No.562754

Good-bye my days.第6話「二人だけの会話」

Studio OSさん

少しずつ、お互いに今まで知り合えなかったことを知ってゆく二人。そんな時、舞に起き始める異変。そして、想像もしていなかった事態が発生する。

2013-04-04 23:59:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:303   閲覧ユーザー数:300

 朝。

 ボクは顔を洗い、歯を磨くと台所に立ち、朝食の支度を始めた。

 

 舞はまだ寝ている。

 

 夜中、舞は何事か寝言を言っていた。よく聞こえなかったが、小さい子が何かをねだっている、

そんな感じに聞こえた。

 

 「おはよう~」

 

 食卓に朝食がそろう頃、舞は起きだしてきた。

 

 「おはよう。よく眠れた?」

 

 「うん。でもたくさん夢を見ちゃった。すごくうれしい夢だったんだけど、思い出そうとすると、なんだったか

 

はっきりしないんだ。もったいないなあ…」

 

 「舞は朝、弱いんだ」

 寝ぼけ顔の舞。

 

 「ば、ばれちゃった?実はそうなの。お布団の引力が強くて抜け出せなくって。布団さん、布団さん…て」

 「顔を洗っておいでよ。タオルはそこに用意しておいたから」

 「ありがとう~」

 

 歯磨きとタオルをもって、よたよたと洗面所に向かう彼女の横顔を見てボクはどきりとした。

 彼女の目元に"ほくろ"があるのだ。

 六条さんに舞を描いてもらった時、ほくろは消してもらったはず。なのに、何故?

 

                       *

 「いただきまーす」

 先ほどとは打って変わって、元気にご飯をほおばる舞。

 「おいしいなあ。やっぱり、朝はお米よねっ!」

 「そ、そう、よかったね」

 身を乗り出して力説する舞にたじろぐボク。

 

 なんだろう。この気持ち。今まで感じたことが無いこの感じ。

 ボクは、気が付いた。

 (そうか、誰かのために朝食を作って一緒に食べるって事、これまでに一度も無かったんだ)

 

 うれしそうにに肉じゃがをつつく舞を見ながら、ボクも箸を運んだ。

 「今晩は、わたしが何か作ってあげる。わたしも料理は得意…ってわけじゃないけどこなせるんだから」

 「うん、いいよ。期待してる」

 

                       *

 食器を洗い終わった後。

 

 「ねえ、宮本君、今日、講義は?」

 「ええと、今日は午後からだね」

 「じゃあ、午前は空いてるんだね」

 「うん」

 「お願いがあるんだけど…」

 「何?」

 

 やおら舞はボクの両手を握り締めて言った。

 「わたしとお話をしよう!」

 「え?」

 

 ふと、うつむく舞。

 「ほら、宮本君といるときはたいてい弟もいたじゃない。だから、なんだか気まずくて、恥ずかしくて、話したいことが話せなくて…。それがずーっと、何年分もたまっちゃってて。だから、お願い」

 「いいよ。けど、そんなに気合いれなくても…」

 ボクは笑って言った。

 

 が、舞は首をぶんぶん振る。

 「ううん。気合入れまくる!」

 

 舞は僕の手を引いて、クッションの上に座らせた。

 「もちろん、宮本君も話してね。わたしばかりじゃ不公平だから。男女平等!」

 

 そこに平等は無いと思うが、ボクは会話に付き合うことにした。

 元々、ボクは人と話すのは得意じゃない。先に舞が口火を切った。

 

 生まれたばかりの弟を見たとき、ものすごくショックだったこと。小学校の入学式の時、校門で思い切り転んで、おでこに絆創膏の記念写真があること。父親が殉職した時、信じることが出来なくて町中を泣きながら探し回ったこと…

 昔の思い出や、思いつき。好きな事。嫌いなもの。やりたいこと。将来の夢。次々に舞の想いが口から流れ出てくる。

 

 最初は圧倒されていたボクだが、すこしずつ彼女の話のリズムがわかるようになってきた。相槌を打ったり、質問したりすることが出来るようになる。

 女子の話の仕方は面白い。一つのことを話していると思うと、もう次の話題に移っている。タイミングを見て、ボクも自分のことを少しずつ、話してみる。

 子供の頃、両親と行った遊園地のこと。母親はあやとりが上手な人で、いろいろな形を見せてくれたこと。そして、今まで辛くて誰にも話せなかった、両親が亡くなった時のこと。

 ボクが口を開く時は、舞は真剣に聞いてくれた。たぶん、よく分からなかっただろうバイクのことやカメラのことも。

 

 気が付くと、もう時計は11時半を回っていた。

 

 「ふうーなんだか、これまでの人生分おしゃべりした気がするー。楽しかったー」

 と、舞。 

 「大げさだなあ。さてと、お昼はピラフにするね」

 「わおー。ピラフ大好き!」

 

 舞が立ち上がろうとしたその時。

 「痛っ!」

 舞がうずくまる。

 

 「どうしたの?!」

 「右足が…急に痛く…っつ!」

 「大丈夫?!」

 今は昼間だ。日があるうちは舞を病院につれてゆくことは出来ない。ボクは焦った。

 

 「あ、あれ?痛くなくなった…」

  立ち上がる舞。

 「あっ!痛い!」

 今度は左腕を抱えて崩れ落ちる。

 「舞!」

 涙をポロポロこぼしながら、苦痛に耐える舞。

 と、急にまた何事も無かったように左腕をもちあげる。

 「あれ…どうしたんだろう。なおっちゃった」

 「本当に大丈夫?」

 袖を捲り上げて確かめてみるが、異常はなさそうだ。

 

 「どうしたんだろう。何か体に変化が起きているのかな」

 「わたしにもわからないよ」

 困り顔の舞。

 「何にしても、あまり動き回らないほうがいいかもしれないね」

 「うん、そうする」

 

                        *

 

 「食器洗いはわたしがやっておくね」

 「うん、じゃあ行ってくる。何かあったら携帯へ連絡して」

 「わかったー。いってらっしゃい」

 

 バイクを走らせ、大学へと向かう。

 ただボクは気がかりだった。消してもらったはずの舞の目元のほくろが戻っていたこと。そして、体の痛み。

 彼女の体に何かが起こっていることには間違いない。それが何なのか。よい事なのか。それとも。

 

 いくつかの講義を受け終わると、もう日が傾きかけていた。舞が心配だ。急いで帰ろうとバイクにまたがった時、携帯が鳴った。

 「!」

 あわてて確認すると、自宅からではない。舞の弟、政則君からだった。

 

 「もしもし、宮元です」

 「宮本さん!姉さんが…姉さんが救助されたんです!」

 

                        つづく


 
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