EP14 心の中の弱さ
和人Side
凜子さんとの対面が終わり、俺はある場所へと歩みを進めていた。
今日は母さんの帰りが早いので、適当に連絡を入れれば問題無いだろう。
どうにも家に帰る気になれない、そのうえどうしても……彼女に会いたいと思う…。
いきなり押しかけては迷惑かもしれない、先に連絡を入れた方がいいかもしれない、そう考えるけれど携帯に手はいかない。
気分が重いというのは久しくなかったことだし、今回は何故気分が重いのかも分からない。
ただの気の迷いであれば良いが、それではいつ心が晴れるのかは分からないものだ。
でもいまはとにかく…。
「明日奈に会いたい…」
そう呟いて、また歩き出す…。
辿り着いた明日奈の家、しかしどうすればいいものか。
まぁ、取り敢えずインターホンを押すしかないな……押してコール音が鳴り、すぐに人の声が上がった。
『どちらさまで…あら、桐ヶ谷さんではありませんか』
「こんばんは、橘さん」
『こんばんは。お嬢様ですね、門を潜って少々お待ちくださいね』
応対してくれたのは橘さんで、彼女は俺が会いに来たであろう明日奈の元へと訊ねに行ったようだ。
さすがに予め俺が来るということが伝わっている訳ではないので当然である。
門扉を潜り玄関の前で待つことにした。
そして玄関の扉が開き、明日奈が現れた。
「キリトくん、この写真について話してもらい、ま…す…。ど、どうしたの、キリトくん?」
「え? あぁ、いや、なんでその写真があるのか、驚いて…」
「そ、そうじゃなくて…」
何故か明日奈が俺と凜子さんの姿が写った携帯の写真を見せてきたので驚いてしまったが、彼女はオロオロとした様子を見せている。
「だってキリトくん、
「あれ? 本当だ……はは、なんでだ?」
明日奈に言われて、目元を拭ってみると濡れていた…さらに涙が溢れてくる。
「と、とりあえず入って、ね?」
「ああ、ごめん…」
俺は彼女に手を引かれながら、明日奈の自室へと通された。
和人Side Out
明日奈Side
わたしが里香から写真を送られてきたのは午後の事だった。
キリトくんは用事があるとかでデートには行けず、他のみんなも用事で出掛けられなかったので自宅で勉強をしていた。
その時、里香からキリトくんと見知らぬ女性が一緒に歩いている写真を受け取ったのだ。
彼女は2人の後を見失ったらしく、その後がどうなったのかは知らないらしい。
なのでわたしはキリトくんがALOに来たらそれを問い質そうと考えていた。
そして夕方、なんと彼の方から自宅へとやってきたとのこと。
橘さんに教えられたわたしは自分で玄関に行くと伝えて、携帯に写真を写して彼の話しを聞こうとした。
しかし対面した彼は、泣いていた…。
儚げな笑顔を浮かべたまま涙を流している彼は今にも消えそうで、このままではいけないと彼を自室へと連れて行った。
ベッドの上に座ってもらって、わたしもその隣に座る。
隣に座る彼はもう泣いてはいないけれど、またすぐに涙を流してしまいそうな気がする。
どう話しを聞こう?…そう考えていると…、
「話し……長くなると思うけど、聞いてくれるか…?」
いつもと違い、どこか弱々しいキリトくんの言葉にわたしは頷いて応えた。
「明日奈の携帯にあったあの写真、あれがまずは関係するんだ…。
あの女性、名前を神代凜子さん……茅場の、元交際相手だ…」
「っ、そう、なんだ…」
彼とあの女性とは何もない、今の一言でそれは分かったけれど、その意味にわたしは息を呑んだ。
茅場の元交際相手、つまり彼女からすればキリトくんは仇敵と思われる存在だ。
ALOに行く前のわたしが茅場に対してそう思っていたように…。
「今日、彼女と会って…茅場の最期の言葉を、伝えてきた…」
「キリトくん…」
わたしは彼の手を優しく握った。もしかしたら、何かを言われたのかもしれない。
恨み辛みの言葉を吐かれたのかもしれない。
そう思ったけれど、返ってきた言葉は違うものだった。
「なにも、言われなかったんだ…」
「え?」
「恨み言もなにもなかった……ただ、『ありがとうございます』って、何度も礼を言われて、それだけだった…」
それならば何も問題はないのでは?とわたしは思った。
彼はいつも後悔をしない為に、覚悟を持って道を進んできた。
そんな強いキリトくんが何故こんなにも弱々しい姿を見せるのか…。
「俺は……恨み言を、罵倒するような言葉を望んでいたんだ…」
「どういう、こと…?」
「人の命を奪った事を後悔していないわけじゃない。
背負う覚悟もあって、それから逃げるつもりもない、遺族からなんと言われても受け止めるつもりだった。
だけど……恨みを何も言われないってのは、な…」
キリトくんの覚悟は命を背負う事、奪った事に対して生きる事、そして残された人達からの言葉へのものだったんだね…。
「キリトくんは…言葉で、断罪されたかったんだね…?」
「……あぁ…」
やっぱり、そうだったんだ…。頷いた彼はまた涙を流しだした。
今まで彼の弱気な姿をみたことはあったけど、ここまで弱々しい姿は初めて。
わたしはキリトくんの体を抱き締める。
「キリトくん、わたしが一緒にいるから……だから、大丈夫だよ…」
「ありがとう、明日奈…」
彼はわたしの腕の中で、声も出さずに唯々涙を流していた。
いつもわたしが助けてもらってばかりだから、少しは役に立てたかな?
明日奈Side Out
和人Side
明日奈と話すことで俺自身が分かっていなかった心の内、『言葉の断罪』を理解することができた。
情けない話しだが、まだまだ未熟な人間であることも理解している。
これを期にまた精進、だな…。
「明日奈、本当にありがとう」
「気にしないで。いつもはわたしが励ましてもらってるから。だからこれからもわたしに甘えてください♪」
「はは、そうだな…。明日奈が俺に甘えてくれるし、俺も明日奈に甘えるようにするよ」
お互いに支え合う、そうすれば俺は強くあることが出来るはずだ。
「でも、やっぱりごめん…。明日奈に黙って、他の女性に会うのは良くないな…」
「うん……次からはわたしも一緒に行くよ、それでどうしても外したほうがいい時はちゃんと言ってね?」
「ああ、そうするよ」
少しだけムスッとした彼女の言葉に頷いてから、頬に手を添えて唇にキスをする。
唇を離すと笑顔のまま楽しそうな表情の明日奈。
「キスをしても誤魔化されませんからね///♪」
「それは残念」
俺も先程までのとは違う本当の笑顔でそれに応じた。
やっぱり明日奈のところに来て良かった、彼女の優しさに改めて俺は感謝した。
「それじゃ、お邪魔しました」
「本当に良いの? お夕飯くらい食べていっても良いんだよ?」
「嬉しいお誘いだけど、今日は母さんとスグも揃ってるからさ」
明日奈から夕食を一緒にと誘われたけれど、今日は母さんとスグが揃っているから、折角なので家族の時間を過ごそう。
「そっか、うん…それじゃあ、また今度必ずね?」
「ああ、必ずな…じゃあまた、ALOで」
「あとでね♪」
そうして俺は結城家をあとにして、自宅へと帰った。
帰宅後、スグと母さんの3人で夕食と団欒を過ごした。
そのあとの夜11時頃、出された課題を終わらせた俺とスグはALOへとダイブした。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
今回は和人の弱さの話しでした、『言葉の断罪』を望んだ和人・・・色々と思うことがあったのです。
その弱さを受け止めたのは、やはり我らが和人さんの正妻・明日奈さん。
結局最後は甘くなりましたが、まぁ気にするなw
次回はついに種子が芽吹きます。
それでは・・・。
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EP14です。
前回の最後で和人が向かった場所とは・・・?
どうぞ・・・。