No.561069

SAO~菖蒲の瞳~ 第三十七話

bambambooさん

三十七話目更新です。

モンスタートラップを無事に切り抜けたアヤメと月夜の黒猫団。
彼らは街へと帰るのだが……。

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2013-03-31 10:53:57 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1069   閲覧ユーザー数:1022

第三十七話 ~ 迷い猫 ~

 

 

【アヤメside】

 

「キュイ、入ってろ」

 

「キュ」

 

キリトの悩みが解決して絆がより深まったように感じたあと、俺はキュイをポケットに潜らせて立ち上がり、宝箱の中をのぞき込んでみた。

 

「なにかあるのか?」

 

ケイタも近付いてきて宝箱の中を見る。

 

ちょうどそのタイミングで、宝箱の中に大きめの袋がポップした。

 

キュイに警戒する様子がないため、俺はその袋の縛り口を掴んで持ち上げてみると、ずしりとした重さを感じる。

 

袋を開けてみると、袋の中にはぎっしりとコルが詰められていた。

 

「うわ。これいくらになるんだろ」

 

「万は下らないだろうな」

 

驚きで疲労が吹っ飛んだ様子のケイタに返し、それを聞いた皆がぞろぞろと集まってきた。

 

袋の中を見ると、それぞれのリアクションで驚愕を表した。

 

「これどうする?」

 

と、もっともな疑問を言ったのはテツオ。

 

「どうする」とは、誰が貰うかと言うことだ。

 

「山分けでいいんじゃない?」

 

ササマルの至極当然の意見に、俺たちは頷いた。

 

「じゃあ、一旦街に帰ってから分配しよう。トラップが再起動しないとも限らないし」

 

キリトの言葉に俺たちはもう一度頷くと、ポーチから《転移結晶》を取り出して一斉に「転移」と唱えた。

 

問題無く起動したクリスタルに、安堵の息をついたのが五人いたことは言うまでもない。

 

その後、街に帰った俺たちはコルを分配したあとは、キリトの本当のレベルを聞いて驚愕したり、多少馴れてきたキュイの紹介をしたり、アスナやシリカの話をしたりと、適当に駄弁って過ごした。

 

そしてその日の夜、サチが失踪した。

 

 

【キリトside】

 

「サチが居なくなった!」

 

そうケイタから聞いた俺は、宿屋から飛び出ようとした。

 

しかし、それはテツオとダッカーに妨げられた。

 

「フレンドの追跡も出来ないんだ。だから、どこかのダンジョンに潜ってるのかもしれない。闇雲に探しても見つからないよ」

 

「そ、そうだな」

 

ケイタに諭され落ち着きを取り戻した俺は、逸る気持ちを抑えてその場に止まった。

 

「何かあったのか?」

 

そのとき、騒ぎを聞きつけたのか、二階からジャージ姿のアヤメが降りてきた。

 

「サチが居なくなったんだ」

 

「サチが……?」

 

ササマルの言葉を聞いたアヤメは、目を鋭く細めて俺たちを見回して確認を取った。

 

「……分かった。じゃあ、後ろを向いて少し待っててくれないか?」

 

「なんで?」

 

「お前らに見つめられると、キュイが竦んじゃうからな」

 

そう言ったアヤメは、ポケットに手を入れてキュイを登らせ、近くのテーブルに移動させた。

 

移されたキュイはこちらをチラチラと見てきたため、俺たちは言われた通りに後ろを向いた。

 

「キュイ、サチを探せるか?」

 

「キュキュィ」

 

アヤメの問いにキュイが答える。

 

俺は何をするのか気になり、バレないように様子を横目で観察しようとすると、目の前を黄色に輝く《スローイング・ナイフ》が猛スピードで通過し、店内の壁にぶつかって地面に落ちた。

 

次は当てる、とナイフをチラつかせるアヤメを見て、諦めて後ろを向いた。

 

数秒後、アヤメは「もう良いぞ」と言い、前を向くとキュイを手のひらに乗せポケットの中に移していたところだった。

 

「サチの居場所、分かったのか?」

 

「ああ。俺じゃなくてキュイが、だけどな」

 

訝しげに尋ねるダッカーにアヤメは頷くと、 宿屋の出口に向かいそのまま出て行った。

 

俺たちは一度顔を見合わせ、そのあとを追う。

 

アヤメを追い掛けて外に出てみると、出口から少し離れたところでアヤメが待っていた。

 

急いでアヤメに近寄ると、それを確認したアヤメは無言のまま早歩きで歩き出し、俺たちもそれについていく。

 

アヤメが向かう先は、街の外ではなく、橋の多く架かる中央部だった。

 

そこまで来て、俺は圏内にも追跡が出来ない場所があることを思い出す。

 

もしかしてと思い、《索敵》スキルからサチの名前で《追跡》を発動させると、アヤメが進む先に、確かにサチの足跡があった。

 

「俺は、サチに初めて会ったとき、気弱そうな印象を受けた。怖がりでもいい」

 

無言で歩き続けていたアヤメが、突然、口を開いた。

 

「そして、今日の戦闘とかを見て確信した。はっきり言って、サチは攻略には向いてないし積極的じゃない。むしろ、嫌がってる」

 

「え……?」

 

紡がれたアヤメの言葉に、俺以外の三人が呆けたような声を漏らす。

 

「まあ、たった一日しか知らない俺が何言ってんだって思うだろう。だから、詳しくは本人に聞いてみろ。――――あそこだ」

 

立ち止まったアヤメが指さす先には、橋の下で壁に背を付け、膝を抱えて座り込むサチの姿があった。

 

 

「サチ!」

 

ケイタが彼女の名前を呼び、真っ先にサチのもとへ駆け寄った。

 

「……ケイタ?」

 

その声に反応したサチは、ゆっくりと振り向いてケイタの姿を捉えた。心なしか、顔色が悪く見える。

 

ケイタのあとを追って、俺たちもサチに駆け寄る。

 

サチは「みんなも……」と小さく呟いたあと、申し訳無さそうな様子で顔を逸らした。肩までの黒髪が、儚げに揺れる。

 

「みんな、どうしてここが分かったの?」

 

「アヤメが教えてくれたんだ」

 

「アヤメも居るの?」

 

姿を確認しようとサチは僅かに顔を上げ、俺たちの後ろで立っているアヤメを目に留めると、また顔を伏せた。

 

「ねえ、みんな。このままどっか逃げようよ」

 

「サチ?」

 

「この街から。モンスターから。……SAOから」

 

小さく囁くサチの声に、俺たちは息を呑んだ。

 

「それは……心中しようってこと?」

 

俺以外の誰かが聞き返し、しばらく沈黙したあと、サチは小さく笑い声を洩らした。

 

「ふふ……それも、いいかもね。……ううん、ごめん、嘘。死ぬ勇気があるなら、こんな街の圏内に隠れてないよね」

 

自嘲気味に語るサチ。俺はどうしていいか分からず、ただその場に突っ立っていた。

 

「……どうして、そんなことを言うんだ?」

 

ケイタがサチに尋ねた。

 

「……私、死ぬの怖い。ううん、私を殺そうとするこの世界が怖い。フィールドなんかに出たくない。今日、モンスタートラップにハマったでしょ。あれから、私、そのときのことが頭からはなれないの」

 

怯えるように体を震わせ、伏せた顔を膝に押し付けて体を縮こませながら、絞り出すような声でサチは答えた。

 

「じゃあ、どうしてそう言ってくれなかったんだ?」

 

「……言ったら、みんなが私を一人にして置いてっちゃうような気がしたから」

 

顔を上げて、ポツリとサチは呟く。

 

「私は一人になりたくない。でも、フィールドに出たくもない。迷った私は、ちょっとくらいなら、って思ってみんなとフィールドに出ることを選んだ。少ししたら言うつもりだった」

 

「でも」とサチは一拍入れて続けた。

 

「でも、初めてみんなのレベルが上がったとき、みんなはすごく喜んでて、なんとなく、私とは違うんだなって思ったの。そして、もし一度別れたら、私なんて忘れちゃうんじゃないかなって思ったの」

 

それくらい嬉しそうだった、とサチは続け、小さく微笑んだ。

 

それは、ケイタたちのことを、自分のことのように喜んでいるようにも見えた。

 

こんな話を聞いてしまうと、黒猫団の誰かがレベルアップしたとき、サチがあんなに嬉しそうにしていたのは、全て演技だったのではないかと思えてしまう。

 

でも、彼女のその微笑みは、そんなことは決して無いと謳っていた。

 

「サチ……!」

 

「きゃっ!?」

 

突然、ケイタがサチの体を抱きしめた。

 

サチは小さな悲鳴を上げて、目に見えてうろたえる。

 

「ごめん……サチ」

 

しかし、ケイタの言葉を聞いて、落ち着きを取り戻した。

 

「ごめん、サチ」

 

「どうして、ケイタが謝るの?」

 

「気付いてやれなくて、ごめん。お前がそんなことを悩んでるなんて、思わなくて」

 

「これは、私のわがままなんだよ?」

 

「それでもだ。サチのこと、小さい頃からずっと見てたのに、怖がりだって知ってたのに、気付いてやれなくてごめん」

 

「ケイタ……?」

 

ふと、ケイタの頬を涙が伝った。

 

「サチは一人にならない。僕がついてる」

 

それを聞いたサチは、優しく柔らかく微笑んで、その涙を拭った。

 

「私も、ごめんね。勝手に居なくなったりして、心配かけて」

 

「サチが無事だったから、それでいい」

 

そこでケイタは、サチを一度強く抱きしめて言った。

 

由希(ゆ き)は死なせない。絶対に」

 

「……うん。ありがとう」

 

サチも、控えめながらケイタを抱きかえした。

 

「――――さて、そこで蜂蜜みたいな空気を拡散して告白紛いのことしてるお二人さん」

 

と、そこにいつの間にか近付いてきていたアヤメが、茶化すような声で言った。

 

「え? ……ッ!?」

 

「………っ」

 

すると、さっきのやり取りを思い出して恥ずかしくなったのか、ケイタとサチは慌てて離れ、顔を見合わせないようお互いに明後日の方を向いた。

 

二人とも顔がトマトのように真っ赤で、サチに至ってはショートしたように湯気が出ていた。……て言うか出るんだ。

 

空気の読めない発言に、俺、ササマル、テツオ、ダッカーの四人はジト目を向けてみたが、さすがは第二層で四十人近いプレイヤーからブーイング受けながらも説教をかましたアヤメだ。

 

俺たちのジト目なんかどこ吹く風で、軽く受け流していた。

 

「お前らの雰囲気的に、しっとりした空気は合わないだろ。と言うか、そう言うのは二人っきりのときにやってくれ………」

 

後半は尻すぼみに言いながら、アヤメは気まずそうに顔を逸らして後ろを向いた。

 

暗くて分からなかったが、よく見ると耳がほんのり朱くなっていた。意外とこう言うのに耐性が無いらしい。

 

「……とにかく、今日は帰ってさっさと寝よう」

 

誤魔化すように言ったアヤメは、そのまま一人で宿屋に向かって歩きだした。

 

「そ、そうだな。アヤメの言うとおり、今日はもう寝よう」

 

「うん……そうだね」

 

それに続いて、ケイタとサチがそそくさとアヤメのあとを追いかける。

 

残った俺たちは顔を見合わせ、ニヤリと怪しく笑ってからそのあとを追った。

 

 

【あとがき】

 

以上、三十七話でした。皆さん、如何でしたでしょうか?

 

今回は甘めですね。お陰で短めですけど。

 

後半に出てきた《由希》はサチのリアルネームと言うことで一つ。

フルネームで《柴咲由希(しばさきゆき)》です。

 

なお、サチとケイタはくっついた訳ではありません。まだお互いが意識しあうようになった程度です。

 

次回は、黒猫団の反省会、及び改造です。そろそろ終わるかな。

 

それでは皆さんまた次回!

 


 
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