No.564831

リリカルなのはSFIA

たかBさん

第十話 俺の手は

2013-04-10 16:31:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:7418   閲覧ユーザー数:6554

 第十話 俺の手は

 

 

 

 はやて視点。

 

 私は六課にある会議室の一つを貸し切って高志君に尋問したら、少し考える素振りをしてからポツリポツリと高志君は説明した。

 

 「…『スティグマ』。『放浪者』。それから私達を遠ざける為に高志君は私達から離れた。そして、リインフォースとリニスさんの状況を時々見る為にプレシアさんと時々連絡していた」

 

 「・・・まあ、な」

 

 「・・・なんで。なんで私達には教えてくれなかったん!」

 

 私はダン!と会議室に設置されている机を叩く。それはその場にいたフォワード陣。そして、隊長陣のなのはやシグナムもそれに驚いたのか身をすくませた。

 話から察するにリインフォースとリニスさんも何らかの形で高志君の生存を確認できたはず。それなのに私達には死んだと思わせておいた!

 

 「お前達が子どもだったから、だな」

 

 「~~~~~っっ!」

 

 ガァンッ!

 

 私は魔力を込めてガンレオンの鎧を未だに着込んでいる高志君を殴った。

 それはただ、鋼を叩く音を響かせるだけ。私の手を痛めるだけだった。

 

 「『スティグマ』。『放浪者』。それを知ってお前達はどうしようっていうんだ?」

 

 「っ!助けるに決まっているよ!私達友達でしょ!」

 

 なのはちゃんが高志君に今度は食ってかかろうとする。が、

 

 「それでお前達に『スティグマ』が刻まれたらどうする?友達(・・)の俺に苦しめっていうのか?」

 

 ・・・あ。

 

 「それは!・・・それは」

 

 友達だから巻き込みたくない。

 私も。そして、なのはちゃんもそうだった。ジュエルシード事件の時。『闇の書』事件の時で。

 誰も巻き込みたくないから自分で自分の命を絶とうとした事のあるリインフォース。

 でも、今は・・・。

 

 「それでも。・・・それでも『悲しみの乙女』は!リインフォースは私達の傍にいるじゃないか!それが、『スティグマ』が刻まれてない!それなのにどうしてお前だけが!」

 

 ヴィータの言葉にリインフォースはびくりと体を震わせた。

 確かにそうだ。

 スフィアリアクターの傍にいるだけで『スティグマ』を刻まれるというのならリインフォースだって高志君同様に私達の傍からいなくなろうとするはずだ。

 それにリインフォースは私から完全に独立した守護騎士。主である私が命令しても≪人間の様に嘘を語り、守秘することが出来る≫。なのに、なぜそうしなかったのか?

 

 「それは、俺が。リインフォースに…」

 

 「待て。そこからは私が話す。主はやて。彼は今までずっと私の事を。主達の事を守っていたのです。私達の所から離れたあの時から、ずっと・・・」

 

 リインフォースは語った。

 自分が弱体化した今の理由を語った。

 どうして独立したとはいえ正常作動しているリインフォースが収束砲を一回だけ放っただけで、彼女が肩で息をするほどまでに弱体化したのか。

 それはリインフォースが『悲しみの乙女』で存在しているから。

 はやてよりも出力があるスフィアの恩恵。それで存在しているのは・・・。

 

 「彼が、『傷だらけの獅子』の力で抑え込んでいるからなんだ。私が『放浪者』にならないように・・・」

 

 「・・・」

 

 何も言えなかった。

 言えなくなっていた。

 ずっと。ずっとだ。私は、私達家族は守られてきたんだ。

 

 「だから。だから私達から離れたというの?!」

 

 アリサがテーブルから怒鳴りながら乗り出す。

 

 「あんた、私達を子どもだからって、言っていたけどあんたも同い年じゃない!それなのに!私達を巻き込みたくない!?はっ!あんただって子どもじゃない!あんたはどうして!」

 

 「・・・『放浪者』。スフィアをめぐる戦いに巻き込みたくないから」

 

 自分が転生者。一度死んで生き返った人間だと知られたら管理局に徹底的に拘束されて実験動物にされると聞かされている。プレシアに。

 本当は前世も合わせて三十のおっさんなんだが・・・。

 

 「ふざけんじゃないわよ!巻き込みたくないなんて!そんなものに巻き込まれても私は!」

 

 「別世界に飛ばされるかもしれないんだぞ!いつ、この世界からはじき出されるか分からない!アサキムみたいなやつと戦わないといけなくなるんだぞ!そんなのにお前達を巻き込めるか!」

 

 「今はあんたもここにいるじゃない!それにあんたはこの世界にいる!飛ばされてもあんたが私達を責任もって守りなさい!それにスフィアを巡る戦いというのならあんたは飛ばされる可能性は限りなく低いわよ!」

 

 ・・・どうしてや?

 

 「この世界に幾つスフィアがあると思ってんの!『獅子』『乙女』『天秤』の三つ!アサキムがあんたを狙ってんなら『山羊』『黒羊』!五個もあんのよ!スフィア同士が引き寄せられるんならこの世界にスフィアが来るってことじゃない!」

 

 ・・・あ!

 そう言われてみるとそうや!むしろスフィアはこの世界に集まってきている。

 『乙女』と『天秤』のどちらが先かは分からないけど、その後に高志君がこの世界に来た。その後、『知りたがる山羊』のアサキム兄ちゃんが来て、その後、王様達『偽りの黒羊』が来ている。

 

 「・・・それに、カリムの予言じゃもう一個来る」

 

 「あ、はやて。それは・・・」

 

 リニスが私を止めようとしたが、それはばっちり聞こえていたようで。

 

 「…八神隊長。その辺の話を詳しく聞かせてもらいます」

 

 ・・・あ~、私がさっきまで尋問していたのに。なんだか、私が尋問されそうな感じ。

 

 「…はやて。リニスさん。もう一個のスフィアについて聞かせてもらうわよ。でも、その前に。…タカシ。ずっと思ってたんだけど…」

 

 リニスさんはやれやれと言わんばかりに眉間にしわを寄せた。

 アリサちゃんとティアナに睨まれたけど、その視線を高志君に移す。

 

 

 

 

 

 「脱げ!」

 

 

 

 

 

 

 高志視点。

 

 あの後、アリサの『(ガンレオンの鎧を)脱げ』。と、言う発言に一時は騒然としたが、ガンレオンを解いて、直接アリサ達。幼馴染(?)というか、小学生の頃に仲の良かった誰かに接触するとスティグマが刻まれる恐れがあると『傷だらけの獅子』のスフィアに言われていた。

 そのことを説明したら、アリサはフレイム・アイズを起動。

 先程の爆弾発言もあったのか恥ずかしさを誤魔化すためにフレイム・アイズを振り回してガンレオンの装甲を引っぺがそうとした。

 スティグマを自分に刻めば、俺がそれに責任を感じて皆の前からきえることはないだろうと。

 それに乗じてはやて。なのはも攻撃を加えてガンレオンのダメージオーバーによる解除を狙ってきたがリニスが止めた。

 

 「何気にティアナも攻撃してきたもんな」

 

 はやてさんのご命令だったので。だと?

 はやてはそんなこと一言も言っていなかったぞ!

 そして、リインフォースと目があった時、俺は見た。

 彼女が思いっきりガナリーカーバーを振り上げているところを。

 

 「・・・リインフォースだけは信じていたかった」

 

 そう言いながら俺は割り当てられた牢屋。とはいってもちゃんと綺麗にベッドメイキングされているから不潔感は一切ない小部屋のベッドで眠ることにした。

 ブラスタで常時警戒させているから、侵入者がこの部屋に入ろうとしてきた瞬間に自動的で装甲を展開させる仕組みになっている。

 

 「誰を信じていたかったの?」

 

 ベッドの上で横になりながらぼやいていると後ろから声をかけられた。

 

 「それはもちろんリ・・・」

 

 「リ?」

 

 ・・・。

 ・・・・・・な!

 何故、アリシアがいる!?

 ブラスタの警戒機能を発動させる前からこの部屋にいたのか。

 ベッドのシーツ越しにアリシアが触れてくる。

 

 「な、な、なんで?」

 

 「うん。直接は触らないよ。だけど、出来るだけ貴方を感じたいから。これぐらいは許してね」

 

 背中の方からシーツで包むかのように抱きついてくるアリシアの声。そして、あまりにも生々しい感触。せ、背中越しに感じる柔らかい。その中心点には少し出っ張っているのか二つの柔らかくも少し硬い何かが・・・。

 ま、ま、まさか!

 

 「あ、アリシア!お前!」

 

 「うん。何も着てないよ。シーツの向こう側は産まれたままの姿」

 

 全裸ですか!?シーツ付きではあるがある意味全裸よりもエロかった!

 いや、後ろを振り向いていないから見てはいないんだけど…。

 

 「あ、あ、ああ、アリシアァアア…」

 

 ふわっと首元に巻きつけられる腕。香ってくるのは少女ではなく、女性特有の柔らかい香り。

 ふぅ。というかすかな息遣いで俺の理性が『本能』に貪りつかされる!

 このままではまずい。このままだとぉおおおっっ!

 滅茶苦茶アリシアに触りたくなる!いやらしい気分になってくる!いや、正直に言おう!

 

 ヤッチマイタクナル!

 

 魔力で薄い膜を体に張って入るけど・・・。それはあまりにも弱々しい。俺とアリシアを隔てるシーツよりも薄く、もろい。

 そして何より理性が。理性がぁあああああああ!

 

 「・・・暖かいね。あの頃と何も変わらない。あの時抱きしめた背中と変わんない。…ううん。変わっているか。・・・凄く、たくましい」

 

 やめてぇえええええ!

 アリシアをはねのけようとした瞬間だった。

 

 「う、うぐぅ、うええええええええん」

 

 アリシアは震えながら泣きだした。

 シーツが濡れていくのが分かる。泣きながら、震えながら、抱きしめるその腕はとても華奢で、弱々しかった。

 

 「…行かないで。…もう、どこにも行かないでえええええ」

 

 子どもが自分の母親に抱きつくかのように抱きついてくるアリシア。

 彼女を抱きしめたい。という、感情に駆られる。

 ただし、性欲ではなく純粋な保護欲に駆られる。だけど、

 

 (抱きしめたらスティグマが…)

 

 部屋に置かれた鏡に映ったアリシアの髪は月よりも綺麗なのに…。

 俺の手はとても汚いものに見えた。

 

 「う、う、うえええええ…」

 

 「・・・」

 

 アリシアはそれから泣き疲れて眠るまで震えていた。

 そんな彼女に俺は頭を撫でることも、抱きしめてあげることも出来なかった。

 

 アリシアが寝息を立てたのでそっとベッドから出る。

 アリシアにはシーツをかけ直してそのまま寝かせて、俺は部屋の隅でガンレオンの鎧で座り込むように眠った。

 

 月明かりが差し込んでアリシアを照らす光景はとても綺麗で。

 とても悲しげなものだった。

 

 


 
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