No.553498

真・恋姫†無双 ~彼方の果てに~ 8話

月影さん


住んでいた邑を賊に襲われ必死に戦う神威と、兄の為に危険を顧みず飛び出した風花。

そんな二人を助けたのは桃香率いる義勇軍だった。

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2013-03-10 14:04:06 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2498   閲覧ユーザー数:2292

 

~神威~

 

 

 

用意された天幕で風花は静かな寝息を立てている。

気丈に振る舞ってはいたが、やはり疲れていたのだろう。

俺を心配しながらも横になるとすぐに眠ってしまった。

 

 

俺は優しく風花の頭を撫でてやる。

 

 

「うにゅ……」

 

 

風花の寝言につい笑ってしまった。

普段の強気な妹とは思えない可愛らしい姿に微笑ましい気持ちになる。

 

 

邑の皆には申し訳ないが、風花だけでも無事で居てくれて良かった。

もしも風花まで失っていたら、俺はきっと今も生きてはいられなかっただろう。

 

 

本当に大切な妹だから。

俺の、たった一人の家族だから。

 

 

(家族、か……)

 

 

複雑な想いで眠る妹を眺める。

 

 

家族。そう、家族だ。

だが風花はこんな俺を本当に兄と認めてくれているのだろうか?

 

 

今までの風花の様子から少なからず慕われているのだろうという事だけは解っている。

風花が家を継いだ時に俺を追い出さなかった事からもそれは推察出来る。

だがそれだけでは納得は出来なかった。

 

 

それだけ自らの犯した罪は重く、そして深い。

 

 

 

 

 

 

そもそも、俺は風花の――

 

 

 

 

 

 

「兄…さん……ずっと…一緒……」

 

 

暗い思考に落ちる俺に届いた微かな声。

それは眠りながらも幸せそうに笑う、風花の言葉だった。

 

 

「……全く、風花には救われてばかりだな」

 

 

そうだ、風花はこんな俺を慕ってくれている。

兄として認められているかは判らないが、それだけは間違いない。

ならば俺はそれに応えてやれば良いんだ。

余計な事は、まだ考えなくて良い。

 

 

最後にもう一度風花の頭を優しく撫でてから俺は外套を羽織り、外に居た女性の義勇兵に声を掛けて一人邑へと向かった。

 

 

せめて皆を弔ってやりたかった。

それが生き残った者の、俺の務めなんだと思うから。

 

 

 

 

 

 

邑に着いた俺は外套を脱いで近くの瓦礫に引っ掛ける。

少し肌寒かったが、折角風花が回収してくれた物だ。

汚してしまう訳にもいかない。

 

 

夜間である為に大きな音を出せなかったので穴を掘る作業は苦戦したが、それなりの物は出来た。

それから邑にすんでいた者の遺体を何とか集めて数時間を掛けて漸く全てを終わらせてから穴を埋める。

 

 

最後に埋めた場所に大きな石を置いて静かに目を閉じた。

せめて安らかに眠って欲しいと、祈りを込めながら。

 

 

 

 

 

 

「……さて、俺に何か用か?」

 

 

祈りを終えて目を開けると、俺は墓を見下ろしたまま背後に声を掛ける。

少し前から誰かの気配がしていたのは判っていた。

 

 

「……気付いていたか」

 

 

その言葉に俺はゆっくりと振り返った。

建物の陰から姿を現し、月明かりに照らされた関羽の姿が視界に映る。

本人は気付かれるつもりがなかったのか何とも罰が悪そうな表情を浮かべていた。

 

 

「なに、俺は昔から臆病でな。人の気配には敏感なんだ」

「おかしな冗談を。……もう良いのか?」

「冗談ではないんだがな……。ああ、もう終わったよ」

 

 

冗談呼ばわりされた事に軽く肩を竦め、俺はチラリと視線だけ背後の墓に向ける。

 

 

「大した事は出来なかったが、野晒しよりかは幾分かマシだろう」

「随分と落ち着いているのだな。悲観したりはしないのか?」

「まさか。これでも一度は崩れそうになったさ。だが悲しんだところで何も得られはしない。

 死者に対して出来る事なんて、何も無いんだからな。精々墓を作って弔ってやる事だけだ」

 

 

まるで自分に言い聞かせているような言葉だと思いながら俺は淡々と告げる。

そして視線を自分の掌に移し、噛み締めるように呟いて拳を握った。

 

 

「それに……俺にはまだ、守りたいモノが残っている」

 

 

失ったモノは二度と戻らないが、風花がまだ生きていてくれた。

今残ったモノを大切にしなければ全てを失う事にもなりかねない。

力不足を嘆く暇があるのなら、更なる力を求めるしかないんだ。

次に同じような事が起こった時に、自らの力の無さを悔やむ事が無いように……

 

 

「強いのだな、姜元殿は」

「いや、俺は割り切っているだけだ。強いと言うのは風花の方さ。

 ……アイツは本当に良く出来た妹だ。俺には、勿体無いくらいのな」

「ふふ、本当に仲が良いのだな」

「さてな……。それで、いい加減何の用か聞かせてくれないか?

 まさかただ世間話をしに来た、という訳でもあるまい」

 

 

適当なところで俺が話を切り上げると、関羽は態度を改めて表情を真剣な物に変える。

 

 

「ならば単刀直入に言おう。

 姜元殿の力を我等に……桃香さまに貸してはくれぬだろうか?」

「……俺達に従えと言うのか?」

「誤解しないで貰いたい。桃香さまはそのような下らない真似をする御方ではない」

「だろうな」

 

 

思い返してみても劉備はそんな真似など出来ないような人物だ。

どちらかというと仲間、いや、友達と言った方が正しい気がするな。

そんな感覚で周りと接している節がある。

 

 

「だが俺は劉備がどのような理想を持ち、何を為そうとしているのかも知らない」

「桃香さまの理想はとても尊いモノだ。だから我等はあの御方を守り、供に戦おうと決意した。

 姜元殿もきっと理解出来るであろう」

「ふむ……俺にはお前が思うほどの力は無いと思うんだがな」

「あれだけの力を持ちながら、それを力無き者の為に振るおうとは思わんのか?」

「随分と過大評価してくれているようだが、俺の力なんて微々たる物だ。見ろ、この邑の惨状を……

 此処に住む者と力を合わせ、守ろうとした結果がコレだ」

 

 

俺は周りを見回す。

 

 

コレが俺の限界だった。

あれだけの準備をしていながら、守れたのは風花だけだ。

とてもじゃないが関羽の期待に応えてやれるほどの物ではない。

 

 

「だが姜元殿はその時に近くに居なかったのではないか?もし居ればこのような事には……」

「違う、居なかったから風花を……妹だけを守る事が出来たんだ。

 初めからこの場に居たら、俺は誰一人守れずに絶望に暮れていたかも知れない」

 

 

確かに初めから万全の状態で武器を手に戦っていればこれほどの怪我を負う事はなかっただろう。

だが実際に自身がどれだけ戦えたかは判らない。そもそもあれだけの賊を相手にした事などないんだ。

邑の皆だけでなく、風花一人を守る事すら出来なかった可能性は充分にある。

 

 

「……だから、自分は弱いと?」

「そうだ」

「……」

 

 

関羽は何かを考え込んで僅かに顔を俯かせる。

俺はそれを黙って眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

それから暫く沈黙が続く。

関羽は何かを迷うように何度も俺を見上げては視線を逸らしている。

 

 

だが再び俺を俺を見上げた関羽の瞳は強い意思を感じさせ、微かに洩れ出す気迫に俺は反射的に身構えた。

 

 

突然、関羽の鋭い殺気が俺を射抜く。

それと同時に恐ろしい速度で突き出される偃月刀の刃。

 

 

それを刃の腹に拳を当て僅かに軌道を逸らし、更に身体を半身にして紙一重で避ける。

胸元から肩まで服を斬り裂かれたが、何とか怪我もなく回避出来たようだ。

 

 

「やはり、これを避けるか……」

「……何のつもりだ、関羽」

「姜元殿は今、私の突きを避けたのだ。並の将では今の突きに対応さえ出来ぬ。それだけの力が、姜元殿にはあるのだ」

「……」

 

 

なるほど、関羽の言いたい事はそういう事か。

確かにあの速度は普通の将には対処出来ないだろう。

俺の眼は見切りに長けていると父に言われた事があるが、俺から見てもかなりの速さだった。

ただ見えるだけで昔は逃げ回る為に発揮されていたのだとは口が裂けても言えないが。

 

 

「お前の言いたい事は判った。だが今のは初動さえ判れば一撃くらいなら普通の将でも何とかなる」

「まだ言うか!?」

「当然だ。得物の長い武器を使用した場合、特に矛などは攻撃を予測されやすい。

 相手の力量が不明の際や小手調べなどに初手で速度のある突きを放ち相手の出方を見るのは基本だろう?」

「た、確かにそうかも知れんが……。も、もし違っていたらどうしていたつもりなのだ!?」

 

 

半分自棄になった関羽が八つ当たり気味に叫ぶ。

 

 

 

 

……それは考えていなかった。

 

 

 

 

「さあな。まあ、攻撃が来るのは判っていたんだから何とかなったんじゃないか?」

「何といい加減な……」

「避けるかどうかも判らないというのに実行したお前に言われたくはないんだが……」

「その時はちゃんと止めるつもりだったのだ!全く……。姜元殿のような兄を持って、姜維もさぞ苦労したであろうな」

「……そうだな、アイツには苦労ばかり掛けてしまった。俺が居なければ、きっと今も幸せに過ごせていただろうに」

 

 

呆れたような関羽の言葉に、俺はつい自重気味に呟いてしまった。

 

 

「姜元殿?」

「いや、何でもない」

 

 

少し前に考えないと決めた筈だというのに、何とも情けない事だ。

こんな様だから風花に迷惑を掛けてしまうんだろう。

 

 

俺は軽く頭を振って逸れてしまった話を戻す。

 

 

「それで、納得はしてくれたか?」

「する訳がなかろう。姜元殿、私と一度、本気で手合わせして欲しい」

「おいおい、俺は怪我人だぞ?それに俺がお前に勝てる訳がないだろう」

「やってみなければ判らないではないか。それに今すぐにという訳ではない。

 怪我が治り万全の状態でなければ意味がないであろう?」

 

 

何故関羽はこんな提案をするのだろうか。

何か裏があると考えるべきか?

 

 

「……お前の目的は何だ?」

「初めに言ったであろう、我等に力を貸して欲しいと」

 

 

真っ直ぐと俺を見る彼女の瞳に嘘は見られない。

本気で俺を評価しているというのだろうか。

 

 

「もし俺がお前の期待するほどの力を持っていなかったらどうする気だ?」

「その時は何処へなりとも行けば良いではないか。どちらにせよ、その怪我では何かあると危険なのは確かであろう。

 それまで我等と行動を供にするのは二人にとっても悪い話ではないと思うが?」

「……」

 

 

関羽の言葉に俺は考える。それは確かに悪い話ではないだろう。

こんな状態で賊に襲われては風花を守るどころか自分の身を守れるかも判らず、逃げられるかどうかさえ不安なくらいだ。

関羽の提案は風花を守る為には願ってもない事ではある。だがすぐには決められなかった。

 

 

「……少し考える時間が欲しい」

「焦って答えを出さずとも良い。尤も、期限は昼までなのだがな」

「大した時間もないのに焦るなとか……。、まあ、別に構わないがな」

 

 

呆れるように溜め息を吐いた俺は自身の服を見下ろす。

何やら冷えると思っていたら服の前半分が破れ、服の下に巻かれた包帯が露出していた。

 

 

そういえば斬られていたのをすっかり忘れていたな。

 

 

「それは先程の……」

 

俺の服を気にする仕草を見た関羽が申し訳なさそうな表情を浮かべる。

真面目な彼女の事だ、弁償だの何だの言ってくるだろう。

それが悪い事だとは言わないが、元より此処で捨てるつもりだった物を気にされても困る。

 

 

「服の事なら気にする必要はない。もうボロボロだったからな、捨てるには丁度良い」

「だがっ!」

 

 

俺は関羽の言葉を無視して服を脱いだ。

さっさと話を切り上げれば余計な事も言われまい。

 

 

脱いだ服を適当に放り投げるが、流石に寒い。

こんな夜更けに半裸に包帯を巻いただけの姿なのだから当然の事だが。

 

 

「な、なななな……!?」

 

 

外套を取りに行こうとしたところで関羽の様子がおかしい事に気付く。

俺が視線を向けると関羽は慌てて手で顔を覆い、俺から目を逸した。

 

 

「どうした?」

「ど、どうしたではない!いきなり何をしているのだ!?」

「ただ服を捨てただけだろう。それとも何だ、男の裸は初めて見たのか?」

 

 

引っ掛けておいた外套を手に取りながら俺が冗談めかしにそう言うと、関羽は顔を真っ赤に染めながら俺を睨んだ。

 

 

「ば、馬鹿者、変な言い方をするな!別にこれぐらいは何でもっ……」

 

 

不意に関羽の言葉が止まる。

怪訝に思いその表情を窺うと、彼女は驚いた表情で俺を見ていた。

 

 

「今度はどうした……ああ、なるほどな」

 

不思議に思いながらも向けられた視線を辿り自身の身体を見下ろして、その理由に気が付く。

 

 

 

俺の身体は傷だらけだった。

 

 

 

それも古い傷跡の上から新たな傷跡が重ねられ、それを更に塗り潰すように違う傷跡が上から何度も重ねられている。

それが俺の身体中に刻まれていた。

 

 

今は身体の約半分が包帯に覆われているとはいえ、包帯の隙間や剥き出しの部分から覗くその傷跡は見ていて決して気分の良い物ではない。

 

 

「すまん、気分を害するつもりはなかった」

 

 

俺は急いで外套を羽織ると確りと前を閉じた。

これで少しは寒さも防げるし傷も隠せる。

 

 

それにしても俺は本当に何処か抜けている。

まさかこんな重大な事まで失念していたとは思わなかった。

 

 

「今の事は忘れてくれ。俺も、もう戻ろう」

「ま、待て!」

 

 

背を向けて歩き出そうとした俺を関羽は呼び止める。

不思議に思いながらも俺は視線だけ関羽に向けた。

 

 

「まだ何かあるのか?見苦しい物を見せた事なら謝る。すまなかった」

「そうではない!その傷は一体……」

「別に語るほどの物じゃない」

「だ、だがしかし……その傷跡は、ただ事ではないではないか」

「……」

「答えられぬ事、なのか?」

 

 

関羽の表情は真剣そのもので、ただの興味本位なのではないと判る。

 

 

 

 

 

僅かに考えてから結局は俺が折れた。

わざわざ話す事ではないが、別段隠す事でもない。

 

 

「大した才能も無い者が強くなる為にはどうしたら良いと思う?つまりは、そういう事だ」

 

 

これが今の力を手に入れる為に、俺が払った代償。

賊を相手に命を掛けた実戦訓練を何年も、数え切れぬほどに行い、ひたすらに力を求めてきた結果。

 

 

尤も、本当はそれだけではないが。

自分に対しての戒め、という意味もある。

 

 

「だからといって、そのように自分の身体を痛め付けるような真似を……」

「それでも、俺には守りたいモノがあるんだ」

「っ……」

 

 

俺の意思を汲み取ったのか、関羽はそれ以上何も言わずに口を閉ざした。

だが一度だけきつく目を閉じてから俺を見上げたその瞳はとても澄んでいて、正しく武人といえる物だった。

 

 

「どうやら私は軽く考え過ぎていたのかも知れん……

 姜元殿、もしも私と手合わせをして下さるのならば、その時は我が誇りに掛けて全力で御相手致しましょう!」

 

 

武人としての誇りを掛ける、それは相手を対等と認める事にも等しい行為だ。

その事には素直に嬉しく思うが、俺は勝てないと言った筈なんだがな。

もう今更な気がするが。まあ、此処は喜んでおくとしよう。

 

 

「誇り、か。生憎と俺には掛ける誇りがないんだ。……そうだな、代わりに俺の真名を掛けよう」

「なっ、神聖なる真名を……!?一体どういうつもりなのだ!」

 

 

真名を掛け合いに出した途端に関羽の表情が変わる。

それだけ真名が大切なモノなのだというのは判るが、彼女の誠意には出来るだけ応えたい。

 

 

何となくだが、彼女は信用出来る気がする。

 

 

「お前の誇りに見合うモノが他に思い付かなかった。俺の真名では不服かも知れないが、これで勘弁してくれ」

「ふ、不服という訳では……」

 

 

関羽はかなり戸惑っているようだ。

 

 

そういえば風花も俺が真名をいい加減に扱っているとか怒っていたな。

重要性は理解しているし今回のような状況ではこれ以上ない扱いだとは思うんだが。

 

 

「ならば預けておく。……俺の真名は神威だ。呼び方は好きにしてくれ、もし真名が嫌なら今までと同じ名で呼べば良い」

「……」

 

 

此方を呆然と見上げる関羽の反応を見ると、やはり俺は間違っているのだろうか?

 

 

俺が困惑していると、突然関羽がクスクスと笑い出す。

 

 

「……?」

「ふふ……あぁ、すまぬ。笑うつもりはなかったのだがな。だが本当におかしな御仁だ」

「変わっているとは良く言われるが、自分では良く判らないな」

「随分と変わっている。よもやこのような形で真名を預かるとは夢にも思わなかった」

「関羽のような武人に誇りを掛けると言われたんだ、真名を預ける理由にくらいなると思うんだがな」

 

 

俺の真名にどの程度の価値があるかは判らないが、その重要性から考えても等価交換には適ってる筈。

一体何がおかしいのかまるで判らない。

 

 

困ったように首を傾げる俺に関羽がポツリと呟いた。

 

 

「……愛紗だ」

「ん?」

「私の真名だ。真名を預けられて、私だけ預けぬ訳には行かぬであろう?」

「良いのか?別に無理に預ける必要はないと思うが」

「まさか自分だけ預けておいて、私のは受け取れないなどと言うつもりではあるまいな?……か、神威殿」

 

 

腕を組んで顔を真っ赤に染めながらも横目に俺を睨む関羽。

真名を呼ぶ際に僅かに口ごもったところを見るに異性の真名を呼んだのはこれが初めてなのかも知れない。

本当かどうかは知らないが、住む地域によっては異性の真名は生涯身内か結婚相手しか呼ぶ事がないらしいと誰かに聞いた事があった。

これが関羽に当てはまるかは判らないが真面目な彼女の事だ、このような言われ方をされては後には引けなかった可能性もある。

 

 

少し悪い事をしたと思いつつも、こんな俺に真名を許してくれた彼女の誠意は無駄にしたくない。

此処は素直に受け取っておくべきだろう。

 

 

俺は感謝の意を込めて軽く笑みを浮かべ、片手を差し出した。

 

 

「……そうだな。ありがとう、愛紗」

「うぅ……い、いや、此方こそ……?」

 

 

関羽は、いや、愛紗はおずおずとだが俺の手を確りと握り握手に応えてくれた。

何となく口調がおかしい気がするがきっと慣れない事をしているせいだろう。

 

 

「もうこんな時間か……。俺はもう戻るとしよう」

 

 

空を見れば僅かに明るくなっていた。そろそろ夜も明ける。

早く休まねば昼までに起きられないかも知れない。

 

 

「答えは昼までに出そう。例え供に行く事がなくとも、いつか手合わせだけは受ける。期待に応えられるかは判らないがな」

「……良い答えが聞けるのを待っているぞ」

「そう言って貰えるのは嬉しいが、流石に俺一人では決められない。まあ、周り次第だろう。それじゃあな」

 

 

そう言って俺は愛紗に背を向けて天幕へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、俺は夢を見た。

 

 

あのいつも見ていた暗闇を漂う夢ではない。

とても暖かく、幸せに包まれるような、そんな不思議な場所に俺は居た。

 

 

 

 

 

 

(何だ、これは?)

 

 

周りの景色を見るに、何処かの庭……だろうか。

 

 

 

 

 

 

『何をしている、“――”』

 

 

突然背後から声を掛けられ、振り返った先にあるのは黒く塗り潰された何か。

まるでそこだけが周りの景色から抜け落ちたかのように、何も見えない。

 

 

『“――”早く来ないと無くなっちゃうよ~!』

 

 

遠くで別の声が聞こえる。

その声を辿った先も、黒く塗り潰されていて何も見えない。

 

 

だが確かに解る、この塗り潰された先に居るのは人だ。

しかも、この場所にはそれなりの人数が居るだろう。

 

 

声も何となくボヤけていてどんな人物かまでは判らないが、皆一様に幸せそうな事だけは感じられる。

 

 

 

 

 

(何なんだ、これは?俺は、一体何を見ているんだ)

 

 

 

 

 

まるで理解出来ない。

 

 

ただ、混乱する俺の頭とは裏腹に、心を占める感情は……懐かしさ、だった。

 

 

苦しい……

 

 

何か解らないモノが俺を苛んでいく。

 

 

頭が、胸が、心が……張り裂けそうなほどに、強く、痛む。

 

 

 

 

 

 

 

何故、この人達は塗り潰されているんだ。

 

 

何故、見えないのに幸せそうだと解るんだ。

 

 

何故、俺はこんな気持ちになっているんだ。

 

 

何故、何で、どうしてっ!?

 

 

 

 

 

 

 

『“――”』

 

 

一際強く心臓が高鳴る。

 

 

何を言ったのかは聞き取れない。

それでも、俺の心は大きく揺らいでいた。

 

 

辺りは所々が塗り潰されていて何が何だか解らない。

だが、今俺に声を掛けたのがどれなのかは、何故か解った。

 

 

 

 

 

 

(あ…ああ……)

 

 

無意識に塗り潰されたモノに手を伸ばす。

 

 

 

 

そうだ。

 

 

 

この向こうだ。

 

 

 

この塗り潰された向こう側に。

 

 

 

俺が。

 

 

 

心から。

 

 

 

求めた。

 

 

 

モノが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さんっ!!」

 

 

「……っ!?」

 

 

目の前には心配そうに此方を覗き込む風花の顔があった。

 

 

「ふう…か?」

 

 

「良かった……目を覚ましたんですね」

 

 

「俺は……?」

 

 

混乱しながらも身体を起こす。

ふと、冷たい物が頬を伝った。

 

 

「これは……涙、か?」

 

 

頬に触れると自分が泣いていたのだと判った。

 

 

「私が目を覚ましたら、兄さんが涙を流しながら魘されていて……」

 

 

風花は不安そうにしながらも何とかそれを抑え、俺に事情を教えてくれた。

 

 

そうか、俺は魘されていたのか。

 

 

「それで慌てて俺を起こしたんだな」

「……はい」

 

 

また風花に心配を掛けてしまった。

だが何故俺は泣いている?

 

 

 

ゆっくりと蘇る記憶。

 

 

そうだ、あの夢は一体……

 

 

 

「あの、兄さん。もしかして……」

 

 

まるでこの世界に独り取り残されたかのような、そんな不安そうな表情で風花が俺に縋る。

 

「そんな顔をするな、俺は風花を置いて何処にも行ったりはしない」

「そう……ですよね」

 

 

唇を噛みながら辛そうに俯く風花の頭を優しく撫でながら、俺は目を閉じた。

 

 

何となく風花の気持ちが解ったからだ。

 

 

もしかしたら、アレは、俺の――

 

 

 

 

 

 

未だ胸に残る微かな想いはいつまでも消える事なく、俺の心の片隅に残り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

どうも、月影です。

 

 

睡眠時間がががががが

只今月影のリアルSUN値が凄い勢いで削れています。

 

 

冗談はさておき、遅くなってすみませんでした。

再度行間を訂正しました。文字が多くて見辛いところもあったのでこれで少しは見やすくなった筈;

 

 

今回は様々な伏線をバラ撒きました。素人のやった事なので色々とバレてないか不安で仕方がないです。

まぁ、引き伸ばす必要もない物も幾つかありますが、追々本編で明かして行きたいと思ってます。

ただ愛紗のキャラ崩れが酷いような……特に口調が。

 

 

そしてさりげなく下がる閲覧数……意外とあの前書きが気になっていた人が居たんですかね?

それとも思わせぶりな事が書いてあったからつい見てしまった人が多かっただけなのでしょうか。

判断が難しいです;こんな事ならもっと簡単な小説を書いて勉強してからやれば良かった……

 

 

 

他の素晴らしい小説を書いている作家様方を見て心が折れそうな毎日を送っていますが、完結を目指して頑張りたいと思います。

一応プロットも完成していますし、後は盛り上げ方とか基本的な事を色々と学びながら少しずつでも良くして行ければ……

 

 

 

何か毎回あとがきで変な事ばかり書いている気が……;

これも仕事の合間にチマチマ書いているのが原因(ry

 

 

 

こんな素人の書いた小説ですが、支援やお気に入りして下さった皆様に少しでも楽しんで頂ける物が書ければ幸いです。

 

 

 

 


 
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