「これより、1092年の『生誕祭』を開催する!」
「開催する」の辺りからすでに、グラスの当たる音が響いていた。
黄金色の液体が口の中へ吸いこまれ、一定の間隔で喉が脈動する。
カービィとマティルの二人もビールを飲んだことはあったが、
あまり美味いと思えるものではなかったのでお茶のグラスを手にしている。
それに、今日は酒を飲んで酔っ払ってなどいられない。
「さ、行くか。早めにはっといた方がいいしな」
もっともらしいことを言いつつカービィが腰をあげたが、眼は正直だった。
彼がこんなに楽しそうな眼をしているのを、マティルは久しぶりに見た。
人生でベスト3に入るくらい期待に満ち溢れている眼だ。
「コトに巻き込まれなきゃいいけどね」
ポーチに銀色に光る何かをしまい込み、マティルも動き出した。
彼もまた、口では面倒臭そうにしながらも、足の無い体で跳ねている様は
こころなしか楽しそうに見える。
もしかすると、なにか面白いものが見られるんじゃないか―――
漠然とした期待に震える心を抑え、二人は昼間の内に鍵を開けておいた窓から
アリミナル図書館に侵入した。
2nd.key「作戦名・夜間図書館突貫作戦」
懐中電灯の光のみが照らすひっそりとした館内。
カラスの鳴き声が響く度、真白い身体が驚きと恐怖に跳ねる。
「本当に大丈夫なのかよ」
「こういう場所自体は慣れてるんだけどね、やっぱり驚くよ」
窓の揺れる音、木々のざわめき、水の滴る音。
気のせいなのかもわからなく、何も聞こえないと思うほどに頭に音が響く。
もはやマティルは、自分の舌を握っているカービィに引きずられていた。
しかし、今のは気のせいではない。先行していたカービィの動きも、
ビデオの一時停止のようにぴたりと止まったのだから。
見えたのは、目の前のT字路を左に横切った二つの影。
その直後聞こえたのは、ナイフで切り裂いたかのような気味のいい斬撃音。
一瞬身を竦ませるが、好奇心が勝ったか、顔を強張らせたままのカービィが
闇の中をやっと進んでいく。
勢いに任せて左方向を見ると、そこにあったのは―――大部屋への入り口だった。
脱力のあまりその場に座り込みそうになる二人だったが、奥から漂う空気にその動きを止めた。
香ってくるのは、血の香り。身を包むのは、重苦しい「闘争の空気」。
これよりもう少し軽いものなら、喧嘩の時に幾らでも感じたことがある。
だが、こんな全身を押しつぶすような空気は、今まで味わったことが無かった。
「こ、れ…血、だよね…カービィ、本当に行くの?」
帰りたかった。
今すぐ来た道をダッシュで引き返して、祭りの輪の中に入りたかった。
たっぷり騒いで、家の布団でぐっすりと眠りたかった。
だと、いうのに。己の足は、真っ直ぐに大部屋を目指していた。
逃げられないということを、本能が、全身が悟っていた。腰から幅広の大剣を引き抜く。
「帰りたかったら、帰ってもいいぞ。…いや、帰った方がいい」
突き放すように言ったつもりだが、お見通しだったらしい。
「まさか。一人でこの道を戻るなんて、先に進むより怖いよ」
そう言っている友の目には、恐怖など全くなかった。あったのは、優しさのみ。
どうも自分は考えていることが顔に出やすいらしいと、今さらながらカービィは気づいた。
腹を決めて入り口をくぐると、頭に浮かんでいた友のありがたみは一瞬で吹っ飛んだ。
背を割って倒れているワドルディ族、ここまでは予想の範疇だった。
しかしその数メートル横で打ち合いを繰り広げていたのは、斧を持ったブレードナイト族と
―――魔女だった。
紫のローブに、つばの広い先が折れた三角帽子手も足も見えず、ふわふわと宙に漂いながら
絵筆を振るっている。杖ではなく筆だったが、それを差し引いても魔女とみて間違いなかった。
呆けていると、柄の両端に宝石を付けた斧が眼前を舞う。
こちらはまだ、武器と呼べる。納得できる。
問題は、魔女が振るう「絵筆」の方だった。ブレードナイトが距離を詰めれば
盾を描いて攻撃を防ぎ、離せば数百本はあろうかという針を描いて飛ばす。
しかも盾は攻撃を受けるとひび割れて砕け散り、針がかすれば傷口から血が吹き出ている。
魔女の素早い筆さばきによって描かれた絵が、完璧に実体化していた。
「うお、あぶねえ!」
針たちの内の数本が、二人の方へと向かってきた。二人の立っていた場所には、
今や深い穴が穿たれている。
「…迷い子がいたのね。子供を殺す趣味はないけど、『計画』を邪魔されるわけにもいかない。
仕方のないわ」
距離は遠かったが、透き通った声のおかげではっきりと耳に入ってきた。
彼女の標的に自分たちが追加されたことも。
「本当にやるの、カービィ!?」
「やらなきゃ確実にやられるぞ、ここから逃げる為にも戦うしかない!」
カービィは大剣を引き抜き、マティルは革のポシェットからナイフを取り出し臨戦態勢に入る。
実戦は初めてだが、今はそんなことを気にしてる場合ではない。
牽制だけでも―――意を決して一息に魔女の元へと飛び込んだ。
「おおおおおお!」
右肩数センチ上から20キロの大剣を振り下ろす。
魔女は大盾を描いてその重撃を止め、その上に槍を描いて突きを狙った。
―――しめた。「盾」と「槍」ならいける…!
呆けていただけではなかった。対処法は考えてある!
彼は盾の中央にあった突起を踏みつけ、槍を剣で遮りつつ背後に跳んだのだ。
よくよく考えてみれば、博打だった。
もし槍に剣が貫かれれば。足を置いた突起が脆く崩れ去っていたら。
しかし少年の考えの無さは、功を奏してくれた。
その一瞬、魔女には、まず少年を消すという考えしか浮かんでいなかった。
無謀にも、近くの敵意に気を取られ、本当の相手に背を向けてしまったのだ。
「ッ!?」
血の生臭い匂いと、刃が肉に食い込む音。どうやら成功したようだった。
彼女の背中には、白銀のナイフと、宝石をぶら下げた斧が深々と突き刺さっていた。
まさかあんなにも上手くいくとは思わなかった。身体に従って動いた結果だが、幸運だった。
だが、逆にマズい。吹き飛ばされた自分をマティルが掴んで逃げられれば、
とかで良かったのだが。
こめかみをじっとりとした脂汗が流れる。「上手くいきすぎてしまった」のだ。
もう、逃げられない。
乾いた金属音を立てて、刺さっていた刃物が落ちる。直後カービィは、魔女が放った衝撃波に
刃物もろとも吹っ飛ばされた。
暗闇だった場所に、ぼんやりと瞳が浮き上がる。冷たくも見え、優しくも見え。
そこにあるはずの感情は、読みとれなかった。
「フ…フフフ、フ…どうやら、それなりの戦闘技術は持ってるみたいね…「合格」だわ。
もう少し…あなた達の力、見せて」
言い終わる前に、硬化した筆がカービィの腹を斬り裂いていた。
「ぐ、はっ!」
速い。多少本気を出し始めたようだ。だが相手の強さが未知数である以上は
ヘタにつつくこともできない。
「力を見せて」と言われた以上、もう逃がしてくれそうもない。
さっきの時点で逃げておけばよかった。
ふと、からからに干からびた物体が触れた。これは―――舌だ。
先ほど駆け寄ってきたマティルの、乾ききった舌だった。
友が恐怖している。俺に判断を仰いでいる。信じている。わかっていた。
逃げられないのならば、
「やるぞマティ。通じるかどうかわからないけど…『剣導』しかない」
戦うしか道はないのだ。
―――彼らが対峙している中、アスク・ブレードナイトは黒玉の少年をずっと
見つめていた。体色に同化しそうな漆黒の瞳は、まだ諦めていない。ひとまずは安心した。
あのような放任でここまでの成長を遂げたのは、あの親友あってのもののようだ。
大した措置もとれなかったが、用意した環境が予想以上に役立ってくれているらしい。
精神(こころ)身体も、『出発前』としては及第点といったところだろう。
「彼女」ともそれなりにやりあえているようだし、早々に死ぬということはなさそうだ。
しかし、幾ら現時点で優秀だろうと、このまま停滞してしまっては意味が無い。まだまだだ。
すべては大人が、我々が仕組んだ勝手な事情、だがしかし、彼ら以外にはいないのだ。
これから活動が本格化する。邪神も、悪夢も、動かなくてはならない。
奴らの手ではなく、彼らの手で行うのだ。たとえ、何が起ころうとも。
できなければ、世界が滅ぶ。
彼らは、この惑星を壊すために生まれて来たのだから。
「だが彼ら二人だけでは、上手くいく筈の作戦も失敗に終わる。まずは、友を集めるんだ。
一緒に戦ってくれる、命を賭けられる友を。頼むぞ…俺達の悪夢(ゆめ)を、叶えてくれ」
その言葉は誰の耳にも届くことなく、不老不死の男、
アスク・ブレードナイトはアリミナルをあとにした。
Nextkey.3rd「剣術と導術」
どうも、義之でございます
ホントに…すいません…二ヶ月という間の空きようです
やっと部を引退しましたので、一応前回の宣言通りにアップできるとは思います
呼んでくださってる人は少ないですが、多少なりとも面白いと思ってくださる方は
愛想尽かさずに読み続けてくれればと思う次第です
今回は現時点ではわけのわからん単語をどしどし出しました
気になった人は、続きを乞うご期待!
それでは3rd.keyでお会いいたしましょう
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カービィのオリ小説です
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