No.577120

真恋姫無双幻夢伝 ??話『世界の狭間で』

呆けたわけではありません。ちゃんと本編とつながります。

2013-05-17 08:33:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3688   閲覧ユーザー数:3205

   真恋姫無双 幻夢伝 ??話 『世界の狭間で』

 

 

(これは夢だな)

 

と、男は思った。自分が住んでいる横浜とは全く異なる情景。そう思わない方がおかしい。

 次に男は、そう考える自分の意識がはっきりとしていることに驚いた。ふと以前読んだ小説の中に出てきた“明晰夢”という言葉が彼の脳裏をよぎる。これがそうなのか?

 考え込む彼の足元に地面は無かった。自分の体がその空間ではぷか~と風船のように浮かんでいる。いかんせん気持ちが悪い。

 周囲には取ってつけたような宇宙が広がっていた。無音の空間の中で、星々が光を放つ。先週見たプラネタリウムよりはリアルだが、地球の姿が無いことが何とも残念だ。

 彼はゆっくりと手を動かした。動く。それを確認すると、色々と体を動かしてみた。体の位置は変わらないが、動きに不自由はない。Tシャツやジーパンが肌を擦る感覚もある。ただ、どうすることも出来ない。

 一体この夢はいつ終わるのだろうか?

 周りの星々を見るのにも飽きた彼は、手を組んで大きく背伸びをした。すると自分の常識とは異なることに気付いた。

 

(あれ?なんで手の感触があるんだ?)

 

 夢の中でも感触はあるのか?

 彼は頬をつねってみた。痛い。それはぼんやりと感じるものでは無く、明確な痛みだ。彼は首をかしげる。これは夢ではないのか?

 そう考えると、ふと何かを思い出しそうになった。懐かしい感覚。そうだ!俺は、この場所を知っているのではないか?!

 

「その通りだ」

 

 不意の応答にバッと振り向く。気が付くと、先ほどまで見えていた銀河の光景を遮るように、若い男が立っていた。自分より小柄だが180近くあるだろう。かなり奇抜な服装をしている。まるで時代劇だ。

 彼は怪しい笑みを浮かべて言う。

 

「アキラ。世界の狭間へようこそ。いや、おかえりと言うべきかな」

「世界の、狭間?」

 

 その言葉が脳をくすぐり、また何かを思い出しそうになる。しかし喉に突き刺さった骨のように中々出てこない。その様子に若い男はため息を漏らした。

 

「無理するな。記憶を消去したのだから、明白に思い出すことなど不可能だ」

 

 その言葉にアキラは体に電気が走ったように反応し、その男に詰め寄った。不思議なことに、今では歩ける。しかしアキラはそのことを気にする余裕も失ったように、男の肩を掴みながら叫ぶ。

 

「なあ!あんたは俺の記憶を知っているのか!」

「………」

「答えてくれ!生まれた時からずっとそうだったんだ!俺は何か大事なことを忘れている、何かしなければならない、“誰かが呼んでいる”って感覚に襲われてきたんだ!ずっと胸の真ん中にあったんだ!」

 

 アキラは泣き叫ぶように、もっと手に力を入れて訴える。

 

「教えろ!!俺はいったいダレなんだ?!!」

 

 その叫びに応じたのは、後ろから引きはがされる力だった。振り向くと、もう一人、眼鏡をかけた男が立っていた。この男もへんてこな衣装を纏っていた。

 

「冷静に。左慈が痛がっています」

 

 アキラはもう一度左慈と呼ばれた男を見た。彼は肩を抑えながら「サンキュー、于吉」と言っていた。眼鏡の男は于吉というらしい。

 冷静さを取り戻したアキラは、左慈に謝った。

 

「すまない」

「いや、いいさ。気持ちは分かる」

「それにしても、相変わらず直情的ですね」

 

 彼らは親しみを込めて笑いかけてきた。その表情にアキラはまた懐かしさを感じる。そして同時に安心さを感じた。不思議と(二人は味方)と思ってしまう。

 左慈と于吉は並んでアキラの前に立った。そして改めて挨拶した。

 

「アキラ。久し振り」

「20年ぶりですね」

「20年…だと」

 

 ちょうど自分の年齢分だ。それを尋ねようとしたが、左慈は手で押さえた。

 

「まあまあ、ちょっと話を聞いてくれ。それからでも遅くは無いさ」

 

 そして二人は「まずは」と自己紹介を始めた。

 

「俺は左慈…というのはこの世界でのニックネームだ。本名はジャック・ホワイトだ。まあ、この世界では左慈と呼んでくれ」

「私の本名はヴァン・スタンフィールド3世です。私も于吉でお願いします」

「日本人ではないのか?」

 

 その疑問は当然だというように頷く二人。

 

「この姿も仮のものだからな。その証拠に、ほら!」

 

 パチンと左慈が指を鳴らすと、テレビの画面が切り替わるように二人は姿を変えた。左慈は太っちょでチビの黒人に変わり、于吉はガリガリ長身の白人に変わった。40代ぐらいのおっさんに見える彼らは、白衣を着ていた。

 驚きで言葉が出ないアキラを見てニタニタ笑う左慈は、もう一度指をパチンと鳴らした。二人は先ほどの姿に戻った。

 アキラはようやく声を絞り出す。

 

「ど、どうなっているんだ!」

「もうお気づきでしょう。ここは」

 

 于吉は言った。

 

「ここはバーチャル世界です」

 

 

 

 

 

「バーチャル世界、だと?」

「ああ。そしてこれから行ってもらう世界もバーチャル世界だ」

 

 余りに非現実的な発言に、アキラは思わず笑ってしまう。そして笑い半分、少し怒りながら尋ねた。

 

「待て待て待て。おい、デブ。この野郎」

「デブじゃねぇ!ぽっちゃりだ!」

「うるせえ!いいか!俺には“現実”ってやつがあるんだ。お前らのゲームに付き合っている暇は「あなたは死にました」…は?」

 

 悲しそうに于吉は首を振る。左慈もデブと呼ばれたことを流して、腕を組んで眉をひそめる。

 

「あなたは死んだのですよ。アキラ」

「胸をグサッとやられてな」

 

 アキラはハッと思い出す。自分がここに来る前に経験したことを。確かに最後の光景は、ナイフを持って向かってくる女の姿だった。

 混乱するアキラに追い打ちをかけるように、左慈は言葉を加えた。

 

「しかしまあ、つくづく運の無い男だな。せっかく二度目の人生を歩ませてやったのに」

 

 もうアキラには理解が追いつかなかった。彼は「わけわかめ」と言って、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

 

「あーあ。考え込んじゃった」

「あなたのせいですよ。この前もプレゼンがへたくそって言われていたでしょ」

「うっせ」

 

 じゃあ代わりにやれ、と言わんばかりに、左慈は于吉の背を叩く。苦笑いの于吉は小さくなっているアキラに近づいて話しかけた。

 

「すみませんね。説明がへたくそな相方で」

「……ああ」

「否定してくれよ!」

 

 プンスカ怒る左慈を無視して、于吉はアキラに立つように促した。

 

「私から最初から話をしましょう。話しやすいように立ってくれませんか?」

「…分かった。ただし出来るだけ、詳しく」

「分かりました。ではお答えしましょう、あなたの前世のこと。そしてこれからの世界のこと」

 


 
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