宇宙:小型宇宙船内:コックピット
「ふぁ~あ・・・まだ着かないのかなぁ」
地球での狩を終え、その帰りのついでにお使いを頼まれたカズトは、積荷を受け取りに目的の惑星
へと向かっていた。
「卵かぁ・・・帰ったら師匠に何か作ってもらおう」
積荷の中身はある生物の卵、それを受け取り、本星へ持ち帰る、簡単な仕事だ。
しかし、
(何だろう・・・ぞわぞわする)
一刀はこの時、この後に起こる事を直感として感じていたのかもしれない。
ピピッ
『コチラ惑星E301。カズト、ソノママコチラニ向カッテ来テクレ』
「了解、1800秒後そちらに着く予定だ。また後で」
『了解』プツンッ・・・
惑星E301:港
指定された場所に船を止め、カズトは船体の横のハッチから降りようとする。
プシュ―という空気が抜けるような音と、若干のモーター音とともにハッチが開き、外のひんやり
とした外気と、照明の光が船内に入ってくるが、カズトは腕につけているガントレットを操作し、体
温を平温よりやや高めに保つ。そして外に出て、少し目をこらし、光に慣らして周囲を見回すと、コ
ックピットの方に友の姿を見つけ、声をかける。
「おっす!お久しぶりオイカワ」
『アア、久シ振リカズト』
オイカワは、ガントレットから目を離さずこちらに挨拶してくる。
「荷物は卵って聞いたけど、いったい何の卵なんだ?」
各所への連絡を終えたのか、こちらにオイカワが近づいてくる。
『サアナ、デモ食料用ノ卵デハ無サソウダカラ、オソラクアレジャナイカ?』
「アレ?アレって・・・まさか!?」
『多分ナ』
「・・・・・・」
(何事もありませんように)
「アレについては良い思い出は無いんだよな。ところで、ここって星間電話ってあったっけ?」
『アア、アルヨ。何ダ、急ギカ?』
「いや、今日は師匠に、親子丼を作っておいてもらおうかなって」
師匠は、地球の日本というところにとても興味があるらしく、俺が成人の儀を終えてからというも
のの、しょっちゅう日本に行きたがらせたがっている。おそらく、俺が地球人なのを
いいことに狩だけでは手に入らない食材や、本なんかを買わせるつもりなのだろう。
『ソウイヤ前ニ一度、アノ人ノ料理ヲ食ベサセテモラッタコトガアルガ、トテモ旨カッタナ。
今度、本星ニ戻ッタ時ニデモ、食べサセテクレナイカ?』
ちなみに、料理の腕も確かなもので、周りからも評判がいい。
「ああ、伝えておくよ」
カズトはそう言いながら、奥の星間電話のあるほうへと向かった。
:連絡所
『イイカ、帰ルマデガ狩ダ。油断スルデナイゾ』
「ああ分かってる、なるべく早く帰るよ」
『飯ガ冷メナイウチニナ』
「はははっそれじゃあよろしく」プツンッ
星間電話が終わったところに、ちょうどジョックからの連絡が入る。
『ザザッ・・・カズトー、積ミ込ミ終ワッタゾー』
「了解、すぐ戻るよ」
:港
『ソレジャ気ヲツケテナ』
「ああ、今度一緒に飯でも食いに行こう」プツンッ・・・シュォォォォッッ!!!
自分の宇宙船へ乗り込んだカズトは友人への挨拶を終わらせ、船を宇宙へとあっという間に飛び立
たせる。
「・・・気ヲツケテナ・・・」
港に残ったオイカワは、あっという間に見えなくなってしまった宇宙船に乗る友人に、一人悲しそ
うに呟くのだった。
宇宙:小型宇宙船内:スリープカプセル外
「さあてっと、後は戻るだけだし少し眠っとこうかな」プシュゥゥ・・・
さすがに疲れたのか、カズトはスリープカプセルを開け、最低限の装備だけを身に着けて中に入ろ
うとする、だが・・・
(ぞわぞわが消えてない、いや少しだけど強くなってる・・・眠らないほうがいいかな?)
何かを感じ続けているカズトは、カプセルの中に入るのを躊躇う。
「でも眠いしな・・・よし、一応船内の警戒レベルを7にしておこう」カチカチッ
ガントレットを操作し、寝ながらも気を抜かないように気をつけながら、カズトは眠りに付いた。
しかしそんな警戒をあざ笑うかのように、運命は大きく動き出そうとしていた・・・。
::貨物室
貨物室には惑星E301でつまれた長方形の箱の積荷が厳重に冷却保存されていた、だが・・・
『ピピッ、予定地点に到達、実験を開始します』ブシュウゥゥゥ・・・
ガスの抜けるような音を立てて箱のふたが開いてゆく。
『冷却ガスの排出を確認、続いて卵の孵化を開始』ジジジッ
中から現れたラグビーボールほどの大きさの3つの卵が、箱から発せられる小さな稲妻に反応して
いるように感じられる。その卵は硬質感がなく、半透明で時折卵の表面に走る稲妻により、中身が透
けて見える。
「・・・ファァァ・・・」
卵の上部が花弁のように開き、中身があらわになる。
「・・・」・・・シャッ!
そして、1つの卵から白く大きい、蜘蛛のようなサソリのような生物が飛び出してきた。続いて、
もう一つの卵からも同様の生物が飛び出してくる。
「・・・」カサカサカサ・・・
その二匹は出口を求め、どこかへと消えてしまう。
・・・そのころコックピットでは、また違う問題が起こっていた。
::コックピット
コックピットは警報のブザーと、赤い警報ランプの光で包まれていた。
そこに、カプセルから飛び起きたカズトが現状把握のためにやってきた。
「なんだ、何が起こった!」
疑問を投げかけるカズトに、メインコンピュータから適切な回答が返される。
『前方800メートル地点で、磁気乱流の前兆を観測。危険度10、過去のデータによるとこのま
までは突っ込み、船は全壊すると予想されます』
「回避は!?」
カズトはそう提案した、しかし・・・
『回避できる確立、0,0002パーセント。恐らく不可能と思われます』
絶望的な数字だが、カズトはオモチャを見つけた無邪気な子供のような笑みをマスクの下で見せた。
「0じゃないんだったら、何でもやってくれ。諦めるにはまだ早いだろ?
何か対処法はないのか?」
カズトはどうやらこの危機的状況を楽しんでいるようだった。
『報告します。解析の結果、この現象は磁気乱流とはどうやら別物のようです』
解析を終えた、コンピュータから新たな情報が寄せられる。
「どういうことだ?」
『宇宙空間に穴が開き、そのまま別の空間につながっているものと思われます』
「つまり?」
『その穴を通過しても、船は大丈夫ということです』
その情報にカズトは少し安堵する。が、報告はまだ終わらない。
『しかし、その穴を通る際にこちらのエネルギーの87パーセントが持っていかれ、しかも向こう
側に出た場所が、こちらの救難信号の届かないような辺境である可能性もあるので、あまり楽観視
は出来ません』
「そうか・・・酸素の残量は?」
『このまま使い続けたとしても、14日はもつ量が残っています』
幸いこの船はカズト仕様の特別機なので、酸素は大量に積まれていた。
「2週間分か、まあそれだけあったら窒息の前に餓死するか?」
その時、ガクッと船が大きく揺れた。
「っと。今度は何だ?」
何かにぶつかったりしたのだろうかと、カズトはコンピュータの返事を待つ。
だが帰ってきたのは、カズトの予想を大きく外れるものだった。
『この船の周りを、正体不明の光が包んでいます』
「光?」
カズトは窓から外を見る。
「があっ!?」
痛みにも似た刺激に瞬間的に窓から目を離し、目を慣らそうとするが、それをいつの間にかコック
ピットの前までやって
きた光が許さない。
「くうっ!遮光システムをオンにしてくれ!」
『了解、サブユニットからの外の様子を、メインモニターに移します』
遮光システムがオンにされ、外からの光が完全に遮断されるが、少しするとコックピットの中央に
取り付けられたメインモニターに外の映像が映し出される。
「これは・・・」
モニターに映し出されたのは、先ほどから前方に開き続けている巨大な穴と、黒い紙の上に白い絵
の具をたらしたかのように光るこの船だった。
『分析の結果、この光はあの穴から発せられているようです』
「船体に損傷は?」
『ありません、ですが先ほどから操縦がきかなくなっています。おそらくこの光が原因だと思われ
ます』
そう報告され、カズトはこの後どうすればいいのかを考える。
「それで、進行方向は?」
『あの穴の中だと思われます』
「結局そこか・・・よし、ならば行ってやろうじゃないか。全エンジン停止、なるべくエネルギーを使わないようにしておこう。きっと、あの中に入ってからが本番だからな」
『了解、全エンジン停止。以降、穴を抜けるまではエネルギーの節約に努めます』
「ああ、頼む」
この緊迫した状況とは裏腹に、カズトの心は高ぶっていた。
(ああまずい、ぞわぞわがわくわくに変わってる。こんなのいつ以来だろう)
どうやら不安になるどころか、何かを期待しているようだ。
(さあて鬼が出るか蛇が出るか・・・ああ、何にせよ楽しみだなあ!)
この好奇心の強さも、カズトの悪い癖の一つではあるが、下手に不安でいるよりは良いのかもしれ
ない。そうして――
数分後、カズトは自身の小型宇宙船とともに宇宙から消えていた。
穴も消え、何事もなかったかのように、宇宙は静けさを取り戻していた。
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今回は、カズトが恋姫入りする前の話です。
なので、前話を読んでくださった人は分かると思うのですが、プロローグ2のような感じかもしれません。
また、作者自身も読み返しをしたのですが、誤字脱字や、口調がおかしかったりした所がございましたら、一報もらえるとありがたいです。
それでは、KVP:1匹目、どうぞ。