…事の発端は一昨日だ。朝食を食べ終えた後、アミタがこう言ってきた。
『勇紀さん!私に色々教えて下さい!!』
と。
最初は『何のこっちゃ?』と思っていたけど、どうやらアミタは俺が帰った後の事を考えて家事が今以上に出来る様になったり、魔獣退治が出来る様に自分を鍛えてほしいとの事。そしてその発言を聞いたキリエもアミタ同様に鍛えてほしいと言ってきた。
前者はともかく後者はなあ…。
まだアミタもキリエも『ヴァリアントザッパー』は持ってないし、俺は俺で、原作のエンディングでシュテル達がやっていた事をやるつもりだったから今日からは一日中時間を使うつもりだった。
そこにこのお願いだからなあ。二人を見てやる余裕は無いんだが。
…うーん。基礎体力を付けさせるぐらいしか出来ないけどそれでいいかな?この二人、原作では『実戦訓練はこの星の魔獣を相手にしていた』と言ってたし、その頃にはグランツさんも『ヴァリアントザッパー』作って二人に渡してるだろうし。
そう思い、ランニングや腕立て伏せ、腹筋など簡単なトレーニングだけをやらせておいた。
組手のやり方なんかは『データ化した
正直、体力が無ければ魔獣と戦ったりなんて出来ないと思う。この星に住む魔獣は結構タフで俺が戦った場合ですら、どうしても持久戦になりがちだからだ。
…まあ宝具使えば短期決戦で済ませられるんだけどさ。エクスカリバーとか使えば…ねえ。
とにかく俺は俺で魔獣退治以外にも、この星の復興に必要な浄水法の設計を行い、水場を復活させたり(原作エンディングでシュテルが設計)、この世界の人々を救うための魔法を行使したり(原作エンディングでディアーチェが紫天の書に保有されていた魔法を使用していた。俺は紫天の書を持っていないが
自分で言うのは何だが、たった二日でこれだけの作業をよく一人でやれたものだ。自分で自分を褒めても良いと思う。
…ていうか、
一応、グランツさんにも解決方法を伝えておいた。
…けど言う必要無かったかも。グランツさんが研究する方向性は間違っておらず、ただ調合の配分や使用する素材が違っていただけの事だった。
『この人も、スカリエッティやプレシアさんに引けを取らない天才だな』と実感したよ。
材料が少ないから『死蝕』を完全にエルトリアから取り除くのには時間がかかるだろうけど、この人なら原作と違い、不治の病で亡くなってしまう前にやり遂げそうな気がする。
エルトリアに関する問題は早くも解決に向かいつつあると思っていいだろう。
だが夕食時である今現在、俺は別の事で頭を悩ませている。それは…
「勇紀。あ~ん♪////」
ギュッ
「勇紀さん。こっちの方が美味しいですよ////」
ギュッ
何故か二人がやたらと俺に構ってくる様になったんだよ。一昨日から。
本人達は『色々教えてくれるお礼』との事らしいが。
「…二人共、俺は自分で食べれますから」
アミタもキリエも俺の腕に抱き着いて、そのまま空いている片手で箸を使い、おかずをつまんで俺の口元に寄せてくる。
この手を自由にしてくれたら普通に一人で食事は摂れるんだけど離してくれないんだなこれが。
「気にしなくていいの。私がしたくてしてるだけだから。…それよりお姉ちゃん、昨日も一昨日も言ったけど勇紀から離れたら?」
「そうです。これはあくまでお礼ですから。…キリエこそ、私が昨日も一昨日も言った様に向こうに座って食べたらどうですか?」
「「……………………」」
「「うう~~……」」
……これだよ。どうも二人の仲が若干険悪と言うか、一昨日からこうやって威嚇し合ってるんだよ。
間に挟まれている俺はたまったもんじゃないっての。
「いや~。平和だねえ」(ニコニコ)
グランツさん。この二人を見て『平和』とは言い難いと思うのですが?
『ハア~』と溜め息を吐かざるを得ない現状。
「勇紀、溜め息ばっか吐くと幸せが逃げるって言うよ?」
「何か悩み事でもあるんですか?」
どうやったら君らが俺の手を離してくれるのか悩んでるんだよ。
「やっぱり二人共、君の元に嫁がせるべきかねえ」
「「は…博士。そんな事言われても////」」
「そうですよ。前も言いましたけど俺より良い奴がきっと現れますって」
「「……………………」」
ギュウ~~ッ×2
「い!?いひゃいいひゃいいひゃい~~~っ!!」(い!?痛い痛い痛い~~~っ!!)
両側から二人に頬を抓られてます。
何か不機嫌そうに頬を膨らませてるけど俺の方が不機嫌になりますよ?何もしてないのに抓られるなんて理不尽過ぎるし。
そんな和気藹々(?)な時間を過ごしていると
「《ヤッホー勇紀。聞こえるかなー?》」
一昨日にも会話した声の主、神様からの念話が届いた。
「《何ですか神様?話し掛けてきたっていう事を考えるとゲームが終わったんですか?》」
「《その通り。ついさっき終わったんだよ。私が1番にはなれなかったけどねー》」
「《そうですか…》」
やっと終わったのか…。それは俺が自分の世界に帰れるという事であり、グランツさん、アミタ、キリエとお別れしなければいけないという事だ。
「《じゃあ、早速君を地球へ転移させるけどいいかい?》」
「《それ、明日にしてもらって構いませんか?お世話になった人達にお礼は言っておきたいので》」
というかこの状況で転移されても困るぞ。3人の目の前でいきなり消えたら心配掛けまくるじゃないか。
「《成る程…もっともな意見だね。分かったよ。明日また連絡するからそれまでにちゃんと挨拶は済ませておくんだよ?》」
「《了解です》」
神様との念話を終える。
「「勇紀さん?(勇紀?)どうかしたんですか?(どうかしたの?)」」
っと、念話に意識がいってたか。
会話に参加していなかった事に二人が疑問に思った様で俺を見ながら尋ねてくる。
「ん?ああ、新しい術式の魔法が思い浮かんだものでな。『これなら帰れるかもしれない』と思ったんで明日早速試そうかと」
『帰れる手段が思い浮かんだ』と言葉にする。
二人はさっきまでの明るい雰囲気と違い
「…やっぱり帰っちゃうんですね」
寂しそうに言うアミタ。
「ね、ねえ?その魔法があればすぐに帰れるの?ならもう少しここに残っていても…」
キリエも慌てた様子で口早に言うが
「ゴメンな。でも俺の家族も友達も…皆心配してるだろうから。早く俺の顔を見せて安心させてやりたいんだ」
「「……………………」」
俺の言葉を聞き、二人は顔を俯かせる。
「二人共…」
そんなアミタとキリエにグランツさんが言葉を掛ける。
「これが今生の別れになる訳じゃないんだ。必ずまた勇紀君とは会う事が出来る。そうだろう?」
グランツさんの視線が二人から俺に移る。俺もグランツさんを見たまま
「勿論ですよ!」
力強く頷き、返事する。
「…だ、そうだよ二人共」
「……本当に、また会えますよね?」
「当然!」
「…約束出来る?」
「約束する!」
アミタとキリエの問いにも即答で答える。
二人の表情はまだ若干暗いものの、とりあえず納得はしてくれたみたいだ。
…ま、全ては明日か。
俺はそれから静かに夕食を平らげた後、エルトリアで過ごす最後の夜を満喫するのだった………。
~~なのは視点~~
私は今日もアースラの管制室にきています。
理由は一つ。
任務中に次元震に巻き込まれ、行方不明になった勇紀君の情報が届いていないか確認するため。
「エイミィさん。勇紀君はまだ?」
「…うん。相変わらず何の情報も入ってきてないよ」
「そうですか…」
その返事に私も気落ちする。
勇紀君が消えて1週間以上も経つ。シュテル達は『大丈夫』って言ってるけど傍から見ても分かるぐらいに落ち込んでいる。
…そうだよね。家族としてだけじゃなく、好きな男の子でもある勇紀君が突然いなくなったんだもん。私達以上に辛い思いをしてる筈。
「大丈夫よなのはさん」
艦長であるリンディさんが私に声を掛ける。
「勇紀君はきっと無事だから」
「はい…」
私を慰める様に言ってくれるけど、どうしても不安を隠せない。
勇紀君と出会ったのは去年のゴールデンウィーク前。
最初は『すずかちゃんの彼氏さん?』っていう疑惑が上がって皆どんな子か興味が沸いたんだよね。
それで勇紀君が出るっていうサッカーの試合を観に行ったらそこでシュテル達と出会ったんだっけ。
最初は『管理外世界のお姉さん達と一緒に行った筈のシュテル達が何故ここにいるのか?』って疑問が浮かんだんだけど、勇紀君の説明で目の前に居るシュテル達はちょっとした事故で、平行世界からこの世界に来たっていう事を知ったの。
それから翠屋でお話を聞いて、シュテル達と一緒に住んでいる事や勇紀君自身も魔導師だって事を知った。
その後『私達とお友達になってほしい』って聞いてみた所、シュテル達も了承してくれた。
嬉しかったなあ。皆とお友達になれた事が。
アリサちゃんの別荘に行ったり、夏祭りに行ったり…。
人数が多いと賑やかで私も凄く楽しかったの。
……でもある日、私は皆に迷惑を掛ける事をしてしまった。
任務中に私は重傷を負い、お医者さんにも『魔導師として二度と復帰出来ない』と宣告された。
…怖かった。一人ぼっちに戻る事が。
あの時の私は魔法の力があるから皆に必要とされていると思っていたから。
もう魔法が使えない私なんて誰にも相手にされなくなると思い込んでいたから。
でも勇紀君ははっきりと言ってくれた。『魔法なんてただのきっかけだ』って。皆とお友達になれたのは『私自身の力だ』って。
私が抱えていた不安を勇紀君は全て取り払ってくれた。
あの時の言葉は今でも忘れられない。
そして私が再び魔導師として生きられる様に私の身体もリンカーコアも治してくれた。
結果、勇紀君は一時的に聴力を失う事になったけど。
…それからだよね。勇紀君の事意識し始めたのは。
今までは勇紀君と他の女の子がいるのを見ても『仲良いなあ』ぐらいにしか思わなかったのに、意識してからは『むう~』って感じで不満になる私がいる。
それからは皆がお友達であると同時にライバルだって認識する様になったんだよね。
でも勇紀君を好いているのは同い年の私達だけじゃない。
今ここにいるリンディさんにエイミィさんを始め、私の知り合いの人ほとんどが勇紀君を意識してるんだよね。
……ううっ、ライバル多過ぎなの。だけど負けたくない。
「うんっ!落ち込んでばかりなんていられないの!!」
私は気合を入れ直す。
勇紀君。私はこれからも勇紀君と一緒にいたい。だから…だから早く帰ってきて。お話したい事だっていっぱいあるんだから………。
~~なのは視点終了~~
~~フェイト視点~~
「ハア~…」
今日、私は執務官の仕事を終え、転送ポートに向かいながら溜め息を吐く。
ちなみに今日の仕事は私だけで受け持っていた案件なので、同じ執務官である姉さんは普通に学校へ行っている。
「…まったく、君は今日だけで何回溜め息を吐くつもりだ?」
そんな私の横に並んで歩いて呆れた表情を浮かべているクロノ。
執務官としての先輩としてよく間近で現場での対応の仕方を勉強させてもらう事がある。
今回は私の仕事ぶりを評価するために同行したらしい。
「そ、そんなに吐いてたかな?」
「仕事が始まる前からの回数を含めると50回以上はね」
か、数えてたんだクロノ。
「仕事に支障は無かったとはいえ…少しは周りの目も気にした方がいいぞ」
「う…うん。ゴメンね」
ううっ…迷惑掛けちゃってるよね。
「…まあ、君がそうなる気持ちも分かるけどね。彼が見付かったという報告はまだ無い訳だし」
「……うん」
彼…勇紀がどこかで発見された報告はまだ届かない。
大丈夫なのかな?怪我とかして動けないんじゃあ…。
そんな不安ばかりが頭の中をよぎってしまう。
彼の居場所だけでも特定出来たらすぐにでも迎えに行くのに。
「僕としても報告を待つしか出来ないというのは歯痒いよ」
「そうなんだ?」
「それはそうだよ。彼や亮太は僕の親友だからね」
クロノ、そんなに勇紀と仲良かったんだ。
あれ?勇紀と大槻が親友ならユーノはどうなんだろ?友達止まりなのかな?付き合いは二人より長い筈だけど。
「あのフェレットもどきも『一応』親友だな」
「え!?」
私の考えてる事が読まれた!?何で!?
「……君の考えてる事は表情を見てたら何となく推測出来るぞ」
「ううっ…そんなに分かり易かったかな?」
私って顔に出やすいの?
「そうだな。それは君にとって美点だろうけど執務官としては致命的になるかもしれない。今後はポーカーフェイスの練習でもしておく必要があるかもしれないな」
「が…頑張ります」
立派な執務官になるためだもん。やっておかないといけないよね。
「それで…何でユーノは『一応』なの?」
「…僕のライバル的な立場にあるからだよ」
「???」
ライバル?クロノとユーノって何か競い合ってたっけ?
「分からないならそれでいいさ」
うーん…クロノはこれ以上話してくれなさそうだし、ユーノに聞いたら答えてくれるかな?
「まあ、今は僕より君の事だフェイト。勇紀が心配なのは分かるが今、僕達に出来るのは待つだけなんだ。彼が無事に帰ってこれるのを信じていよう」
「うん…」
本当に無事に帰ってきてほしい。
彼は私の事を『フェイト』っていう一人の女の子として認めてくれた人だから。
姉さんに指摘されるまで気付かなかったけど……私の好きな人だから。だから…
「(勇紀…私だけじゃない。皆、待ってるんだよ。早く帰ってきて…私達を安心させてほしいな)」
そう思いながら私とクロノは転送ポートのゲートをくぐり地球に帰還するのだった………。
~~フェイト視点終了~~
~~アリシア視点~~
「勇紀はまだ帰ってこないなー」
学校から帰ってきてリビングで私はリニスが淹れてくれたお茶を飲みながら呟く。
皆、いつもアースラに確認に行ってるからねー。私もだけど。
「アリシア…貴女その台詞を言うの、もう20回は超えてますよ」
「それだけ心配してるんだよ。リニスだってそうでしょ?」
「えっ!?……そ、それはまあ…//」
頬染めて私から視線逸らすし。
リニスってば、いつの間にか勇紀に惚れてるんだもんなー。
「まあ、何処に居るか分からないし、彼がどんな状態かも分からないから仕方ないわよアリシア」
「そうだねえ。フェイトも元気無くて心配だよ」
…リニスだけじゃないか。フェイトは勿論の事、お母さんもアルフも勇紀の事好きになっちゃってるし。
というかいつの間にテスタロッサ家は攻略済みになったんだろう?
そもそもお母さんが今の勇紀を好きになるって…もしかしてお母さんはショタコン?
「…アリシア。今何か失礼な事考えなかったかしら?」
「そんな事無いよ。お母さんに失礼な事なんて考える訳無いじゃん」
とりあえず否定しておいたけどお母さん、鋭いね。
「でもさあ。聞いた話だと勇紀が巻き込まれた次元震って相当な規模だったんだろ?なのに被害者が勇紀だけだなんて…そんな事があるのかねえ?」
「それに現場では次元震が起きる様な状況でも無かったと聞いています。勇紀君と陸士隊の方々が追っていたのは密輸物とはいえ、ロストロギアではありませんでしたからね」
アルフの疑問にリニスは当時の状況を思い出しながら答える。
そうだよね。これがジュエルシードみたいな高い魔力を秘めたロストロギアならまだ納得も出来るんだけど、勇紀達が押収したのは危険物として指定されている薬の材料だった。
今回起きたっていう次元震はどうにも不可解なんだよ。
「…確かに理解出来ない点はあるけど、それを今突き詰めても勇紀君が帰ってくる訳では無いわ」
お母さんとリニスは『何故次元震が起きたのか?』『何故巻き込まれたのが勇紀だけだったのか?』って事を調べてたけど結局、原因を特定する事は出来なかったみたい。
「うー…何も知る事が出来ず、待つだけっていうのもキツいモノがあるよねえ」
このまま一生会えないとかは絶対に嫌だなあ。私、まだ自分の気持ちを伝えていないのに。
「(でも、いざ言おうとしても本人を前にすると…)////」
言えないんだよねえ。一言『好きです!』って言うだけなのに。
ま、私だけじゃなく他の皆も言えないみたいだから誰も一歩リード出来ない訳で助かってるし。
けど勇紀が帰って来ない以上、伝えるべき言葉も伝えられなくなっちゃうし…。
「(勇紀、何処で何してるのか知らないけどちゃんと帰ってきてよ?このまま戻って来ないなんて事になる様なら私は恨むよ)」
私は心の中で呟きながらコップの中のお茶を飲み干し
「お母さん、私先にお風呂入るね」
自分の部屋に着替えを取りに行くため、リビングを後にした………。
~~アリシア視点終了~~
~~はやて視点~~
「なあ…はやて~」
「なんやヴィータ?」
「今日は鮭の塩焼きなんだよな?」
「そやで」
「…今、はやてが鮭に振りかけてるのって砂糖だぜ?しかもかなりかけてるし…」
「えっ!?……………しもたあああああっっっっっ!!!」
わたしはキッチンで大声を出してしまう。
何て事や。私がこんなミスしてまうなんて。
…つーかこれで何度目やろ?わたしが料理でミスするのって。
「あ…あのはやてちゃん。やっぱり私が今日は作りましょうか?」
心配そうな表情でシャマルが尋ねてきよる。
シャマルは勇紀君のおかげでかなり料理の腕が上達したんよ。今ではわたしが管理局の仕事、シャマルがフリーな時は調理の担当を任せてる。
勇紀君凄いわ。わたしが教えてた時は全く進歩せんかったのに。
「心配掛けてゴメンなシャマル。けど大丈夫や。もうこんなミスはせんから」
「…その台詞、昨日も言ってましたよ?」
うっ…。確かに言ったなあ。
けど、シャマルは今日仕事やった訳やしゆっくり身体休めて貰わんと。
「ホンマに大丈夫やから。シャマルはゆっくり休んどき。主の命令やで」
半ば強引にシャマルをキッチンから追い出して私は再び調理に戻る。
そんなわたしを心配そうに見つめるヴィータがわたしの視界に入る。
「なあ、はやて。やっぱシャマルに任せた方がいいんじゃねえか?今のはやて、勇紀の事を気にし過ぎてロクに集中出来てないぜ?」
ヴィータの指摘に『うっ!』と小さく唸って反応する。
確かに勇紀君がおらん様になってからはささいなミスを連発する様になっとる。
学校で勉強してる時も、料理をしてる時も気付いたら勇紀君の事考えてるわ。
でも…しゃーないやん。好きな人が無事かどうかも分からんのやから、どうしても気になってしまうんや。
勇紀君は新しく夜天の書を作ってくれ、わたしが救う事の出来ひんかったリインフォースとわたしをもう一度会わせてくれた上に、家族として一緒に生きられる様にしてくれた八神家にとっての大恩人や。
王様達やすずかちゃんはわたしが好きになる前から勇紀君の事好いとったけど、勇紀君に惚れた気持ちもよう分かるわ。
「…もうはやては重傷だな」
「よう言うわ。ヴィータかてしょっちゅう『勇紀の奴無事かなあ?』なんて呟いとるやん」
「んなっ!?そ、そんなにしょっちゅう言ってねえし!!////」
顔真っ赤にしながら否定しても説得力あらへんで。
まあ、ヴィータだけちゃうけどな。シグナム、シャマル、ザフィーラ、リンス、リイン。わたしの家族は皆勇紀君の事を心配しとる。
ヴィータ曰く
『あ、アイツはアイスの良さを理解してる良い奴だからな////』
シグナム曰く
『は、長谷川との模擬戦は心躍るものがありますから////』
シャマル曰く
『ま、まだ治療魔法を完全に使いこなせていないので私がしっかり教えてあげないと////』
ザフィーラ曰く
『男同士、色々話せる事もありますので』
リンス曰く
『ゆ、勇紀は私を我が主と再び会わせてくれ、夜天の書を使用出来る権限を持つもう一人の人物。私にとってはもう一人の主みたいなものですから////』
リイン曰く
『勇紀さんは優しくて仲良くしてくれるからリインは勇紀さんが大好きですぅ~////』
らしいわ。
ザフィーラ以外は皆、勇紀君に恋愛感情持っとるからなあ。
てかわたしの友達だけじゃなくてわたしの家族も全員ライバルとか…。
…勇紀君好かれ過ぎやろ。少しは遠慮してほしいわ。
「でもリインは心配ですぅ~」
およ?
いつの間にかリインがキッチンに来とった。
「リイン。どうしたんや?」
「勇紀さんがいないとリインは寂しいです」
シュンと肩を落とし、暗い雰囲気を出しているリイン。
…せやなあ。リイン、勇紀君にメッチャ懐いとるし。
というか勇紀君見かけたらまず抱き着いとるよな。抱き着かれてる勇紀君もリインの頭優しく撫でとるし。
アリシアちゃんも同じ様に抱き着こうとするけど、そん時は勇紀君普通に避けるか反撃しとるしな。
勇紀君が言うには『リインは妹みたいな子』らしいけど。
……なんや、考えてみたらリインってえらい役得な立場やなあ。
「(わたしも勇紀君が戻ってきたら、心配してた事を口実に思いきり抱き着いてみよかな?)//」
…抱き着けるかなあ?想像したらは、恥ずかしいやんか。
「はやて?顔が赤いけど大丈夫?」
っと、ヴィータがわたしの事心配そうに見つめとる。
「大丈夫、大丈夫や。それよりいつまでも勇紀君の事ばっか心配してて逆に皆に心配されてるようじゃ主として失格やわ。気合入れ直さんと」
両頬を自分の両手で『バチンッ』と挟む様に叩き、自分に喝を入れ直す。
うん!これでちゃんと料理の方に集中出来るわ。勇紀君はきっと無事や。元気な姿でわたし達の前に帰ってきてくれる。わたしはそう信じとればええんや。
そう思うと頭の中の不安も消える。後は…
「これ、どないしよかなあ…」
砂糖を大量に振りかけた鮭を見て、どう処理しようかでわたしは頭を悩ませた………。
~~はやて視点終了~~
~~アリサ視点~~
「全く…今は何処で何してんのかしら?」
私は自室のベッドの上で天井を見上げながらいなくなったアイツ…勇紀の事を考えていた。
最初はすずかが意識するぐらいの男の子だからちょっと興味あったぐらいだったけど。
その時連れていたシュテル達との関係性から勇紀も魔導師だって事が判明して…勇紀に戦いを挑んで返り討ちにあった
でも勇紀達と出会ったのは決して悪い事だと思わなかったし、普段学校では
それから
それからしばらくして私が勇紀の事を意識する様になった一件…勇紀に恋人役を頼んだあのホテル・ベイシティでの乱闘騒ぎが起きたのよね。
事件の真相を鮫島から知らされて…
「むー…私をこんなに心配させるなんて良い度胸してるわよね」
シュテル達やなのは達も、勇紀が発見されたっていう連絡が届くのを毎日待っていて…それでいて不安を隠しきれていないのよね。
……それは私も同じか。
家ではパパやママ、鮫島を始めとする使用人の人達にも心配を掛けない様振舞っているがそれもいつまで持つか…。
パパやママは勇紀の事気に入ってるみたいだけど初詣の時に軽く挨拶したぐらいで『今度は時間を取ってゆっくり話してみたい』って言ってたし。
この前なんか
『アリサが勇紀君の元へ嫁いでくれたら安心出来るんだがなあ…』
なんて言われた。
その時の私はしばらく硬直した後、顔を真っ赤にしながら必死に反論したっけ。
でもパパもママも微笑ましい表情を浮かべて私を見るだけだし。
……勇紀のお嫁さんかあ…。
た、確かに勇紀が『どうしても』っていうなら私だって嫁いであげてもその…ねえ。
一瞬そんな考えが頭をよぎるが、すぐに『それは有り得ないか』と思う。
アレは超が付く程の鈍感だから。未だに誰も告白してないからとはいえ、勇紀は私達の気持ちに全く気付いていないし。
そこがまた腹立たしいけど、他の皆に出遅れるという事も無いから安心もする。
「第一と、とと、嫁ごうにも肝心の本人が帰ってきてないんじゃ嫁ぎようがな、ないし…////」
…って!!いつの間にか嫁ぐ事前提で考えてるじゃない!!
い、今はそんな事考えるんじゃなくて勇紀がちゃんと帰ってこれるかどうかの方が大事でしょ!!
勇紀はなのは達にも引けを取らない魔導師らしいし、レアスキルっていう特殊な能力も多数有してるらしい。
それに頭も良いんだから今頃はどうやったら私達の所に帰って来られるのか必死に模索してる筈だ。
勇紀の現状を知る術は無いけどきっと無事!無事でいるに決まってるわ!!
「私を心配させた代償は高いんだからね」
自分の部屋で一人呟く。
だから早く帰ってきて、私達を安心させなさいよね……バカ。
~~アリサ視点終了~~
~~すずか視点~~
「すずかお嬢様~。紅茶を持ってきましたよ~」
「ありがとうファリン」
自室の窓から空を眺めていると、部屋の外から扉をノックする音と共にファリンの声が聞こえてきた。
部屋の中に入れ、紅茶のセットを持ってきてくれたファリンにお礼を言う。
今回は転ぶ事無くちゃんと持ってこれたみたいで良かった。
「すずかお嬢様?大丈夫ですか?」
「大丈夫って?」
「お嬢様、ここ最近はずっとそうやって窓を開けて空を見上げているじゃないですか?私達皆、お嬢様が風邪を引かないかもう心配で心配で…」
「…心配かけてゴメンね。でも私は本当に大丈夫だから」
「ですが…」
ファリンはまだ心配そうな表情を浮かべてる。
「もう少ししたら戸締りをして寝るつもり。ちゃんと暖かくして寝るから心配しないで」
「……分かりました。空いた容器はそのまま置いといて下さい。後で回収しに来ますから」
そのままファリンは一礼して去っていく。
部屋には再び私一人だけになる。
静かな部屋の中、私は再び窓の外に視線を移しボソッと呟く。
「勇紀君…」
あの日…。
私が誘拐された現場に偶然居合わせて私を助けてくれた男の子。
私の事を怖がりもせず、友達になってくれた男の子。
「あの時の出来事からまだ1年も経ってないんだよね」
不思議だなあ。随分と昔の事の様に感じる。
それだけ勇紀君達と出会ってからの思い出が沢山出来たからかな?
思い返すと色々あったなあ。
勇紀君と出会って、シュテルちゃん達と友達になって、ゴールデンウィークの温泉旅行、夏休みにはアリサちゃんの別荘に行ったり夏祭りに行ったり…。
秋の運動会は聖祥と海小の日程が被ってしまったので応援に行く事も出来なかったし、観に来てくれる事も無かった。
そして冬にはなのはちゃんが大きなケガを負ったけど勇紀君が治し、クリスマスパーティーになのはちゃんの退院祝いが追加されたっけ。…勇紀君のプレゼントを引き当てたアリシアちゃんは羨ましかったな。
けど勇紀君と『楽器で一緒に演奏しようね』って約束したし…。
「勇紀君…。勇紀君が帰ってきてくれないと一緒に演奏する約束が守れないよ?」
私も、皆も彼のいない現状に辛い思いをしている。
シュテルちゃん達は当然としてなのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、アリシアちゃん、アリサちゃん…それにアルフさん達やシグナムさん達といった沢山の人達が皆勇紀君に惹かれているから。
気が付けばライバルが増えちゃってて大変だよ。ライバルはシュテルちゃん達だけでよかったのに。
「これ以上ライバル増えたり…しないよね?」
何だか完全に『増える訳無い!』って断言出来ないよ。
「ううっ…勇紀君。こんなにも不安にさせるなんて恨んじゃうよ?」
この不安が『勇紀君が二度と帰って来ない』という事なのか『ライバルがまだまだ増えていく』って事なのか……おそらく両方なんだろうなあ。
勇紀君を好きになる人って皆可愛い女の子ばかりだし、年上の人達も凄い美人さんばかりだし…。
そう考えると私、皆に勝てるのか不安だよ。
特にSEENAさんこと椎名ゆうひさんが一番の強敵だよね。同時に私にとっては憧れの人でもあるけど。
でも勇紀君の事だけは誰にも負けたくない。
…私は紅茶を飲み干すと窓を閉めて布団の中に潜り込む。
「大丈夫、勇紀君は絶対に帰ってくるから不安になる必要なんて無い」
自分にしっかりと言い聞かせ、私はゆっくりと目を閉じる。
勇紀君…もしこのまま帰って来ない様なら私の方から探しに行くよ?ずっと離れ離れだなんて寂しいから………。
~~すずか視点終了~~
……勇紀です。夜中に目が覚めた俺はベッドで横になっているのですが
「「~~zzz…~~zzz…」」
何でアミタとキリエが俺と一緒に寝てんの?
二人は俺を挟んで、俺の腕を抱きしめながら寝ている。
「ユウ君が寝た後に二人が布団の中に潜り込んできたんだよ」
俺が寝てる間の事をダイダロスが教えてくれた。
ていうか何故に潜り込んでくるよ?ベッドのサイズ結構ギリギリだよ?ちょっとでも寝返りうったら確実に落ちるよ?
…いや、今はそんな事よりも
「(腕に抱き着いてる力が強くて抜け出せない)」
目が覚めてから少しずつ尿意が高まってきているのを感じる。
このまま脱出出来ないと俺は大変恥ずかしい黒歴史を作ってしまう事になる。
「(とりあえず身体強化…っと)」
全身を魔力で強化し、ベッドで寝ている二人を振り解いてゆっくりと部屋を抜け出し、足音を立てない様にしてトイレに駆け込む。
「ふう~~~♪」
ちょいとばかし危なかったね。黒歴史を作らずに済んで良かったよ。
用を足した後、二人の部屋のドアノブを回し、ドアを開けてから部屋に戻って寝ている二人を抱き抱える。
背中と膝裏に手を回して抱え上げる…お姫様抱っこっていう抱き抱え方だな。
まずはアミタから運ぶ。
二人の部屋に入るとベッドが二つあるがどっちがアミタのベッドか分からないので左側のベッドにゆっくりと下ろして布団を被せる。
次はキリエだな。
俺が借りている部屋に戻って今度はキリエを抱き上げる。
キリエは右側のベッドに寝かせ、アミタ同様に布団を被せ、静かにドアを閉める。
「一緒に寝てあげても良かったんじゃないの?」
「馬鹿言うなダイダロス。ベッドのサイズギリギリだぞ」
もし寝返りをうったりしたらアイツ等ベッドから落ちるし、怪我したら大変じゃないか。
「怪我したら治療してあげたらいいんじゃないかな?」
「怪我しないのが一番だろ」
怪我する事前提で寝てどうするよ?
「(…まあユウ君ならそんな風に答えるよね)」
それからダイダロスは特に何も言わず沈黙した。
「ふああ~…」
あー、また眠気がきたきた。
俺はそのままベッドで横になってから布団を被り、そのまま睡魔に身を委ねる。
明日の何時頃に神様から連絡が入るかは知らないが早起きはしておくか……。
そこまで考えて俺は意識を手放した。
次の日、目覚めたらまた俺の両隣にアミタとキリエが抱き着いていた。
………だから何で忍び込んでくるのさ!!?
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。