No.560450 超次元ゲイムネプテューヌmk2 OG Re:master 第十四話ME-GAさん 2013-03-29 16:07:19 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1586 閲覧ユーザー数:1515 |
「酷い目にあったわ……」
手入れの行き届いた腰まである茶色の髪を揺らして少女は嘆息した。
包帯の晒された頭部に右手をそっと添えるような形で目を伏せてから半眼を作って正面を見る。
しかし彼女の視界に映るのはすっかり機能的に手入れされたうっすらと青みの掛かった白色の壁だけだった。
そんな彼女の傍らでもう一人の少女は微苦笑を浮かべてそうしている彼女の小言に耳を傾けていた。
「でも、無事でよかったです」
すっかり安心しきった表情をしてコンパが自分の胸に両手を添えた。
しかし、そんなやんわりとした彼女とは打って変わって少女、アイエフはジトッとコンパに半眼を向ける。
「無事、なんてモンじゃないわよ。こっちとしては身体中は痛いわ、挙げ句には謹慎まで食らう始末だし」
再び大きめの嘆息をしてアイエフはコンパが剥いてくれた兎型の林檎を躊躇いなく囓り食った。
彼女が不機嫌なのもそのはず、先のゲイムキャラとの接触の際に敵の攻撃を受けて死にかけ、そして候補生といえど女神と一般人を現場に残し離脱してしまったことにより一時謹慎の身となってしまっていた。まあ、それはコンパにも言える話だったのだが。
しかしまあ、これでも十分に看過された方でありイストワールの慈悲がなければ最悪、政府職を降ろされていただろうから事なきを得たとも言えなくもない。
しゃくしゃくと口の中で林檎の柔らかな食感を楽しむわけでもなく、さっさと咀嚼して喉の奥に流し込んだ。
珍しく全てが降ろされた長い髪を鬱陶しそうに払ってアイエフはまた嘆息した。
「で? 結局、あの二人はどうだったの? 成功した?」
アイエフはチラとコンパを視界の端に入れてそう質問した。
なんやかんやと言うこともあってアイエフが目覚めたのは今朝。状況を知らずとも当たり前かもしれない。
コンパはふふっと笑いを零してから答えた。
「成功ですよ。無事にゲイムキャラさんの力を貰えたらしいです」
「そう……。でも、これでまだ第一の通過点よねぇ……」
遠い目をしてアイエフがそう言った。
それに頷くようにコンパも目を伏せてから口を開く。
「そうですね……」
「いつぞやもあったわね、こんなこと」
まるで、遠い昔を懐かしむようにアイエフはしみじみと言葉を零した。その中にどんな感情が含まれていたのかは彼女のみぞ知るところではあったのだが。
しかしそれはそうとして、アイエフには気になることがもう一つあった。
自分の目に届いていない時での状態。キラから聞いただけの情報で何らとして彼女自身がその光景を見ていたわけではないのだ。
「それより、あの娘のことについて教えてくれる? 私が気を失っている間に何があったの?」
今まで苦い表情を浮かべていたアイエフがスッと視線を横に流してコンパに向けた。
コンパはそれに対してきゅっと口を噤んでから吐息した。
それから重々しく口を開く。
「ギアちゃんの姿に異常があったんです」
「異常……?」
その言葉にアイエフは眉を寄せる。
「はい……まるでドレスみたいでした。それこそ『ユニット』のように……」
「ふぅん。でも、あの子はしっかりと覚醒したんでしょ? なら問題はないじゃない」
アイエフの言葉にコンパはふるふると首を横に振る。
まるで思い出したくないようなそんな過去を思い出すように。
「そうなじゃないです。もっとこう……禍々しいというか、凄く怖かったんです」
「怖い……?」
コンパの言葉にアイエフは顎に手をやって考え込むような仕草を取る。
「『ユニット』とは違う力、っていうことね?」
「はい」
「気になるわね……」
言葉ではそう言うモノのアイエフはもう頭を抱えるようにして深く嘆息する。
彼女としても、いやプラネテューヌ政府としてもまだ問題は山積みなようでそれこそ肩の荷が重くなるような気持ちではあるのだが。
「で? 当の本人達はどうしてるわけ?」
「それが――」
☆ ☆ ☆
「……ハァ」
ゲイムキャラとの接触から二日後。
キラは嘆息しながらプラネタワーの自動ドアの前に立って、それが開くことを確認してからふっと嘆息した。
ゲイムキャラの力を得て、こうして無事にプラネテューヌに帰ってきたはよいモノの政府における入念なメディカルチェックを受けていた次第だった。そんな今日もチェックを終えて自宅への道を歩む途中であった。
ポリポリと後頭部を掻きながらクイと青く広がる空に視線を向ける。
それを見ていると次第にキラの心の中に沸々とした思いが浮かび上がる。
「なんだかんだ言って、結局ネプギアと会えてねぇんだよなぁ……」
そんな言葉を彼方の青い大空に投げつける。
二日、二日も彼女の姿を見ていないのだ。
ここ数日、毎日と言うほどに彼女の姿を見ていたキラとしては起床したときに自宅に彼女の姿がないというのも既に非常にむず痒い感覚になっていた。
しかし、そんな淡い思いも届くはずもなく今日もいつもと変わらないはずの時間が流れていく――ハズだった。
だけど、ただ一つキラの中で違うモノがあるとすればそれは妙な気怠さというか奇妙な脱力感が身体の中を駆けめぐっていたことだ。
ここ数日はもう何をするでもない、政府からの呼び出しに応じてチェックを受けた後は早々に自宅に戻り一日中ベッドの上で天井を仰いでいた。それ程までに何をする気も起きない。こんなことは初めてだとキラは思う。
しかし、そう思っていなければとも思っていた。その程度のことでも思っていなければ思考することすらも止めてしまいそうだったからだ。
嘆息して視線を伏せる。
と、そこで視線を空から地面に落とす途中に見覚えのあるモノを見た気がする。そう思ってキラはクイと顔を前方に向けた。
そこには、圧倒的な存在感を放つ少女がいた。
キラが、今、最も存在を欲していた少女の姿が目の前に、在った。
「ネプギア……?」
「う、うん……」
顔を赤らめてネプギアはキラの問い掛けに首肯してから答えた。
純白のような素地の薄いワンピースを着て、ネプギアは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そんな彼女の表情を見ていると思い出す。あの時、互いに触れた唇の感触を。そんな女々しいことを考える自分が恥ずかしくなってスッと視線を外す。
ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んでからキラは口を開く。
「お、お前……出歩いてもいいのか?」
その問いにネプギアはまた小さく頷く。
「チェックも済んだから、少しくらいなら出かけてもいいってお医者様が言ってくれて……」
「そ、そうか……」
――何だか照れくさい、とキラは思う。
ネプギアの方も、視線が泳いでいてチラチラとキラの方を盗み見ることくらいしかできないようで気まずい空間が形成される。
しかし、そうは言えどここは通りのど真ん中。通行人達から見ればまだ初々しい成り立てのカップル、という感じに映っていたのだろう。ニヤニヤと面白いモノを見る目つきで遠巻きに二人を見ていた。
それを面倒くさそうに一瞥してからキラはクシャクシャと頭を掻きむしってからネプギアの手を掴んでそそくさとその場を離れていく。
「キラ?」
「ここじゃ目立つ。移動するぞ」
「あ、うん……?」
しかし、ネプギアの方はキラが何を言っているのか分からないと言った様子で首を傾げたままキラに連れられてその場を離れていった。
数分ほど歩いたところにある広場の一角、そこにあるベンチにキラは腰掛けてからトントンと自分の横を叩いて座るように指示する。
それに躊躇うことなくネプギアは腰を落とし、そしてぴったりとキラの真横に寄り添った。
「……」
色々と突っ込みたいところはあったのだが、どうも彼女を見ているとその言葉も出なくなってしまうようでキラは小さく吐息してから会話の糸口を探す。
「……あの後、結局はどうなった?」
「何が?」
「だから……身体に異常とかはなかったのか?」
キラの問い掛けを咀嚼するように暫く思考した後にネプギアは首肯する。それを見てキラはホッと安堵するが、寧ろ彼女の方は心配そうに眉をハの字してキラの顔を覗き込むような体勢になっていた。
「それを言うなら、キラの方が心配だよ」
「え……ッ」
キラがネプギアの方に顔を向ける。しかしこの位置からだと風にそよぐワンピースの隙間からチラチラと彼女の胸元が覗けてしまうのでキラはすぐにまた視線を明後日の方向に泳がせた。
「怪我、今はもう治ってるけど……あの時は凄く酷かったし、ホントに大丈夫?」
そっと、撫でるような優しげな指使いで彼女の指がキラの胸版を服越しに撫でる。その瞬間にキラの心を蹂躙する感情。切ないような、心苦しいような、それでいて軽くなるような感覚。
震えるような声でキラは答えた。
「大丈夫、だと思う……」
実際、大怪我を負った後日。先程もあったような違和感は心の中に住み着いているモノの身体的に異常はどこにも見当たらない。
コンパどころか自分さえもそれに驚く始末だ。今までそんなことは体験したことがない。例え、どんなに彼が今までどんなに『死にかけようとも』だ。
そうだと思えば、キラの身体に異常が見られた、とも言えなくもなかったのだが。
キラの言葉では、まだ安心しきれていないのかまだ不安げな表情でキラの顔を覗き込んでいる。
そんな彼女の頭に右手を添えてくしゃくしゃと撫でる。
「どこにも悪いところはないからさ。……俺のことより、お前は自分のことを心配しろよな」
「……」
「ゲイムキャラはまだ他に3人もいるんだろ? これで何もかも終わったワケじゃないんだぜ?」
キラの言葉にネプギアは首肯する。
けれど、どこか彼女の姿は悲しげであった。まるで名残を惜しむように。
最期の時を、少しでも心に留めておきたいと思うように――。
そうか、とキラは眉を寄せる。
終わりなのだ。彼女との生活も……。
プラネテューヌのゲイムキャラの協力を無事に仰ぎ、そして目的はそれだけじゃない。各地方に存在する全てのゲイムキャラの力を得て、そして女神を助けるという重要な任務がある。この、少女に。
きっと、ここ数日、会えなかったのはその準備のためだったのだろうか。そんなことを思いながら視線を伏せる。
そんな忙しい時間の合間を縫って、わざわざ会いに来てくれたのだろうかと。そう思うとキラの心はほんのりと暖かくなる。
そうか、この少女はこんなにも優しいんだと。改めて実感させられる。この程度の自分に、わざわざ時間を浪費してくれる。こんな優しい少女のことを――
『放っておけない』と。
「ネプギア」
「何?」
ネプギアはキラの呼びかけに、瞳を明るくさせて答える。
「頼みがあるんだ――」
☆ ☆ ☆
「ネプギアさんと共に、ですか?」
イストワールは訝しむように眉を寄せた。
それにキラは力強く首肯する。
暫くイストワールはその大きな双眸をぱちくりと開閉させてからおずおずと口を開いた。
「といいますと……」
「そのままの意味です。俺をネプギアの旅に同行させてください」
「……危険ですよ?」
「構いません」
イストワールが何と言おうとも、キラは意志を曲げるつもりはないようで力強くそれに答える。
「命の保証はしかねます」
「はい」
「旅の先でどんなことがあっても、それでも構いませんね?」
「分かっています。その上で言っていますから」
イストワールは今度こそ、何を言っても無駄だと悟ったのか小さく嘆息してから自分の机の横に配置されていた据え置き電話の受話器を取ってダイアルを押す。
数回のコールの後に一人の女性が応対に出る。どうやら受付の女性のようだ。
「はい……はい。では管理部の方に、はい……よろしくお願いします」
イストワールはそんなやりとりを電話越しにしてまた元の位置に戻してからキラの方にもう一度視線を送る。
「キラさんには一応、手続きをしていただきます」
「何の、でしょうか?」
「政府職員のための手続きです。そちらの方が何かと便利でしょうから」
「なるほど……」
キラはうんうんと相づちを打つ。
確かに一般の人間よりは他国の者とは言えど政府関係者なら待遇もよいだろう。イストワールなりの心遣いだろうとキラはペコリと頭を下げた。
「出発の方はお二人のタイミングにお任せします。ですが、あの調子ですと明日明後日にも発ってしまうのでは?」
「まあ……アイツのことですし有り得ますね」
ハハハとキラは力無く笑う。
既にネプギアの方は準備万端なようで今にも旅立ちが待ちきれない様子にも見えた。
やはり、彼が付いていくことを決めたからだろうかとイストワールは視線を送るがきっと彼は気付いていないんだろうなと思いクスリと半ば呆れ気味の微笑を送った。
しかし、それとは別にイストワールの心の中にある疑念が浮かぶ。
今まで何かおかしいと思っていた。しかし、どうも確信が持てずに踏みとどまっていたがこの機を逃しては次にいつ聞けるかは分からない。意を決するように唇を締めてからイストワールはキラに呼びかけた。
「あの……」
「はい?」
ドアノブに手を掛けようとしていたところで背後から声を掛けられたことにキラは訝しむような視線を送る。
「一つ、聞いてもよろしいですか?」
「え? まあ……構いませんが」
『そうですか……』とイストワールは呟いてからスッと息を吸った。それから視線を再びキラに向けて、まるで何かを覚悟するかのような力強い意志が瞳に灯った。
「貴方は……両親がいますか?」
「ッ――」
途端、さっきまでささやかな微笑が映っていた彼の表情から余裕がいっさい無くなっていた。見る間に彼の表情は険しく、いかにも邪険にしたいオーラが漂い出ていた。
「……両親は物心付く前から居ませんでしたが、何か?」
「……そうですか。失礼なことを聞いて申し訳ありません」
「いえ、それでは」
キラはペコリと一礼してからゆっくりとその扉を閉める。
一人、取り残されたイストワールは椅子の背もたれに身を預けてふうと吐息した。まるで緊張の糸から解かれるように目を伏せてから。
「そうですか……。貴方には両親が居ないんですね……」
天井に走る機能的な模様を目で追いながら虚空に話しかけるようにイストワールは再びその小さな唇を上下に動かした。
「これも、私の『罪』でしょうか……?」
ただ、遠い昔に名を連ねた友人へと、その思いは届くことなく霧散した。
☆ ☆ ☆
「キラ」
「ん?」
突然、背後から呼び止められてキラはそちらの方向へと身体を捻る。
そこには恐らく支給されたものであろう入院服を着込んだ小柄な、しかし確実にキラよりも年嵩であるアイエフがこちらに向けてその言葉を放っていた。
自分に何のようだろうかと訝しみながらキラはアイエフの元に歩み寄る。その途中にキラは彼女が身体のあちこちに包帯を巻いているという痛々しい姿をしていることに気付いて第一声を上げる。
「大丈夫ですか?」
「ん……まあ満足に動けるって程でもないけど、普通に生活している分には問題はないってことくらいかしら?」
あおの言葉を聞いてキラはほっと胸をなで下ろす。
彼女を見たときは結構重傷のように見えたのだが、どうやらそれは杞憂に終わったらしく怪我は負ったものの命に別状はない様子でひとまずは安心と言ったところか。
「話は聞いたんだけど、行くそうね。ネプギアと一緒に」
『ああ、そのことか』とキラは頷く。恐らくネプギアからでも聞いたのだろう。
しかしどことなく彼女の表情は憂いを帯びているようにもキラの目には映ったのだがそれは気のせいなのだろうかと眉根を寄せる。
「それでさ、……ちょっとお願いがあるのよ」
彼女にしては珍しい低姿勢の様子にキラは神妙な顔つきでアイエフを見る。
「……あの娘はね、小さい頃から一人も同然だったのよ」
一瞬、キラは彼女がいったい何を自分に教えようとしているのかが分からなかった。
けれど、間をおいて考えるとすぐに答えに行き着いた。
きっと、ネプギアのことだろうと。
「パープルハート様とイストワール様があの娘を連れてきて……最初は今のあの娘からは考えられないくらいに真っ暗な子だったわ。周りの人間が何を話しかけても対応もしないし、本当の無感情ってこんな状態なんだろうなって思えるくらいにね」
まさか彼女の過去にそんなことがあったなんて、とキラは肩を落とす。
「そんな折にあの娘のことを助けてくれたのがパープルハート様……あの娘の実姉なの。パープルハート様はね、あの娘を闇の中から救い出してくれたのよ。……でも、彼女の光は奪われた。私は心配したわ。もしかしたらあの娘はまた昔に逆戻りしちゃうんじゃないかってね。でも、そんな心配は無用だった。あの娘がそんな風にならずに済んだのはアンタのお陰だって思うから」
そんなアイエフの表情には、深い後悔の念が伺える。
自分は彼女のために何もしてあげられなかったと、どんなに努力しても彼女の力にはなれないと悟ってしまったかのようなそんな瞳だった。
「そんなことは、ないですよ」
言ってやりたかった。彼女の思いを。
「ネプギアは、いつも言っていました。アイエフさんが、コンパちゃんがいるからきっと今のパープルハート様があるって。今のパープルハート様があるから今の自分があるんだって。だから、アイエフさんにもとても感謝してるって――毎日、言っていましたよ」
実際、彼女の話を聞かされたときはどういうことかは分からなかった。というか、今も分からない。どうしてアイエフやコンパの存在でパープルハートが救われたのかとか、疑問に思うことも多岐にある。
しかし、そんなことはどうでもいい。ネプギアが言いたかったことをアイエフに伝えてそしてこの少女の気持ちが少しでも軽くなるのならどうだってよかった。
「あの娘……」
アイエフは涙を零して笑うようにそう言っていた。
潤んだ瞳がキラの姿を捉える。それから、ゆっくりと優しげにアイエフは口を開いた。
「護ってやって、あの娘のこと」
「……!」
キラの心が激しく揺さぶられた。
あの日、護れなかった思いが。己自身の心が。何もかもが吹き返すようなそんな感情が渦巻いた。
決意するように、きゅっと唇を紡ぐ。
「……護ります」
「そう、よかった」
キラの答えに心底安堵するようにアイエフは吐息した。
その笑顔は、あまりに安らかでまるで『慈母』のようだとキラの瞳には映った。
アイエフがスッと左手を突き出す。キラもそれにならうように己の手を差し出し、きゅっと握手を交わした。
これが、約束。
契約。
今言ったこと、それは堅き誓約の下に決定づけられた絶対的な使命。
そう、自分は彼女を護るために抜擢されたのだと、キラはこの時にそう感じた。
☆ ☆ ☆
晴天。
旅立ちにはもってこいとも言える実に気分のよい天候だった。
ふっと天を仰げば、そこにはどこにも水を差すものはない。ただ、気の遠くなるような青だけが広がっていた。
そんな中に、佇む二人の少年と少女。
「んじゃ、行くか」
「うん♪」
眩しいほどの笑顔を浮かべて、ネプギアはキラの呼びかけに応じた。
一瞬、一瞬だけキラの心の中に名残惜しさというものが浮かび上がる。
スッと身体を背後に捻ってプラネテューヌの街並みを一瞥する。己が小さな頃、『覚えている頃』からずっと住み慣れてきた故郷。そこを離れるというのはやはり寂しいものなんだなとキラは吐息しながらそんなことを思う。
――ここに居れば、もしかすればもう一度、出会えたかもしれない。
キラの思考に、そんな言葉が走る。
けれど、すぐにぷるぷると首を横に振ってそんな思いを吹き飛ばす。
もう決めたこと、彼女と共に行く事なんて既に決定したことなのだ。だから、いつまでも引きずってなどいられない。
「行ってきます……」
キラは力無く、聞こえないくらいの音量でそう告げた……。
――こうして。
彼と、そして彼女の物語は始まった。
空前絶後の出会い、それは『誰にも予期することが出来なかった最悪の仮想』。
少年は何も知らない。己の過去も。
それは何を意味するのか、きっとそれは彼女たちのみが知ることだろう。
しかし、その彼女たちですらも気付けていない。
何故なら彼が、それを覚えていないからだ。
彼は何で、世界は何で、そこはどこなのか。
そんな疑問はうねりを上げて、やがては巨大な災厄をもたらす。
今回のことなど比ではない。
その時、彼は重大な選択を迫られるであろう。
けれど、彼はまだ知らない。知らなくてもよいことなのだ――。
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というわけでプラネテューヌ編終了です。
次回からラステイション編です。