No.551614

リリカルなのはSFIA

たかBさん

『傷だらけの獅子』を追う者達

序章はここまで!次回から本格的にストライカーズを始めます。
すっごい長文になってしまいましたが、時折コメディも混ぜているので最後まで出来れば読んでください。
では、どうぞ。

2013-03-05 18:38:08 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7389   閲覧ユーザー数:6490

 『傷だらけの獅子』を追う者達

 

 クロノ視点。

 

 

 

 タカが失踪して五年。

 その間何の連絡もなかったが、僕がエイミィと婚約してしばらくすると、執務官(・・・)としての仕事が大量に入ってきた僕はそれを何とかこなしていた。

 それはまるで、その時の僕が最高の功績を上げることが出来るような仕事ばかり。

 今日もまた匿名で送られてきた情報を元に、管理外世界で違法な研究をしていた研究所を抑えた所だ。

 

 …ここか。プロジェクト・F。

 人員不足解消の為に管理局が秘密裏で行っているという実験施設は…。こんな人を人だと思わない事なんて、決して許される物じゃない!

 

 時の庭園で見たアリシアの入っていたカプセルに似た物が乱立している研究所を見て僕は思わず顔をしかめる。

 カプセルの中には脳みそだけの者から内臓だけの物は序の口。

 中には今にも動き出しそうな人間の内臓が洗濯機の中でぐちゃぐちゃに混ぜられたような物まであった。

 

 「ハラオウン執務官!し、失礼しました!総督(・・)!実験施設にいた科学者たち全員を捕縛しました!」

 

 「ああ、わかった。捉えたものから順にアースラの囚人部屋に放り込め」

 

 「畏まりました!」

 

 僕の指示で数人の武装局員がバインドされた研究者たちをアースラへと転送させていく。

 その中で僕は入り口に一番近くに転がっていたカプセルに詰め寄ってその中身を確認した。

 カプセルは割られてはいたが中にあったデータチップは無事だった。後で解析に回すとしよう。

 このチップの在り処を教えたあいつからの連絡かもしれないのだから…。

 

 

 

 「エイミィ。この解読をお願いできないか?」

 

 「オッケーオッケーだよ。旦那様♪」

 

 「…今は仕事中だぞ」

 

 「…お疲れ様。…お義兄ちゃん」

 

 エイミィとは婚約してから既に一年。

 フェイトはうちの養子になった。

 フェイト・(テスタロッサ)・ハラオウン。と、名前が変わった彼女は今、執務官補佐として僕の手伝いをしながら執務官を目指している。

 タカの疾走からのショックで落ち込んでいたが、フェイトは自分も執務官になりこのようなことが二度と無いようにともう勉強を重ねて、今年の試験に受け、合否を待っている最中なのだが試験後の様子を見ると合格していることだろう。

 本当ならフェイト・テスタロッサのままでいさせたかったが、テスタロッサのままだとJ・S事件をネタに彼女自身の脅迫に来るかもしれない輩が出てくる。

 それをガードするのが『ハラオウン』の名前だ。これを掲げていれば多少は守れる。

 僕は地球に通じる転送装置に乗り込む前にエイミィにデータチップを渡し、フェイトからは労いの言葉を貰いながら、アースラにある自室に入ると、来客用の椅子に母さんとプレシアがいた。

 

 「お帰りクロノ♪」

 

 「お邪魔しているわよ」

 

 「丁度よかった。僕もあなた達にお話したいことがあったんです」

 

 あの時から一年。タカの捜索をするものの結局見つけることが出来ず落ち込む皆の顔を見るのが辛かった。

 あの時、僕の発言を聞いてフェイトは自分も執務官になってタカを探すと言って猛勉強し始めた。はやては時空管理局の時空戦艦艦長になって次元の海でタカを探すと言い始めた。

 僕がエイミィと婚約を結んでから急に執務官の仕事が増え始めた。

 それも僕個人(・・・)に対応できるような規模から、何者かによって魔力ではない何かで、力任せに壊滅寸前(・・・・)に追い込まれた違法研究所だったりと。

 

 「…なんのことかしら?」

 

 「とぼけないでください。母さん。いや、リンディ次期()提督」

 

 母さんも提督から総提督にした。

 母さんもまた、僕同様に匿名(・・)の情報提供者から違法を取り締まり、昇格していったのだ。

 

 「あなたもうすうす気が付くころなんじゃないかしら?」

 

 「最初は過去のプレシア関係の研究者に的を絞っていたと思っていたが、最近の仕事はここ最近の研究所も多い。…高い情報処理能力。ブラスタ。あの力任せに破壊された研究所の形跡はガンレオン。そして、…タカからの提供ですね」

 

 五年前に姿を消した彼が動いていると思いたかった。

 そんな僕の気持ちが通じたのか、否定すると思っていた二人はあっさり肯定の意を示した。

 

 「…さすがエリート執務官。既に死亡扱いされているのに生きていると想定するとは。…現実的ではないわね」

 

 私やアリシアの事もあるけどね。と、プレシアは付け加える。

 プレシアは今現在。

 リニスとアリシアを連れて月村に引っ越し、D・エクストラクターの研究をしながら、ミッドのカートリッジシステムの改善に着手している。

 あくまで地球出身の協力者として善意(・・)の事である。

 ミッドから少しでも不平等な取引を持ち出されても、彼女は地球出身と表明された今、過去の事件を後ろ盾に彼女を捕えようとしても無理な話である。

 つまり、管理局には何の拘束力はない。

 むしろ、彼女に何かすれば執務官候補の高ランク魔導師のフェイト。

 同じく高ランクの戦闘教義官を目指している高町なのは。

 夜天の書の主。八神はやて。その騎士達。

 なかでも()管制プログラムだったリインフォースの知識は管理局にも、聖王教会という組織にも重宝される。

 そんな彼女達を敵に回すのだけは避けたいはずだ。

 

 「私の自慢の息子よ♪」

 

 もちろん、僕等『ハラオウン家』も黙っているはずがない。

 今まで匿名での情報提供で僕はかなり顔が利く存在にもなったし、フェイトを悪くいう奴も減った。

 あまりにもご都合過ぎるほどに…。

 

 「質問に答えてください!」

 

 プレシアも母さんも高志がいなくなった当時は一生懸命に動いていたから信じたくはなかった。だけど、一ヶ月。それ以上は伸ばせなかった。

 僕の執務官権限で発動させた探索期間を過ぎてからその勢いは一気に衰えた。

 なのはやフェイト。ユーノにアルフ。ヴォルケンリッター。誰もがそれに絶望した。

 

 

 ただし、母さんやプレシアを含む数人を除いて!

 

 

 アリシアやはやて。アリサにすずかといったタカに友情以上の情を寄せていた者達の落ち込みようといったら、それはもう酷い落ち込みようだった。

 絶望的な状況に諦めた。…そう、最初に見切りをつけたのはリニス。次に母さん。

 その一年後にプレシアとリインフォースだった。

 だけど、娘を生き返らせるために次元振動。世界を滅ぼす危険をも犯した、あの(・・)プレシアに限ってそんな事はありえない!

 だけど、プレシアと一緒に過ごすことになったリニス。そして、現在ははやての秘書を務めているリインフォースが落ち込んでいる彼女達が無理をしないように諌めている。

 一年間、スフィアの研究をしながらタカの探索も全力を尽くした姿も見れた。ということもあってか、その疑いは薄いものだった。

 だけど、あまりにもあっさりしすぎていたからこの疑いは消えることのないまま、今、それが爆発した。

 僕等がどんな想いで彼を探してきたか分からないでもないはずだ!

 

 「クロノ、落ち着きなさい。これにはわけがあるのよ」

 

 それだけじゃない!

 管理局の暗部を知っているプレシア。プロジェクトF。

 

 「…いったいどんなわけがあるっていうんだ。フェイトやなのは。アリシアにはやて達だってみんなあいつを思って涙を流しながらあの最後の最後まで探していたんだぞ!」

 

 僕はいつの間にか握り拳を作っていた。その拳からは血もにじんで黒い手袋からは数滴の血がしたたり落ちた。

 

 「………クロノ。全てを知る覚悟はある?」

 

 母さんは僕の目を見て、それでいながら寂しそうに尋ねる。

 

 「………聞けばあなたも辛い目に会うわよ。…私みたいに、ね。ある意味死ぬより辛いことを聞くことになるから」

 

 プレシアは寂しげにため息をつく。

 その言葉に僕は躊躇わず頷いた。

 

 「聞きますよ!あいつは僕の友達だから!」

 

 

 なのは視点。

 

 

 

 「と、いう訳で高町なのは。今日から一管理局局員としてミッドの管理局にある兵舎に移り住みます」

 

 私は住み慣れた家の玄関で家族の皆に敬礼をする。

 

 「…なのは。辛くなったらいつでも帰ってきていいからね」

 

 「お前が決めた道だが…。無茶はするな。…もう、あんな思いはしたくないからな」

 

 「まあまあ、お父さんにお母さん。寂しくなったら恭ちゃんのところに行けば、異世界でもすぐに会えるんだから…」

 

 お母さんはやや涙目。お父さんは私がとある事件で瀕死の重傷を負った時のことを思いだしたのか少し不安げな顔つきで。お姉ちゃんもお父さんほどではないが心配するような顔で私を見送ろうとしていた。

 

 「…なのは。どうしても行くのか?命の危険があるところへ」

 

 「うん。だって私にはみんなを幸せにする力が。それを守ることが出来る力があるから…」

 

 大丈夫。と、言おうとした時だった。

 

 

 「『自分が幸せになれてないのに、誰かの幸せを守るとか言うな』」

 

 

 「…え?」

 

 「…誰よりも弱い事を知っている男の言葉だ。そして、誰よりも傷つき、寂しがっている馬鹿な男の言葉だよ」

 

 お兄ちゃんは諦めたという表情をして私にそう言ってきた。

 

 「…やっぱり、お兄ちゃんは知っていたんだ」

 

 誰よりも弱い事を自負し、誰よりも寂しいくせに、誰よりも傷ついた男。

 私はその人を知っている。

 

 「…すまないな。あいつとは三年前から連絡が取れていたんだ。あいつは俺や父さんの稽古を受けるためにな。もっとも俺には教えるという才能もないからあまり力になれなかった」

 

 年に数回だけど、懐かしい匂いのような空気を私は道場の中で感じていた。

 だけど、レイジングハートで探っても反応は示さないし、リンディさんに頼んでくまなくアースラで調べてもらっても駄目だった。

 

 

 だけど、意図的に駄目(・・)だと結論付けられていたとしたら?

 

 

 それを思いついたクロノ君は今、確証を取りに向かっているだろう。

 フェイトちゃんもクロノ君を二重尾行する形で証拠固めに走っている。

 はやてちゃんの方は、シャマルさんの探索魔法とザフィーラさんの嗅覚で。アルフさんも一緒だ。

 ユーノ君はミッドにある転送装置の履歴を調べてもらっている。

 クロノ君が言うには幾つもの証拠を叩き付けることによって相手の真意を測るという物。

 

 「口止めされていたんだ。男同士の約束という奴だな」

 

 「…むぅっ」

 

 「あいつがどうしてお前達に会いたがらないかまではわからない。だけど、俺も父さんも身近にいる人達を傷つけないために距離をとることもあった。そんな目をしていたんだよ。あいつは…。だから、理由は聞いていない。聞くなら自分で聞け」

 

 お兄ちゃんはぶっきらぼうにそう言うと苦笑いをした。

 

 「男の人っていつもそうなのよね…」

 

 「一人で勝手に背負い込むのが格好いいとか思っているんじゃないかな?」

 

 お母さんとお姉ちゃんはお父さんとお兄ちゃんをそれぞれ睨むような目線で皮肉を言う。

 

 「男と言うのはそういう奴さ」

 

 「こればかりは、な…」

 

 お父さんもお兄ちゃんも苦笑いをする。

 …なんだか悔しい。男の世界と言うか、男の子の世界というか。なんというか仲間外れにされた気分だった。

 

 だから、魔法世界の中心ミッドを拠点に探すんだ『傷だらけの獅子』を!

 見つけたら絶対にお話してもらうんだから!

 

 

 はやて視点。

 

 

 

 クロノ君から連絡が取れた。

 やっぱり、『傷だらけの獅子』は…。生きていたんや!

 

 「『傷だらけの獅子』は誰よりも主達の事を思っていた。まるで大人(・・)子ども(・・・)を守る様にな」

 

 「あいつが私達を見る目はとても優しかったこともあったな。はやて以上に、それこそ私達の親か!?て、思うぐらいに」

 

 「術も力の使い方も知らない。だけど、あいつは常に私達の前に立って、守ってくれた」

 

 「だが、厳しさは無い。優しさだけだった。それがあまりにも脆くも大きく感じてしまうことは多々あったな」

 

 「タカシには返せない恩義が山ほどあるからな」

 

 「…だからこそ、私達は行くんや。今度は私達が与えてあげる番や」

 

 ヴォルケンリッターとその主の言葉を

 私は住み慣れた家を離れ、ミッドに移り住む。

 それは私自身が私だけの部隊を作り、ある人物を探すためだ。

 

 「とは言っても私は戦闘にほとんど参加できないがな…」

 

 リインフォースは少し落ち込むような表情を見せながら長年過ごしてきたはやての家を見る。

 

 「大丈夫です!お姉様の分まで不肖ながらこの二代目リインフォース・(ツヴァイ)がばっちりはやてちゃんのサポートをするです!」

 

 子どもっぽい口調。まるでリインフォースが幼くなったかのような銀髪の女の子。

 私の新たなるユニゾンデバイス。第二の祝福の風。ツヴァイ。皆はリインと愛称で呼ぶことにしている。

 

 「…ああ、そうだな。主達を頼むぞ。リイン」

 

 「はいです♪」

 

 その姿を見て、私達は海鳴の街を後にする。

 

 「それじゃあ、皆。…行こうか」

 

 「「「「「はい(おう)!」」」」」

 

 待っとれよ。高志君!

 絶対にその尻尾捕まえたるからな!

 

 

 アリシア視点。

 

 

 

 「・・・なんとなく、だけど。私、本当はもう二度と会えないんじゃないかって思っているんだ」

 

 「ぎー」

 

 ミッドに向かう月村邸に設置された転送装置がある部屋の前で、私は荷造りを終えたチビ君を抱えあげて、胸に抱いた。

 この子は力が強いのにとても軽くて頑丈。その上、お掃除までこなせる万能な自動ロボット。元のモデルをそのまま小さくしたその姿を私はある一定期間の間見ることが出来ずにいた。

 

 「お兄ちゃんは元いた世界に帰ったんじゃないかって。私達のこと嫌いになったんじゃないかって。辛いんじゃないかって思っていた。だけど、ね。チビ君。私はまた会いたいんだよ」

 

 とても我儘だ。

 今の今までわがまま言ってきたのは自覚しているのにまだわがままを言う自分が嫌になる。だけど…。

 

 「会いたいんだよ。抱きしめて欲しいんだよ。…少し困った顔をしながらも笑いかけて欲しいんだよ。頭を撫でて欲しいんだよ」

 

 「…ぎー」

 

 一緒にご飯食べて、バカをして、命に関わる戦闘もした。

 だけど、すぐ傍にあの人がいてくれたから私は笑っていられた。守ってくれる。そう思えたからどんなに危険なことが起きても私は笑っていられたんだ。

 

 「フェイトから連絡があったわよ。疑惑はクロ。あの馬鹿。どういう訳か知らないけど私達に隠れてこそこそと海鳴とミッドを行き来していたみたいよ」

 

 「恭也さんや士郎さんにはたっぷり油を絞ってもらわないとね」

 

 ふと、声が聞こえたので顔を上げるとそこにはアリサとすずかがいた。

 二人共ぐっと大人びるようになったもんな。

 すずかは姉の忍さんに似てぐっとアダルティな体に。

 アリサも成長してスレンダーな体つきになった。腰まで伸びていた髪をバッサリ切ってショートカットに。

 『傷だらけの獅子』失踪事件後。すぐに切ったので、やれ、失恋か。新たな挑戦かと騒いでいたが、それは後者だった。

 すずかの『スノーホワイト』にはアーチャーという自動迎撃する宝石(レーザービット)のようなものが追加された。でも、これはあくまで相手の動きを止めたり、周囲を把握するためのあくまで補助重視の物だ。攻撃機能も追加されたけど…。

 アリサは『フレイムアイズ』のセカンドフォームにガンレオンのブースターに似た形態をとるので邪魔だから切った。それは、追加武装にとても大きなドリルが追加された為だ。なんでもガンレオンの装甲すらも撃ち貫くような武器が欲しいとか…。

 

 「プレシアさんのおかげで、D・エクストラクターもだいぶ改良されたからね。今の私達ならシグナム達とだって渡り合えるわ!」

 

 「まあ、それでも連携を崩されなければだけどね」

 

 私達は特別派遣チームとして、お母さんが隊長。副隊長にリニス。そして、私達D・エクストラクター適合者の計五人で動く小さな部隊。

 その名もゼクシス。

 それは先代の『傷だらけの獅子』が過去に所属していたチームの名前らしい。

 

 「まあ、連携を崩されても大丈夫でしょ。アリシア。あんたの『ラッキー・スター』があれば一発逆転が狙えるでしょ。まあ、文字通り一発(・・)勝負になるけど…」

 

 「あ、あはは。そうだね。連携を崩す崩さない以前にアリシアちゃんのセカンドフォームはちょっとなのはちゃんに似ているというか、極悪というか、なんというか…」

 

 それはつまり、なのはが極悪という事だね。まあ、確かにあの砲撃は極悪だけどさ。

 でも、まあ、仕方ないよね。私のセカンドフォームの砲撃。

 元々の機動力を殺してでも射撃能力を特化させた結果、あんなになるなんて…。リニスも絶対に人に向かって撃っちゃいけないと言っていたし…。

 

 「あいつに会ったら、すずかが足止め。私が打ち砕いて、アリシアが殲滅!」

 

 「それじゃあ高志君が死んじゃうよ?!」

 

 殲滅って?!

 …まあ、うん。アレは否定できない。

 

 「いいのよ。それぐらいしないとあいつの装甲も貫けないわ!それに私達を今まで心配させ続けてきたんだもの!責任を取ってもらわないとね!」

 

 「…うん。そうだね。…責任とってもらわないとね」

 

 …責任。そうだ、取ってあげないとね。責任。

 今度は私が笑わせてあげるんだ。

 

 「…やっと、顔を上げたわね、アリシア」

 

 「ごめんね。心配かけちゃって…」

 

 「いいよ。私も彼が無事だという事を知ったら安心すると一緒に今の今まで何していたんだ!って、問い詰めたくなったもの。それと同じように不安になるのも仕方ないよ」

 

 二人と話していて私はやっと決心がついた。

 いや、二人と話す前から決心はしていたが行動に移せないでいた。だけど、もう迷わない!

 

 「三人とも準備は良いですか?」

 

 転送装置のある部屋の扉が開く。

 そこから上下しろの下地に青いラインの入った航海士の制服を着たリニスがいた。

 

 「私達はこれから管理局とは別の部隊ゼクシスとして、管理局のバックアップを主にした部隊になります。あくまでバックアップとはいってもよほどのことが無い限り、その任務は遂行しなければなりません」

 

 「「「はい!」」」

 

 「もちろん、これは命に関わるお仕事です。引き下がるなら今しかないですよ?」

 

 「「「下がりません!」」」

 

 「・・・よろしい。では私達の役目を再確認します」

 

 私は慌てて背筋を伸ばしてアリサとすずかと一緒に返事をする。

 リニスは私達の教導官として指導していた所為か、プライベート以外になると背筋を伸ばさずにはいられなくなる。

 

 「ぎー」

 

 チビ君までしなくていいよ。

 

 「管理局の暗部は私達D・エクストラクターの存在を疎ましく思っているところもあれば、歓迎するところもあります。なぜなら魔法ではなく科学だからです」

 

 管理局は魔法を使う魔導師を優先している。

 何故なら過去に科学の力を用いた大戦があり、幾つもの世界が滅んだ、そして、その傷跡は大きく根深い。

 その科学の毒が何百年もたった今も残っている。

 その為、武力にはクリーンな魔法の力を使う。だけど、魔法で治安を守ろうとすれば、魔法が効かない力で悪事を働こうとする者がいる。

 AMF。

 魔法を中和して一定ランク以上の魔法じゃないと無効化される兵器。

 

 「私達の部隊はそれを用いている人達対策。つまり、対AMF部隊となります。そして、管理局の仕事にかこつけての『傷だらけの獅子』の捜索です」

 

 「ぶっちゃけすぎだよリニス?!」

 

 「まあ、私達だけじゃ管理世界に渡航できないし…」

 

 「だからって、私等に手伝わせるなんて…。管理しているって言いながら本当は占領でもしているんじゃないかしら?」

 

 …アリサ、その発言はミッドで絶対しないでね。

 

 D・エクストラクターは魔力と科学の融合物。いわば、クリーンな科学。と言うべきだろうか?しかも、AMFの効果を受けにくいという利点がある。

 それを使えるのは今の所、私とすずかとアリサ。あと、お母さんとリインフォースさんも使える。

 フェイト達はまだ試してないからわからないけど多分使えるだろう。

 D・エクストラクターの適合者はきっとスフィアリアクターの傍にいた人達。

 

 「これが私達。ゼクシスの本当の目的です。管理局のお手伝い中は可能な限りAMFを破壊していきましょう!」

 

 「「「おー!」」」「ぎー」

 

 私達は拳を高々と上げてミッドへと続く転送装置の上に乗る。

 そこではきっとフェイト達が待っているから。

 『傷だらけの獅子』に会う為に皆が集まっているミッドへ。

 

 今度会ったら絶対に離さない。むしろ離れられないように籠絡してやる!

 そうだとも。私はアリシア・テスタロッサ!

 ここ数年で私もぐっと大きくなった。お母さんみたいにナイスバディだ!

 Dエクストラクター三号機。二丁拳銃の『ラッキー・スター』。

 この武器のように『傷だらけの獅子』の心を撃ちぬいてやるんだから!

 

 「撃ち抜くんだ!どんなモノだって!」

 

 

 ???視点。

 

 

 

 『と、いう訳でばれたわ』

 

 「え~。てか、ばらすなよ『放浪者』のことを・・・」

 

 薄暗い空間で俺は久しぶりに入ってきた通信に呆れ半分。諦め半分で対応していた。

 通信相手はプレシア。

 年にニ、三度の連絡だけで済ませていたのだが、急に入ってきた連絡に戸惑いながらも俺は通信を続ける。

 ここ五年。一人で生きていくためにブラスタの光学迷彩を使いながらミッドを中心に管理外世界と管理世界で情報収集を行い、ガンレオンで違法研究所の破壊活動をしてきた。

 この間もクロノ宛てに情報を渡したばかりなのに、間をおかずに連絡してきた時は正直ビビった。

 

 「まだ、子ども(・・・)のあいつ等に『放浪者』に関わって欲しくなかったんだが…」

 

 『あら、あの執務官は去年結婚して家庭を持っているわよ。十分大人じゃない?』

 

 …くぅ、痛いところを。

 確かにクロノは大人になった。色んな意味で!

 

 「でも、アリシア達はまだ十四、五ぐらいだろ?」

 

 『アリシアは十七よ。フェイト達は今年で中学を卒業』

 

 「…もう、そんなになるか」

 

 『おっさん。いえ、叔父さんみたいになっているわよ』

 

 そんなに哀愁に満ちていた?

 フェイト達が管理局に務めるのは反対していたプレシア。

 フェイトはクロノが執務官権利を使って俺の探索をしたのを見て、管理局執務官を目指した。

 俺としてもプレシアとしても強く責められない。

 仕方がないのでリニスかアルフを常に傍に連れているように言いつけて管理局に務めることを認めた。

 フェイトが変な奴に目をつけられたら…。と、気が気でなかったらしい。過保護もそこまで行くと…。と、考えていたころもあった。

 考えが変わったのは、とある違法研究所には幼女愛好者もいたのか死ぬまでそのようなことをしていた研究者もいた。

 それを聞いたプレシアは血相を変えてフェイトやバルディッシュに気をつけるように何度も何度も言いつけ、リニスやアルフにもフェイトを絶対に守れと言いつけた。

 

 『今日から私も特別捜索補助部隊ゼクシスの隊長としてあなたを追うことになるわ。時々、目を盗んで、管理局とこちらの部隊の情報をブラスタに送っておくから細かくチェックしてなさいよ』

 

 「…もしかしなくても、俺って管理局から狙われている?」

 

 『当然よ。ガンレオンのパワーも、ブラスタの情報処理も魅力的でしょうけど、一番は『傷だらけの獅子』がもつ治癒の力。たとえ、リンカーコアを砕かれようとも生き延びたいという魔導師は山ほどいるでしょうし、今でも病気や呪いで苦しんでいる人達は世界の数だけあるのよ』

 

 やっぱり、あの事件の関係者かな。

 アサキムにやられたという部隊の事をプレシアから聞かされた俺は、その搬送された病院でこっそりP・B(ピリオド・ブレイカー)を使って治療した。

 その時、意識が無い人から順に日をおいて施していたんだけど誰かに見られていたのか?

 その他にも、破壊した時に出た負傷者。違法研究所にいた魔導師や研究者。まあ、俺の視点から見た悪い奴等。魔法社会のミッドで魔法の力を奪われるというのは、手足をもがれると同じ意味だろう。

 だから、俺は『魔導師としての生』をP・Bで破壊した。破壊目的でP・Bを使うと何故か痛みが無い。治そうと思って使ったら痛い。

 『傷だらけの獅子』のスフィアに尋ねてみたらそういうモノだ。と返された。

 

 諜報をしている最中に知り合った執務官志望の青年にも使ったし…。彼には悪い事をしたなぁ。

 今では戦闘教導官を目指しながらも、俺と妹さんに稽古をつけている。彼は俺に恩義を感じているらしいが、こっちの方が申し訳ない。

 だから、諜報活動で得た収入の一部を彼に渡している。あちら側もそれが申し訳ないからと、時々こうやって逃亡生活をしている俺に住居を貸してくれている。

 

 『まあ、あの執務官も『放浪者』の事を知ったから貴方に遠慮して積極的には関わろうとはしないでしょうけど。…アリシア達は』

 

 「くるだろうな。…積極的に」

 

 ある意味、クロノが大人になってくれて助かった。

 自分よりも大切な人がいる人は『放浪者』になろうなんて思わないだろう。

 いつ、次元漂流するか分からない『放浪者』。

 ある日、気づかないうちに異世界に放り出される。大切な人と離れる。

 プレシアやリンディ。リニスにリインフォースは大切な人との別れを体験。もしくは覚悟した人達だ。

 だからこそ、今日という日まで俺の存在を彼女達に秘匿にしてくれた。だけど、それをばらした。という事は・・・。

 

 『もう、あの子達は大人よ。少なくても自分の力で進んでいける』

 

 「そうだけどさ…。まだ中学卒業だろ?たった十五歳の女の子じゃないか」

 

 『もう十五歳なのよ。アリシアに至っては十七よ』

 

 「…女は早熟だっていうけど本当なのかな」

 

 『…ねぇ。もし、貴方が私達に捕まるようなことがあっても。『放浪者』なってでも貴方に関ったら貴方は私達の傍にいてくれる?』

 

 プレシアは何か思いつめた表情で話しかける。

 俺と通信していると時々後ろめたそうな表情になる。そして、最後に「戻ってくる気はないか?」「傍にいてもいいのか?」と、尋ねてくる。

 いつもは拒否しているのだが、俺のことを話したのだプレシアはもうアリシア達を大人として扱っている。だから、俺もそう扱わないと…。

 

 「・・・俺が捕まって、あいつ等が『放浪者』になったら責任者として、守る為に傍にいるさ」

 

 『・・・それじゃあ!』

 

 「だけど、逃げる為にも情報提供よろしく。こっちも正当な手段じゃ調べきれない研究所の情報を渡していくから」

 

 『ええ、その辺りはいつも通り、渡していくわ!』

 

 語気に隠しきれない嬉しさが混ざっている。

 ・・・俺も本当は傍にいて欲しかった。傍にいたかった。

 たとえ、『放浪者』として堕ちたとしても傍にいてくれる人の存在を。

 

 『それじゃあ、今日はこの辺で切るわ!アリシア達に気づかれてしまうもの!』

 

 「あ、一応忠告しておくけどアリシアやフェイトにせがまれても絶対に俺の情報を渡すなよ!」

 

 『ええ、でも偶然(・・)そこに貴方がいても仕方が無い事よね』

 

 「・・・それにも注意してくれ。というか、情報戦で管理局だけじゃなく、ゼクシスまで相手したくない。ていうか、俺があんたに勝てるわけがない」

 

 『………………わかったわ』

 

 大分間があった。釘を刺してなかったらやっていたなプレシア。

 そう思いながら俺はブラスタを用いた通信を切った。すると、後ろから執務官希望だったオレンジ色の髪をした青年がフライパンを持って俺の部屋に入ってきた。

 

 

 

 「高志君。お昼御飯が出来たけど食べていくよね?」

 

 「ゴチになります。ティーダさん」

 

 「夕飯には妹も帰って来るんだけど一緒にどうだい?」

 

 「いや、お昼を頂いたらおいとまします」

 

 妹さんの顔も見たかったがゆっくりしすぎてもやばい。

 兄妹二人暮らしをしている彼等の生活にあまり干渉して『スティグマ』は刻みたくない。

 まあ、彼等とも半年に一回か二回ぐらいしか会わないから刻み込む危険はないだろうけど・・・。

 

 「そうか、残念だな。あ、いつも通り射撃訓練のプログラムはブラスタに入れておいたから」

 

 「何から何まですいません」

 

 「いいんですよ命の恩人なんですから。…て、何で涙を流しているんですか?」

 

 あ、うん。気にしないで。

 命の恩人って、丁重にもてなされるんだなって、思ったら涙が出てきたんだ。

 

 けっして五年前の生活が辛かったんだなぁ。なんて思ってなんかないんだからね!

 

 

 

 現『傷だらけの獅子』。そして、『放浪者』の沢高志。

 五年経って、体は大きくなっても根っこの部分は全然変わっていなかった。

 

 


 
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