No.587317 機動戦士ガンダムSEED白式 21トモヒロさん 2013-06-15 00:04:49 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:4028 閲覧ユーザー数:3740 |
嘘
一夏達は、テロ騒動の後、バルトフェルドと名乗る人物に(彼曰く)別荘へ招かれ、そのオフィスへと赴いた。
一夏に関しては、今の状況が気が気でならない。目の前には自分たちをここへ招いた張本人、ザフトの隊長であるアンドリュー・バルトフェルドがいるのだから。
一夏にとって、ザフトとはついこの間まで殺しあっていた連中だ。そうそう、腹を割って話せるような相手じゃない。
しかし、とうのバルトフェルド本人は、呑気にコーヒーを淹れていた。それを少しコップに移し、一口味を見る。
「ん〜、これもいいなぁ。あ、そんなとこに立ってても疲れるでしょぉ?ソファーで寛いでいてくれ」
バルトフェルドはまるで客人にたいする様に一夏達をソファーへ促した。実際、一夏達は客人と言う扱いになっているのだろう。一夏と箒はそれに従う。
バルトフェルドはテーブルを挟み一夏達と向かいのソファーに座る。その際にさっきのコーヒーを淹れたカップを人数分持ってきた。
「あの…、何で俺達をココに?」
「ん?なに、ただ純粋にお礼がしたかっただけさ。それより、コーヒー、飲むかい?これでも僕は結構自分の淹れたコーヒーには地震があってね」
「……」
「毒なんか入っちゃいないよ」
それでも、一夏はそのカップに手をつけない。箒に関しては、一夏ほどザフトに警戒心を抱いていないので、「いただきます」と言ってカップを口に運んでみる。
「あ、おいしい…」
「だろう?ささ、彼氏君もぜひ飲んでくれたまえ!」
「…じゃあ、いただきます」
一夏もカップを口にしてコーヒーを飲むも、その視線はバルトフェルドから話さない。
バルトフェルドは「ふぅ」っと肩をすくめ、やれやれと言わんばかりの表情になる。しかし、先程箒きに「おいしい」っと言ってもらえたのが良かったのか、すぐ上機嫌な顔になる。
「そんなんじゃ、コーヒーの味が分からないだろう?別に僕は君たちをとって食おうってわけじゃないんだから」
「…私も、そう思う。すこし緊張しすぎじゃないか、一夏?」
流石に箒も、今回の一夏の態度には疑問を抱いたようだ。だが、それが自分でも“緊張”で済ませられるものなのかと違和感を覚える。
今の一夏は、どこか怖い。そんな事はないと思いつつも、箒の脳裏にはそんな思考が薄くよぎる。
(だが、これだけは言える。今の一夏は間違いなく私の知らない一夏だ)
もちろん、別人と言う意味ではない。わずかここ数週間で、変わってしまった一夏の見たこともない顔だ。
箒とバルトフェルドのカップは既にからになっていた。しかし一夏のコーヒーはまだ残っている。本来なら一夏もこのコーヒーはおいしいと感じているだろうが、今は酷く苦く感じる。
「ふむ、……ひとつ、一夏君っと言ったか?君に聞きたい」
「?、何です?」
「君は、この戦争をどう思う?」
いきなりの問いかけだった。一夏はその質問の意図が全く読めずにいた。そもそも何故一夏限定なのか?それなら箒にだって聞いてもいいはずだ。
「どう、って…」
「もはや、終わりの見えない、このコーディネーターとナチュラルとの戦争…君なら、どう終わらせる」
戦争の終わり。その言葉に一夏はここに来て始めてバルトフェルドから視線を外した。
戦争を終わらせる。人間一人では到底無理な事だ。だが、バルトフェルドはそれをあえて問うてきた。もし、一夏ならどう終わらせるのか。
しかし、一夏は答えない。いや、答えられない。
そして、その沈黙からバルトフェルドは悟った。一夏のこの戦争に対する認識。それを嫌という程味わったかのような苦渋の表情。バルトフェルドは『なるほど』っと思う。
「一夏君。君は、あの白い羽根つきのパイロットだろう?」
「ッ!」
一夏はギョッとしたように目を見開いた。そこに見えるのは動揺の眼差し、一瞬、一夏の体がこわばる。
箒は“白い羽根つき”と言う単語であるものを連想する。だが、それはあり得ない。何故ならば、白式は展開出来ないはず、それにこの世界にはIS自体が無い。だが、この男は、まるで一夏がこの世界のロボット、MSのパイロットかのように訪ねてきた。
「何の…ことです?」
「とぼけなくてもいい。昨日くらいかな?宇宙にいる奴等から連絡があってね。連合の脚付きが地球へ降りる際、一緒にシャトルとその“羽根つき”がこの近くに落っこちてきたらしくてね…宇宙の奴等の話によると、パイロットは君くらいの子供だったそうだ」
……まさか、と思った。箒は唾を飲み込み、隣にいる一夏を覗き見る。その表情は険しく、なにか焦っても見えた。まさか本当にお前なのか?…しかし、まだ違和感は残る。相互の認識の違いがそうさせる。一夏は本当に“IS”が展開出来ないのか?
「だからって、何で俺がパイロットだと言えるんです?」
「ん〜…勘、かな?」
「え…?」
「君も分かっているじゃないのかな?同じパイロットどうし、感じるなにかが」
またも一夏が俯く、箒はそんな一夏を黙って見ていた。
「そう、…ですね」
そして、一夏は観念したかのように、顔を上げた。
「俺が、その“羽根つき”の、白式パイロットです」
その時、箒は絶句し、その刹那、箒は間髪いれず一夏の胸ぐらを掴む。
「何故だ…」
「……箒」
「お前は白式が使えないんじゃなかったのか…?」
「…ごめん」
「ッ!」
パァンッと乾いた音が部屋に響く、一夏はおそらくこうなる事は分かっていた。だが、分かっていても、実際にこうなると辛い。左の頬が痛い…今まで受けてきた理不尽な仕打ちなんかよりも、今のビンタは痛かった。
「ッ?!…見損なったぞ一夏!」
そう言って箒は、部屋を出て行ってしまった。一夏はとっさに箒を追いかけようとするが、一歩目で踏みとどまる。俺には箒を追う資格など無いのだ。
「いいのかい?彼女、放っておいて」
「…俺、今まで黙ってたんです。だがら…」
「…ふむ、一夏君、ついて来たまえ」
「俺を捕まえるんですか?」
「いや、すこし気分転換にね」
*
箒は部屋を飛び出した。そこまでは良かった。いや、別によくないが。とにかく、箒としては出口を目指していた筈だったが、後先考えず突っ走った為、今自分が何処にいるのか分からない。あんな事を言って今更一夏に助けを求めるのも箒のプライドが許さなかった。箒自身、そんなつまらない見栄をはってると思っているが、何よりそんな事をすればカッコ悪いし情けない。そんな姿など一夏にでも見られたら立ち直れるものではない。
ドン…!
「うぁ?!」
「あら?」
箒は俯きながら、歩いていて、ろくに前も見ずにいた結果。前方不注意で角から出てきた女性に気付かなかった。箒は目の前の豊満な弾力に弾かれ、尻餅をつく。
「あらあら、ごめんなさい。大丈夫?」
「あ、はい、こちらこそすみません」
差し伸べられた手の先にはメッシュの入った黒髪の女性がいた。
「…え、えと、ありがとうございます」
「あなた、あの彼氏君の連れでしょ?こんなところで何をしてるの?」
「あ、いえ…べ、べべ別に彼氏と言う訳では!?」
(俺が、その“羽根つき”の、白式パイロットです)
一瞬の混乱も、さっきの一言により冷めてしまう。
「…私は、一夏の彼氏なんかじゃありません」
「泣いていたのね」
「泣いてなんか、いません」
「目が赤くなっているわ」
箒はすぐさま背中を向けて、袖で目元を拭う。その時の箒は耳まで真っ赤になり、こんな醜態を誰かに見られたことに恥ずかしくなった。メッシュの女性はクスクスと笑い、それが更に箒には恥ずかしかった。
「話してみない?」
「……許さなかったんです」
「あのこがパイロットだった事?」
「違います…いえ、一夏がパイロットだった事にも、もちろん怒ってます。それよりも、一夏が私に嘘をついていた事が悲しかった」
「嘘?」
「はい…」
そう、一夏は、自分も白式が使えないと言っていたのに、実際は、その白式を使って戦争をしていたのだ。あの一夏が人殺しをしていたのも確かにショックだった。それでも、それを隠していた一夏に、そしてそれを私に打ち明けてくれなかった事に腹が立った。
「ふ〜ん、ふふ、ちょっと一緒に来てくれる?」
「え、あの、どこに…?!」
「いいから♪」
*
メッシュの女性に連れてこられた所は訓練場だった。
そこには2体のジンがお互い向き合いながら立っていた。その足元には数人の人が集まり、その中に箒の知る思い人もいた。
「一夏?!」
箒は、一般のザフト兵が着るパイロットスーツを身につけた一夏を見て声をあげた。
当然、この距離では一夏に声は届かない。一夏はジンのハッチから垂れ下がったワイヤーを掴むとコックピットの中へと入って行く。
もう片方のジンにはオレンジ色のパイロットスーツを着たバルトフェルドが乗り込んだ。
「何故、一夏がアレに乗り込んでいるんだ?!」
「それは、彼らにしかわからないわ。だって男って時々、そういうところ、あるでしょ?」
*
一夏は、コックピットの中でグリップを握りながら、ただスタートの合図を待っていた。
すると、通信のモニターにバルトフェルドの顔が映し出される。
「どうかね?ザフトのMSの感想は?」
「まだ、動かしてもないんで分かりませんよ。だいたい、敵の俺をこんなとこに載せてどうしようっていうんです?」
「ま、簡単に言うなら単に君の実力が知りたいからかな?それに、まだ、さっきの質問に答えてもらってないしね!」
「ッ!!」
モニター越しから伝わる殺気。一夏はとっさにジンのサーベルを抜き、構えた。そして、コックピット内に響き渡るアラートと振動。メインカメラから映るモニターをみれば、バルトフェルドのジンが既に切りかかってきたのだ。
「ック、なんだよ!いきなり?!」
「少年、君はこの戦争をどう思っている?」
「何だって?!、それは俺がパイロットだって…!?」
「確かに君にカマをかけるつもりで言った。だが、それにどう答えるのか私は知りたい!」
バルトフェルドはサーベルごと一夏のジンを弾きとばす、それからは一夏の動きは防戦一方だった。それもバルトフェルドの切っ先はコックピットを狙っていない。剣もこのジンの装甲さえも衝撃を吸収する素材で出来ているため、そんな必要はないのに。
一夏は悔しく思った。確かに、白式のおかげで、こうやってMSに乗れるようになった。だが、それはただ乗れるようになっただけにすぎない。ジンが自分の思うように動かない。今まで自分が戦ってこれたのは、純粋に白式の性能のおかげなんだとつくづく思い知らさせる。
「戦争はスポーツの様にルールや得点なんかはない」
その言葉に、一夏は一瞬ハッとする。そして、いつの間にか猛攻は止み、しかし、相手のジンのメインカメラが自機をしっかり捉えていた。
「ならどう終わらせる?」
「どうって……」
「敵である者を、すべて滅ぼしてかね?」
バルトフェルドのジンが再びサーベルを構えた。
「分かっていますよ…コレがナチュラルとコーディネーターの戦争だって事くらい…でも、何で俺たちが戦わなきゃならないんですか!?」
一夏もジンにサーベルを構えさせ、目の前のジンに突っ込む。サーベルを振りかぶって叩きつけようとするが、それはバルトフェルドのジンによってあっさり受け止められた。
「ナチュラルだってコーディネーターだって一緒に暮らす事だってできます!」
「オーブの事か?いずれあの国だって、滅ぶかもしれない。ナチュラルとコーディネーターの内戦によって!」
「違う!オーブだけじゃない!俺のいた地球軍だって、コーディネーターを思う人はいっぱいいた!」
「そのコーディネーターと言うのは、ストライクのパイロットの事かい?」
「ッ?!」
またしても一夏が一瞬動揺する。刹那、一夏とバルトフェルドの攻守が変わった。
「実はね、彼等とは先日二度戦っているんだよ!MSを砂漠に適応させるプログラミング、そして、連携するバクゥを全滅させる戦闘力、そんなバーサークっぷりを魅せられてパイロットがナチュラルと信じるほど、私の頭はおめでたくはないぞ!」
「ック、アークエンジェルが!?」
「それにそのコーディネーターだって、連合にいいようにされているだけかもしれない!」
そこで、ついこの間のことを思い出す。今はもういない(であろう)アルテミスのジェラードの事だ。もし彼のようなヤツにキラが拾われていたかと思うとゾッとする。彼はキラを「裏切り者」と評し、あまつさえ兵器を見る目と同じ目でキラを見ていた。
しかし。
「アークエンジェルは違う!」
サーベルどうしが鍔迫り合い、接触部分から甲高い音がもれる。
「なら、何故そう言い切れる!」
「根拠はない…それでも、信じる事はできる!」
「ッ?!」
そして、一夏のジンが、バルトフェルドのジンのサーベルを真上に弾き飛ばした。
そして、一夏は自らも振り上げたサーベルをそのまま振り下ろす。
しかし、その腕は掴まれ、刹那、一夏のコックピットが回った。そして、背中からくる衝撃。一夏は耐えきれず、中のものを戻した。
「ッ?!…けほッ、ゲホ?!」
「思いだけでは何もできんぞ、少年」
気が付けば一夏のジンは仰向けに横たわりその首筋には、バルトフェルドが一夏から奪ったサーベルを突きつけていた。
結果は一夏の負けだ。
一夏の中には悔しいという気持ちでいっぱいだった。こんな事じゃこの人にこの戦争の答えてなんて到底出せるもんじゃない。
一夏の意識はそこで途切れていった。
*
次に目が覚めると、そこは医務室だった。薬品の刺激臭が、鼻にツンとくる。どうやら一夏は気絶したあと、ここに運び込まれたようだ。
「気が付いたか、一夏」
そして、今の一夏にとってそれはどんな目覚ましよりも、効果的だった。そして、再び蘇る不安。できることならこのままもう一度眠ってしまいたいくらいなのに、そんな気持ちとは裏腹に、一夏の眼はドンドン覚めていく。
顔を横にやると、そこには案の定。見慣れた幼馴染がいた。
「箒…」
「全く、心配をかけるなと言ったはずだぞ。お前の乗ったロボットが叩きつけられた時は、肝が冷えた。やはりお前は、信用できんな」
「…ロボットじゃなくてMSな」
「お前はまた、そのMSに乗るつもりなんだろ?MSになった白式に」
「!、気づいていたのか?」
「ついさっきな。それで、お前は今まで、白式で戦争をしてきたんだったな」
「……あぁ」
一夏は待機状態の白式とその掌を見る。
「箒は、もう俺の事なんか幻滅しただろ?お前の幼馴染の手はもう血で染まってるんだぜ?気持ち悪いよな、怖いよな、俺はこうなる事が怖くて、箒を騙してまで隠してたんだ…最低だよな、俺」
「……馬鹿者!」
「箒…?」
「そんな事くらいで、私がお前を見限るものか!確かに、あの優しい一夏が、戦争をして人を殺したのはショックだった。だが、その事を私に隠していた事の方がもっと嫌だ!」
「ッ!」
「そんなに私は信用ないか、そんなに頼りないのか一夏!」
「違う!」
一夏は箒に向き合うため、シーツを履いで起き上がる。
「俺は箒に嫌われるのが怖かったんだ。この世界で変わってしまった俺を知ったら、今までみたいにいかなくなるんじゃないかって…」
「…なるほどな、やはりお前大馬鹿者だ。私が一夏を嫌いになる筈がないだろう」
それはお互いの思い違いだった。だが、それもハッキリして自分達が変に遠回しに解釈していたと分かると、なんだか、いままで難しく考えていた自分達が馬鹿らしく思えてきて、医務室の中にしばしの笑いが響く。
そして、一夏は何か思い出したように口を開いた。
「模擬戦の時、あの人にこう言われたよ『戦争にルールも得点もない』って。俺たちの世界じゃさ、ISが当たり前みたいのスポーツとして浸透してるだろ?」
「あぁ」
「でも、それってさ俺たちの世界でも言える事なんじゃないか?ISがもし大量生産されて戦争の兵器にされる事だってあったかもしれない。それは束さんがさせなかったけど」
「確かにな、あの太平洋での福音と戦って、一夏が落ちた時、初めて軍用のISの恐ろしさを味わったよ」
「それも元は、宇宙へ行くために作られたものだった筈なのにな。この戦争の発端だって、元は人が外宇宙を目指すために、丈夫な体を求めた結果らしいし」
「それが、コーディネーター。案外、この世界は似ているのかもしれないな。私たちの世界と」
「そう、なのかもな」
しばらくして、一夏と箒は劾引き取られた。ちなみに劾は時間になっても、戻ってこない一夏と箒に待ちぼうけを食らっていた。このクソ暑いなかクールな顔で2時間近く待っていたらしい。
その時一夏と箒は深く謝っていた。
その三人を見送るのは、バルトフェルドとメッシュの女性、アイシャだった。
「面白い子たちだったわね?」
「あぁ、特にあの少年は筋がいい、磨けば光るよ。是非ともウチの隊に欲しいくらいだね」
「ふふ、珍しいわね。アンディがそこまで褒めるなんて、少し嫉妬しちゃう」
「おいおい、僕にそんな趣味はないよ」
「でも、男同士でしか分かり合えないものだってあるでしょ?そう言うのって、女の私には結構羨ましいものなのよ?」
「そうかい」
一夏達の乗ったバギーが見えなくなると、バルトフェルドはいつの間にか用意していたコーヒーをすすった。
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気がついたら4ヶ月以上も放置してたー!レポート忙しいー!PSOたのしー!なのセントハマったー!
この小説を未だに読んでくださっている方がいらっしゃるのかメッサ不安ですが、やっと投稿します。もう隠しません、サボっててすみませんでした。orz