No.582633

真恋姫†夢想 弓史に一生 第七章 第十六話

kikkomanさん

どうも、作者のkikkomanです。

今回も黄巾のお話です!!

後三話お付き合いください。

2013-06-02 02:36:55 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1429   閲覧ユーザー数:1312

 

 

~聖side~

 

 

火照った顔のまま橙里の天幕から慌てて出る俺。

 

天幕の外は既に真っ暗で、夜風が火照りを冷ましてくれる。

 

そこでふぅ~と一息ついて心を落ち着ける。

 

こうしないとニヤニヤが止まりそうに無いのだ…。

 

 

 

 

先ほどの橙里からの言葉は本当に嬉しかった。

 

いつもなら俺から彼女たちに使う『妻』と言う言葉を、橙里は自ら使って俺に気持ちを示してくれたのだ。

 

俺の妻としてこれから先生きていく……俺と共にこれからあり続けるという彼女の意思を……。

 

 

これを聞いて嬉しくないはずが無い。

 

勿論、芽衣や奏にも俺の妻になる覚悟があることは既に知っている。

 

しかし人とは臆病な生物で、ちゃんと言葉にしてもらわないと安心できないのである。

 

一対一で確りと言葉にして、面と向かって真剣な表情で俺に伝えてくれたのは橙里が初めてだったのではないだろうか……。

 

そう考えると、ニヤニヤが止まらないのである……。

 

 

 

「ふぅ~……暑い暑い……。橙里め……やってくれるじゃないか……。」

 

 

でも、顔が赤くなると言うことは俺自身も最近では認めてきていると言うことだろう。

 

彼女たちを本当に俺の妻に………。

 

初めからそのつもりではあったのだが……どこかその現実から目を背けていたのかもしれない……。

 

もっと正面からそれにぶつからないといけない……その覚悟は俺に出来ているのだろうか…………。

 

 

 

 

 

夜風で顔を冷ますこと数分…。

 

 

すっかり落ち着いた俺は、宣言どおり天和たちの様子を見に天幕へと移動した。

 

 

実は、救出したばかりの彼女達は本当に限界だったのであろう、俺に抱きついたまま気絶してしまったのである。

 

直ぐに別の天幕へと移動して健康状態を確認すると、どうやら脱水症状を起こしているようで、本当なら点滴等で水分を供給してあげたいのだが、如何せんこの時代にそんなものはなく、彼女たちの唇に湿らせた手拭で水分を与えるという形で経過を見ていた。

 

 

幸い、しばらくすると彼女たちの顔色は良くなって来て、目も覚めたらしい。

 

ゆっくりと水分と御飯をとってもらって栄養を補給すると、彼女達はみるみる元気になっていき、今では普通におしゃべりが出来るまで回復したという。

 

ならば彼女たちに会いにいく機会は今しかない。

 

黄巾の乱が終わり、これに巻き込まれた数奇な運命の彼女たちを救うには………。

 

 

 

 

「邪魔するよ。」

 

 

声をかけながら天幕の中に入るがこれに対する返答は来なかった。

 

と言うのも…………。

 

 

「「「…………すぅ………すぅ…………。」」」

 

「ありゃ………もう寝ちゃってたか………。」

 

 

未だに蝋燭の炎が天幕内を照らしてはいるのだが、彼女達三人は揃って寝台に横になって寝息を上げていた。

 

しかし、考えればそれも当然のことであろう。

 

彼女達は身動きひとつ出来ない状態で外界からの情報を一切遮断されて生活していたのだ……。

 

そんな状況の中、安眠なんて出来るはずが無い。

 

寧ろ寝ていないと言ったほうが正しいだろうとさえ思える。

 

そんな状況から解放されれば、ゆっくり休みたくもなるよな……。

 

 

寝台の上の彼女たちの顔を見れば、とても安心した顔で寝ている。

 

その顔を見ていると起こしては可哀想だと思わずにいられない。

 

 

「話を聞くのはまた今度にして、今日は帰るか……。」

 

 

そう思って寝台から離れようとした時だった。

 

 

「……ん……?? 聖………??」

 

「っ!? ……………起こしちゃった??」

 

 

身体を起こして焦点の定まっていない目で俺を見る天和。

 

完全に寝ぼけてるんじゃ………。

 

 

「……………ん~……………聖??」

 

「そうだよ、俺だよ。」

 

 

優しく微笑みかけてあげると、彼女もにこっと笑って、

 

 

「………良かった………本当に聖だ~……。」

 

 

そう呟いた。

 

 

それを聞くと、何とも愛おしくて、愛らしくて、そして悔恨が残ろうか………。

 

俺は彼女たちにそこまでの苦労を背負わせてしまったのである。

 

もし、俺が彼女たちと別れる選択をしなければあるいは………。

 

 

「聖~。どうしたの、そんな怖い顔して。」

 

 

気付くと、天和はすっかり覚醒し、俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。

 

彼女たちの慰労の為に来たのに、俺が心配されてちゃ世話無いな……。

 

 

「ごめんごめん……。ちょっと考え事をしててさ………天和は身体の方はもう大丈夫?」

 

「うん。ご飯食べたらすっかり元気になったよ~。」

 

「そっか……。地和と人和も元気になったかい?」

 

「うん。ち~ちゃんもれんほ~ちゃんも元気になったよ~。」

 

「そりゃ良かった…。」

 

「ね、聖……。お話、聞かせて?」

 

「話しったって……急には思いつかないぞ?」

 

「何でも良いよ~。」

 

「そうだな~……じゃあ……。」

 

 

話しながら寝台の傍の椅子に腰掛け、その後お互いに何気ない話で盛り上がる。

 

彼女にしてみれば、こういった世間話でも人とまともに話せることは嬉しいのであろう…。

 

分かれた後の俺の辿った道の話を、ある時は驚いた顔で、ある時は慈悲深い優しい笑顔でずっと聞いていた。

 

聞いてるだけでつまらなくないか途中たずねたが、

 

 

「ううん。聖の話って面白いからぜんぜん飽きないよ~。」

 

 

と言うのでそのまま俺が話し続けた。

 

 

たっぷり二刻程話し込んだところで、今の今にあたるまでの話を終えてしまいネタがなくなってしまった。

 

 

「ね~聖。他には他には?」

 

「他って言っても………う~ん………ちょっと待ってな……。」

 

 

真剣に話のネタを探してうんうん唸っていると、天和はくすっと笑って話し始めた。

 

 

「………聖、ありがとう。」

 

 

突然の感謝の言葉に顔を上げて天和を見る。

 

すると、天和の目には涙が浮かんでいる。

 

 

「おいっ!!どうした!? どこか痛いのか!?」

 

 

俺があたふたと慌てていると、天和はもう一度くすりと笑い、

 

 

「別に何処も痛くないよ~。ただ………嬉しいだけ……。」

 

 

そう言って今までで一番良い笑顔を見せてくれた。

 

 

「助けてくれて………ありがとう……。」

 

「………当たり前だろ。俺が天和たちを見捨てる訳無いって……。」

 

「うん……。聖は優しいね…。」

 

「そうか? いつもこんなんだぞ?」

 

「そうやって無自覚だけど……だからこそ、皆聖に惹かれて集まってくるんだろうね~……。」

 

「そんなもんかな?」

 

「そんなもんだよ~。」

 

「そっか………。」

 

 

そう面と向かって言われるとちょっと照れくさいもので、慌てて天和から視線を外し天幕の外を見た。

 

天幕の外は既に夜の帳が落ち、漆黒の闇が辺りを支配している。

 

その暗闇を見ていると少しずつ自分が落ち着いてきている気がした。

 

 

そして、そんなことをしてたものだから、次の天和の言葉を初めは信じれなかったんだ…。

 

 

「それでね、聖。私達、次は西涼の方へ行ってみようと思うんだ。」

 

「……………えっ……??」

 

 

静寂に包まれる空間………。お互いに二の句が告げれない…。

 

必死に言葉にしようと口を動かすが、先ほどの衝撃が俺から言葉を奪っていた。

 

 

そして、二の句を先に言ったのは天和だった。

 

 

「だって、もうここには居られないでしょ? だったら、次の町に行かないと………。」

 

「………………。」

 

「身体の方はもう大丈夫みたいだし……明日にでも行こうと思うの…。」

 

 

そう言って、天和は悲しそうに俯いた

 

余りの衝撃に、先ほどから震えっぱなしの唇から何とか言葉を絞り出す。

 

 

「…………危ない……だろ…。今回みたいなことになったらどうすんだよ!!!」

 

 

強い口調になってしまったが、何とか言いたいことは言えた。

 

一言口にするだけで先ほどまでの衝撃は何処へやら……頭は冷静に、しかし心は感情的に昂ぶっている。

 

 

「その時は………そうならないように注意するよ……。今度は警備の人とか雇ってさ……。」

 

「そんな金、持ってないんだろ?」

 

「……………直ぐに集まるよ。」

 

「今回の騒動………あれは君たちの追っかけの暴走が原因だろ? もう一度起こったらどうするんだ…。」

 

「………………もう二度と起こらないように注意するから……。」

 

「…………なぁ、どうして俺の目を見て話してくれないんだ?」

 

「………見れないよ…。」

 

「どうして見れないんだ?」

 

「………だって……。」

 

「だって……天和、君は君の気持ちに嘘をついているから………だね?」

 

 

俺の言葉に、天和は俯いた身体を一度びくりと震わせる。

 

 

「何をそんなに心配しているのか分からないけど…………。」

 

 

天和は震える身体をぎゅっと抱くようにすると、俺の目を見つめた………その目の端に大量の涙を浮かべて…。

 

 

「………だって…。」

 

「ん??」

 

「私だって!!!!!! 聖たちともう一度旅がしたい!!!! 一緒に笑って、一緒にはしゃいで……そんな楽しい毎日を過ごしたい!!!!! でも………私達漢王朝に仇なす逆賊だから…!!!!! 私たちが聖のとこに行ったら聖に迷惑がかかっちゃうから!!!!! だから私たちは聖から離れようって決めたの!!!!!        

……………………だから…………ぐすっ………だがら…………。」

 

 

そこまで言い切って、彼女は大声で泣き始めた。

 

俺はそれを見て、震える天和の身体をぎゅっと包み込むように抱きしめる。

 

 

 

彼女は苦しんでいたのだ。

 

于吉から解放された今でも、世間での張角の評価に……。

 

ならば、彼女たちに分からせてあげなければいけない……。

 

そんな悩みなど必要の無いことを……。

 

 

「うるせ~!!!!!! 行こ~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

……………某海賊アニメの主人公よろしく叫ぶ。

 

 

 

天和は、俺の腕の中で今は声を殺すようにして泣いていた。

 

そんな彼女に語りかける。

 

 

「俺たちは君たちがこの事件の犯人じゃないって知ってる。だから、君たちがあの噂で臆することは無いんだ…。それに、張角の顔を知るものは少ない……。代理の首を上げれば、君たちを隠し通すことも出来るだろう…。」

 

「………えっ……??」

 

「噂じゃあ、張角は頭が三つあって、腕が六本あって、体長が15尺もある化け物だって聞くしな。」

 

「………………ふふっ………そんな人いる訳無~いじゃん~♪」

 

「そう。それぐらい人々は張角の正体を知らないんだよ…。」

 

「……………。」

 

「前は俺たちの所為で君たちを危険な目にあわせてしまった。」

 

「そんな…!!!」

 

「でも!!! 今度はしっかりとした基盤がある。今なら人が増えようがそんなもの関係ない!!!君たちの夢を支える力だってある!!!」

 

「……うん。」

 

「ただ、今はうちの領内でしか公演は行えない。それでも良いなら、俺たちのところに来いよ。」

 

「……っ!! …………うん。( ///)」

 

 

満月に照らされた月夜はどこか昨日とは違って見えて。

 

昨日まで見ていた闇夜と同じはずなのに………何故だか温かく思えたんだ……今この時は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~于吉side~

 

 

神殿のような建物の中。

 

薄暗い大広間に二人の人影があった。

 

 

 

「ふっ……。随分と酷くやられたもんだな。」

 

「おやっ……。心配してくれるんですか? 優しいんですね。」

 

「それだけ言えれば十分そうだな…。」

 

「………ふ~……。つれないですね、貴方も。」

 

「………それよりも今回の御使いは強いらしいな…。」

 

「えぇ……。知に優れ、武に長けて、義に篤い……まさに主人公と言えますね…。」

 

「そうか。面白くなってきた…。」

 

「……やれやれ…。戦闘狂にも困ったものです………。」

 

 

于吉は傍らに立つ金髪の男に向かって溜息を吐く。

 

その男はむっとした顔になるも、相手にしたら負けだと自分に言い聞かせて冷静になる。

 

 

「……それよりも良かったのか?」

 

「何がですか?」

 

「あの三姉妹のことだ。お前の姿を見られてるんだろ?」

 

「そうですね……。それにあの本の存在も知られていますね…。」

 

「おい………もしその情報があいつらの耳に入ったら……。」

 

「大丈夫ですよ、左慈。ちゃんと手は討ってあります。」

 

 

不気味に光る眼鏡の奥で粘着質のある笑みを浮かべる于吉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の聖たちはと言うと…。

 

 

「…と言うわけで、もう寝た振りはしなくて良いから起きたらどうだ、地和、人和?」

 

「えっ!!?」

 

「「(ビクッ!!!!)」」

 

 

寝台で横たわる二人に話を振ると、照れくさそうな顔をしながら起き上がった。

 

 

「な~んだ、ばれてたか…。」

 

「…何時からお気づきになりましたか?」

 

「君たちが起きた所からかな……。」

 

「えっ?? それって何時~??」

 

「天和に続くように二人とも目は覚ましてたよ。ただ、起き上がらなかっただけ。」

 

「うそ~!!!! そんな所まで分かってたの!?」

 

「どうして分かったんですか? 私たちが起きていると…。」

 

「君たちの寝息が変わったからさ。その前まではゆっくりとした深い呼吸だったのに、急に変わったからね…。」

 

「そんな所まで…………。」

 

「凄いね~聖は♪」

 

「そりゃ、ちい達の歌の先生だもん!! 凄くなきゃやっていけないわよ!!!」

 

「はははっ。そう言えばそんな約束だったな。」

 

 

こんな風に三姉妹と話せる日が来るのはもっと先だと思っていた。

 

あの日、俺たちと別れた彼女たち。

 

彼女たちに今回みたいなアクシデントが無かったら、きっと今のように話なんて出来ていないだろう…。

 

そういう意味では……今回の事件は怪我の功名とでも言えるのかな……。

 

 

 

そうだ…。

 

 

「なぁ、皆。聞きたいことがあるんだけど。」

 

「ん?? 何かな~??」

 

 

この時、背中に悪寒が走った。

 

まるで、良くない事が起こる前触れでもあるかのように…。

 

しかし、俺はそんなに深く考えてなく、その質問を口にしてしまった。

 

そしてそれは現実となる。

 

 

 

『于吉って奴はどんな奴なんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリンッ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラス製の薄い膜のような物が壊れたような音が聞こえた。

 

そしてそれと同時に……………彼女たち三姉妹の目から、光が消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗示?」

 

「はい。私に関することを彼が聞いたとき、彼女たちの心が破壊されるように暗示をかけておきました。」

 

「では、俺たちの事は奴にはばれない……と?」

 

「その通りです。そしてそれと同時に彼は非情に後悔する事になるでしょう…。」

 

 

そう言って于吉は口元に卑下たる笑みを浮かべる。

 

 

「自らの手で、彼女たちの心を壊してしまったのですから……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弓史に一生 第七章 第十六話  心の崩壊   END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

 

 

第七章第十六話の投稿が終わりました。

 

 

無事に救出されたと思われた三姉妹であったが、実は于吉に暗示をかけられていて、その内容は自分たちのことを聞いた瞬間に心を破壊するというものであった。

 

はたして、彼女たちはこれからどうなってしまうのか………。乞うご期待ください!!

 

 

 

 

次話はまた日曜日に……。

 

 

では、また~!!!!!!

 

 

 

 

 

 


 
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