No.567013

悠久の時の流れの中で ~敢えて矛を手に~ 第一章 完全版

Pichiさん

第一回 受王、女媧宮に詣でる

2013-04-17 15:30:17 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:457   閲覧ユーザー数:456

第一章

 第一回 受王(じゅおう)、女媧宮に詣でる

 

 世は商王朝第三一代王受王(じゅおう)の治世下。

 朝廷には受王(じゅおう)の祖父から商王朝に仕え、政治センス・行政処理能力は王朝一である太師聞仲(たいし・ぶんちゅう)を筆頭に、王族の長老である箕子(きし)比干(ひかん)という称号を与えられている丞相子胥余(じょうしょう・ししょよ)亜相子比(あしょう・ひし)、武官トップ鎮国武成王黄飛虎(ちんこくぶせいおう・こうひこ)など商王朝開闢(かいびゃく)以来の名門が控えている・

 

 後宮(こうきゅう)には正后姜氏(せいごう・ぎょうし)副后黄氏(ふくごう・こうし)楊氏(ようし)といった知性溢れる女性が控えていた。

 

 臣下には、臣下最高位の三公である鄧九公(とうきゅうこう)姫昌(きしょう)顎崇禹(がくすうう)、大豪族姜楚桓(ぎょうそかん)崇侯虎(すうこうこ)が各地方を統治していた。

天下八百の諸侯は、商王朝に忠誠を誓い、辺境の異民族も警戒して侵攻を控えていた。

 

 天候にも恵まれて、まさに天下泰平であり、このまま永遠に続くと考えられていた。

 

 

 しかし、治世六〇〇年で溜まり続けた不満が突如として爆発した。

 

 

 

 

”北方七二諸侯の乱”である。

 

 対北狄(ほくてき)戦線を一手に握っていた北方の諸侯は、比較的侵略が少なかった東西南の諸侯に比べて、最低でも一年に一回は大規模侵略があった為、荒廃が進んでいた。

この荒廃にもめげずに、忠誠を誓い北狄(ほくてき)の侵略に対抗し続けていた。

 

しかし、反乱の一年前に大干魃(だいかんばつ)が北方一帯を襲い、進んでいた荒廃に致命的な打撃を与えることになった。

 

この致命的打撃から回復し、北狄(ほくてき)の侵攻に対抗するために、プライドを捨てて朝廷に支援を求めていた。

 

この支援要請を受けた朝廷は、明らかに支援がなければ、対北狄(ほくてき)戦線が崩壊する事になるのにも関わらず、旧来の神権政治の手法に則って判断し、支援を断る。

 

支援拒否という朝廷の意向を聞いた北方諸侯の使者は、朝廷に楯突くことが解っていながら、再考を求めた。

 

使者の命がけの行動に、朝廷は汚物を見るかのように使者を見据え、兵士を呼びだして、この使者を斬首し、その首を北方諸侯に送り付けた。

 

この北方軽視の態度に、今までの不満がついに爆発し、商王朝開闢(かいびゃく)以来の最大規模の内乱に突入することになる。

 

朝廷は受王(じゅおう)の臨席を賜らずに、討伐軍司令官に太師聞仲(たいし・ぶんちゅう)をあて、二〇万の兵を率いさせることにしている。

朝廷は、討伐軍を組織しただけで、反乱の鎮圧は成ったものとして、毎朝金鑾殿(きんらんでん)で行われる朝議は、一切反乱についての議題を挙げず、受王(じゅおう)臨席の許でいつも通りの政治を行っていた。

 

 月日は流れ、討伐軍が出発してから一ヶ月後、いつもの朝議の後、受王(じゅおう)は解散する文武百官を引き留める。

 

「明日は始祖(しそ)の王族、女媧(じょか)様の生誕日ゆえ、女媧(じょか)宮へ詣でることにした。その為、明日の朝議は中止といたす。」

 

丞相箕子(じょうしょう・きし)が玉座の前に進み、平伏して上奏する。

 

「陛下。何故、始祖(しそ)御威光(ごいこう)、御加護を賜ろうとなさるのですか。天下泰平で、何もうれうる事はないと思われますが。」

 

「北方では飢餓と戦乱に苦しんでいると聞く。聖徳(せいとく)を有しておられ、万民福楽(ばんみんふくらく)を司る女媧(じょか)様にお力をお借りしようと思ってな。」

 

「なんと、そこまで臣民の事を思われておられるとは、この亜相(あしょう)、陛下の御慈悲の心に感嘆するばかりであります。」

 

亜相比干(あしょう・ひかん)が、発言する。

 

「陛下の御意志のままに、御参詣(ごさんけい)してください」

 

廷臣一同が平伏し声をそろえていった。

 

 

 

翌朝、受王(じゅおう)は近衛の騎兵三千を引き連れて、朝歌(ちょうか)の南門を出ていった。

 

 

 女媧(じょか)宮に到着した受王(じゅおう)は、近衛を女媧(じょか)宮周辺の警備に当たらせ、単身で奥に進んでいった。

 

「待っておりました」

 

女媧(じょか)宮最奥から仙人を思わせる身なりをした一人の男が現れた。

 

「子牙。汝の知恵を借りに来た」

 

朝議に出ている時のような、王者の貫禄とは懸け離れた疲れが声色に現れていた。

 

「辺境軽視、いや王朝の在り方ですか」

 子牙と呼ばれた男は、受王の様子に嘆息せずに簡潔に答えた。

 

「王を蔑ろにする廷臣、実状にそぐわぬ政を踏襲し続ける朝廷。君主に報告もせずに北方の対応を決め、失策をも隠し、武力によって鎮定させようとしている」

受王(じゅおう)は憤怒に駆られ、鬼のような形相を隠そうともしていない。

 

「北方の盟主、袁福通(えんふくつう)は対北狄(ほくてき)で名を轟かせた傑物。北方は過ぎし事にて如何ともし難いが、西方は対応を過つと“襲名したばかりの姫昌(きしょう)”を担いで朋友諸侯が一斉に蜂起しますな、・・・・・・悪政を行う朝廷を討伐すると称して」

 

 受王とは対照的に子牙は淡々と感情を表さずに語り出す。

 

鄧九公(とうきゅうこう)姫昌(きしょう)顎崇禹(がくすうう)ら三公、そして太師聞仲(たいし・ぶんちゅう)が朝廷におらず、守旧的な思考を持つ王族と国戚の姜楚桓(ぎょうそかん)、黒い噂の絶えない崇侯虎(すうこうこ)。どのように運ぼうとも、改革は難しいだろう」

 

 話終えると子牙は眼を閉じる。

 

「だからこそ汝の知恵を借りたい。各王家に代々受け継がれてきた・・・」

 

受王(じゅおう)!そこまでにしていただこうか。力は貸そう。だが、それ以上その話をするというならば、受王(じゅおう)、いや殷には消えて頂かねばならぬ」

 

先ほどまでの無表情ではなく、王者としての受王をも屈服させるだけの圧力を醸し出していた。

 

「すまぬ」

 

「よいでしょう」

 

謝罪を受けた子牙は、再び能面のような無表情に戻り、眼を閉じた。

 

受王(じゅおう)にとって長く感じられたつかの間の静寂があった後、

 

「王たる子受(しじゅ)よ、貴殿に二つ策を授けよう。よく吟味した上で事を起こすがよい。ただ、どちらも鳴条(めいじょう)の比ではない争乱が起こる事は、覚悟致せ」

 

 子牙は二つ竹片を残し、女媧(じょか)宮の最奥へと姿を消した。

 

受王(じゅおう)はしばらくその竹片を見て、熟考するのであった。

 

 

第一章 第一回 受王(じゅおう)女媧(じょか)宮に詣でる 完

 


 

 
 
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