No.581536

楽しく逝こうゼ?

piguzam]さん

第30話~祝福の風にクリスマスプレゼントを♪(後編)

2013-05-30 10:25:32 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:19737   閲覧ユーザー数:16688

前書き

 

 

総閲覧数2500突破したので投下しますwww

 

初めに言っておきますが、このお話の主役(ヒロイン)はタイトル通りリインフォースです♪

 

それでは、どうぞッ!!

そして1人の超要注意人物の侵入を未然に防いだ俺達は、和風ながら使い勝手の良い台所へと足を踏み入れる。

すると、台所の傍に有る勝手口から、デカイ籠いっぱいに入った野菜を担いでくる力也さんの姿が見えた。

毎度の事ながらお袋の使いっ走り、ご苦労様です。

 

「ゼェ、ゼェ……お、お待たせしました!!そっちの先に持ってきた籠の野菜は井戸水で洗ってありますんで、ソッチから使って下さい!!姐さん、野菜はこれで良いでしょうか!?」

 

汗だくで息も絶え絶えに俺達に言葉をかける力也さんの指し示す場所には、同じ様に野菜が大量に入った籠が2つあった。

今力也さんが持ってきた分も入れて合計3つ、これだけありゃあ充分だろう。

 

「うん、良いぞ力也!!後は肉と魚だ!!ソッチも冷蔵庫から持って来な!!しっかり働いたらその分、ご飯が美味しいからね!!手ぇ抜くんじゃないよ!!」

 

「ハ、ハイ!!」

 

お袋の笑顔で放たれた次なる指令を、力也さんは声を大にして返事をし、今度は廊下の先にある大型の冷蔵庫まで走っていく。

いや~タイミング良く親戚が肉とか魚を沢山送ってくれてたってのが有難いぜ。っていうか都合良すぎ。

 

「良し、それじゃあ禅!!まずは米から炊いてくよ!!今日は炊き込みご飯にするから野菜と肉を刻みな!!あっ、桃子さんはデザートの方を取り掛かって頂けますか?コッチが粗方終わったら禅を使って頂いて構いませんので♪」

 

「はい♪喜んでお受けします。それじゃあ禅君?後でお手伝い、お願いね?」

 

「ラージャっす!!そんじゃあ、まずは野菜から逝っときますかぁ!!」

 

先ずは手を綺麗に洗い、俺は炊き込みご飯に入れる人参、ごぼう、しめじを籠から取り出して、次に冷蔵庫の中を漁り油揚げを発見した。

うん、野菜はこんなモンで充分だろう。さて、切りに掛かりますか。

俺は材料を手に持ち、持てない分は『クレイジーダイヤモンド』に持たせて移動していく。

 

「さあて、いっちょやります……うん?」

 

所が、いざ切りに掛かろうとした時に、握った包丁の刃に反射して見えたモノが気にかかり、俺は後ろを振り向いてみた。

そこには、紫色に光る小さな丸型のナニカがフワフワと浮く様に漂っていて、どう見ても俺をロックオンしてる様にしか見えなかった。

コレって確か……サーチャーとかいう、遠くを見れるビデオカメラ的な魔法じゃなかったっけ?何でココに浮いてんだ?

フワフワと頼りなく、しかししっかりとした軌跡を描きながら、件のサーチャーは俺の周りを飛び回っている。

アレ?そういえば、魔法の塊の色って使う術者の魔力光がそのまま反映されるってクロノが言ってたよな?

紫色っていやあ……確かプレシアさんかリインのどっちだったよな?

一体何故俺の事をサーチャーで見てるのかてんで分からず、俺はただ首を捻るばかりだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「か、母さんダメだよ!?ゼンに黙ってサーチャーで盗み見るなんて!!」

 

母の成す所業に大慌てで異議を申し立てる娘。

だがそれを軽やかに受け流し微笑む母親の姿がそにはあった。

 

「あらあら大丈夫よフェイト♪今だってゼン君はサーチャーに気付いてるけど、別に嫌な顔したり叩き落とそうとなんてしてないじゃない♪」

 

「で、でも勝手に盗み見るなんて……お、怒られちゃうかも知れないんだよ!?」

 

所変わってコチラは大広間、そこではある親子の窘めると懐柔するのコントが開かれていた。

言うまでもなくプレシアとフェイトである。

プレシアの目の前にはサーチャーで中継されている映像が浮かび上がっており、ソコには首を傾げたゼンが映し出されていた。

ちなみにそのサーチャーを鑑賞している人物は2人だけではなく、広間に残った女性陣のほぼ全員である。

 

「ほぉ~?禅君のエプロン姿も中々サマになってるやん、そう思わへんかリイン?」

 

「……(ぽぉ~)……え?な、何かおっしゃいましたか?主?」

 

はやての投げ掛けた問いに、リインフォースは直ぐに反応する事が出来なかった。

正しくサーチャーに映る禅のエプロン姿にときめいていたからである。

熱心に、網膜に焼き付けんと精神を集中している様に見えるが、その脳内は熱に浮かされ目が離せなかっただけだ。

 

「……いやいやぁ♪別になんでもあらへんよぉ♪(くうぅ~!?ドンだけ乙女してんねんウチの娘はぁ!?可愛すぎるでホンマ!!この娘不幸にしたら絶対ラグナロクブレイカーかましたるでな、禅君!!)」

 

「そ、そうですか…………(ぽぉ~)(か、家庭的な姿も……似合うのだな)」

 

「ん~……アタシは料理してるゼンより、ゼンの作った料理が待ち遠しくなってきちゃうねぇ」

 

「いよいよなの、禅君の料理テクがどの程度なのか、翠屋の娘である私がじっくり見極めてやるの!!」

 

「わ、私も参考にすれば料理下手が治るかも知れないし……動体視力全開で見なきゃ!!」

 

リインやアルフは言うに及ばず、禅の料理している所を今まで見た事が無いメンツは、こぞって彼の料理風景を観察しようと躍起になっている。

この中で禅が料理している所を見たり、彼に教わった人物といえば、クロノ、ユーノ、プレシア、リンディ、そしてフェイトの5人だけだ。

だからこそ彼女達は、何時も美味しいお菓子を作る禅の調理の秘訣を何とか盗もうとしているのだが。

まぁ幾人かは野次馬根性の方が強い者も居る。

 

「あっ、ほらフェイト♪ゼン君がサーチャーに向かってピースしてるわよ?」

 

「え?…………ホントだ……もぅ」

 

さっきまで何とか母親の行動を諌めようとしていたフェイトだが、当の映されてる本人が笑顔でピースしている映像を見て、もういいやと思ってしまった。

全てを諦めたフェイトはプレシアの隣に座り、一緒になって禅の映るサーチャーの映像を鑑賞し始めた。

なんだかんだ言っても、フェイト自身禅のエプロン姿に少しだけドキドキしている様子を、頬を赤くすることで皆に見せている。

そして画面の向こうに居る禅は一通りピースをすると、並べられた材料の置いてあるまな板に向き直った。

どうやらココから本格的に調理に入る様である。

 

「つうか、あの小僧に料理とか出来んの?失敗して指とか切りそうなオチしか見えないんだけど?」

 

「いやいや、あんだけ自信満々に答えてたんだからそこまで酷くは無いでしょ?精々形が不揃いとかそんな感じだと思うわ」

 

と、ここで今までグレアム提督の足元で大人しく猫モードになっていたリーゼ姉妹が不安を口にした。

どうやらこの姉妹には禅が料理する所が想像出来ない様だ。

 

「あぁ、そういえば君達は知らなかったな?アイツの料理の腕前というか……その次元の違いを」

 

「え?それってどういう事ですかクロノさん?」

 

そんな姉妹の声を聞きつけたのか、離れた場所でグレアム提督と橘茂の将棋の様子を見ていた男性陣の中から、クロノが声を掛けた。

その声の中に数えられたリーゼ姉妹と八神家のメンツは首を傾げて、背中を向けたまま声を掛けてきたクロノを見る。

恐らく今クロノが浮かべている苦笑いを見えていれば、それは知らない人間を馬鹿にしている様にも見えただろう。

 

「何、言ってしまえばゼンの料理の腕前は――――アースラのコックより上だぞ?」

 

『『『『『『『『『『…………ゑ?』』』』』』』』』』

 

まるで信じられないと言った様子の声を出した八神家のメンツとリーゼ姉妹、そして技術を盗もうとしていた高町姉妹はゆっくりとプレシアの出したサーチャーに視線を送り……。

 

 

 

 

 

『(シュルルルルルルルル)ラリホ~~~♪ん~~、1ミリ単位の皮剥きって結構神経使うんだよな~~』

 

ソコに映しだされた人参から一本繋がりの長く薄い皮剥きを鼻歌交じりに行う禅の姿を捉えた。

 

 

 

 

 

ちなみにアースラのコック達の腕前は高級レストランのシェフに引けをとらないとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「まぁまぁ♪随分と上手に剥けるのね禅君?まるでテレビの曲芸みたいじゃない♪」

 

「す、凄い包丁さばきだね。僕より上手いんじゃないか?」

 

「……包丁じゃ俺にはとても真似出来ない芸当だな(小太刀でも出来るか分からんが……もしや俺、禅君に刃物捌きで負けているのか?)」

 

「へっへっへ♪どもども~~♪何時もより余計に長くしておりま~っす(シュルルルルルルルル)」

 

俺の一本皮剥き厚さ1ミリってのを横目で見ていた桃子さん達から称賛の言葉を頂いちったぜ♪

え?サーチャーですか?別に害は無いから見たけりゃどーぞって感じです。

皮を剥き終えた人参をまな板の上に置き、俺はもう一本新しい人参を手にした。

そしてソッチを皮剥きしていく間に……。

 

「『クレイジーダイヤモンド』。人参は、短冊切りにしてやんな☆」

 

『ドラララララララララッ!!(シュカカカカカカカカッ!!!)』

 

まな板の前に『クレイジーダイヤモンド』を呼んで別の包丁を持たせ、精密動作を優先して短冊切りのイメージを遂行させる。

これぞ『スタンド使い』だけが出来る人間とスタンドのコラボ、料理の並行作業!!手間が減って便利なんだぜ?

 

「……そういう使い方もアリなのかい?君の『スタンド能力』というのは?」

 

「アリなのです(キリッ)」

 

「俺達には見えないから、包丁がひとりでに浮いてる様で少し違和感があるな」

 

恭也さんは包丁の部分を見ながらそう呟くが、俺からしたら『クレイジーダイヤモンド』が包丁を握って台所に立ってるという奇妙な絵なんですけどね?

まぁスピードと疲れやすい作業は『クレイジーダイヤモンド』に任せる。これぞ使えるものはスタンドでも使えってヤツだよ。

その調子で人参を終わらせ、次はごぼうのさきがけ切りとしめじと残ってる。それにメインの肉や魚料理もやっていかなきゃな。

調味料を測り、お袋が洗ってくれた米にそれを投入して炊飯ジャーのスイッチをONする。

さぁさぁ、次は……おっ?美味そうなエビがあるし、エビチリでもしようか?

身がプリップリに詰まってそうな良く育ったエビちゃんを発見、捕獲し調理に移ります。

まずエビの殻をむき、尾はひっぱって殻を取り除く。

背に切り込みを入れて背ワタを取り除き、分量外の塩水でサッと洗って水気を拭き取り、軽く酒をまぶす。

さてここまで下準備した段階で……。

 

「士郎さーん、恭也さーん、エビチリしよぉと思うんスけど、いかがッスかぁ?」

 

一応来てる人の意見も聞いておきましょう☆。

皆が食べるワケだし、ここからならまだ別の料理に変更も可能だ。

 

「エビチリかぁ……良いね、最近中華系はあまり食べて無いから、是非お願いするよ」

 

「俺もあのピリッと舌に来る辛さは好きだし、禅君にお任せするさ」

 

「アイサー」

 

誰かのOKが取れれば即調理を開始していく。

お袋の隣のコンロを使ってフライパンにサラダ油小さじ1.5を熱し、強火でさっきのエビを炒め、赤くなったらいったん取り出す。

そのままフライパンに追加のサラダ油を加えて熱し、白ネギ、土ショウガ、ニンニクを香るまで炒めていく。

フライパンをコンロの上で中の具材が踊る様に情熱を篭め、それでいて零れ落ちない様に繊細な動きを披露する。

スパイシーな香りが立ち上ったら、玉ネギを加えて更に炒め合わせ、玉ネギが透き通ってきたらさっき取り出したエビを戻し入れる。

後はしっかりと掻き回してエビとソースを程好く混ぜ合わせれば……。

 

「お家で簡単♪本格エビチリの出来上がりっとくらあ」

 

「おぉ!?とても美味しそうだね。皿はここに出しておくよ?」

 

「あっ、どうもありがとう御座いますッス、士郎さん」

 

上機嫌に仕上げた俺の調理終了言葉に、士郎さんが合いの手と共に皿を用意してくれたのでソコにエビチリIN。

お袋はサンマのガーリック炒めを仕上げてるし、次はサラダに取り掛かるとしますか。

使ったフライパンを洗って拭き取るまで終わらせると、次の獲物を探しに俺は野菜籠へと向かった。

さてさて、次に俺に料理されてーヤツぁ誰だ?……おっ!?美味そうに丸々肥えたトマトちゃんがいるじゃねぇ~か、へっへっへ♪

ジューシーに育ちやがってぇ……誘ってんのか?そうなんだな?じゃあ後でネッチリ調理してやんよぉ、今はお前の『恋人』と一緒に冷蔵庫に入ってな!!

余りにも美味そうなトマトを見つけてしまったので、後で一番美味しい時間に食べられる様に変なテンションのままソレを冷蔵庫に投入。

一度サラダを切り上げて次なる調理に向かおうと台所に戻ろうとしたら……。

 

『おぉ~い禅!!折角だからアレを作っちゃくんねぇかーーー!!?』

 

何やら大広間から大声で爺ちゃんに呼ばれてしまった。っていうかアレって何?

 

「アレって何を作りゃ良いんだよーーーー!?」

 

同じ様に大声を返して問い返すと、程なくして返事は返ってきた。

 

『アレだアレ!!金目鯛の刺身だぁーーー!!グレアムさんが刺身を食った事ねぇっつうからよ!!俺も久しぶりに、あの皮を湯引きしたヤツを食いてぇんだ!!冷蔵庫の一番奥に金目鯛が入ってるから頼んだぜーー!?』

 

「あぁ~、アレか。分かった!!最後に作っておくぜ!!」

 

大広間の爺ちゃんに届く様に大声で返事をした後、俺は台所に戻って次なる獲物を探す。

 

 

 

 

 

……そっからも俺の超絶調理ショーは絶好調だった。

 

「ホイホイホイっと!!ピッザ・モッツァレラ♪ピッザ・モッツァレラ♪レラレラレラレラ♪レラレラレラレラ♪ピッザ・モッツァレラ♪ピッザ・モッツァレラ♪」

 

チーズの歌(作詞作曲ジャイロ・ツェペリ)を歌いながら空中にピザを片手で縦横無尽に回転させて生地を広げる!!

やりすぎて飛んでいくかも、なんて心配はハナッからしねえ!!

あの人は言ってたぜ……LESSON 3!!『回転の力を信じろッ回転は無限の力だ。それを信じろッ』ってなぁ!!

と、ゆうワケでどんどん回します☆ついでに2番、歌いマース!!

 

「ゴルゴン・ゾーラ♪ゴルゴン・ゾーラ♪ゾラゾラゾラゾラ♪ゾラゾラゾラゾラ♪ゴルゴン・ゾーラ♪ゴルゴン・ゾーラ♪」

 

「歌いながらピザ生地を回すって、随分と器用だね?……しかも片手だけで回転をちゃんと制御しているとは」

 

「…………何故かはわからないけど、無性にピザが食べたくなる奇妙な歌だな……歌詞は意味不明なのに」

 

とまぁ、ピザ生地の回転による一芸を見せたり……。

 

『……(シュッ)』

 

『クレイジーダイヤモンド』が横からゆっくりと投げた魚を空中でキャッチし……

 

「あらよっと(シュパパァンッ!!)それ(クルクルクル、パシッ!!)あもういっちょ(シュパパァンッ!!)」

 

まな板の上で包丁を一往復、その一回の往復で魚を身と骨の3枚に下ろし、包丁を両手の間で投げてパスしたり……

 

「……あの腕前なら、ウチの流派を使えるんじゃないだろうか?父さん」

 

「だ、台所限定になりそうだけど……後、得物は包丁かなぁ」

 

「複雑な気分だ……」

 

そんな派手なパフォーマンスを織り交ぜ、それでいてちゃんと作っていく俺に士郎さんと恭也さんは複雑そうな視線を送ってくる。

何かさっきから2人して流派がどうのこうの言ってるけど、なんだろね?

そうして瞬く間に魚全てを下ろし終えたので、そのまま親父の好きなシンプルな蒲焼にして終わり。

さて、また手が空いちまったけど次は何作ろうか?

 

「禅くーん。手が空いてたらで良いんだけど、コッチのメレンゲも泡立ててくれるかしら?」

 

「あっ、ういーす。そんじゃ俺はコッチを泡立ててソッチは『クレイジーダイヤモンド』にやらせますんで、桃子さんは焼きに掛かっちゃって下さいッス」

 

と、ちょうど手隙だったのを契機に、約束通り桃子さんの手伝いにも参加する事にした。

1度手を洗って料理の名残りを片付けると、そのまま桃子さんの使っているスペースに近寄り、頼まれた卵白の泡立てを開始。

更に隣にあった生クリームもついでにと思い、俺は『クレイジーダイヤモンド』を隣りに出して調理器具を持たせる。

勿論俺だけじゃなくて『クレイジーダイヤモンド』もかなりの戦力です。

 

「助かるわぁ♪私には見えないけど、『クレイジーダイヤモンド』さんって本当に色々出来るのね♪」

 

「あははっ、俺の精神力が形になった存在っすから、コイツにさんはいらねえっすよ」

 

『ドォララララララララァーーーーーーッ!!!(シャカカカカカカカカッ!!!)』

 

俺の指示に従ってホイッパーを使って生クリームを泡立てる『クレイジーダイヤモンド』だが、コイツのパワーだと数分で終わっちまう。

さっきから出したり引っ込めたりと、『クレイジーダイヤモンド』も大忙しだ。

桃子さんのデザート作りもまだ序盤、まだまだ料理は始まったばかり!!サッ!料理を続けまショウか?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「え~、それでは、お集まりの皆さん。今日はウチの息子である禅やなのはちゃん、はやてちゃん、そしてフェイトちゃんの無事と、地球の平和が守られた事に対してのお祝い、更にメリークリスマスという事で、乾杯ッ!!!」

 

親父の照れながらの音頭に続いて、全員の声がカンパ~イ!!と大広間に木霊した。

ソレと同時にグラスや瓶入りジュースを鳴らし合わせる甲高い音が鳴り響く。

調理も無事終了して、大広間に運ばれたテーブルには俺とお袋、そして桃子さん作の豪勢を極めた夕食が所狭しと並べられている。

それはもう和洋折衷とかそんな簡単なレベルじゃ断じてねぇ。

正に世界の食を一挙に集めたかの如く、節操なしに料理が並べられているんだ。

米は言うに及ばず、パンからピザ、デザートのケーキやクッキーと、一体どうやってこんだけ作ったのか調理した自分でも不思議。

ふっ、少し本気を出しちまったぜ。

何せ俺の料理を見た事がねぇ連中の反応ときたら、可笑しくて仕方なかったっての。

どうやら大広間に残っていた連中の殆どがプレシアさんのサーチャーで俺の調理風景を覗いていたらしく、俺が広間に戻ると皆口をあんぐりと開けてたからな。

はやて辺りはどうやら料理に関してはそうとう自信があった様で「男の子に負けるとは……私もまだまだっちゅう事か」なんて言って項垂れてた。

いやいや、まだまだも何も世界のレストランで働くシェフの大半は男性だぞ?

料理が出来る出来ないの話に男も女もねえからな?

 

 

 

まぁそんなこんながあったが、親父の音頭で始まった宴は盛況も盛況だ。

 

 

 

「ささっ!!グレアムさん!!ググーッといってくれや!!コイツァ香住鶴つって、コクのある旨味とキレの良い酒だ!!ぜってえ気に入ると思うぜ!!(トプトプトプ)」

 

「あぁ、これはすみません。……スンスン……ほぉ、これはとても深い香りですな。では、いただきます…………ふう、とても飲みやすいし、喉が心地良い。これはとても良い物を頂いてしまいました。それに、このキンメダイという魚のお刺身も素晴らしいです……まさか魚を生で食べる手法があるとは……」

 

「グレアムさんも刺身が気に入ったかい?まぁ魚を生で食うってのはあんま馴染みが無えとは思うが、これが酒に良く合うんだよ。それに酒に関してもそうだ。俺もヨォ、その香りが気に入っちまってな。毎度兵庫県の地元の業者から卸してもらってんのよ。」

 

「なるほど……そんなとっておきを頂いてしまって、何だか申し訳ありません」

 

「あぁ~良いって事よ!!酒ってのは1人で飲んでも味気無えし、やっぱ飲むなら相手がいなきゃつまらねえからな」

 

「ふふっ、確かにそうですね……こんなに良い物を頂いたお返しに、私の故郷イギリスで愛されているゴードンズというお酒を、今度お持ちしますよ。また将棋の手解きもお願いしたいと考えていましたので」

 

「おぉっ!?そりゃあありがてえぜ!!んじゃあ又禅を呼んでそのゴードンズってのに合うつまみを作らせなきゃな!!俺もグレアムさんといっぺんチェスってのをやってみたいと考えてたトコなんだよ!!」

 

グレアムさんは日本の料理や刺身を興味深く、そして美味しそうに食べながら爺ちゃんと将棋とかチェスについて語り合ってる。

リーゼ姉妹もそんな風に心から年相応にリラックスしてるグレアムさんを見て、スゲエ嬉しそうに笑ってた。

違う場所に視線を向ければ、力也さんは恭也さんに車の良さと楽しさを語ってるし、恭也さんもそれを興味深そうに聞いてる。

その隣りじゃ幹夫さんが本当に幸せそうな顔をしながら目の前の料理をこれでもかと平らげてるし。

なのはやフェイト、そしてはやての3人娘も隣同士で座って楽しそうにお喋りしてた。

いやはや、やっぱ宴ってのはこうじゃねぇとな。

 

「うぅ……レベルが違い過ぎて参考にならなかったよぉ……しかも美味し過ぎ……ハァ」

 

「だ、大丈夫よ美由希さん!!女は料理の腕だけが全てじゃないもの!!たった一つ負けてるぐらいで挫けちゃいけないわ!!」

 

「……そうだよね!!私達もまだこれからだよ!!シャマルさん!!」

 

「美由希さん!!」

 

何やら互いの名前を叫びながらガッシリと抱きあうシャマルさんと美由希さんの2人の姿を発見。

……料理下手ってトコでシンパシーでも感じたんスかね?

とりま挨拶しておきますか。

俺は飯を食っていた自分の席から立ち上がり、皆で飲めや食えやのドンちゃん騒ぎの中を縫う様に移動して行く。

 

「へっへ~、どうッスか美由希さん?シャマルさん?結構俺の料理も美味えモンでしょ?」

 

「「むっ!!?出たなッ!!女の敵ッ!!!」」

 

「料理の腕に嫉妬されて女の敵とか言われたの初めてだよ……っていうか感想を聞いただけじゃねーっすか?」

 

軽く溜息を吐いて苦笑いしながら、俺は可愛らしくう~と唸りながら睨んでくるお2人さんに言葉を掛けて、持ってきた瓶入りコーラを一口、口に含む。

うん、炭酸が良い仕事してらぁ……っていうか料理の腕で女の滴認定するんだったら、殆どの人が貴女方の敵じゃござんせん?

 

「つーんっだ!!料理上手の禅君には、私やシャマルさんが味わってるこの気持は絶対分からないよ!!」

 

「そーだそーだ!!そんな事、何も私達じゃなくて他の娘に聞けば良いじゃない!!その辺りが既に勝ち誇ってる様にしか感じられないもん!!」

 

「「ねー!!」」

 

ドンだけ気にしてんだか……っていうか仲良すぎじゃねえかアンタ等?

まぁシャマルさんの方はさっきの言葉通りなら相当なモンだろーし、美由希さんも大概なのかねぇ?

不用意に近づいたらガブリと噛まれそうな勢いで俺にガルルと唸ってる2人を見て溜息を一つ。

さてどうしたモンやら……おっ、そうだ。

 

「やれやれだぜ……暇な時で良かったら、この俺が料理のレクチャーでもしましょうか?もち無料ッスよ♪」

 

俺は親指で自分の事を指してアピールしながら提案する。

それぐらいのボランティアならやるけど?

だが何故か俺の言葉にコレ以上ないってぐらいの悔しそうな顔をする御二方、何でさ?

 

「ッ!?て、敵の情けは受けないよ!!私は恭ちゃんとお父さんに食べてもらうから、独学でも大丈夫だよ!!」

 

『『ぶほぁッ!!?』』

 

あっ、士郎さんと恭也さんが吹いた。

 

「そ、そうよ!!ソレに、私にだって何時でも試食してくれる心強い仲間(ヴォルケンリッター)がいるもん!!」

 

『『『ちょっと待て!?おかしいだろう、その表現(心強い仲間という意味)!?』』』

 

あっ、字余り。

 

シャマルさんの聞き捨てならねぇ台詞を聞いて目を見開きながら詰め寄るヴォルケンリッター3人。

まぁこれからも多分、きっと、間違い無くシャマルさんの実験だ、げふんげふんっ試食人をやらなきゃいけねえだろう。

それは士郎さんと恭也さんもそうに違いねえ……あんなに必死な表情で体面をかなぐり捨ててでも食べたくない二人の料理……うん。

 

「励んで下さい」

 

せめてエールは送っておこう。

 

『『『『『励むかッ!!!??』』』』』

 

俺の呟きにツッコミを返しながらも、士郎さん達は必死な顔で美由希さんシャマルさんコンビの暴走を止めようとしている。

まぁさすがに科学の犠牲にゃなりたくねえもんな……巻き込まれる前に退散っと。

そして次なる話を聞きに行く相手は……。

 

「……う~~ん(ツンツン)」

 

何故か難しい顔でフォークとナイフを握り、そのフォークで料理を突っついてるアルフが居た。

よし、次はアルフに、っていうかやめんかい、行儀がワリーぞ。

さすがに今の行動は見過ごせなかったので俺は後ろからアルフに近づき声を掛けた。

 

「おぅこらアルフ?お前なぁ、そんな風に食べ物を突っつくんじゃねーよ」

 

「え?あっ、ゼン……でもさぁ、何か良く分かんないんだけど味がしないんだヨォ、この料理ぃ(ツンツン)」

 

「あん?味がしね~だぁ?」

 

俺の言葉を聞いても尚難しい顔で料理を突っつくアルフ、だから止めろってのに。

一体何を食べてるのかと覗きこんでみて……俺は驚愕した。

ま、まさかこの世界でナチュラルにこの台詞を言う時がこよぉとは……!?そ、想像だにしなかったぜ。

だがまぁコレも世界のお約束ってヤツだと思って、Let'sいきましょう☆

 

「チガウチガウ!!トマトと一緒に口の中に入れるんデス!!」

 

俺はそう言いながら訝しい顔をしているアルフにジェスチャーを送る。

そう!!アルフがさっきから難しい顔で食していたのは……。

 

「えぇ~?トマトと一緒にぃ~?……まっ、外国の食いもんってのは所詮さぁ~~、大抵アタシ等とは味覚が違うんだよね~~」

 

いやお前外国ところか異世界、それも種族が違げーし。

つーかオムライスも外国の食べ物ですが?

そう言いながらも俺の言った通りトマトと『モッツァレラチーズ』を一緒に口に入れれば……。

 

「ウンまぁあ~~~~~~いいッ!!!??こ、これはぁあッ!?この味はぁああッ!!?」

 

こう言ってしまうのが普通なんだぜ?

そして俺の口がニヤニヤと広角を描いてしまうのもデフォなんだぜ?

 

「サッパリとしたチーズにトマトのジューシー部分がからみつく美味さだ!!チーズがトマトを!!トマトがチーズをひき立てるッ!!ハーモニーって言うのかなぁ~~!?それか味の調和っていうかーーーっそんな感じだよお~~~っ!?」

 

兎に角興奮し過ぎて言いたい事が纏まらないのか、アルフはニコニコとしながら目の前の料理を楽しげに語る。

ムフフフ、俺の自信作『モッツァレラチーズとトマトのサラダ』は大好評のようじゃねぇかぁ~?

 

グラッツェ(ありがとう)~~♪喜んでもらえてこの上ない幸せデス♪」

 

ニコニコした笑顔で言うが、アルフは目の前のサラダを食べるのに夢中になっていて俺の言葉が耳に届いていない様だ。

このままココでボケーッとしてても仕方ねぇし、別の奴等に声掛けにいくか……別にアルフに袖にされたのが悲しいワケじゃねぇぞ?マジで……ぐすん。

 

「なぁなぁどないやったんや~~?正直に白状した方が身の為やで?ユ~ノ君♪」

 

「い、いや!?だからアレは不可抗力で……!!」

 

「ん?」

 

何やら騒がしい一角があったのでソコに目を向けてみると、ソコにはニヤニヤとした笑顔のはやてと顔が赤いユーノの2人が居た。

なのはも一緒に居るが、なのはは顔を赤くして「うにゃ~」とワケの分からん声を出してる。

おやおやぁ?何やら楽しそうな状況ですねぇ~?わたくし興宮署の大いs……じゃなかった、俺様こと橘禅も混ぜて頂きましょ~か。

 

「よぉよぉお三人さん、一体何の話しだい?俺もちょいと混ぜてくれよ」

 

「あっ、禅君なの。ココさっきまでフェイトちゃんが座ってた席だけど、今はプレシアさんの所に行ってるから座っても大丈夫だと思うよ?」

 

違和感なく陽気に声を掛けながら登場した俺に、なのはもどうぞどうぞと席を開けてくれた。

俺はソレに感謝しつつ、よっこいせと座布団に腰を下ろして口を開く。

 

「サンキュ、なのは……んで?さっきからはやては何をユーノに絡んでんだ?」

 

「あぅ……そ、それはね……えと……うにゃ~(真っ赤)」

 

とりあえず会話の切り出しとして、隣に座っているなのはに聞いてみれば、なのはは又もや顔を赤く染め出した。

え?なんでなのはが赤くなるんだ?益々もって状況が分からんぞ。

そう思ってなのはではなく現在進行形でユーノに絡みまくってるはやてに目をやれば、はやてはニヤリとした笑みを見せつけてくる。

 

「ぬっふっふ~♪ほら、半年前の事件でユーノ君が女湯に入った時の話なんやけど、アリサちゃんやすずかちゃんっていう、うら若き乙女の柔肌はどないやった?ちゅう話しをしてたんや♪」

 

あっ!?その話か!?その話が出てくるのを俺も心待ちにしてたんだよ!!復讐の為になぁ!!

やっと訪れた復讐の機会を有効活用するべく、俺は滅多に回さない脳みそをフル回転させていく。

キッチリカッチリ復讐させてもらうかんなぁ~!?

そしてはやての言葉を聞いたユーノは心外だとばかりに顔を更に赤く染めていた。

 

「ち、違うんだよはやて!?アレはそうしたかったからそうなったってワケじゃなくて!!じ、事故なんだよ!?」

 

「HEYHEYユ~ノォ~?女の裸見といて事故はねぇだろぉ?男が事故って言えば済まされる時代は、1億と2千年前に過ぎてんだぜぇ?」

 

「なっ!?ゼ、ゼン!?」

 

俺ははやての出した言葉のケツに乗り、ユーノを責める言葉をニヤニヤしながら切り出す。

おいおい、何を「裏切られた!?」みたいな顔をしてんだよユーノ?先に俺を裏切ったのはお前『達』だぜ?

俺がアースラの廊下でアルフとフェイトにピチュンされそうになってた時に見捨てやがったんだからなぁ~!?

更に俺の合いの手を聞いたはやては目をキュピーンと光らせたかと思うと、溜息を吐いてヤレヤレって顔を表現しだした。

 

「確かになぁ~。ソレは禅君の言う通りやわ~。しかもアリサちゃんとすずかちゃんに加えてなのはちゃんの裸も見たんやろ?ソレを事故で済ますっちゅうのはなぁ~」

 

チラリと送られるはやてからのアイコンタクト、勿論ソレに乗る俺。

 

「駄目だよなぁ~♪(ニヤニヤ)」

 

「駄目過ぎるなぁ~♪(ニヤニヤ)」

 

「う、うぁぁああ……!?ぼ、僕は何て最低なヤツなんだ……!!僕はまるで駄目な男なんだ……!!」

 

「「このマダオめ」」

 

「うあぁあぁああああ!!?僕はマダオなんだぁあああああ!!」

 

俺とはやてのナイス過ぎる連携プレイに追い詰められていくユーノ。

終いには机の空いてるスペースに頭を置いて自分の情けなさに項垂れ始めやがった(笑)。

更には向こうで美由希さんを説得していた筈の士郎さんと恭也さんの鋭い視線がユーノを射抜いてるし。

まぁ自分の娘or妹が裸を見られたとなれば仕方ねぇよなぁ?

さぁさぁ、トコトン追い詰めてやんぜぇ~。ケケケッ!!

 

「だ、大丈夫だよ!!」

 

所が、その見られた筈の張本人であるなのははと言うと、顔を赤く染めながらも項垂れるユーノの肩を優しく叩いた。

その対応と言葉に、ユーノは後悔と自責の念に駆られまくった顔を上げてなのはを見つめる。

 

「た、確かに恥ずかしかったけど、あの時は私が無理矢理お風呂に入れたんだし、ユーノ君が男の子だって知らなかったもん!!だ、だから私はユーノ君を責めたりしないの!!」

 

「な、なのは……こんなマダオな僕を許してくれるの?」

 

その時のユーノの表情は、まるで大罪人がシスターに許しを請うかの如きモノだった。

なのははそんなユーノの表情を優しく見つめて、笑顔を向ける。

 

「う、うん。私は良いけど、でもアリサちゃん達にもちゃんと事情を話して謝ろう?私も一緒に謝るから……きっと許してもらえるよ」

 

「ッ!?だ、駄目だよ!?そ、それじゃなのはに迷惑がかかっちゃうじゃないか!?」

 

「迷惑なんかじゃ無いの。私がしたいからそうするんだよ?……だからもう自分を責めないで、ユーノ君」

 

何とも優しき言葉を言いながら、なのははユーノを優しく励まし慰めていく。

今のユーノの心境は間違い無く大罪を許され、救われた者の心境だろうよ。

 

「…………ありがとう、なのは」

 

そして、ユーノは今出来る最大の感謝を言葉にし、なのはに笑顔を見せた。

悩んでいた友達を救う事が出来たのが嬉しかったのか、なのはもユーノと同じ様に笑顔で頷いて返事を返した。

そんな2人の様子を見て「まぁ仕方ないか」といった表情で視線の剣呑とした雰囲気を解いていく士郎さんと恭也さん。

見られた本人が許してちゃ別のヤツが言う事は出来ねえからな。

 

 

 

 

 

まぁ、俺がこの状況をメデタシメデタシで終わらすワケは無いけどね?

 

 

 

 

 

この暖かい雰囲気の中、俺は手に持っていたガラス瓶入りのコーラをグビッと一口飲んでから一言。

 

「――――でもそれって桃子さんとか忍さんの裸もジックリネットリとっくりと見たって事じゃね?」

 

幸せ崩壊爆弾をBOMB☆

 

「ゼーーーーーーーーーンーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?な、何て事を言……」

 

「「ユーノ君チョット☆O☆HA☆NA☆SHI☆シヨウカ?」」

 

俺の落とした爆弾の威力に戦慄したユーノは甲高い絶叫を上げながら俺に詰め寄ろうとしたが、その前に殺意の波動に目覚めた士郎さんと恭也さんに捕獲されてしまう。

いきなり自分の肩を掴まれ、更には底冷えする程恐ろしい声を耳元で囁かれたユーノは恐怖に震えながらお2人に視線を向けた。

あれま?図らずも鬼神が2体降臨しちったぜ。いやぁ~~失敗失敗♪

 

「ヒイッ!!?ちょ、ちょっと待ってくださ、ア゛ッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!??」

 

「ユーノくーーーーーーーーーーーーーーーんッ!!!??」

 

哀れ何処かへ引き摺られて暗闇の向こうに行ってしまったユーノを、なのはがトテトテと走りながら追っかけて行った。

ケケケッ精々可愛がられてくるといいぜぇ?ユゥ~ノォ~。

あっという間の出来事ではあったが、何だかもの凄くスカッとした……心の霧が晴れた気がしたんだ。

そんな幸福感に身を委ねていると、はやてが戦慄した表情で俺を見ているではないか。

 

「ぜ、禅君。アンタ……エ、エゲツない事しよるなぁ。まさかソコに話しを持って行くとは思わんかったわ」

 

「ヘッヘッヘ。俺は借りはキチッと返しておくタイプなんでな」

 

慄くはやてに不敵に笑いながらそう返して俺はまたコーラを口に含む。

まだあと『2人』居るしよ?これから先どっかでキッチリ返しておくから楽しみにしてろや?

俺はコーラを煽りながら、残り2人の薄情者達にどう仕返しするか考えを巡らせていたんだが……。

 

 

 

 

 

部屋の中を見渡して見ると、何処にもリインが居なかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「…………」

 

部屋を出て少し曲がり角になっている廊下を曲がると、ソコにリインは居た。

彼女は廊下の外を映している窓ガラスに手を当てて、外の景色をただジッと見つめている。

その姿は、何て言うか……とても儚くて、綺麗だった。

 

「…………」

 

「よっ。窓の向こうに何かあったか?」

 

さすがに何時までもそうしてリインを見てるワケにもいかず、俺は静かにリインに声を掛ける。

大広間から少し離れた場所に位置するこの廊下はとても静かで、小さく声にだした筈の俺の言葉ですら、響く様に大きかった。

その声自体が予想外だったのか、リインはその瞳を少しだけ見開いたが、俺の姿を確認すると、口元を小さく微笑ませる。

 

「ゼンか……いや、少し外の景色を見ていただけだ」

 

「外、ねぇ?……別に珍しくもねえだろ?」

 

俺はリインの傍に歩いて近寄りながらそう返事をし、リインの隣に立って両手をズボンのポケットに入れたまま同じ様に景色を見てみる。

そこに広がるのは少し離れた海鳴市の、クリスマス用のネオンの灯りやビルの灯りでデコレートされた街並み。

これぐらいの景色なら、別に海鳴市から少し離れた場所から幾らでも見えるし、特別良い景色ってワケでもねえ。

だが、リインはそんな景色を微笑みながら熱心に見つめていた。

 

「珍しいというよりは……この景色が見れて、嬉しいのさ」

 

「嬉しい?そりゃ何でまた?」

 

よく解らなかったからか、それとも俺の気が緩んでたのかは知らねえが、俺はリインに最低な質問をしてしまった。

 

「私があのまま暴走していたら、私はこの綺麗な景色を全て破壊していた……それを止めらる事が出来たから、かな」

 

「あっ……悪い、無神経な事言っちまった」

 

そう呟いて笑うリインに申し訳なくて、俺は視線をリインから外した。

くそっ、何言ってんだよ俺の馬鹿野郎!!リインにとっては珍しい所か、やっと暴走から開放されて久しぶりに見れる景色じゃねぇか!?

そんな、ある意味じゃ特別な景色だってのにこんなの珍しくねぇだろなんて、無神経にも程があるだろ!!

今も窓の外を見つめているであろうリインから後悔している顔を隠すようにして、俺は反対を向く他無かった。

 

「……フフッ」

 

胸に渦巻く後悔と自責の念に駆られていると、微かに笑う声が聞こえてきた。

その声に思わず顔を上げると、そこには満月をバックにして俺に微笑みかけるリインの幻想に満ちた姿があった。

 

「良いんだ……それはもう終わった事なのだからな……主はやて、そして高町やテスタロッサ達が私を止めてくれた……だから、私はこの美しい景色を壊す事も無く、今もあの街は沢山の命が輝いている」

 

彼女は俺に語りかけながらゆっくりと体を屈ませて、俺と視線を平行に交わせてくれた。

突然の行動に面喰らってしまった俺に、リインは微笑みながら手を差し伸べて俺の頬にその白く美しい手を触れさせる。

 

「そして……お前の、ゼンのお陰で、私は今もこうしてお前に触れる事が出来るし、主はやての元にも帰れたんだ……お前が居なかったら私は止まる事は出来ても、あの場で消滅するしか道は無かっただろう……愛しい主と大事な騎士達を遺して」

 

リインは言葉を切って目を瞑り、片手を自分の胸に置いた状態で笑っている。

俺は何も言葉が出なかったが……それでも心に感じる確かな事は、今のリイン程美しいって存在はねえって事だけだ。

そんな事を考えていると更に時間は進み、リインは閉じていた目を開けて、その赤い瞳で俺を覗きこんできた。

 

「だから、何度でも感謝させてくれ……タチバナ・ゼン。貴方には感謝してもしきれません……貴方は闇の中で消えゆく運命だった私をその太陽の様に眩しい力で救い出し、新しい人生を歩む生命を与えてくれました……ですが、与えられたままでは私の気が収まらない。何か私に出来る事を与えて下さい……貴方の為なら私は例えこの命を賭してでも、どんな事でも致します」

 

「お、おいおい?俺は別にそんな事して欲しくてリインを助けたワケじゃ、むぐっ」

 

真剣な気持ちを俺に伝える為なのか、リインは最初の頃と同じ様に俺に敬語を使って願い事を懇願してくる。

勿論、俺にはそんな腹積りがあった訳でも無いので、直ぐにお願いなんか決まる筈も無いので遠慮するつもりだった。

だが俺の遠慮しようとした言葉は、リインの人差し指を俺の口に添えるという妨害で阻止されてしまう。

その動作に目を見開いて驚く俺を柔らかな微笑みを浮かべてリインは見つめてくる。

ヤバイ、月の光がリインの長くて綺麗な銀髪に反射されて、しかもそんな慈愛に満ちた笑顔浮かべられたらまるで本物の女神そのものじゃねぇか。

月の光がスパイスとなってリインを彩るその光景は、月の光の加護を一身に受けている『かぐや姫』の様でもあり、幻想的かつ魅惑的な女性を体現していた。

 

「お前はそうであっても、それでは私の気が収まらないんだ……それに、『祝福の風』という名を主から受け賜わった身としては、お前にこそ私からの『祝福』を受け取って欲しい……駄目か?」

 

「ぐっ!?……そ、そう言われたら、受け取るしかねぇじゃんよ」

 

そして中々OKを出さない俺に対して、リインはその瞳を少しだけ悲しそうに歪ませて俺を見つめてきた。

だが口元は少しだけ無理をする様に笑うという、所謂泣き笑いの表情をする。

SHIT、今度は泣き落としじゃなくて情に訴えてくるなんて……ほんとズルイぜ、リイン。

女からの想いが詰まった祝福を受け取らない=男の風上にも置けないんだぜ?これじゃ俺が受け取らないなんて無理だ。

もうどうにでもな~れ、という気持ちに従い、俺は両手を上げて降参のポーズをリインに送った。

そんな情けない俺を見つめて満足そうに笑うリインの姿が、俺の心を激しく揺さぶる。

 

「ふふっ、お前の罪悪感を利用する様な遣り方を取ったのはすまないと思うが……私はそうしてでも、お前に何かをしてあげたい……私の様な酷い女で良ければ、この祝福したいという気持ちを……受け入れてもらえないだろうか?」

 

「コラコラ、自分を卑下する様な台詞はもう言わねえって俺と約束しただろーが?……これはリインには罰ゲームが必要だな、うん」

 

今のリインの言った言葉に、俺は呆れ顔を見せながらも、心の中ではニヤリとほくそ笑んでいた。

まったくよぉ、俺との約束を破っちまっうなんて酷い事しやがるぜ。

俺の言葉に自分の言ってしまった台詞とアースラで交わしたあの約束を思い出したのか、リインはその綺麗な顔に赤みを増して、その端正な瞳で俺を見つめてくる。

 

「ぁっ……そ、その……手加減、してもらえると……有難い」

 

リインはそう言いながらも、中腰になって屈んでいた体を廊下に座らせて、俺を上目遣いに見上げてきた。

今この廊下で月の光を浴びて輝くリインが儚げな瞳で俺を見上げてくるとか……色々と限界です。

しかし俺はその感情をなるべく表に出さない様に心がけ、ズボンのポケットに入れていた『品物』に手を掛けた。

何時どんなタイミングで渡そうか迷ってたけど……こりゃちょうど良い、この罰ゲームを利用させてもらうとしようか。

 

「さあて、そいつはどうかね?そんじゃあまず一つ目の罰ゲームだが……リイン、目を瞑れ」

 

「ひ、一つ目、か?……わ、分かった……(スッ)……これで良いのか?」

 

「おう、そんで、俺が良いって言うまで目を開けちゃ駄目だぜ?オーライ?」

 

俺の言葉に少しばかり身構えながらも、リインは俺の言った通りに目を瞑ってくれた。

そうやって目を瞑った体勢のリインに俺は目を開けない様に念を押すと、リインは戸惑いながらもコクンと首を縦に振る。

良し、コレなら問題無く渡せるってモンよ。

俺はズボンのポケットからさっき家で作っていた『贈り物』を取り出して、それを前から通す様にリインの首に掛けていく。

 

「んっ……な、何をしてるんだ?ゼン……み、見えないと、思わず身じろいでしまうんだが……」

 

ポケットから取り出された品物のチェーンがチャラチャラと軽い金属音を出し、それがリインの首に触れたのか、リインは小さく声を洩らして身動ぎした。

おっとっと、コレが何か気が付かれねえ内に『着けて』やらねえとな。

そうじゃねえとリインの目を瞑らせた意味がねえし、コレを見た時の驚きも半減になっちまう、

なるべくリインに刺激を与えないよう、且つササッとチェーンを首の後ろに通すと、首の後ろでチェーンのフックがカチリと音を立てて嵌った。

 

「ふぅ……OKだ。もう目を開けてもいいぜ」

 

俺の言葉に従って、ゆっくりと目を開いてルビーの様に美しい瞳を開いていくリイン。

だが完全に開いたその目は、僅かばかりの焦燥に彩られていた。

へへへっ俺が何をしたのかスゲエ気になってるって所か。

さっきから自分の身の回りを見渡して何か変わってないかとキョロキョロするリイン、この純粋とゆーか純朴なトコが可愛いのよ。

 

「な、何をしたんだ?どうにも気になって落ち着かな(チャラッ)……え?」

 

遂には俺が何をしたのか分からず、不安そうな声で聞いてきたリインだったが、自分の首元で鳴った『金属音』に驚いて自分の胸元をゆっくりと見つめる。

灯台元暗しってのはこーゆう事を言うんだろーなぁ、俺が『着けた物』はリインの首元にあるってのによ。

そして、音の発生源であるモノを見つけたリインは、ソレが何なのか認識すると段々と表情を驚きのモノに変えていく。

俺は目の前で驚いて声を失っているリインの顔を笑顔で見つめながら、声を出した。

 

「2つ目の罰ゲーム、それは……その『ネックレス』を受け取る事、だ。返品もクーリングオフも受け付けねえからな」

 

彼女の首元、白いセーターの上で月の光を浴びてキラキラと輝くネックレスを指さしながら、俺はリインに罰ゲームの内容を言い渡す。

そう、このネックレスは俺がリインにプレゼントしようと思って爺ちゃんの家に来る前に作り上げたモノだ。

太すぎず細過ぎないシルバーのチェーンのトップアクセサリー部分にはトップ部分を挟み込む様に、左右対称に一粒ずつ10ミリのブルールチルクォーツのカットを配置。

更にそのブルールチルの外側にもう一粒ずつ、今度はターコイズブルーの天然石を入れておいた。

その2つの天然石に両側を挟まれてるトップは、鳥の羽をモチーフにしたシルバーアクセを組み込んでオシャレ度をアップさせている。

しかも鳥の羽をモチーフにしたアクセの真ん中にも、ブルールチルの小さい丸玉が入ってる俺のイチオシの一品だ。

青系で固められたアクセサリーだが、それは自己主張が強くならない様に全体的に小さく作ってあるにも関わらず、リインの魅力を損なわない様に綺麗に調和していた。

うんうん、俺の見立て通りやっぱリインにゃアクセを一つ着けても違和感はねえな。

いや寧ろ着飾る事でリインの魅力を大幅にUPUPしてるぜ♪

 

「ゼ、ゼン……これは?」

 

満足げに頷いてた俺に、リインは呆然とした声を出しつつ胸元のアクセサリーを手で掲げて俺に問いかけてきた。

リインの持ち上げたトップスに着けられたブルールチルは、天から降り注ぐ月の輝きを受けて、中の石が揺ら揺らと青色に揺らめいている。

いやいや、これはって見たまんまだろうに。

 

「俺からリインへのプレゼントだよ。リインにゃそのネックレスが良く似合うと思ってな」

 

「わ、たしに?…………ッ!!?だ、駄目だ!!コレは受け取れない!!は、外してくれ!!!」

 

少しばかりの恥ずかしさから鼻の下を指で掻きながらそう答えると、リインは今度こそ表情を驚き一色に染めて、そのアクセのトップを両手で大事に扱うように俺に向けて差し出しながら凄い勢いで首を左右に振った。

その少しばかり必死な勢いに、俺はポカンと口を開けて呆然としてしまった。

 

「へ?……あ、あぁ~~悪い。もしかして気に入らなかったか?」

 

リインの余りにも過敏な反応に俺は作ったネックレスがリインの気に召さなかったのかと思い、表情を暗くしてしまう。

チクショ~……リインにゃ良く似合うと思ったんだがなぁ、まさかそこまで嫌がるとは……。

 

「ち、違うッ!!!?気に入らないワケがないだろうッ!!!そうじゃないんだッ!!!」

 

だが、俺の予想した答えとは違う答えが、目の前の必死な表情のリインから帰って来たではないか。

え?き、気に入ってるなら何故に外せとおっしゃるんすか?

リインの言ってる事の意味が分からず首を傾げていると、さっきからずっと必死な表情を見せているリインが段々と泣きそうな顔になっていく。

 

「こ、こんなに素敵な首飾りを贈ってくれたのは本当に嬉しい、心からそう思ってる……だ、だが駄目なんだ。こんなに高価なモノ、お前から受け取る事は出来ない。だ、誰か別の……テスタロッサか、アルフに渡してやってくれ……私には、こんな素敵なモノを受け取る資格は無い……頼むから……外してくれ」

 

彼女は泣きそうな、いや涙声でそう言って、俺にネックレスを外すよう催促してくる。

そんなリインの姿を見ている俺はというと、誰が見ても『もうワケ分からん』って顔をしているだろう。

内心リインの言ってる意味の半分も理解できなかったしな。

でもリインが俺に伝えたい事の意味を理解しないと先へ進まないので、余り使わない脳みそをフルに働かせた。

え?え~っと、つ、つまりぃ?このネックレスはリイン的にスゲエ気に入ってるけど、こんな高価なモノを受け取る事は出来ないって事か?

改めて頭の中でリインの言ってる事を整理してみるが、要はネックレスが高い品物に見えるから受け取れないと?そういう事だな。

後、「こんなに素敵な首飾り」って台詞は間違いなくあのネックレスを気に入ってくれてる証しだ。

その後に、何故か泣きそうな顔で「アルフかフェイトに渡せ」ってのは……ホントは渡したく無いけど、自分が貰うワケにはいかないから咄嗟に出した台詞への後悔か?

成る程ね、言いたい事は大体だが良く分かった……けど駄目だな。

頭の中で考えを纏めた俺は、目の前でネックレスを両手で大事に渡してくるリインの手に自分の手の平を重ねて、ゆっくりとリインの胸元に戻してやる。

 

「そのお願いは聞けないな。駄目だね……このネックレスは、俺がリインの為だけに作った特別な代物なんだからよ」

 

「ッ!!?お、お前が、作った?……コレを……わ、私の……為、に?」

 

目の前で泣きそうになっているリインに笑顔を浮かべて口にした言葉はリインにとってかなりの衝撃だったらしく、リインは手の力を抜いて手を床に下ろしてしまう。

そんな彼女に俺は変わらず笑顔を浮かべ、今は俺の手の上で輝いてるネックレスのトップ部分に付けられたブルールチルクォーツという天然石をリインの目の前に翳した。

 

「おう。アルフの為でもフェイトの為でもねえ……このネックレスは、リインのこれから始まる新しい人生を『祝福』する為に、そして今日、12月25日に新しい人生を歩み始めたリインへのクリスマスプレゼントとして作ったんだ……だから、リインが受け取ってくれねえとその……俺が困る」

 

「…………ぐすっ……う、うぅ……!!」

 

俺の優しく語りかける言葉に感極まったのか、リインはその宝石よりも価値があって、宝石の様に綺麗な瞳からポロポロと大粒の涙を零して静かに泣き始めた。

おいおい、何もプレゼントしただけで泣く事はねーだろ……俺はリインの笑顔が見てーからコレを贈ったんだぜ?

だから俺は何が何でも、お前に笑ってもらうからな。

今や泣きじゃくるリインに対して俺は片手でネックレスを持ち直し、リインの両目から流れ落ちる涙を親指で優しく拭きとっていく。

 

「……このブルールチルクォーツって石は、悪霊や災難から身を守る力があってよ。心を静めて落ち着かせ、精神の成長を助けてくれるんだ……もし、リインが今までの悲しい記憶に苛まれても、過去に押し潰されない様にって願いを篭めて入れたのさ」

 

手の平の上で月の光を浴びてゆらゆらと光るブルールチルをリインに見える様にしながら、俺は嵌め込んだ天然石の持つ意味と力を伝える。

俺の入れたブルールチルは焼き加工が施してあり、中に内包されている鉱物は透き通るディープアクアブルーに変わっていて、まるで(オーシャン)の様な優しい揺らめきを見せていた。

天然物のルチルじゃなく、焼き加工されたブルールチルを入れたのは、この先の人生、母なる(オーシャン)に包まれる様な安らぎをリインに贈りたいって意味でもあるがな。

 

「もう一つの石はターコイズブルー……12月、つまり今の誕生石だ……これはな?人生の旅を祝福し、幸運を授けてくれる石とも言われてる。人から贈られることで、さらに神秘的な力を発揮し、持ち主を護るともな……」

 

俺は今も泣き続けてるリインに静かに言葉を重ね、涙を零したまま上目遣いに俺を見続けているリインの胸元に、優しくネックレスを下ろした。

そのまま視線を起こすと、立ち上がった俺からしたらちょうど良い位置にあった泣いている彼女の頭をゆっくりと撫でる。

もうリインは俺の顔を見てはおらず、今は顔を俯けてしゃくりあげるだけだ。

それでも構わず、俺はリインに伝えたい事を言葉に乗せて更に紡いでいく。

 

「こっから先の人生は、全部リインの好きに生きれば良いと思うぜ。今までのしたくもない破壊なんかせずに、優しい主のはやてと幸せに生きれば、な?それが、リインを助けて良かったって俺が心から思える事こそが、俺に対しての祝福になるんだぜ?……俺はそのこれから始まるリインの人生を俺なりのやり方で祝福したかったから、その意味を篭めたネックレスをリインに贈ったんだよ」

 

「う……くっ……うぅ……ッ!!お、お前はッ……ど、れだけ……私を泣かせれば……気が済むん、だ……ッ!?」

 

ポロポロと大粒の涙を流しながら、顔をクシャクシャに歪めて俺に問うリイン。

どれだけ?そんなモン決まってんじゃねぇーか。

 

「悲しくて出る涙じゃなくて、嬉しくて出る涙なら、ずっと泣かせ続けてやるよ」

 

「……うぅ……ぁあぁああ……ッ!!」

 

俺はまるで子供の様に泣き続けるリインに優しく語り掛けながら、彼女がこれから先も幸せになれる様に祈った。

こーゆう、大切な人の為に命を賭けれる女こそ、幸せになるべきなんだよ。

何百年という気が狂いそうな時間を悲しみに染め続けてきたリイン。

俺はその悲しみから助け出す事が出来たのを誇りに思ってるし、後悔もしちゃいねえ。

俺はただ、この自分の胸ん中にある誇りっていう『想い』を『形』にして、リインに贈りたかったのさ。

 

「……ぐじゅっ……すんっ…………良いん、だな?」

 

「ん?何がだよ?」

 

そんなこっ恥ずかしい事を心の中に思い描いていると、リインは鼻を啜りながら俺に声を掛けてきた。

だがその言葉には主語が入っていなかったので、俺が怪訝な顔をして問い返すと、リインは涙に濡れた瞳を再度俺に向けて見つめ直した。

 

「もぅ……何を言われても……返さないぞ……あ、後でどれだけ言われても、絶対に渡さないからなッ……それでも、良いのか?」

 

少しだけ俺の瞳を覗き込む様な目を向けて紡ぐリインの言葉……多分これは、リインなりの最終通告なんだろう。

返さないってのはつまり、今渡したネックレスを取り返すなら今しか無いぞって意味だと思う。

やれやれ、遠慮が強いってのも考えモノだな。

そうやって今が俺が取り返すラストチャンスと警告しつつも、リインは胸元のネックレスを取り上げられまいと、大事に両手で抱えている。

言ってる事とやってる事が違うってリインさん……萌えるけどな、その仕草。

そんな男心を擽る萌え萌えな仕草をしてくるリインに、俺は瞳を見つめながら笑顔でウインクを贈る。

 

「HEYBABY。俺は最初に言った筈だぜ?『返品もクーリングオフも受け付けねえからな』ってよ?……そのネックレスに篭めた俺の願いを言葉にして贈るなら、こうだ……Hail 2 U(君に幸あれ)

 

ふっふっふ、一度はこ~ゆうカッチョイイ台詞を言ってみたかったんだよなぁ!!

しかし俺の最高にクールな決め台詞を聞いたリインは、ポカンとした表情から一転して小さく笑い出した。

あれ?もしかして今の盛大に滑った?

 

「……あ、あははっ……お、お前には……『君』という言葉は少し、似合わないんじゃないか?……ふ、ふふふっ」

 

ど~やら俺の渾身の決め台詞はお気に召さなかったご様子です♪

く、くうぅ……や、やっぱ俺には『君』なんて言い回しは似合わなかったか……最後の最後で滑っちまったい、ちくせう。

目の前で小さく、しかし心底面白そうに笑うリインを見て、少しばかり不貞腐れたくなってくる。

 

「ケッ。ど~せ俺にゃあ気障な言い回しは似合いませんよ」

 

「す、すまない。馬鹿にしたワケでは無いんだ……お前の気持ちも、その言葉もとても嬉しいよ…………ありがとう♡ゼン♡」

 

自分の失態を見られてブスッとした顔になる俺だったが、その後にリインが言ってくれた言葉は純粋な感謝の篭った言葉だった。

今までの様に儚く微笑むのとは違う、心から嬉しさに満ち溢れた笑顔のオプション付きで。

あ~もう……その笑顔が俺に向けられただけで、さっきの不貞腐れた気持ちなんか何処かへ消えてしまう俺はキャッシュなんだろーか?

チクショウ、参った。可愛いは正義だぜ。

ただまぁさっきはやてに言った通り、俺はやられっぱなしってのは嫌なタチなんで……仕返しはするがな?

その為なら、羞恥心なんぞ虚数空間へとブン投げられる男だぜ、俺は?

 

「……まっ、リインのスゲエ可愛い笑顔と泣き顔が見れたんだし、むしろお礼を言いてえのは俺の方だがな?」

 

「んっ……そ、それは忘れてくれ……思い返しただけで、顔から火が出そうだ」

 

肩を竦めて放った俺の言葉にさっき自分が取った行動を思い返したのか、リインは恥ずかしそうに顔を赤く染めて視線を右往左往している。

そのナイスなバディもソワソワと落ち着きなくモジモジと揺らしていた。

見た目は大人の美女だってぇのに、こんな初心な反応をしてくれる女性が他に居ようか?断じて居まい!!(力説)

だからもっともぉっと意地悪してやろう☆

 

「くくっ、あの大事なモノを取られまいって必死な顔。とても可愛かったぜ?出来ればもっと、それこそずぅっと眺めていたかったぐらいによ……だから、忘れてってお願いは却下♪」

 

「なっ……あ、うぅ……ふ、普段は優しい癖に、こんな時は本当に意地悪だな……」

 

「そりゃ仕方ねえよ。普段の微笑んでるリインも凄く可愛いけど、イジメた時も普段とギャップがあって可愛いからなぁ♪……だからついつい苛めたくなっちまう」

 

「うっ……ぅぁ……お、お前と言う男は、何故そうも恥ずかしい事を平然と言えるんだ……私ばかり恥ずかしくて、不公平じゃないか(モジモジ)」

 

俺の可愛いというワードのラッシュを食らったリインは、今や完熟トマト並に赤くなってしまった顔を隠す様に俯けてしまった。

彼女の魅力的な体もソレに追従するように、正座した足の上で組まれた指が所在なさげにもにゅもにゅとしてる。

この月明かりしかない廊下でも良く見えるぐらいに赤くなった耳がもうベリー・ベリーGOODだぜ。

やっぱリインが恥じらってる時は身悶えしそうなぐらい可愛い。

しかもリインみてーなナイスバディの美女がそうやって初心な仕草をするのは、もはや凶悪レベル以外の何者でもないぜ!!

俺の言葉に恥じらいを見せるリインの仕草を堪能した俺は、ここらで止めておこうかな~と思ったんだが……。

 

 

 

「……そ、そこまで言うのなら……」

 

「ん?」

 

どうにも俺はリインを追い詰めすぎてしまったらしく……。

 

 

 

「……わ、私が……可愛いと言う……お前の言葉を……私に……し、信じさせて、欲しい」

 

「……へ?」

 

「だ、だから……見ていて、くれ……『お前と同じ目線の』……私をッ……(パアァッ)」

 

この戦いは延長線に入る様だ。

 

 

 

リインの突拍子の無い言葉に呆けていると、リインは唐突に赤く染まった顔を上げて決意に溢れた目をしながら、軽く深呼吸をし始めた。

え?いやちょっ?何するつもりですか?

俺の心に現れた疑問を言葉にしようとした瞬間、目の前に居たリインが淡い光に包まれて……。

 

 

 

 

 

「……ど、どう……だ?(モジモジ)」

 

 

 

 

 

一瞬で光が収まると、フェイト達と同じぐらいの背格好の『銀髪の少女』が、ソコに居た。

 

「……ファンタスティック」

 

余りにも急展開過ぎる目の前の光景に対して、俺はそれしか言えなかった。

俺の目の前で恥ずかしそうに手を後ろに組みながら体をモジモジとさせているのは、間違い無くリインだ。

腰まで届く、闇夜に映える銀色に輝く髪、まるで宝石を埋め込んだかの様に綺麗な輝きを放つ真紅の瞳。

その全てが、目の前の女の子がリインである事を証明している。

 

「……そ、その……この姿は、お前のお眼鏡に……叶う、だろうか?……教えて欲しい」

 

リイン(少女vr)は自分の言ってる事が恥ずかしくなってきたのか、一度キュッと目を瞑るも、真っ直ぐな瞳で俺を射抜いてくる。

一方で俺はというと、余りの事態の急速化、そして目の前の少女が見せる仕草に……心を奪われていた。

こんなの、俺には予測も出来なかったってぐらいの……衝撃だ。

 

「……妖精(フェアリー)かと思ったぜ……俺の想像、リインへ向ける褒め言葉なんざ、どれだけチープなものかって理解したよ――」

 

 

 

 

 

――絵にも描けない美しさってヤツに出会っちまった。

 

 

 

 

 

大人vrのリインもそうだぜ?もはや世の女性の憧れる部分だけを集めた様な美の塊と言っても過言じゃねえ。

でも、そこに神が奪ったであろう幼さが舞い戻ると、それは過去に失われた可憐さが加わるって事だ。

間違い無く、この廊下の唯一の灯りである『月の加護を受けたかぐや姫』そのものだ。

あぁ、一生に一度出逢えるか分からない、いや出会えない確率の方が爆裂に高い出逢いを、俺は今体験している。

これはまさしく俺の生涯で一番の……黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)ってヤツだ。

 

「ッ!!??……よ、喜んでもらえたなら、私は本当に幸せだ……けれど……」

 

と、俺が今まさに、目の前に現れている妖精に想いを馳せていると、件の妖精さんは小さく、そしてゆっくりとした足取りで俺との距離を詰めてくる。

リインがゆっくりと近づいて来る中、俺はただその場に立ち止まって呆然とその様子を見る他無かった。

しっかり意識してないと呼吸するのも忘れちまいそうなんだ。

今、自分が気絶しない様にしっかりと意識する事に夢中な中で、リインは遂に俺との距離を拳2個分の位置まで縮めると、顔を上げて上目遣いに俺を覗き見てきた。

俺を見つめる潤んだ真紅の瞳、プルンと瑞々しく潤った可愛らしい唇、今は俺よりも小さく守ってあげたくなる背丈、淡く桜色に染まった頬、あどけない顔付き、リインの全てが俺の心を狂わす。

あぁ、駄目だリイン、お願いだから止めてくれ、お前にそんな目で見られたら俺は……!?

 

「こ、言葉だけでは、もはや足りないんだ……もう、心が、満たされない……お、お前が私の事を本当に……本当にか、可愛いと……思ってくれているのなら……それなら」

 

リインは時折恥ずかしそうに言葉を止めながらも、少しづつ俺に自分の想いの丈をぶつけてくる。

どこまでも真っ直ぐで、どこまでもピュアで、どこまでも眩しい想いを。

駄目だ、マジでそれ以上言わないでくれ。もうホントに俺はコレ以上お前の可愛いトコ見せられたらもう……!?

 

「私の感じた事が、思い上がりでは無いのなら……私に、慈悲を……お前が嫌じゃ無ければ……テスタロッサやアルフにした様に…………私の……私の、事を―――」

 

 

 

 

 

――可愛がってくれ。

 

 

 

 

プッツン。

 

 

 

もう我慢出来ねえぇぇぇぇえええええええええええええッ!!!!!

 

 

俺は自分の頭を駆け巡る欲求に従って、目の前で俺を見つめるリインの体を抱き寄せた。

アースラの中でアルフやフェイトにした様に、壊れ物を扱う様に優しく、そして離さない様に手を腰と背中に回す様にだ。

そこまではアルフとフェイトに遣った事と一緒だが、俺はもう色々と我慢出来なかった。

何時もならそこから優しく髪を梳く様に手でゆっくりとリインの頭を撫でてやるのが、フェイト達にした事。

だが俺は、腰に回していた手をリインの後頭部に回して、彼女の頭を、いや顔を引き寄せる。

 

「ふぁっ!?……ゼ、ゼ(CHU!!)んんっ!!?」

 

「ん……んうぅ」

 

そして、暴走した俺は、後頭部に添えた手で頭を撫でずに、震えるリインの唇を奪った。

半年前にフェイトと別れた時にした様な、唇をむしゃぶるバードキスを、リインの唇の柔らかさを堪能する様に何度も啄ばんでいく。

 

「んっ!?ちぅ、ちゅっん……ぷぁっ!?ゼ、ゼン待っ(チュル)むぅっ!?んん!!まっ……まっふ(チュウウウッ)んんんん~~!?」

 

驚いて離れようとするリインの行動を良しとせず、後頭部に添えた手でリインの頭、いや顔を引き寄せて、俺は更に彼女の唇と深く繋がる。

俺の行き成り行った常識外れの行動に、リインはその真紅の瞳を見開いて驚愕を顕にするが、俺はそんな彼女には構わずにひたすら唇を貪った。

繋いだ唇の端から漏れる驚く声も、その声を欲して極上のワインを飲み干すかの如く、俺はリインの事が愛しいって気持ちに心を支配されていたんだ。

リインの唇から口へ伝わるストロベリーの様な濃厚な甘みが胸中に止めどない欲求を誘い、俺のキスを更に加速させていく。

最初こそ、俺の行動に戸惑っていたリインは俺の為すがままに体を預けていたが……。

 

「ん♡……ちゅう♡……んぁふっ♡……うぅん♡……ゼン♡……んむぅ♡」

 

リインも段々と見開いていた目を蕩けさせ、俺の体の中に一緒に抱きしめられていた腕を俺の背中に回すと、リインも俺の事を抱きしめてきた。

そして俺の唇を啄むタイミングに合わせて、リインも俺の唇を味わう様に吸い付いてくる。

互いに口をひたすらに動かして、ただ一心不乱に互いの唇を味わう事、5分を超えた時……。

 

「「ん……ぷはぁっ……」」

 

俺達は、同時に唇を離して、互いに大きく呼吸をした。

俺は呼吸が少し乱れてる程度だったが、リインはもはや立っていられないのか、全身を俺に預けてグッタリとしている。

お、俺の心をここまで乱すとは……ほ、本気で今のリイン可愛すぎるだろ。

段々と冷静になってきた頭でそんな事を考えていると、俺の胸に頭を預けていたリインが顔を起こした。

 

「ハァ……ハァ……こうして欲しいと願ったのは、私だが……ず、随分、強引なんだな……あんなに、激しく貪るなんて……腰が抜けてしまったじゃないか……」

 

そうやって俺を責める様な口調で窘めて来るリインだったが、俺は逆にその言葉を聞いてリインに言うべき言葉を思い出した。

ったく、あんな凶悪に可愛い仕草ばっか見せつけやがって……我慢にも限界があるっつの。

そんな非難が心の中に浮かぶも、それを口に出すことはしない。

今言うべき事はそれじゃねえからだ。

 

「……俺がリインの事を可愛いって思ってるHEARTの鼓動は、嘘じゃねえって信じて貰えたか?」

 

リインの赤く蒸気した顔を隠そうとする一房の髪を優しく手で払いのけながら、俺はリインに笑顔で言葉を投げ掛ける。

ソレと同時に俺の胸に収まっている彼女を少しだけギュッと引き寄せ、リインの耳元に俺の高なる心臓の音を聴かせてやる。

俺の言葉と心臓の鼓動に呼吸を整えながらも、リインは頬を赤く上気させたまま、可愛らしい笑顔を俺に向けてくれた。

 

「ハァ……ハァ……ぅん♡……充分、身に……心に沁みたよ♡……幸せな気持ちが♡……溢れてしまう♡……キス♡……嬉しい♡」

 

「……へへっ、そっか。そいつぁ何よりだぜ」

 

そう2人で言葉を交わして、俺達は互いに微笑んだ。

今、この静かな廊下で、俺とリインの間に暖かくて優しい空気が漂っている。

あぁ……何て心安らぐ空間なんだ。

闇の書とのバトルが終わり、リインフォースという1人の女の子を糞タコ野郎から助けて、親父達にスタンド能力を話して……色んなことがあった一日だった。

これから先、遣るべき事が沢山あるかも知れねえし、また闇の書みてえな相手と戦わなきゃいけねえ時もあるかも知れねえ。

でもまっ今はこのほっこりと心休まる時間を味わいてえモンだぜ。

と、これから先の未来の事に想いを馳せていると、胸元に何やらグニグニと触られる違和感を感じて、胸元に視線を下ろしてみた。

 

「あ、あの……ゼン?……そ、その(モジモジ)」

 

俺が視線を下ろした先には、何やら人差し指をモジモジと俺の胸元に這わせる恥ずかしそうなリインが居た。

その指と同じ様に彼女の視線も俺と俺の胸元をあっちこっちへモジモジと行ったり来たりしている。

一体どうしたんだろう?と胸元に居るリインをジーっと見つめていると、俺の視線に気付いたリインは恥ずかしそうに口をモゴモゴさせて……。

 

 

 

 

 

「え、ええと、な?…………も……もっと……キスして♡……もっと……お前に、可愛がって欲しいんだ♡……お、お願い♡」

 

 

キュゥウウンッ♡♡

 

 

 

俺の胸でクネクネと動かしていた人差し指で俺の胸をチョンチョンと弱々しく突っつきながら、さっきの愛情表現を恥ずかしそうにもっととおねだりしてきた。

恥ずかしさでショートしそうなのか、リインはそれで言葉を切り、顔を俯けてしまう。

だが、リインの感情は、彼女の綺麗な銀色の髪の隙間から見える真っ赤な耳がダイレクトに伝えてくれたよ。

 

「……決めた、もー決めた、今決めた。俺は、今夜もう絶対にリインを離さねえ、一晩中ドロドロに蕩けるまで可愛がってやるから覚悟しとけ」

 

「ひ、一晩中も?……あぁ♡……良いよ♡……私を……お前の情熱の炎で、溶かしてくれ♡」

 

その胸にキュンとくる仕草をする妖精さんを俺は笑顔で迎えながら、返事の代わりに彼女の頬に手を添えてリインの目を見つめる。

俺の行動の意図を把握してくれたリインは、俺の首に自分の腕を回して、再び瞳を蕩けさせながら俺と同じく唇を近づけた。

俺とリイン、2人の唇が互いの吐息を感じる距離まで近づき、俺達の唇同士が深く繋がろうとして……。

 

 

 

 

 

グシャァァアアアアアアアアアアンッ!!!!

 

 

 

 

 

廊下の先に有る襖が盛大な音を立ててバラバラに吹き飛ぶ現場を目撃した。

え?

 

「…… What happened?」

 

余りの事態に呆然とした声でイングリッシュが出てしまう俺だった。

だが、その理解出来ない気持ちはリインも同じようで、俺の胸元に抱きつきながらポカンとした顔をしてる。

そして、呆然とした俺達に構わず事態は進み、吹き飛んだ襖が本来あった木造りのレールを跨いで……。

 

 

 

「……」バチッ!!バチバチバチバチッ!!!

 

「……」ゴキッ!!ゴキゴキゴキッ!!!

 

マジヤバなスパークを散らす雷神様と、地上最強の生物ですらデコピンで倒しそうな拳闘士様が光臨した♪

っていうかフェイトとアルフのお二人様です、ぷぎゃー。

もはや戦闘というより殲滅を主としようとしてるお二人様ですが、その殺気はカンッペキに俺をROCK ONされてます。

この月明かりしか無かった廊下にフェイトのバルディッシュから出ている雷光が、静かに歩いてくる2人の顔を照らしだした。

 

「……」バチッ!!バチバチバチバチッ!!!

 

「……」ゴキッ!!ゴキゴキゴキッ!!!

 

ハイライトが一切入っておりませんですね、イヤーン☆

もう完全に俺の心境は諦めの境地に入ってるし逃げるなんて無駄な努力は致しませんが、一個だけ聞きたい。

 

「…………どうやって見てらっしゃったんですか?」

 

ここって完全に大広間から死角なんスけど。

 

「「……(スッ)」」

 

俺の震えた言葉に何時もの可愛らしいボイスも返さず、2人はただ無機質に、機械の様に今ブチ抜いてきた大広間の中を指差した。

その向けられた指に従って広間の中を覗いてみれば……。

 

「う、うぅ……に、逃げるんや、禅君……『射程距離』に入っ、た……ら……お終いやッ」

 

「あ、あんなの止められねーって……ヤバ過ぎだろ……おげっ」

 

「……こ、これが、テスタロッサの『本気』……なのか?……死神の様に、気配すら……感じ、られなかっ……(ガクッ)」

 

「……ぐっ、ぐうぅ……なんと重くも鋭い拳だ」

 

「わ、私の最高硬度、超複合術式の結界が……紙みたいに……術式、も……無理矢理、突破され……(ガクッ)」

 

ソコには、和気藹々とした光景ではなく、死屍累々な光景が広がっていた、じーざす。

俺に向かって苦しげに逃げるよう言葉を掛けてくるはやて他、ヴォルケンリッターの面々がバリアジャケット姿で畳の上で大の字に倒れているではないか。

しかもそのバリアジャケットは所々が痛々しく破れて見るも無残な姿に変わり果てている。

なのはやクロノはというと、親父や士郎さん達と一緒に隅っこでガタガタ震えていた。

俺も出来る事ならソッチ側に行きてえぜ、切実に。

幹夫さんに力也さんの2人なんか、驚きで腰を抜かしたのか、這いずるように部屋の端っこへ避難している。

視界の端ではグレアムさんが泡吹いて痙攣してて、リーゼ姉妹が大慌てで介抱してるし。

え?マジで何この惨状は?っていうか2人がどうやって俺達の甘い甘~~いKISSを見ていたかの答えは何処に?

 

「ガッハハハハハッ!!まさか俺ん家の廊下でチューまで済ましちまうたぁ、こりゃ驚いたぜ!!よっ!!ご両人!!結婚式は白無垢かウエディングドレスのどっちにするか決めとけよー!!」

 

「あらあらお義父さんたら♪それじゃあ、さしずめあのネックレスは婚約の証って事ですね♪月明かりの元で結婚の約束をするなんて、とてもロマンチックですもの♪」

 

「むぁ?そんなモンなのか?まぁ俺にゃ浪漫なんてもんは欠片もわからねえが……しっかし禅のあの口説きが上手えトコを見てるとこう、信吾の若い頃を思い出しちまうぜ」

 

「えぇ……若い頃の慎吾さんは、それはもう大層女性にモテてましたから(今もですけど……雌豚どもがぁ)……あの頃の私がどれだけ苦労したか……ハァ」

 

「香苗、今なんかボソっと呟かなかったか?ってか、こりゃあのリインって嬢ちゃんが一歩リードって事か?」

 

「いえいえ橘さん、私の娘のフェイトも、半年前にゼン君とはキスを済ませてますよ♪それに、ゼン君と過ごした時間は、フェイトの方が断然長いですから♪」

 

「おっ!?そうかそうか、もうフェイトちゃんともチューしてたか!!じゃあプレシアさんは、ウエディングドレスと白無垢、どっちをフェイトちゃんに着せてやりてえんだ?」

 

「そうですねえ……ウエディングドレスは、女の子の憧れと言えますがその白無垢という地球独自の服も一度見てから決めたい所です」

 

ただ空気に当てられてる人間ばかりかっつうと、お酒片手に上機嫌な爺ちゃんとお袋、そしてプレシアさんの3人だけは、この空気でも平常運転全開だった。

ちょ~っと待てソコの親馬鹿と孫バカなお二人さん、結婚なんて最低でもまだ後10年は先の事じゃねぇかこの野郎。

第一俺は結婚する気はあんま無いからね?それこそフリーで沢山の可愛い子と楽しいフリーなお付き合いを所望す。

ってンな事はどうでもいいから!?アンタ等はどうやって俺達のSWEETな空気とソコに至る過程を盗み見てたんだよ!?

 

「か、堪忍なぁ……リインが、禅君に何をしてもらえるかな~って、こっそりとサーチャーで見てたんやけど……バレちった☆……ガクッ」

 

テメエが元凶かはやて。テメエがこの死神様と魔狼様をこの家に召喚した原因かボケ(元凶は禅)。

このマジdead endな状況でそんなテヘペローとかすんなキレるぞおい?

しかも人を命の危機に晒しまくったあげくにテヘペロしてから気絶すんな何考えて生きてんだテメエ。

そんな呪詛をはやてに向けて心の中で呟いてる間に、俺との距離をドンドン詰めてくるお二人……あぁ、俺の命もここまでか。

 

「ぐっ……テュオアァアアアアアアアッ!!!!!」

 

と、目の前に迫る生命の危機に諦めていると、畳の上に倒れ伏していたザフィーラが気合の咆哮と共に立ち上がり、フェイトとアルフの2人をバインドで拘束した。

そのまま動きを止めた2人の前に跳躍し、俺とフェイト達の間に立ちはだかる。ってザフィーラ!!?

 

「行け!!逃げるんだタチバナ!!ここは俺に任せて早くココから離れろ!!」

 

「ザフィーラ!?な、何考えてんだよ!?オメエこそ早く逃げろって!!!粉微塵にされちまうぞ!?」

 

何処の誰であろうと、今のアルフとフェイトには逆立ちしたって勝てねえぞ!?それこそ次は肉片にされちまうよ!!

絶望的な戦いに無謀にも立ち上がった満身創痍の漢に、俺は必死な思いで目の前で散り逝こうとする愚行を止めようと言葉を紡ぐ。

 

「もう良いんだって!!オメエもうボロボロで立つのもやっとじゃねぇか!?それ以上食らったらもう……」

 

「……フッ」

 

だが、俺の必死な言葉にも、目の前の漢は俺に振り返って不敵な笑みを浮かべる。

ちょっ!?志村後ろ後ろーーーーーーーーッ!!?

 

「俺は、一度お前を見捨ててしまった……今度は、もう逃げっ」

 

「邪魔」(ボグシャァァアァアアアアアアアアアッ!!!)

 

「ほげぇぇえええええええええええッ!!!?(ガシャァァアアンッ!!!)」

 

「ザフィィィィイイイイイイイラァァァアアアアアアアアッ!!!??」

 

漢、ザフィーラの決めの台詞の途中で無常にも振るわれたアルフの虫を払う様な軽い仕草のパンチ。

それはザフィーラのバインドに縛られたままの腕を振るったというのに、バインドを紙の様にブッ千切り、ザフィーラの横っ面を叩いた。

その軽い仕草で撃たれたパンチの威力で、顔面を極端に歪ませながら廊下のガラスを突き破って悲鳴をエコーさせつつ庭に消えゆくザフィーラ。

俺は廊下に膝を付いた体勢で、ザフィーラが飛んでいった庭先に手を伸ばしたまま涙を零してしまう。

バカヤロウ……だから逃げろっつったのに……!?俺の事なんか放っておきゃ良かったんだ!!

そうやって庭に消えていったザフィーラを心配している間に、俺との距離を完全に射程距離内に捉えたお二人。

今は無言で俺を見下ろしてらっしゃるでないか。どうしよう、スゲエ恐い。

 

「……私達ネ?女ノ子ガダァ~イ好キナゼンニ、一ツダケ、言イタイ事ガアルンダケド……」

 

無表情に、且つ無機質な声で俺に言葉を投げ掛けるフェイト様。

既にバルディッシュ君は皆さんご存知サイスフォーム。

 

「一応ダケド……遺言ガアルナラ、聞イトイテヤルヨ」

 

手を覆う無骨な鈍色に光る鉄甲に魔力の光を灯しながら締めくくる無表情orハイライトoffな瞳のアルフ様。

間違い無く今度こそ俺はあの神様の元に帰る事になりそうだ。

っていうか遺言てストレートに言われたし。

 

「け、結婚……ウェディング……ドレス……白無垢……初夜……あぅ……ぁうぅ~(グルグル)」

 

俺は俺の胸の中で恥ずかしさの限界を突破して目を回して気絶しているリインを被害の及ばない場所に優しく寝かしてやる。

どうやら今までの俺とのイチャイチャしていた光景を皆に見られていたと知った辺りでリインには耐える事が難しかったみてえだ。

それだってのに極めつけは爺ちゃんの先を見越し過ぎた、所謂おにゃのこの幸せ的な光景を頭に思い浮かべた瞬間オーバーヒートしてしまった模様。

あぁ、俺と結婚する光景を自分で妄想して気絶するだとか、なんてプリティでラブリィなフェアリィなんだコイツは……あっ、今韻を踏んだ。

そんなリインを宝物を扱うかの如く優しく、丁寧に寝かしてやると更に膨れ上がる殺気と瘴気。

普段の俺なら今の殺気と瘴気だけで逃げ出していただろう……だが、今の俺の心は舞い上がる羽の様に軽やかで、不思議と後悔は無かった。

へへへっ……もうこうなりゃドコまで上がっても一緒よ。

 

 

 

 

 

晴れやかな気持ちで2人に振り返り、俺は笑顔を浮かべて許してもらった最期の言葉を自信満々に放つ。

 

 

 

 

 

例え殺されるとしても、2人にはキチンと伝えておきたい……今の俺の気持ちを……。

 

 

 

 

 

「フッ…………リインの唇ッ!!!大変美味しゅう御座いましたぁああああああああああッ!!!!!!」

 

 

 

☆GO☆TI☆SO☆U☆SA☆MA☆DE☆SHI☆TA☆って気持ちをなぁああああッ!!!

 

 

 

「「HELL 2 U(貴様に地獄を)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ギィヤァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!?????

 

 

 

 

今宵、人間のモノとは思えない断末魔の悲鳴が、海鳴の山を彩った。

 

 

 

 

その日、俺は初めて「人間ってここまでやっても死ねないんだなぁ」という人体の神秘を身を持って実感したよ。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
15
5

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択