No.593593 遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・二十一話月千一夜さん 2013-07-02 14:52:33 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:6041 閲覧ユーザー数:4864 |
理解出来ない
思考が、追いついて行かない
集まった多くの者が
恐らくは、殆どみんなが
まったく同じ状態であった
そんな中
何も、わからないまま
『俺は、君と、一緒に戦う』
放たれた言葉
視線を一身に集めたまま
この空間の中心にいたまま
彼は・・・一刀は、その注目をさらに集めたのだ
『そして、俺は・・・』
それでも尚、彼の言葉は止まらない
想いは、止まらない
やがて、拳を握り締め
その瞳を、大きく揺らしながら
彼は
鄧艾士載は
一刀という、一人の青年は
『彼女を、迎えに行く
この“遥か彼方、蒼天の向こうへ”』
その胸の内の全てを
叫び、曝け出したのだった・・・
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
二章 二十一話【運命の“献策”】
ーーー†ーーー
何秒
何分
何十分
いや、もしかしたら何時間だろうか
ずっと、時が止まっていたかのような
そんな、眩暈を起こしそうな錯覚の中にいただろうか
玉座の間
この空間は、“彼”を中心にしたまま
驚くほどに静かなままだった
「それが、俺が・・・ここで、言いたかったこと」
と、そんな妙な緊張感の中
彼はそう言って、息を一つ吐き出した
瞬間
この場にいた者達は、皆一斉に我に返った
「伝わった?」
と、一刀
これに対し、皆の反応は様々だ
困惑する者
妙に納得したような顔をする者
そして・・・
「なにが、伝わっただ・・・!!」
彼に対し、明確に“敵意”を向ける者
彼女、魏延こと焔耶がまさにそれであった
彼女は桃香を守るように立ち、拳を握り締め一刀を睨みつける
「先ほどから、わけのわからないことを言いおって!!
敵ではないが、味方かもわからない!
だが、我らと共に戦う!?
そのような戯言、信じられるかっ!!」
「え、焔耶ちゃんっ!?」
焔耶の言葉
それは、確かに聞くものが聞けばもっともな意見だった
故に、玉座の間には先ほどまでとは違う緊張が走る
「え、焔耶ちゃん、落ち着いてっ!」
「しかし、桃香様・・・っ!」
慌てて、焔耶を止めようとする桃香
だが、状況はあまり変わらない
「ど、どうすんだよ・・・アタシ、馬鹿だからこういう時どうしたらいいのかなんてわからないぞっ!?」
「り、鈴々だってそうなのだ!」
むしろ、混乱が広がり状況は少しずつ酷くなっている
翠と鈴々などが、最たる例であった
「これは・・・」
「少し、マズイですね~」
そんな中
祭の言葉、反応した七乃は苦笑を浮かべていた
「まぁ確かに、あの一刀さんの言葉で全てが伝わるとは思っていませんでしたが
それにしたって、もう少し冷静になってほしいものですねぇ」
言いながら、見つめる先
声を荒げる焔耶に対峙する一刀の姿は、酷く冷静なモノであった
“さて、どうするんですか?”と
七乃は彼に対し、少しだけ“意地の悪い”笑みを浮かべた
「ひとまず、落ち着くのだ焔耶よ!
桃香さまの命が聞けぬのかっ!?」
「ぐっ・・・!!」
騒ぎの中心では、愛紗の威厳ある声が響いていた
“桃香さまの命”
この言葉には、流石の焔耶も黙るしかなかった
握りしめた拳をとき、かわりに強く歯を噛み締める
「失礼した、鄧艾殿
お見苦しいところを、見せてしまった」
そんな彼女に変わり、一刀の前に出るのは愛紗である
彼女はスッと頭を下げると、“しかし”と声をあげる
「焔耶の言うことも、私にはよくわかります
私にもわからないからです
鄧艾殿・・・貴方がはたして、本当に我らと共に戦えるのかどうか」
瞬間、鋭い殺気が一刀に向けられた
それが愛紗の放ったものだということなど、武人でなくともわかっただろう
それほどまでの殺気だ
「それは、聞き捨てならんな・・・愛紗よ」
その重苦しい空気の中
今度は、一刀を守るようにして前に出る者がいた
趙雲こと、星である
「鄧艾殿は、その身を毒に犯されながらも私と雛里を助けてくれた御仁だ
私にとっては、命の恩人なのだ
そのようなことを言われ、私が黙っていると思っていたのか?」
「星・・・と、雛里か」
「あわわ・・・!」
愛紗の言うとおり
よく見れば、雛里も星と同じように一刀の前に立っていた
しかし星とは違い、ビクビクとしながらだ
「趙雲、鳳統・・・」
「鄧艾殿、ご安心くだされ
貴方のことは、この趙子龍がお守りいたそう」
ニッと、彼女は笑みを見せる
そんな彼女の笑顔を見つめ、思わず彼も笑みを浮かべてしまった
「星よ
お主は、そちらにつくというのか?」
「鄧艾殿には、大きな“恩”がある
それを返さずして、何を“義”というのか」
“なるほど、な”と、愛紗
その鋭い眼光は、射殺さんとばかりに一刀達に向けられている
高まっていく緊張感
重くなっていく空気
しかし、だ
「不毛、やなぁ」
こんな空気の中
そう言って、歩み寄る者の姿があった
黒い外衣を身に纏った、不敵な笑みを浮かべる女性
王異であった
「君は・・・王異?」
「久しぶりやなぁ、記憶喪失くん♪」
“いや、今は鄧艾っちゅうんか”と、王異
彼女の登場に、一刀は僅かに警戒した
そんな彼の肩をポンと叩き、彼女は“まぁまぁ”と笑う
「もう、“あんなこと”はせぇへんから
そんな警戒せんといてや」
“傷つくやんかぁ”と、彼女
彼女はそのまま、視線を彼から彼のその向かい側
未だに彼を睨み付ける愛紗へと向けた
「なぁ、軍神さん
確かに、アンタらの気持ちもわかるけどなぁ
こんなことでモメとる時間なんてないってことくらい、アンタらにもわかるやろ?」
彼女の言葉
愛紗は、微かに眉を顰める
「こないな無駄な時間使っとるあいだに、また劉璋の軍が攻めてきたらどうするんや?
また迎え撃つだけの余裕が、この城にはあるんか?」
「それは・・・」
言葉に詰まる愛紗
同じように、焔耶もまた言葉を失くしていた
と、その時
「ありません・・・」
一人の少女が、力なくそう言ったのだ・・・
「なっ・・・」
再び、言葉を失う愛紗
そんな彼女の視線の先
先ほどの声の主である少女が、苦悩に満ちた表情で立っていた
少女の名は諸葛亮、真名を朱里である
彼女はグッと拳を握ると、ゆっくりと言葉を吐きだしていく
「今の私たちには、もう劉璋軍を迎え撃つほどの余裕はありません」
「朱里、ちゃん・・・」
朱里の言葉
桃香は、驚きと共に声をあげていた
「このままだと、私たちは・・・」
その先は、言わずともわかった
皆がその先の一言を瞬時に理解し、顔を伏せる
朱里はその様子を眺め、“ですが”と唇を噛み締めた
「劉璋軍に“勝てないわけではありません”」
と、朱里
この言葉に、厳顔こと桔梗は眉を顰めた
「それは、どういうことなのだ?」
厳顔の言葉
朱里は、深く息を吐いた
同時に、紡がれる言の葉に
この場は、さらなる“驚愕”に包まれる
「先の戦い・・・劉璋軍の二将を倒した、この今だからこそ
成都を取り戻す好機だと、私は考えています」
「っ!」
“ザワリ”と、皆は驚きのあまり表情が変わっていた
それは、蜀の王である桃香も同じである
「まさか、朱里ちゃん
それって・・・」
「今だからこそ、私は・・・“成都への進軍”を進言します」
「・・・!」
“成都への進軍”
蜀の軍師である朱里の“献策”は、あまりにも突然に
その小さな口から飛び出したのだ
「そ、そんなことが・・・」
「やれます
いえ、“やるしかないんです”!
それしか、私たちが勝つ道は残されていません!」
叫び、朱里はまた息を吐き出した
よく見れば、その体は・・・小さく、震えている
「はっはっは、流石は臥龍と言われるだけはあるわ
ちゃんと今の状況を理解できとるわ」
そんな中、王異はそう言って笑った
それから、“そんなら”と意地の悪い笑みを浮かべる
「ウチが言いたいことも、ちゃんとわかっとるはずやで?」
「・・・はい」
と、朱里
その彼女が見つめる先
一刀は、無言で頷いた
「鄧艾さん
それから袁術さん達の力も借りれば・・・成都攻略も、成功する可能性が上がるはずです」
「な、なんだと・・・」
朱里の発言に、慌てて声をあげようとする焔耶
その彼女の口をおさえ、桔梗は“なるほどな”と苦笑する
「確かに、戦力は一人でも多い方がいい
鄧艾の実力は知らぬが、華雄たちが味方になるのならば心強い」
「ふっ、そう言われれば悪い気はしないな」
と、桔梗の言葉に夕は笑みを浮かべる
それから彼女は“しかし”と、一刀を見つめ言葉を紡ぐ
「一刀の力だって、捨てたモノじゃないさ
確実に、戦力になるはずだ」
夕の言葉
同意する様に頷くのは星だ
「華雄殿の言うとおり
鄧艾殿の実力は、この趙子龍が保証しましょう」
「あわわ、私もでしゅ」
星に続き、雛里も声をあげた
その隣、いつの間にかいたのは紫苑である
「私も、鄧艾さんが味方になってくれれば心強いと思うわ」
「紫苑さん・・・」
紫苑の言葉
桃香は、“朱里ちゃん”と自分の軍師の名を呼んだ
「成都に攻めるとして、どれくらいで準備が出来るかな?」
「五日・・・いえ、三日で準備してみせましゅっ!」
朱里の言葉に、桃香は“そっか”と呟く
それから、その視線を一刀に向けた
「鄧艾さん・・・私は、馬鹿だから
私は、皆みたいに強くないから
だから、まだ貴方のことが信じられません」
「桃香さま・・・」
悲痛な表情を浮かべる愛紗
そんな彼女の様子に気付くことなく、桃香は言葉を吐き出していく
「でも、“信じようとする”ことはできるのかも、しれません」
「劉備・・・」
笑う、一刀
恐らく、もう彼女が何を言いたいのかわかっているのだろう
それでも尚、彼は彼女の言葉を待った
『貴女が、大切にしているものは、信じるべきものはっ!!!!
そんな、下らない予言なんかじゃないはずですっ!!!!』
桃香の頭
いつか、七乃に言われた言葉が響く
少しだけ、頬が痛んだ気がした
やがて、彼女の紡いだ言葉
それは・・・
「私たちと・・・一緒に、戦ってくれますか?」
この国の命運をかけた、最期の戦いへの“合図”となった・・・
ーーー†ーーー
「鄧艾殿っ」
白帝城内の廊下
其処を歩く一刀の背に、聞き慣れた声が届いた
其の声に彼は、足を止めゆっくりと振り返る
「趙雲・・・どうしたの?」
「いや、なに
少々、お話をと思いましてな」
と、彼女は笑う
それから、視線を僅かに移した
彼の、その隣
其処に立つ、一人の少女を見つめたのだ
「こやつが何か物騒なことをせぬか、という心配もありますがな」
「な、なんだと・・・?」
其処にいたのは、魏延こと焔耶だった
彼女は星の言葉に対し、不機嫌そうに“失礼な”と吐き出す
「私だって、自分の立場くらい弁えている」
「どうだかな」
「くっ・・・」
“本当に失礼な奴だ”と、焔耶
そんな様子を眺めながら、彼の前を歩いていた七乃は苦笑を浮かべていた
そして、同時に思い出すのは今から本の少し前の事
まだ皆が、玉座の間にいた時の事だった
『ちょっと、待って・・・』
それは、桃香が意を決し自身の想いを吐き出した後
彼女の言葉を聞き、彼が返した言葉がそれだった
『き、貴様・・・貴様の方から一緒に戦うと言っていたくせに、いまさら待てとは何事だ!!?』
などと、焔耶が怒るのも無理はない話である
しかしそんな状況でも、彼は特に焦った様子はない
ただ無表情のまま、ゆっくりと口を開くのだった
『二つ、お願いがある』
『お願い、ですか?』
“そう”と、彼
彼はそれから、朱里を見つめた
『一つ・・・軍議には、俺も、参加する』
『軍議に参加・・・鄧艾さんが、ですか?』
『ん・・・』
『わかりました・・・桃香様、いいでしょうか?』
『うん
朱里ちゃんに、任せるよ』
“御意”と、朱里
その光景を見つめ、満足げに頷き
一刀は、“二つ目”と淡々とした口調で言う
『彼女を・・・俺の監視に、つけてほしい』
『え・・・?』
一刀の発言
同時に、彼が指を差した先にいる少女に
焔耶に視線が集まった
『は、はぁっ!?
私が、お前の監視に!!?』
『ん・・・そう言った』
そう言って、彼は少しだけ笑った
この発言に対し、困ったように声をあげるのは愛紗だった
『鄧艾殿、それはいったいどういうおつもりなのですか?』
『別に、深い意味はない
それに・・・信じられないなら、誰かが俺を、見ていればいい』
『それは・・・』
愛紗は、気付いた
それはあんに、“不審な行動をとったなら、遠慮なく斬りかかれ”と
そう言っているのだと
“なんという人物だ”と、彼女は内心驚いてしまう
故に、彼女は“うむぅ”と押し黙るしかできない
そんな中
“それに”と、そう言って一刀は笑ったのだ
『劉備が、信じようと、してくれてる
その気持ちを、無駄には、したくない・・・から』
“そうだったのか”
そう思ったのは、朱里である
彼は、“あえて”自分を一番信じていない人物を選んだのだ
先ほどの桃香の言葉に、彼は応えようとしたのだ
『この二つ
これが、俺が君たちと戦う為に選んだ・・・条件』
『鄧艾、さん』
やがて
数分もしないうちに、二つ目の条件も蜀側は認めた
そしてここに、彼らの共闘は成ったのである
「しかし、鄧艾殿も面白いことを考えますなぁ」
少し前のことを思い出しながら、そう言ったのは星だ
彼女はニヤニヤしながら、焔耶のことを見つめていた
「何が、面白いだ
私は、これっぽっちも面白くない」
「はっはっは
そうだろうな」
“なんで、こんなことに”と、焔耶
彼女のその言葉に、星はまた笑っていた
「まぁ、お主にとっても都合が良かろう」
「ぐっ、ま、まぁ確かにな」
“確かに、都合が良い”と焔耶
「何か怪しい動きでもとってみろ
この私がすぐに、叩き斬ってやる」
「ん・・・」
焔耶の言葉
一刀は、ただ笑って答えた
「さて・・・」
言って、見あげた先
空は、眩いばかりの“蒼天”
「蒼天・・・か」
青い、蒼い、透き通った空
見あげた空
彼は、笑みを浮かべ歩き出した
「これで、いい・・・よな?」
やがて、零した言葉
その言葉は、風に吹かれ、そして・・・
『ま、アンタにしては上出来よ』
確かに、“少女”に届いていた
ーーー†ーーー
場所は変わり
此処は、成都城内
その中に在る一室
その部屋の中
一組の男女が、その体を抱き寄せ座っていた
「縁様・・・本当に、縁様なのですか?」
「はは、緑は私の声を聞き違えるというのか?」
言って、彼は・・・劉璋は、彼女の額に触れる
「私は、本物だよ」
「しかし、縁様
縁様は、自らの手で、その命を・・・」
彼女、張仁の言葉
その言葉を、彼はその唇に指をあて遮った
「私は、お前に会うために帰ってきたのだ
それに、お前は一つ勘違いしているよ緑」
「え・・・?」
戸惑う張仁
そんな彼女の耳もとに口を寄せ、彼は先ほどまでとは違う笑みを浮かべ
そして、言った
「私は、殺されたのだ
お前の親友である、紫苑と桔梗の2人に・・・な」
時が、止まった
錯覚であると気付くのに、恐ろしく時間がかかってしまったほどに
彼女は、言葉を失い、危うく意識を手離してしまいそうになるくらいに
“驚愕”で、胸も、脳も埋め尽くされた
「・・・紫苑と、桔梗が?」
“そんな・・・”と、緑
だがそんな彼女のことを抱き締めながら
彼は、小さな声で呟く
「信じられぬのも、無理はない
だが緑、これは事実なのだ、真実なのだ
私は間違いなく、あの二人に殺された
片目を射抜かれ、両足を射抜かれ、両腕を射抜かれ
そして・・・私の“心の臓”をも、奴らは射抜いたのだ」
「あ、あぁ・・・なんという・・・・・・」
彼女の体が、大きく震え始める
その体を強く、ただ強く抱きしめながら
彼は、劉璋は言葉を紡いだ
「だが、私は帰ってきた
お前に、緑に会うために・・・また、2人で一緒にいられるように
私は、帰ってきたのだよ」
「縁、さま・・・」
「さぁ、緑
お前は、ここで待っていてくれ
ここで、私を待っていてくれ」
言って、彼はそっと彼女から離れる
そして歩き出す
その瞳は、“不気味なほどに濁っていた”
「もうすぐ、もうすぐだ
もうすぐで、出来上がるのだ緑よ」
「縁、さま?」
その瞳を、彼女は見ることが出来ない
しかし、“違和感”を感じることは出来た
故に、彼女は言葉を失い
また、その体を震わせる
「私と緑
2人だけの・・・理想の“国”がっ!!」
そんな彼女の様子に、彼は気づけない
気付けぬまま、彼は笑っていた
いや、“嗤っていたのだ”
「そうだろう・・・我が国、蜀よっ!!!!」
響く、不気味な嗤い声
その声に応えるよう
彼の周りを、どす黒い闇が包み込むのだった・・・
・・・続く
★あとがき★
こんにちわ、皆さん
月千一夜です
遥か彼方、二章もついにここまで
まぁ、まだもう少しどころかそこそこ続きます
劉璋さん、個人的には作者のお気に入りです
何故かって?
まぁきっと、もうすぐわかりますよw
では、またお会いする日まで
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月千一夜です
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ≫
二十一話、公開でしゅ
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