No.561442

真・恋姫†無双~絆創公~ 小劇場其ノ八

ある意味、九頭竜よりも厄介なキャラ誕生です。

2013-04-01 02:38:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1354   閲覧ユーザー数:1231

小劇場其ノ八

 

-……どうしてこうなった?-

 

 鍛練場で北郷一刀は一人、心の中で呟いた。

 

 目の前で繰り広げられている、凄惨な状況に溜め息しか出ない。

 優雅に、且つ華麗に宙を舞っている一人の人間。それを仕留めようと躍起になっている数多の武将達。

 そして、それに対して傍観者となっているだけの、自分を含めた人物達。

 

 この厄介な状況になった数刻前の事を、一刀は思い返してみた……

 

 

 森で捕らえた賊の男達の身柄を、近くを警邏していた北郷隊の兵士達に任せた一刀達は、新参者三人組を連れて城へ戻ってきた。

「しゅにーん! 只今戻りましたー!!」

 大広間の扉を開けながら、アキラは帰還の挨拶を叫ぶ。

 大広間の中には名指しで呼ばれたヤナギの他に、亞莎が立っていた。彼女に何かを説明していたのか、ヤナギは書類を片手に持って、亞莎に話しかけていた。

「一刀様! お帰りなさいませ…………?」

「ああ、アキラ。随分と遅かった……な……!?」

 新たな来客に疑問符を浮かべた亞莎に続き、話を中断して労いの言葉を部下に掛けようとしていたヤナギは、視線の先に絶句する。

「やっほー、主任! 元気ー?」

「お久しぶりです、ヤナギ主任! お元気そうで何よりです!」

「とりあえず、生きているのは間違いないようですねぇ……」

 新参者三人組は、自分の上司に対して三種三様の反応を見せた。その声を聞いた途端、ヤナギは慌てて三人の方へ駆け寄った。

「き、君達! どうしてここに!?」

 目の前の光景が信じられないといった口調で話しかける。手に持ったままの書類は不規則にひしゃげている。

「どうしてって、呼ばれたから来たんだよ?」

「こちらからの要望で馳せ参じたのです。おそらくヤナギ主任に通達が送られたはずですが……?」

 クルミとアオイの言葉に、ヤナギは慌ててスーツの内ポケットに手を入れた。

「ち、ちょっと待ってくれ…………。ほ、本当だ。返信が来ていた……」

 取り出した携帯の画面を確認したヤナギは、顔面蒼白で呟いた。

「主任。そんなこの世の終わりみたいな顔で言わなくても……」

「そんな……私が確認を怠るなんて……ああ! この失態を、上に何と報告すれば……!!」

「んな大げさな……。うっかりする事なんて、誰にでもある事っすよ?」

「ああ! 私としたことが……!!」

 部下の話など一切聞かずに、生真面目な男はその場にうずくまり頭を抱える。

「聞いてないし……」

「困りましたねぇ……。これじゃ話が進められません。もう少し砕けてみれば良いものを……」

「お前が言うなよ」

「クフフフフ……。その言葉、たっぷり利子を付けてお返ししますよ」

 リンダは口元を抑えて妙な笑い方で、アキラの言葉を返した。

 

 

「お取り込み中すいませんがー…………」

 

 会話の最中に一団の後ろから聞こえてきた弱々しい声に、全員一斉に振り向いた。

 視界に入ったのは、汗だくうつ伏せでグッタリしている北郷一刀だった。

「誰か……お水を、ください……」

「か、一刀様! お、お待ち下さいっ!!」

「ご主人様! しっかりなさって下さい!!」

 歓迎会の時と同じように、亞莎がいち早く行動に移る。愛紗は一刀の傍に駆け寄り、その身体を軽く揺すった。

「さ、三人とも……荷物多過ぎ……だろ…………」

 息も絶え絶えに呻き声を漏らす一刀は、恨めしそうな視線を新参者たちに向ける。彼の脇には、トランクやアタッシュケースが何個も置いてあった。

 そんな視線をさほど気にも留めずに、リンダがゆっくりと近付いた。

「仕方ないでしょう。新たに色々資材を投入する事になりましたし、何より女性二人が来るんです。女性の旅支度で荷物が多くなるのは常識だと思いますがねぇ……?」

「そりゃあ……そうだろうけど…………」

「それに……。貴方が運んだのはアタッシュケース四個。なのにそれほど疲れるなんて、体力が衰えている証拠じゃありませんかねぇ」

「あのね……持った途端後悔したさ……一個一個がもれなく重いんだもの……!!」

「ま、そうでしょうねぇ。貴方が持ったケース全てに機械が入っていたんですから……まったく。一言言ってくれれば、荷物を軽くする装置があったんですがねぇ……」

「ちょい待ち! 今、何て言った!?」

「ああ、貴方の愛しの君がお水を持って来ましたよ」

「あったのか!? そんな機械があったのか!?」

 しきりに抗議を続ける一刀の視界の端に亞莎が映る。亞莎が近付くと同時にリンダは一刀から離れた。

「お待たせしました、一刀様! お水をお持ちしましたっ!!」

「亞莎! 彼を連れ戻してくれ! 俺は一言言いたいんだ!!」

「は、はいっ!?」

「お、落ち着いて下さい、ご主人様!」

 もはや半ばわめき散らす勢いの一刀に、狼狽える亞莎と愛紗。

 そんな状況を作り出した張本人は、広間の中をウロウロと見回している。

「あるんならもっと早く言っ……ゲホッゲホッ!!」

「か、一刀様! ひとまずこちらをお飲み下さい!」

「ご主人様のお気持ちも解りますが、一旦調子を整えてからでも……」

「そ、そうだな……じゃあ、これ貰うよ。ありがとう、亞莎」

「はいっ! どういたしまして!」

「愛紗、ごめんな。俺、大声上げちゃって……」

「いえ。お気になさらずに……」

 幾分冷静さを取り戻したのか、一刀は受け取った水を一気に飲み干して一息ついた。

 その間もリンダは何かを物色するように、室内をうろついていた。

 

「申し訳ございません、北郷一刀さま。リンダさんが度々無礼を……」

 一刀に近付いて謝罪の言葉を告げたのは、リンダと一緒にやってきたアオイだった。

「……彼ってあんな感じなのか?」

「ハア……。何と言いましょうか。ここだけの話、かなりの努力家らしいのです。その為に、加虐趣味とまではいかないのですが、自分の能力に絶対的な自信を持ち、他人を軽く見てしまう傾向があるようで……」

「努力家、ねぇ……」

「まあ、似合わない印象ではありますが……」

「もう少し話してみれば、こっちも慣れてくるかもしれない……って愛紗?」

「少々失礼致します……」

 アオイと話している最中に、傍にいた愛紗が立ち上がり離れていった。

「どうされましたか? 関羽さま!」

 アオイの問い掛けにも答えずに、愛紗はそのままリンダの方へと向かう。

 それを見た一刀とアオイは顔を見合わせた。

「もしかしたら愛紗……」

「リンダさんに抗議を…………!?」

 

「おい、貴様…………」

「…………はい?」

 ゆっくりした足取りで見回していたリンダはその動きを止めた。

 当然だろう。見目麗しい少女が怒りを露わにして、いきなり得物を自分の目の前に突きつけたら、誰だろうと静止する。

「我らの主への無礼、詫びて貰おうか……?」

「………………」

 常人ならば身の毛もよだつ闘気を目の当たりにしていながら、リンダは何食わぬ、且つキョトンとした顔をしている。

「貴様が客人である事は理解している。並々ならぬ術を持ち合わせているのも見て取れる。だが、それを鼻にかけ他者を、何よりも我が主を愚弄するのは看過できん! 今すぐ詫びて貰おうか!?」

「…………ハァ」

 語気を一層荒げて険しい顔になる愛紗を、リンダは呆れたように眺める。

 同時に、身に纏うロングコートの左の内ポケットをまさぐり、茶色の革の手帳を取り出した。

 反省の色が見られないその様子に、愛紗の怒りは更に増した。

「貴様っ!! 何だ、その態度は!? 今ここで真っ二つになりたいかっ!?」

「いえ……。“棚上げ”という行動を実際に目にすると、唖然とするのだな。と、思いましてねぇ」

 間近で怒声を耳にしていながらも、男は何食わぬ顔で手帳のページをめくっている。

「何の話だっ!?」

 男の手は止まり、薄笑いを浮かべて開いたページに目を通した。

 

「関羽雲長……。その武は高く、義を貴ぶ武人。武官や文官のみならず、臣民からの信頼も厚い……」

「なっ……!?」

 男が淡々と読み上げるその内容に、愛紗は面食らう。

 だが、次の言葉には更に驚愕する事となる。

「生真面目な性格も高く評価されるが、それが災いして頭が固いと思われがちである。加えて、嫉妬しがちな面もあり、他の女性と仲良くする北郷一刀に対し、素直に甘える事を恥じらい、逆に八つ当たりを繰り返す……」

「ンナッ?!……///////」

 先程と同じ顔に、真っ赤な色と発汗が追加された。

「やれやれ……。幾ら貴女の愛しい男性が、心が広く底抜けの優しさを持ち合わせているにしても、流石にやり過ぎではありませんかねぇ……?」

 なおも手帳を眺めながら、リンダは会話中の相手を鼻で笑う。

 その態度に、怒りやら羞恥やらで、愛紗の感情が爆発してしまった。

「き、きききき、貴様ーーーーー!!!!」

 その勢いは、手にした青龍偃月刀にそのまま伝わり、リンダへ一気に振り下ろされた。

「あ、愛紗っ!! 落ち着けっ!!」

 一刀は静止を促す声を張り上げたが、愛紗が振り下ろす速度の方が早かった。

 次に展開されるであろう最悪の事態に、一刀は思わず目を背けた。

 

-ガキィィンッ!!-

 

 耳に響く鋭い金属音に、一刀は疑問符を浮かべた。

 今の音の感じだと、金属同士がぶつかった印象だ。

「北郷一刀さま。目を開いても大丈夫ですよ……」

 聞こえてきたアオイの妙に穏やかな声に、一刀は一抹の不安を残しながらもゆっくりと目を開いてみた。

「…………えっ!?」

 飛び込んできた光景に、今度は自分の目を疑った。

 

 確かに、愛紗は青龍偃月刀を振り下ろしていた。

 

 しかし、リンダは傷一つ負っていなかった。

 それどころか、何もなかったような涼しい顔で手帳を眺め続けている。

 

 いや、何も変わっていない訳ではなかった。

 

 振り下ろされた青龍偃月刀は空中で静止しており、床へ辿り着いてはいない。

 その進路を妨害していたのは、一本の鉄扇だった。

 

 そしてその鉄扇を手にしているのは、リンダだった。

 

 彼は左手に持つその鉄扇一本で愛紗の得物と攻撃を支えていた。

 

「…………クッ!!」

 自分の攻撃が防がれ、愛紗は端整な顔立ちを歪めていた。

「そうやって己が感情にまかせて刃を振るうのは、武人として誇れるものではありませんねぇ……」

 苦しそうな顔など一切見せずに、淡々とした語り口で愛紗を見やる。

「貴様っ…………!!」

「おやおや……。何も驚く事は無いかと。言ったでしょう? 私は諜報活動に長けていると。ですので、得た情報を確実に依頼主へと渡すために。且つこのように不測の事態に備えるために、服の中に武器を忍ばせているのです……」

 そう語りながら、読んでいた手帳をコートの中へとしまう。

「それに。今読み上げたのも、私の諜報活動の成果。図星だからといって恥じる事はありません。それは私の仕事が正確且つ優秀だという動かぬ証拠ですよ……」

「…………クッ!!」

 リンダに向けていた力を緩め、彼と幾らか距離を置く。だがその瞳に映る闘志は、少しも衰えてはいない。

 そんな愛紗の様子を見て、リンダは再び鼻で笑った。

 

「やれやれ……。では勝負致しますか? 貴女が私に少しでも触れられたのなら、貴女や北郷一刀氏への今までの無礼を詫びましょう。そして、今後一切貴女方に刃向かう発言をしない事を誓います…………」

 

 

 

 

 

-続く- 


 
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