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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第六十二話 海小の修学旅行(前編)

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-04-12 00:32:29 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:28167   閲覧ユーザー数:25038

 6月の頭。初夏と言っても良いだろう。

 学校も衣替えで夏服を着始める今日この頃。

 

 ガタンゴトン…ガタンゴトン…

 

 電車が小気味良い音を立てて進む中、

 

 「俺のド〇ゴニッ〇・カイ〇ー・ヴァー〇リオンで灼熱〇獅子〇ロンドエ〇ゼルにアタック!」

 

 「光輪の〇マル〇で完全ガード!」

 

 俺と誠悟は絶賛ヴァ〇ガー〇をプレイ中です。

 だって、外の景色を見てても退屈だし窓側の席に座っている謙介と直博は爆睡中だし。

 膝の上にプレイマットを敷き、デッキとカードを床に落とさない様、慎重に置きながら。

 

 「ツインドライブ…と。………駄目だな。ド〇ゴニッ〇・デ〇サイズと光〇爆撃の〇イバーンだ。トリガーは無い」

 

 「ふう~…。ハラハラしたぜ」

 

 トリガーは無かった。

 

 「じゃあ、次は俺の「みなさーん!」…?」

 

 俺と誠悟は声のする方向に視線をやると担任の先生がいた。

 

 「そろそろ降りますので荷物を纏めて下さーい」

 

 「…だとさ。この勝負は俺の負けだな」

 

 カードをデッキケースに直しながら誠悟に言う。

 

 「そうか?」

 

 「俺の手札は今のトリガーチェックで得た2枚だけだし…エ〇ゼルの攻撃を止められないからな」

 

 「でも勇紀は運が良いからな。ヒールトリガー引いたかもしれないだろ?」

 

 「…直す前に確認しとけばよかったな」

 

 お互いに片付けを終え

 

 「謙介、直博、起きろ。そろそろ着くらしいぞ」

 

 身体を揺すって二人を起こす。

 

 「「んあ…?」」

 

 瞼を少し開け、二人が返事する。

 

 「もう『荷物纏めろ』って先生が言ってるんだ」

 

 「そうか………ふあああぁぁぁ~………」

 

 直博は大きく欠伸をしながらも身体を伸ばし、少しずつ意識を覚醒させていく。

 

 「勇紀…どうしてあと少しの間、夢を見させてくれなかったんだい?」

 

 ジト目で俺を見る謙介に俺は首を傾げ、聞き返してみる。

 

 「何だ?良い夢でも見てたのか?」

 

 「そりゃあね。女子の皆が露天風呂でキャッキャウフフな事してはしゃいでる姿をじっくりと覗き見してる夢を見てたんだよ」

 

 その告白に周囲の席に座っている女子はドン引きして距離を取り始めている。

 

 「…夢で良かったな。現実(リアル)でやってたら確実にフルボッココースだ。……旅館に着いてもするなよ?」

 

 「勿論だよ(ふふふ…僕が覗きを諦めるなんて有り得ないよ勇紀)」

 

 言葉とは裏腹に口の端が吊り上ってるのを見ればコイツが約束を守らず、実行に起こすだろうという事は容易に想像出来る。

 

 「せっかくの修学旅行(・・・・)だしな。俺は楽しい思い出を作りたいぞ」

 

 直博の言葉に俺と誠悟は『うんうん』と頷く。

 …そう、海小は今日から1泊2日の修学旅行なのである。

 

 

 

 『鳥羽~、鳥羽~』

 

 アナウンスが目的地である鳥羽駅の到着を伝える。

 クラスの皆が座席の周辺に忘れ物をしていないか確認した後、電車から降りて他の人達の邪魔にならない様、駅で整列する。

 各クラスの担任は即座に点呼をとっていき、1人もクラスの生徒が欠けていない事を確認する。

 

 「それでは1組の生徒から順番に移動しますのではぐれず着いて来るように」

 

 学年主任の先生の指示の元、1組の生徒の列が動き始める。

 

 「これからの予定ってどうなってたっけ?」

 

 「近くにあるホテルのレストランで昼食、その後鳥羽水族館に行く予定だな」

 

 「そこのホテルに泊まるんだったっけ?」

 

 「しおりを読めよ。俺達が泊まるのは別の場所だ」

 

 直博の質問に答える誠悟。

 確かレストランはバイキング形式だったかな?

 和洋中、様々な料理が食い放題。勿論デザートもだ。

 俺がしおりに書かれていたホテル名をパソコンで検索して調べた情報にはそう載っていた。

 

 「それでは3組も移動しますよ~」

 

 2組も移動し、その最後尾に3組の先生を筆頭に列が続いて行く。

 そのまま改札口を抜けて駅から出るとすぐ近くにそびえ立つ大きなホテル。

 

 「これは期待していいんじゃないかな?」

 

 「「「だな」」」

 

 謙介がホテルを見ながら発した言葉に俺、直博、誠悟が声を揃えて頷く。

 レストランはホテルの3階にある。

 エレベーターを使うと全員がレストランに入るまで時間が掛かり過ぎるので階段で上がる。

 中には文句言う奴もいるけど3階までならそれ程苦にならないだろう。

 若い内から楽する事ばかり考えるのはあまり良くない。

 で、レストランに足を踏み入れた訳だが

 

 「「「「スゲー…(凄いね…)」」」」

 

 料理の種類の多さに呆然とする。

 写真でいくつか紹介されてた料理もあり、香ばしい匂いが室内を満たしている。

 料理に見惚れていても仕方が無いので俺達も空いてる席へ行き、着席した後、先生の注意事項を聞く。

 もっとも、皆早く食べたい様で先生の話は適当に聞き流している。

 

 「では1時間ですが今から食事の時間にします」

 

 その言葉を皮切りに生徒達は一斉に席を立ち、いろんな料理に群がる。

 それに続いて直博と誠悟も立ち上がろうとするが、それを手で制する。

 

 「何だ勇紀?早く行かないと取り損ねるぞ?」

 

 「バイキングでそれは無いって。無くなっても新しいのがすぐに追加されるから」

 

 「勇紀の言う通りだね。あの人混みに紛れるより多少時間を置いて落ち着いた頃に取りに行く方が賢明な判断だと思うよ」

 

 謙介も俺と同じ意見だったみたいだ。

 

 「でもお前の家族はそうでもないみたいだが?」

 

 誠悟の視線の先には

 

 「どけどけ!どっけーい!!」

 

 レヴィが人混みに突貫しては次々と小皿に料理をのせていく。

 その俊敏な動きと男子にも押し負けない力。流石は元『力』のマテリアル。

 

 「今のアイツには何言っても無駄だ。目の前の料理に心を奪われている」

 

 ちなみにレヴィ以外の3人は俺達同様に人混みが落ち着くのを待っている様だ。

 そんな中レヴィは一通りの料理を取り終えて満足したのか自分の席に戻っていく。アイツ小皿に盛り過ぎだろ。

 

 「(別に料理は逃げやしないのに…)」

 

 料理が空になった大皿を回収し、新しい大皿を置く料理人の姿がある。

 

 「…そろそろ俺達も行くか?」

 

 「…そうだな。多少落ち着いてきたし」

 

 俺達も小皿を持って椅子から立ち上がる。

 俺はサラダ、直博は魚介類、謙介と誠悟は肉を取りに向かう。

 全員で分担して料理を取り、後で席に戻ってから各々が取った料理を分け合う予定だ。

 しばらくして俺が席に戻って来た時には他の3人が既に戻っていた。

 

 「「「「いただきます」」」」

 

 声を揃えて発し、好きな物を別の小皿に取り始める。

 

 「お…このホタテ美味いな」

 

 「こっちの牛肉もいけるぞ」

 

 「ハグハグハグ…」

 

 「いやお前等、サラダもちゃんと食えよ?」

 

 さっきから野菜や海草に手を出さない3人の様子を見て口を挟む。

 誠悟は俺と同じで家事は得意、尚且つ食事の栄養バランスとかにも気を遣う奴なんだけど…。

 修学旅行で気が緩んでるのか?

 そういやさっきレヴィが小皿に入れてた料理にサラダは見当たらなかったな。

 

 「《おいレヴィ》」

 

 「ムグムグムグ…《ん?何ユウ?》」

 

 「《お前、野菜食ってないだろ?》」

 

 「ムグムグ…(バレてる…)《そんな事無いよ。ちゃんと食べてるよ》」

 

 「《嘘吐け。さっきお前が持ってた小皿にサラダは無かったぞ》」

 

 「ムグムグ…ゴクン…《ユーリが取ってるのを横から掻っ攫ってるからモーマンタイだよ》」

 

 コイツ…あくまでしらを切るつもりか。

 

 「《…ユーリ。レヴィは野菜食ってる?》」

 

 「《ユウキですか?…いえ、レヴィのお皿の上にはほとんど肉料理しかのってませんが?》」

 

 「(やっぱり…)《レヴィは『ユーリの皿の上の野菜を食ってる』って言ってるけど?》」

 

 「《一度も取られてはいませんが?》」

 

 偏った食事を摂るレヴィ。これは少しいかんな。

 

 「《レヴィ、帰ったら1週間おやつ抜きな》」

 

 「何で!!?」

 

 突然声を上げたレヴィに周囲の連中はビックリしている。

 

 「あ………~~~~~~っっっ!!!!!////」

 

 気付いてから恥ずかしそうに身を縮こませる。

 

 「《むう~…ユウのせいで恥掻いたじゃん》」

 

 「《嘘吐いたお前が悪い。ユーリに確認したけど野菜食ってないじゃん》」

 

 食事のバランスが悪いだろ。側で食ってる謙介、直博、誠悟にも言える事だけど。

 

 「《ちょ!?何で正直に言うのユーリ!!?》」

 

 「《レヴィが野菜を食べてないのは本当の事じゃないですか》」

 

 遠目にレヴィの方を見るとユーリと何やら念話で揉めているっぽい様子が窺える。

 

 「隣、いいですか?」

 

 「ん?ああ、シュテルとディアーチェか。亮太と椿姫は一緒じゃないのか?」

 

 「あの二人は別のクラスメイトと食っておる」

 

 「私達も同じ班の子と食べていたのですが、他の班の友達の所へ行ってしまったみたいで」

 

 「二人で食ってもつまらんからこうして来た訳だ」

 

 「そっか。俺は別に構わんけど…」

 

 チラリと謙介、直博、誠悟に視線を向け『どうだ?』と目で訴える。

 3人は首を縦に振って肯定の意を示す。

 

 「では失礼します」

 

 俺の隣にシュテル、更にその隣にディアーチェが腰を下ろす。

 

 「…皆、食事の栄養が偏ってますね」

 

 「貴様等、野菜も少しは食わんか」

 

 「お前等もそう思うか?」

 

 シュテルとディアーチェも俺と同じ意見の様でサラダを食べない3人に注意を促す。

 

 「いいじゃないかシュテルさん、ディアーチェさん。今日は折角の修学旅行なんだし」

 

 「たまには俺も気の赴くままに食いたいし」

 

 …まあ、結局健康や体調の管理は本人次第だから自分で責任持つならいいけどね。

 

 「《それはそうとユウキ…》」

 

 隣にいるシュテルからの念話だ。念話という事は謙介達には聞かせられない内容か?

 

 「《いつの間にか私達に付けていたサーチャーが外れてるんですが?》」

 

 「《うん、外した。やっぱりお前等には必要無いだろうし》」

 

 「……………………」

 

 「《睨むなって。普段から一緒にいる奴監視したってしょうがないだろ?》」

 

 「《ではなのは達は?》」

 

 「《アリサ、すずかはともかくとしてなのは、フェイト、はやて、アリシアの分は外した》」

 

 正確には西条達にも気付く様な設置の仕方をしておいたため、俺の思惑通りアイツ等にサーチャーをワザと破壊させた。

 だって魔導師組にはやっぱり必要無かったもん。

 なのはに手を出そうとしてた奴は御神流の餌食になってたし、フェイト、アリシアに手を出そうとしてたやつは何処からともなく降ってきた非殺傷の雷を浴びせられてたし、はやてに手を出そうとした奴はピンクポニーの剣士さんや鉄槌のロリッ娘さんにボコられてたし。

 ていうか小学生に手を出そうとする奴多過ぎ。リスティさんに言って街の治安強化してもらわんといかんね。

 とまあ、魔導師組の安全が保障されてる現状、サーチャーを設置してるのはアリサとすずかの二人だけ。

 この二人のサーチャーに関しては『P-ステルスシステム』によって完全な光学迷彩にしているので魔導師であるなのは達も気付いていない。

 

 『P-ステルスシステム』

 

 『そらのおとしもの』原作におけるニンフの装備の一つ。ニンフの電子戦能力を活かした光学迷彩であり、原作ではこの能力を応用し、主人公、桜井智樹にかける事によって、全ての女性にとって理想的な男性に見えるようになる『モテ男ジャミング』として使用たり、記憶にハッキングをかけてカナヅチにしたり出来る等、応用範囲は広い。

 

 「《不公平です》」

 

 「《全くだな》」

 

 ディアーチェも会話に交じってきたって事は広域念話にしてたのか。

 

 「《別にいいだろ?何かあったら俺がちゃんと守ってやるからさ》」

 

 「「《…本当ですか?(本当か?)》」」

 

 「《約束する》」

 

 「《…分かりました》」

 

 「《しかし約束はちゃんと守れよ?》」

 

 「《はいはい》」

 

 念話での会話を終え、俺は席を立って料理を取りに行く。

 それから後にレヴィ、ユーリもこちらにやってきて、やや騒がしめの昼食時間となるのだった………。

 

 

 

 「はー…これは凄いな」

 

 「辺り一面水槽だらけだ」

 

 「上を見上げても魚が泳いでるのが見えるな」

 

 昼食後、しおりに書かれている予定通り俺達海小の生徒達は先生引率の元、鳥羽水族館に来ていた。

 ここからは集合時間まで班毎の自由行動という事で生徒達は班のメンバーで固まり、俺も自分の班のメンバーである謙介、直博、誠悟と一緒に行動している。

 正直言って凄いわこの水族館。

 フロアを歩く廊下の壁はほとんどが水槽。また特定のフロアは天井も硝子越しに見る事が出来る。

 

 「おお!!綺麗なサンゴ礁だな!!」

 

 「でかっ!?カメでかっ!!?」

 

 俺達はその特定のフロアで天井や正面、左右を見て感想を漏らす。

 

 「へー…サンゴって植物じゃないのか」

 

 「こういうのも勉強になるな」

 

 水槽の側にあるプレートの説明文を見て『成る程』と納得する。

 俺達でも知らない知識を得るっていうのは楽しい。

 …よく思い返してみたら俺、水族館に来たの初めてだ。前世では縁の無い場所だったし。

 

 「(せっかくだし俺も楽しむか)」

 

 「おーい、勇紀。次のフロアへ行くぞー」

 

 「あいよー」

 

 テンションの高い3人を見ながら俺も後を追いかける。

 次のフロアに来ると

 

 「ほえー…」

 

 水槽の中を凝視しているレヴィがいた。ユーリも一緒だ。

 

 「…何やってんだアイツは?」

 

 ユーリは普通に水槽の中を泳いでいる魚を見ているがレヴィはおでこと両手のひらをベッタリと水槽にくっつけ、食い入るように見ている。

 水槽の中を泳いでいるのはフグだった。そんなにフグが珍しいか?

 

 「なあ勇紀。レヴィさんには声掛けなくていいのか?」

 

 「何やらご執心みたいだし、別にいいだろ」

 

 放っておいて次のフロアに行こうと思ったが

 

 「あの…長谷川君」

 

 知らない女子生徒に声を駆けられた。向こうは俺の事知ってるみたいだけど

 

 「レヴィちゃん、もう10分ぐらいあのままなんだ。班行動じゃないといけない以上、私達の班は次のフロアに進めないの。お願いだからレヴィちゃんに『もう次のフロアに行きたい』って伝えてくれないかな?」

 

 「???自分で言えばいいと思うけど?」

 

 「さっきから何回も言ってるんだけど返事をするだけで離れようとしないの」

 

 …そういう事か。

 

 「うちの家族がご迷惑をお掛けしてすみません」

 

 レヴィに代わって頭を下げ謝罪する。

 それからレヴィの側に行ってポンポンと肩を叩く。

 

 「何~?」

 

 振り向く事無く返事だけが返ってくる。

 

 「いつまで見てるのか知らんがそろそろ移動する気にはならんのか?」

 

 「ふえっ!?ユウ!!?」

 

 俺が声を掛けたらすぐさま振り向いた。

 

 「何でフグにそこまで魅入られてたんだ?」

 

 「うん。フグって美味しいんだよね?一度食べてみたいなーって」

 

 食い意地張り過ぎだ。

 

 「ねえユウ。僕、フグが食べたいな?」

 

 キラキラと瞳を輝かせ、期待するかの様な眼差しを俺に向ける。しかし現実は非情なのだよレヴィ。

 

 「残念だがフグを調理するには『フグ調理師』の資格が無いと出来ないし、俺は持ってないから無理だな」

 

 「そんな!!?」

 

 『ガーン』という擬音が入ったかの様にショックを受けている。

 

 「うう…僕の楽しみが…」

 

 ガックリと肩を落とすレヴィ。そんなにフグ食いたいのか?

 

 「あー…何だが済まんね。夢をぶち壊す様な事して」

 

 「…フグー」

 

 力無く声を出すレヴィ。気の毒に…。

 もっとも毒を取り除いたフグも売ってる事には売ってるが値段が結構張ってたりする。

 それなら買って調理するより…

 

 「食いたいなら店に行くしかないかなあ…」

 

 食いに行く方が安上がりだったりするんだなあコレが。

 

 「食べに行こう!!」

 

 そんな俺の言葉に反応したレヴィが、突然顔を上げて俺に言ってくる。

 

 「いつ?」

 

 「今すぐに!!」

 

 「アホか!今は修学旅行中じゃい!!」

 

 レヴィの台詞に素早く突っ込み、軽くおでこにチョップすると当の本人は可愛らしい悲鳴を上げる。

 

 「にゃうっ!?」

 

 「そういうのはせめて帰ってから考えろ。まあ、言ってくれたところで他の皆が賛成するかは分からんがな」

 

 「む~…シュテるん達なら興味示すんじゃない?フグ食べた事ないし」

 

 「そうですね。私は少し興味ありますよ」

 

 会話を静かに聞いていたユーリもフグ料理には興味がある様だ。

 

 「ほら!!ユーリもこう言ってるよ!!だから食べに行こうよ!!修学旅行終わってからでいいから!!」

 

 「…まあ、全員が『食べたい』って言うなら行ってもいいかもな。俺がフグ料理最後に食ったのも結構前だし」

 

 「ユウは食べた事あるの!!?美味しかった!!?」

 

 レヴィの問いに頷くと途端に不機嫌になる。

 

 「ズルい!!僕に内緒でフグ食べてたなんてズルいよ!!」

 

 「内緒も何もなあ…」

 

 そもそも最後に食った時だってコイツ等と出会う前の事だ。文句を言われても困る。

 

 「こうなったら絶対にフグ食べに行くからね!!決定事項だよ!?」

 

 「だから皆が行きたいならな。シュテルとディアーチェには後で聞くとして、メガーヌさんとルーには帰ってから聞かないと」

 

 「そういえばメガーヌとルーは今日、さざなみ寮っていう所に泊まるんですよね?」

 

 「ああ、耕介さんにはちゃんと連絡してるし」

 

 実はつい先日、家のお隣さんが引っ越す事になってしまった。そのお隣さんが引っ越す際に

 

 『家が建っていた場所も貴方のお父さんが購入していた土地で私達は土地の一部を借りて住んでいたのよ』

 

 と言っていた。

 今回の引っ越しと同時に土地も返して貰ったため、せっかくだし家を増築しようという事になった。

 で、フィリスさんに紹介して貰った大工さんに依頼した所、快く引き受けてくれ

 

 『1日あれば余裕でさぁ』

 

 なんて言ってたので、今日だけメガーヌさんとルーはさざなみ寮へお泊りに行っている。増築の際は騒音とかが凄いらしいから。

 でも1日で出来るとか普通は考えられないのだが…。

 まあ、その手のプロが言うんだから信じよう。それに帰ったら増築された家を見るのが少し楽しみだったりする。

 

 「ねえユウ。僕、家が大きくなったら今より大きい部屋で過ごしたい」

 

 「新しく出来る部屋が今の部屋より大きいかは知らんけど、そこら辺は好きにしてくれ」

 

 「うん!!」

 

 「…で、だ。そろそろこのフロアから次のフロアに移動してやってくれ。向こうでお前と同じ班の子が待ってるんだよ」

 

 「あ、そうだね。………皆、待たせてゴメーン」

 

 そのまま同じ班の子の所へ駆け寄って行き、ユーリも後を追って行く。

 レヴィ達は次のフロアへ行き、少し遅れてから俺達の班はこのフロアを後にした………。

 

 

 

 「皆さんバスに乗りましたねー?」

 

 「「「「「「「「「「はーい!!」」」」」」」」」」

 

 水族館の中を一通り見終えた所で集合時間になってしまい、今日泊まる旅館に移動するため俺達海小の生徒はバスに乗っている。1組は1号車、2組は2号車、そして俺達3組は3号車のバスに乗っている。

 先生が点呼を取り、全員乗っているのを確認するとバスはゆっくりと動き出す。

 旅館までは水族館から1時間程の距離だという。

 俺は特に何をする訳でも無く、流れていく景色を窓越しにボーっと見るだけ。

 

 「ヒマそうね」

 

 「まあ実際ヒマだしな」

 

 後ろの座席から声を掛けられた。

 声の主はテレサ。

 俺は窓の外を見たまま答える。

 

 「ポ〇キー食べる?」

 

 「あ、食べる食べる」

 

 テレサからポ〇キーを貰い口にする。

 

 「この後は旅館に着いてから地引き網の体験だったわよね?」

 

 「確かしおりにはそう書いてたな」

 

 リュックサックからしおりを取り出して予定を確認する。

 …うむ。旅館に着いた後は『地引き網』と書かれている。これも前世では体験した事の無い行事なので少し楽しみだ。

 

 「その後は夕食、入浴、そして就寝まで自由時間だ」

 

 ピクッ

 

 『入浴』の単語が出た瞬間に謙介が反応した。

 

 「(とりあえずシュテル達に伝えておこう)」

 

 違うバスに乗っているシュテル達に念話で『覗きをしようとしている馬鹿がいる』と伝えておいた。

 シュテル達は『分かりました』と言い念話を切る。今から対策を立てるみたいだ。

 

 「(これで覗きの件に関しては大丈夫だろう)」

 

 隣の席で何やら思考し始めた謙介には悪いが、覗きは立派な犯罪行為なんだからな。

 それを未然に防ぐ友達の心遣いだと思って貰わなくては。

 

 それからテレサと喋ったり外の景色を眺めたりしているとバスはあっという間に旅館に着いた。

 旅館の入り口前で先生達の諸注意を聞き、自分の寝泊りする部屋に荷物を置きに行く。

 

 「ここが俺達の泊まる部屋かー」

 

 部屋の中は和風な造りで、床は当然畳、壺や掛け軸なんかが部屋にある。

 俺達の班全員分の荷物を部屋の片隅に置き、腰を下ろしてくつろぐ。

 

 「地引き網楽しみだな」

 

 直博の言葉に俺、謙介は頷く。

 

 「俺はあまり…のんびりしていたい」

 

 誠悟はややお疲れの様子。水族館でやたらはしゃいでいたから疲れが結構溜まっているんだろう。

 

 「でも地引き網で獲れた魚は今日の夕食になるんだぞ?」

 

 あー、確かにしおりの中の地引き網の項目にはそんな事書かれてたな。

 大量に釣れれば夕食のメニューに魚料理が沢山追加されるが少なければ追加されない可能性がある。

 ぶっちゃけ俺としてはその辺りの事はどっちでもいい。今はただ地引き網を楽しみたいだけだ。

 

 「…そろそろ行くか?ロビーで集合だったよな?」

 

 時間を見ると集合時間10分前。

 俺達全員腰を上げ、部屋を出る。

 部屋の鍵は俺が持ち、ちゃんと戸締りを確認してからロビーに移動する。

 ロビーには生徒の約半分近くが集まっていた。

 

 「皆どことなくお疲れ気味だな」

 

 「やっぱ水族館ではしゃいでた奴が多いんだろうな」

 

 俺達は自分のクラスの連中が集まっている場所の方へ行き、残りの生徒が来るまで待ち続ける。

 集合時間が近付くにつれ、続々と生徒が集まり始め、先生達も姿を見せ始める。

 それから少しして

 

 「………時間です。各クラスの担任の先生方は点呼の確認をお願いします」

 

 学年主任の先生の指示の元、担任の先生が確認を取っていく。

 ウチのクラスは全員揃っているが他のクラスは1人2人程、バス酔いでダウンしているらしい。

 

 「それでは今から地引き網を行いに行きますので、私の後に1組から着いて来るように」

 

 先生の後を着いて行く。

 地引き網が行われる浜辺は旅館から徒歩で4~5分の距離だという。

 

 「ていうか俺達が網を仕掛けんのか?」

 

 「何馬鹿な事を言ってるんだい直博。そんな事してたら時間が掛かり過ぎる。予め、網は仕掛けておいてそれを僕達が引き上げるんだよ」

 

 まあ、謙介の言う通りだろうな。

 

 「ていうか旅館で寝ていたかった…」

 

 誠悟、マジでテンション低いな~。

 皆の様子を見ながら歩き、浜辺に着いた。

 

 「皆さん揃いましたね?それではこれより地引き網を行いたいと思います」

 

 学年主任の先生が説明をしてくれる。

 地引き網は3ヶ所準備されており、今からクラス毎にそれぞれの仕掛け場まで移動、そしてクラス全員で仕掛けてある網を浜辺に引き上げるとの事。

 ここから一番近い仕掛け場が俺達3組で逆に一番遠いのが1組、丁度1組と3組の中間が2組という割り振りである。

 

 「うおーーーー!!やるぞーーー!!!」

 

 「ちょ!?レヴィ!!少し声を押さえて下さい!!恥ずかしいですし、周りの皆に迷惑ですから!!」

 

 レヴィはテンション高すぎ。…ユーリは苦労するだろうな。

 

 「それと今日の地引き網で獲れた魚は夕食のメニューに追加されますので魚はすぐに網の側に置いてあるカゴに入れて下さいね」

 

 「「「「「「「「「「はーい!!」」」」」」」」」」

 

 「魚を調理してくれるのはこちらの人になります」

 

 先生に紹介され、一人の男性が一歩前に出る。

 

 「俺が君達の釣り上げた魚の調理を担当する阿部(あべ) 高和(たかかず)だ。デカくて活きの良い魚を釣り上げてくれよ」

 

 ………うん、容姿はどう見ても『やらないか』の阿部さんだ。

 

 「《勇紀、あの人どう思う?》」

 

 「《椿姫の言いたい事は分かるけど別人だろ?》」

 

 「《…そうよね。本人じゃないわよね》」

 

 自動車修理工じゃなく料理人と言うんだから別人だろう確実に。

 まあ、そう思うのも無理はないけどな。名前も一緒だし。

 

 「それでは移動を開始して下さい」

 

 主任先生の言葉を皮切りに

 

 「3組の皆さんも網の仕掛け場まで移動しますよー」

 

 担任の先生の号令を聞き、俺達もすぐ側の仕掛け場に移動する。

 移動後、浜辺にある網の一部を皆が持ち、引く用意は出来た。

 

 「「「「「「「「「「オーエス!オーエス!」」」」」」」」」」

 

 運動会で行われる綱引きの時の様にクラスの皆で息を合わせ、網を浜辺に引き上げていく。

 

 「「「「「「「「「「オーエス!オーエス!」」」」」」」」」」

 

 網がズルズルと引き上げられて行き、徐々に網に掛かった魚が姿を見せる。

 

 「「「「「「「「「「オーエス!オーエス!」」」」」」」」」」

 

 そのまま勢いを落とす事無く網を引き続け、遂に網が全て浜辺に引き上げられた。

 ピチピチと元気に跳ねてる魚がそれなりに獲れ、俺達はすぐ側にあるカゴに魚を入れていく。

 

 「大量だねー」

 

 「いや全く」

 

 「夕食が楽しみだな」

 

 「他のクラスはどうなんだろう?」

 

 カゴに入った大量の魚を見て皆それぞれ口にする。

 

 「早く帰りてー」

 

 そして相変わらずお疲れモード全開の誠悟。

 

 「そうぼやくなよ誠悟。後はもう旅館に戻るだけなんだ。もう少し我慢しようぜ」

 

 「……………ういー」

 

 直博の言葉に弱々しくだが誠悟は返事する。

 

 「早く旅館に戻りたいね!」

 

 謙介は逆に活き活きしてるな。

 …夕食の後は風呂だしな。だがもうシュテル達には連絡済みだし、コイツが女子の入浴を覗く事は叶わぬ願いとなるだろう。

 それから3クラスが再び集まり、魚の入ったカゴを全て渡して俺達は旅館に戻る。

 夕食に出てきた魚は唐揚げや刺身としてメニューに追加されており、とても美味しかった………。

 

 ~~あとがき~~

 

 今回の修学旅行話は自分が小学生の頃、実際に経験した事を思い出しながら執筆しました。

 1泊2日しかなかったのも実話だったりします。自分の友人達は皆小学生の修学旅行でも3泊4日あったと言ってたので羨ましく思います。

 それと『ゼロの使い魔』の作家であるヤマグチノボル先生が亡くなられたと知りました。自分はヤマグチ先生を応援していたファンだったのですが………。

 心よりご冥福をお祈りします。

 


 
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