No.55870

とある節分のとあるひと時

華詩さん

今宵は節分の日、何処かではこんなやりとりが、おこなわれているのやもしれません。そんなわけで「とある」シリーズ第四弾です。

2009-02-03 19:56:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:712   閲覧ユーザー数:672

 家中のアッチコッチに豆が散らばっている。小さな弟妹が頑張って撒いてくれたからだ。別にあの子達がいたずらをしたわけではない。

 今日は節分、だからそんな事をしても怒られない日。二人は鬼のお面を頭につけ楽しそうに豆をまいていた。

 ただちょっとだけ撒きすぎな気もする。後でいっぱい豆を踏みつぶしそうだ。

 我が家の節分は部屋の中から豆をまいていき、最後にリビングの大きな窓を開けて外にまく。私が小さい時から変わってない。変わったのは外に逃げていく鬼がいないのと場所が変わったぐらいだ。

 

「ほら、よう君も、りょうちゃんもお外にお豆をまいて。」

「「うん」」

 

 二人は大きな声を出しながら豆を外にまいた。

 

「「おには〜そと。ふくは〜うち。」」

「「おには〜そと。ふくは〜うち。」」

 

 二人のかけ声が冷たい風とともに駆け抜けて行く。

 

「よし、早く締めよう。鬼が戻ってくるから。」

 

 そう私が言うと、二人は左右にわかれて窓を閉める。あんまり開けておくと寒い。

 

「じゃ、あとは年の数だけお豆を食べて終わりだからね。」

 

 そう言うが早いか二人は部屋に散らばった豆を拾って口に入れようとする。

 

「あっ、だめだよ。拾っちゃ。こっちに入っているのを食べればいいの。」

 

 本来なら二人の行動は間違ってないんだろうけど。健康面を考えると、それは衛生上よくない。別に部屋が汚いわけじゃないけど、小さい子達の免疫を考えるとどうしてもダメだ。

 二人に紅白に彩られた豆を見せる。砂糖でまぶしてある豆。二人は口に入れかけた豆を捨てこっちによってくる。

 

「おねえちゃん、これたべれるの。」

「どんなあじがするの。」

 

それぞれに口にする。

 

「そうだよ。白とピンクのついたのが食べるようだからね。下に落ちているのは絶対食べちゃダメだよ。これはすっごく甘いから美味しいよ。」

 

 そう言うと、二人はニコニコしてコタツへ行く。珍しく二人並んでコタツに入る。そして私はその反対側に入り、並んで座っている二人の前に年の数づつ豆を渡してあげる。

 

「はい、どうぞ。よく噛んでね。」

 

 それを二人に食べさせて、豆まきはおしまい。後はお母さんが作ってくれている恵方巻きを食べれば節分は終わりだ。私も一つ豆を口の中に放り込む。

 うん、何だか懐かしい。小さいときにはよく食べたもんだ。そんなことを思っていると前にいる妹の様子がおかしい事に気づいた。

 

「どうしたの、りょうちゃん。」

 

 妹はなんだか悲しそうな顔をして一点を見つめていた。隣の弟は美味しそうに口をモゴモゴとして豆を食べている。何かあったわけじゃないみたいだ。そう思い、よく見ると妹の前には豆が置いた時のままだった。

 

「おねえちゃん。」

 

 私を呼び、顔をあげると目があう。何だろう、気分でも悪いのかな。それとも疲れちゃったかな。あんだけはしゃいで豆をまいてたからな。

 

「うん、なに。どうしたの。」

 

 声をかけたが、妹は悲しそうな顔をしたまま、豆を見つめている。さっきまであんなにニコニコしてたのにどうしたんだろう。

 

「りょうちゃん、どうしたのお豆食べないの。」

 

 妹の隣にいる弟はあっさりと食べ終わり、頭に着けたお面で遊んでいる。

 すると小さな声で妹が言った。

 

「もっとほしい。」

 

 妹はとっても悲しそうな顔を私に向けた。そう言えば私も小さい時、同じようなことお母さんに言ったけな。年の数だけねって言われて沢山ある中から少しだけ渡された時は悲しかったけな。袋に入っている豆が全部食べれるって思っていたから。

 でも最後はなんだか嬉しかった記憶がある。その時はお母さんはどうしたっけな。

 ああ、そうだ。昔の事を思い出し同じようにしてあげる事にした。

 

「ほら、りょうちゃん、まず、年の数だけ食べようね。こっちおいで」

 

 私がそう言うと小さく頷いた。でも表情はまだ戻ってない。

 そして、豆を手に持って私の横に座る。

 

「ほら、ここおいで。」

 

 そういって膝の上に座らせる。手に持った豆をコタツの上に置き、一つずつゆっくりと豆を口の中に入れていった。一粒一粒を噛み締めるかのように食べて行く。

 そして最後の一つを口に入れる。それを確認して私は話を始めた。

 

「はい、これでりょうちゃんも体の中に福がはいった。」

「ふく?」

 

 妹が不思議そうな顔をして振り向く。弟もお面をいじるのを止めてこっちを見る。

悲しそうな顔をした妹の表情は別の表情へと移って行った。もうちょっとかな。

 

「そうだよ。福だよ。さっきみんなでお家の中に入れてあげたでしょう。」

「うん。」

「それでね入ってきた福は食べる豆に引っ付くの。そして年の数だけ食べてありがとうっていうと良いことが起るんだよ。」

「ほんとう。」

「うん、本当だよ。二人ともありがとうってお腹に手を当てて言ってごらん。」

 

二人はお腹に手を当ててそれぞれにありがとうという。

 

「うん、よくできたね。じゃ、ご褒美ね」

 

 私はそう言って紅白の豆が入った袋を再び開ける。晩ご飯がもうすぐなのでそんなには出してあげれないけど。この子達を喜ばすぐらいは大丈夫だろう。

 

「りょうちゃん、両手をお椀にして。」

 

妹がコタツの上で両手を合わせる。その両手にいっぱいになるように豆を入れ渡してあげる。

 

「こんなにもいいの。」

 

妹はとっても嬉しそうに振り向いて言う。

 

「うん、良いんだよ。でも慌てて食べちゃダメだよ。よく噛んでね。」

「ぼくも。」

 そう言って弟もコッチ側に来る。

「ほら、よう君も両手を出して。」

 

 弟の両手にもおなじように豆を渡してやる。二人ともとっても嬉しそうな表情をしている。まぁうまくいったみたいだ。

 

—私が小さい時も似たような感じで豆を貰った。豆に福がつくお話を聞き、お腹に手を当ててありがとうを言った。そしたらお母さんが豆を両手いっぱいにくれたのを覚えている。この子達も覚えていてくれるのかな。そうだったらいいな。そんな思いを胸に抱かせ節分は終わって行く。—

 

fin


 
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