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EPReverse 闇に喰われる罪人
No Side
6月上旬、東京都内刑務所の独房の一室、そこに1人の男が捕らえられている。
「……ぶ、あ…つら……い…。ぜ……、…いつ……せ…だ。…ん…、あい……のせ……」
その男はぶつぶつと何かを呟いている。
「ぜんぶ、あいつらのせいだ。ぜんぶ、あいつらのせいだ。ぜんぶ、あいつらのせいだ」
まるで呪詛の様な言葉を呟き続ける男。まだ年若い身でありながらその髪は白髪となっており、その顔には生気が感じられない。
だがしかし、その眼には憎悪、憤怒、嫉妬という負の感情で溢れていた。
「全部、アイツらのせいだ……桐ヶ谷和人、茅場晶彦…!」
この男こそ『ALO事件』の黒幕にして、300人もの人間を己の欲望の為に実験体として扱った非道の人間。
名を、須郷伸之という…。
須郷伸之…。あの茅場晶彦と同じ大学の研究室に所属し、彼と同じ研究をしていた。
茅場を表面上は慕っていたものの、かなりの対抗心を持ち合わせており、常に目の敵にしていたようである。
また茅場と交際していたという女性、神代凜子に恋慕しており、
彼女に再三にわたって交際を申し込んでいたというが、やはり彼女は全て断った。
全てにおいて茅場に劣ると考えた彼の思考は、完全に己の欲望へと変わっていく。
自身が務める会社のCEOである結城彰三の娘は大層な美人だ、それも滅多にお目に掛かれるようなものではない。
だがその少女もまた彼に心惹かれるようなことはなかった。
そんな折りに起こったのが、先輩である茅場が引き起こした『SAO事件』である。
それを利用し、彼は彰三の娘である結城明日奈を、そしてレクト・プログレスを手中に収めようと画策した……が、
それは2人の男によって阻まれる事となった。1人は手に入れようとした少女の想い人である少年、桐ヶ谷和人。
そしてもう1人は死んだと思っていた、いや彼の場合はその存在こそがイレギュラーだった男、茅場晶彦。
この2人、そして2人を渦巻く人の繋がりによって須郷の画策は阻まれたのだ。
その結果、ペインアブソーバーによる肉体への過剰なダメージ、
自白したも同然に公開と録音されていた自身の放った言葉による社会的地位の崩壊となった。
当初のダメージと精神的なものから髪は白髪となり、顔の表情からは生気というものが抜け落ちた。
これこそが須郷の転落の一端である、最早茅場に追いつけるかもしれなかった天才には見えない姿だ。
いまのこの男にあるのは、自分をこのような状況に追いやった和人と茅場への復讐心だけであろう。
その日、須郷は別の場所にある拘置所へと移送されるということで、深夜の護送車に乗せられている。
運転を警察官の1人が行い、もう1人がその隣に座り、彼のいる護送車内には2人が見張りとしてついている。
そんな時だった、突如として車が急停止した。
「おい、どうしたんだ?」
「一般車の事故だ! ぶつかって車が引火を起こしている!」
「なんだと!?」
護送車内にいた1人が運転席の1人に聞き、事故が起きていると言った。
現に彼らの乗る護送車の前には道を塞ぐ形で1台の車が道を塞いでいた。
既に1人が事故を起こした車に人がいないかを確認する為にその車に近づいている。
「誰かいないか!?」
警察官が煙の出る車の内部に声を掛け、中を確認する。
しかし中には誰もいなかった。
「誰もいない…。事故を起こしたから逃げ(ザシュッ!ゴロンッ、ドサッ!)」
人がいない事を確認し、車から離れようとした警察官。
だが彼の体を何かが斬り裂き、そのまま彼の首は胴体と切断された。
彼を斬った人影は車の影へと身を隠す。
「お~い、どうだったっ!? くそっ(ザシュンッ!)ぎゃあ!?」
現れたのはもう1つの影、その影によって運転席から出てきた警察官は首を一瞬で貫かれた。
2人の人間が瞬く間に殺されたのだ。
「火の中に突っ込むぞ…」
「了解ぃ~」
2人の影は2つの死体を燃え始めている車の中に投げ入れた。
そして、中々戻らない仲間を気にかけた車内の1人がまた見に来たが…。
「なっ!? こ、これは…(ドスッ!)ぐふっ!?……な、なん、だ…?」
「
「やめっ―――(ドシュッ!)」
背部から刃物で刺されると銃を奪われ、最後に頭部に刃物を一突きされたことで、また1人絶命したのだ。
影は3人である……1人は大型の鉈に近い刃物を持ち、1人は鋭い長めの刃物を、
そしてもう1人は細めの刃物と奪い取った拳銃を持っている。
3人は護送車に近づくと扉を開けた。
「っ、なんだ貴様ら(ダンッ!ダダンッ!ドサッ!)」
突如として車内に入ってきた3人を問い詰めようとした最後の警察官も、拳銃を持った男により頭を撃ち抜かれて死亡した。
須郷はというと、混乱していた。
自分が乗っている車が襲撃を受けた、それだけは理解できていたが……襲撃者の目的までは分からなかった。
「この時を待っていたぜ……須郷…」
鉈のような刃物を持った男はそう言うと、須郷を掴んで車から引き摺りおろし、地面に投げ捨てた。
「さぁてと、どうやって殺そうか…?」
「ヘッド、早く殺っちまおうよ~。バレたらマズイぜ?」
「その通り、だ…。時間が、惜しい」
「それもそうだな」
この言葉を聞いて、須郷はようやく理解した。3人は男で、自分はいま殺されようとしていると…。
「や、やめて、くれ…(ダンッ!)ぎゃあっ!?」
命乞いをするが、銃声と共に放たれた1発の弾丸に右脚を撃たれて痛みに悶える。
―――ダンッ!ダンッ!ダンッ!
「ぎゃあぁぁぁっ!?」
続け様に放たれた3発の弾丸が右腕、左腕、左脚を順番に撃ち、さらに痛み悶える。
3人の男は須郷を囲んで刃物を構える。
暗闇と痛みによって流れる涙で相手の顔が見えない須郷、恐怖で声を上げられず、
しかもこの場所は山中に近い場所なのでこの時間帯は車が通る事はほとんどない。
男達の中で最も背の低く声が高めの男がナイフを取り出し、それで須郷を斬りつけた。
「ひゃっはっはっ、なぁにすぐに痛みなんか気にならなくなるよ。体が動かなくなるけど」
その言葉通り、須郷の体は徐々にいうことを聞かなくなり、動けなくなった。
男達は刃物を構えると須郷を一気に斬りつけていく。
最早須郷は声を上げる事も出来なくなり、恐怖に精神を犯されて何も感じられなくなっている。
男達は刃物を振るう手を止める。
「チェックメイトだ…」
暗闇に一瞬だが男の顔が映えるが、それもすぐに見えなくなり、鉈のような刃物は須郷の首に……振り落とされた。
「さて、退くぞ」
「りょ~かい!」
「分かった…」
男達の姿は夜闇の中へと消えた。
男達が襲撃した場所は血の海に染まり、道路下の崖には真紅の炎が巻き起こり、
1台の護送車の中は血の海と共に肉塊が存在していた。
No Side Out
和人Side
嫌な汗を掻きながら目覚めた朝。
周囲はまだ暗いものの、陽が昇り始めていた。
鍛練でも済ませてシャワーを浴びようと考え、ジャージに着替えてリビングへと下りた。
音量を小さくしてテレビをつけ、早朝のニュースを軽く聞き流す。
『………ということですね。では続いてのニュースで、え? た、ただいま入った速報です。
深夜1時、護送車によって拘置所へと送られていた『ALO事件』の須郷伸之容疑者が、何者かによって殺害された模様です』
「っ!? な、なん、だって…?」
俺は戸惑ったように話す女性アナウンサーの言葉に耳を疑った。須郷が、殺された?
『現場の映像が入っています、こちら…です、ね…』
『こ、これは…』
「なんだよ、これは…」
映像が流れると女性アナウンサーの声が途切れ途切れになり、男性アナウンサーも動揺した声を漏らす。
かくいう俺も、さすがに言葉を失った……映された映像、それは…。
道路一面に溢れる血の海、崖下の森の中には車が落ちていて炎上している。
血の海の側にある護送車の扉は閉じられているにも関わらずに血が流れでており、警官が必死で隠そうとしているのが分かる。
『こちらは現場です! 殺害された須郷容疑者の遺体はバラバラに切断されており、
また護送に同行していた警察官4名が崖下の車の中から焼死体となって発見されました!』
現場でリポーターの男性が周囲の状況を実況していたが、俺の眼にはあるものが写った。
それは道路の側の壁に血によって書かれた文字があった。
―――It’s show time!
「っ、PoH…!」
俺は拳を握りしめ、唇を噛み締めながらテレビを睨みつけた。
確かに須郷がやった事は許されないものだ、しかし命を奪ってはおらず、
被験者達にも障害が残ることがないのは周知の事実である。
須郷は自業自得といえばそうなのかもしれないが、だからといって命が奪われて良い訳ではない。
―――PoH、お前は……俺が、捕らえてみせる!
SAOで殺せなかった俺は、今度は捕らえてみせる事を心の奥で誓った。
和人Side Out
END
これにより、罪人は闇そのものによって喰い尽くされました。
下種郷の末路が気になっていた皆さんにとって、
これが望んだものであった人もいれば、望まなかった人もいるでしょう。
しかし、これこそがこの作品での奴の末路だということを覚えておいてください・・・。
それではまた・・・。
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物語の裏側です・・・。
時間軸ではALO復活の後、新生アインクラッドのさらにあとに当たります。
さぁ罪人よ、裁かれろ・・・。