No.553613 少年達の挽歌 蜂起編 第一話2013-03-10 18:21:34 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:805 閲覧ユーザー数:786 |
第一話 戦争終結後
日韓戦争が終結してから四ヶ月が経ち、日本は戦争により好景気に沸いていた。
特に占領した朝鮮への復興特需は日本中の建設業者やインフラ系の企業が儲かっていた。
また軍需企業も戦争による評価が上がった日本製兵器が東南アジアなどで売れている。
その反面、“帰還兵”特に臨時兵と呼ばれた少年兵達は戦争が終わると予備役になり故郷に帰るが、そこでの生活は戦場よりも酷かった。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状で毎日のように酷い戦場の夢を見たり、戦場で覚えた麻薬の味を忘れられずに手に入れ中毒になったり様々であった。
そのため日が経つにつれ帰還兵が犯罪を起こす件数は増えて、世間からは冷たい目で見られていた。
開戦直後の奇襲になった空襲はある程度の被害を出したが全体を見ると微々たる物であり、政府の情報操作により国民は日韓戦争を“楽な”戦争だと勘違いし、帰還兵がPTSDになっているのか理解できなかった。
《昨夜七時ごろ兵庫県尼崎市で強盗殺人事件がありました。犯人は元臨時兵の一五歳の少年だそうです。》
テレビ画面の中でアナンサーが淡々とニュースを読み上げた。
すると司会が数人のコメンテーターに話を振る。
《皆さん、このような帰還兵が事件を起こしているのにどう感じますか?》
そして数人のコメンテーターが口々に帰還兵を侮辱していった。
《しょうがない部分もあるんじゃないですか?今の若者は柔なんでね、学校や家庭でちゃんと教育をしないからこんなことになるのでしょう。》
《怖いですね、うちの娘もこれから小学生になるので国は何とかして欲しいですね。隔離するとか?》
《所詮底辺の人たちが生んだ子供ですからね、人間扱いするのが間違いなんですよ。》
「何言ってんだか、本当の戦争を知らないくせに。」
コメンテーターの言葉にテレビを見ていた小野寺魁人はテレビを消して、バックを背負って出勤した。
アパートの一室から私服姿で出て来た小野寺魁人はいつものように街中にある中小企業の工場に歩く。
だが彼の顔には大きな火傷の跡と左目を覆う眼帯が周囲の目を引いていた。
彼は周囲からの痛々しい視線から逃れようと毎日早歩きで道を通り過ぎ、工場に着いた。
小野寺の努めている企業は良心的で帰還兵の支援を行ってくれているが帰還兵が働ける会社は少ない。
『女性就職優先雇用政策』により企業は女性を多く採用しなければならない制度で男性の採用は極端に少なかった。
あの戦争で送られた未成年の兵士は五十万人が送られ、そのうち帰還できたのは三十万人だ。
そのうち一部の士官は高等学校に入学することが出来たがほとんどの兵は就職しかなかった。
しかし制度のこともあり運のいい奴以外はその日暮らしの生活を送っている。
いつもの様に工場で一日中働くとアパートに帰り、郵便受けを見ると広告と共に一通の葉書が入っていた。
それは新海兵長の訃報を知らせる葉書で通夜と葬式の日時が書かれていた。
葬儀には父親と新海兵長の親しい友人、それに同じ部隊であった兵士達が参列していた。
小野寺は葬儀に参列し、焼香をする時に顔を上げて遺影を見た。
そこには笑顔で写る新海兵長の顔が見え、顔を下げ焼香をした後小声で言った。
「約束を守れずにすみません。兵長。」
負傷してから兵長と会うことはなく、謝りたかったがこんな事になるなら早く行けばよかったと後悔していた。
席に戻ろうと振り返ると泣いている新海兵長の父親の隣席には弟の新海力一等兵の遺影が立て掛けられていた。
葬式が終わり外に出ると近くにいた友人の会話が聞こえ、何があったのか分かった。
「あいつ、弟を亡くしてから相当思いつめていたらしいな。」
「ああ、だがあいつが職探しに行ったハローワークの女性の担当者にこう言われたらしいぜ。『お前みたいな帰還兵にやる事後とは無い』と。」
「くそ、その女のせいで自殺したのか。」
その後出棺を見送ると、傍に軍服姿の人が立っているのに気づき振り返るとそこには宮本軍曹がいた。
肩にある階級章を見ると少尉を表すひとつの星と二本の赤線がある階級章があった。
「お久しぶりです、宮本少尉。」
「皮肉にもこんな時に再会するとは。だが少し話をしたくて丁度よかった。」
「はい?」
「ここでは話は出来ない、ホテルに行こう。」
少尉はタクシーを呼び、近くにある宿泊しているホテルのカフェテリアに行った。
小野寺はアイスティーを頼み、少尉はコーヒーを頼む。
「新海兵長は自殺だった。知っているか?」
「はい、ですが詳しいことは。」
飲み物が届く間、新海兵長のことについて聞かされた。
兵長は戦争終結後に弟が戦死した事を知りショックを受けてしまい、軍に残ることを勧められたが断り予備役になった。
だが家に戻るとPTSDを発症して戦場での悪夢を見るようになり生活に支障をきたすほどだったらしい。
さらに回復してもどの企業も就職できず、国防省も満足な支援を行うことが出来ずに追い詰められハロワでの一件が決定打となり翌日には首吊り死体が見つかったらしい。
「これは遺書に書いてあったことだ。」
店員が飲み物を並べ去って行くと宮本少尉は言った。
「それでだ、お前はこの国の支援や世間の理解に不満は持っているか?」
こう聞かれて小野寺は頷いて言った。
「はい、昨日のニュースも酷かった。あの戦場のことをわかっていない、しかも今では数万人もの帰還兵ホームレスまで出している国にも問題があります。」
「それでだ。」
少尉はコーヒーを一口飲むと言った。
「俺は今『臨時兵の会』の会長をしているんだ。俺たちの目的は待遇改善で、政治活動を行っているんだ。」
アイスティーを飲みながら驚いた。
少尉が何時の間に会を作り、活動をしていることに。
「会員はまだ百人程で少ないんだ、君も協力してくれないか?」
「どのように?」
「まずは会員を集める事と、知名度を上げる事だ。」
「知名度を?どのように。」
すると少尉はタブレットを取り出してある動画を見せた。
それはニュースの特集を録画した動画で、そこには戦闘機と見覚えのある顔が映っていた。
「五十嵐大尉ですか?」
「いまは勲章を貰って少佐だ。そして今では男性初のISパイロットだ。」
小野寺は気付いて言った。
「彼を広告塔に?」
「ああ、出来れば俺の代わりに会長をやらせたい限りだ。それで君に説得してもらいたい。」
「え!」
「うちの会にいるメンバーは陸・海軍中心であまり空軍出身はいない。君は面識があると聞いた事があるから丁度いいと思って。頼む、やってくれないか?」
小野寺は少し考えて言った。
「俺には少々重い役ですがやってみます。」
「ありがとう。」
そうして小野寺は入会して活動に参加した。
これが彼の人生を大きく転換させるとは思っていなかった。
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日韓戦争から四ヶ月、小野寺達“臨時兵”は自分達の置かれた状態に不満を持っていた。
冷遇する政府、周囲からの冷たい目、毎日のように見る戦場の夢が彼らを待っていた。
だがある士官の発案で世界に自分達の存在を知らしめ、対等な立場を得る方法が発案された。彼らは人生の後輩達に同じ経験させない為にもこの作戦に参加して、蜂起した。