第27弾 謎、解明
ハジメSide
考えるんだ。狙われたシノン、殺されたゼクシードとたらことペイルライダー、
この4人の共通点が現実世界のモデルガンだとしたら…。
ENSの宛先、個人情報の入力場所は総督府ホールの端末、薄暗いあの場所。そして光迷彩、
あれがフィールドだけの効果じゃないとしたら…っ!?
「……そう、か…。そういう、ことだったのか…!」
「どうしたの…?」
「……分かったんだ。『
「ど、どうやって?それに、思い違い?」
私の言葉に動揺するシノン。
「……死銃は、VRMMOの中で人を殺しているんじゃない…。現実世界で殺しているんだ」
「そ、それって、どういう…」
「……『死銃』は1人じゃない、2人いるということだ。
1人がぼろマントとしてゲームの中でターゲットを倒し、2人目が現実世界のターゲットの部屋に侵入して殺す。
これが、奴らの手口だ」
シノンは放心状態に近い表情で呆然とし、けれどすぐに震える声で喋り出した。
「現実世界の家って…そんなの、無理に決まって…」
「……可能だ。総督府でモデルガンの送付を希望するプレイヤーは本名や住所などを入力する。
総督府の端末スペースの後ろは広く、薄暗く、双眼鏡などを使って覗き込むことが簡単に出来る。
勿論、『メタマテリアル
「ぁ…」
私の説明を聞いたシノンは自身が本名や住所を入力したことを思い出したのだろう。
空いている背後にスペースから、見えざる死神に見られているところを考えてもいるかもしれない。
「で、でも…どうやって忍び込んで…」
「……キリトから聞いた話では、ゼクシードとたらこは1人暮らしで、古いアパートに住んでいたらしい。
電子錠もセキュリティの甘いものだったんだろう。
標的がダイブ中は侵入に手間取っても、相手に気付かれることはまずない…」
いまの住宅における鍵といえば、車などに使われているキーレスエントリー錠が主である。
物理的なピッキングが不可能になりはしたものの、電波ロックを解除するものなどもあり、
最近では暗証番号系のもと金属鍵なども一緒に使うところも多い。
それでもシノンは信じられないのか、言葉を紡いできた。
「し、死因は、心不全なんでしょ? 警察や、お医者さんにもわからない心臓の止め方って…」
「……間違いなく薬品の系統だろうな。遺体は腐敗が進んでいたらしいから、注射痕なども見つけられなかったと思う。
脳の状態は調べたそうだが、まさか薬品の類だとは誰も思わないだろう…」
「…っ、狂ってる…」
シノンは私のジャケットの裾を握りしめながら、怒りを滲ませている。
それは私も同じで、やはり奴らを逃してしまったのがいけなかったと、心の奥で思った。
「……おそらくは2人目も、SAO
連携をするには同志でなければ無理かもしれない。
その為に、十字を切るゼスチャーで時間を確認していたのかもしれない。殺人時刻を合わせる為に…」
「十字を切る時に、腕の小型ウォッチを見ていた…」
「……そういうことだろう…」
ようやく、奴らの手法が見えた。だが問題なのは、現在のシノンの…いや、詩乃の安否だ。
「……シノン。キミの家は…?」
「ぁ…私、1人暮らし…。初期の電子錠で電波ロックと、シリンダー錠、ドアチェーンも掛けてあるけど…」
それを聞いて安堵しかけたが、それは無理だ。何故なら奴は、シノンを『54式・
「……シノン。落ち着いてきいてくれ…」
「(びくっ)ぃ、いや…」
おそらくシノン自身も予想はしているが、心がそれを認めようとしていない。
だがここで彼女は知っておかないといけない。それが、先に進むための壁だから…。
「……奴らは、キミを
いまこの瞬間も、2人目の死銃は現実世界のキミで、中継画面を通してキミが撃たれる時を待っているはずだ」
「ぁ…あぁ……」
言い切った途端、シノンは僅かに呻きだした…これは、不味い!
「い、や…嫌、いや……いや、よ…そんな、の………あ、あぁぁぁ…」
このままでは、シノンが詩乃に戻る。そうすれば、現実世界での彼女は…!
私はシノンの身体を右手で思いきり抱き締め、左手で頭を優しく撫でながら肩へと埋めさせる。
「……落ち着くんだ、シノン。向こうはまだ大丈夫だ…だから、頑張ってくれ…!」
「あ…ぁぁ…」
少しずつ、少しずつだが、シノンは落ち着きを取り戻していった。
右手を私の背中に回し、左手でジャケットの裾を握りしめている。
「……大丈夫…大丈夫だ」
「…似て、る…」
「……なにか、言ったか?」
「…ううん、なんでもない…///」
本当は聞こえていた、「似てる」それはおそらく私ではない私、
『国本 景一』のことなのだろうと思い、彼女に気付かれないように苦笑する。同一人物なのだがな…。
「……私は、キリトとアスナと共に死銃を倒す。私達は自宅からのダイブではなく、安全な場所からのダイブだ。
エントリー時も未記入、奴はルールに則って私達を殺せない」
「私も、戦うわ…。今度は、死ぬ為だなんて言わない…今度こそ、勝って、乗り越えてみせるから…」
「……反対しても、無駄なのだろうな…。だが、私の全力でキミを守ってみせる」
「うん…///」
言葉を交わし、これからの作戦を話そうと……その時。
―――ざっざっざっ…
「「っ!」」
砂を踏む足音が聞こえ、入り口に視線を向けながら警戒していると…。
「お、ここにいたのか……って、すまん…」
「……キリト?」
「…ぁ、こ、これは、違うの///!」
現れたのはキリトだった。シノンはいまの状況を理解して、すぐさま私から離れた……少し、残念だ。
「砂漠一帯を探し回ったんだが、見当たらなくてさ…。
それでバギーを見つけたから、ここかと思ったんだ。アスナ、2人ともいたぞ」
「良かった、ハジメ君もシノンも無事で~」
アスナが洞窟の中へと足を踏み入れてシノンに抱きついた。
「……キリト、状況が大分変った。奴らの手口が分かったぞ」
「ナイスだ、ハジメ。だが、俺からも1つ報告……もう1人、犠牲者が出た」
「「っ!?」」
キリトの報告に私もシノンも息を呑んだ。ここに隠れている間に、また1人やられてしまったのか…。
「……これ以上はやらせるわけにはいかない。手口についてだが……」
私はキリトとアスナに奴らが行ったと思われる手法を説明した。
アスナは終始驚愕し、キリトは納得した表情をしていた。
「それを考えると、奴らは2人じゃなく…最低でも3人と考えるのがいいだろう」
「なんで3人なの?」
キリトの言葉にアスナは首を傾げ、シノンも不思議そうにしている。
「アバターを操る奴、ペイルライダーともう1人の被害者の『ギャレット』の2人を殺した奴、
そして現在シノンを狙っていると思われる奴、合計3人。
そうでなければ、バラバラに住んでいる人間を殺すなんて真似、出来るはずがない」
「……なるほどな」
確かにその通りだ。2人以上での犯行とは、ますますラフコフらしいやり方だ。
しかし、そろそろ戦わなければならない。
「……どう動く、キリト」
「…もうそろそろ、衛星スキャンが行われる。俺とハジメでMAPを確認、死銃を誘き出し、
俺達への攻撃が奴の狙撃銃で行われたら、シノンとアスナで居場所を特定…どうだ?」
「私はキリトくんの指示に従うよ」
「私も、今はそれが最善手だと思う。賛成するわ」
「……同じくだ」
キリトの作戦に全員が賛成、私と彼はそのまま洞窟から出て、スキャン開始を待った。
ハジメSide Out
シノンSide
洞窟の中に残った私とアスナ。さっきまでハジメが一緒にいたせいか、なんだか少しだけ心細い。
そんな風に考えていると、隣のアスナが話しかけてきた。
「ねぇ、シノン」
「ん、なに?」
「シノンはハジメ君のことが好きなの?」
「なっ…//////!? ち、違うわよっ///! な、なんで、そんなこと…///」
私は少しだけ声を上げて反論した。そうだ、私が好きなのは景一、ケイなのだ。
ハジメのことは…ハジメの、ことは…。
「えっとね、なんとなく、なんだけど…。だけどね…後悔は、したくないでしょ? だから一応ね」
「後悔…」
アスナの言いたいこともわかる。ここはゲームの中であって、現実とはまったく違うもの。
両世界でのくい違いも当然あるということ。確かにハジメは私を守ってくれると、命に代えても守るとまで、言ってくれた。
それを受け入れたいと思う一方、やはり大好きなケイの顔も浮かんでくる。後悔は……したら駄目だ…。
「ありがと、アスナ。心に留めておくね」
「うん……あ、それともう1ついい?」
「今度はなに?」
「視界の右下に赤い丸が点滅してるんだけど、これってなに?」
「………私達、中継カメラで撮影されてたみたい…」
「「……………」」
私とアスナの間に、沈黙が流れた。仕方がない、大声で叫ばない限り音声は拾われないし。
シノンSide Out
キリトSide
午後9時45分、7回目の『サテライト・スキャン』が行われた。
『死銃』の正体はシノンが言っていた『スティーブン』ということになるのは確定している。
MAPを確認してみると光点は5つ、南西6km地点に前回準優勝者の『闇風』、
都市廃墟エリアに近接する『No-No』と『フェルネィ』、そして俺とハジメである。
画面に映らないアスナとシノンと死銃を含め、8人が生き残っている計算になる。
しかし直後、変化が起きた…それはNo-Noとフェルネィが脱落したことだ、取り敢えず…乙。
だが、俺とハジメはさらにおかしな点に気が付いた。
「……キリト」
「あぁ、数が合わない…」
光点は3つ、俺とハジメと闇風。敗退者は死亡したと思われる『ペイルライダー』と『ギャレット』を含めても23。
表示されないアスナとシノンとスティーブンを合わせても、合計29にしかならない。
あと1人、何処かの洞窟か川に潜っているのか…消されたのか。
「それに、まだ妙な点がある…」
「……なんだ?」
「『スティーブン』が死銃というのなら、名前に印象が無さすぎる」
今回のような一件を起こすのならば、キャラネームにもそれなりの意味を持たせるはずなのだが、
それが無いというのは少しばかり違和感を感じる。
そういえば、スティーブンは英語表記だったが、読み方が違っているのか?
俺は砂に覚えている綴りを書き……それに気が付いた…。
「スティーブンじゃ、ない…」
「……なに、どういう意味だ?」
俺の言葉にハジメは疑問の言葉を漏らして問うてきた。
「『Sterben』、これは『スティーブン』って読むんじゃない。
ドイツ語で『ステルベン』、医療用語でもあるこの言葉の意味は……“死”だ」
「……っ、それか…“死”が持つ
ようやく違和感を拭うことができたが、遅すぎたとも言える。
「もっと早くに、ステルベンに気が付いていれば…犠牲者を出さずに済んだのにな…」
「……あぁ」
俺とハジメの間に重苦しい空気が流れるが、今更悔やんでも仕方のないことだ。
俺達は立ち上がると洞窟の中へと戻った。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
謎の解明完了です! 取り敢えず重要な箇所だけ説明に組み込みました。
キリトさんがドイツ語だと気付きましたが、なんでキリトが知っているんだ?と思うでしょう。
しかしSAO編で既にキリトはドイツ語での数字の数え方を知っているシーンがありました。
ですので簡単な単語ならドイツ語も分かる、という感じですw
それと少々オリジナルな展開もありますが、物語に大きな変更はないのであしからず。
それでは・・・。
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第27弾です。
タイトルの通り、謎を解明します。
どうぞ・・・。