No.561381

バカテス エイプリルフールagain

久々のバカテス。
色々頑張るんだけれども結局は明久が刺されてエイプリルフールを生き残れないお話。
主成分はコピペ


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2013-04-01 00:20:38 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2960   閲覧ユーザー数:2910

バカテス エイプリルフールagain

 

 

 

 2013年4月1日午前7時。春休み中の僕にとってはまだ夜明けと言えるその時刻にそのメールは届いた。

 

 

From:高坂京介

Sub:エイプリルフールに嘘をつくと死ぬぞ(強調)

本文:エイプリルフールに嘘をつくと、特に結婚に関連する嘘をつくと女たちに無慈悲に残酷に冷酷に殺されるぞ。気を付けろ。絶対に死ぬからな。念を押しておくぞ。

 

 

 送り主は高坂京介さん。以前ちょっとした偶然から知り合った千葉の高校生。いや、この春から大学生。

「プッ。嘘をつくと女の人に殺されるって……高坂さんみたいなハーレム王じゃあるまいし僕が殺されるわけないっての。プププ」

 メールの文面を見て思わず笑ってしまった。

 高坂さんは背は高いけれどあまりイケメンという感じがしない人だ。でも、女の子からはすごく人気があるハーレム王だったりする。何人もの女の人に好意を抱かれている。

 そんな人はエイプリルフールに女難の相が付きまとうかもしれない。でも、僕みたいに女の子から人気のない男に発するにはあまりにも現実味のない警告だった。

「僕のことを殺したくなるほど思ってくれる女の子がいてくれればねえ」

 あり得ない仮定の話に思わず笑ってしまう。

 そう、あり得ない話に……あり得ない?

 本当に、あり得ないのか?

 その時突如、僕の脳裏にここではない他の世界の僕がエイプリルフールに迎えた末路が浮かび上がった。

 

 

『アキ、どういうこと? 何でウチだけじゃなくて瑞希にもプロポーズしているのよ? ウチのこと世界で一番愛してくれているんじゃなかったの?』

 美波の目が冷たい。果てしなく冷たい。

『明久くん。これは一体どういうことですか? 何で、私だけじゃなくて美波ちゃんにもプロポーズしているんですか? 私、明久くんにプロポーズされて本当に嬉しかったのに』

 姫路さんの目も果てしなく冷たい。

 やばい。やばい。やばいやばい。これは本当にやばいっ!

『えっと、あの、その2人とも。落ち着いて。ねっ、まずは落ち着こうよ』

 懸命に2人を宥めようと試みる。

 でも、ダメだった。

『ウチ、今からアキの家にお嫁入りして一緒に住むつもりだったのに。美味しいご飯を作ってあげようと思っていたのに。酷いよ。二股掛けていたなんて』

 美波は持っていたバッグから包丁を取り出して手に握ってみせた。

『私、今から明久くんの家にお嫁入りして一緒に住むつもりだったんです。美味しいご飯を作ってあげようと思っていたのに。酷いです。二股掛けていたなんて』

 姫路さんも包丁を取り出して手に握ってみせた。

『おっ、落ち着こうよ。2人とも。ねっ!』

 命の危険を感じた僕は大声で叫んだ。

『落ち着けるわけがないでしょっ!』

『落ち着けるわけがありませんっ!』

 興奮した2人が包丁を振り上げる。その切っ先は僕の体を狙っていた。

『こっ、殺されるぅ~~っ!』

 命の危機を感じ取った僕は地面を這い蹲ったまま必死に逃げた。

 公園さえ出てしまえばきっとどうにかなる。

 人通りの多い所に行きさえすれば生き長らえる。

 それだけを信念に据えながら必死に四肢を動かす。

 そして──

『優子さんっ! 葉月ちゃんっ!』

 僕は援軍の元に辿り着くことが出来たんだ。

 頼もしい援軍の元へと。

 

『明久くん。姫路さんと島田さんにプロポーズしたってどういうことなの? アタシのことを呼び出したのは殺して欲しかったから?』

 優子さんが調理用に持ってきたらしい包丁を大きく振り上げた。

『バカなお兄ちゃん。葉月は浮気に対しては死ぬしかないと思っているです。葉月以外の女にプロポーズしたバカなお兄ちゃんには死ぬしか選択肢が残っていないのです』

 葉月ちゃんが同じく調理用に持ってきたらしい包丁を大きく振り上げた。

『ウチ……アキのこと、本気で好きだったのに』

『さようなら……明久くん』

 僕が最期に見た光景。

 それは4つの煌く白刃だった。

 

 

「ダメだッ! 今日嘘をついたら僕は美波たちに殺される。特に、女の子の永遠の憧れである結婚をネタにしたりしたら……僕は無慈悲に残酷に冷酷に殺されるッ!」

 僕は遂に真理に到達した。

 高坂さんのメールは何も間違ったことを語っていなかった。

 ハーレム王とは無縁の存在である僕でさえも、嘘をつけば殺されてしまう可能性は十分にあるのだ。

「よしっ! 今日という日を僕は正直一辺倒で生きよう」

 生き残るための最善の策を採用することにする。

 

 

「うん? 電話?」

 生き残るための方策を決めた所で電話がかかってきた。

「雄二からか」

 まだ午前7時であることを考えると雄二からのこの電話は異常だった。休み中の雄二なら今から寝る時間だ。

「もしもし?」

 さて、どんな用件なのか?

 何となく想像はつくのだけど。

『助けてくれぇ~~~~っ!』

 何の説明もなく用件だけが聞こえてきた。

 まあ、予想通りだった。

「どうしたの? 霧島さんに捕まったの? 縄で拘束されてるの?」

『その通りだぁ~~~~っ!』

 いつも通りのことだった。朝っぱらから雄二に構う奇特な人物なんて霧島さんの他にいない。

「で、今回は何をしたの?」

 内容によって雄二がどれぐらい死ぬかが決まる。まあ、雄二が霧島さんに無慈悲に残酷に冷酷に殺されようが僕には微塵も関係ないのだけど。

『今日はエイプリルフールじゃねえか!』

「ああ、そうだね」

 オチが読めた気がする。

『だからちょっとした嘘をついてやったんだ。俺はお色気ムンムンの女子大生のお姉さんと既に婚約しているんだって』

「ああ、そうなんだ。死ねば良いのに」

『だから、その嘘が翔子に通じなくて、俺は今まさに処刑されかかっているんだぁ~~~~っ!!』

 雄二の声はいつになく切羽詰っている。本当に処刑の時は迫っているらしい。

「結婚をネタに女の子を騙すなんて許されるわけがないじゃないか。雄二はもう死ぬしかないよ。むしろ無慈悲に残酷に冷酷に殺されるべきだよ」

『その死が何の誇張もなく俺に迫ってきてるんだよッ! 今日はエイプリルフールじゃねえかっ! 朝叩き起された不満を軽いジョークで晴らしてもいい日だろッ!』

「それが雄二の遺言だね。その内容を国会で取り扱ってもらえるように今度ハガキを送ってみるよ」

『そんな冗談言ってる場合じゃ……まっ、待て、翔子っ!? そ、そんなもので刺されたら俺は本当に死んじ…………ぎゃぁあああああああああぁっ!?!?』

 雄二の断末魔が聞こえてきた所で通話を切る。

 この電話番号と通話することは二度とないだろう。だって雄二はもうこの世にはいないのだから。

「それにしても霧島さんも可哀想に。変な男に引っかかったばかりに人生の長い時間を浪費してしまって」

 霧島さんの無念を想いながら携帯を机の上へと戻す。

「よしっ! 今日は1日家にいて外に出ないようにしよう」

 今日1日の新たな行動指針を打ち立てる。

 外に出て女の子と接すれば殺される可能性がある。

 雄二の死はそれを僕に教えてくれていた。

 

 

「明久くん。休み中の朝からお呼び立てしてしまってごめんなさい」

「いや、今日は早くから起きていたから全然構わないよ」

 午前8時。僕は姫路さんに呼び出されて近所の公園へと足を運んでいた。

 今日は外に出ないと心に決めていた。

 でも、姫路さんから直々に会いたいと電話をもらってしまえば引きこもりを続けるわけにはいかなかった。

「それで姫路さん。突然のお誘いだったけど、大事な話って何かな?」

 今日の姫路さんはいつもよりもその大きな胸の谷間が強調される服を着ていたりスカートの丈が短かったりとかなり際どい服を着ている。何ていうか、普段より気合を感じる。

 その姫路さんは顔を真っ赤に染めながらモジモジと体を揺すっていた。

「あのですね。明久くんにどうしても聞いて貰いたいことがあるんです!」

 姫路さんの顔は真っ赤だ。一体どうしたのだろう?

「そ、そのですね」

「何、どうしたの?」

 姫路さんは僕から顔を背けてモジモジしっぱなしだ。

「あのですね。長期休み中にこうして公園で2人きりでお会いするのは初めてですねって思って」

「そういえばそうだよね」

 姫路さんとは学校では毎日顔を合わせている。でも、休日に会うことはめったにない。

 外で2人きり、しかも彼女から呼び出したのは確かに初めてのことかもしれない。

 うわっ、何か緊張してきた。

 ……気のせいか、他の世界の僕が去年これと似たシチュエーションにいた気がする。

「そ、それでですね……」

「う、うん」

 すごくソワソワする。姫路さんも盛んに僕から視線を外して時計を気にしている。

「もしかして、何か用事でもあるのかな? 急ぐ用事だったらそっちを済ませてからでも」

 姫路さんは勢いよく顔を横に振った。

「いいえ。今日は全然忙しくありませんから。明久くんとお会いするのが今日のスケジュールの全てですッ! もしかすると、今日は美波ちゃんのお家にお泊りするかもと断って家を出てきましたから、もしもの場合だって全然全く問題なく大丈夫なんですっ!」

 姫路さんは一気にまくし立てた。

「えっと……何で僕と会っているのに美波の所にお泊まりなの?」

 何故僕を呼び出して女の子の友達の所に泊まりになると考えるんだろうか?

 もしかして、僕が美波の家に泊まりに行くと提案すると思っているのかな?

「そ、それはアレですっ! 私がお泊りになるかは全部明久くん次第ですから!」

 姫路さんは顔を真っ赤にして目をグルグル回してもういっぱいいっぱいだ。

 これは早く本題に入ってもらわないと、用件を告げる前に姫路さんは倒れてしまいかねない。

 

「えっと、じゃあさ。そろそろ僕を呼んでくれた理由を聞かせてくれないかな?」

「は、はい。私は今日、覚悟を決めて家から出てきましたから!」

 姫路さんは俯いてギュッと拳を握り締めた。

「それで、用事って?」

「はい」

 姫路さんは大きく息を吸い込んで、僕にその用件を告げてくれた。

 

「明久くん…………私と結婚してくださいっ!!」

 

 姫路さんはとてもすごいことを口にしてくれた。

 うん。心の底からそう思う。

 一生大事な友達だと思っていた姫路さんにプロポーズされてしまったんだもの。

 多分、これが今日という日に告げられた言葉でなければ僕は涙を流して喜んでいたと思う。

 でも、僕はもう知ってしまっている。

 今日がエイプリルフールだということを。

 つまりこれは……姫路さんが僕に仕掛けた冗談なのだ。

 

「わっ、私ったら……予想以上に大胆なことを言ってしまいましたぁ~~っ」

 姫路さんは僕からすごい驚きのリアクションが出なかったことが悲しかったのか見る間に泣きそうな表情に変わっていった。

「……愛の告白はするつもりでした。休日にわざわざ呼び出したぐらいなんですから。だから、彼氏になってくださいってお願いして、ハイと言ってもらえればすぐに恋人になる覚悟を重ねてきたのに。でも、まさか、男女交際の段階を飛ばしていきなりプロポーズしてしまうなんて、明久くんもドン引きですよね……」

 姫路さんは俯いたままブツブツと小声で呟いている。

「……これで美波ちゃんや優子ちゃん、葉月ちゃんとの長きに渡る戦いにも終止符が打たれることになると思ったのに。私の勝利で。でも、明久くんがプロポーズを受けてくれないと決着にならないんですよね。やっぱり、高校生なのに結婚だなんて早すぎた申し出だったでしょうか? でも、自分の心に素直に従ったら、明久くんのお嫁さんになりたいって気持ちがとても強くて……ついプロポーズしてしまいましたあ」

 姫路さんは何かをずっとブツブツ呟いているのだけど声が小さすぎて聞き取れない。 

 しかも首を深く曲げて地面を見ているので表情さえもよく読み取れない。

 嘘だとわかっているプロポーズに僕はどう対応したら良いのだろうか?

「……明久くんに付き合って欲しいではなく結婚して欲しいと言ったのは、私の中にそれだけの理由と覚悟があるということですよね。やっぱり、今日から一緒に住みたいってことですよね。明久くん、私って家事が得意なんですよ。特に料理には自信があります。でも、明久くんは私より家事技術全般がすごいんですよね。ということは、家事全般は明久くんに任せて、私はそんな明久くんをこの身体を使って癒してあげることが必要ですよね。だっ、ダメですよ、明久くん。初めての夜は天井の染みを数えている間に終わるのがセオリーなのにいきなりお外だなんて。明久くんもピンク髪は淫乱だって思っているんですね。ラクス様やちなつちゃんみたいに淫乱だって思っているんですね! 私が淫乱かどうかは明久くんがベッドの上で確かめてくれれば良いんですっ! 私、淫乱じゃありませんから是非ベッドの上で今夜にでも激しく何度でも確かめてくださいっ!」

 姫路さんが帰ってきてくれないので僕としては本気で困ってしまう。

 彼氏彼女でもないのにいきなりプロポーズという嘘はいくら僕でも見破れてしまう。

 まあ、F組の他の連中なら涙を流しながら引っかかりそうだけど。

「……明久くんが、私のプロポーズを受け入れてくれた場合、私も新学期から名前を吉井瑞希に変えないといけませんね。持ち物の名前を昨日の内に全部書き直しておいたのは我ながら先見の明です。後、先週西村先生に私と明久くんの結婚について報告しておいたのもGJ部でした。それと、役所にも婚姻届を出さないといけませんよね。2年生やるのも次回で6回目ぐらいな気がしますから年齢的には問題ないですね。後は明久くんの実印さえあればいつでも提出できます。今夜は新婚祝いに2人でお酒飲んで気分を盛り上げちゃいましょうか。あっ、でもそうするとせっかくの初めての夜をお酒のせいで記憶が曖昧になっちゃうかも知れませんね。それは良くないですね♪」

 いい加減、姫路さんには帰ってきてもらおう。もうその嘘は通じないって分かってもらわないと。

「あのね、姫路さん」

「……結婚したら明久くんのことを何て呼びましょうか? ご主人さま? マイ・マスター? いいえ、そういうのは私がピンク髪で淫乱だと誤解を生みそうなので心の中でだけ呼ぶようにしないといけませんよね。淫乱じゃない、貞淑な妻だと思われる為には毎日裸エプロンでお迎えぐらいが限度ですよね。えっと、やっぱり呼び方はダーリンでしょうか? それとも日本らしくPapaでしょうかね? って、Papaだったら明久くんはお父さんになっちゃうじゃないですか~♪ 私ったら、今日から十月十日まだ気が早いですよぉ~♪」

 やべえ。本気で手ごわい。

 姫路さん、意地でも自分からこっちの世界に戻る気はないらしい。

 こうなったら多少強引な手段を用いてでも戻ってきてもらうしかない。

 

「姫路さんっ! しっかりするんだ。自分に負けないでっ!」

 姫路さんの両肩を掴む。

 第二期アニメ空気(ヒッメジ~ン)の称号を持つ存在の細い女の子らしい細い肩。

 美波の過去話とか雄二の過去話とか、13話のアニメの中で全く出て来ない話が多かったよねとか思ってしまうほど存在感が薄かった少女の細い肩。

 姫路さんを強く女の子として意識してしまう瞬間。

 ああっ。これでポロポーズが冗談でなければどれだけ良かったことか。

「姫路さんっ! 姫路さんっ!」

 肩を激しく揺さぶり、姫路さんの顔を徐々に上に向かせる。

 さあ、姫路さん。今こそ目覚めるんだっ!

「だっ、ダメですよ、明久くんっ♪ 初めてなのにそんなSMプレイをしようだなんて。そういうことはせめてそこの植え込みの中かそういう道具が揃っているホテルに入ってからにしてくださいませんと~~っ♪ \ヒッメジ~ン/」

「うわらばぁああああああああああぁっ!?」

 視界から突然姫路さんが消えた。と思ったら、僕は顔面にパンチを食らって大きく吹き飛ばされてしまっていた。

 

「いっ、痛い……」

 基本的に運動音痴な癖に姫路さんは時々すごい力を発揮する。今みたいに。

「あれっ? 明久くん? そんな所に寝っ転がって何をしているのですか? 新しいプレイの研究ですか?」

 僕をあの世に送りかけた犯人はようやく正気に戻ってくれた。

 僕は瀕死の重傷状態だけれども。

 まあいいや。

 僕としては姫路さんが戻ってきてくれるのなら瀕死の1回や2回ぐらいどうとでもなる。

 いや、体中痛いんだけどね。

「それで明久くん……プロポーズの返事をくださいませんか? 私、もう覚悟は決めてますからっ!」

 姫路さんはこちらの世界に戻ってきてもまだプロポーズの冗談を続けていた。

「えっと……今、返事をしないとダメかな?」

 姫路さんは無言で頷いてみせた。

 姫路さんらしからぬ随分と手の込んだエイプリルフールの仕掛けだった。

 姫路さんがF組に1年間、実際には6年間ぐらい在籍した集大成とでも言うべきだろうか。

 さて、何と答えようか?

「……明久くんに返事を求めてしまっています。これってやっぱり、今すぐにでも明久くんのお嫁さんになって一緒に暮らしたいという願望の現れですよね。自分でも信じられないぐらいに大胆です。でも、場の勢いに比べて本当に覚悟は決まっているのでしょうか? 吉井明久の妻として今すぐやっていく覚悟が? ううん。覚悟だけじゃありません。私は明久くんの妻としてふさわしい要件を満たしているでしょうか? ただ同棲してエッチなこととかとてもエッチなこととかすごくエッチなこととかするばかりじゃありません。それはこの上なく大切なことですが。そうじゃなくて妻としてやっていく資格が」

 って、姫路さんはちょっと悩んでいる間にまた自分の世界に入ってしまった。

「……私は明久くんを世界で一番愛している自信があります。美波ちゃんや優子ちゃんよりも愛していますと言い切れます。でも、一介の高校生に過ぎない私がお嫁さんになってしまって本当に良いのでしょうか? とてもエッチな下着を買う時に試着が恥ずかしくてなかなか買えません。明久くんとの充実した夫婦ライフを送るためにエッチなDVDを見ようとしても女子高生モノがいいのか人妻モノが良いのか悩んでしまいます。そんな半端な覚悟の私が明久くんと2人で支え合いながらこの世間の荒波を渡っていけるのでしょうか? こんなにも明久くんのことが好きなのに。だからこそ、明久くんにプロポーズを受け入れてもらって愛していると言ってもらわなければ不安でならないんですよぉ~~~~っ!!」

 姫路さんは野生の獣みたいに荒々しい咆哮を上げながら僕を見た。

 

「あの、それでさ。返事なんだけど……」

 おっかなびっくり姫路さんに告げる。

「はっ、はいっ!」

 姫路さんは背筋をビシッと伸ばした。手も足に付けて直立不動の姿勢で。

 さて、どう答えるべきか?

 今日はエイプリルフールなんだし、姫路さんの冗談に付き合ってあげても良い。

 いや、Fクラスのノリとしては付き合うのが自然なのだろう。でも……。

 

『ダメだッ! 今日嘘をついたら僕は美波たちに殺される。特に、女の子の永遠の憧れである結婚をネタにしたりしたら……僕は無慈悲に残酷に冷酷に殺されるッ!』

 

 そう。今日の僕は真理に既に到達している。

 だから答えは決まっていた。

「ごめん……姫路さんのプロポーズは受けられないよ」

 首を横に振る。

 エイプリルフールの冗談でのプロポーズに僕がイエスと言うわけにはいかなかった。

「そっ、そんなあぁ…………っ」

 姫路さんが息を詰まらせる。そしてポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。

 すごい迫真の演技だった。姫路さんって頭が良いだけでなく演劇の才能もあったんだ。

 でも、ここで自分の意見を翻してはならない。

 今日の僕は誠実一本槍。それ以外の道を辿れば死んでしまう。

「結婚っていうのは一生の問題だからさ。いきなりのプロポーズに対してすぐに答えを出すっていうわけにはいかないんだ。ごめんね」

 姫路さんに向かって頭を下げる。

 彼女のことは大好きだけど。大好きだから軽々しく結婚を了承するなんて僕にはできない。

「……やっぱり、美波ちゃんなんですね。それとも優子ちゃん? ううん。明久くんのことですから葉月ちゃんが本命なんですよね。葉月ちゃんと愛し合っているから、私のプロポーズは受けられない。そういうことなんですよね?」

 姫路さんはポロポロと泣き続けながら何かを呟いている。

「……ロリペドは大罪なんですよ。こうなったら、私が研ぎ澄ました包丁を持ってくるしかないじゃないですか。愛する明久くんが官憲に捕まって処罰される前に、私以外の他の誰にも永遠に害されることがないようにしてあげないと」

「あの、姫路さん。一体君は何を言っているの?」

 何故だろう?

 正直に答えたのにとんでもない誤解を受けているような気がしないでもない。

 そしてその誤解が僕を死へと導くような気がしないでも。

「私、ちょっと家に戻りますので2時間後にまたここでお会いできませんか?」

「あ、ああ。構わないよ」

 姫路さんの思い詰めた雰囲気はとても断れるものじゃなかった。

「それじゃあ明久くん……サヨウナラ。残りの人生を目一杯楽しんでくださいね」

 姫路さんは僕に背を向けると夢遊病者のように右にフラフラ左にフラフラ魂が抜けた状態で歩いていく。

「新しい冗談でリベンジするのかな?」

 そんな彼女を僕は心配しながら眺めるしかなかった。

 

 

 

「アキ。春休み中の朝から呼んじゃってごめんね」

「いや、今日は早くから起きていた所だから全然構わないよ」

 午前9。僕は美波に呼び出されて再び近所の公園へと足を運んでいた。

 姫路さんの結婚をネタにした冗談にもう外に出ないと心に決め直した。

 でも、美波から直々に切羽詰った声で会いたいと電話をもらってしまえば引きこもりを続けるわけにはいかなかった。

「それで美波。突然のお誘いだったけど、大事な話って何かな?」

 今日の姫路さんはいつもよりリボンが大きくて目立っていたり、ペッタンコな胸にパッドが重ねられていたりと女の子であることのアピールが強い。何ていうか、普段より気合を感じる。

 その美波は顔を真っ赤に染めながらモジモジと体を揺すっていた。

「あのね。ウチ、アキにどうしても聞いて貰いたいことがあるの!」

 美波の顔は真っ赤だ。一体どうしたのだろう?

「そ、そのね」

「何、どうしたの?」

 美波は僕から顔を背けてモジモジしっぱなしだ。

「あのね。長期休み中にこうして公園で2人きりで会うのは初めてだなって思ってさ」

「そういえばそうだよね」

 美波とは学校では毎日顔を合わせている。でも、休日に会うことはめったにない。

 外で2人きり、しかも彼女から呼び出したのは確かに初めてのことかもしれない。

 うわっ、何か緊張してきた。

 っていうか、さっき姫路さんと似たようなやり取りをした。まるでコピペしているような錯覚を感じている。

 もっと言えば、ここでないどこか他の世界で違う僕が1年前に体験した会話もほとんど似たような気がする。

「そ、それでね……」

「う、うん」

 すごくドキドキする。美波も盛んに僕から視線を外して時計を気にしている。

「もしかして、何か用事でもあるの? 急ぐ用事だったらそっちを済ませてからでも」

 美波は勢いよく顔を横に振った。

「ううん。今日は全然忙しくないんだから! アキと会うのが今日のスケジュールの全てbなんだからねッ! もしかすると、今日は瑞希のお家にお泊りするかもと断って家を出てきたから、もしもの場合だって全然全く問題なく大丈夫なんだからっ!」

 姫路さんは一気にまくし立てた。

「えっと……何で僕と会っているのに姫路さんの所にお泊まりなの?」

 何故僕を呼び出して女の子の友達の所に泊まりになると考えるんだろうか?

 もしかして、僕が姫路さんの家に泊まりに行くと提案すると思っているのかな?

 いや、それは幾ら何でもおかしい。

 どうして姫路さんといい美波といいよく分からないことを今日に限って述べてくるんだろう?

「そ、それはアレよっ! ウチがお泊りになるかは全部アキ次第なんだから!」

 美波は顔を真っ赤にして目をグルグル回してもういっぱいいっぱいだ。

 これは早く本題に入ってもらわないと、用件を告げる前に美波は倒れてしまいかねない。

 何でこんなに姫路さんとそっくりな行動が取れるのだか?

 

「えっと、じゃあさ。そろそろ僕を呼んでくれた理由を聞かせてくれないかな?」

「う、うん。ウチは今日、覚悟を決めて家から出てきたんだから!」

美波は俯いてギュッと拳を握り締めた。聖帝の異名を持つ美波にすごい気迫を感じる。

「それで、用事って?」

「うん」

 美波は大きく息を吸い込んで、僕にその用件を告げてくれた。

 

「アキ…………ウチと結婚してっ!!」

 

 美波はとてもすごいことを口にしてくれた。

 うん。心の底からそう思う。

 一生大事な友達だと思っていた美波にプロポーズされてしまったんだもの。

 多分、これが今日という日に告げられた言葉でなければ僕は涙を流して喜んでいたと思う。

 でも、僕はもう知ってしまっている。

 今日がエイプリルフールだということを。

 つまりこれは……美波が僕に仕掛けた冗談なのだ。

 どうやら女子の間ではクラスメイトに結婚を申し込む冗談が流行しているに違いない(断言)。

 

「うっ、ウチったら……予想以上に大胆なことを言ってしまったよぉ~~っ」

 美波は僕からすごい驚きのリアクションが出なかったことが悲しかったのか見る間に泣きそうな表情に変わっていった。

「……愛の告白はするつもりだったのよ。休日にわざわざ呼び出したぐらいなんだから。だから、彼氏になってってお願いして、ハイと言ってもらえればすぐに恋人になる覚悟を重ねてきたのに。でも、まさか、男女交際の段階を飛ばしていきなりプロポーズしてしまうなんて、アキもドン引きですよね……」

 美波は俯いたままブツブツと小声で呟いている。

 気のせいかさっき見たパターンとかぶっているような。

「……これで瑞希や拳王、葉月との長きに渡る戦いにも終止符が打たれることになると思ったのに。ウチの勝利で。でも、アキがプロポーズを受けてくれないと決着にならないのよね。やっぱり、高校生なのに結婚だなんて早すぎた申し出だったかな? でも、自分の心に素直に従ったら、アキのお嫁さんになりたいって気持ちがとても強くて……ついプロポーズしちゃったのよぉ」

 美波は何かをずっとブツブツ呟いているのだけど声が小さすぎて聞き取れない。 

 しかも首を深く曲げて地面を見ているので表情さえもよく読み取れない。

 嘘だとわかっているプロポーズに僕はどう対応したら良いのだろうか?

「……アキに付き合って欲しいではなく結婚して欲しいと言ったのは、ウチの中にそれだけの理由と覚悟があるということよね。やっぱり、今日から一緒に住みたいってことよね。アキ、ウチって家事が得意なんですよ。特に料理には自信があるんだから。でも、アキはウチより家事技術全般がすごいのよね。ということは、家事全般はアキに任せて、ウチはそんなアキをこの身体を使って癒してあげることが必要よね。だっ、ダメよ、アキ。初めてのキスはイチゴミルク味がセオリーなのにいきなりニンニクネギラーメンチャーシュー抜きだなんて。アキもウチがピンク髪みたいに淫乱だって思っているのね。瑞希みたいに淫乱だって思っているのね! ウチが瑞希みたいに淫乱かどうかはアキがここでキスして確かめてくれれば良いのよっ! ウチ、淫乱じゃないんだから今すぐ激しく何度でもキスして確かめなさいってのよっ!」

 美波が帰ってきてくれないので僕としては本気で困ってしまう。

 彼氏彼女でもないのにいきなりプロポーズという嘘はいくら僕でも見破れてしまう。

 まあ、D組の清水さんなら涙を流しながら引っかかりそうだけど。

「……アキが、ウチのプロポーズを受け入れてくれた場合、ウチも新学期から名前を吉井美波に変えないといけないのよね。持ち物の名前を全部書き直しておかなくっちゃ。結婚前に気づいたのは先見の明よね。後、西村先生にウチとアキの結婚について報告しておかなくっちゃ。それと、役所にも婚姻届を出さないといけないわよね。2年生やるのも次回で6回目ぐらいな気がするから年齢的には問題ないよね。アキの実印さえあれば後はウチが書き込めば良いわよね。今夜は新婚祝いに2人でお酒飲んで気分を盛り上げちゃおうかしら。あっ、でもそうするとせっかくの初めてのキスがお酒のせいで味が大変なことになっちゃうかも知れないわね。それは良くないわよね♪」

 いい加減、美波には帰ってきてもらおう。もうその嘘は通じないって分かってもらわないと。

「あのね、美波」

「……結婚したらアキのことを何て呼ぼうか? あなた? 旦那さま? ううん、そういうのはウチがピンク髪でど淫乱だ同じだっていう誤解を生みそうなので心の中で止めた方がいいわよね。瑞希みたいな淫乱じゃない、貞淑な妻だと思われる為には毎日フリフリエプロンでお迎えするのがベストよね。えっと、やっぱり呼び方はダーリンでしょうか? それともドイツらしくVaterかしら? って、Vaterだったらアキはお父さんになっちゃうじゃないの~♪ 子供はアキがちゃんと就職してくれてから。ウチったら、気が早すぎるわよぉ~~♪」

 やべえ。本気で手ごわい。

 美波のヤツ、意地でも自分からこっちの世界に戻る気はないらしい。

 こうなったら多少強引な手段を用いてでも戻ってきてもらうしかない。

 

「美波っ! しっかりするんだ。自分に負けるんじゃないっ!」

 姫路さんの両肩を掴む。

 第二期アニメ聖帝(メインヒロイン)の称号を持つ圧倒的な存在感を持つ女の子の細い肩。

 原作とスタッフに愛されていることが分かるほど存在感が濃かった少女の細い肩。

 美波を強く女の子として意識してしまう瞬間。

 ああっ。これでポロポーズが冗談でなければどれだけ良かったことか。

「美波っ! 美波っ!」

 肩を激しく揺さぶり、美波の顔を徐々に上に向かせる。

 さあ、美波。今こそ目覚めるんだっ!

「だっ、ダメよ、アキっ♪ ウチ、キスは初めてなのにそんな荒々しいディープキスをしようだなんて。そういうことはせめて夕日の綺麗な公園か伝説の樹の下でしてよぉ~~っ♪ 天翔腕十字鳳っ♪」

「汚物は消毒だぁ~~~~っ!?」

 視界から突然美波が消えた。と思ったら、天空を舞う鳳凰のように急降下してきた美波の突きを顔面に食らって僕は大きく吹き飛ばされてしまっていた。

 

「いっ、痛い……」

 聖帝の称号を関する武神である美波は常にすごい力を発揮する。今みたいに。

「あれっ? アキ? そんな所に寝っ転がって何をしているの? 新しいプレイの研究なの? あんまり恥ずかしい真似はやめてよね」

 僕をあの世に送りかけた犯人はようやく正気に戻ってくれた。

 僕は瀕死の重傷状態だけれども。

 まあいいや。

 僕としては美波が戻ってきてくれるのなら瀕死の1回屋2回ぐらいどうとでもなる。

 いや、体中痛いんだけどね。

「それでアキ……プロポーズの返事をくれないかしら? ウチ、もう覚悟は決めてるからっ!」

 美波はこちらの世界に戻ってきてもまだプロポーズの冗談を続けていた。

「えっと……今、返事をしないとダメかな?」

 美波は無言で頷いてみせた。

 美波らしからぬ随分と手の込んだエイプリルフールの仕掛けだった。

 美波がF組に1年間、実際には6年間ぐらい在籍した集大成とでも言うべきだろうか。

 さて、何と答えようか?

「……アキに返事を求めてしまっている。これってやっぱり、今すぐにでもアキのお嫁さんになって一緒に暮らしたいという願望の現れよね。自分でも信じられないぐらいに大胆。でも、場の勢いに比べて本当に覚悟は決まっているのかしら? 吉井明久の妻として今すぐやっていく覚悟が? ううん。覚悟だけじゃない。ウチはアキの妻としてふさわしい要件を満たしているのかしら? ただ同棲して瑞希みたいにエッチなこととかとてもエッチなこととかすごくエッチなこととかするばかりじゃないの。それは瑞希にとってはこの上なく大切なことだろうけど。そうじゃなくて妻としてやっていく資格が」

 って、美波はちょっと悩んでいる間にまた自分の世界に入ってしまった。

 いや、だからさっきとほんと同じ展開を歩んでいる。

「……ウチはアキを世界で一番愛している自信があるわ。瑞希や拳王よりも愛していますと言い切れるわ。でも、一介の高校生に過ぎないウチがお嫁さんになってしまって本当に良いのかしら? アキが貸してくれた消しゴムでさえ触ることに躊躇ってしまう。アキが口をつけたペットボトルを飲むのに一生分の勇気を振り絞らないといけない。そんな半端な覚悟のウチがアキと2人で支え合いながらこの世間の荒波を渡っていけるのかしら? こんなにもアキのことが好きなのに。だからこそ、アキにプロポーズを受け入れてもらって愛していると言ってもらわなければ不安でならないのよぉ~~~~っ!!」

 美波は野生の獣みたいに荒々しい咆哮を上げながら僕を見た。

 

「あの、それでさ。返事なんだけど……」

 おっかなびっくり美波に告げる。

「はっ、はいっ!」

 美波は背筋をビシッと伸ばした。手も足に付けて直立不動の姿勢で。

 さて、どう答えるべきか?

 今日はエイプリルフールなんだし、美波の冗談に付き合ってあげても良い。

 いや、Fクラスのノリとしては付き合うのが自然なのだろう。でも……。

 

『ダメだッ! 今日嘘をついたら僕は美波たちに殺される。特に、女の子の永遠の憧れである結婚をネタにしたりしたら……僕は無慈悲に残酷に冷酷に殺されるッ!』

 

 そう。今日の僕は真理に既に到達している。

 だから答えは決まっていた。

「ごめん……美波のプロポーズは受けられないよ」

 首を横に振る。

 エイプリルフールの冗談でのプロポーズに僕がイエスと言うわけにはいかなかった。

 僕はまだ死ぬわけにはいかない。

 それに、姫路さんのプロポーズも断ったのだ。美波だけ付き合うわけにもいかない。

「そっ、そんなあぁ…………っ」

 美波が息を詰まらせる。そしてポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。

 すごい迫真の演技だった。美波って武神なだけでなく演劇の才能もあったんだ。

 でも、ここで自分の意見を翻してはならない。

 今日の僕は誠実一本槍。それ以外の道を辿れば死んでしまう。

「結婚っていうのは一生の問題だからさ。いきなりのプロポーズに対してすぐに答えを出すっていうわけにはいかないんだ。ごめんね」

 美波に向かって頭を下げる。

 彼女のことは大好きだけど。大好きだから軽々しく結婚を了承するなんて僕にはできない。

「……やっぱり、瑞希なのね。それとも拳王? ううん。アキのことですから葉月が本命なのよね。葉月と愛し合っているから、ウチのプロポーズは受けられない。そういうことなのよね?」

 美波はポロポロと泣き続けながら何かを呟いている。

「……ロリペドは大罪なのよ。こうなったら、ウチが研ぎ澄ました包丁を持ってくるしかないじゃないの。愛するアキが官憲に捕まって処罰される前に、ウチ以外の他の誰にも永遠に害されることがないようにしてあげないと」

「あの、美波。一体君は何を言っているの?」

 何故だろう?

 正直に答えたのにとんでもない誤解を受けているような気がしないでもない。

 そしてその誤解が僕を死へと導くような気がしないでも。

「ウチ、ちょっと家に戻るから1時間後にまたここでお会いできませんか?」

「あ、ああ。構わないよ」

 美波の思い詰めた雰囲気はとても断れるものじゃなかった。

「それじゃあアキ……サヨウナラ。残りの人生を目一杯楽しんでね」

 美波は僕に背を向けると夢遊病者のように右にフラフラ左にフラフラ魂が抜けた状態で歩いていく。

「新しい冗談でリベンジするのかな?」

 そんな彼女を僕は心配しながら眺めるしかなかった。

 

 

 家に戻るのも半端な時間だったので僕は公園で待ち続けることにした。

 

『あっ、明久くん。午前10時頃に公園に来てくれないかしら? 大事な話があるの』

 

『バカなお兄ちゃん。午前10時頃に公園に来てくれないですか? 大事な話があるのです』

 

 待っている間に優子さんと葉月ちゃんから電話がかかってきた。

 同じ時間に同じ場所の指定はタイミング的に丁度良かった。用事はみんなまとめて聞けば早い。多分、優子さんも葉月ちゃんもエイプリルフールの冗談を言うために僕を呼んだのだろうから。

「約束の10時まで後5分か……」

 今日は女の子と会わないつもりだった。なのに4人の女の子と会おうとしている。

 我ながら弱い決意だった。

 

「あっ。霧島さんだ」

 公園の前の道を霧島さんが歩いているのが見えた。

 霧島さんは全身黒い喪服姿で俯いて歩いている。その服装が何を意味しているのか僕には分かり過ぎていた。

 雄二を失った霧島さんは悲しみのあまりまともに歩くこともできない。右へフラフラ左へフラフラ。いつ倒れてもおかしくない状態だった。

「あっ、危ないっ!」

 霧島さんの体は横を通り過ぎようとする車によたよたと自ら近寄っていってしまう。

 僕は慌てて霧島さんの元に駆け寄って彼女の身体を抱きしめて車から守った。

「……吉井?」

 霧島さんは抱きしめられてようやく僕の存在に気がついたようだった。

「そんなフラフラした状態で歩いていたんじゃ車に轢かれちゃうよ」

「……でも。雄二が死んでしまったこの世界で私は生きている意味を何も見いだせない」

 霧島さんはその綺麗な顔を歪めて涙を流し始め

「……うっ、うっ、うわぁあああああぁ」

 僕の胸に顔を埋めて泣き出してしまった。

「霧島さん……っ」

 僕は泣きじゃくる霧島さんに胸を貸した。

 僕にとってはどうしようもないバカで卑怯で陰湿で顔も良くない悪友でも、霧島さんにとっては最愛の夫だった。

 その夫を失ってしまった悲しみはどれほど大きなものだろうか?

 それを想像するだけで、霧島さんの胸の内を思うだけで僕も苦しくて頭がおかしくなってしまいそうだ。

 だから、今の僕にできるのはこうして彼女の悲しみを和らげることだけだ。

 僕は霧島さんを抱きしめることで彼女の悲しみを少しでも背負おうとした。

 

「あっ、明久くんっ!? これは、一体どういうことなんですか!? 翔子ちゃんと抱き合っているなんて!」

 背後から姫路さんの声が聞こえてきた。

「アキっ!? どうして霧島さんと抱き合っているのよ! まっ、まさか、アキが好きな子って……」

 美波の声も聞こえてきた。

「明久くんにプロポーズしようと思って公園まで来たら……まさか明久くんと代表が愛し合っている場面に遭遇するなんてね」

「バカなお兄ちゃんは葉月エンドに到達する予定だったのに……予想外すぎるのです」

 目の前に優子さんと葉月ちゃんが現れた。

 その手によく研ぎ澄まされた包丁を持ちながら。

 

 とても……死の予感がした。

 

「代表っ! 坂本くんじゃなくて明久くんがいいの?」

「そうです、翔子ちゃん。坂本くんのことはどうするんですか? あんなに、お似合いの2人だったのにっ!」

 僕に包丁を近づけながら4人の少女たちが近寄ってくる。

 いけない。

 ここで返答を間違えたら僕は死ぬ。

 いや、霧島さんを抱きしめている現状、僕が何を言っても姫路さんたちは聞いてくれないだろう。

 霧島さんにちゃんと説明してもらうしか僕が生き残る手段はない。

 さあ、霧島さん。

 学年主席の天才的頭脳を活かして僕を救ってくださいっ!

 

「……私はもう、雄二を愛することはできないの。うっうっうっ」

 

 霧島さんはもう1度深く僕の胸に顔を埋めて泣いた。

 うん。雄二がもうこの世に存在しないんだもん。愛せないよね。少なくとも生身の雄二は。でも、今それを言うとちょっと違う意味に聞こえちゃうかも知れないよね。

「雄二……僕も君の所へと旅立つことになりそうだよ」

 空を見上げる。

 4月1日の午前の空は雲一つなく澄み渡っていた。

「あっ、でも。僕は天国で雄二は地獄っていう違いはあるよね」

 4人の少女が、4つの白刃の煌きが僕に向かって迫ってくる。

「どうすればエイプリルフールを生き残ることができるんだろう?」

 それが僕の人生における最期の言葉になった。

 嘘をついてもつかなくても生き残れない。

 エイプリルフールって本当に難しい。

 でも、次の世界こそはエイプリルフールを生き残りたい。

 そんなことを考えながら、僕の意識は一瞬の痛みの後に急速に薄らいでいくのだった。

 

 

 了

 

 

 

 

 

 


 
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