No.555952

天魔様1

連載物です

2013-03-16 23:52:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:752   閲覧ユーザー数:747

第一話 はじまり

 

 

 

妖怪の山に在る天狗の里の中心部には、天狗達の社会の拠点となる本部がある。

 

通称、本山と呼ばれ役職を持つ社会の幹部クラスの天狗が集う広大な屋敷である。

 

この春、数百年に一度行うか行わないかの組織変更を行った。

 

この組織変更を気に、それまで旧天魔が辞任し大天狗やその他大勢の幹部クラスの天狗達の活動が終了した。

 

この日は、組織変更を行った事を機に新たに天魔の役職に就いた新天魔の就任式が行われる。

 

新たに新体制を迎える社会と、新たな代表に山に暮らす天狗達の関心は高く就任式が行われる本山の広大な屋敷には、山の天狗で溢れかえっていた。

 

そんな大勢の天狗で会場が賑わう中、一人の白狼天狗の犬走椛が新聞記者専用の取材エリアに佇んでいた。

 

「遅いなぁ文様・・・」

 

椛は、深いため息をつきながら言った。

 

「全くあの人は、新しい天魔様の就任式だというのに私にカメラを持たせて場所取りをさせても来ないなんて・・・」

 

就任式が開始される時間まで射命丸文が現れないのには理由がある。

 

この前日に新たに就任した大天狗の就任式に彼女も参列した。

 

ただ、この時はブン屋の取材活動ではなく新たに彼女も大天狗の代理人としての役職に就いたのである。

 

その就任式を持って射命丸文は、天狗の組織内の幹部の一員になったのだ。

 

その後の彼女は、新大天狗達での宴会に参加し、朝までの盛大な大宴会を行ったらしい。

 

「全くあの人は、代理とは言えども大天狗様になっても相変わらずだ・・・」

 

「相変わらずで悪かったですね。」

 

椛の独り言に答えるかのように文は、背後から椛に気配を消して近付き椛の尻尾を触りながら言った。

 

「文様!いつの間に・・・」

 

椛が今にも宙に飛び出しそうな勢いで驚いた。

 

「文様・・・良かったです。私はてっきり文様が昨日の宴会の疲れで寝坊したのかと思いましたよ。」

 

「失礼ですね~私が遅刻などする訳ないですよ。」

 

文は、胸を張りながら更に自信満々の表情で椛に言った。

 

「何せ昨晩から今さっきまでお酒を呑んでいた私に隙などありませんから」

 

その一言を聞いた椛は、ただ苦笑いの表情を浮かべるしかなかった。

 

そんなやり取りをしていると就任式は、いよいよ新天魔様の挨拶の段階へと進行した。

 

「今までご苦労様でした。さて、これからはブン屋としての活動を開始します。」

 

椛に預けていた取材道具一式を受け取ると、他の新聞記者同様に新たに就任した天魔の姿をフィルムに納めようと文はカメラを構えた。

 

壇上に最初に姿を見せたのは、新天魔の側近役を名乗る大天狗の男だ。

 

現状では、この側近役の大天狗しか新天魔の正体が知られていない為、参列した天狗達の注目が集まった。

 

それから長時間に渡り、側近の大天狗は一向に姿を見せない天魔に代わり着々と就任式を進めた。

 

新天魔が姿を現さないまま式は終了の時間を迎え様とした間際に、側近の大天狗が参列者全員に告げた。

 

「新たに就任した天魔様はこの式には出席しておりません。」

 

その一言を聞いた参列した大勢の天狗に疑問とどよめきが生じた。

 

「静粛に!今後とも天魔様からの様々な任務に関する伝達は、側近役である私から皆様へお伝えします。以後、質問は受け付けません。以上!」

 

最後に強く発言すると側近役の大天狗が壇上から降りた。

 

それと同時に就任式は終了した。

 

側近役の大天狗の発言の影響で、場内に居る新聞記者や参列した大勢の天狗が困惑気味な空気で溢れた。

 

文は椛を一刻も早く本山の外へ連れ出そうと、椛の服の袖を掴み会場の外へいち早くむかった。

 

会場の外に出た二人は、本山の大庭園に向かった。

 

「いったいどうしたのですか文様?」

 

椛は、文に問い掛けた。

 

「あの側近役の大天狗と新しい天魔様・・・何か引っ掛かるのですよ。」

 

文は、椛を見つめながら真剣な表情で言った。

 

椛は、文の表情を見て文の今後の行動が読めた。

 

「つまり、正体の解らない天魔様とあの大天狗様について調べようとしているのですね?」

 

「流石ですね椛さん。長く付き合っているだけありますね。」

 

「そして、私にも協力をしろと言う訳では?」

 

「もちろんです!椛は、私の助手ですから~」

 

文の即答に椛の拒否権は存在しなかった。

 

「さて、今後の活動の良いアイデアが今から呑みに行きましょう!」

 

「まだ呑む気ですか・・・」

 

半ば観念した椛は、文に着いて行く事にした。

 

「では、早速行きましょう。」

 

そう文が言いながら椛に背を向ける一瞬の間に、椛は遠くにいる天狗の存在の姿に気がついた。

 

その天狗は、どこか不思議な雰囲気な感じを纏い何か寂しそうな目をしている様に感じた。

 

「そうしたのですか椛?」

 

謎の天狗が見えた場所をずっと見ている椛に文が問い掛けた。

 

「いえ・・・何でもないですよ。」

 

そう言うと椛は、文の元へ走った。


 
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