ディライセン『これでお開きにしようと思うのだが。』
一同は頷き、階段を下りていく。
C5 遅参 END
C6 金策
早朝。ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿。階段を上がるダーダーヴァ。横を通り過ぎるダーレモガー。門が開き、中に入って行くダーレモガー。一刻遅れて入って行くダーダーヴァ。
オリンティア宮殿玉座の間。玉座に座るゼウステス99世、その隣にはヘルメット。傍らにネロスとディライセンが並ぶ。玉座に入り、跪くダーレモガー。遅れて入って来るダーダーヴァ。
ダーレモガー『火急の用ちゅうことで。』
跪くダーダーヴァ。頷くゼウステス99世。
ゼウステス99世『後、数時間で会合が行われる。』
頷く一同。ゼウステス99世は立ち上がり、手を組んで腰に当て右側へ数歩歩く。
ゼウステス99世『が…。』
ゼウステス99世は振り返り、ネロスの方を向き、歩き始める。
ゼウステス99世『息子が仕事熱心でな。住民達との立ち退き交渉を進めたいと。』
ダーダーヴァは眉を顰める。ネロスが一礼する。
ネロス『交渉はジュラのミケーネコホテルにて。』
ダーダーヴァが顔を上げる。
ダーダーヴァ『ジュラとは随分と遠いですな。それにミケーネコホテルは今羽振りのいいシストゥス氏設計の高級ホテル。』
ネロスが両手を広げる。
ネロス『ここからは。しかし、マイとセプテの地からは中間点。ミケーネコホテルは新鋭の超高層の建物、許容人数も多く、施設も充実している。』
ダーダーヴァは眉を顰める。立ち上がるダーレモガー。
ダーレモガー『ゴージャスなホテルや。』
頷くネロス。ダーダーヴァが立ち上がる。
ダーダーヴァ『して、離宮造営はマイとセプテのどの辺りに?』
ネロスはダーダーヴァの方を向く。
ネロス『それは貴族連合の盟主の方々をお迎えする重要な施設。無論中心に決まっているじゃないですか。』
眼を見開くダーダーヴァ。手で欠伸を隠すダーレモガー。ダーダーヴァは俯くディライセンの方を向いた後、歯を食いしばってネロスを見つめる。ディライセンは溜息をついて一歩前に出る。
ディライセン『貴殿達を呼んだのは他でもない、ネロス王子と共に交渉に当たって欲しい。我々は貴族連合との会合で席を立つ訳にはいかぬ。』
ディライセンはネロスの方を向く。ダーダーヴァは立ち上がり、ダーレモガーの方を向く。ネロスは眼を閉じて頷く。
ネロス『左様。宰相殿の言う通り。』
ネロスの方を向くダーダーヴァとダーレモガー。ネロスは眼を開ける。
ネロス『表に車を待たせてある。さて行きましょう。』
ネロスはダーダーヴァとダーレモガーの横を通り抜ける。ダーレモガーが後に続く。ダーダーヴァはネロスの後ろ姿を眉を顰めて見た後、足を踏み出す。去って行く三人。オリンティア宮殿の門が開き、現れるネロス、ダーダーヴァにダーレモガー。階段の下には高級車が止まり、ゼウステス王国兵士Bが外に立っている。
助手席に乗るダーレモガー、助手席側の後部座席に座るダーダーヴァに運転席側の後部座席に座るネロス。運転席にゼウステス王国兵士Bが座り、機械音を響かせて動き出す高級車。市街地を走る高級車。ネロスは腕組みする。
ダーダーヴァ『王子…。』
ネロスはダーダーヴァの方を向く。
ネロス『何か?』
ダーダーヴァ『…マイとセプテの中心の住民達に立ち退きを迫るとは…例え承諾されても費用は莫大なものとなります。それこそ離宮造営などと言っていられぬ程に…。一つの離宮ですら厳しくなる事でしょうし。』
林道に入る高級車。両脇に植えられた木々の枝がアーチを作る。ダーダーヴァの眼に映る仏頂面のネロス。
ダーレモガー『お、見えてきたで。』
ダーレモガーがフロントガラスから見えるミケーネコホテルを指さす。ネロスは眼を閉じ、笑みを浮かべる。
ネロス『流石は近代建築の粋、こんな場所からも見える。』
ダーダーヴァはフロントガラスの方を向く。次第に速度が遅くなる高級車。ゼウステス王国兵士Bは額から汗を流しながらアクセルを何回も踏む。ダーレモガーは眉を顰めてゼウステス王国兵士Bの方を向く。
ダーレモガー『どうしたんや?』
ゼウステス王国兵士Bはブレーキを踏み、高級車は路肩に停止する。
ゼウステス王国兵士B『…そ、それが、車が急に動かなくなり…。』
腕時計を見るネロス。ゼウステス王国兵士Bはネロスの方を青ざめた顔で見つめる。
ゼウステス王国兵士B『す、すぐに修理しますので!』
ゼウステス王国兵士Bは車の扉を開け、外へ駆けだしていく。舌打ちをし、外にでるダーレモガー。ダーダーヴァも続いて外に出る。頬杖をつくネロス。バンパーを開けるゼウステス王国兵士B。ダーダーヴァとダーレモガーがゼウステス王国兵士Bの背後に立つ。
数十分経過する。ネロスが後部座席側の窓を開け、腕時計を見ながら一同の方を向く。
ネロス『…これではジュラの地には間に合いませんよ!』
ダーレモガー『…せやかて駆動せんでこの車。』
ネロス『こちらが会場に遅刻すれば奴らは我々の揚げ足を取って来る筈。』
ダーダーヴァがネロスの方を見つめる。
ダーダーヴァ『それなら別の移動手段を見つけねばなりません。』
ネロスは腕時計を再び見た後、立ち上がり、扉を開けて腰に手を当てて外に出る。ネロスは一瞬ミケーネコホテルを見た後、一同の方を向く。
ネロス『では、代わりの移動手段を見つけましょう。』
地面が激しく揺れ、バランスを崩す一同。揺れが止む。
ダーレモガー『何や…?』
ダーダーヴァ『どうやら地震が発生した模様ですね。』
ネロスが立ち上がり、2、3歩歩んでミケーネコホテルを指さす。唖然とする一同。砂煙を立てて崩壊していくミケーネコホテル。呆然と立ち尽くすダーダーヴァ。
高級車の周りに立つ四人。眼を丸く見開くダーダーヴァ、ダーレモガー、ゼウステス王国兵士B。ネロスは一同の方を向く。
ネロス『かなりの震度でしたね。我々は運が良かった。』
ネロスを見つめる一同。
ネロス『危なかった。車がもし、故障しなければ我々はあの瓦礫の下に…。』
ダーレモガーは眼を細め、高級車の方を向いた後、ネロスの方を向く。ゼウステス王国軍のトラック群が砂煙をあげながら現れる。先頭の車両が止まる。扉が開いて現れるゼウステス王国兵士Cとゼウステス王国兵士Dはネロスに駆け寄り跪く。
ゼウステス王国兵士C『ネロス王子!よくぞ御無事で。』
ネロスはゼウステス王国兵士Cの方を見る。
ネロス『車の故障で時間を取られてな。運が良かったのだ。』
ゼウステス王国兵士Dが顔を上げる。
ゼウステス王国兵士D『ジュラの救助隊からの連絡によると倒壊した建物はミケーネコホテルのみと。』
ネロス『なんと!なんたる手抜き工事。犠牲者のことを思うとシストゥスと建築業者に怒りが沸いてくる。』
顔を両手で覆い、よろけるネロス。ダーダーヴァは腕を組む。顎に手を当て、眼を細めるダーレモガー。
ネロスはダーダーヴァとダーレモガーの方を向く。
ネロス『ダーダーヴァとダーレモガーは先頭の部隊と共にジュラの地へ。私はシストゥスと建築会社の方へ向かう。』
ネロスは先頭の車両に乗り込む。先頭のトラックがUターンし、前列のトラックが続く。去って行くトラックを見つめるダーダーヴァとダーレモガー。トラックが彼らの前に止まる。ゼウステス王国兵士Eが顔を出す。
ゼウステス王国兵士E『ダーダーヴァ殿とダーレモガー殿。お乗りください。』
高級車の前にレッカー車が止まる。ダーダーヴァとダーレモガーはトラックに乗り込む。走行するトラック。ダーレモガーは引き上げられる高級車を見た後、ダーダーヴァの方を見る。
ダーレモガー『あの高級車、車種は違うがの。』
首をかしげるダーダーヴァ。
ダーレモガー『品質管理の都市伝説で有名な車作っとる千年大陸の会社の車やで。』
眼を見開くダーダーヴァ。木々のアーチを抜け、ジュラの市街地に入って行くトラック。ジュラの街並みが窓から見える。
ダーダーヴァ『…この辺はあまり被害が無いようですが…。』
ゼウステス王国兵士E『はっ。倒壊したのはミケーネコホテルのみで、その周辺が瓦礫の下敷きに。』
ダーダーヴァは溜息を付く。
ダーダーヴァ『そうですか。』
ダーレモガー『この辺は地震なんて起こらん土地だったんやけどな。』
顎に手を当てるダーダーヴァ。瓦礫の山が散乱し、救助隊隊員達とゼウステス王国兵士達が救助活動を行っている。トラックが止まり、扉を開けて出るダーダーヴァとダーレモガー。
ダーレモガー『ゴージャスのホテルやったけどこのザマか。』
ダーダーヴァはゼウステス王国兵士Eの方を向く。
ダーダーヴァ『被害状況を確認したいので責任者を。』
ゼウステス王国兵士Eは一礼して駆けていく。瓦礫の山を暫し見つめる二人。ゼウステス王国兵士Eが救助隊の隊長とゼウステス王国将校Aを連れて、ダーダーヴァとダーレモガーの前に来る。
ゼウステス王国将校A『これはダーレモガー様と…。』
ダーレモガー『社交辞令はいいで。で、被害は?』
一礼するゼウステス王国将校A。
ゼウステス王国将校A『はっ。今の所は不明確ですが…立ち退き交渉に臨んだマイとセプテの住民達が入ってから数分で倒壊したので、彼らは全員あの瓦礫の下だと思われます。』
ダーダーヴァは瓦礫の上で行われる救助活動を見つめる。
C6 金策 END
C7 提案
夜間。オリンティア宮殿玉座の間。玉座に座るゼウステス99世。傍らにはヘルメット。隣にはネロス。ディライセンを始めとする文官達とフテネを始めとする武官達が並ぶ。跪くネロス。
ネロス『父上、貴族連合盟主の後見人役、おめでとうございます。』
一礼する一同。
一同『おめでとうございます!』
ゼウステス99世は一同を見回す。
ゼウステス99世『確かに貴族連合盟主の後見役に選ばれた事は喜ばしい事限りない。ロズマールとシュヴィナの講和が結ばれ、一時平和になった事も嬉しくはある。しかし、ジュラの地の地震がな。』
ネロスは一礼する。
ネロス『確かに、惨事ではありましたが。被害はミケーネコホテルとその周辺に押さえられています。あの日、あの時、あの場所にいた犠牲者の方々には気の毒ですが…。』
ネロスの方を見て溜息を付くゼウステス99世。
ゼウステス99世『なんでも酷い手抜き工事だったとか。』
ネロス『は、シストゥスと建築会社の役員達の身柄は押さえております。被害者の遺族には彼らからの賠償がなされる手筈に…。』
頬杖をつき、眉を顰めるゼウステ99世。
ゼウステス99世『地震など起きた事も無い地で地震が起こっている。一部ではジュラの地震は離宮造営による神の怒りとの声が上がっているぞ。』
ネロス『それは一部の新興宗教の輩が面白半分で言っているだけです。事が起きるとすぐ飛びつき信者を増やそうとするも、収束の兆しを見れば去って行く飽きっぽい奴らです。』
頷くゼウステス99世。
ネロス『まあ、しかし、その様な声は中々無視できるものではないかと。』
ネロスの方を向く一同。ネロスは顔の横で手を2回叩く。右側の扉が開き、パレオーン神殿の司祭長ポプコーンと巫女第2位のシュピーナを始めとする巫女達が現れ、赤絨毯の中央を進み、ゼウステス99世の前に来て跪く。
ポプコーン達を見つめる一同。ゼウステス99世はポプコーンを見下ろす。
ゼウステス99世『これはポプコーン殿。』
ポプコーン『国王陛下。貴族連合盟主後見人役おめでとうございます。』
巫女一同『おめでとうございます。』
顔を上げるポプコーン。
ポプコーン『この度のジュラの地の地震。真に遺憾に思います。』
頷くゼウステス99世。
ポプコーン『我々としては神殿にて犠牲者の魂を慰める為、鎮魂祭を行うことを提案します。』
ゼウステス99世『ふむ。』
頬杖を付くゼウステス99世。
ゼウステス99世『鎮魂祭を行うのは真に良い案。しかし、パレオーン神殿は聖女が居なければ祭事はできぬ。』
頷くポプコーン。
ポプコーン『はっ、真に。しかし、今日、オンディシアン法王直轄15神将の15神将を務める灰色のジャンヌ様がデボラの身柄を引き取りに来ると聞いております。法王様にはその旨伝えてありますので。』
ゼウステス99世はひじ掛けに手を当てる。
ゼウステス99世『なるほどな。それで巫女達を大勢引き連れて来た訳か。』
ゼウステス99世は時計を見る。扉が開き、ゼウステス王国兵士Aがゼウステス99世の前に駆けて行き、跪く。
ゼウステス王国兵士A『オンディシアン法王直轄15神将の15神将を務める灰色のジャンヌ様御到着!』
ゼウステス99世は頷く。
ゼウステス99世『すぐにお通ししろ。』
ゼウステス王国兵士A『はっ!』
ゼウステス王国兵士Aは駆けて玉座の間から出ていく。ヘルメットの方を向くゼウステス99世。ヘルメットは頷き、ゼウステス王国兵士Fに指示を出す。ゼウステス王国兵士Fは左側の扉を開ける。拘束衣を着、首輪をつけられ、鎖で繋がれ、猿轡をはめたデボラ。横にはゼウステス王国兵士Gとゼウステス王国兵士Hが居る。デボラの方を見る一同。眉を顰め、顔を見合すパレオーンの巫女達。デボラは体を左右に激しく動かす。
デボラ『んーーーーっ!んんーーーーーっ!』
鎖を引くゼウステス王国兵士G。咳き込み、その場に膝を付くデボラ。デボラは顔を上げ、シュピーナを見つめる。
デボラ『んふんん!んふんん!!ん、んふふん!!』
デボラを見下し、顔を背けるシュピーナ。眼を丸く見開き、眼を閉じて涙を流すデボラ。デボラは顔を上げネロスを睨みつける。
門衛の声『オンディシアン法王直轄15神将の15神将を務める灰色のジャンヌ様がご入場!!』
扉が開き、現れるオンディシアン法王直轄15神将の15神将を務める神の癒し手灰色のジャンヌ。背後には縫った傷跡だらけのジャンヌの配下達が並ぶ。ジャンヌはゼウステス99世の前に進み出て跪く。
ジャンヌ『この度は教会への尽力、誠に感謝致します。』
立ち上がるジャンヌ。ゼウステス99世はアビス層の破片を取り出すとヘルメットに渡す。ヘルメットはジャンヌの前まで歩いて行き、一礼してアビス層の破片を渡す。元の位置へ戻って行くヘルメット。ジャンヌはアビス層の破片を見つめ、ゼウステス99世を見つめる。
ジャンヌ『確かに。』
デボラは首をを左右に振り、一歩前に出る。デボラは唸る。ジャンヌはデボラの方を向く。
ジャンヌ『…聖女の身でありながら背徳を犯したこの魔女は…。』
デボラは暴れる。鎖を引くゼウステス王国兵士G。デボラは咳をして鎖を持つゼウステス王国兵士Gを睨みつける。ジャンヌはゼウステス99世の方を見る。
ジャンヌ『責任を持って我々が処分いたしましょう。』
唸り声を上げて、眼から大量の涙を流しながら崩れ落ちるデボラ。ジャンヌは配下達の方を向く。ジャンヌの配下達はゼウステス王国兵士達の方へ歩いて行き、デボラを引き取る。ジャンヌはゼウステス99世の方を向く。
ジャンヌ『この度の事はオンディシアン教会の不祥事であります。あの様な者を聖女に列した教会の落ち度。私なぞでは足りませんが法王の代わりにお詫び申し上げます。』
跪くジャンヌ。
ゼウステス99世『いえ、顔をお上げ下さい。我々は当然の事をしたまでですよ。』
立ち上がるジャンヌ。
ジャンヌ『そう言われると心のつかえが取れます。』
薄ら笑いを浮かべるネロス。デボラの顔は大量の涙で染まる。ネロスを見て眉を顰めるダーダーヴァ。ポプコーンが立ち上がり、ジャンヌの方を向いて一礼する。
ポプコーン『して、聖女任命の一件はどうなっております?』
ジャンヌはポプコーンの方を向く。
ジャンヌ『既に決まっております。この度…。』
ジャンヌはデボラの方を向いた後、シュピーナの方を向く。
ジャンヌ『この魔女を告発した勇気あるシュピーナ殿に。』
眼を見開くデボラ。
ジャンヌ『なんでも同性愛行為まで強要されたとか。』
首を横に振るデボラ。シュピーナは立ち上がり、右側の壁を向く。
シュピーナ『はい。』
シュピーナは眼を閉じ、胸に手を当てる。シュピーナは涙を流し、人差し指でそれを拭う。
シュピーナ『思い出しただけでもゾッします。私は怖くなってネロス王子に相談したんです。』
眼を見開き、シュピーナとネロスを何回も見るデボラ。シュピーナは眼を開き、デボラの方を見る。
シュピーナ『この女は、ケダモノよ!』
泣き崩れるシュピーナ。デボラは崩れ落ちる。ジャンヌはシュピーナの肩に手を当てる。
ジャンヌ『よくぞ耐えたな。』
立ち上がるシュピーナは人差し指で涙を拭い、ジャンヌの方を見る。
シュピーナ『はい。』
床に額をつけて号泣するデボラ。ジャンヌはデボラを睨みつける。
ジャンヌ『やかましいな。』
ジャンヌは指を鳴らす。
ジャンヌ『連れて行け!』
ジャンヌの配下達はデボラを引きずって出ていく。デボラの泣き声が室内に響く。扉の閉まる音。ジャンヌはシュピーナの方を向く。
ジャンヌ『君なら、聖女の重職を全うできるだろう。』
跪くシュピーナ。ネロスが拍手をする。ゼウステス99世が拍手をし、ポプコーンと巫女達が拍手をする。そして、文官と武官達が拍手をする。
C7 提案 END
C8 衝撃
早朝。鳥の囀り、鶏の鳴き声。青白くオリンティア宮殿の映る階段を登って行くゼウステス王国の文官と武官達。パレオーン神殿には松明が焚かれ、巫女と神官達が動き回っている。ダーダーヴァは青白く染まるパレオーン神殿の最上階を見た後、正方形の台座の中央に魔法陣の描かれた地上にある雨乞いの祭壇を見、正面を向いて文官達の後に続く。
オリンティア宮殿玉座の間。文官と武官達が並ぶ。垂れ幕が揺れ、現れるゼウステス99世とヘルメット及びネロス。玉座に座るゼウステス99世。ディライセンが一歩前に出て一礼する。
ディライセン『これより朝儀を始めます。』
ディライセンが一礼して一歩後ろに下がる。ゼウステス99世は周りを見回す。
ゼウステス99世『明日は鎮魂祭と新たな聖女のお披露目だ。』
頷く一同。薄ら笑いを浮かべるネロス。ゼウステス99世は笑みを浮かべてネロスの方を見る。
ゼウステス99世『離宮の進捗状況は?』
ネロスは一礼する。
ネロス『はっ、今、建築予定地を更地にしている最中。』
頷くゼウステス99世。
ゼウステス99世『流石は我が息子だ。』
ネロスは深く頭を下げる。
ネロス『はっ、ありがたき幸せ。』
眉を顰めてネロスの方を向く文官と武官達。頬杖をつくゼウステス99世。
ゼウステス99世『今日は貴族連合との会合。エグゼナーレの一声でアレス王国の国王が決まるだけのものだが。』
響く軍靴の音。玉座の間の正面の扉の方を向く一同。扉が開き、ゼウステス王国兵士Aが現れ、ゼウステス99世の前に駆けて行き、跪く。眉を顰めてゼウステス王国兵士Aを見下ろすゼウステス99世。
ゼウステス99世『こんな朝早くに何があった?』
顔を上げるゼウステス王国兵士A。彼の額からは汗が流れる。
ゼウステス王国兵士A『大変でございます!シストゥスと建築業者の役員達が一部の被害者遺族に襲撃され皆殺しに!』
ネロス『何だと!』
ネロスは眼を見開く。ゼウステス99世とネロスを何回も見るゼウステス王国兵士A。歯ぎしりするネロス。ざわめきが巻き起こる。ゼウステス99世は溜息をつく。
ゼウステス99世『なんと間の悪い。明日は鎮魂祭だぞ!』
拳を震わせるネロス。軍靴の音が鳴り響く。一斉に玉座の間の正面の扉の方を向く一同。眉を顰めるゼウステス99世。
ゼウステス99世『今度は何だ?』
ゼウステス王国兵士Iの声『急報!急報!』
扉が開き、ゼウステス王国兵士Iが現れ、ゼウステス99世の前に駆けて行き、跪く。
ゼウステス王国兵士I『今日予定されていた貴族連合との会合は中止とのこと!』
立ち上がるゼウステス99世。
ゼウステス99世『なんと!エグゼナーレめ、選べなかったのか!!?』
首を横に振るゼウステス王国兵士I。
ゼウステス王国兵士I『いえ、アレス王国のファウス王子が農奴の子がなりすました偽王子だったため、追放処分にしたとの事。』
眼を見開き、顔を見合わせる文官と武官達。ざわめきが巻き起こる。
ゼウステス99世『…農奴の子だと!!』
呆然とするゼウステス99世。
ゼウステス99世『…ヴロイヴォローグを倒し、帝国軍賊軍のホバー戦艦に体当たりを敢行した少年だぞ。』
ゼウステス王国兵士I『それが、何でもファウス王子襲撃事件からずっとなりすましていたようで…。』
頷くゼウステス王国兵士I。玉座に座るゼウステス99世。ゼウステス99世は片手で頭を抱える。
ゼウステス99世『ファウス王子襲撃事件はもう10年以上も前の話だぞ。では、汚らわしい農奴の子が長年、我々と同じ物を喰い、着物を着て貴族の生活を謳歌して我々と同じ卓につき、議論したということか!』
頷くゼウステス王国兵士I。
ゼウステス99世『…おそらく出来のいいファウスが王に即位すると思っていたが、なんということだ。あいつは!あいつは汚らわしい農奴の息子だったのだ!』
両手で頭を抱えるゼウステス99世。
ゼウステス99世『なんとおぞましい。汚らわしい農奴の子が我々の知らずの内に王になる手前まで行くとは…。』
眼を見開く一同。ゼウステス99世は玉座の肘当てを叩く。
ゼウステス99世『何たる背徳!』
玉座の間に木霊する音。
C8 衝撃 END
C9 鎮魂祭
朝日に照らされるパレオーン神殿。大理石の巨大な柱が屋根を支え、周りでは松明が燃やされる。中央には魔法陣が描かれ、奥には荘厳な祭壇がある。
集うゼウステス王国の一行。音楽が奏でられ、地上にある雨乞いの祭壇では祭事の壮麗な衣装を着たシュピーナを中央に神官と巫女が動き、周りに集まる群衆達。ネロスが率いる警備隊が警護にあたっている。ゼウステス99世は腕組みをして地上の祭壇を見る。祈りを捧げるシュピーナ。
ジュラ地震の被害者遺族達が新興宗教の教祖と弁護士を先頭にデモ旗を掲げて、群衆を押し分けて現れる。彼らの方を向く群衆達。立ち上がりデモ隊の方を見るシュピーナ。デモ隊は群衆をかきわけてパレオーン神殿の階段の前に行く。デモ旗には“ジュラ地震の責任を取れ!”と書かれている。
デモ隊員A『ジュラ地震の責任を取れ!』
デモ隊員B『賠償金を払え!!』
新興宗教の教祖『こんな鎮魂祭等のまやかしで我々の眼はごまかされはしないぞ!我が神の名のもとに。』
デモ隊員C『お父さんをかえして!』
パレオーン神殿中段の駐屯所から現れるネロス。ネロス顔を真っ赤に染め、眼を血走らせて、階段を下りていく。随伴する警備隊員達。ネロスはデモ隊達の前まで来る。デモ隊達の動きが止まる。青ざめるデモ隊員達。ネロスは前に出てデモ隊隊長と弁護士の頭を掴んで引き上げる。
ネロス『てめぇらは自分のしたことを分かってるのか!!!?あぁ?』
もがくデモ隊隊長と弁護士。
ネロス『てめぇらはな自ら賠償対象を殺したんだぞ!』
ネロスのこめかみに血管が浮き出る。
ネロス『それなのになぁ、国家に損害賠償を求めるなどとは言語道断…。』
デモ隊隊長と弁護士の頭を握りつぶすネロス。
ネロス『だろうが!!!!!!!』
鮮血がネロスとその周りに居る警備隊員とデモ隊員達を染める。頭が潰されたデモ隊隊長と弁護士の死体が地面に落ちる。
ディライセンがゼウステス99世の方を見る。
ディライセン『王!王!!』
眉を顰めるゼウステス99世。
ゼウステス99世『王子のいうことが尤もだ。』
眼を見開く文官と武官達。震えあがるデモ隊員達。デモ隊員達の親子連れがネロスの前に出る。
ディライセン『い、いかん!』
ディライセンは周りに目配せする。パレオーン神殿の階段を駆け下りていくゼウステス王国の文官と武官達。
親子連れの母親『ネ、ネロス王子。お、お許しください。』
親子連れの母親と子供達が土下座する。親子連れの母親は顔を上げる。
親子連れの母親『で、でも、お金がないとお金がないと…私達は生きていけません。どうか、どうか賠償を…。』
頭を下げる親子連れの母親。ネロスは抜刀し、子供たちの首を飛ばす。
親子連れの母親『えっ?』
顔を上げる親子連れの母親。子供たちの首の切断面から出る地が親子連れの母親の顔の所々を赤く染める。転がる子供たちの首。悲鳴が上がる。ネロスは親子連れの母親の頭を踏みつける。地面にめり込む親子連れの母親の頭。
ネロス『はぁ?死ねば、金かからねえだろうがぁ!ボケかテメェはよ!!』
親子連れの母親の頭から血が流れ、血だまりを作りだす。唖然とし、立ちつくすゼウステス王国の文官と武官達。
ネロス『これは国家に対する詐欺行為!国賊である!もし、ジュラの地震が天罰ならば滅ぼされたマイとセプテの住民こそ、神の裁きを受けたのだ!』
ネロスは一歩前に出る。
ネロス『国賊は皆殺しだ!被害者遺族どもの一族郎党根絶やしにしろ!』
剣をデモ隊の方に向けるネロス。青ざめ顔を見合わせる警備隊員達。ネロスは警備隊員達の方を向く。
ネロス『どうした!やらんのか?やらねば銃殺刑に処す!所領、財産も没収だ!』
喉を鳴らし、銃を構える警備隊員達。ディライセンはパレオーン神殿を見上げる。
ディライセン『王!王!王!ネロス王子の暴挙を止めさせて下さい。』
ゼウステスは頷き、パレオーン神殿の階段を一段降りる。
ゼウステス99世『ネロス王子の意見が尤もだ。止める必要は無い。自ら金を払う対象を殺しておいて、国家から金をふんだくろうとするとは、何と悪知恵を働かすことか。民衆とはその様なものなのだ!背徳にまみれた汚らわしいな。』
ゼウステス99世はネロスを見る。
ゼウステス99世『構わん、ネロス。続けろ!』
ディライセンが眼を見開く。
ディライセン『王!』
ゼウステス99世『その様な民等いらぬ。根絶やしにしろ!』
後ろを振り向いてパレオーン神殿の中に入って行くゼウステス99世。ディライセンがゼウステス99世に向けて、手を伸ばす。
ディライセン『王ーーーーーーーーーーっ!』
銃声と悲鳴が鳴り響く。ダーダーヴァは最上階の神殿と地上の祭壇を何回も見回す。逃げ惑う群衆達。血で染まる祭壇。蜂の巣にされたデモ隊の老若男女の死体が転がる。息のある者達の頭を踏みつぶしながら進むネロスは
足を引きずる新興宗教の教祖の頭を掴み、持ち上げる。もがく新興宗教の教祖を睨み付けるネロス。
ネロス『おい、お前…。』
新興宗教の教祖は身を震わせる。
新興宗教の教祖『ひ、ひぃ!』
ネロスは指を鳴らす。
ネロス『縄をもて!戦車を四つ用意しろ!』
眉を顰めて顔を見合わせる警備員達。
ネロス『今すぐにだ!処刑されたいのか!』
ネロスは警備員達を睨み付ける。駆けていく警備員達。機械音が鳴り響き、現れる四台の戦車。ダーダーヴァの顔が青ざめる。
ゼウステス王国の文官B『だ、誰か!王子を止めろ!あれは…』
縄をもって駆けてくる警備員達。ネロスは彼らを見下ろす。
ネロス『こいつの四肢を縄で縛り、戦車につなげろ!』
青ざめる警備隊員達。警備隊員Aが前に出る。
警備員A『…王子…ま、まさか…まさか、これは…。』
ネロスは警備隊員Aの方を向く。
ネロス『分からんか。車裂きだ。とっととしろ!』
眼を見開き、喉を鳴らす警備隊員A。
ネロス『とっととしろと言っているのが分からんのか!』
警備員達は新興宗教の教祖の四肢を縄で縛り、それぞれ戦車に繋げる。笑みを浮かべ、新興宗教の教祖を祭壇に投げるネロス。新興宗教の教祖は祭壇に落ち、転がる。シュピーナは尻餅をつき、下半身の下着が肌蹴る。逃げ惑う巫女と神官達。はいつくばって祭壇から降りるシュピーナ。ディライセンが神殿の方を向く。
ディライセン『王!』
ネロスは満面の笑みを浮かべる。
ネロス『神への供物だ。新興宗教の教祖なら神通力でどうにでもするだろうからな。やれ!』
戦車が同時に動き出す。もがく新興宗教の教祖。神殿の暗闇から現れるゼウステス99世。ディライセンはゼウステス99世に駆け寄る。
ディライセン『王子を止めてください!これは虐殺です!』
ゼウステス99世は階下を見下ろす。もがきまわる新興宗教の教祖。
ディライセン『王!』
ゼウステス99世は鼻で笑う。新興宗教の教祖の肉が軋む音が響く。
ディライセン『王!どうか王子を…。』
ゼウステス99世『高貴なる我が一族を愚弄した罰だ。ふん。当然のことだな。』
新興宗教の教祖の四肢が吹き飛び、鮮血が祭壇を染める。神殿内に響くゼウステス99世の高笑い。ポプコーンがネロスの前に駆け出る。
ポプコーン『ネロス王子!なんと罰当たりな!あれは神聖な祭壇ですぞ!』
鼻で笑うネロス。
C9 鎮魂祭 END
C10 尻尾の暴君
ゼウステス王国首都ウラヌス。コスモス広場。ダーダーヴァとその郎党により炊き出しが行われ、並ぶ民衆達。頭にタオルを巻いたダーダーヴァがスープを並ぶ民衆達の皿の中に入れている。民Aがダーダーヴァを見て一礼する。
民A『ダーダーヴァ様の志は立派な事です。』
ダーダーヴァは首を横に振り、溜息を付いて俯く。
ダーダーヴァ『いえ、この様な事態を引き起こしてしまったのは我々の責任…。』
ざわめきが起こり、民Bがダーダーヴァに詰め寄る。
民B『こんなことで我々を騙せると思うな!このゼウステスの!ネロスの手先が!増税に次ぐ増税!お前らが肥え太り、俺達は痩せ細る。それに加えて離宮造営による低賃金での過酷な労役!不平を言えば、すぐに血染めの祭壇で車裂きだ!!』
民Aが民Bの腕をつかむ。
民A『この方は、我々の為に自腹を切って、こうして炊き出しをしておられるのだぞ。』
民Bはダーダーヴァを睨み付ける。
民B『こいつらの給金は、もともとは俺達の税金だ!俺達に戻ってきて当然だろうが!こいつのやっていることは自己満足にすぎないんだぞ!』
民Cが民Bの傍らに寄る。
民C『よせよせ。ネロスの耳に入ったらどうする。俺達は車裂きにされてしまうぞ。』
民Cはオリンティア宮殿の方を向く。眉を顰める民B。
民C『俺達はまだ耐えるしかない。』
民Cは西の方を見つめる。頷く民衆達。
アンガーフィールド『こんなところにいたか。』
アンガーフィールドの方を向くダーダーヴァ。アンガーフィールドはダーダーヴァの傍らに寄る。
アンガーフィールド『今日は何の日か分かっておるのだろうな。』
ダーダーヴァは頭のタオルを取る。
ダーダーヴァ『分かっております。』
ダーダーヴァは彼の郎党達に目配せし、アンガーフィールドと共に歩く。
アンガーフィールド『民衆に施しか。』
頷くダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『ええ。』
アンガーフィールドはダーダーヴァの方を向く。
アンガーフィールド『…下手に民衆に接すれば、王に勘ぐられるぞ。ポプコーンの様に蛇などいない神殿内で毒蛇に噛まれて死ぬ事故にあうかもしれん。』
ダーダーヴァは後ろを振り向く。
ダーダーヴァ『…しかし、この惨状は放ってはおけません。』
アンガーフィールドは前に進む。
アンガーフィールド『そうだな。だから今日は重要な視察だ。』
アンガーフィールドの方を向き、頷いてアンガーフィールドに続く。
ゼウステス王国西の国境にある華麗なヴェヌス長城。城門に集うディライセンを先頭としたゼウステス王国の文官達が集う。長城を見回しながら感嘆の声を上げるゼウステス王国の文官達。
コーリキー『とても巨大ですね。』
ゼウステス王国の文官A『当たり前だ。この城の向うはトロメイア大陸半島。かつては敵地、今は紛争の絶えぬ地だ。しかし…。』
ダーダーヴァが一歩前に出る。
ダーダーヴァ『無骨な性格の奴らかと思えば…これは。』
ダーダーヴァの方を向くアンガーフィールド。
アンガーフィールド『ここまでキチンと手入れしているとはな。』
彼らの目の前の巨大な門が軋む音を立て、ゆっくりと開く。中央に立つフテネ。
フテネ『どうも文官の方々。今日はこのヴェヌス長城の…。』
フテネは一歩前に出て周りを見回す。
フテネ『ご視察で…。』
フテネは眼を細めて振り返り、城門の中に入って行く。顔を見合わせて頷き、フテネに続くゼウステス王国の文官達。城門の中に入る文官達。巨大な扉が軋む音と共に閉まる。蛍光灯が光、遠くに見える日の光に照らされたアーチ状の出口に向けて歩いていくフテネ。続くゼウステス王国の文官達。
ディライセン『しかし、えらく手入れされているな。』
頷くフテネ。
フテネ『ここは他国からすればゼウステス王国の顔、この地を保つことで敵の戦意を削ぐ。隙を見せれば喉元に食いかかって来る奴らばかりだからな。』
頷くディライセン。息を切らすゼウステス王国の文官達。フテネは後ろを見た後、正面を向き、笑みを浮かべる。
フテネ『この長城はペイオ川とペネイ川に挟まれ高さ300m、厚さ1000mの城壁を…。』
息を切らすゼウステス王国の文官達。
フテネ『三重に巡らしてある。』
ゼウステス王国の文官B『さ、三重も!』
ゼウステス王国の文官C『ま、まだあるのか。』
振り返るフテネ。
フテネ『文官の方々は日頃鍛錬を疎かにしているらしい…。クックック。』
笑いだすフテネ。
フテネ『安心しろ。ちゃんとトラックを待たせてある。』
胸を撫で下ろすゼウステス王国の文官達。
フテネ『ただし、出口にな。』
顔を見合わせ、眉を顰めるゼウステス王国の文官達。フテネは高笑いをしながら先頭を歩いて行く。暫し、時間が経過する。出口に辿りつく一同。息を切らし、膝に手を当てるゼウステス王国の文官達。フテネは右後方の城壁を指さす。
フテネ『この城壁の向う側はトロメイア大陸半島。』
フテネは右前方の城壁を指さす。
フテネ『あちらはシラクーザにモング。』
フテネは後ろを振り向く。
フテネ『この城壁を一歩越えるだけで、紛争地域と敵国内に侵入できる。』
フテネは息を切らす文官達を見回し、指を鳴らす。砂煙と共に現れるトラック群。
フテネ『お前達が普段使っている自動車とは比べ物にならない程、乗り心地が悪いぞ。』
トラック群はゼウステス王国の文官達の前で止まる。ゼウステス王国の武官達の指示の下、ゼウステス王国の文官達はトラックの荷台に乗り込む。先頭の車両に乗り込むフテネ。砂煙を上げながら去って行くトラック群。
ヴェヌス長城中央に聳え立つヴェヌス宮の前で止まるトラックの群。フテネを先頭に降り立つゼウステス王国の文官と武官達。吐くゼウステス王国の文官達多数。
フテネ『ここが中央司令部のヴェヌス宮…。』
ゼウステス王国の文官Bが一歩前に出る。
ゼウステス王国の文官B『…登るのか?』
首を横に振るフテネ。
フテネ『天守は物見と管制塔を兼ねている。接客はもっぱら下の階だ。安心しろ。』
フテネはヴェヌス宮の方へ歩いて行く。ヴェヌス宮の鋼鉄製の扉が開く。中に入るゼウステス王国の文官とゼウステス王国の武官達。扉が大きな音と共に閉まる。
フテネ『さて…。』
フテネはゼウステス王国の文官達の方を向く。
フテネ『あの扉は特殊でな。爆薬だろうと魔砲や魔法、レーザーですら焼き切れはせぬ。』
フテネの方を一斉に向くゼウステス王国の文官達。フテネは顎に手を当て、右側の壁を向く。
フテネ『では、本題に入るか。』
フテネはゼウステス王国の文官達の方を向く。
フテネ『我が配下は裏切るようなものは一人もいない。しかし、文治派…つまりお前らは裏切る可能性が高い。』
フテネはダーレモガーに目配せする。
フテネ『ダーレモガー!』
ダーレモガー『あいよ。』
ダーレモガーとゼウステス王国の武官達は巨大な紙を床に敷く。紙には円が描かれ中央にはフテネの名と血判が押されている。
フテネ『妙な出来心を起こさぬよう。お前らにはこの血判状に一人残らずサインをしてもらおう。』
顔を見合わせるゼウステス王国の武官達。頷くディライセンは一歩前に出る。ゼウステス王国の武官Aがディライセンにスタイラスを渡す。フテネは顎に手を当て2、3回頷く。ディライセンはフテネの名の横に自分の名を書く。眼を見開くフテネ。ゼウステス王国の武官Aがディライセンからスタイラスを受け取り、ゼウステス王国の武官Bがディライセンにナイフを渡す。ディライセンは親指をナイフで刺し、自分の名前の下に押す。立ち上がるディライセン。ディライセンを見つめるフテネ。
フテネ『…俺の名の横に書くとはな。』
ディライセン『当然のことだ。王子の横暴を許し、王を止める事ができなかった。暴虐を繰り返す王子のいいなりになる王をみて、民心はどんどん離れて行ってしまっている。我々の責任だ!』
ディライセンはゼウステス王国の武官達の方を向く。ダーダーヴァが一歩前に出、ゼウステス王国の武官Aからスタイラスを取ると自分の名前を、ディライセンの横に書く。一斉に前に出るゼウステス王国の文官達。頷くフテネ。
フテネ『なるほど。これがお前達の覚悟というものか。』
C10 尻尾の暴君 END
C11 発火
ヴェヌス長城中央のヴェヌス宮内部。立ち上がりフテネの方を向くゼウステス王国の文官達。ゼウステス王国の武官達が紙を回収する。ディライセンが前に出る。
ディライセン『では、始めさせて頂く。』
頷くフテネ。
ディライセン『王子は強姦、略奪の他、虐殺に手を染めております!それに加えて離宮造営の為の増税!王はアレス王国王子の成りすまし事件以来、民衆に不信感を覚え、王子の言うことしか聞きません。』
サホテンカが前に出る。
サホテンカ『それだけじゃないわ。』
サホテンカの方を向く一同。サホテンカは手にした資料を叩きながら2、3歩歩く。
サホテンカ『離宮造営の運営費、国庫の出納表には不明瞭な記載が。』
ディライセンは眉を顰める。
ディライセン『なんと…王子は国家の金にまで手を出していたのか!』
文官C『なんという王子だ!』
ディライセン『ますます民意が王宮から遠のいて行く。』
アンガーフィールドがディライセンの方を向く
アンガーフィールド『もはや王子を弑するしか…。』
文官C『しかし、王子は手強い。何せ口八丁手八丁だからな。』
文官D『そもそもあのアレス王国の農奴の息子が何もかも悪いのだ!王に民衆に対する不信感を植え付けた!あの悪党が!』
フテネは顎に手を当て2、3回頷き、軍靴の音を響かせる。フテネの方を向く一同。
フテネ『自らの尻尾を抑えるどころか、操られる無能な王だ。暴虐なネロスの傀儡!政おろそかにし、挙句民衆は恐怖に怯える日々を送る。』
ディライセン『フテネ殿…何が言いたい?』
フテネは眼を閉じ、頷く。
フテネ『民の為に立つ!王を倒すのだ!』
ダーダーヴァが前に出る。
ダーダーヴァ『な、何だと!そんな事が許されるものか!』
眉を顰めるフテネ。
フテネ『なら、止められるのか?お前らの弁舌とやらでこの悪政を止められるのか!ネロスは次期王に抜擢されているし、王は王子のいいなりで、お前達では敵わない。だから我々に泣きついてきた。しかし、王子を弑すれば次期王を殺したという事で反逆者として全員処刑。』
口を閉ざし、握り拳を震わすダーダーヴァ。フテネはダーダーヴァを見下ろした後、顔を上げる。剣を鞘から抜き、振り上げる。
フテネ『悪政を断ち切るのは武の力だ!』
剣を振り下ろすフテネ。
フテネ『農奴の子ですら策略を使って王になる手前まで行ったのだ。ろくに血も汗も流さず、土にも塗れず!しかし、我々は違う!民の事を憂いて立つのだ!誰が我々を責むることがあるか!』
呆然とするゼウステス王国の文官達。ディライセンが眼を見開く。
ディライセン『フテネ殿!過激すぎます!自らの主を討つとは!』
フテネ『道を外した主は主とは言わん。更生ができる可能性が無いに等しいのならば討たれて当然!民もそれを望む!王の悪逆は他国にも知れ渡り始めている!』
ディライセンは喉を鳴らす。
ディライセン『我々は王に王子を廃嫡させ、次期王にナルキス様を指名させます。』
ディライセンを睨みつけるフテネ。
フテネ『怖気づいたか。まあいい。しかし、できるのか?お前達にあの王を説得させることなど本当にできるのか?できなかったからこそ、こうして視察と称して密談の場を作ったのではないのか?』
俯くディライセン。フテネは剣をしまう。
フテネ『焼け石に水の様な気もするがな。気が変わればいつでも連絡しろ。用意はしてある。』
フテネの方を見る一同。
フテネ『だが、結果は今日中に…。こちら側が手の内を明かした以上、常にきさまらは俺の配下に見張られている事と血判状の事を忘れないで頂きたい。』
顔を見合わせるゼウステス王国の文官達。
ゼウステス王国首都ウラヌス車道を高級車が通る。内部にはディライセンとダーダーヴァ。運転席に座るクライガン家の運転手。ダーダーヴァは城壁ビスケットを手で取り、親指と人差し指で持ち、表裏を絶えず見ている。ディライセンはダーダーヴァの方を見る。
ディライセン『先程から何を?』
ダーダーヴァ『いや、ヴェヌス長城の売店で買ったこの城壁ビスケット…。』
ダーダーヴァはビスケットをディライセンに見せ、表側を指さす。
ダーダーヴァ『これ、あの三重の城壁の形になっているでしょう。』
頷くディライセン。
ディライセン『確かに形は面白いが味はどうなのだ?無骨な武官達がつくるお菓子だろう。』
ダーダーヴァ『そうですね。』
ダーダーヴァはビスケットを噛み砕く。
ダーダーヴァ『あ、意外に美味い。』
ダーダーヴァはビスケットの断面を見る。
ダーダーヴァ『この三層が何ともいえませんね。』
ディライセンはダーダーヴァの方を見る。
ダーダーヴァ『あ、ディライセン殿もお一つどうですか。』
ディライセン『…ではお言葉に甘えて。』
城塞ビスケットを噛み砕くディライセン。ディライセンは眼を見開く。
ディライセン『…うん。いける。娘のつくったものより随分と美味い。』
泣きだすディライセン。眉を顰めるダーダーヴァ。高級車はクライガン邸宅の玄関のロータリーに止まる。扉が開き、車から降りるディライセンとダーダーヴァ。
ディライセン『本当にここで良かったのか?』
頷くダーダーヴァ。
ダーダーヴァ『ええ、少し歩いて頭を冷やそうと思います。』
頷くディライセン。
ディライセン『そうか。では、気を付けてな。わしはこれから王のもとへ行こうと思う。』
玄関に入って行くディライセン。動きだす高級車。赤いスポーツカーがロータリーで激しく止まる。スポーツカーの方を見るダーダーヴァ。スポーツカーから降りるディライセンの娘のエニア。ダーダーヴァはエニアの方を見て一礼する。
ダーダーヴァ『これはエニア嬢。こんばんわ。』
エニア『こ…こんばんわ。』
ダーダーヴァは顔を上げる。ダーダーヴァの眼に映り込む青ざめた顔のエニア。エニアはゆっくりとした足取りで玄関に向かう。ダーダーヴァは首をかしげて、その場を去る。
C11 発火
C12 崩壊への足音
夜。ゼウステス王国首都ウラヌス、コスモス、エリス、ネメシスの広場は明るく照らされ、民衆達の集団が見られる。文官達はそれを見ながらプロメテウス宮の大講堂に駆けて行く。
ダーダーヴァ『おそらく我々が彼らの調停に向かうんですね。』
ゼウステ王国の文官B『まあ、その為の臨時招集だろう。』
ダーダーヴァは溜息をつく。
ダーダーヴァ『覚悟はしておかなければなりませんね。』
頷くゼウステス王国の文官B。先頭を走るコーリキーが立ち止まる。コーリキーの背に当たるゼウステス王国の文官B。
ゼウステス王国の文官B『これ、急に立ち止まるでない!』
コーリキーは胸に手を当てて周りを見回す。
ゼウステス王国の文官A『どうした!前に進まんか。詰んでいるぞ!』
扉の横に居るアンガーフィールドとゼウステス王国の文官Eとゼウステス王国の文官F。アンガーフィールドが腕組みする。
アンガーフィールド『前から詰めて座れ。』
コーリキーはアンガーフィールドを見て頷く。プロメテウス宮の大講堂に入って行くゼウステス王国の文官達。彼らは眼を見開いて、眉を顰める。壇上に座るディライセンとフテネ。左右の両端にはゼウステス王国の重武装した武官達が並ぶ。
フテネ『よく来たな。ご協力感謝する。ささ、席に座れ。』
ゼウステス王国の重武装した武官達とフテネを何回も見回しながらダーダーヴァは中央左の席に座る。扉から入って来るゼウステス王国の文官達。扉の横に居るアンガーフィールドは足踏みをしながら時計を何回も見た後、正面を向く。
アンガーフィールド『もう8時だよ!全員集合したのか?』
点呼を取るゼウステス王国の文官Eとゼウステス王国の文官F。彼らは頷いてアンガーフィールドの所に駆け寄る。アンガーフィールドは彼らの顔を見て頷き、扉を閉める。音が鳴り響く。壇上を見つめるゼウステス王国の文官達。立ち上がるディライセン。
ディライセン『各々方。今日集まってもらったのは他でもない。』
眼を見開くディライセン。
ディライセン『我々はフテネ殿に協力する!』
ざわめきが巻き起こる。ダーダーヴァが立ち上がる。
ダーダーヴァ『フテネ殿と協力するとは?我々は暴動を調停する為に召集されたのではないのですか?』
首を振るディライセン。フテネは立ち上がり、壁を2、3回叩く。
フテネ『いい壁だ。』
フテネはゼウステス王国の文官達を見回す。
フテネ『流石にかつての逢引の間だけあって、夜の近所迷惑には気を付けておるわ。』
眉を顰めるゼウステス王国の文官達。ディライセンはゼウステス王国の文官達を見回す。
ディライセン『我々はフテネ殿と協力し、これより王を討つ!』
コーリキーが立ち上がる。
コーリキー『宰相!正気ですか!今暴動が起ころうとしているのに!』
鼻で笑うフテネ。フテネを睨みつけるゼウステス王国の文官達。
フテネ『民衆は我々の指示がなければ動かん。準備はしてあるといったろう。』
唖然とするゼウステス王国の文官達。
フテネ『民衆は何の力にもならぬ優柔不断な智の力より…。』
フテネはゼウステス王国の文官達の顔を見回す。
フテネ『全てを断ち切る武の力にすがりついてきたのだ!』
ダーダーヴァが椅子によろけて座る。
ダーダーヴァ『まさか。民がそこまで追い詰められていたとは…。』
俯くダーダーヴァ。
フテネ『民意に沿ってゼウステスの地を民の怨恨と血で汚す暴君を誅す!武の力で、悪逆の大元を断ち切るのだ!』
ディライセンが立ち上がる。
ディライセン『フテネ殿の言うことに何の非があろうか。』
ディライセンは周りを見回す。
ディライセン『作物を育て育む雨乞いの祭壇も民草の血の雨を降らせている惨状を見ろ!過酷な労役を課せられ、飢餓に苦しみ、倒れていく民衆を!我々が諌めようとも効く耳は無い!もはや、王は人ではなくなってしまった!お前たちの愛する故郷はどこへいった!?私達の愛したゼウステスの地は暴君と化した国王によって荒廃の一途を辿っているのだ!こんな国に子供たちの未来は託せるのか!民衆は、何も果たせられぬ…果たせられなかった我々よりもフテネ殿を頼り、全ての希望を武の力に託した!だから今日、民衆が救済を信じ、コスモス、エリス、ネメシスの広場に集ったのだ!』
頷くゼウステス王国の文官達。
ディライセン『もはやこれは神の思し召しである!民を救えと!王宮を高貴な血で染め、民の血でゼウステス王国が穢れるの防げと!!』
フテネが剣を抜き、振り上げる。
フテネ『暴王討つべし!』
歓声が上がる。
ゼウステス王国首都ウラヌス。オリンティア宮殿に集まるゼウステス王国の武官とゼウステス王国の文官達。オリンティア宮殿を囲むタロス級人型機構多数。階段から降りるヘルメット。階段を登るフテネ。ヘルメットがフテネの肩に手を当てる。
ヘルメット『同期のお前が来てくれて心強い。』
頷くフテネ。
ヘルメット『今の所、民衆は動いてないらしいな。』
フテネ『ああ。民衆の暴動を治める為、文官で兵数を水増しさせるつもりだ。』
フテネはしゃがみ、指を動かしながらコスモス、エリス、ネメシスの広場の方を見る。
フテネ『お前とは士官学校で良く競い合ったものだ。貴様は素早くて俺の手には…。』
眉を顰めるヘルメット。
ヘルメット『おい。なぜ、人型機構がこちらを向いたままなんだ?』
フテネは剣を抜刀する。飛び上がり避けるヘルメット。
ヘルメット『きさ…。』
フテネの影から伸びる黒色の霧がヘルメットの手足と口を縛る。ヘルメットに歩み寄り、肩から袈裟がけに斬る。鮮血がほとばしり、フテネの顔は血で染まる。ヘルメットの死体を見つめ、首を横に振って溜息をつく。
フテネ『…同期なのだがな。』
フテネはオリンティア宮殿を見つめた後、金色メッキのタロス級人型機構の方を向いて頷く。金色のタロス級人型機構のコックピットのハッチが開き、現れる白馬に乗ったダーレモガー。ダーレモガーは剣の柄に接吻して振り上げる。
ダーレモガー『あいの名の下に突撃や!』
一斉にオリンティア宮殿に雪崩れ込むタロス級人型機構群。フテネがハンドガンで照明弾を放つ。雄叫びが聞こえ、現れる民衆達。フテネが剣を掲げる。
フテネ『ついにこの日が来た!血と涙を流し、よくここまで耐えしのんだ!』
涙ぐむ民衆達。フテネは剣を掲げる。
フテネ『暴政を断ち切る!』
雄叫びが起こる。タロス級人型機構が崩した城壁から侵入するゼウステス王国の武官にゼウステス王国の文官及び民衆達。応戦するゼウステス王国の兵士達は重武装のゼウステス王国の武官達に切り捨てられ、その場に切り口から血を噴き出しながら倒れる。フテネはディライセンの方を向く。
フテネ『王は何処に?』
ディライセン『おそらく寝室から近い玉座の間かと。』
ダーダーヴァ『きっとまだ何が起きたか把握できていない筈です。』
頷くフテネ。玉座の間に進むディライセンとフテネにダーダーヴァ。玉座の間に現れるゼウステス99世。唖然とするディライセンとダーダーヴァ。
ゼウステス99世『これは何の騒ぎだ!』
フテネがゼウステス99世に向けて駆ける。
フテネ『王!大事でございます!』
ゼウステス99世は眉を顰める。
ゼウステス99世『おま…。』
ゼウステス99世は剣の柄に手をかけるが、フテネの素早い剣撃がゼウステス99世の首を勢いよく飛ばす。
フテネ『…みしるし頂戴!』
ゼウステス99世の首の切断面から鮮血がほとばしる。フテネが剣を鞘に納めると同時に落ちるゼウステス99世の首。腰を抜かすディライセンとダーダーヴァ。フテネはゼウステス99世の首を持つ。雪崩れ込んでくるゼウステス王国の武官達とゼウステス王国の武官達及び、民衆達。フテネはゼウステス99世の首を掲げ、周りを見回す。
フテネ『次はネロスだ!ネロスを探せ!便所の中でもかき分けて見つけ次第ぶち殺せ!』
雄叫びが上がり、駆けていくゼウステス王国の武官達。ディライセンが立ち上がり、フテネの方を向く。
ディライセン『…ナルキス王子はどうなされるので?』
ディライセンの方を向くフテネ。
フテネ『ふん。赤子に手を出したとあらば名折れ。』
首を横に振り、玉座の間の開かれた窓を見つめるフテネ。
所々が瓦礫と化したオリンティア宮殿の所々で燃え盛る橙色の炎。動き回るゼウステス王国の文官及びゼウステス王国の武官に民衆達。
ゼウステス王国の武官A『ネロスはどこだ!見つかったのか!?』
ゼウステス王国の武官Bは首を横に振る。
ゼウステス王国の武官B『何処にもおらんぞ!』
蹄鉄の音が聞こえ、現れるダーレモガー。
ダーレモガー『王子はデウースの歓楽街に聖女のシュピーナと共に向かったらしいで!』
フテネは一歩前に出る。
フテネ『何だと!』
ディライセンとダーダーヴァは顔を見合わせる。
フテネ『すぐに歓楽街に行くぞ!ネロスを討ち取る!』
ディライセンはダーダーヴァの方を向く。
ディライセン『ダーダーヴァ。わしはナルキス王子の様子を見てくる。』
頷くダーダーヴァ。
デーウスの歓楽街。巨大河川のリバーサイド川に沿って立つ超高級ホテルのヘッラホテル。タロス級人型機構が周りを取り囲む。ダーダーヴァとゼウステス王国の文官達数人にフテネ及びゼウステス王国の武官達がホテルの中に入って行く。眼を見開き、青ざめるヘッラホテルの受付。ダーダーヴァがヘッラホテルの受付に駆け寄る。
ダーダーヴァ『ネロス王子は?』
ヘッラホテルの受付『は、はい。何かございましたか?』
フテネは頷く。
フテネ『民衆の暴動だ。監視室は?』
ヘッラホテルの受付は右を指す。
ヘッラホテルの受付『あ、あちらでございます。』
フテネはゼウステス王国の武官達の方を向いて顎を上げる。監視室に入って行くゼウステス王国の武官二人。
ダーダーヴァ『ネロス王子のいる部屋は?護衛はいるのか?』
ヘッラホテルの受付はダーダーヴァを見つめる。
ヘッラホテルの受付『は、はあ。ちょっとお呼びするのでお待ちを…。』
ゼウステス王国の武官Cが剣で電話を叩き壊す。眼を見開くヘッラホテルの受付。
ゼウステス王国の武官C『民衆がひしひしとここに迫っているのだぞ!王子をお守りする為にそんな悠長なことを行っていられるか!』
ゼウステス王国の武官Dがヘッラホテルの受付の胸倉を掴む。
ヘッラホテルの受付『は、はい。999号室に!お忍びなので護衛はおりませんし、部屋を全部貸し切ったので人はおりません!!』
頷くゼウステス王国の文官達と武官達。ゼウステス王国の武官Dがヘッラホテルの受付を離す。咳き込むヘッラホテルの受付。
フテネ『王子を護衛しろ!』
エレベーターに入る者達と階段を登って行く者達に分かれる。ヘッラホテル999号室の通路で待機するゼウステス王国の文官達と武官達。喘ぎ声が聞こえる。999号室の扉を叩くフテネ。
ネロスの声『何だ?』
ベットの軋む音。靴音が鳴り響く。フテネが指示を出す。マシンガンが火を吹く。
シュピーナの声『えっ!ネロス様!なっ…。』
大きな音が鳴り響き、ドア枠が軋む。
シュピーナの声『ゔぅっ!』
蜂の巣にされる扉。扉に体当たりするゼウステス王国の武官達が押し返される。フテネとゼウステス王国の文官達も扉に体当たりする。立てかかっていたベットが大きな音を立てて落ちる。ベットの上には血で染まったシーツに包まった蜂の巣の全裸のシュピーナの死体がある。部屋の窓が開き、カーテンが風に揺れている。
ダーダーヴァ『…な、何と言う事だ。我々は聖女を。』
崩れ落ちるダーダーヴァと唖然とするゼウステス王国の文官達。フテネは舌打ちする。
フテネ『売女だろ。』
フテネは窓からリバーサイド川を見つめる。銃撃音が鳴り響く。全裸で砲弾と銃弾をかいくぐり、泳いでいくネロスはリバーサイド川の彼方へ消えていく。
フテネ『…逃がしたか。』
ゼウステス王国の文官達とゼウステス王国の武官達は窓に駆け寄り、リバーサイド川を見つめる。
C12 崩壊への足音 END
C13 明星
明け方。パレオーン神殿の雨乞いの祭壇に集うゼウステス王国の武官達とゼウステス王国の文官達と民衆達。フテネを先頭にヘッラホテルに行っていた一行が現れる。各国の報道局のヘリコプターが飛び交う。フテネはヘリコプターを見上げる。
フテネ『あれは?』
ダーダーヴァ『各国の報道機関です。』
フテネは正面を向く。
フテネ『そうか。』
歓声が上がる。俯くフテネ。顔を見合わせる民衆達。フテネは雨乞いの祭壇に登り、民に向いて跪く。
民D『ネロスは?ネロスはどうなったんだ?』
顔を上げるフテネ。
フテネ『すまぬ。逃した。』
眉を顰める民衆達。立ち上がるフテネ。
フテネ『しかし、約束しよう。ネロスが攻めてきたとしても我々が必ず喰いとめると!そしてその時こそ奴の首を討ち取ると!』
民衆達は笑顔を浮かべ、抱き合って涙を流す。拍手喝采、歓声が巻き起こる。ディライセンがナルキス王子を抱いて、雨乞いの祭壇を登る。ディライセンの方を見るフテネ。
フテネ『それは…ナルキス王子か。』
ディライセンはナルキス王子を見つめる。
ディライセン『あの戦闘のショックで死んだ。』
眉を顰めるフテネ。ゼウステス99世の遺体を祭壇の上に運ぶ民衆達。祭壇の中央に置かれるゼウステス99世の首と体。ディライセンはナルキス王子をゼウステス99世の横に置く。
ディライセン『王は、かつては偉大で聡明な方であった。民達も慕い、国家も美しく統治されていた。』
涙を流すディライセン。薪を持って来る民衆達。フテネはディライセンの方を見つめる。
フテネ『火葬か?しかし、王族は…。』
頷くディライセン。
ディライセン『非道を行った魂を少しでも天に導く為に。』
頷くフテネ。立ち上がるディライセン。
ディライセン『しかし、暴虐で残虐極まりないネロス王子の口車に乗って道を踏み外してしまった!我々が愛する民に離宮造営の為に増税に次ぐ増税、更には労役を課し、不平を言うものは車裂きの刑に処した。古から続く伝統ある我が国家は、民草の血で穢れた。それもこれも、王が民を御疑いになってしまったばっかりに…。』
眼を見開く民衆達。ゼウステス99世とナルキス王子の遺体に薪がかぶせられる。火を持って祭壇を登る民衆達。
ディライセン『アレス王国で農奴の子が王子に成りすまし長年、王子として過ごしていた事が露見した為、王の中の秩序が崩壊してしまったのだ。そしてネロスの言いなりになった。思い出してほしい。王の施した政を。』
民E『アレス王国の農奴め!なんて酷い奴なんだ!』
すすりなく民衆達。
ディライセン『王のした事は決して許される事では無い。』
薪に火がくべられる。
ディライセン『そして、王を止められなかった我々にも責任はある。』
民Aが前に出る。
民A『そんなことはありません。あなた方は必死に王を諌めていらしたではありませんか。中には施しをする方も。』
ディライセンが一礼する。
民B『そうだ!ネロスが悪い!そして、アレス王国の農奴の子が悪い!』
民C『そうだそうだ!』
ディライセンが顔を上げ、周りを見回す。
ディライセン『王を殺した我々は重罪人だ!』
民B『何も後悔することはない。あんたらは我々の為に立ったんだ!』
民女A『そうよ。でなければ恐怖で怯える日々がずっと続いていたのよ!』
民女B『私達の為に主殺しの罪に手を染めたのよ!』
民C『あんたらは何も悪くない!』
ディライセンは一礼する。
ディライセン『ありがとう…。』
ディライセンは炎に包まれるゼウステス99世とナルキス王子を見つめる。
ディライセン『王と王子そして、亡くなった方々のの魂に安寧を。』
祈りを捧げるディライセン。フテネは敬礼をする。フテネに合わせて敬礼するゼウステス王国の武官達。ゼウステス王国の文官達は祈りを捧げる。黙祷する民衆達。立ち上がるディライセン。
ディライセン『この荒廃したゼウステスの地。王は居なくなり、聖女も死んだ。暴政の跡を残すだけ…。』
民Cが拳を上げる。
民C『そんなことはない!我々にはフテネ様とディライセン様に文官様と武官様がおられるではないか!』
民衆達は顔を見合わせる。
民F『そうだそうだ!』
民女A『我々をネロスの悪逆非道から救って下さった英雄!』
民女B『きっと、きっと。ええ。きっとゼウステスの地は元に戻りますとも!』
民G『我らと共にこの地の復興を!』
民女C『そうよ!我々と復興を!』
周りを見回すディライセンとフテネ。
民衆達『フテネ様万歳!ディライセン様万歳!』
拍手喝采。歓声が巻き起こる。上を飛ぶ各国の報道機関のヘリコプターのプロペラの音が鳴る。
C13 明星 END
END
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