第22弾 観戦と悲劇の目撃
ハクヤSide
俺達はいま、ALOの『イグドラシル・シティ』にあるキリトとアスナとユイちゃんの自宅を借りて、
キリト達がGGOにて参加している大会『バレット・オブ・バレッツ』を観戦しようとしている。
キリト、アスナ、ハジメの3人は本選に出場となり、それをみんなで観ようということになったのだ。
実際の目的は応援であるが、勝手にGGOへコンバートした3人を弄るネタを見つけようというものも含めている。
集まっているのは俺、ヴァル、ルナリオ、シャイン、クーハ、クライン、
ユイちゃん、リズ、シリカちゃん、リーファちゃん、ティアさん、カノンさん、黒猫団の5人という面々だ。
「戦闘シーンが集中的に流されるんだよね?」
「そうみたいっすよ。あとは適当に動き回ってる中継カメラが捉えるらしいっすね」
「名前も表示されるみてぇだから、すぐに分かんだろ」
リーファちゃんの問いかけにルナリオが答え、クラインも続いて答えた。
アバターの姿は
「お、そろそろ始まるみたいだぜ」
「みんな、飲み物は揃ってる?」
「ん~、揃ってるみたいだな」
テツの言葉を合図に全員が大型スクリーンを兼ねている窓ガラスに視線を向け、ヤマトとロックは飲み物のことを確認した。
各々がソファやテーブルとテーブルの椅子に座ったり、壁に背中を預けてスクリーンを見る。
そして、開幕を告げるアナウンスと共にBoB本選が始まった。
本選開始直後、僅か2分ほど経過したところで最初の戦闘が始まったようだ、早いな…。
画面に映ったのは滑らかな浅黒い肌に銀髪のボブカット、眼は薄めの黒で名前は……ん?
「ハジメ、くん…?」
ティアさんが画面の端に表示されている名前を読み上げた。
俺達は(つд⊂)ゴシゴシという感じに目を擦り、改めて名前を確認…ハジメ、だな。
「「「「「あっははははっ!」」」」」
一斉に笑いだす男性陣、女性陣も笑いを堪えている。
やべぇ、マジでやべぇ! まさかの男の娘かよ!
「こ、こいつは、良いネタに、くくっ、なるぞ…あっはっはっ!」
「あはははははっ、げほっ、えほっ! ひぃ、これ、ぷっくく、し…死ぬ…くくくっ!」
「男の娘以前に、ぶふっ、ほとんど女…じゃねぇかっ、ぷっ!」
俺は良いネタを得たと思って口にし、シャインに至っては窒息(しないが)寸前、クラインもかなりツボにきたようである。
次いで別の場所に映された映像、そちらには滑らかな白い肌にロングストレートの黒髪、黒の瞳で名前は……キリト…ぷっ。
「「「「「「「「「「あははははははははははっ!!!」」」」」」」」」」
今度は女性陣も笑いを堪えきれずに爆笑。あの、ハジメとキリトが、男の娘。
「だ、第2波が、来るなんて…ぷっ」
「ちゅ、中性的な顔が、完全に、女顔に…ぶふぅ!」
「ひ、卑怯、この…不意打ち…くくっ」
ケイタ、ルナリオ、ヴァルが言葉を漏らしていく。分かる、分かるぞ、その言葉。
そんな俺達の笑いの悶絶とは裏腹に、ハジメとキリトは戦いを進め、
あっという間にそれぞれの相手を剣で斬り裂き、戦闘に勝利した。
「ど、どうやら、勝ったみたい、ね…ぷふっ」
「そ、そうですね…」
カノンさんとサチはなんとか堪えて言葉にしている。ふぅ、ようやく落ち着いてきた。
「しっかし、2人とも剣で戦うって…」
「銃ゲーなのに銃じゃなくて剣だものね」
「ま、いいんじゃないのか? キリト達らしいだろ」
クーハとリズは苦笑しながら言葉を紡いだが、俺は逆に納得した。
「でも、キリトさんは何処かに向けて走っている感じですね」
「お手並み拝見、だな」
シリカちゃんの言葉にシャインはキリト達がどう動くのかに興味がいっているようだ。
そしてそれからまた少し経った時、滑らかな白い肌に真紅のツインテール、
水色の眼の美少女の戦いが映った、今度はアスナである。
アスナは真面目に女の子だったので、俺達のリアクションは「ああ、アスナだな」という、何故か納得のいくものだった。
美少女のアバターが美少女だからだろうか?
そのアスナも、光の剣を使って相手が放った弾丸を斬り裂き、見事に対戦相手を倒した。
「銃も使ってるが、ほとんど剣だな」
「アスナも剣士だもんね~」
俺の言葉にリズも同意、剣士には剣士なりの銃の世界での戦いがあるってことか…。
「それにしたってよぉ、なんでキリト達はいきなりGGOにコンバートしたんだろうな?」
「それもそうですよね?」
クラインの疑問にカノンさんが続く、それはその通りだ。俺達でさえ、どうしてなのか分からない。
ましてや、『神霆流』の俺達にも黙ってというのが不愉快だ。
教えてくれてもいいと思うんだけど。
「パパが言うには、『ザ・シード
銃の世界なので、銃に詳しいハジメさんについてきてもらって、ママはパパが行くならということで、一緒に…」
なるほどな。キリトはネット関係を専門分野としているから最適だろうし、ハジメとアスナが一緒なら心強いだろう。
「ですが、なんでいきなり大会に出場したんでしょうか?」
「だよな? リサーチなら、街で他のプレイヤーに聞き込みをするのが仕事だろ?」
確かに、ヴァルとクラインの言う通りだ。
「大会の優勝賞金を通貨還元してみる、とかじゃないでしょうか?」
「優勝賞金はゲーム内通貨の300万クレジット、通貨還元したら3万円だったかな?」
「はい、そうですよ」
シリカちゃんの言葉にシャインが応じて、ユイちゃんが頷く。賞金の3万円に惹かれた?
いや、そんなことはないと思う。あのキリト達が賞金なんかに目が眩むはずがない。
しかし、そんなこんなで話していると、キリトとアスナが合流している映像が流れた。
その2人の側には2人のプレイヤーがおり、アスナが距離を置くと、3人で戦闘を始めた。
キリトはたった1人で2人のプレイヤーを相手にし、見事に勝利を収めた。
「キリト君、武器防御スキルを使いましたね」
「《
ティアさんが気付き、シャインも続いた。まったく、他のゲームの技術を扱うのは相も変わらずだな。
だがそこからがキリト達のおかしいところが始まった。
ハジメは最初の戦い以降、姿を現さず、キリトとアスナも2人組のプレイヤーとの戦い以来、姿が映らない。
「なぁ、シャイン…」
「ハクヤもか、俺もおかしいと思う…」
俺とシャインはお互いに短く言葉を掛ける。おかしく思っているのはヴァルとルナリオ、クーハも同じようだ。
あの3人なら、最初から敵を見つけて片っ端から倒して、最後に全員で決闘する、というような感じだと思ったんだけどな…。
そして本選開始から30分以上が経過した頃、それは起きた…。
ダインというプレイヤーを追っていたペイルライダーというもう1人のプレイヤー、
ダインを倒したペイルライダーがその場を去ろうとした時、突如として倒れた。
見れば体を青いスパークが這い回っている。
「まるで、風魔法の《
「あれは多分、
そういえば、スタンしているようにみえるな。
するとカノンさんがその映像を拡大化し、みんなでその様子を見ることにした。
そしてそこに突如として、ソイツが現れた…。
「「「「「……ゴースト…?」」」」」
リーファちゃん以外の女性陣が一斉に呟いた。
その現れた
ソイツはぼろマントに身を包み、一際大きな狙撃銃を所有、黒い拳銃を1丁取り出し、ペイルライダーに銃口を向けた。
今度は左手で十字を切る動作を行う…っ、そこで体を何か奇妙な感覚が駆け抜けた。なんだ、いまの感覚は…?
シャイン達に視線を向けると、クーハとクライン、女性陣以外は何かを感じ取ったみたいだ。
「「「「「あっ…!?」」」」」
すると、感覚に気を取られていた俺達以外から声があがった。
見てみると、ぼろマントが銃撃を受けていた。
どうやら狙撃されているらしい、連射されているな…。
奴はその全ての銃撃を回避してみせた、あの速度の銃撃を避けるなんて大した技術だ。
だが、なんだ…なにかを感じ取れる、感じたくもない何かを…。
「なんなんだ、一体…」
「どうかしたの、ハクヤ?大丈夫?」
「ヴァルくん、顔色、悪いよ…」
「ルナくんも…」
「シャイン、無理しないでください…」
「クーハ、おめぇもどうしたんだ?」
俺の呟きと僅かに震える体に気付いたリズが心配そうに声を掛けてきた。
シリカちゃんもヴァルを、リーファちゃんはルナリオを、ティアさんはシャインを、クラインはクーハに気遣っている。
画面の中では、奴が銃の引き金を引き、それがペイルライダーに命中した。
そこから、立ち上がったペイルライダーは再び倒れ、
僅かに見える苦しげな表情と震える唇、眼も口も大きく開かれ、まるで空気を求めているような…。
「な、なん、なの…?」
今度は女性陣が怯え始めた。ペイルライダーが苦しむ姿は、まるで死に足掻くそんな……“死”?
そう思い至った瞬間、ペイルライダーがエフェクトに包まれてから消滅した。
そこには
中継カメラに向けて赤い眼と銃口を向けた……“赤い眼”?
『俺と、この銃の、真の名は、【死銃】……【デス・ガン】だ』
―――ああ、俺(僕)(ボク)(私)(あたし)は…
『俺はいつか、貴様らの前にも、現れる。この銃で、真なる死を、齎してやる』
―――俺達(僕達)(ボク達)(私達)(あたし達)は……コイツのことを…
『忘れるな。まだ、終わっていない…何も、終わってなど、いない』
―――知っている…
『イッツ・ショウ・タイム』
―――忘れもしない、忘れることなどできない、奴らの謳い文句だ…!
―――パキィンッ!
「クライン…?」
「ヴァ、ヴァル、くん…?」
「ルナ、くん…どうし、たの…?」
ケイタとシリカちゃんとリーファちゃんがそれぞれに問いかける。
いまの音はクリスタルのタンブラーが砕け散った音だ。
クラインがカウンターから落としてしまい、ヴァルとルナリオは憤怒の表情を露わにしてそれを叩きつけた。
ティアさんとカノンさんは何処か怯える表情をし、俺とシャインはヴァルとルナリオを殴りつけた。
「ハクヤさん、シャインさん!?」
「落ち着け、お前ら!」
「「っ!」」
リーファちゃんは驚いた様子を見せ、シャインが2人に喝を入れた。
「いったい、どうしたのよ…」
リズが訝しむように言葉を紡いだ。
「おい、ハクヤ、シャイン。あの野郎は、まさか…!」
「あぁ、間違いない…!」
「ラフコフのメンバーだ…!」
「「「「「っ!?」」」」」
クラインの言葉に俺達は答え、この場に居るSAO生還者が息を呑んだ。
「あれが、PoHなのか…?」
「いえ、PoHじゃないです…。奴の喋り方とは全然違います…」
「けどあの言葉は、PoHのキメ台詞っすよ!」
「野郎に近い、上の幹部プレイヤーだろうな…」
ロックの問いかけにヴァルとルナリオは強い興奮を伴ったまま応え、シャインも冷静さを被って言い放った。
そう、あの戦闘技術をみるに“幹部”クラスなのは間違いない。
「あの、ラフコフって…」
「なんなんすか?」
SAOプレイヤーじゃないリーファちゃんとクーハの疑問は当然で、それには黒猫団の面々が答えていった。
説明を聞き終わったクーハは怒りを滲ませ、リーファちゃんは何かに思い至った表情をして、話しだした。
「みなさん。お兄ちゃんもアスナさんもハジメさんも、きっと知っていたんだと思います。
夕べ遅くに帰ってきて、朝からなんか様子がおかしくて…。多分ですけど、因縁に決着をつけるために、GGOに…」
リーファちゃんの言う“因縁”、それはやはりラフコフだからなのか?
「でも、バイトのことはどうなるのよ? キリト達は、誰から依頼をされて…「ごめん、なさい…」、ユイちゃん?」
リズが感じた疑問、それを遮るように謝ったのはユイちゃんだった。
ハクヤSide Out
To be continued……
後書きです。
前半コメディ、後半シリアスな空気でしたね。
ハクヤ達もまた、今回の悲劇を目撃することとなりました。
二重引用符を使っているところは所謂ヒントってやつです、原作読んでいる方々は既に誰か存じていると思いますがw
次回もALO観戦組の話しです。
それでは・・・。
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第22弾です。
今回はハクヤの視点で、ALO組のBoB観戦になります。
どうぞ・・・。