No.558106

~貴方の笑顔のために~ Episode30 天への思い

白雷さん

孫策、雪蓮は毒矢をうけつつも、最期の大号令を発した。 将兵のみなはその言葉をきき、敵軍へと突撃していった。

2013-03-23 01:03:10 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:9521   閲覧ユーザー数:7774

~愛紗視点~

 

 

「だから、もう俺は、北郷一刀であることから逃げたりはしない」

 

刃殿はそういい、その仮面をはずした。

 

「そう、いうこと、ですか・・・」

 

驚きはあった。でも、安心もあった。なぜなら、刃殿いや、目の前にいる彼が

敵ではなかったとわかったから。

 

「驚かないんだな」

 

「正直、驚いていますよ。 まさか、今まではなしていた相手があの、

 天の御使い殿だったなんて。」

 

「そう、だよな。 ごめん」

 

「なぜ、謝るのですか?」

 

「それは俺が嘘をついていたから」

 

「嘘・・・ですか?」

 

「ああ・・」

 

 

「それは違いますよ。刃様、いえ北郷殿。 

 あなたの行いはあなたのものだった。

 あなたの言葉に偽りはなかった。

 たとえ、仮面をつけて姿を偽っていても、あなたは

 こころを、いつわってはいなかった。だから謝らないでください」

 

そう。彼が仮面をかぶっていたのにはきっと理由がある。

そして、彼の今までの行動は偽りのものではなかった。

で、あるならば、刃殿は、私が尊敬した彼は、

一刀殿であった、それだけのことだ。

 

「ありがとう、愛紗。 そういってもらえるとうれしいよ。

 それと、俺のことは一刀でいいよ。

 それがこちらの世界の真名にあたる名だ」

 

「はい、ありがたく頂戴します。一刀殿」

 

「改めて、よろしくな愛紗」

 

「はい、 一刀殿。  あの、決闘のときの言葉を覚えていますか?」

 

「ああ・・・」

 

「私の戦う目的、私の意志。  それは一刀殿。」

 

「みつかったか、愛紗」

 

「はい、ここにきてやっと思い出しました。

 私の戦う意志、それはここにあります」

 

私はそういいながら自分の胸を軽くたたく。

 

 

「俺もだ」

 

 

そんな私の言葉に一刀殿はそう、うなずいた。

 

 

 

 

「だから、愛紗、

 俺にはいかなければいかないところがある」

 

 

 

 

 

 

「はい、わかっております。 そもそも、私のところに

 来てくれただけで、私は感謝をしているのです。

 いってあげてください。 魏の皆のところへ。」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 

「その前に一つ、聞きたいことがあるのですがよいですか?」

 

「ああ、なんだ?」

 

「先ほど、一刀殿は私がこうなると知っていたとおっしゃっていましたよね。

 それって・・」

 

「厳密にいうと、俺にもはっきりしたことはよくわからない。

 ただ、俺がしっていた歴史上では、関羽は、樊城で呂蒙により

 死においやられる。 

 この世界では二人は敵ではなかったけど、愛紗が樊城にいる

 と聞き、そして亞莎がこの近くにいると聞き、

 まさかと思いかけつけたんだ。

 もっと早く気づけたかもしれなかったのに。ごめん、愛紗」

 

「ちょっと、待ってください。一刀殿。

 あなたは、それだけで、その情報だけでここに来られたというのですか?」

 

正直いって、これには驚いた。 私は、彼が全部とはいかぬまでも、

歴史のほとんどを知っていると思っていたからだ。

 

「それだけって・・・」

 

「え、あっ、その、一刀殿の天の知識がどうのというのではなく、

 まったく状況は違うのにと思いまして」

 

「そうだな。」

 

「でも、一刀殿。もし私が無事であったならどうしたのですか?

 この樊城にわざわざ。それに一刀殿はどこから?」

 

「愛紗がぶじであったなら、それこそうれしいことじゃないか。

 それと、俺は蜀を去った後、呉にいたんだ。」

 

ああ、まったくこの方は、 

 

私はその彼の言葉から、桃香様から感じられるようなそんな優しさを感じていた。

 

 

「それで、呉の皆と・・・」

 

「ああ、いろいろあってな。」

 

 

そうやって普通に話している彼だが、私は思う。

彼は、大丈夫なのかと・・・・

 

だって、考えても見れば、この私が置かれていた状況だって

彼が知る知識とは全く異なっていた。

それなのに、彼は早く気づけなくてと私に謝っている。

 

私からすれば、その状況なのに私が危機であるかもしれないと思い

かけつけてくれることはすごいことだ。

それに今おかれている彼の状況を考えればなおさらのこと。

今すぐにでも彼は魏に駆け付けたかったであろう。

なのに、彼はここにきてくれた。

 

 

そして、彼はもし私が死んでしまっていたとしたらこう思っていたであろう。

自分のせいで、自分が気づけなかったせいで私は死んだと。

 

そんなこと、まったくあるはずがないのに。

 

 

「では、一刀殿、今起こっていることは・・」

 

「ああ、正直言ってよくわからない。 もう、俺の知識は役に立たなくなりつつも

 あるのかもしれない・・・」

 

つらすぎる・・・私はそう思う。

完全に歴史を知っているのなら、ほかの者に伝えることでその事象を回避

できるかもしれない。

けれど、ここまで違った、しかしすこしだけ重なり合う歴史という鎖に

縛られ、彼は何を見ているのだろうか?

 

すべての責任を感じているのだろうか?

 

すべてを背負おうとしているのだろうか?

 

 

「一刀殿、最後に一つだけ質問をしてもいいですか?」

 

「ああ、なんだ?」

 

「もし、ですよ。もし、一刀様が私のことに気づいてなく、

 私が死んだ後に気づいたとしたらあなたは、どうなされるのですか?」

 

 

 

 

「それは、愛紗。そんなこと絶対にさせないって、そうかっこよく

 いいたいけど、そうだな。

 俺はきっと、後悔するんだろうな」

 

後悔・・・彼はそう一言で言うけれど、その言葉に彼はどれだけの気持ちを

背負っているのであろうか?

 

「後悔、ですか・・・」

 

どれだけの、感情がこめられているのであろうか・・・

 

 

「ああ、 もっと俺が早く気付けば、もっと周りに気遣っていれば、

 もっと俺がいろいろなことを知っていたらってそう、思うんだろうな」

 

そうさびしげに言う一刀殿であったが、

私は怖かった。 彼が、もし、そんな状況に置かれたら壊れてしまうのでは

ないかと・・・・

 

「それでも、気づけないのは仕方ないと思います・・・」

 

「それでも、だ。そう思ってしまうんだ。

 たぶんそれは、どうしようもない、そんな気持ちからなんだと

 思うけど」

 

そう、であろう。きっと私もそんな立場に置かれて、

自分が歴史というものをしっていながらも、大切な人を失ってしまったら、

自分は自分を責め続けるであろう。

 

私は、歴史をしっていること、そのことを簡単にとらえていた。

しかし、実際は真逆なのかもしれない。

 

「一刀殿、あなたは歴史を、少しでも知ってしまっていることを、

 どう思っているのですか?」

 

「どうって、それはよかったと思ってるよ」

 

「よかったって、でも、つらいじゃないですか、

 自分が知る知識に振り回されて、そのために後悔することも多いかもしれない・・」

 

「そう、かもしれない。 けれど、愛紗。

 それだけの対価で誰かを救うことができるのなら、

 俺はそれぐらい背負ってみせるよ」

 

そう、一刀殿と話しているとぎぃっと扉が開く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一刀視点)

 

 

 

いよいよ、か。俺はそう思う。

やっとだ、華琳。 こんな長い時間ををかけて、だ。

俺はやっと気づけたよ。

 

 

華琳、俺はもう、北郷一刀であることから逃げたりしない。

 

 

そう思い、部屋から出ようとしたときだった。

部屋の扉がぎぃっと開いた。

 

 

「亞莎、どうした?」

 

 

みれば、そこには亞莎が首を下げて立っていた。

 

 

「なにかあったのか?」

 

 

そんな俺の問いにも、彼女は答えなかった。

 

 

「しっかり、しろ、亞莎」

 

俺がそういい、彼女の肩に手をかけるとその手は鋭い音と共にはらわれた。

 

 

「亞莎?」

 

 

「どうした・・・なにがあった?・・・しっかりしろ?・・

 それは、本気でいっているのですか?」

 

彼女は震えながらそんな言葉を口にした。

 

「ちょっとまて、いおうとしていることがわからなんだが・・・」

 

「いっていることが、わからない・・・、

 この場で、よくもそんなことがいえますね」

 

「亞莎?」

 

 

「とぼけないでください!  あなたなら知っているはずでしょう!

 いや、知っていたはずでしょう!」

 

 

彼女はそう叫びながら涙を流していた。

 

 

「愛紗殿が危機だったのはわかります。愛紗殿を見捨ててまでとは言わない・・

 けれど、あなたなら、呉に先日までいたあなたなら、

 なぜ、そのことを、いわなかったのですか!

 なぜ、みなに言わなかったのですか」

 

 

なんだ・・・彼女はなにを、言おうとしている・・

俺が知っていたはずだった?

それは俺が知識を持っているからだろう。

でも、何を・・だ。 彼女は何を言っている・・

 

 

「亞莎、なにがあったのか、教えてほしい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにが、あった・・まだそのようにとぼけるつもりですか・・

 それともなんですか、このことはあなたの知る知識にはないとそう

 おっしゃるおつもりですか・・・

 そんなことあるわけないじゃないですか!

 雪蓮様の、いえ、呉王孫策様の死が、

 あなたのしる知識にはなかったと、まだそういうおつもりですか!」

 

 

「なん・・・だと。 亞莎、なんていった・・」

 

「なんていったじゃありません!わからなかったとは言わせませんよ、

 一刀殿、いや天の御使い!!」

 

 

嘘、だろ・・・こんなのって。雪蓮が死ぬ? そんなのありえない・・

歴史ともぜんぜんちがう・・・いや・・まてよ。

確か、魏軍が呉に向かっていたときいた。

その中にもし、だ。

許貢の残党が、含まれていたら・・・

 

 

いや、でも、それは曹操が袁紹軍と戦っているときに起こったことだ。

ぜんぜん、違うじゃないか・・・

 

 

何が、起こっているんだ・・

 

 

雪蓮が、死ぬ・・だと。

 

 

こんなことって・・・

 

 

「何かいったらどうですか!」

 

 

亞莎はそう叫びながら俺の胸倉をつかむ。

 

 

 

「まて、亞莎! 一刀殿は」

 

それをみた愛紗がそう叫ぶ

 

「いうな!愛紗」

 

俺はそう、言おうとした愛紗を止める。

きっと彼女は俺がこのことを知らなかったと、そういおうとしたのであろう。

けれど、それを亞莎が受け入れるはずがない。

もし、受け入れられたとしても、その悲しみはどこへ行く・・・

 

 

「ですが一刀殿!」

 

 

「頼むから、いわないでくれ愛紗」

 

 

その悲しみは受け入れなければならないものなのかもしれない。

けれど、今じゃない。

その場にいなかった亞莎にっとて、これはつらすぎる。

 

少しの、時間が必要だと、俺はそう思う。

 

 

 

「何をですか!」

 

そう、俺が愛紗に言うと亞莎がそう俺にいう。

 

 

その彼女は俺がみたこともない亞莎の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

許さない、許さないぞ。

なにが、歴史の修正力だ、なにが天の御使いだ。

 

 

もし神がいるとしたら、神はなにをやっている。

 

もし天があるとしたのなら、なぜ、ここで、雪蓮が死ぬ必要がある?

 

 

そんなの、俺が許さない。

絶対に、だ。

 

運命というものが本当に実在するのなら、俺がそれを断ち切ってやる。

俺がぶっ壊してやる。

 

 

 

俺は、そう思いながら亞莎の手を握る。

 

 

「ごめん、亞莎」

 

 

俺はそういいながら、彼女の手を離し、扉の外へと出て行った。

 

 


 
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