No.571298 フロム・ダスク・ティル・ドーンカブトガニさん 2013-04-29 22:01:30 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:620 閲覧ユーザー数:613 |
〈Ⅰ〉
某年某日二十一時
欧州・某基地滑走路にて
「行ってきます……」
夜の空。
プロペラの付いた機械の足と、鉄塊と言う他ない武器であるロケット重火器《フリーガー・ハマー》を携えた少女が夜空に飛び立っていく。
銀髪の美しい細身の少女――名をサーニャ・V・リトヴャクという。
鋼鉄の足を駆り、武器を手に取り戦う者たち《ウィッチ》の中でも夜戦に長けたサーニャにとって、こんな夜間哨戒は毎日のことであり、慣れたものであった。
なぜ、彼女のような年端も行かぬ少女が武器を手に取り夜空を往くのか?
それは、南極に突如として現れた超空間通路から現れた謎の異星体との戦い――ではなく。
「あなたはそこにいますか?」 と、質問してくるケイ素生命体と――でもなく。
来たるべき対話として現れた金属生命体――でもない。
この世界において太古より存在した怪物、《ネウロイ》と戦うためである。《ネウロイ》と戦えるのは彼女ら《ウィッチ》だけなのだから。
少女が夜空にその身を投じてから数十分後。本来の定時連絡よりも早い予定で通信を行っていた。
定時連絡でもない通信というと、会敵したということか。この短距離でそれは戦線が拡大され過ぎててとてもすごく非常にまずい。
つまり、どちらにしても不自然な状況だ。軍隊という効率化を重視した組織で、かくも火急の通信を送ってくるとは何者か?
サーニャの側頭部、虚空からエメラルドグリーン色を下の貼りのようなものが突き出ている。角か? 通信用のヘッドホンか? どちらもだいたい合っている。これがサーニャの持つ固有魔法《全方位広域探査》である。
《ウィッチ》の特技は、太ももを露わに空を飛ぶだけではない。それぞれが異なった魔法を使えるのだ。
サーニャの場合は電波の送受信を利用した通信と探索であり、これで地球の裏側にいる《ウィッチ》とも少しのタイム・ラグもなく会話が出来る。
そして、その超特急大急ぎの通信の内容とは? ウィッチによるクーデターか? 別方向からのネウロイ地上戦力による侵攻か?
どちらでもなかった。
「で、なー。 ニパのやつが言うんだよ『金ないんだよなー、でもなー、欲しいんだよなー。 どーするかなー』ってさ」
電波の向こう側から聞こえてくる、得意げな声。
サーニャと同じく第五○一統合戦闘航空団に所属する《ウィッチ》、エイラ・イルマタル・ユーティライネンであった。
この少女、いつの頃からかサーニャにあれこれと世話を焼き、保護者面をするという傍から見れば鼻持ちならない輩であった。
だが、不思議と周囲から、そしてサーニャ自身からも煙たがられぬのは、エイラの人徳とでも言うのか。
もちろん、現実にはそんなこともなく、周囲の人間の人徳と、エイラがする保護者面の本気さ、そしてどことなく間の抜けた性格だからであった。
「……」
「アレ、サーニャ。 さっきから静かだけど、なんかあったのか!? ネウロイか!?」
「違う……そうじゃないの、エイラ……」
夜型、低血圧、闇の住人。形容する言葉は数あれど、それらが意味することは一つ、つまり夜に目が冴えるタイプの人間であるところのサーニャは、夜間哨戒中に眠くなる、ということはそうそうない。
だが、通信機から聞こえてくるスオムス訛りの強い、助長な話し声にテンションはグングンズイズイ急降下。あわや空中寝落ちする寸前だった。それもそのはずで、サーニャは通信内容の中核である《ニパ》とかいう人物のことをよく知らない。ちょっと前にスオムスの基地で世話になったくらいだ。
そのことを通信相手は知ってか知らずか、さぞかしおかしい話であるかのように嬉々として語る。語る。
話の盛り上がりどころとして《ニパ》の喋り方を真似しているらしく、その情けなさが如何にも面白いようなのだが、全然まったくちっとも伝わってこない。
友人の知り合いの物まね、って……。サーニャは困惑した。
「じゃあ、話の続きをするぞ? それで、私がタロットで《吊られた男》を引いた途端にニパがこっちに飛んできて、雷が落ちてきてぐえー、って」
「うーん……」
逡巡の後、当然の帰結として、サーニャは悪天候だかなんだかの適当な理由をでっち上げてそれを告げると、通信を突然一方的に切った。
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ふたば学園祭8で頒布する小説のサンプルです こっちはストライクウィッチーズの二次創作です よろしくねん