あれから僕達は狩りの時も木の実を取る時も、水を飲む時も木登りの練習をする時も、龍笛の練習をする時も寝る時も、いつだって一緒にいた。僕も空もそれなりに成長もしたし、何も言わなくても一緒に行動していた。
いつからかこの森で、僕と同じように狩りをしている人達を見かけるようになった。あの人達も生きる為なんだと最初は気付かれないように見ていた。日に日に狩りをする人は増え、ある日それは起こった。
そう、空が狙われたんだ。
その日はたまたま別々に木の実を探していた日だった。僕は川の近くを、空は森の外の近くを手分けして探していた。
異変に気付いたのは寝床にしている木の窪みに戻ってから少し経った時だった。いつもなら合わせるまでもなくほとんど同時にここに戻ってくるのに、今日はすぐに戻ってこなかったんだ。少し待ってみても帰ってこないから、僕は空を探しに出た。
しばらく歩いていると誰かの話し声が聞こえてきた。また狩りの人達が来たのかと思って、警戒のため木に登り、木から木へ飛び移るようにして移動することにした。
やがて見えてきたのは三人の男達に囲まれる空の姿だった。
「空!! 」
思わずそう叫んでしまった。突然の声に男達はこっちを向いた、その瞬間空は飛び出し一番手前にいた男の腕に噛み付いた。痛みで男が叫び声を上げると、僕のほうを向いていた男達は再び空のほうを向いた。男達の注意が逸れたとみるや、僕は木の枝を蹴って飛び降り、右手に持った短刀を噛み付かれている男の首筋へ一振りした。
一瞬で跳ね飛ばされる男の首。残った二人の男達は理解できていないのか固まっている。
逃げるなら今しかない! そう思い空を抱きかかえると木を伝い寝床まで戻った。
それからは狩りをしている人を見かけては襲い、森に近づけさせなかった。
そんなことをしていたせいか狩りに来る人は減ったが、代わりに邑にいた兵隊さん達のような人達が森を徘徊するようになった。
狩りをするわけでもないこの人達はただ徘徊しているだけのようだったけど、気配が垂れ流しになっているせいで僕達の狩りにも影響が出始めた。
兵達の持つ武器が怖くなかったかといえば嘘になるが、いつまでも木の実だけでは過ごせないことは過去に体験済みだったから、前と同じように襲い、森から追い払った。
今日もまた懲りずに徘徊しているらしい。ただ…一人だけ腰に二振りの剣をぶら下げた、銀髪の女性だけは他の人とは何かが違う気がした。空も何かを感じ取っているみたいで、僕達はいつもと同じく、でもいつもよりも慎重に兵達の後を追った。
しばらく後を付けていると銀髪の女性は何事かを兵に伝えると、一人その場に残り兵達は先に進んでいった。半刻ほど動かないでいると突然こちらを向いた。
「出て来い! そこにいるのは分かっているんだ! 」
驚いた。狩りをする時と同様に気配を消していたはずなのに……。
女性の眼は確実にこちらを見ている。空は僕を見上げてきて、僕はそれに頷き返し、僕達はゆっくりと茂みから抜け出した。
「ほう。これは驚いた。私の兵達が梃子摺るというからどんな奴なのかと思えば、こんな子供だとはな。しかも虎を連れているとは……」
僕が子供だということにそれほど驚いたのか、少し眼を見開いていた。だがすぐに平静を取り戻すと質問をしてきた。
「なぁ。名前はなんというんだ? 」
「……お前達に名乗る名前なんて……無い」
「ふむ……そうか。なら質問を変えよう。なんで狩りの妨害をする? 」
「なんでだって? お前は家族が攻撃されても無視できるというのか!? 」
つい声を荒げてしまった。彼女は一瞬表情を暗くするが質問を続けてくる。
「……家族というのは、その虎のことか? 」
「だからどうした」
「そうか……それはすまなかった」
そう言って彼女は頭を下げた。初めて会った、それも子供に対してだ。
「なんでお前が頭を下げる必要がある! 」
「私自身の事ではないとはいえ、先に手を出したのはこちらなのだろう? ならそれは私の責任でもある。許してくれとは言わないが、せめて謝罪をせねば私が私を許せないんだ」
一瞬、父様が重なって見えた。そんなはずはないと頭を振って、こちらから質問する。
「お前達は何をしにきた? 」
「……狩りを妨害するものを捕らえよとの命令でここに来た」
「つまり僕達を捕まえに来たということか」
「そうだ」
僕達は彼女への警戒を強め、短刀を鞘から抜き放った。
彼女はまだ武器を抜かない。
「なぁ。今後は襲わない……ということは? 」
「ない」
分かりきっていた答えを聞いた彼女は一言『そうか』と答え、拳を握り締めて何かの構えのような体勢になる。
「……その腰の剣は使わないのか? 」
「使わん。もとより捕縛するために来たんだ。殺すわけにもいくまい」
「舐めるなっ! 」
僕と空は同時に駆け出す。僕は右へ、空は左へ。彼女を挟んで対角になったところで同時に攻撃をしかけた。空は腕を狙い、僕は短刀を前に突き出しながら。
彼女はこちらを見向きもせず、右足の回し蹴りで短刀を弾き飛ばし、飛び掛ってきた空を両手で背負い投げ、短刀を弾かれ硬直している僕の懐に潜り込むと掌底を叩き込んだ。
掌底を叩き込まれ一瞬息ができなくなった僕は踏鞴を踏んで、そんな僕を庇うようにして、空は追撃をしてきた彼女の攻撃をもろに食らい、吹き飛ばされた場所から動かなくなっていた。
その瞬間、真っ赤に染まる視界。僕は言葉にもならない叫びを上げ、彼女に突貫した。
彼女はその様子に驚きながらも、突貫する僕を冷静に避け、首の後ろに手刀を振り下ろした。
「もうよいぞ」
そう言うと辺りから兵達が出てきた。その数ちょうど十名。彼らは先に言ったように見えたが気配を消して戻ってきていたのである。
「当分は起きんとは思うが、一応縛っておけ」
そう命じると兵達は縄を手に、少年と虎を縛っていく。
「たしかにこやつらでは相手は難しかったかもしれんな」
少年に眼をやりながら呟く。
「しかし、虎を殴ってしまった後のこやつの叫び声と濁った眼。少し面倒なことになりそうだな……一応、諳にも見せておくか……」
「準備できました! 」
「ふむ、では帰るぞ! 」
こうして捕縛隊は街へと戻っていく。誰一人として負傷せずに。
【あとがき】
こんばんわ。九条です。
やっと人と会話させたような気がします。
4年間も森の中で暮らせる4歳児って凄いと思う……
本来なら2年ほどで出す予定だったのですが、さすがに2年はちょっと……と思って変更しました。
なので今後考えているものも、頭の中で整理し直しています。
それと主人公の容姿……そろそろ載せます。まだ思いついてないけど。
そのうち拠点とかもいれてみたいですね~
ではでは次回もお楽しみに!
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