時は、ヒョロナガが起きる少し前に戻る。
:森
森の中を3人の少女が駆けていた。
3人ともが、統一して中華風の服装をしているが、変わったことに、これまた統一してコスプレの
ような服装であった。
最後尾を行く少女は、いかにも動きにくそうな服装なのにもかかわらず、頭に小さな人形を乗っけ
ながら器用に走っている。(人形が、女の子の長く、白っぽい金髪を落ちないように、自分で掴んで
いるように見えるから不思議である。)
真ん中の子は眼鏡をかけ、知的で、しっかりとした性格であることが顔立ちから感じ取れる子だ。
そして先頭を走る子は、明らかに武について、後ろ二人とは別格であることが走り方と、走りつ
つも後ろの二人が走りやすいように小石を蹴飛ばしたり、飛び出したりしている枝を、手に持つ槍
で払っていることから分かる。
何者かを追いかけているらしく、先頭の少女は足跡などの痕跡を探しながら走っていた。
不意に、真ん中の少女が口を開いた。
「星、本当にこちらで、あっているのですか?」
星、と呼ばれた先頭の少女がそのままのペースで、真ん中の少女の問いに、息を乱さずに答える。
「ああ、間違いない。足跡は分かれることなく4人分、真っ直ぐに続いている。何より、メンマの
匂いが残っている」
「貴方は、犬、ですか」
真ん中の少女は少し疲れているようで、呼吸を乱して、言葉が途切れ途切れになっている。
「ふっ、あ奴ら、捕まえたらどんな目にあわせてくれようか」
星と呼ばれた先頭の少女は、不敵な笑みを浮かべ、悪そうな顔をする。
「しっかし、水浴びをしている最中に荷物を盗られるなんて、姉ちゃん武人としてどうよ?」
そんな少女に、最後尾の少女が突っ込みを入れる。(これまた、少女の頭の上の人形が言っている
ように聞こえるから、不思議である。口調を変えている所を見ると、腹話術か何かであろうか)
「むぅ・・・」
「そもそもメンマなんて、どれも同じなんだから、また買えばいいじゃねえか」
「こら宝譿、それは禁k「ほう・・・?」・・・ほらぁ」
星は、走る速度を落とし、最後尾の少女の横へと並んだ。
「聞き捨てならんことを聞いた気がするなあ。なあ、風?」
口調は変えず、しかし背後に黒い陽炎を浮かべながら、ひきつった笑顔で星は少女に尋ねた。
「違いますよー、風は何も言ってませんよー」
「ほう、ではどの口が言ったのかな?」
ずずいっと、風と自らを名乗った少女に、星は顔を寄せた。
「ほら宝譿、黙ってないで、何とか言ったらどうなんです?」
「ほう?またお前か、宝譿」
ギロリと、星は視線を人形のはずの宝譿へと上げるが、
「・・・・・・」
無論、何も喋らない、喋れない。
「やはりいつもの腹話術か、いい加減宝譿のせいにしないで、素直に認めたらどうだ」
視線を再び風に戻す。
「だから違いますって」
相変わらず、しらを切る風。
「ええいどの口がきくか「きゃっ!」む?」
いよいよ実力行使に出ようと、風の口に手を伸ばしたところで、不意に前方から、可愛らしい悲鳴
が聞こえた、そして足が何かに引っ掛かったと思えば体が浮き、落ちる。
「へぶ!」
「っと」
結果、風は顔から地面に突っ込み、星は咄嗟に地面に手をつき、体のバネを利用して、新体操の如
く地面へ着地した。
続いて顔を上げて、何が起こったのかを確認する。
するとそこには、風と同じように地面に熱い口づけをする、先ほどまで星に代わって先頭を走っ
ていた少女がいた。
「おい稟、大丈夫か?」
こちらの少女の名前は稟というようだ。
「いたた・・・はい、地面が軟らかかったので、なんとか。眼鏡も割れませんでしたし」
稟は身を起こすと、眼鏡が割れていないことを確認した。
当時、眼鏡はとても高価な物であり、稟にとってそれは、自分の身と同等の位にあるようだった。
「ふむ、風はどうだ?」
星の問いかけに、風は顔だけを上げた、まるで芋虫のような態勢で答えた。
「けほっ、大丈夫です」「そうか、それでは先を急ごう」
風も、顔が多少汚れている程度で、少しのかすり傷もないようだった。
星は、二人が怪我をしていないことを確認すると、またすぐに走り出そうとするが「ちょっと待
ってください」と、稟に呼び止められた。
「どうした?やはりどこか打ったのか?」
振り返ると、二人とも立ち上がり、パタパタと服に付いた土を払っていた。
「いえ、そうではなく、できれば歩って行きませんか?」
稟の額を見ると、汗が浮かんで垂れており、顔についた払い切れていない土埃を流して、数本の線
が出来ていた。
風はいつも通りの涼しい顔をしているが、表情は隠せても、さすがに流れ出る汗は隠せていない
ようだった。
「ふむ・・・そうだな。すまん、少し焦っていたようだ」
「いえ、星のメンマ好きがどれほどのものか、もう嫌になるほど知っていますから」
「全くなのです」
「・・・すまない」
星は頬をわずかに赤らめ、友二人に、申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえいえー、それでは行きましょうか」
「そうですね」
「おう」
そうして3人は、こそ泥の痕跡を追い、森の奥へと歩いて行った。
そして時は、カズトが船を出た後へと進む。
:森
カズトは船を出ると、アニキ達が向かった方向とは逆の方向、つまり、獲物であるフェイスハガ
―を追って走っていた。
通常、フェイスハガ―の足は、人の手の指程に細いので足跡が見つけ辛く、後に垂れる尾が地面
を這うようにして進むので、肉眼でフェイスハガ―を追う事は非常に困難であるが、カズトはそれ
を、マスクの機能によって可能にしていた。
このマスクはカズト仕様で、ガントレットかカズトの声で操作することができる。
そしてこの機能は「追跡モード」。標的が残した痕跡を、マスクの画面に映し出すのだ。原理は
よく分からないが。
カズト自身、このマスクなどの装備の原理をそれほど詳しくは知らない。
小さい頃、修行の一環として師匠に装備などについて教えられたが、カズトはそれを大雑把にし
か覚えていない。
カズト曰く、「水素がどうのこうの聞いたとたんに眠くなる」だそうだ。
無論、プレデタ―として必要なことは人に説明できるほどに覚えているし、勉強が苦手というわ
けではない。ただ興味がない、それだけの事だった。
不意に、前方に黒く丸いものが視界に入った。
無視してもいいのだが、それをさせない雰囲気を放っていた。
(壺のようだが・・・なんだ?何か、強い念を感じる)
そう、それは両手にすっぽりと収まるサイズの壺だった。
かすかに美味しそうな匂いがするので、中身は食べ物だろうが、ただの食糧がこんな雰囲気をた
だよせられるはずがない。
カズトは恐る恐る近づき、それを手に取ってみた。
これまたマスクの機能を使い、中をスキャンしてみる。
するとすぐにカズトの視界に、データが映し出された。
(これは・・・細長い、竹?シナチク、いやメンマか)
害がないことを確認すると、顔を近づけてみる。
(ふむ、レモンのようなさわやかさに酢のような鼻をさす、独特の匂いが混ざっていいる。かす
かに甘い香りもするが、それを紫蘇の様な何とも言えない物がにじんで・・・)
「・・・うええ」
カズトはそこまで思考すると、意識が遠のくのを感じ、サッと顔を離し、全身を鳥肌立たせた。
(何だこれは!?遠くだと薄まって良い匂いで、近くだとこの匂い、まるで食虫植物じゃないか
!)
カズトは常人よりも数倍嗅覚が鋭いので、その破壊力は凄まじいものだっただろう。
しかし、カズトはそれを気力でこらえ、頭を振って頭をはっきりさせる。
カズトはそれを危険だと判断し、割ると飛び散りそうなので遠くへ投げようと、腕を振りかぶっ
た瞬間、背筋に悪寒を感じた。
背後から何者かが飛び出してくる気配を感じ、左へ跳び退って距離をとる。
すると先ほどまでカズトが居たところへビュンッ!と、棒らしきものが振り下ろされたのを感じ
た。
見ると、そこには少女が立っていた。
青い髪に白いチャイナ服のような服を着ていて、頭にも同じく白い帽子が乗っていた。
振り下ろされたそれは、少女が持っている槍のようだった。
(この時代に槍?いや、でもすごい槍のスピードだったし、そういう競技の選手なのかもしれな
い)
そう判断すると、こちらをジロジロと見ていた彼女が口を開いた。
「貴様、鬼か蛇かは知らぬが、その壺、返してもらおうか」
そう言うと、彼女は左足を前して構えを直し、こちらに飛びかかろうとする。
(ちょ、ちょっと待った!)
それを見たカズトは、右手を平らにして前へ突き出し、待ってのポーズをする。
「なんだ?素直に返すのか?それならばその壺をそこにおいて立ち去れ」
そう言われたカズトは、素直に壺を地面へ置こうとするが、あることを思い出し、腰を折ったま
ま動きを止めた。
(ここに俺が置くとする、すると彼女〝達〟は俺とは逆の方向から来ただろうから、恐らくその
まま道なりに進むだろう。そうしたらあと少しで自爆装置が爆発するだろうからそれに巻き込まれ
る・・・)
そこまで考えるとカズトは立ち上がった。
「ほう、やはりそれを手放すのが惜しくなったか。よかろう、お望みとあらばこの趙子龍、お相
手仕ろう」
そういうと、子龍・・・星はさらに腰を落とし、攻撃に特化した構えをとった。
槍を後ろへ搾るように構えている所を見ると、一撃で仕留めるつもりのようだ。
子龍はかすかに恐れをカズトに抱いていた。
先ほどの振り下ろした一撃、完全に虚を突いた一撃にもかかわらず、カズトは完全によけた。
(こそ泥程度、と油断していた点もあるだろうが、それでも当てるには十分な速さだったはずだ
。だがそれを避けたのであれば、こいつは相当な手練れだ。全力をもってし止めなければなるま
い)
そう覚悟した星の頬を、一筋の汗が流れた。
先に動いたのはカズトだった。
一気に距離を詰めるように、星の方へ低く跳躍したのだ。
星は焦らず、カズトを注意深く見、そして
「はあっ!」ビュッ!!
と、先ほどよりも数倍速く、数段正確な一撃を風を切る速さで放った。
穂先がカズトのマスクの下の、むき出しの肌に吸い込まれるところを見、星は「獲った!」と確
信した。
しかし、カズトの首は飛ばなかった。それどころか、カズトの姿が一瞬にして消えたのだ。
「なっ・・・!?」
「星!後ろです!」
茂みの方から声が聞こえ、次の瞬間には体が反応した。
斜め下から、首をねらって斜め上へ放った槍の勢いを殺さず、前へ踏み込んだ右足を軸にして回
ったのだ。
振り向きざまに一刀両断してやるつもりだった、しかしカズトは、予想外の動きをしていたのだ
った。
「な・・・に?」
星が唖然とした顔をする。
当然だろう、カズトはこちらに斬りかかるどころか―――そのまま背を向け走り去っていたのだ
から。
するとすぐに止まり、カズトはわざとらしく壺を星に見せつけ、ベロベロバーというジェスチャ
ーをして再び走り出したのだった。
「・・・」
すると近くの茂みから二人の少女―――風と稟が出て来た。
「星、大丈夫ですか?」
動かない星を心配して、稟が声をかけた。
「ふ、ふふふ・・・」
「?・・・せ、星?」
やはり何かされたのだろうかと心配するが、声は聞こえていないようだ。
次の瞬間、二人は、先ほどの陽炎とは比べ物にならないほど黒く、まるで地獄から湧いてきたかの
ような炎を、星の背後に見た。
「ひっ!」
「うわあ、これはなんとも恐ろしい・・・」
本能が、星から発せられる何かを感じ取ったのか、途端に震えが止まらなくなる二人だった。
「おい、二人とも」
「「は、はい!」」
星の声が聞こえて、震えが消えたと思えば、瞬間、ビシィッと自然と体が気をつけの姿勢をとって
いた。
「追うぞ」
「「はい!」」
声をそろえて返事をし、先ほどまでの疲れを忘れて、ダッと走り出した星の後を追いかけだした二
人であった。
怒りに満ち満ちた星の行動であったが、星は冷静であった。
(やはり、只者ではなかった。稟のおかげで咄嗟に振り返れたが、それでもあ奴がその気ならば、
私が振り返る前に2,3度は殺されてたであろう。
なのに殺さず、こうやって自分を追いかけさせている、何かあるに違いない。別に怒っているわけ
ではないのだ、怒っているわけでは)
そう内心言い訳してる星だったが、あふれる殺気は隠せないでいた。
あくまで冷静に、怒っていた。
そんな殺気を向けられたカズトはと言うと・・・
(何だあの子!?こんな殺気が人間に出せるのか!?)
と、全身から出る冷や汗が止めらないでいた。
カズトは、何時だったかプレデタ―がときどき狩りに使う猟犬50頭と一緒に、何処かのジャング
ルに落とされた時のことを思い出していた。
(あのときは本当に死ぬかと思ったが、今回も捕まったらまじで殺されるな)
懐かしいなあと、思い出に耽っていると、ガントレットがピピーッと鳴った。
直後、後ろの遠くで割れるような爆発音がし、ズズンと地響きがしたかと思えば、突風が襲った。
カズトは、咄嗟にうつ伏せに倒れて風から逃れる。
「きゃっ!」
「ぬ!?」
「ほへー」
背後から悲鳴がしたかと思えば、コツンッと、カズトの頭に何かが当たった。
石か何かと思って顔を上げると、カズトの右手に人形が引っ掛かっていた。(これまたつk(略
後ろを見ると金髪の少女が飛んでいた。
「え、ちょっ!」
思わず驚きの声をあげてしまうカズトだったが、瞬時に頭を働かせる。
(少女はこちらに飛んできている、恐らくほか二人のように倒れられなかった。体格を見るに、そ
れほど鍛えてもおらず、受け身も取れないだろう)
そう判断すると、カズトは反射的に左手を伸ばしていた。
するとすぐに手の感触がし、それを逃すまいと引っ張り、懐へ抱きかかえた。
「ふぇっ!?あの!?」
何か女の子が言った気がするが、耳に吹き付ける風のせいでよく聞き取れなかった。
しばらくして、風がやみ、木などが倒れてこないことを確認すると、カズトは立ち上がった。
人形は何時の間にか、カズトの足元の少女の懐へ戻っていた。
怪我をしていないだろうかと、少女の体をスキャンするが、かすり傷以外の傷は無いようだった。
(後ろの二人は・・・うん、大丈夫だな)
振り向いて後ろの少女二人の事もスキャンしてみるが、足元の少女と同じように、かすり傷以外、
これと言った傷もないようだった。すると足元から「ん・・・」と、声がした。
どうやら金髪の少女が目を覚ましたようだ。
体を起こし、寝ぼけたように周りを見渡すが、カズトの顔に視線は止まった。
カズトは(大丈夫?)と手を伸ばし、立てるかどうか確認しようとする、が頬が少し赤くなったと
思えば、彼女はすくっと立ち上がり、後ろの二人の元へと走って行った。
しかし数歩行ったところで立ち止まり、彼女はこちらを振り向いてぺこりとお辞儀をして、また二
人の元へ走って行った。
「・・・・・・」
なんとなく左手を握って開いてみる。
(・・・・・・ッ!?)
すると感じたこともない、高揚感と、体温の上昇を感じ、衝動に任せてその場を走り去った。
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何とか今日投稿出来ました。
今回は、あの3人が初登場します。
やっと男以外を、ちゃんとして出せるので、うれしいです。
それでは、どうぞ