第二話 水鏡女学院
時は少し戻る。
ここは荊州襄陽の山の中にある水鏡女学院。
水鏡が営んでいる私塾で、女学院と言っても門下生は全体で十数人程度の小さいものである。
しかし、水鏡自身の知名度もあり、文を極める人に知らない者は居ないほど、有名な私塾である。また、この私塾は塾生に学費は求めず、真に学びたいと言うものを集め、水鏡の面接を受け、才があると判断された者のみが学ぶことの出来るところである。塾生は、学院に住込み、生活するためにある程度は仕事をするが、生活のほとんどを勉学に励んでいる。
その水鏡女学院の学び舎の一室、そこでは水鏡自身が教鞭を振るい生徒に『孫子』の授業をしていた。
「『百戦百勝は善の善なるものに在らず』この意味について、考えてみましょう」
水鏡は『孫子』の『形篇』を生徒の前に立ち、朗読していた。
彼女はその長い黒髪を頭の後ろでひとまとめにし、シンプルなデザインの簪でとめていた。
肌は白く、冷たさを感じるほどに整った美貌には、その冷たさを打ち消すほどの優しい微笑みが浮かんでいた。
性を司馬、名を徽、字を徳操という。
しかし、皆は彼女のことを号の方である水鏡と呼ぶ。
身長は七尺半ほどだが、あまり高い印象はない。すべての部分で成長は行き届いており、ぴしりとしたモデルとはまた異なる姿勢、全体としてはほっそりとした、大人の女性である。
「簡単に言ってしまうと、百度戦闘して百度勝利を収めるのは、最善の方策ではない。という意味ですね。ではなぜそうなのか。例えば十万の兵力で一万の兵力に勝利する、と仮定しましょう。それでは敵にも味方にもかなりの損害がでます。確かに勝利を収めることは善いことなのに代わりはありませんが、貴方たちが将来なる文官の役割は戦争を戦わずして・・・・」
皆熱心に水鏡の言葉に耳を傾け、少しでも多くの知識を吸収しようとしている。
室内には水鏡の澄んだ声と、時より、筆の走る音が聞こえてくるだけ。
しかし
突如、その沈黙は破られた。
「ねえ、アレ!?」
「流れ星!?」
「落ちてくる!」
急に窓際にいた生徒たちが騒ぎ始めた。
「・・・皆さん、どうしましたか?」
「先生!流れ星が落ちてきます!」
「なっ・・何ですって・・!?」
彼女には珍しく声を荒立てた。
窓に近寄り、空を見上げた。
すると確かに空に一筋の光が走り、こちらの方に向かってきている。
流れ星は真っ直ぐに此方に向かってきており、学院の真上にまで迫って来ていた。
しかし学院に落ちてくるということはなさそうで、いまだ、それなりの高度を保っている。
「・・・」
誰一人として目の前の出来事に考えが追い付かないらしく、誰も言葉を発しなかった。
そしてまばゆい光をはなちながら、学院の上を通り過ぎていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
誰一人言葉を発することが出来ない。
そんな中、いち早く正気を取り戻したのは水鏡だった。
パンパンッ!
彼女は手を叩き、大きな音をたて、生徒の意識を自身に向けさせた。
「皆さん、落ち着いて席について下さい」
しかし、先ほどの出来事が、あまりに異常すぎて水鏡の指示には従わず、皆騒ぎ始めた。
女三人集まれば姦しいというが、十数人の生徒が騒ぎ始めたので、室内は一気に騒々しくなった。
「・・・・・・・・・」
ガヤガヤガヤガヤ
「・・・・・・・・・」
ガヤガヤガヤガヤ
「・・・。(ぼそっ)そう、皆さんは私の言うことを聞いてくださらないのですね・・・。」
ピタ
教室内から音が無くなった。
そう、みな分かっているのである。
普段からとても温厚で優しい水鏡を怒らせたらどうなるのかを。
皆、ただただ無言だった。
窓際に詰め寄っていた者は速やかに自らの席に戻り、顔に冷や汗をかきながら水鏡の方を向いている。
その注目の的となった水鏡は涼しげな顔で生徒を見回し
「好好(よしよし)」
というのであった。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「えー、皆さんが気になってしょうがないと思われますので、今から私と龐(ほう)先生で様子を見に行ってきます。その間、一時講義を中断しますが、無断で学院の外に出たものには、それ相応の罰を受けて貰います。よろしいですね、皆さん」
「はい!」
さきほどの影響か、門下生は水鏡の言葉に「はい」以外の答えの選択肢を持っていない。
「それでは、すこし出てきます」
そういって部屋を退出した彼女が向かった先は、紙で出来た本が数多く保管された資料室であった。
資料室は先ほどまで講義していた本館とは少しはなれており、本館の西側のあまり日の当たらない場所に建っていた。
女学院は最近になって建てられたため、比較的古臭い感じは出ていない。しかし、この資料室は別である。この資料室はもともと在った水鏡の家の書庫をそのまま用いており、長年の歳月をかけて味が出てきた壁や床、天井がこの資料室の歴史を物語っていた。
「菖蒲(あやめ)いますか?」
「残念ながら居ないわ」
「何を言っているんですか、あなたは・・」
「今忙しいのよ。用があるなら後にしてくれないかしら?」
そこに一人の女性が壁に寄りかかり本を読んでいた。
菖蒲とよばれたこの女性
性を龐、名を徳公、字を子魚という。
身長は八尺後半と女性にしては長身である。藍色の髪を後ろだけやや伸ばし、そこ以外は短い、少しきついが整った顔立ちと相まってなかなかの美人だ。
しかし、彼女に声をかけられる男性はそうそういまい。身長が高いことがひとつの要因だが、身体の迫力も凄い。爆発しそうな胸と腰、たくましく発達した肩や太もも。こと脚が長いので、存在感が強烈で男性に劣等感を抱かせてしまうだろう。
「あなた、こんな時によく平気で読書をつづけられますね」
「こんな時?何かあったの、蔓(かずら)?」
「・・・あきれた。本当に気づいていなかったのですね」
「だから何によ?」
「あんなにも空が光っていたではありませんか」
「空が?生憎だけど、ここには外の光はほとんど入らないわよ」
「・・・そういえば、そうですね」
そう、この資料室は本を守るため、出来るだけ日光を届かせない仕組みになっている。
ここの本を読みたいものは基本的にここから持ち出して読んでいる。
「ところで一体何の本を読んでいたのですか?」
「ああ。これよ」
そう言って、読んでいたものの表紙を水鏡に向けた。
「!?・・そ、それは阿部先生の『好きなものは好きだから、やらないか』の最新刊ではないですか!」
「ええ、そうよ。今朝ようやく手に入れたの」
「私に貸してください!」
「駄目よ。私だって今読み始めたばかりよ」
「そんなぁ~・・・ってそんなこと言っている場合ではありませんでした」
「そんなこと、そう、蔓にとってこの本は『そんなこと』なのね、お姉さん悲しいわ」
「い、いえ、その本は『そんなこと』程度では断じてありませんが、それと同等以上のことが先ほど起こったのです」
「同等?へ~、蔓がそれほどいうなんて。ではもう一度訪ねるわね、何がおこったのかしら?」
「それが、流れ星が落ちてきたのです」
「流れ星?確かに珍しいことではあるけど、そこまで騒ぐことかしら」
「それが空に流れ星が落ちてきたのではなくて、本当の意味でこの大陸に落ちてきたのです」
「落ちてきた?その割には何の音も、衝撃も無かったわよ」
「ええ。ですから様子を見るために、これから落ちたと思われる場所に行こうと思って、こうして菖蒲に声をかけた、というわけなのです」
「なるほど、そういうこと。いいわ、一緒に行きましょう」
「助かります。私はあなたと違って、武はからっきしですから」
「少し待っててくれるかしら、すぐに準備をしてくるわ」
「ええ、では私は馬を用意してきます。門のところで落ち合いましょう」
そういうと二人は資料室を出て、各自、それぞれの目的の場所へ向かった。
そういうわけで第二話です。
やっぱり、何かを表現するのは難しいですね。
自分の語学力が情けない。
一刀は今回でてきませんでしたが、次は出す予定です。
長い文章を月一ぐらいで投稿するのと
短い文章を頻繁に投稿するのは
どちらがいいんでしょうかね。
次までに考えておきます。
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諸君、私は百合が好きだ。
諸君、私は百合が好きだ!
諸君、私は百合が大好きだ!!
というわけで、一刀を女体化すればいいんじゃね、という考えのもと執筆しています。
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