No.558742

スカーレットナックル 第二話

三振王さん

スカーレットナックル第二話です。

2013-03-24 21:54:36 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:949   閲覧ユーザー数:941

STAGE2「河川敷」

 

 

 

 廃校舎での戦いの後、ユウキとアツシは新堂に指定された河川敷に徒歩で向かっていた。

 

「しかし朝日市は人が多いな、霧雨市じゃ考えられない」

「最近廃れてるもんねー、若い人皆都会行っちゃうから……あ、太鼓の達人が外に置いてある」

 

 道中に通りかかった繁華街を眺めながら雑談をしているうちに、二人はビル街から少し離れた位置にある大きな川にやって来た。

 

「ここか朝日川っていうのは? 屯田橋は……あれか」

「まだ暴走族はいないみたいだね、折角だし下見していこうか」

 

 そして二人は朝日川の近くまで降りてくる。朝日川は空き缶やらタバコの吸い殻、スナックの袋などでそれなりに汚れていた。

 

「あっちゃー、これ多分暴走族とかが捨てて行ったのかな?」

「クズはマナーも守れな「くらええええええええ!!!」

 

 その時、二人の背後から何者かがバットを振り回して襲い掛かって来た。

 アツシはすぐさま振り向きざまに振り降ろされたバットを蹴り飛ばす。バットは木製だったので蹴られた部分がぽっきり折れた。そして二人はその襲撃者の姿を見て驚く。襲撃者はまだ10歳程度の子供だったのだ。ボーズ頭で日焼けして色黒な肌、そして恐らく学校指定であろう紺色の上下のジャージがその少年の活発さを想像させる。

 

「ちくしょおおおおお!! 父ちゃんの仇いいいいいい!!!」

「ストップストップ」

 

尚も攻撃してくる少年に対し、ユウキは彼の頭を片手で抑える。少年はぐるぐるパンチで反撃しようとするが届かず、やがて息切れして攻撃をやめた。

 

「ぜえぜえ……今日はk「今日はこのくらいにしといてやるという古いボケは無しな」

「ボケ殺した!!」

 

 ボケる前に潰すアツシの容赦なさにユウキは戦慄を覚える。そして襲い掛かって来た少年に話し掛ける。

 

「何者だい? 暴走族には見えないけど」

「暴走族はお前達のほうだろ! よくも父ちゃんをー!」

 

 半泣きになりながら尚も襲い掛かってこようとする少年。すると痺れを切らしたアツシが少年に向かって右足の踵を振り降ろす。

 

「ひっ!?」

 

 咄嗟に頭を庇う少年、しかし踵は少年と目と鼻の先を通過し、そのまま地面に叩きこまれた。その時発生した風圧は、少年の体と心を冷やすのに十分だった。

 

「は な し を き け」

「……はい」

 

 人を殺せそうなアツシのドスの効いた声と眼光に、少年は戦意を喪失しその場で正座して屈服の意を示した。

 対してユウキはなるべく怖がらせないよう優しい口調で少年に話し掛ける。

 

「あの……俺達暴走族じゃないよ、むしろそいつらと戦いに来たんだ」

「戦いに来た?」

 

 ユウキは少年にこれまでの経緯を説明した。

 

「……ということさ、所でさっき父さんの仇って言っていたけど、何かあったのかい?」

 

 ユウキの質問に対し、少年は目に涙をためて歯をギリッと噛み締めながら答えた。

 

「……オイラの父ちゃん、ここでボランティアでゴミ掃除をしていたんだ。でもこの前、ここでたむろしている暴走族がゴミ捨てるのを見て注意したら……」

「したら?」

 

 少年は余程悔しい思いをしたのか、地面に思いっきり拳を打ちつける。

 

「集団でリンチを受けた上にナイフで刺されて……今も入院中なんだ。お医者さんの話じゃ命に別状はないけど、しばらくは普通の生活が出来ないって……!」

「「……」」

 

 予想以上に深刻な話を聞いて、ユウキとアツシは真剣な面持ちで話を聞いていた。

 そして少年は必死な表情で二人に懇願した。

 

「あ、あの……! アンタ達強いだろ!? アイツ等と戦いに来たんだろ!? なら父ちゃんの仇を討ってくれよ! オイラも手伝うから!」

「それは……」

 

 ユウキが何かを言おうとした時、アツシがそれを手で制した。

 

「断る」

「!!? 何で!?」

「なんで俺達がお前の敵討ちに協力しなきゃならない? 俺達は正義の味方じゃない、やるならお前一人でやれ」

 

 そう言ってアツシはぷいっと少年から背を向けどこかに行ってしまった。

 

「そんな……しゃあない、どこかでガソリン調達して奴等が来た所にマッチでシュボッと……」

「早まらないで!」

 

 ショックを受けて物騒な事を口走る少年を慌てて止めるユウキ。

 

「だって……オイラ一人じゃこれぐらいしかアイツらに勝つ方法が……」

「……それじゃ誰も幸せにならなよ、君も、君のお父さんも、そして沢山の人も」

 

 ほんの一瞬、ユウキの目に憂いが帯びる。彼は少年と一緒に適当な場所に座る。

 

「それに……アツシは絶対戦うよ、だって君とアイツは似た者同士だし」

「……? どういう事?」

「アツシのお父さん……警察官だったんだって、死んじゃったらしいけど」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 一方、アツシは川の水に映る自分の姿を見ながら、自分が幼かった頃の事を思い出していた。

 

(……)

 

 

 

 

 

―――父さん! 僕ね……父さんみたいな警察官になるんだ!―――

 

―――そうか、嬉しい事言ってくれるじゃないか。その夢……俺も母さんも応援しているからな―――

 

 

 

―――ごめんな敦史、遊園地に行けなくなっちゃって……―――

 

―――ううん、いいんだよ。だってお仕事だもん、頑張ってねお父さん!―――

 

―――敦史……ありがとう、来週には絶対に行こうな―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――友永警部は……強盗団の銃弾から市民を守る為に……殉職されました……。―――

 

―――そんな……! 洋巳さん! どうして……! 私と敦史を置いて行かないでぇぇぇ!!―――

 

―――父さん……。―――

 

 

 

 

 

 幼かった頃の記憶が鮮明に蘇り、アツシは自然と拳をギュッと握りしめた。そして何もない空間にブォンと回し蹴りを放った。その軌跡にはバチバチと電流のようなものが走っていた。そして蹴りの風圧で川の水面が揺れていた。

 

「……チッ」

 

 アツシは自分がいつの間にか泣いている事に気付き、メガネを取って自分の顔をゴシゴシと腕で拭った。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 ユウキから一通りアツシの過去を聞いた少年。そして彼は自分の疑問をユウキにぶつける。

 

「じゃああの人、死んじゃった親父さんの仇を討つために戦っているんスか?」

 

 質問に対し、ユウキはうーんと首を傾げる。

 

「うーん……そんな単純な話じゃないって本人は言っているけどね。俺もあいつの事全部知っている訳じゃないし……いつか聞きたいとは思うけど」

「???」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 夕方、河川敷で軽くウォーミングアップをしていたユウキとアツシ、そしてそれを眺めていた少年は遠くから複数のバイクのエンジン音がこちらに近付いて来る事に気付いた。

 

「来たね」

「来たか」

 

 30台はある派手な改造を施されているバイクに乗った派手な特攻服を着た暴走族達は、河川敷に降りるや否やユウキ達を取り囲んだ。

 

「てめえらか! 新堂が言っていた俺達のシマで調子こいてる余所者二人組ってのは!?」

「そうだけど! 久保田って人は誰!?」

「俺だ」

 

 そう言って身長は2mはありそうな金髪モヒカンヘッドの大男がバイクから降りてきた。そしてユウキとアツシの前に立ち二人を見下ろした。

 対して二人は臆する素振りも見せず、大男を見上げた。

 

「お前が久保田か、お前に聞きたいことがある。このチビの親父さんを半殺しにしたのはどいつだ?」

「え?」

 

 ユウキの後ろに隠れていた少年は、アツシが本来の目的を置いて、まず自分の父親を半殺しにした人間が誰か聞いた事に驚いた。

 一方大男……久保田はにやりと笑って答えた。

 

「俺と……後ろにいる9人だが、それかどうかしたかぁ?」

「成程……おいユウキ」

 

 アツシは小さな声で隣にいたユウキに声を掛ける。

 

(俺があの10人を仕留める。残りはお前に任せた)

(この子を守りながら!? もうしょうがないな……)

 

 アツシの指示にユウキは渋々ながらも受け入れた。一方久保田はニヤニヤ笑いながら三人を挑発する。

 

「どうした? 何ならお前らも同じ病院に入院するか!? 俺達にボコられてよお!」

「……おいお前、口臭い」

「ああぁ!?」

 

 アツシの切り返しに青筋を立てる久保田。しかしアツシの口撃は止まらない。

 

「いやだから口臭いから喋るな。体臭も酷い。掃除されていないボットン便所の方がまだマシだな。まったく何食ったらこんなに臭くなるんだろうな。きっと生ゴミとか食ってんだろ? この街はゴミの量多そうだからな。だからそんなヘドロで出来ている怪獣みたいに身長だけがデカくなって暴れまわるしか能がないアホになるんだ。ゴキブリみたいなのも周りにいるし、ついでに見た目も醜悪、聴覚と臭覚と視覚同時に不快にさせるとはお前は人を不愉快にさせる天才だな」

「て、てめえええええ!!!」

 

 余りにも情け容赦ない口撃に久保田は半泣きになりながらラリアットを繰り出す。しかしアツシはそれを難なく避けた。

 

「はい当たりませーん。本当の事言われて逆切れしないでくださーい」

 

 それを横で見ていた少年は口をぽかんと開けていた。

 

「ひ、ひでえ……」

「うん、俺もよく友達続けられているよな……」

 

そして久保田は大声を上げて周りの部下達に号令を下した。

 

「おい! もうこいつらを生かして帰すな! 朝日市最強の暴走族“棲徒雷駆不離偉陀無”の名に賭けてぶっ殺せ!」

「「「おおー!!」」」

 

 周りの久保田の部下達もバイクから爆音を鳴らしながら大声で叫んだ。

 

「……ストフリ?」

「なんで機動戦士の名前なんだよ、強そうだけどさ」

 

 ユウキとアツシは暴走族のチーム名にツッコミを入れながら臨戦態勢をとる。

 

「君、俺の後ろから離れちゃ駄目だよ」

「は、はい!」

 

 ユウキは少年を背中に回り込ませ守りながら、襲い来る暴走族達に備えた。

 

「うおりゃああああ!!」

「不運と踊れおらあああああ!!!」

 

 木刀で襲い掛かる暴走族二人。対してユウキはまず先頭の暴走族の木刀を持つ手を捕える。

 

「ほい!」

「のわっ!?」

 

 そして足を掛けて暴走族を転ばせて、起き上がるついでに次に来た暴走族の顎を下から掌打で打ち抜いた。

 

「やろおおお!!」

 

 仲間をやられて怒り狂った暴走族が次々襲い来る。ユウキはボクシングのファイティングポーズをとりながら、暴走族達の顎に拳の狙いを定める。

 

「はぁー……! ふんふんふんふん!!!」

 

 そして目にも止まらぬ速さの右ジャブを次々と襲い来る暴走族の顎に掠らせるように当てる。

 

「はぇ」

「うぃ」

「ぐぅ」

 

 脳震盪を起こし次々と座るように倒れていく暴走族達、それを見た少年はパチパチと拍手喝采をユウキに送る。

 

「すげー! 漫画みてー!!」

「ちょ! 下がってて!」

 

 するとバイクのエンジン音とライトの光と共に、一台のバイクがユウキに向かって突っ込んできた。頭に血が上った暴走族の一人が凶行に及んだのだ。

 

「このバケモンが! 轢き殺してやるうううう!!」

「うえ!?」

 

 予想外の展開に一瞬戸惑うユウキ、しかしすぐに冷静して周りの状況を確認する。

 

(猛スピードで突進して来るバイク、ただ避ける事なら簡単だけどそれだと周りの人に被害が……!)

 

 ユウキはすぐに自分の背後に誰もいない立ち位置に移動する。

 

(やるか!? やれるか!?)

 

 正拳突きの構えを取るユウキ、そして猛スピードで突進して来るバイク。ユウキは拳をギュッと握り……。

 

「無理! 無理!!」

「どわああああああ!!?」

 

 身を仰け反ってバイクを避けた。バイクはそのまま暴走族ごと川にドボンと突っ込んでいった。

 

「うん、やっぱ師匠みたくは出来ないわ、うん」

「ちょ! 次が来てる!」

 

 少年の声を聞き立ち上がるユウキ。彼の目に次々と襲い掛かってくる暴走族が映った。

 

「やっぱもうちょっと基本を繰り返してから……だね」

 

 そしてユウキは襲い来る暴走族を殴ったり投げたりして次々と撃退して行った……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 一方、掛けていたメガネを外し胸ポケットに仕舞いながら久保田と9人の暴走族と対峙したアツシは、左足首をグリグリと柔軟体操しながら戦闘態勢を取る。

 

「くくく……お友達頑張っているみたいだなあ! やられるのも時間の問題いだがな!」

「お前らの全滅のほうが時間の問題だろ」

 

 そう言いながらアツシは後ろの暴走族の人数を指で数える。

 

「1、2、3、4、5、6、7、8、9……ちょうどクズが9人か、じゃあアレだ」

 

アツシは屈伸運動をしながら久保田達に問いかける。

 

「お前ら……髭面の配管工が主役のアクションゲームをやったことがあるか?」

「ん? ああ」

 

 アツシの質問に暴走族の一人が思わず頷く。対してアツシは右足の爪先で地面をトントンと叩きながら首をグリグリと回す。

 

「俺がその髭親父の役やるわ。お前らは悪い裏切りキノコと羽ついてない方のカメの役な」

「てめっ、何を……」

 

 久保田が最後まで言葉を発するより前に、アツシは高く飛び上がった。

 

「ハイ100!」

「ごぇっ!?」

 

 そして一番近くにいた不良の顔を思いっきり踏んづけて、すぐ近くにいた暴走族の元へジャンプした。

 

「200!」

「ぎゃあ!!?」

 

「400!!」

「うげぇ!」

 

「800ぅ!!」

「おが!!?」

 

 次々と謎の数字を読み上げながら暴走族を踏み倒していくアツシ、ふとすぐ近くにいた暴走族がある事に気付いた。

 

「こ、こいつ……! 俺達で1ナップする気だ!」

「せええん!!」

「うごげ!!」

 

 しかしその暴走族は気付いてすぐにアツシに延髄を踏み抜かれて失神した。

 

「2千! 4千! 8千!」

「う、うわああああ!」

 

 5人目がやられた辺りから最後の九人目がこの場から背を向けて逃げ出す。しかし……。

 

「はい!ワン……アァァァップ!」

「ぐげご!!」

 

 背後上空から襲い掛かって来たアツシに仕留められ、サーフボードのように踏まれて動かなくなった。アツシは念入りに足首をグリグリっと捻って止めを刺した。

 

「……そう言えば1アップと1ナップってどっちが正しい読み方なんだろうな?」

「あ……あ……?」

 

 自分の精鋭が瞬く間に片付けられ狼狽する久保田。しかしすぐに虚勢を張った高笑いをあげる。

 

「は、はあーっはっはっは! ま、まだ俺には兵隊がいる! どんな曲芸見せられようと負けることは……!」

「兵隊? あれか?」

 

 そう言ってアツシは後ろを指さす。そこには……。

 

 

 

「よし、おわり」

「ぽかーん」

 

破壊されたバイクと共に40人は居たであろう久保田の配下の暴走族達が山のように積み重なっていた。そしてすぐ傍には手をパンパンと払うユウキと呆然としている少年の姿があった。

 

「ゲェー!? いつの間にぃぃぃぃ!!?」

「残りはお前だけのようだな」

 

 そう言ってじりじり詰め寄ってくるアツシ、対して久保田は思考がゴチャゴチャになり声を張り上げる。

 

「く、くそお! 何なんだよお前ら!? 俺に何の恨みがあるんだ!? そのガキの敵討ちのつもりか!? 正義の味方気取りかよ!!」

「正義の味方……? ぷ、はははははははは!!!!」

 

 すると突然、普段はポーカーフェイスを気取るアツシが大笑いをし始めた。それを見て久保田はさらに激昂する。

 

「な、何が可笑しいんだよお!!?」

「はははは……! いや、俺が正義の味方ねえ! ちゃんちゃらおかしいんだよ」

 

 アツシはピタリと笑うのをやめ、久保田をギリッと睨んだ。

 

 

 

「俺は正義って言葉が嫌いなんだよ、言うなれば……お前らと同じクズだ」

 

 

 

「は、はあ!!?」

「……」

 

 予想外の言葉に混乱する久保田と、黙って見守るユウキ。

 

「俺が正義の味方? バカ言え、正義なんてお伽噺の中の幻想でしかない。真っ黒な悪を倒すにはもっと黒い悪で塗りつぶす、それが俺の考えだ。まあお前らが弱い者イジメしかできない身勝手な悪人なら、俺は……」

 

 アツシは上り掛けてきた月光の光を浴びながら、右足を高く上げた。その姿は、まるでこれから命を奪おうと鎌を振り上げる死神のようだった。

 

「お前みたいな弱い者イジメしかできない奴等を、心が粉々になるまで虐めるのが好きな悪人……だな」

「う……う……!うわああああああ!!!」

 

 久保田は異質な空気を放つアツシに恐怖を感じ、懐に隠していた刀身の長いアーミーナイフを取出し、彼に突っ込んでいく。対してアツシは腰を低く落とした。

 

「バイク見たら今日の事を思い出すぐらいのトラウマ……植え付けてやるよ」

「あああああああ!!」

 

 そして久保田はナイフをアツシに突き出す……が、アツシはそれを身を屈めて避け、カウンターで久保田の右足のひざ裏にローキックを当てる。

 

「膝裏……!」

「ぐ……!」

 

 筋肉で防御されていない膝裏を攻撃され、ふらっとしゃがみ込む久保田。するとアツシは低く飛び上がり……。

 

「足の甲、太もも、膝、腹」

「うご!?」

 

 自分が発した部位を蹴りで当てていく。そしてそれと同時にゆっくり少しずつ上昇していた。

 

「肋骨、腹、肋骨! 腹! 肋骨!」

「うご……!」

 

 怒涛の攻撃に久保田は膝を突こうとする、が……。

 

「顎ぉ!」

「げべっ!!?」

 

 顎を蹴られて背筋をぴんと伸ばして立たされてしまう。そして引き続きアツシの徐々にスピードアップしていく蹴り地獄は続く。

 

「腕! 肺! 額! 眉間! 鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨鎖骨ぅ!」

 

 

「鎖骨狙いすぎ」

「鎖骨に何か恨みでも!?」

 

 最終的に滞空したまま地団駄を踏むように久保田の両肩を重点的に蹴りはじめるアツシ。余りにも凄惨な光景に、ユウキと少年は目を覆いながらツッコミを入れる。そして……久保田はいつのまにか両腕腕をブランと垂らしていた。

 それを見たアツシは四股を踏むように久保田の頭を踏みつけ……。

 

「脳てえええええええん!!!」

 

 その頭を、轟音と共に地面に叩きつけた。久保田は地面に血だまりを作りながらバタバタと痙攣していた。

 

「ふう……終わり」

 

 勝利を確信したアツシは、胸ポケットに仕舞っていたメガネを取出し自分の顔に掛ける。

 

「おつかれさーん」

「……」

 

 そして彼の元にユウキと少年が近寄ってくる。 するとアツシは地面に伏したままの久保田を指さしながら少年に問いかける。

 

「どうする? トドメさすか?」

「……いや」

 

 少年は引き攣った笑みを浮かべながら返事をした。

 

「ここまですれば十分ッス。ありがとうございました」

「だよな、ま……」

 

 アツシはそのまま少年の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「これで悔しい思いも晴れたろ? どっかのバカみたいに後悔しなくてよかったな」

「はははは……」

(この人……)

 

 アツシのこの行動を見て、少年はある確信を得た。

 

「……ツンデレ?」

「まあ素直じゃないのは確かだよ、あんな事言っているけど本当は正義感が強いから」

「はあ!? 何言ってんのお前ら!? 俺はただムカついた奴をシバいただけだし! お前の為じゃないし! つかユウキ勝手に肯定すんな!」

 

 尋常じゃない程顔を真っ赤にしてユウキの言葉を否定するアツシ、しかしユウキのニヤニヤは止まらない。

 

「はいはい解っているって、シバくついでに仇討ってあげたんだよね。俺は解っているよ」

「解ってないだろ!? そのニヤニヤやめろ!」

 

 そう言ってアツシはユウキにヘッドロックを決めてじゃれ始める。それを見ていた少年は……憧れの想いと共にある決意を芽生えさせていた。

 

(オイラ……この人達に……!)

 

 その時、少し離れた位置にいたユウキに倒された暴走族の一人が意識を取戻し、ダメージがまだ残る体を必死に起こした。

 

「こ、この野郎……! 俺達を……バカにしやがって!」

 

 そう言って暴走族はポケットからあるものを取り出す。ビール瓶に布を詰めた物……恐らく火炎瓶だ。

 その狙いは、ユウキ達を見ていた少年の背中に向けられていた。

 

「死ねえ……!」

「! 頭を下げろ!」

「ふえ!?」

 

 その様子に一足先に気付いたアツシは、少年を手で屈ませると、何の前触れもなく右足に電気を帯びさせる。

 

「はああああああ!!!」

 

 そしてその足をサッカーボールを蹴るように振る。すると電流は円盤状に撃ち出され、拳銃を持った暴走族に直撃した。

 

「ぎゃああああああ!!!」

 

 暴走族は手に持った火炎瓶を弾き飛ばされ、感電しながらそのまま川の方まで吹き飛ばされていった……。

 

「え? な……今のは!?」

 

 明らかに常識では考えられない、漫画の中でしか存在しないような技を使ったアツシに驚愕する少年。そしてユウキは慌ててアツシに詰め寄った。

 

「あ、アツシ! あの技は使っちゃ駄目って師匠に……!」

「し、仕方ないだろ! こうしなきゃ危なかったんだから! 正当防衛だ!」

 

 かなり慌てふためいた様子で言い争いを始めるユウキとアツシ。すると少年は目をキラキラさせてアツシに問いかけた。

 

「今の何スか!? ソニックムーブ!? 気円斬!?」

「い、今見たことは忘れろ……それよりも隻眼の虎の事を聞くぞ」

 

 アツシは半ば強引に話をすり替え、気絶している久保田の腹部を、ボールをパスするが如く軽く蹴り飛ばした。

 

「おい起きろモヒカン」

「ひ、ひいいい!?」

 

意識を取り戻した久保田はそのまま逃げだそうとしたが、全身くまなく重めの打撲を負っていたため起きあがることができなかった。

 アツシはそのまま久保田の胸ぐらを掴んだ。

 

「歯と耳は残しておいてやったんだ。俺たちの質問に答えてもらうぞ」

 

 アツシの問いに対し、久保田はぶんぶんと首を縦に振って必死に了承の意を示した。下手に断ればまたあの蹴り地獄に放り込まれると思ったのだろう。実際アツシはそう考えていた。

 

「隻眼の虎……この名前に聞き覚えはあるか?」

「隻眼……あ、ああ名前ぐらいなら」

 

 初めて得た明確な手がかりに、アツシとユウキは一瞬目を合わせる。そして質問を続けた。

 

「居場所は知っているか?」

「そ、そこまでは……ただ3年前この街で起こったヤクザの抗争で、たった一人で相手の組を全滅させた男がそういう風貌だったってことぐらいしか知らねえ!」

「うーん、それぐらいの実力なら師匠を倒せる……かな?」

 

 後ろで話を聞いていたユウキは、少し自信なさげに首を傾げた。

 

 

 

「何や、もう終わっとるんかいな。新堂達がたった二人に全滅させられたゆうからどんな奴等か見に来たっちゅうに」

 

その時、ユウキ達のいる河川敷に、高級そうな貴金属を身に付けた黒いスーツにサングラス、丸坊主のいかにもその筋の者と想像させる厳つい男が現れた。

 

(うわ、ヤクザだよ……)

(この辺の不良や暴走族がヤクザと繋がっているって噂は本当だったのか)

「ふ、福澤さん!?」

 

 ふと、サングラスの男を見た久保田が急に怯えだした。

 それに対しサングラスの男は、ユウキ達を一瞥した後ツカツカと久保田の元に歩み寄っていく。

 

「なんや、エライボコボコにされたのう久保田」

「す、すみません……」

「いや、ワイは別におまえ達が喧嘩で負けようがどうでもええんや、でもな……」

 

 突然、サングラスの男は久保田の顔面をサッカーボールのように思い切り蹴り飛ばした。久保田は短い悲鳴と共にへし折れた歯をまき散らしながら再び気絶した。

 

「おまえの部下の管理はしっかりしとけや! エライ騒ぎばかり起こしよって! 万が一マッポにワイらの事嗅ぎ付けられたらどうすんねん!!」

「ひいいいい!! すみまへん!」

 

 久保田はカメのように身を丸めながら泣き叫んだ。しかしサングラスの男は暴行を止めなかった。

 その様子を見かねたアツシが、割って入るようにサングラスの男に声を掛けた。

 

「あんたか、こいつらの保護者は」

 

 アツシはギロッとサングラスの男……福澤をにらみつける。対して福澤は鼻で笑いながら久保田の頭を踏みつけた。

 

「ふん、こいつら将来はええ鉄砲玉になりそうやからな、今のうちに飼いならそうと思っただけや。頑張れば幹部にしてやるいうただけですぐ言う事聞くんやでこいつら」

「……」

 

 ユウキは無表情のまま拳をぎゅっと握りしめる。それを見たアツシは彼の肩にポンと手を置いた。

 

「アンタその筋の者だろ、なら隻眼の虎って男を知っているか?」

「隻眼の虎ぁ?」

 

 アツシは福澤の威圧に臆することなく、これまでの経緯を簡単に説明する。

 

「ほう、人探しとったのにこいつらが襲い掛かってきたんかいな。そらエライ災難やったのう」

「アンタは知っているのか? 隻眼の虎を」

「知っているっちゃ知っている、けどただで教える訳にはいかんなぁ」

 

 福澤は下衆な笑みを浮かべながら、胸ポケットから煙草を取り出す。

 

「言っておきますけど、俺達金なんて持っていないですよ?」

「そういうのとちゃう、ワイはあんさん達をスカウトに来たんや。この町で最近起こしたビジネスのな」

 

 福澤は煙草に火を付けた後、胸ポケットから一枚のメモ用紙を取出し、それをユウキ達に投げて渡した。

 

「今夜12時過ぎ、朝日駅の地下歩行空間のメモに書かれている場所に来いや。そしてテストに合格したら……お前らの知りたい情報を教えたる」

「……どうするユウキ? どう考えてもヤバい事になりそうだぞ」

 

 アツシの小声の問いかけに対し、ユウキは少し考えた後答えを出した。

 

「行こう、もしかしたら師匠の仇に会えるかもしれないし」

「商談成立やな。ほな待っているで」

 

 そう言って福澤は煙草の吸殻をその辺に捨ててその場を去って行った。

 

「……なんか大変な事になってきたな。俺らただ人を探しに来たのに」

「もう慣れて来たけどな、師匠の修業よりはマシだろ」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 一方、ユウキ達から大分離れた位置に停めてあった高級車の中。その中で福澤は携帯電話である所と連絡を取っていた。

 

「おうワイや、今日の興行に飛び入り参加者を追加や。歩行空間の人払い頼んだで」

 

 そして電話を切った福澤は、にやりと笑いながらハンドルを握った。

 

「あの餓鬼共なら倒せるかもしれんな……チャンプを」

 

 

 

 

 

NEXT STAGE「地下闘技場」

 

 今回はここまで、次回ようやくヒロイン登場です。

 

 

 

今回はアツシの解説を。アツシは溜め系、さっき出てきた飛び道具とジャンプしてきた相手を落とすサマソ的な技、ついでに猛襲脚のような技を使い、そしてSNKの格闘ゲームみたいに避けたり緊急回避したりしながら乱舞や壊れ気味の連続コンボを使うキャラと考えています。KOF2002の裏ロバートが基本的なモデルになっています。

 

 


 
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