日本は鳥取の出雲・・・そこにある葬儀会社を営む無悪一族の日常である。
会社の実質上のトップであり、一族の当主である無悪五月闇(さかなし さつきやみ)
年齢不詳の中年であり、基本的に自室か本家の裏山にある洞窟の奥にいるか・・・あまり人前にも出ないが、何やら深く関わると危険だと一族内では敬遠されている。
・・・とはいえ、一応はこれでも会社のトップであり、一族の当主を排斥し難いものがあった。
「それじゃ、僕は部屋に戻るから」
「は、はいっ・・・」
いつも五月闇は、知恵の輪やルービックキューブを片手に持ち、やる気がないような雰囲気を纏いながら仕事を片付ける。
現社長の春闇(はるやみ)は緊張しながらも書類を集めて彼に対してお辞儀をするが、そういった礼儀正しい態度に興味がないのか、五月闇はさっさと自室に戻っていくのが、すでに毎日の恒例行事となっていた。
「・・・はぁ・・・」
「社長、お疲れ様です」
春闇の秘書を務める郁子(いくこ)は緑茶をテーブルの上に置いて、小さく溜息を吐いた。
社長の気の弱さと当主の人嫌いにうんざりしているような彼女に、春闇は気圧されながらも彼女に対して愚痴を吐き始めた。
「・・・相変わらず、当主様は人嫌いみたいで・・・私、これでも社長なのになぁ・・・」
「仕方ありません。人嫌いだろうが外道だろうが、あれでも一族の当主ですから」
「うーん・・・そろそろ引退して欲しいんだけど・・・無理かな?」
「無理ですね。春闇様では勝てませんよ、精神的に」
「精神的にって・・・い、いや、私だってやるときはやる男だよ!」
「あぁいった手合いは、春闇様のような人間に対して精神的に追い詰めるのが得意です。春闇様が何かする前に先手を打たれて追い詰められますね」
「・・・」
「そもそも、五月闇様は”黄泉の国の隣人”たる無悪家の象徴ですからね。普段は黄泉の国にいらっしゃったりしてますし、春闇様の何十倍も人生を生きてますから・・・」
郁子がわざわざ春闇がいかに五月闇に勝てないかをあげていく度に春闇が小さく震える・・・
よほど精神的に不安定なのか、春闇は(今年で40歳になるはずの大の男が)さめざめと顔を覆って嗚咽を漏らし始めた。
「っ・・・うっく・・・」
「まずは春闇様の精神を強靭にしない限り、あの人と同じ土俵には立てませんよ」
「・・・っ・・・ひっく・・・」
「早く泣き止んで仕事してください」
いつものことなのか、郁子は励まそうともせずに春闇を叱咤しながらも今日の仕事を押し付けるのだった・・・
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