No.55614

イメージテキスト『esCapE』

あながあったらはいりたい
こことはちがうどこかへと
きえることができたなら

2009-02-02 07:21:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:572   閲覧ユーザー数:562

 なぜ走っているのだろう?

 目的はない、と思う。ただ、あそこから離れたいという衝動から、いま、傘も差さずに雨の中を走っている。

 雨は並木の葉をかすかに揺らしながら一定の音を伝える。

 サァー・・・やわらかな音。そして神経をなでる音、わたしを憂鬱にさせる音。

 それをかき消すように、バカみたいに力いっぱい地面をける。

 その音すら、その足の感触すらもどかしい。

 わたしは地面から離れることができない。

 息が切れる。失速して・・・足を止める。気づくと、そこは見覚えのある場所だった。

 いつの頃か、「かれら」とよく遊びに来ていた公園だ。

 何も考えずに走っていたつもりでも、所詮そんなに遠くへ行くことができない。

 わたしは、どこへもいけない。

 ゆっくりと振り向く。

 だれも、わたしを追ってこない。

 その事実は、すっとわたしの中に浸透した。小さな痛みとともに。

 公園に入っていく。滑り台、ブランコ、鉄棒、砂場。山のすそにある小さな公園だ。木の陰になって昼でも薄暗い場所。

 ブランコに腰掛け、ぐちょぐちょになったむき出しの地面を漫然と眺める。

 呼吸が落ち着いてきて、ふと空を見上げる。

 暗い、くらい、鉛が垂れ込めているようだ。太陽がどこにあるのかなんてわからない。

 その遠いとおい果てから、細い水滴が落下して断続的に頬に当たる。

 わたしの世界はあまりにも小さくて、大きなおおきな世界の、その底辺の黒ずみに過ぎないのだと感じたとき、なんだかおかしくなった。

 この雨は強くなる。

 そのまま、わたしを流し去ってくれない?あの場所と一緒に。

 山のほうを眺める。そこは雑木林になっている。手入れされなくなった、雑然とした、森だ。

 すべての痛みを捨てて、どこか、どこでもないところに行きたいと、漠然と、しかし痛切に思った。

 夢でも見ているような気持ちで。山に歩み入る。

 緩やかな登りだが、足元はでこぼこで、雨のせいですべるため何度も転んだ。

 それでも進む。いや、どこにも向かっていないから、進んでいるのかさえわからない。何度も、転んだ。

 そうして、

 穴を見つけた。

 少し切り立ったところにぽっかりと、小さな横穴があいていた。かがんで通れるくらいの、四角い、石でできた穴だ。人の手によるものだろう。

 どうしてこんなところに?

 頭がくらくらして、思考が溶けていく。

 わたしは、その穴に入っていった。

 


 
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