第21魔 暗躍
キリトSide
~アスナ達が再び世界樹に向かい始めた頃~
もう深夜に至った頃だろうな。そう考えた俺は動き出すことを決めた。
「おい茅場、そろそろ出向くぞ」
『む、そうかね。分かった』
茅場を呼び出して俺を雁字搦めにしている鎖を消滅させた。
「ふぅ、久しぶりの自由だな…ま、そこまでの自由じゃないけどさ」
『カーディナルや監視の眼にはキミが捕まったままになっているはずだ』
「了解。それにしても、須郷もアホだよな…システムコンソールをこの近くに置くなんて」
せっかちということなんだろうが、それが今回は裏目に出たな。
「じゃ、行くか」
『うむ』
俺は扉に近づき、茅場が教えてくれた暗証番号を押して扉を開けた。
樹の幹に降り立ち、体を柔軟させて……、
「神霆流歩法術《
高速の歩法術で一気に駆け抜けた。幹を突破し、人工的な楕円形の扉を見つける。
そばにあるタッチパネルに触れて扉を開けると中へと侵入した。
茅場なら姿を消してはいるが近くにいるよ。
「世界樹っていう割には、中は科学的だな」
『そうだね。折角ならば中も整えたら良いものを……手を抜いているな…』
俺は苦笑を漏らして呟き、茅場はそんなことを言った。確かにコイツなら手を込めそうだな。
ほぼ白一色の道を茅場の案内の通りに進んでいく。
途中で扉が無くなったりしたが、問題無いらしい。
そしてしばらく中を進んだあと、ポスターのような物が目につきそれを見た。
「……なぁ」
『……なんだね?』
「普通さ、こんな場所に案内図とか張らないよな?」
ポスターのような物はこの場所の案内図だった。
俺と茅場は須郷一派のアホさ加減に呆れながらもありがたくそのポスターを暗記して移動を始めた。
『さてキリトくん。今の案内図で分かった通り、この先の階下フロアに『実験体格納室』がある。
正直、あまり気分の良いものではないよ…』
僅かに声の音を暗くしながら言った茅場、それに対し俺は…。
「は、何を今更…。俺はこの手で、30人以上の
仮想世界とはいえ、な……俺はそんな人間だ…」
『…そうか、いや…そうだったね…』
それを最後に茅場は喋らなくなり、俺はエレベータのような操作盤に触れて目的のフロアに移動した。
階下についた俺はエレベータから降りると、一直線の道を移動した。
人の気配がまったく無いためにそのまま直進する。素足は妙に冷たいと感じる。
俺の衣装は薄手の黒服で長ズボンのような布と羽織のような服一枚というかなり寒いような出で立ちである。
あの須郷の野郎、いくら俺が中性的な顔立ち(自覚アリ)だからってこんな格好をさせるとか変態だろう…。
そう考えながら扉に辿り着き、パネルに触れて扉を開くとそこには……真っ白な空間が広がっていた。
この部屋には俺の胸元まである白い円柱があり、数は299あると思って間違いない。
そしてその円柱の上には……、
「これほどまでの狂気か、須郷…!」
ホログラフ化された実物大の人間の脳髄があった。
半透明のグラフに表示される数字や英単語……痛み、悲しみといった英単語がある…。
『感情を操るテクノロジー』、その実験の被害者達の現状ということか…。
あぁ、そうか……俺は…、
「はは、あっはっはっはっは………はぁ~……っ!」
怒り狂っているのだ…。
人が触れてはいけない神の領域、ヒトクローンに並ぶ禁忌、魂という心を踏みにじる外道の域、それを破ったあの男に…。
奴への裁き、場合によっては、俺は自分の手を…。
「すまない……今すぐキミ達を助けようとしない俺を…恨んでくれ。だが、必ず助ける…」
俺はそう言葉にして謝罪し、移動しようとした時、1つの円柱に目がいった。
周囲を見るに、それだけ反応が違った。
この現状に恐怖していない異常な反応、だが怒りという反応も示している。
思わず近づき様子を見ようとして驚愕した……表示されたキャラネームは『PoH』…。
「そうか、お前もここに来たのか……ふっ、お互いに皮肉なものだな。お前にも、現実で罪を償ってもらうぞ…」
以ての因縁という腐れ縁を持つ男に言葉を掛けた。身を翻して歩こうとした時だった…、
―――It’s show time…
その言葉と共に奴が笑ったような気がした。奴のグラフの変化は……『楽しみ』…。
「……怪物め…」
俺は改めてコンソールの元へと移動した。
「これか…」
黒い立方形のシステムコンソールを発見した俺はそれに近づきカードキーを抜き取った。
「これで良し」
『キリト君、反応が2つ。この部屋に入ろうとしているぞ』
「ちっ」
俺は茅場の報せに舌打つと手近な円柱に身を隠した。そして部屋の中に現れたのは…。
「お、おい、アレって…」
『〈ブルスラッグ〉、だね』
あのアインクラッドの第61層通称『むしむしランド』。
女性に非常に不人気で有名だったが、そのお陰で俺にとっては良好な狩場の1つだったなぁ。
「っ、な、なんか寒気がしたような…」
「お、お前もか……俺もなんか寒気が…」
〈ブルスラッグ〉が喋っている。つまりアレがアバターというわけか、趣味悪いな~。
しかし、どうやって帰ったものか……出口は奴らの視界の先、
かと言って奴らが帰るのを待っていたら、須郷が気付くかもしれない。
気配を消しても目に着けば意味がないし…。
するとそこで出口とは反対側にある1つの円柱から警報のような音が鳴った。
「ん、なんだよ」
「なんか問題か?」
2匹の〈ブルスラッグ〉がその円柱に近寄る。
俺はその隙に出口の扉の前に移動して、部屋から出た。
恐らくは気付かれなかっただろう…だが最後に警報が鳴った円柱、アレは…、
「礼は言わないぞ……PoH…」
奴の物だったはずだ、そう一言呟いて、俺と茅場は元来た道を戻って行った。
あの〈ブルスラッグ〉の中身の奴らも、現実で裁いてもらうとしよう。
茅場のお陰で世界樹内を移動する者がいつ来るかが分かるので、上手く掻い潜る事が出来、
無事(?)に鳥籠へと戻ることが出来た。
「ふぅ~、上手くカードキーを手に入れることが出来たか…。まぁこれを隠してと…」
俺はカードキーを鳥籠内にある花壇の奥に隠した。
「面倒臭いけど、茅場頼む…」
『キリト君、GM権限を渡すから自分でやってくれないかね?』
「俺は自分を縛る趣味なんかねぇよ」
『私も男を縛る趣味などないのだが…』
そう、唯一の問題なのは俺を再び鎖で雁字搦めにしなければならないのだ。
こればかりは俺も茅場もやりたくなどない…。
『まぁ仕方があるまい…』
茅場は諦めたようで、権限を行使させて鎖を出現させ、俺を吊し上げると鎖で雁字搦めにした。
なんかやだなぁ、こういうの……早く来ないかなぁ、アスナ…。
「はぁ、アスナだったら喜んで縛られてくれたのに…」
『キミは彼女と一体何をしたのかね!?』
「ふ、そんなことを聞くのは野暮ってものだぞ…」
あ~あ~、何も聞こえない~。ま、何はともあれ……ミッションコンプリートだ!
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
キリトさん、アンタって人はアスナさんに一体何をしたんだい?と、
自分で書いておきながらそう思った刃でしたw
え~今回は原作でアスナさんが一生懸命頑張ったところでしたが、本作ではこんな感じです。
PoHですが、予想が出来る人は分かるかもしれませんが・・・彼、伏線です、フラグです!
彼が発した『怒り』と『楽しみ』、気味が悪いなぁ・・・(黒笑)
次回から「ヨツンヘイム編」になります、4話程ですね。
それではまた・・・。
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第21魔です。
キリトさんが活躍いたします、加えて色々とはっちゃけていますw
意外なアイツの名前も・・・。
どうぞ・・・。