「母上、並びに我が7人の妹たちへ
大陸を騒がせていた、黄巾族は、騎都尉曹孟徳が張角を討ちとった事により、終結いたしました。しかし、まだ、残党が出没する危険性は大いにあります。どうかくれぐれもお気を付けください。
華音(司馬懿)へ
君の予想通り、乱の終結の地は冀州だったよ。
どうやっったら、戦場に立ったわけでもなく、たいした情報を得たわけでもないのに、あれほどの事が予測できるのか……。
君の才覚にはいつもいつも驚かされるばかりだ。
それから、華音。君に謝らなければならない事がある。
君があれほど嫌っていた曹操に君の情報を漏らしてしまった。いや、俺が洩らさなくても、司馬一族の噂……司馬八達の名は既に都にまで届いていたのだが……。
とにかく。
本当にすまない。
謝って許されるかどうかは、はなはだ疑問ではあるが、本当に申し訳ないと思っている。
どうかこの不甲斐ない兄を許してほしい。
本当は全員に一枚一枚書くつもりでしたが紙が少ないのでここで筆を置きます。次にそちら帰れるのは何時の事になるかわかりません。どうか健やかに日々を送ってください」
コトッ
筆を置いてから
「脈絡のない文章だな」
と呟いた。
「ま、もともと華音にだけ書くつもりだったわけだし……いいか」
紙を丁寧に折りたたんで、隣に控えていた男に渡す。同時に銭を握らせる事も忘れない。
「出来るだけ早く、母上の所……というか妹の所に届けてくれ。頼むぞ」
「はい、たしかに」
手紙と一緒に銭を渡された男は、隠しきれない笑みを浮かべながら、早足でその場を立ち去った。
「ふぅ。しかし本当に華音には悪い事をしたな……たぶん怒るだろうなぁ。兄妹喧嘩になるかもなぁ……」
ま、一度も勝った事はないんだがな。
と、口の中で呟く。
その時。外から声が響いてきた。
「なんですの! この私袁本初を通す事が出来ないと!?」
「で、ですから、今確認に向かいますので、少々お待ちください!」
「いから、早く通しなさい!」
支離滅裂な会話だ。
しょうがないな全く。どうやら、何年たっても彼女は相変わらずらしい。
外に出て門の方へ向かう。
門の所には、金色の髪をくるくるに巻きまくった、なんとも言えない高飛車な態度を取っている女性がいた。袁紹だ。
そして、その後ろに控えている二人が、確か顔良と文醜だったか。
「どうした?」
「あ、伯達様! 実は――」
「おーほっほっほ! あーら春兎さん。まだこんな所に住んでらしたの?」
俺が住んでるの知ってて訪ねてきたくせに。
「やぁ、麗羽。久しぶりだ。君は相変わらず綺麗だね」
「なっ!? ぅっほん! おーほっほっほ! よく分かってますわね春兎さん!」
「どうぞ。入ってくれ」
「それで、今日はどうしてここに?」
聞くまでもないのだが。
先の黄巾の乱の恩賞の話で、献帝が各地の功労者を呼び寄せている。そのついでに、この屋敷に立ち寄ったのだろう。
俺を登用する目的で。
「おーほっほっほ。実は私、この度の功績で洛陽に呼ばれましたの。官位は何が与えられるのかまだ分かりませんが……とにかく! あなたを登用しに来ましたのよ!」
やはりか。
「すまないけど、麗羽。俺は――」
「なんだよ、春兎の兄貴ー。何か不満でもあるのかよー」
と、横合いから口を挟んできたのが文醜。真名は猪々子。
「し、失礼だよー」
と、その隣でおろおろしているのが、顔良。真名は斗詩。
「董卓様に仕えているんだ」
二人を無視して、続ける。
相手をしていると長くなる。
「い、今なんと……?」
茫然。といった表情の麗羽。
「だから、董卓――」
「おーほっほっほ! あの、田舎太守がフザケタまねをしてくれましたわね……! 行きますわよ!」
手に持っていた湯のみを叩きつけると、麗羽は二人を従えて、屋敷を出て行った。
我が家の湯のみなんだが……。高いものではないけどさ。
「やれやれ。慌ただしい奴だ」
割れていない事に安堵し、湯のみを拾い上げる。中身は飲み干していたらしい。何も零れていない。
まぁ、しかし。
「袁紹があんなのだとは思わなかったなぁ。もっと、こう。なんつーか、優柔不断だけど魅力があるダンディなおじさん、みたいな? あれじゃあ、ただの我儘女だ。ま、別にいいけど。董卓とかもっとイメージ違ぇしなぁ。ははははははは」
「あぁ、早く宮殿に行かないと。詠が怒るな」
あとがき
えっとはじめまして。要と申します。
小説を書くのは初めてなので、至らない点が多いと思いますが、よろしく願いします。
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影の薄い司馬朗にスポットライトを当てた小説です。