なぜ走っているのだろう?
目的はない、と思う。ただ、あそこから離れたいという衝動から、いま、傘も差さずに雨の中を走っている。
雨は並木の葉をかすかに揺らしながら一定の音を伝える。
サァー・・・やわらかな音。そして神経をなでる音、わたしを憂鬱にさせる音。
それをかき消すように、バカみたいに力いっぱい地面をける。
その音すら、その足の感触すらもどかしい。
わたしは地面から離れることができない。
息が切れる。失速して・・・足を止める。気づくと、そこは見覚えのある場所だった。
いつの頃か、「かれら」とよく遊びに来ていた公園だ。
何も考えずに走っていたつもりでも、所詮そんなに遠くへ行くことができない。
わたしは、どこへもいけない。
ゆっくりと振り向く。
だれも、わたしを追ってこない。
その事実は、すっとわたしの中に浸透した。小さな痛みとともに。
公園に入っていく。滑り台、ブランコ、鉄棒、砂場。山のすそにある小さな公園だ。木の陰になって昼でも薄暗い場所。
ブランコに腰掛け、ぐちょぐちょになったむき出しの地面を漫然と眺める。
呼吸が落ち着いてきて、ふと空を見上げる。
暗い、くらい、鉛が垂れ込めているようだ。太陽がどこにあるのかなんてわからない。
その遠いとおい果てから、細い水滴が落下して断続的に頬に当たる。
わたしの世界はあまりにも小さくて、大きなおおきな世界の、その底辺の黒ずみに過ぎないのだと感じたとき、なんだかおかしくなった。
この雨は強くなる。
そのまま、わたしを流し去ってくれない?あの場所と一緒に。
山のほうを眺める。そこは雑木林になっている。手入れされなくなった、雑然とした、森だ。
すべての痛みを捨てて、どこか、どこでもないところに行きたいと、漠然と、しかし痛切に思った。
夢でも見ているような気持ちで。山に歩み入る。
緩やかな登りだが、足元はでこぼこで、雨のせいですべるため何度も転んだ。
それでも進む。いや、どこにも向かっていないから、進んでいるのかさえわからない。何度も、転んだ。
そうして、
穴を見つけた。
少し切り立ったところにぽっかりと、小さな横穴があいていた。かがんで通れるくらいの、四角い、石でできた穴だ。人の手によるものだろう。
どうしてこんなところに?
頭がくらくらして、思考が溶けていく。
わたしは、その穴に入っていった。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
あながあったらはいりたい
こことはちがうどこかへと
きえることができたなら