No.549671 深紅の宇宙の呼び声/Preface Story ZERO 第三話 神と悪魔のまがい物2013-02-28 17:53:39 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:391 閲覧ユーザー数:385 |
E.S.A.F.最後のパイロットが退室しました・・・。彼らは、己の手の届く範囲のすべてを守るために飛び立つ。S.C.R.F.の効果を広範囲に伝播させるためのS.C.R. Chipをこの宙域にばら撒かねばならないから。重力波に逆らって飛ぶのは難しい、しかも正体不明の戦闘機が私たちの動きを邪魔しようとしています。その動きから見て・・・おそらく無人機。味方は一人でも多いほうがいいはずです。
「ルスト少尉・・・出撃するつもりか・・・」
「はい、現在優先度の高い命令はありません。私の意思決定が最優先事項となり得ます。」
「プライドさん・・・彼らなら大丈夫なはずです。だから・・・」
「ありがとう、葵嬢。では、遠慮なく・・・DEM-P4-Lust ルスト少尉。貴君はこの宙域を速やかに離脱せよ。」
「!」
私たちA.L.F.に所属するものにとってプライド大佐の命令は最優先項目です・・・でも、この命令は第一種原則に反する。つまり、私の基本システムに焼きこまれた原理と矛盾してしまう。
「DEM-P4-Lust、基幹コンピュータDiabolus Ex Machina試作2号機は現在、災害救助の為に調整されています。そのための副次的能力として兵器を含む、あらゆるデバイスの有効利用法および、現状認識能力を備えています。」
「いやそんなことは、わかっているが・・・気に入らないのか?」
「概ね同意です。私は現在、災害救助の為のAIです。副次的能力として・・・」
「・・・わかった。つまり、この命令がお前の存在原理に反しているといいたいわけだな。」
「概ね同意です。」
私たちは、目的をもって作られたAIです。私はE.S.A.の基幹コンピュータDEM2の2番目の試作型として生み出され、外宇宙探索においては、各重要 機材および機体の修復、確保のための指揮機として従事していました。よってそのためのAIとして調整されました。逆を言えば、その行動原理を違えるように は設計されていないということです。他者からの干渉がなければ、この状況で逃げるという選択肢は浮かんでこない。
確かに、A.L.F.の単独行動が行われている場合はプライド大佐の命令は絶対でこの命令を拒む必要性はありません。プライド大佐は指揮能力に特化された AIであるため、大局的に見れば消耗が少ない。しかしながら、現状はE.S.A.F. P.A.L. A.L.F.の共同作戦の発動中です。私の行動原理中での優先順位は常に味方の人間が第一優先度となります。私が宇宙に出なければ先に行った者たちの命が 失われる可能性が高くなるのです。よって理由なしでのこの命令に従うことはできない・・・
「いい子ね・・・ルスト。そうやって皆を守ってきたのね・・・」
「はい、貴方たちの御両親の調整どおりです。いまだ私は最高のアーティフィシャルサイコロジストとメンタルプログラマーの娘、覗結 萌葱であり貴方たちの姉です。貴方たちがご両親から教わったように、私もいつも自分のできることに最善を尽くすよう教わりました。」
「そう・・・じゃあ、萌。貴方が逃げることが貴方だけしかできない重要な任務だったらどう?」
「・・・善処します・・・。私だけにしかできないのであれば・・・」
昔からそうでした。この二人は私がどうすれば困るのかをよく知っています。覗結主任に二人の姉として引き合わされた日から何も変わっていない。
そして、私の大切な妹たちが私を困らせるとき・・・。それはどうしてもそうしなければならない時だけ。2人とも大切な人がソラに出ているのに・・・。危険 な場所にいるのに・・・。逃げろと命令する。2人の大切な・・・大切な人が・・・死んでしまうかもしれないのに。
「私とラス中佐はこの宇宙を飛ぶことができないのはわかるな・・・。ここにいるA.L.F.の中ではお前しか飛べないのだ。」
「了承です。それは事実です。私でなければ航宙機はうごかせません。」
「よし、では我々が失踪するという事実の上で、DEM-P3-Greedに停戦を了承させることができるのはA.L.F.の者でないといけないこともわかるか・・・。」
「了承です。しかしながら、それは私では無理です。私は常に人類よりの発言をするよう調整されており、彼もそれを知っています。さらに優先命令権は貴方がいない状態では彼が最上位です。」
「グリード大尉は情報分析を専門とする、事実を伝えれば正しく行動するだろう。どっちにしろ、お前のほうが人間が行くよりも停戦が伝わる可能性は高い。以上を踏まえた上で、まだ私の命令は受諾できないか?」
「・・・」
「ねぇ萌。大切な人は・・・外にもいるの・・・その子が意味のない戦乱に巻き込まれるのはいや・・・。私たちがいない宇宙を守って・・・ね。私のわがまま、聞いてくれるでしょ・・・ね、萌・・・」
「そうだよ、おにぃの大事な家族も外にいるんだ。最近無理言わなかったよね、ボク達。久しぶりなんだからちょっとおまけしてよ。」
結局こうなることはわかっていました。こんな風に言われたら断れない。もし・・・、もしあの三人が死ぬことになったとしたら・・・。主任、たぶん私はあな たを許せない。私達をこのように育てたこと。いつも自分の最大の喜びを捨て、皆の喜びをこそ、自分の喜びとして分かち合うように育てたことを。戦争だって、このせいで起こった・・・。
「行きます・・・了解です・・・」
そう言うしかありませんでした。言うことでいつもの・・・機械の私に戻るしかありませんでした。これからは教育どおりに自分のできる最善の努力をしなければなりません。機体はすべて出払ってしまったでしょう、私が乗る機体を探さないと・・・
「萌、B11番倉庫に一機あるわ、それをぜひ使ってほしいの。航行コンピュータにロックがかかってて起動しないけど・・・パスワードがあれば直接打ち込めるわよね・・・」
「はい、私はA.L.F.ですから・・・所定の手続きを踏まなくてもアクセスできるはずです。」
「じゃあ、行くかルスト少尉」
二人と会えるのはこれで最後かもしれない。私は姉だから二人を守る義務があるはずなのに・・・矛盾しています。まったく矛盾しています。でも、私の大切なたった二人の妹がそれを望むのならば・・・!!
「覗結 萌葱は・・・なすべきことをします。」
B11倉庫・・・そこは周りの目から隠されるように・・・ひっそりと存在していました。ただひとつの船内からの扉と船外へのエアロック。中に一機の戦闘機。それだけしかない部屋でした。この機体は・・・
「無人試作型戦闘機 FF-X11 Kris・・・!!私達のすべての悲しみの元凶・・・」
「・・・いくら悲しみを生むとはいえ・・・あの二人にはこの機体が必要だったのだろう。そして・・・この機体が破棄されなかったからこそ、いまの二人がいるんだ。そして今の彼がある。」
そうでしょうね。この機体のせいで紫苑は死んだけど、この機体のデータが残っていなければ・・・それっきりだった。氷狩も、火訝もP.A.L.にはこなかった。妹たちも悲しみを抱えたまま・・・すべての関係者達が苦しいままだったでしょう。
「そしていま再び、この機体が希望をつなぐんだ・・・」
「・・・そうですね。もともとは魔除け・・・いつも紙一重で最悪の結果から助けてくれていたのかもしれない。」
私は今からもうこの機体とは離れられない。妹達が大切に・・・その宝箱にしまいこんだものを借り受けたのだから。
「大佐。私の感情レベルを下げてもよろしいでしょうか。」
「!?・・・なぜだ?」
「絶対にこの任務を果たしたいのです。そしてこの任務に処理を集中したい。限りなく起伏を減らして不確実性を排除したい。外は人の世界、私の感情は誰か他の人が補ってくれます。」
私は A.L.F. そのものになる。A.L.F. であることを隠してはおけなくなる。でも、この停戦と戦争が紙一重な状態にあっては敢えてそうあるべきだ。人の味方をする機械が機械の味方をしてくれる人を探すべきなのだ。
設定パラメータの変更は第三者の承認が必要だ。それは今ここでしかできなかった。そして、さらにこの設定を確実なものとするためには・・・大切なものでも手放さなければならない。
「妹達が代価を支払ったのに、私が支払わないわけにはいかないでしょう・・・。」
「・・・?」
「私の記憶を・・・。私の心を形作るすべての要素たる生活記憶をおいていきます。皆とは生きて会えるのだから、私はそれを再び返してもらうことができるはずです。」
「・・・そうだな。では伝えよう、君の妹達に、君の信頼の証を預かっていると・・・」
激しい感情を思い出さないように。私たちのハードウェアは優秀すぎて、必要があれば簡単に押さえつけたものを解放してしまう。だから。
大佐の手が私の額へと伸ばされる。
「今より・・・お前は私の庇護から離れる。自分で聞き、見、考え行動せよ。すべてのお前の状態に関する権限をお前に返す。行け!そして二人の願いと、お前の決意を果たすがいい!」
ならば行きましょう。すべての祈りを統べるために。私のできる最大限のことを果たしましょう。
「I'll never tear. Because you're my savior.」
パスコードとともにエンジンがかかり・・・
「紫苑、あそこから Kris が出るわ。面倒かもしれないけど、離脱させて!!」
「はぁ?お前そんな暇・・・」
「萌葱が乗ってるのよ!!」
「そういうことかよ・・・。世話焼かせるぜ、お前ら3人は昔からよ!!楓華、準備運動だ!軽く道を作ってやる。火訝、氷狩、わりぃがついてってやってくんねえかな。」
「まかされたっ!」
「火訝・・・蘆橘に・・・よろしくと・・・」
「わかったよ、楓華。」
「S.C.R. Chip Dispenser 射出!・・・あわせろよ楓華、いくぞ、3・2・1・SynChronoRupt!!」
必ず戻ってきます、だから皆死なないでください・・・。
「ルスト少尉しばしの別れだ、お前の道中に幸運あらんことを。」
「了解!皆の支援に感謝するとともに、本作戦の成功と皆の無事を祈る。DEM-P4-Lust ルスト少尉、離脱します!!」
薄れていく記憶の最後の感覚・・・この幸せをもとめて・・・向こうでの貴方たちの大切なものを、きっと守ります・・・私は守るため、救うために生まれてきたAIなんです。私は自分のできることの最善を・・・尽くします。
第三話 Infant Deus and Diabolus -- DEM-P1-Pride & DEM-P4-Lust / Fin
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先日アップロードした作品( http://www.tinami.com/view/549450 )のSF側での話の序章です。最終話です。
第一話→http://www.tinami.com/view/549665