No.587207

変人の高校生活

白衣を羽織った高校生藤代京谷と、傲岸不遜な友人神崎藤吾の物語である。

2013-06-14 20:52:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:231   閲覧ユーザー数:231

 

 朝日が窓から差し込み、目に眩しい。

 

(朝か……)

 

 自分の部屋の机の上でいろいろいじっていたら、いつの間にか寝てしまったらしい。そして机に突っ伏して寝ていたためか、肩が凝ってしまった。椅子から立ち上がり軽く肩を回し伸びをする。

 目覚まし時計はまだ鳴っていない。いつもより早く起きてしまったようだ。まぁいいか。

 

 その後いつも通りにハンガーに掛けてある制服を着て、その上に白衣を着る。

 

「よし……」

 

 とりあえず朝飯を食べてしまおう。たしか買い置きのパンがあったはずだ。そう考え一階のリビングに降りた。

 

 ◆

 

 いつもより時間があると思ってゆっくりしすぎてしまった。少し急がなくてはならない。 

 季節は夏。俺が高校に入学して早三ヶ月。梅雨が去り、清々しい青空が広がっている。そんな空の下、俺は通っている高校までの通学路をランニング程度の速さで走っている。真夏でないだけましだが、やはり暑い。高校までは走って約十分程。耐えられない距離ではない……白衣を脱げば少しはましになるだろう。だが脱ぐ気はない。

 

 通りすぎる人達は奇異の目で俺を見るが、気にしたら負けだ。

 

(はぁ……)

 

 早く着いてくれ……。

 

 ◆

 

 汗だくになりながらもようやく高校に着いた。この高校は共学であり、市内でも有名な進学校である。ここでも俺は変人だと思われているため、友人などはいない。……いや、物好きな奴が一人いたか。あいつもあいつで変人であるため友人はいないようだが……。

 とりあえず下駄箱から上履きを出し、今履いている靴と履き替える。

 

「ん?藤代か。おはよう」

 

「あぁお前か……おはよう」 

  

 そこに現れ、俺にあいさつをしながら近づいてくるのは神崎藤吾。文武両道に加えて眉目秀麗。だが持ち前の性格ゆえに友人はいない。高圧的というかなんというか。先ほど考えていた奴とはこいつである。ちなみに、俺の名前は藤代京谷。

 

「どうした?目が死んでいるぞ?」

 

「少し急いできたからな。暑いし疲れたんだよ。それと、目が死んでいるのは元々だ」

 

「くくっ、そうかそうか、すまないな。そうだった、君の目は元から死んでいる」

 

 何が楽しいのか、声を弾ませてそう返す神崎。放っておいて教室に向かおう。

 

「おっと、待ってくれ。私も一緒に行く」

 

「……了解」

 

 残念なことにこいつとは同じクラスなのだ。両方とも話す友人がいないという事でなんとなく会話していたら、いつの間にか仲良くなっていた。

 また、こいつがどんな奴かということも少しは分かってきた。こいつは基本的に人によって態度を変えない。それだけ聞けば良い所なのだが、神崎の場合は別だ。こいつの元々の性格は傲岸不遜。それを相手が誰であれ発揮するのだから、話を聞く方としては……なぁ。

 まぁ、今では少し和らいできたが……俺にだけ。

 

 ◆

 

 教室に俺達二人が同時に入ると空気が変わる。当然と言えば当然だ。制服の上に白衣を羽織った変人と、性格が終わっている見た目優男。生徒たちは一斉にこちらを向いた後、すぐに戻した。

 

 俺は気にする素振りもなく自分の席に向かう。窓際の席の一番後ろ。授業中寝るには絶好のポイントである。神崎もその後を着いてくる。何の因果か、席替えをしたらこいつが前になってしまった。

 

「それで?今日はなんで急いでいたんだ?」

 

「いつもより起きるのは早かったんだけどなぁ、その分ゆっくりしすぎちゃったんだよ。だから走ってきたんだ」

 

「ふっ、君は頭はいいが馬鹿だからな。……あぁそういえば」

 

「ん?なんだ?」

 

「先週、何か作っていただろう。確か……」

 

あぁ、こいつには言ってたんだっけ。

 

「自立思考型アンドロイド」

 

「そう、それだ。上手くいったのか?」

 

「いや、残念ながら、ね。アンドロイドの基本的な設計はできているんだけども、いかんせん心というのは作り難いよ」

 

「私も手伝ってやろうか?どこまでできるかは分からんが、邪魔にならんだろう」

 

「それはありがたいが……いや、やめておこうかね」

 

「いいのか?」

 

「ああ。あれは俺一人の手で完成させたいんでね。気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」

 

 そういうと神崎はかすかに笑った。

 

「そうか。まぁ何かあったら私に言うといい。できる限りのことはしてやる。君は、私の唯一の友人と言うものだからな」

 

 そんな悲しいカミングアウトはいらなかったなぁ……。

 

 ◆

 

一時限目は体育だった。しかも長距離走。こんな暑い中延々とグラウンドを走らされた。走る時ももちろん白衣は羽織っている、体操着の上に。もう疲れたよ……フラ○ダース。あれ?パトラ○シュだっけ?

 

「はぁ……」

 

「なぜため息を吐いているのだ?君は別に運動が苦手というわけではないだろう」

 

「それでも暑い中走るのはいやなんだよ。ただでさえ朝走ったってのに」

 

 今は走り終えたので日陰で休んでいる。

 

「それは君の自業自得というものだ」

 

 ぐうの音も出ないとはこのことか。仕方がないので話題を変えよう。

 

「女子は……水泳だっけ」

 

「ああ、確かそうだ。朝男子が騒いでいた……本当に低能な者どもだ」

 

「お前、本当に俺以外にはきついよな……最初は俺にもそんな感じだったが」

 

 初めて話した時は驚いたものだ。いきなりの罵倒だったからな、少し戸惑ってしまった。ま、それでも話しかけ続けたが。白衣の俺に話しかけられて普通に返してくれたのは、こいつだけだったからなぁ。

 

「私と話して去っていかなかったのは君だけだからな。光栄に思うと良い」

 

「はいはい」

 

「ふっ」

 

 神崎は満足そうに笑うと立ち上がり、教室に戻るために歩きだした。俺もその後を着いていく。

 

 なんやかんやでこいつとの関係も悪くない。

 

 ◆

 

 時間は進み昼休み。いつも通りに神崎と机を向かい合う形に変え、自分で作ってきた弁当を広げる。神崎も俺と同じように弁当を広げる。初めはこいつ弁当作れるのかと、驚いたものだが、今では気にならない。慣れというものか。

 

「どうした、藤代。食べないのか?」

 

 動きが止まっていた俺に、神崎が訊いてきた。

 

「ん、いや。少し思い出してたんだよ」

 

「思い出す?」

 

「ああ。お前が弁当作ってるとは、思ってなかったからさ」

 

 そう言うと神崎は愉快そうに笑った。

 

「そういうことか」

 

「いまでは慣れてしまったと思ってなぁ。時間の流れを感じるよ」

 

「私も初めはなぜ白衣を着ているのか疑問だったが……今では気にならなくなった」

 

 時間が解決してくれるものは案外多いらしい。

 そう思った、夏の日の昼だった。 

 

 ◆

 

 またもや時間は進み放課後。部活には入っていないため、すぐ帰宅する。神崎も一緒だ。こいつは運動神経良いんだからどこかに入ればいいと思ったんだがなぁと、どうでもいい事を考えながら帰り道を歩く。その間他愛のない話をしながら。そうしていると、神崎と別れる公園まで来た。

 

「それではな。藤代、また明日会おう」

 

「ああ。また明日」

 

 その後は黙々と足早に歩を進め帰宅。疲れたためベッドにダイブしそのまま目を瞑る。

 

 

 目を開け時間を確認するともう七時になっていた。

 

「夕飯か……ふぁ」

 

 寝ぼけ眼をこすりながら一階に下りる。両親は海外で働いているため家には一人だ。寂しいということは無いのだが、飯を作り続けるのは面倒だ。そう思いアンドロイドを作ろうとしたんだが……またあとで頑張ろう。

 

 その後適当に冷蔵庫に入っていた残り物を使い料理をし、夕飯をすませた。風呂も洗い、お湯を入れた。今日の疲れを癒し、風呂を出る。そして、自分の部屋のベッドでまどろんでいると、いつの間にか意識は落ちていた。

 

 今日も今日とて白衣を着て歩いている。昨日早く寝たからか、朝からすっきり目覚めることができた。いつもこうならいいのだが、無理な話だろう。自分がよく分かっている。昨日は丁度やることがなかっただけだ。今日からまたアンドロイドの方に力を入れたいからな。今日は徹夜かもしれないなぁ。

そんなことを考えながら高校に向かった。

 

 

 
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