No.561441

訳あり一般人が幻想入り 第13話

VnoGさん

◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。

2013-04-01 02:37:39 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:785   閲覧ユーザー数:771

 

「うわあぁぁはぁぁあん!」

 

 紅魔館の玄関から魔理沙が箒にまたがった状態で勢い良く飛び出す。しかも何故か涙を流して大声で泣きながら。

 

「チキショー! なんだよ二人よってたかってあたしをいじめて。しかも本も奪えなかったー!」

 

 大声で盛大に愚痴りながら、塀に寄りかかりながら門番を真面目に務めているように見えて大胆に居眠りをしている美鈴を余所に魔法の森の方へ飛んでいく。

 

(スグル)もパチュリーも、大ッッキライだぁー!!」

 

 徐々に厚みがかった雲に向かって魔理沙は雨の代わりに涙を地上に落とし、声を大にして言いたい心情を思い切り吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 第13話 隠れる本能、表す本性

 

 

 

 それはおよそ三十分前のこと。

 

「よし、これくらいかな~。借りてくぜパチュリー」

 

 笑みを浮かべながら、大量の本が入っている白い大きな袋を見ている魔女のような格好をしている少女は、ひもを締めて袋の口を閉じ、肩に担いで近くに立てかけた箒の方へ歩いていく。

 

「おい」

「ひゃいん!?」

「うおぉう、なにしてんだよお前」

 

 横谷は先程の行動をしていた魔理沙に肩を叩き問いただす。魔理沙は驚いて思わず奇声を上げてしまった。その声に横谷もまた多少驚く。

 

「な、なんだお前かよビックリさせるなよ~……ってなんでここにお前がいるんだ?」

 

 魔理沙はほっとしながらも、なぜ図書館にいるのか質問する。博麗神社にて紫のスキマに落とされて以降、横谷の動向を魔理沙は知らない。

 

「質問を質問で返すなよ。まあいい、俺は紫のヤツにはめられてここに働かされているんだ。今日がその一日目だ」

「へぇ~そうなんだ。大変な目に遭ってるな、もうとっくに帰ってると思ったぜ」

「俺だってそのつもりでいたさ……あの女ぇ……」

 

 大した関心を持たず適当に相槌(あいづち)を打つ魔理沙。横谷は今までの紫にされたことを思い出して、顔をしかめて怒りをあらわにする。

 

「そうかぁ~大変だな、まぁせいぜい頑張ってくれ。じゃ、私は帰るぜ」 

「どこへ行く、まだ俺の質問に答えてねぇだろ」

 

 うわべだけの労いを言い残し立ち去ろうとした魔理沙を、横谷は魔理沙が担いでいる白い袋を掴み逃がさないようにする。魔理沙はやっぱりと言いたげな感じでアハハ、と苦笑いしていた。

 

「あ~、え~と、本を借りに来たんだよ!」

 

 魔理沙は間投詞を出しながら、理由を強調するように声を張って言う。ただ、その答えには横谷を黙らせるには説明不足だった。

 

「じゃあ聞こう、どうやってきたんだ? 本を借りるのに誰かの許可がいるんじゃないのか? そもそも借りなくてもここで読んでいけばいいんじゃねの? さっきの行動見てたけど、どう見ても泥棒をしているようにしか見えなくね?」

 

 横谷は矢継ぎ(ばや)に質問責めをする。全ては最後の質問に込められた考えが先行して疑問に思ったことを質問にしただけだろう。

 

「いやいや、ちゃんとドアから入ってきたし、私は許可無くても借りている程パチュリーとは仲いいし、借りる意味は本に書かれている魔法を実践したくて、ここでやるのも何だから本を借りて自分の家でやったり、外で実践したりするためだよ。そして私は泥棒をしているんじゃなくて、ホントに本を借りていくだけだよ」

 

 今度はわかりやすく魔理沙は横谷の質問を丁寧に回答する。

 

「うーん……そうかい、わかったよ」 

 

 すると横谷は多少悩んだ末、掴んだ手を離した。魔理沙の諸々の回答を考えて考え抜いた結果がこの行動だった。

 一つ目の回答は、音を立てずに入ったか単に耳に届かなかったか。ただそれ以前、図書館に入る前に門で文字通り、門前払いするための門番は何をしていたということになるわけになってしまうが。

 二つ目の回答は、真偽の程は分からないが横谷のの知らないところで、もしかしたら小悪魔にも知らないほど親密かもしれないと思い、とりあえず信じることに。それでも無断で借りることに違和感はある。

 三つ目の回答は、危ない魔法を図書館内で試されても困るもの。外の世界で、図書館内で大声で音読したり、スポーツ本を読んで試すために走り回ったりするようなことである。それに覚えたものを家に持ってかえって一言一句間違えず思い出すのは人間では無理な話。

 そのために貸し出しという制度があるのだから咎めることなんてできない。実際ここの図書館がその制度を使っているのかは知らない。

 四つ目の回答は、さすがに泥棒なんてしないだろうという根拠無き先入観である。

 

「サンキュ。じゃ~な」

 

 解放された魔理沙はなぜか不穏な言葉を残して箒の方へ歩く。

 

「逃がしちゃタメです!」

 

 突然向こうから小悪魔の大きな声が響いた。その小悪魔は魔理沙に向かって飛んできていた。

 

「捕まえてください! 魔理沙さんは、持っている本を盗もうとしているんです!」

「げっ、やっばい! 逃げろ!」

 

 魔理沙は急いで箒を取ってまたがり、飛ぶ態勢に入った。

 しかしその前に、横谷が担いでいた袋が後ろに引っ張る。あまりに突然だったため態勢が崩れて、尻もちをついてしまう。

 

「のあっ!?」

「ほう……そうなのか……」

 

 今にも後ろからゴゴゴゴという怒りを表現する擬音が出てくるような雰囲気を纏って横谷は魔理沙を睨みつける。

 

「う、うわぁ!」

 

 魔理沙は慌てて袋を捨てて箒に再度またがり、逃げる態勢に入る。しかし横谷はそこで見逃すほどやさしくはない。

 

「どこへ行くんだぁ?」

「う、え~と……お、お前と一緒に逃げる準備だぁ!」

「一人用の箒でかぁ?」

「いや、二人乗ることは可能なんだが……」

 

 などとやりとりをしている間に小悪魔が到着し、魔理沙の前に立ち塞がる。

 

「今日という今日こそ、本は盗らせません!」

「あ、しまった……」

 

 小悪魔は魔理沙に指を指してまるで犯人を追い詰め言う。魔理沙は箒を落とし、固まったままその場を動かない。が、次の瞬間、横谷の方を向いて叫ぶ。

 

「これは罠だ! 小悪魔が私を陥れるための仕組んだ罠だ!」

「知るか、そこに座れぇ!」

「はい……」

 

 横谷は一喝して、魔理沙をその場に座るよう指示する。魔理沙は抵抗することなくあっさりと正座で座る。

 

 

「まったく、いつ侵入していたのやら……」

「んで、こいつはいつもここの本を盗んでいるのか?」

 

 頭を悩ませる小悪魔を他所に横谷は尋ねるが、答える前に魔理沙が間に入ってくる。

 

「違うんだ聞いてくれ。小悪魔は、私が本を借りていくだけなのにそれをいつも泥棒泥棒って言ってるだけなんだよ!」

「借りた本を返さないのを泥棒と言わないでなんて言えばいいんですか!」

 

 言い分を小悪魔は魔理沙に反論できない一喝する。確かに借りたものを返さないのは、どんな理由であれ泥棒としか言えない。

 

「ってことは、俺の問いの答えは全部ウソだってことか? さっきの『サンキュ』てのは、その嘘を信じた俺を馬鹿にする意味で言ったのか?」

 

 それを聞いた横谷は険しい表情で、怨嗟(えんさ)のこもった声で魔理沙に問いかける。

 

「いや、確かに嘘ついたのは悪かったと思うけど、私はそんな意味で「サンキュ」なんて言ってないぜ?」

 

 魔理沙は誹謗(ひぼう)を込めた言葉ではないと訴えるが、横谷は無言のまま冷たい目で魔理沙を見ている。そんな目を見て魔理沙は慌てて弁解する

 

「ホントだって信じてくれよ! ていうかなんか話し変わってないか!? あたしが本を盗んだことに怒る場面じゃないのか!?」

「そうですよ優さん。今怒るところはそこじゃなくてもっと別なところですよ」

 

 そこに小悪魔も加わって話の軌道修正を促すが、横谷は耳を貸さなかった

 

「はっ、んなこと言って腹ん中ではチョロい野郎だって笑ってんだろ。だってそうだろ? お前の言った嘘は少しでも疑えば怪しいものだってわかるはずなのに、無駄な良心が働いてお前を信じまった。こそ泥を見す見す逃そうとした。魔理沙にとってはさぞかしの抱腹絶倒もんだなぁ?」

 

 横谷は腕を組み、本棚に寄り掛かって冷たい目のままひねくれた言葉をうだうだと言い立てる。

 

「私をどんな目で見てたんだよ!? だから本当に思ってないって、信じてくれよ!」

「なんか話が変わってますが……魔理沙さんは、優さんが思っているようなそんなひどい人ではありませんよ」

 

 横谷の魔理沙に対する言われように、さすがの小悪魔も庇っての名誉回復に当たる。

 幾度(いくど)と無く本を盗みにくることにパチュリーも小悪魔も悩まされているが、嘘を言うまで相手を低く見下すような人ではないことは、長年の付き合いで少なくとも横谷よりは知っている。だからこそ小悪魔は弁護する。

 それと同時に疑問がわく。この男はどうしてここまで(いじ)め、(ゆる)さないのか。嘘に対して怒っているとしても、陰鬱(いんうつ)な言葉を投げかけられる程ひどい嘘ではない。これくらいの嘘なら、嘘が嫌いな鬼でも相手を卑下(ひげ)するような言葉は言わない。

 

「ほー(かば)うか。泥棒相手をお前は庇うのか。悪魔のくせに天使気取りか」

 

 自分の側に付かないと見るや、横谷は怒りの矛先を変え小悪魔に対しても冷たい目で皮肉を言う。

 

「泥棒としてではありません。魔理沙さんとして庇っているんです」

 

 それでも小悪魔は負けじと毅然(きぜん)として抗する。そして横谷に問いかける。

 

「なぜそんなに苛めるんですか? そこまでして嘘付いたことを怒るのですか?」

「あ? お前は嘘を肯定するのか。それともアレか? 幻想郷は『非常識』で出来たもんだから、嘘だって幾らついても構いやしないって言いたいのか?」

「違います! 確かに嘘は駄目ですが、それよりもあなたの言動のほうがよっぽど駄目なんです! そこまでひどく言わなくても、少し忠告するだけでいいんではないですか!?」

「その忠告すらも聞いてないから本を盗んでいるんだろうが。それに……」

 

 と、突然横谷は口を止め、魔理沙を見る。そこには小悪魔の後ろからゆっくりと這いつくばり箒の方へ近付く魔理沙が見て取れた。

 

「口論している間に逃げようとしている奴に、性格のいい奴はいないと思うがな」

 

 横谷は箒を掴み、見下すような目で魔理沙を見る。

 

「あっ……」

 

 魔理沙は取られた箒を眺め、悲しげな顔で嘆息(たんそく)する。その目はまるで小動物のような悲壮感漂う雰囲気があった。

 

「小悪魔を盾にして自分は逃げる。これは本性を表したって事にならないか。なぁ魔理沙?」

 

 (たたず)んだまま、横谷は嫌味を含めた問いかけをする。

 

「じゃあお前もそうだ優! あたしはお前を、根は優しい奴と思ってたのに、こんなに意地の悪い奴だとは思わなかったぜ!」

 

 逆上した魔理沙は立ち上がり、指を差しながら反論する。と、横谷は突然、魔理沙に顔を近づける。魔理沙は驚いて退く。

 

「そうだ、俺も所詮(しょせん)はこんな男だ。外の世界が、こんな男を作ったんだ」

 

 目を射貫かれそうな冷たいの目のまま、横谷は魔理沙を見据える。

 

「今までの俺はうわべだけの、生き抜くための、自分のあらゆるものを抑えた俺だ。外の世界で培われた俺だ。その反動で生まれたのが本当の俺だ」

「外の世界の……反動?」

「お前らにはわからんだろ、妖怪のいない嘘とエゴで塗りたくった世界。人間同士で強いものが弱いものを救うのではなくあらゆるものを搾取する世界。

 そんな世界に生まれ、そんな習慣を大いに受けた奴が生きていくには、強い奴に媚びへつらい、嘘とエゴで弱いものから搾取して生き延びる。そこから弱者同士は腹の探り合いが始まり、弱者にならないために相手の全てを猜疑心で覆う。

 それができない奴は利用され、使えなくなったら用済みだっ! そんな世界が俺みたいなのを作りやがったんだ!!

ここも同じように人間が妖怪に利用される。だから別の世界といえど俺はこの性格を変えるつもりはない!」

 

 感情が抑えられなくなったのか最後は語気か荒くなる。言葉は止まったが鼻から漏れる感情が混ざった鼻息は、離れた位置の小悪魔にも聞こえるほどだった。

 

「そ、そうか……なんか知らんがお前、外の世界で辛い目にあったんだな……」

 

 魔理沙はいきり立っている横谷を落ち着かせるように諭す。次の瞬間、横谷は持っていた箒を叩きつけた。

 

「同情なんかいらねぇんだよ!! まともに味わったことのねぇ奴が気安く言ってんじゃねぇ!! そんな言葉、反吐がっ……!」 

 

 唐突に横谷の視界が酷く歪み、耳をつんざくような耳鳴りが襲う。次第に平衡感覚がなくなり、横谷は倒れた。

 

「あっおい!」

「大丈夫ですか!?」

 

 二人はあまりの出来事に驚き、横谷のもとに駆け寄る。横谷は虚ろな目で荒い息遣いをしていた。

 

「おい、大丈夫か!? おい!!」 

 

 魔理沙は横谷の意識を戻そうと、体を大きく揺らす。

 

「魔理沙さん無闇に揺らしちゃ駄目です!」

 

 小悪魔は体を揺さぶってさらに意識が混濁(こんだく)してしまったら危ないと思い、魔理沙を横谷から引き離す。

 

「じゃあどうすればいいんだよ!」

「とにかく、パチュリー様を呼んできますからその間動かさないでください!」 

 

 小悪魔は羽を広げて飛び、一目散にパチュリーを呼びに行く。

 

「ったく、一体なんだって言うんだよ、この状況……」

 

 魔理沙は、横谷の行動の一連と何も出来ないもどかしさに頭が掻き回されて言葉を漏らす。

 

 

『なぁ~俺等さぁ、この後用事あんだよね~』

『だからさぁ、代わりにやっといてくんない? 掃除』

『お前ならやってくれんだろぉ~? 信頼してるんだぜ~?』

『おねがぁ~い』

『あっやってくれんの!? いやぁマジ助かるわ、サンキュ』

『じゃ~な~。ちゃんとやっとけよォ』

 

『は? お前がやったんだろーが、俺らは物盗んでこいって言ってねーよ』

『なんか証拠あるんですか? 俺らは万引きしてこいって命令した覚え無いっすね』

『こいつ昔から手癖悪いんだよなぁ、目を離すとすぐこれだからな』

 

『え? いじめに合ってる? それほんとか? ああ……わかった。そいつらに聞いてみる…………チッ』

『……まったく、いじめなんてどうでもいいっての。こっちは報告書とか復命書出さないといけないし、生徒の指導、会議の連絡、事務作業とか、余計な仕事増やすなよ……』

『でも、なにもしないと親からどやされるかもしれないぞ』

『だからめんどくせーんだよ。そっちの対応もしなければなんないし、勘弁してくれ。手当出るわけじゃないし、いじめられる奴がなにかしら悪いんだっての』

 

『そいつ嘘ついてるわ、俺なんもしてねーよ』

『俺もー』

『『私たちも―』』

『あいつの被害妄想じゃないんですか?』

 

『先生ならどうにかしてくれるって思ったのが駄目だったなぁ』

『俺らはいじめなんかしてないさ。「かわいがり」してるんだよ』

『ま、コイツ自体は可愛くないけどねぇ~』

『ハッ、そんなに可愛がりたいなら、今回は目一杯可愛がってやんよォ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………くそが…………コロシタイ…………コノテデコロシテヤリタイ…………コノクズドモヲコノテデ…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛ぁっ!」

「うわぁ!?」

 

 前触れもなく横谷が飛び上がるように体を起こす。魔理沙は頓狂(とんきょう)な声を上げて驚く。

 身体を全体重預けるように横谷は本棚を背に寄り掛かり、手に顔を押し当て項垂(うなだ)れる。見ると目から涙が頬を伝っていた。息も荒い。

 

「お、おい……大丈夫なのか?」

 

 魔理沙はまるで見えない負のオーラを(まと)ったシーツを被されたかのような横谷に恐る恐る尋ねる。しかし返事は返って来ない。その見えないシーツが魔理沙の声を通さないかのように。

 

「こちらですパチュリー様!」

「はぁ、頭に血が上って倒れた人間の対処法なんて知らないわよ……」

 

 そこに奥からパチュリーを急かす小悪魔と明らかに面倒臭そうな顔をして小悪魔の半分ほどの速度で飛んでいるパチュリーが現れる。魔理沙は少し安堵(あんど)の気持ちになる。

 

「あっ、優さん大丈夫なんですか!?」

「なによ、起きてるじゃない。無駄な時間と体力を食ったわ」

 

 小悪魔は本棚に寄り掛かっている横谷に近づき容態を確認する。

 反対にパチュリーは、おおよそ元気とは言えない横谷を見ても心配するわけでもなく悪態をつく始末。そして視線をずらし、安堵についている魔理沙に目を移す。

 

「んで、なんでここに魔理沙がいるのかしらね」

「あっ」

 

 油断していた魔理沙はパチュリーに問われ、自分はいつものようにパチュリーに黙って本をーー半永久的にーー借りに来たことに気づき、まぬけな声を出してしまう。

 

「え、あ、いや~あたしは本を借りに来ただけで、別に優に何かしたわけじゃないぜ?」

「そいつのことはどうだっていいの、本を『無断で借り』に来たことも分かりきってることだし。それより、いつになったら借りてる本たちを返してくれるのかしら?」

「あー……だ、大丈夫だ! いつか返すぜ!」

「勝手に本を盗むはまだいいとして、その盗んだ本の一部がシリーズ本の、しかも全部じゃなくて

適当に何冊か盗んでいく意味が分からないわ。嫌がらせかしら?」

「いやそれは、ただ単に知りたい魔術がその本にあっただけで嫌がらせにやったんじゃ……いいじゃんか飛んでたってさ!」

「私は全ての本を一から欠かさず読んでいるのよ。一冊分飛んで次の一冊を読むなんて考えられないわ。そういう事も考えずに盗るなんて、ホントにデリカシーのない魔法使いね」

「う……うああぁぁぁ! もう説教は沢山だぁぁ!!!」 

「あっちょっと!」

 

 魔理沙は叫びながら箒のもとへ走り、箒を飛ばして逃げる。パチュリーは呼び止める声を掛けども、後を追うことはなかった。

 

「はぁ、体調が良かったら追えたのに……まぁ、盗まれなかっただけマシかしら」

「あの、パチュリー様。優さんになにか回復させる魔法を……」

 

 小悪魔がタイミングを見計らい、横谷に回復魔法を施すよう求むが、眉をひそめて小悪魔を見る。

 

「そんな事しなくても自然に回復して治るでしょ。それにもう立ってるじゃない」

 

 その言葉に反応して小悪魔は横谷の方に目を向ける。立ってはいたが、片手に顔を押し当て、もう片手は膝に押し当ていかにも疲れている姿勢になっていた。

 

「優さん……大丈夫なんですか?」

「……ああ」

 

 横谷は小悪魔の言葉に力のない返答をし、魔理沙が借り損ねた本達が入った袋を拾う。

 

「まったく、二度も読書の時間をくだらないことに割かせないで頂戴。私は戻るわ」

 

 パチュリーは二人を一瞥(いちべつ)した後、小悪魔に呼び止められる前に、来る時より速めに飛んで本の城に戻る。

 

「あの……すまん、余計な手間増やして」

 

 小悪魔の後ろから横谷が袋を側に置いて頭を下げている。今まで見せていた態度から一変した姿に戸惑い、体が固まってしまう。ややあってから我に返り、言葉を返す。

 

「あっいや、いいですよ別に。もとはといえば、魔理沙さんが本を勝手に盗もうとしたのが悪いんですから」

「まぁ……そうなんだが……」

 

 歯切れ悪い返事で横谷は返す。その返事から「事の顛末は俺のせいだ」とでも言いたげな雰囲気を醸し出していた。

 その雰囲気から、ここの図書館の暗がりと同等の重い空気に変わって、双方とも沈黙してしまう。

 

「そ、それより本を戻しましょう。戻す本はまだこれだけじゃないですから」

 

 重い空気を振り払うために自分から話を切り出し、本を戻す作業に取り掛かる。

 

「あ、ああ……」

 

 横谷も慌てて返事を返してから、黙々と袋の本を戻していく。

 

(大人しい人と思ったら突然怒りだして、しばらくしたら元に戻る……妹様ほどではないけどこの人も情緒が不安定なのかな……この先大丈夫なんでしょうか……)

 

 小悪魔は本を戻しながら何事もなかったかのように本を戻す横谷を見遣り、いつまでここに働くかわからないこの人が、紅魔館でうまくやっていけるのか。そして横谷の性格の一端が悪い方向に向かないかと憂慮(ゆうりょ)する。


 
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