EP7 奈良修行編・九葉の覚悟
和人Side
「あ~、沁みる~…」
俺は心からその声を漏らした。体にできた僅かな痣、そこにお湯の熱が沁みてくる。
走り込みと筋トレ、師匠との組手を終えた俺達は温泉(男湯)にて浸かっているわけだ。
「疲れが吹き飛びますね~…」
「温泉ってさいこう~…」
烈弥と志郎も俺と同じく気の抜けたような言葉を漏らしている。
「……ふぅ~…」
「ほへぇ~…」
景一と刻は溜まった息を一気に吐き出している。
「生きているって素晴らしい~…」
「月1で来れるオレは幸せだな~…」
公輝が爺臭いことを言っているがそれよりも九葉、お前は俺達に喧嘩を売っているのか?
まぁ九葉は師匠から直接の指導を受けているから仕方が無いよな。
「あ、そういえば……和人さん、後で面白いものをみれるよ」
「面白いもの?」
「そ。面白いというよりかは、嬉しいものだと思うけどさ」
九葉の言葉はなんとも分からないが、なんのことだろうか?
しかしこの感じからするとまともなものみたいだな。
「取り敢えずそろそろ上がろうぜ、腹減った」
「「「「「「同感(です)(っす)」」」」」」
公輝の意見を聞き、夕飯を食べる為に俺達は温泉から上がり、簡単な浴衣に着替えた。
「「「「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」」」」
温泉から上がった俺達は、葵さんと共に温泉から先に上がっていた女性陣が作った夕食を食べた。
メチャクチャ美味かった…明日奈や葵さんは勿論のこと、雫さんと里香と珪子、スグと燐もさすがであり、
朝田さんも自炊しているからということ。
俺達が出来るのは簡単なものだけだからなぁ~、公輝はかなり料理が上手いけど。
「今日も美味かった~」
「九葉君もですけど~、和人君達もまだまだ成長期ですから~、良く食べますね~」
九葉が満足気に言い、葵さんがそう言葉を掛けてきた。
「そういえば、和人くんまた身長伸びたよね? この前までわたしと身長ほとんど変わらなかったのに…」
「志郎もよね~」
明日奈と里香の言葉を筆頭に女性陣が声に出していく。
確かに俺は明日奈よりも5cm以上身長が高くなっており、他のみんなも似たようなものだ。
ちなみに公輝は元々雫さんよりも10cm程高い。
SAO時代の分の成長期がいまやってきていたりするわけである。
「さて…夕食も終えた事ですし、明日からの修行について詳しく話しましょうか」
そんな談笑を交えた休憩をしていると師匠が話を始めた。
「まずは直葉さんからがいいですね。
直葉さんは基本的に学校で熟している分と普段から自主的に行っている分の練習量で構わないでしょう。
それに加えて、剣道を主体に置いた稽古を私としてみましょう」
「は、はい!」
スグがやっているのはあくまで剣道。
試合相手も勿論剣道の型なので、師匠も剣道の型で彼女を鍛えるということだ。
剣道といえど師匠の剣を見ていればスグは間違いなく強くなるはず。
「次に燐、貴女も基本的には今まで通りの練習量で構いません。
その代わり和人達に手合せをしてもらいなさい。
いまの彼らと武を交えるのは良い刺激になると思いますよ」
「はい!」
燐はいまの段階から少しだけ向上させるというところかな。
まぁ女の子だし、俺達ほど力を求めているわけではない。
というか彼女はいま現在でも大人5人がかりが相手だろうと倒してしまうくらいの力はある。
「どんな少女だよ!」というツッコミはなしで頼むぞ。
「次に和人、志郎、景一、烈弥、刻、公輝。貴方達の体調はもう万全といえます、体力も大分戻ってきているようですしね。
ですので、午前中は今日と同じで走り込みと筋トレによる体力強化と筋力アップを行います。
午後からは実戦訓練、私と直接戦ってもらいますよ。
感覚は問題無いでしょうけど、全盛期よりもキレが劣っているのは分かっていますから」
「「「「「「はい!」」」」」」
体力強化と筋力アップか、加えてキレを取り戻す。実戦訓練の中には反応速度とかも上げるんだろうな。
「最後に九葉……貴方はどうしますか?」
「え…?」
師匠の問いかけに九葉は呆然と一言呟いた、見れば他のみんなも驚いている。
それは当然だろう、1人だけ内容を与えられていないのだから。
だが俺は分かっている…九葉はいま、決めなければならない場所にいる。
「九葉、いまの貴方の力であればそうそうに渡り合える者などいないでしょう。
別段これまで通りのトレーニング内容で十分。
またこれ以上の力を求めることも可能です、力を求めるのでしたら……」
そこで言葉を区切る師匠、葵さんとアイコンタクトを取り、彼女は立ち上がる。
「みなさん、少しだけ席を外しましょう…」
のほほんとした声と空気は何処へやら、【剣神】の傍にある者としての雰囲気を纏っている。
女性陣を立ち上がらせると彼女達を連れてこの居間を後にし、残ったのは俺達男性陣のみ。
彼女らの気配が遠くのを待ってから師匠は言葉を紡いだ。
「時と場合によっては……人を殺めることになる、その覚悟はあるか?」
「っ!?」
「「「「「「っ………」」」」」」
その重い言葉、九葉は驚愕し、俺達は覇気に呑まれそうになる。
「和人達は既にこの『問い』を自分達で掛けられ、自分達で乗り越えたそうです…。
九葉、貴方は
沈黙が流れる…。神霆流は殺人剣、俺達はその力を持ってしてSAOで堕ちた人を殺め、その命の重さと業を背負った。
ならば九葉は? この世界のこの国で、人を殺すなどまず無いことだ。
それをこの場で問われて、コイツは返答することができるのか…。
「オレ、は…」
「オレは、
「ほぅ…」
「ひゅ~…」
「……ふむ…」
「(くすっ)」
「にししっ…」
「ははは…」
九葉の言葉に俺達は感嘆とした、そういうことか…。
「殺さない、とはどういうことですか?」
師匠の気迫が篭った言葉、だけどその表情は凄く嬉しそうである。
息子の成長が嬉しいのだろう、この人が今の言葉の意味を分からないはずがないからな。
「オレは殺さない……確かに、殺さないといけないことがあるかもしれないけど…。
オレは、
「ふふふ、見事ですよ九葉…。私が聞きたかった答えを貴方は出してくれました。
明日から貴方も和人達と同じ修行内容になりますが、良いですね?」
「はい!」
凄く満足そうな師匠と認められたことでやはり嬉しそうな九葉、まぁ親子だからな~。
だがコイツは俺達よりも強くなるだろう……殺さない事を選ばなかった俺達とは違うから。
「さて、話し合いはこの辺でお開きにしましょう」
俺達は一息吐くと脱力した。正直、師匠の空気の震撼は結構堪えるものがある。
あまり心臓によろしくないのかも。
「それでは付いてきてください。和人達が楽しむことができるものの準備は整っているはずですから」
「「「「「「??」」」」」」
「温泉でオレが言ったやつだよ、見てのお楽しみってね」
首を傾げた俺達は師匠に続いて奥の部屋に行く。果たして何があるのか…?
その部屋は少し大き目なだけの部屋、そこに女性陣達は座って談笑をしていた。
「あら~、お話しは終わったんですね~」
元ののほほん喋りに戻っている葵さん、明日奈達も普段通りであるので彼女が何かしら話しをしたのだろう。
そこで俺の、俺達の視線は3台のパソコンを捉えた。
「まさか、師匠…」
「3台しかないので交代制でお願いしますよ」
優しい笑顔でそう言った。
「なるほど、それで僕達にアミュスフィアを持ってくるように言ったんですね」
「最初から言ってくれもいいじゃないっすか」
「驚かせたかったもので(笑)」
烈弥と刻が苦笑して言ったが何処吹く風の我らが師匠、さすがだ。
「最初はわたしと和人くん、それと九葉君の番だよ」
「そうか……それは分かったんだが、明日奈…」
「なぁに?」
俺と明日奈がALOをする、どうやら九葉もやってみるらしい…それは分かった。
「何故に布団が
「和人君と明日奈さんなら問題無いですよね?」
俺の問いかけに答えたのは雫さん。その顔はイタズラ好きないつもの表情だ、もう何も言わない…。
3台のパソコンの前に敷かれた2組の布団、片方には九葉が、もう片方には俺と明日奈が横になり、アミュスフィアを被る。
ちなみに布団の間には敷居が置いてある……理由は聞くな。
「1時間経ったら交代ですから」
「お兄ちゃんも明日奈さんもユイちゃんと楽しんできてね」
珪子とスグに言われて心に留めておく。そうだな、ユイとちゃんと話しておこう。
志郎と里香が俺と明日奈を見ておくことになり、九葉を師匠が見ておくことで、他のみんなは部屋を後にした。
じゃあそろそろ…、
「「「リンク、スタート!」」」
行くとしますか。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
『人を殺す覚悟』これって別に武術とか関係無く、人が覚悟しないといけないことですよね。
昨今の戦争に発達しそうな状況や強盗などに襲われた時、自身や家族を守る上で必要な覚悟だと思います。
それを武人だからこそ、相手の命も奪わずに自分と守りたいもの、そして相手も守るということで九葉、
そして和人達も考えるように書いてみました。
結構大変でしたよ・・・。
次回はALOでの話しになります、九葉のアバター登場。
それでは・・・。
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EP7です。
今回はちょっと真面目な話し。
どぞ・・・。