No.553468 残念佐天さんと残念な仲間たち 満点を目指して2013-03-10 12:59:21 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:2435 閲覧ユーザー数:2364 |
残念佐天さんと残念な仲間たち 満点を目指して
1 わ~お。学校ってば、私を退学させる気満々ですね
「……むにゃむにゃ……私より試験の成績が良い初春なんて…2回死ねぇ~♪」
「えぇええええええぇっ!? 何で私が2回も死ななくちゃいけないんですかぁ!?」
学校の中、しかも授業中の睡眠は最高に気持ち良い。
窓際の席に寝ている私は風の恩恵もあって最高の睡眠環境も手にしている。
瞑った目が開かれることは放課後まで決してない。
「佐天よ。随分余裕だな」
家で寝るのを止めてずっと学校で寝るようにしようかな~?
「佐天さん、起きないと本気でまずいですよっ!」
体が揺さぶられている。
「初春の癖に私の安眠を妨害しようなんて生意気だぞ~。……100回死ね~♪」
「今度は100回死ねって言われました~~!?!?」
佐天さんはこの心地よさを死守してみせる。たとえどんな犠牲を払ってでも。
「なら……佐天は1度社会的に死んでみるか?」
私の頭上からやたらメガネっぽい声が聞こえてきた。レンズ越しにしか出せないこの声はっ!
「だいごっ!!」
目を開け顔を上げるとすぐ側に担任のだいごが立っていた。
「先生を付けろ。だいご先生だろうが」
「女子中学生の寝顔を覗くなんて趣味が悪すぎますよ。いや~ん。エッチィ~♪」
だいごの奴、自分は随分年上の女性と結婚した癖に、女子中学生の寝顔にまで見入るなんて……女なら誰でも良いのか? このケダモノめ。
「しかも指摘する箇所がそこか?」
だいごは呆れた表情を私に向けている。
「で、私の安眠を妨害して一体何の用ですか? ナンパならお断りしますよ」
佐天さんの美貌が世の男性を狂わせることはよく理解している。けれど、年収700万以下の男はゴメンだ。それに不倫もゴメンだ。
「そうだなあ……」
だいごは顎に指を添えて考え込む仕草を取った。まさか本当にナンパ?
「強いて言うなら…佐天に社会の厳しさを教えてやることだろうか?」
「へっ?」
予想外の解答に大きく口を開けて驚いてしまう。
「あの…どういう意味ですか? それは?」
佐天さんの額に冷や汗が流れていく。
「佐天、お前。この間の数学のテストが3点だったのは覚えているよな?」
だいごが瞳を鋭く尖らせて睨んでくる。
「え~と……佐天さんはナンバーワンよりオンリーワンを狙う個性派美少女なのでテストの点数はあまり気にしないのです。佐天さんと3点を発音的に引っ掛けたといことで…」
全身から吹き出る汗が止まらない。
「だが、そんな自分にだけ都合の良い幻想は僕と学校が認めない。テストの点数を気にしなくても良いなんてそのふざけた幻想は僕がぶち殺すっ!」
「ひぃいいいいいいいいいいいぃっ!!」
いつもは温厚で馬鹿にされてもそのままだっただいごが本気で怒っていた。
「佐天に伝えておく。今度の数学試験でもし赤点を取ったら……お前は退学だ」
「たっ、たっ、退学~~っ!?!?」
その唐突な展開に驚いた。
「学校側の正式決定だ。僕も必死で抵抗してきたが……今日の佐天の態度を見てさすがに心が折れた」
「退学ってここ中学ですよ? 義務教育じゃないんですか?」
だいごに必死に反論する。退学はさすがにまずい。
「ここ柵川中学は学園都市内に敷設されている学校で……公立のような体裁を装ってはいるが、実際には私立なんだ。だから生徒を退学にも出来る。退学にされた生徒は学園都市を出て一般の公立に入り直せという方針なんだ」
「なんと……」
顔が強ばる。中学だから留年も退学もないと踏んでいた私が甘かったか。
「そういう訳で佐天……次赤点だったら退学だぞ」
「退学は……勘弁願いたい」
実家を出る際に立派な能力者になって帰って来ると夢を求めるミュージシャンよろしく意気揚々と上京した私は、今更ダメでしたと実家に帰るわけにはいかない。
何としてでも留まらねば。
「で、赤点のラインは?」
「普通なら赤点は35点なのだが……佐天だけ退学が掛かっているということで特別に90点が赤点ラインに設定されている」
「わ~お。学校ってば、私を退学させる気満々ですね」
学校の悪意が、学園都市の悪意が見えるようだ。
「幸い試験までにはまだ時間がある。お前の真の実力を示してみせろ」
「…………分かりました」
学校の正式決定なら私が駄々をこねても仕方がない。
試験で良い点数を取るしかない。それしか実家に逃げ帰らずに済む方法はない。
「よっしゃ~っ! やったるわよぉ~~~~っ!」
こうして佐天さんの退学を掛けた孤独な戦いが始まったのだった。
「って、佐天っ! まだ授業中だぞっ! 1人で勝手に帰るんじゃないっ!」
「退学に関わるのは数学だけなんですよね? なら、数学に全力を尽くさないと」
「それを世間では屁理屈と言うんだっ! ちゃんと授業に出ろ~~っ!」
「いざさらばです」
私は威風堂々教室を去った。
こうして私の満点への道はその第一歩を歩み出したのだった。
2 つまり……初春のパンツが私の成績を下げていたのねっ!!
……で、固い決意を抱いて家に帰った訳なのだけど。
「人間いきなり変われるのなら苦労しないっての……」
私は自室で勉強をするのではなくテレビを見ていた。
家に帰った直後はノートを開いて教科書とにらめっこをしていた。
でも、それは5分しか続かなかった。
だって、どう勉強したら良いのか分からなかったからっ!
それで私は考え方を改めた。
頭の良い人の勉強の仕方を参照にしよう。真似することで勉強の効率アップを図ろう。
そう思った。
で、テレビアニメには1タイトルに1人ぐらいは学年トップの成績優秀キャラがいることを思い出した。
それで私は初春から借りた(強奪した)アニメのBDを鑑賞している。
今見ているのは『僕は友達が少ない』というタイトルの残念系学園コメディー。この作品の特徴はとにかく登場人物が社会的に残念で友達がいないことにある。
最近のラノベのヒロインってかなりの割合で社会不適合者な気もするけれど。
『私も友達が欲しいのよ~~っ!!』
画面の中では金髪でおっぱいが大きくて可愛くて美声の美少女が叫んでいる。
美声が特徴のこの“柏崎星奈(かしわざき せな)”という美少女キャラクターは成績学年トップでスポーツ万能というずば抜けたパフォーマンスを誇っている。
この子を参照にすればきっと私も成績優秀キャラになれるに違いなかった。
『小鳩ちゃ~~~~ん♪ ペロペロペロペロペロペロペロっ♪』
『嫌ぁああああぁああああああああぁっ!!』
星奈というキャラクターはスペック的には全く非の打ち所がない。
けれど、彼女には大きな欠点があった。
それは……友達がいないこと。
『あたしが欲しいのは…放課後一緒に楽しく帰れるような友達よっ!』
成績優秀とぼっち。
この両者の間には一見何の関係ないようにも思える。けれども、考え直してみるとこの2つは強い相関関係を持っている。
「そっか……ぼっちだと、放課後の時間を全部自由に使うことが出来るんだ」
私は放課後になると初春のスカートを捲ったり、初春のスカートの中に顔を突っ込んだり、初春のパンツを覗いたりして過ごしていた。
けれど、ぼっちになればその時間を勉強に費やすことが出来る。勉強時間が増えれば成績が上がるのも道理というもの。
「つまり……初春のパンツが私の成績を下げていたのねっ!!」
私の成績が良くない原因が今はっきりと判明した。
「そうと決まれば早速実行ね」
私は携帯を取り出した。
「もしもし、初春?」
『佐天さん、一体どこに行ってしまったんですか? まだ授業続いているんですよ?』
初春の声は焦っている。
そう言えばまだ5時間目が終わったばかりの時刻。
確かに授業はまだ1時間残っている。でもそれは今重要じゃない。
「とてもとても重要な話があるの」
『話よりもまずは学校に戻って下さいよ~。先生達すっごく怒ってますよぉ』
「その先生達の機嫌を直す為にどうしても必要な措置なの」
『はあ。で、大事な話とは一体何ですか?』
大きく息を吸い込む。
「今すぐその場でパンツを脱いで捨てて頂戴っ!!」
私が次の数学で良い成績を取る為にどうしても必要な条件を述べる。
『なっ、何がどうなったらそんな血迷った結論が出ると言うのですか~~っ!?』
初春の声は凄く慌てていた。
それも確かに無理はない。
でも、私の成績が悪い原因が分かってしまった以上、障害は取り払わなければならない。
「いい、よく聞いて」
『は、はあ』
「私はようやく悟ったの。成績が上がらない原因を」
『それは、勉強すれば良いだけの話なのでは……?』
「初春のパンツが私を狂わせていたことに気付いたのっ! だから今すぐパンツを脱いで、ノーパンで過ごすように生活スタイルを変えてっ!」
次の瞬間、電話がいきなり切れた。
掛け直してみたけれど、着信拒否設定にされていた。
「予定とは少し違うけど……結果オーライってことよね」
私はパンツと初春を失った。
でもこれで勉強に専念できる環境が整った。
低迷の原因を断ち切った私は一心不乱に数学の勉強を始めた。
5分経過、10分経過、15分経過……。
「もっ、もう限界だよぉ~~~~っ!!」
勉強開始から30分。私の忍耐力は遂に限界を迎えた。
「私にはまだぼっち力が足りない。もっともっと友達が少なくてハイスペックな人を観察して、孤高の存在にならなくちゃっ!」
私は勉強に集中できる方法をみつけるべく頭が良くて友達が少ない人に会うことにした。
そう。私の知り合いにはそれを叶えてくれる人がいたのだった。
3 というわけで御坂さん。勉強の秘訣を教えてください
「というわけで御坂さん。勉強の秘訣を教えてください」
「何でだろう? 私は今、全力で泣いて良いような気がしてならないんだけど」
というわけで私は友達が少ない達人である御坂さんの元を訪れていた。
レベル5であるが故に近寄り難い存在となっている御坂さんに友達が少ないことは白井さんや湾内さんからよく聞いている。
ちなみに湾内さんは御坂さんを尊敬する先輩と呼び、友達とは決して言わない。白井さんは運命の想い人と呼び、友達とは決して言わない。
御坂さん自身もヤプーの質問掲示板にも『21世紀のラムちゃんことゲコタ』のハンドルネームで友達の作り方をよく質問しているのできっと間違いない。
「ねえ、佐天さん。何で私の所までわざわざ……勉強を教わりに来たの?」
「そんなの、御坂さんが頭の良い友達だからに決まってますよ」
私の言葉を聞いて御坂さんの表情はパッと華やいだ。
「そ、そうよね。友達同士なら勉強を教え合うのもよくやるわよね。うんうん♪」
やたら嬉しそうな御坂さん。友達という表現に気を良くしているのは間違いない。
私は常盤台のエースにして学園都市の頂点に君臨する友人の将来が心配になった。
こうも簡単にコロッと信じてしまうようだと、将来凄い詐欺に遭うんじゃないかって。
こう、騙されて本人も知らない間にクローンを2万体ぐらい作られて、しかもそのクローン達が実験動物として無慈悲に次々と殺されていくとかそんな展開を。
「それで佐天さんは一体どこが分からないの?」
「とりあえずこの数学の教科書全部でしょうか?」
ファミレスのテーブルの上に中1数学教科書を広げておく。
「ああ。私が4歳の時にマスターした分野ね」
「御坂さんに友達がいない理由が分かった気がします」
「えぇえええええええぇっ!?」
御坂さんは立ち上がりながら驚きの声を上げた。
「どうして!? どうしてクラスメイトの佐藤さんと同じことを言うの?」
「あの、佐藤さんって?」
「あれは新しい学年に上がったばかりの4月の頃。化学が苦手だという佐藤さんの勉強をちょっと見ていた時のこと。5歳の時にマスターした領域だから任せてと胸を張った途端に佐藤さんに佐天さんと同じことを言われたのよぉっ!」
「ああ。何か、分かっちゃいました。佐藤さん、とても傷ついたんですね」
「あれから佐藤さん。席替えするまで私と一言も口を聞いてくれなかった……」
テーブルに両手をついて落ち込む御坂さん。
「えっと、それは御坂さんが空気嫁……いや、レベル5は孤高の存在だから致し方ないかなと」
残念なのは御坂さんの言動にある。誰だって中学生になって4、5歳児に劣っていると言われればプライドが傷つくに決まっている。
でも、御坂さんはそれを誇りたいのではなくただ事実として告げている。ハイスペック過ぎて下々の悩みが理解できない人なのだ、この人は。
そういう意味でこの友達の少ない先輩は柏崎星奈に似ているのかも知れない。
「佐藤さんだけじゃない。加藤さんも田中さんも高橋さんも松浦さんもみんなみんな、私が話しかけるとそれ以降口を聞いてくれなくなる。どうしてなの!?」
御坂さんは普段私たち提供の話題に応答するだけで、自分から喋ることはほとんどない。
会話するとことごとく嫌われるとは相当な空気嫁であるらしい。知らなかった。
「ですから、レベル5は孤高な存在で……」
同じ弁を述べる。ちなみにこの弁、嘘というわけでもない。
御坂さんがレベル1から努力でレベル5に登り詰めた過程には血が滲むでは済まないような過酷なトレーニングが幼少期からあったという。
一般の子供とは引き離され、代わりに研究者や技術者に囲まれて実験実験の日々。要するに御坂さんは同世代の子と触れ合うことに慣れていないのだ。
しかもとんでもない快挙を根性で成し遂げ、大人には尊敬と畏敬の念と邪な興味をもって接せられることに慣れすぎた。その結果、今も御坂さんは子供社会の常識から大きく逸脱した存在になってしまっている。それが彼女を孤立させている原因の1つであることは間違いない。
「体育の時間の準備体操で2人組みになる際に、いつも私だけ先生と組むのよ……」
「きっとみんな、御坂さんに怪我でもさせたらと心配になって先生に任せているんですよ」
「調理実習の時も、特別御坂さん班が最初に結成されて1人ぼっちで作業しているの……」
「御坂さんの料理の腕はプロ級ですから、他の子が手を加えて味が落ちてしまうことを避けたいんですよ。きっと」
「臨海学校に行った際にも、私だけ所属する班が最後まで決まらなかった……」
「それは完璧御坂さんがハブられているからですよ……あっ」
つい、思ったことをそのまま口にしてしまった。
「やっぱり……私、ハブられてるんだぁ~~~~っ!!」
御坂さんはファミレス内であるのにも関わらずマジ泣きを始めてしまった。
「やっぱり私は友達ができない駄目女なんだぁ~~~~っ!」
「御坂さんが駄目女だったら、この世界の全ての女は存在する価値さえなくなっちゃうんですけど!?」
今日の御坂さん、すっごく扱い辛い。
どうしたらいいの!?
4 白井さん……ここのお勘定をお願いしますね
「やれやれ。お姉さまが友達に会いに行くなどと妄言を垂れ流しているのでおかしいとは思っていましたが……こういうことでしたのね」
「あっ、白井さん」
白井さんがヨガテレポートで私たちの前へと現れた。
「お姉さまに友達なんているはずないのにと思っておりましたが、佐天さんだったのですね」
「今の御坂さんにそれを言っちゃあダメですって」
「やっぱり黒子も私には友達いないって思ってるんだぁ~~~~っ!」
再び大声で泣き出してしまう御坂さん。
「お姉さまに友達がいないのは昨日今日に限ったことではないのです。もっとシャンとしてください」
「何よ……黒子だって友達少ないくせに」
御坂さんが拗ねた瞳で白井さんを見る。
「はあ? わたくし、クラスメイト全員から年賀状をいただきましたわよ」
「へっ?」
御坂さんが目を点にした。
「嘘? 年賀状って企業や研究所や大学関係者以外からも来るものなの?」
そしてとてもおかしなことを聞いてきた。
「佐天さんも年賀状はたくさん頂いたのでは?」
白井さんは直接には質問に答えずに私へと話を振った。
「うちは共学なのでクラスメイト全員とはいきません。けど、学校全体で60枚ぐらい。故郷の友だちやその他を全部合わせると100枚ぐらい年賀状もらいましたね」
「さすがは佐天さん。交友関係がお広いようですわね」
「御坂さんと違って企業の偉いさんからの年賀状なんて1枚もありませんけどね。それに100枚も出すとハガキ代だけで5,000円にもなるんで大変なんですよ」
年末はただでさえ出費がかさむ。それに加えて年賀ハガキ代金を捻り出さないといけないので大変なのだ。
「年賀状って友達同士で出し合うものだったんだ。知らなかった……」
「ええとぉ……御坂さんにも年賀状送ったはずなんですが?」
常盤台では御坂さんと白井さん、湾内さんと泡浮さん、婚后さんに年賀状を送った。御坂さんを除く4人からは年賀状が届いたし、私のハガキが着いたことを知らせるメールもあった。だから御坂さんにも届いているはずだと思うのだけど?
「お姉さまは今年の元旦、届いた年賀状の山、カッコ、99%以上がお姉さまの能力目当ての大人からのもの、カッコとじを整理の最中に誤って電撃を発射。全て灰にしてしまいましたの」
「だって……年賀状に紛れて小さなクモが1匹混じってて怖くなって」
「うわぁ。それはまた残念な理由で吹き飛ばしたんですねえ」
御坂さんってこんなに残念な子だったのか……。
「とにかくお姉さまが友達を得るなど10年早いということですわ。身の程を弁えて欲しいですの」
白井さんはいじける御坂さんを見ながら言い捨てる。
「いや、私は御坂さんの友達のつもりなんですが」
手を横に振りながら白井さんの話を否定する。
「クイーン・オブ・リア充の佐天さんにとってお姉さまは100人以上いる友達の中の1人に過ぎません。幾らでも誰でも代替可能です。切って捨てられる存在ですの」
「確かに最近メールや電話のやり取りは、いつもゴーグルを掛けている双子の妹さんの方が10倍ぐらい多いです。でも、御坂さんは大切な友達です」
「何でそんなに妹と親しいの!?」
御坂さんが私を見ながら滝の涙を流す。
あれ?
援護射撃をしているつもりなのに何故に落ち込む?
「御坂妹さんって、お姉さんより親しみ易いっていうか喋り易いっていうか」
「妹ってこれ以上ないぐらいにぶっきらぼうだと思うんだけど!? と、ミサカは誤解に肩を震わせながら……みたいに自分の状況付け加えて喋るし!」
御坂さんは大きく目を見開いて異議を唱える。
「自分の能力にコンプレックスを抱いている所もそっくりなんですよね。こう、レベル5今すぐ全員地球上から消えてくれたら良いなあってよく愚痴り合って共感してますよ」
「私、レベル5なんですけど……ううう。妹と、佐天さんにまで……」
御坂さんは床に手をついて落ち込んでしまった。
「あっ」
うわぁ~どうしよう。やっちゃった。
「肉親の情も女同士の友情もぼっちなお姉さまには縁のない話なのですわ」
白井さんはここぞとばかりに御坂さんの肩を掴んで優しい言葉を掛け始めた。下心アリアリのニヤケ顔でもって。
「信じられるのは友情ではなく愛情。そう、愛情だけなのですわ」
「愛情……」
白井さんがその名の通りに黒さを全開に発揮する。御坂さんを落としに掛かっている。
「そうですわっ! さあ、お姉さまっ! 私の溢れんばかりの愛を受け取って2人で禁断のイヴとイヴにぃ~~っ!」
「愛情~~~~っ!!」
御坂さんが立ち上がると共に全身から黄金のオーラ(電気)が走る。
「うっきゃぁああああああああぁっ!?!?」
御坂さんに向かってルパンダイヴを決行していた白井さんが一瞬にして焦げた。
「そうよっ! 友達いなくたって、恋愛はできるのよ~~っ!!」
御坂さんは何かを悟ったみたいだった。とてもダメな方向に。
「むしろ、ぼっちでいればいるほどに意中の男の気は惹けるんだから~~っ!」
ギャルゲーにおけるぼっちヒロインと自分を重ねているのかもしれない。
「待ってなさいよ……上条当麻~~っ!!」
御坂さんは私が年賀状を出した男子高校生の名前を挙げると全力ダッシュで喫茶店から出ていった。
「お、お姉さま……ガクッ」
策士策に溺れた白井さんは力尽きて床に倒れた。
「あっ! 結局勉強できなかった」
先生が帰ってしまったので勉強は1分もできずしまい。
「帰ろう」
数学の教科書とノートをカバンに放り込む。
「白井さん……ここのお勘定をお願いしますね」
気絶した白井さんの頭にそっと伝票を乗せると私は店外へと出ていった。
5 そっかあ。やっぱり私には…………パンツしかないのね
結局昨日は御坂さんを訪ねたものの勉強の成果は芳しくなかった。
「試験まで後1週間。どうしたものかしらねえ?」
郵便受けを眺めながら息を吐く。
自主休学を決めているので時間は1週間丸々ある。何としてでも数学の試験で90点以上を取らなくては。
でも、どうすれば……?
悩みながら今朝配達された手紙を見る。
「あっ。御坂さんからだ。うん?」
裏面がカラー写真画像になっているハガキに違和感を覚える。
「上条当麻、美琴? 何で連名で手紙が届いているんだろう?」
ハガキには2人の名前が記されており、しかも御坂さんには苗字に該当するものがない。
気になって裏を確かめてみる。
「ああ、なるほど。そういうことかあ」
裏面には、ツヤツヤの肌で満面の笑みを浮かべながら真っ白いウェディングドレス姿でピースする御坂さん。そしてげっそりとした顔で白いタキシードに身を包み、御坂さんと腕を組んで、というかホールドされている上条さんの姿が写っていた。
「ご結婚……おめでとうございます」
ハガキに向かって一礼してみせる。
「ていうか、昨日の今日でもう結婚って……レベル5、マジパネェっすよ」
大きく息を吐き出す。
「お幸せに…………上琴万歳」
ハガキを見ていると急に疲れが襲ってきた。まだ朝起きたばかりだというのに。
「寝直そう」
元々なかった勉強に対する意欲は完璧に霧散した。
その日は1日結局寝て過ごした。勉強は……しなかった。
で、更にその翌日。
「引き篭もりと情熱的学習の狭間に今私は立っている」
自分の置かれている状況を冷静に振り返ってみる。
自宅学習を始めて2日目。早退して帰ってきた一昨日も含めると3日目。
自分が何気に学校から既に戦力外通告されているのではないかという可能性に思いを寄せたりしてみる。
「いやいやいや。ここで数学100点を取ればだいごも校長も私の再評価を行なってくれるはず」
拳を握りしめる。けれど、心の奥底にある不安は拭いきれない。
「こんな不安がいっぱいな時にこそ……初春のパンツっ! 初春のパンツなのよぉ~っ!」
私は心の栄養素が足りていないことを認めざるを得なかった。
パンツ分が今の私には圧倒的に足りていない。昨日初春のパンツを見なかったから。
パンツ分は主に初春のパンツから摂取されるパンツ分U。その他の美少女のパンツから摂取されるパンツ分Sに分類される。
パンツ分、特にUが欠乏するとビタミン不足の如く心と体に大きく悪影響を与える。ちなみに自分のパンツを見てもパンツ分は補充されないので他人のパンツが必要となる。
「って、何を言ってるのよ、私は? 数学の点数が上がらないからこそ、初春のパンツを絶ったんでしょうが」
頭を横に振る。
「たとえ、二度と初春のパンツを見ることができなくても……私は90点以上を取ってやるんだから」
悲愴な、とても悲愴な覚悟を固める。
と、その時携帯が音を立てて自己主張を始めた。
「初春からっ?」
ディスプレイは発信者が『初春・パンツ・飾利』と示している。
一昨日私を着信拒否にしたあの子が一体何故?
「どうしたの?」
初春の偽者かも知れないと用心しながら通話に出る。
『どうしたのじゃありませんよぉ~っ。2日も何の連絡もなく学校を休んだら心配するに決まっているじゃありませんか』
初春の声は泣きながら怒っていることを連想させた。
「ごめんごめん。どうしても数学に集中するには学校に行ってられなくてね~」
陽気に笑ってみせながら謝る。
初春を過度に心配させてしまったのは大きなミスだった。
『…………そんなこと言って、どうせ学校を早退して以降、ろくに勉強してませんよね』
「…………御坂さんや白井さんには手伝ってもらったよ」
電話なのに液晶画面から目を逸らす。
『御坂さんからは昨日結婚通知が届きました。白井さんは全治3ヶ月の重症でジャッジメント支部は人員不足で大変なことになっています。佐天さん、一体何をしたんですか?』
初春の声がとても冷たく聞こえた。
「あはははは。幸せを掴むお手伝い、かな?」
『だから、結局勉強は進んでいないんですね』
「…………はい」
電話越しにも伝わってくる初春のドライな空気に恐縮して素直に答えるしかない。
『どうするんですか? 次の試験で数学満点でないと退学になっちゃうんですよ』
「90点から満点に難易度が更に上がってるぅ~~」
学校に行かない2日間の間にハードルは更に高くなっていた。
『このまま佐天さんとお別れなんてわたしは嫌ですよ』
「そんなの私だって嫌に決まってるよ」
私よりも焦っていることが分かる声を出す初春。言い直せば真剣に私のことを考えてくれている。
『だったら、今からでも学校に来て先生にハードルを下げるように頼んでみるとか』
「それは無理でしょ」
35点の筈だったハードルが90点となり満点になった。
即ち学校側は本気で怒っているということ。中途半端にゴマ擦って怒りを鎮めようとしても無駄だろう。それよりも──
「それよりも試験で満点を取る方に全力を傾けるのが筋ってものでしょ」
結果を出して学校には認めてもらうしかない。
『なら、尚更学校に来てください。みんなで佐天さんの数学を見てあげればもしかすると満点だって……』
「もうすぐ定期試験でしょ。私1人の為にみんなの勉強を足引っ張るような真似はできないよ」
『でも、このままじゃ佐天さんが学校からいなくなっちゃうじゃないですか。そんなの……嫌です』
初春は泣き声だった。
親友の悲しみを聞いて私は身がとても引き締まった。
「大丈夫。私は満点を必ず取ってみせるよ」
初春に宣言する。
「だからさ。初春は泣いていないで自分の試験勉強をちゃんとしなさい」
『…………本当に、大丈夫なんですか?』
「佐天さんを信じなさい」
初春にこんなに泣かれてしまっては……満点を取ってみせなきゃ女が廃る。
『なら、佐天さんが数学で満点を取ったらご褒美をあげちゃいますね♪』
初春の声が笑ってくれて凄く安堵感を覚えている。
「ご褒美って一体何?」
『恥ずかしいですけど……佐天さんに1日スカートまくり放題券をプレゼントします』
「初春のスカートまくり放題券……っ」
自分の中で熱く何かが滾ってくるのを感じる。
その滾りは私を激しく突き動かす。
勉強しろと、満点を取れと私を駆り立てる。
「そっかあ。やっぱり私には…………パンツしかないのね」
成績が下がった理由がパンツなら、成績を上げる為の材料もパンツしかない。
私はそれをハッキリと悟った。
『えっ?』
「可愛いパンツを準備して待っていてって言ったのよ。めくるのに相応しいパンツをお願いね」
「はいっ♪」
その後短く二三言交わして電話を切った。
「よっし。やりますか」
ご褒美の真っ白い初春パンツを頭に思い浮かべながら私は机へと座った。
柏崎星奈とは別の方法で私なりに頂点を目指してみせる。
エピローグ
「佐天……よくやったな。数学の試験は見事満点だ」
だいごから数学の試験の解答用紙を渡された瞬間に教室中から大きな拍手が巻き起こった。
クラスメイトのみんなから口々におめでとうの声が寄せられる。
「やりましたね、佐天さんっ!」
初春なんて涙ぐんでいる。
「みんなのおかげで満点が取れた。だから……ありがとう」
初春に、クラスメイト達に向かって頭を下げる。
「約束通り、学校が今回の1件で佐天を退学にするのはなくなった」
教室内から大きな大きな拍手が巻き起こる。
みんな、私の残留を喜んでくれている。
泣き出してしまいそうになるぐらいに嬉しい。
「それから佐天にはもう一つ追加の話がある」
だいごは私の顔を見ながらニカッと笑ってみせた。
「1週間以上の学校の無断欠席。数学以外の全科目が赤点。というかひと桁台。プチ切れた教師陣によって、次の試験全教科満点でなければ退学が決まった」
「わあ~い。ハードルが上がっちゃったぁ~~」
全米と全私が泣いた。
「佐天さんっ! 次の試験では全教科満点なんて本当にできるんですか?」
放課後になって初春が私の元へと駆け寄ってきた。すごく心配そうな表情を浮かべている。だいごに課されたハードルの高さを考えれば当然の話かもしれないけど。
「まあ……パンツの加護があればどうにかなると思いたい」
無理だと述べても何も始まらない。希望を捨ててないことを初春に話す。
「まあ今は今回の試験を乗り切ったお祝いをしたい」
そう。目の前の山を乗り越えた報酬を味わってこそ、更なる険しい頂に挑むことができるというもの。
「スカートまくり放題券を早速今日行使するわ」
「はいっ♪」
楽しげに頷いてみせる初春。よほどの自信作なのだろう。
ということは、御坂さんのようなゲコタパンツか。それとも初春大好きな水玉か。
でも、私としては何も描かれていない無地が一番いい。
初春らしさを引き立ててくれる清純なパンツがいいっ!
「さあ、いくわよっ!」
私は約2週間ぶりに初春のスカートの裾に手を掛けて大きく持ち上げた。
「いや~ん。マイッチング~~♪」
初春がテレ顔を見せる。でも、スカートを抑えない。
そんな協力的姿勢を見せてくれる彼女の自信作パンツとは!?
「えっ?」
ソレを見た瞬間、私は胸が、心が凍りつくのを感じた。
「何……ソレ?」
心臓が止まってしまうのを胸に手で圧力を掛けて必死で食い止めながら初春に尋ねる。
「白井さんに相談したんですよ。女性を喜ばせる下着って何でしょうかって。そうしたら、黒のスケスケ以外にありえないって。だから、頑張って一番大人っぽいのを履いてみました。えへっ♪」
可愛らしく微笑んでみせる初春。
少女の精一杯の背伸びが見えるレース仕様のスケスケの黒。
その13歳の少女が履くには少し早すぎる1品は……初春の清純さを期待していた私の心を根元からへし折ってしまった。
「し・ら・いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいぃっ!!」
異なる美少女見解を持つ友人の名を叫びながらやるせなさを大声で嘆いた。
「わたしのパンツを見て元気になって、次の試験では全教科満点をお願いしますね♪」
一点の曇りも見られない初春の笑顔。
「…………はい。頑張ります」
ため息を吐きながら頷いてみせる。
「またアニメ見て、勉強法を考えよう」
窓の外を見ながら更なる難関への対処策を模索することに決めた。
パンツに関連する漫画って変態仮面ぐらいしか思い付かないなあって頭の中で思い浮かべながら。
了
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佐天さんの日だということで、以前書きかけだったものを完成させてみましたとさ。 【宣伝】3月5日、新しく出帆した株式会社玄錐社(げんすいしゃ) http://gensuisha.co.jp/
より音声付き電子書籍アプリELECTBOOKで1作書かせて頂きました。題名は『社会のルールを守って私を殺して下さい』です。ELECTBOOKの最大の特徴は声付きということです。会話文だけでなく地の文も声が入っているので自動朗読も設定できます。価格は170円です。使用環境は現在の所appleモバイル端末でiOS6以降推奨となっています。以下制作です。 作:桝久野共 イラスト:黒埼狗先生 主題歌 『六等星の道標』歌/作詞 こばきょん先生 作曲 波多野翔先生 キャスト:由香里様、高尾智憲様、田井隆造様、坂井慈恵士様、竹田朋世様(皆様 株式会社オフィスCHK所属)発行者 小野内憲二様 発行元 株式会社 玄錐社(げんすいしゃ)。*ダウンロードして視聴できない場合には再度のダウンロードをお願いします。最初の画面では再度課金されるような表示が出ますが、クリックすると無料ダウンロードとなることが表示されます。