No.548091 少年達の挽歌 日韓戦争編 第五話2013-02-24 11:59:37 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:723 閲覧ユーザー数:702 |
第五話 二〇九高地の戦い
第六小銃分隊は明日に控えた進撃の準備に追われていた。
塹壕の中で小野寺上等兵達が荷物を纏めていると遠くから砲撃音が聞こえ、顔を向けると遠くに黒煙が漂ってた。
すると頭上を高速で二機の爆装したF-5B『飛龍』戦闘機が飛び去って行く。
ゲリラ掃討作戦は十日間に及んだが、町や村をいくつも潰すことで補給路を確保した。
方法はいろいろあるが第六小銃分隊の分隊長前田軍曹のやり方は残虐性に富んでいる。
あるときは町の広場に住民を集めて機関銃で掃射して殺したり、あるときは疑わしい住人を拷問に掛けたりと悪い意味で軍の中で飛び抜けた軍人だ。
俺達は何も感じずただただ命令通りに動き、邪魔なものは殺すという単純作業に徹している。
戦争始まって一ヶ月がたった今、人を殺すことが日常になり何も感じなくなってしまった。
俺たち“臨時兵”の中には薬や酒に逃げる奴が多くなり始めたが上層部にとってはどうでもいいことだった。
程無く補給路が確保されたことを確認したソウルの朝鮮派遣軍司令部は韓国最後の拠点吉林への進撃再開を全軍に命じた。
現在第一師団が韓国軍が張った防衛線に穴を開ける為に砲兵部隊と機甲部隊を突撃させ空軍の戦闘機が支援していた。
第五師団は明日には第一師団の空けた穴を通って韓国軍を包囲殲滅させた後、吉林へ向う予定だった。
だが昼頃に塹壕で昼飯を親しい兵士達と食べていると陣地内に空襲警報のサイレンが鳴り響き、前田軍曹が飛び込んだことで何かが起きたことを感じ取った。
「すぐに戦闘配置に就け!作戦中止だ!」
兵士達はその場に昼飯を置くと銃を手に取って塹壕内に散らばった。
小野寺上等兵は近くの木で作られたトーチカに入って待機していると前田軍曹と副長である新海兵長の会話が聞こえた。
「前田軍曹、何があったんですか?」
「前線でISが一機出現した。」
「IS!」
前田軍曹から出た“IS”という単語に新海兵長は驚いた。
それは現在ある通常兵器を遥かに上回った性能を持った“兵器”だった。
「第一師団は壊滅、空軍は急いでIS教導隊を向わしている。」
「ですがここまで来るのに時間が掛かります。我々だけでは戦えませんよ?」
「ああ、だが少しぐらいは時間稼ぎになるだろうと上は思ってるんだろう。」
すると頭上を一機のF-5B戦闘機が爆音を響かせてながら飛び去って前線の方に向かって行くのが見えた。
機体には空対空誘導弾を満載しているのが見えた。
「あの戦闘機、ISと戦闘するつもりなのか!」
小野寺が叫ぶと隣にいた長井兵長が言った。
「無謀だ!ISに戦闘機で勝てるはずが!」
小野寺は銃眼に置いていた双眼鏡を手にとって戦闘機が飛んでいった方向を見てみる。
すると突然空に大きな爆発が生じて驚きつつもじっと見ていると青い塗装をしたISが飛び出した。
ISは四角い箱を出すとそこから大量のミサイルを発射する。
だがF-5B戦闘機からはフレアの光が見えたと思ったら一気に機首を下げて山の陰に消える。
すると山にミサイルが殺到して山頂が紅蓮色に染まったのが見えた。
「落とされたのか・・・・。」
それを見ていた兵士達は落胆した。
その時F-5B戦闘機が機銃を発射しながら登場したと思うと、ISが光って消えてしまった。
「何が起きたんだ?」
「戦闘機が・・・ISに勝ったんだ!」
何時の間にかに後ろにいた新海兵長は涙を流していた。
「ISは戦闘機の攻撃に耐え切れずに強制解除されたんだ。」
すると一人の隊員が「万歳!」と両手を挙げて歓声を上げるとそれにつられた兵士達が次々と万歳を始めた。
俺達は久しぶりに勝利の言葉を聞いて喜んだ時だった。
午後五時になり晩御飯の時間になって食事を取ろうと思い食堂となっているテントに歩いた。
食堂に入るとひとつのテーブルで新海兵長がパイロットスーツを着た男と楽しく会話しているのが見えた。
食事を受け取るとそれを運んで新海兵長の隣に座る。
「新海兵長、彼は誰ですか?」
新海兵長は興奮気味で目の前にいる男を紹介してくれた。
「コイツはさっきISを撃墜したパイロット、五十嵐中尉だ!」
その男は自分達と同い年に見えたが、その目からはなんともいえない威圧感があったような感じを感じた。
「自分は小野寺魁人上等兵です!」
「少しの間よろしくな。」
紹介を済ませた後、長い時間話を聞いたが少しも退屈を感じなかった。
ISとの戦闘の話や空軍での生活、空での戦いなど聞いた事は陸軍にいた自分には新鮮だった。
だが彼と数ヵ月後に殺し合うとはこの時は思ってもなかった。
その夜、小野寺がトーチカで寝ていると爆音と共に地面が揺れた。
すぐに飛び起きると陣地内にサイレンが鳴り響いて、迫撃砲が上空に向けて照明弾を発射する。
銃眼から十七式小銃を向けて照門を除いた時絶句した。
光が照らされた先には数え切れない韓国兵が銃剣を着けた小銃を構えて叫びながらこちらに走ってくるのが。
「撃って!」
織斑中尉の号令と同時に引き金を引く。
次々と発射され空薬莢が排出されて地面に転がる。
5,56mm小銃弾が次々と韓国兵に命中して倒していくが、韓国兵達は味方の屍を越えて突撃してくる。
すぐに弾が切れて弾倉を交換していると近くからパン!パン!パン!とリズムを刻みながら一発ずつ発射している音が聞こえ、ふと見てみると驚愕した。
一人だけ冷静に敵を見て狙撃している男はパイロットスーツを着た五十嵐中尉だった。
彼は少し横に銃口を逸らして射撃すると近くまで来ていた韓国兵の胸を貫いた。
「小野寺!すぐに対人地雷を起爆しろ!小野寺!」
五十嵐中尉の正確な射撃に見とれていた小野寺は隣にいた兵士に呼ばれると我に返り傍にあった起爆装置を叩いた。
起爆した対人地雷は爆発で高速で鉄球が扇状に飛び散り周囲にいた韓国兵に命中した。
鉄球はいくつもの身体を切り裂き内臓を曝け出して血飛沫がトーチカに降り注いぐ。
程無くしてラッパの音が聞こえると共に韓国兵達が撤退していくので射撃をやめた。
だが間髪入れずに何かが風を切る音が聞こえたと思いきや近くに配置された近SAMが吹き飛ばされた。
「急げ!すぐに防空壕に入れ!」
小野寺はトーチカを急いで出て、塹壕の中を砲弾の爆発が巻き上げた土砂を被りながら防空壕に飛び込んだ。
中には五十嵐中尉と織斑中尉の他多くの兵士達が座っていた。
「こっち来い、小野寺!」
奥から新海兵長が手招きして呼んだので傍に来て座った。
「さっき伝令に指揮所に行ったと聞こえたんだ。」
ふと新海兵長は語り始めた。
「第一師団が抜けた穴を通って韓国軍の大部隊が侵攻しているらしい。敵は俺達を包囲殲滅させるつもりらしい。」
「増援は?」
「すぐには来ないだろう。」
すると砲撃音が止むとすぐに韓国兵の雄たけびが聞こえた。
「俺達は生きては帰れないだろう。」
新海兵長がそう言って銃を取って防空壕を出て行ってから四日間、俺達は地獄を見ることになった。
食料は底を尽き空腹の中砲弾を毎日のように浴びせられ素人に近い“臨時兵”にとっては限界に達しようとしていた。
そして四日目を向え弾薬は手持ちのものしかなく、士気は極限まで下がっていた。
だが彼らには生きて帰るという気持ちが支えとなり今まで戦い続けられた。
しかし現実は若者たちに最後の試練を与えた。
「どんだけ俺達を殺したいんだ!」
ある兵士はそう叫びながらトーチカの中で十七式小銃を撃っていた。
小野寺が一人の韓国兵を撃ち殺して次の目標に移った時、照門を通して見えたのはRPG-29を構える敵兵をこちらに向ける見つけた。
「RPG!」
中にいた兵士達は急いでトーチカを出ようと急いだ。
発射された弾頭は的確にトーチカに命中して吹き飛ばし、逃げ遅れた兵士を焼いた。
小野寺は爆風で倒され背中に衝撃を感じ、手を後ろに回してさすってみた。
手の平を見ると赤黒い血がベッタリと付着しているのが見え、何かが背中に刺さったことが分かった。
「敵がなだれ込むぞ!後退しろ!」
小野寺は残った最後の抵抗手段、銃剣を抜いて構えた。
飛び込んだ韓国兵の小銃を蹴って飛ばし、地面に引きずり込むと腹に何度も何度も突き刺した。
口から吐き出された血が顔面に付着して、温かい血で両手が真っ赤になる。
すると腹を蹴られて転がされると敵に銃底で殴りつけられた。
すぐに開いての腹を蹴り小銃を手放させたが、敵の方が力が強く押し倒され両手で首を締められた。
息ができない苦しみでもがくがどうすることも出来ずに意識が遠くのを感じた。
諦め掛けたその時、目の前にいた敵が突然いなくなり悲鳴が聞こえた。
咳き込みながら見てみるとそれは全身血で真っ赤に染めた五十嵐中尉だった。
彼は鋭い目つきで塹壕の中を銃剣尽きの十七式小銃を構えて歩いていた。
小野寺はすぐに敵兵の持っていたAK-102を手に取り近づいて来た韓国兵を次々と銃撃していた。
その時指揮所ではある決断が下された。
「大隊長!それでは外で戦っている兵士ごと殺すことになります。」
「うるさい!このままではここを奪取されるぞ!無線士、繋いだか。」
「はい。大隊長。」
「大隊長!」
「もう決定したことだ。あいつらごと道ずれにしてやる!」
そう言い、加畑少佐は受話器を取った。
「こちら209高地守備隊の加畑少佐だ。」
《こちら第二砲兵師団の市村少佐です。》
「いまから言う座標を砲撃してくれ。・・・・・・だ。」
《分かりました。・・・・・ちょっと待って下さい!ここは209高地じゃ・・・》
「いいんだ。ありったけの砲弾で砲撃してくれ。俺たちが生き残るにはそうするしかない。」
《・・・・・・了解しました。》
小野寺上等兵はボロボロになりながらも塹壕で戦いた時に砲弾が風を切る音が聞こえた。
直感的に小野寺はその場に伏せると同時に大量の砲弾が陣地内に降り注ぎ、韓国兵日本兵を問わずに吹き飛ばす。
頭上に大量の土砂が降り注ぎ、双方の悲鳴が聞こえる中小野寺の意識は途絶えた。
小野寺上等兵が起きると塹壕の中には双方の兵士の死体が折り重なって倒れていた。
あるところには双方の兵士が抱き合っているように見える死体や手足転がっているのが見えた。
だが池残った兵士の姿は見えなかった。
近くに落ちていたAK-102を拾い、銃弾が入っていることを確かめると塹壕内を歩き始めた。
数分ぐらい歩いた時、死体の中に這いずっている兵士を見つけた。
近づくと相手は仰向けに転がるとそれは前田軍曹だった。
「衛生兵を・・・衛生兵を呼べ。」
だが前田軍曹の言葉に小野寺上等兵は従わずに銃口を彼に向けた。
こいつみたいな屑を殺すには今しかない、軍曹の敵を取るには。
「や・・めろ、馬鹿な・・真似は・・よせ。」
小野寺は彼の言葉は一切聞かずに一回引き金を引いた。
銃口から撃ち出された三発の銃弾は前田軍曹の胸を貫いて絶命させた。
その後、戦闘ヘリが上空を飛び、空軍機が敵に空爆をして行くのが見え銃を捨ててその場に座り込んだ。
小野寺上等兵は負傷しているため、すぐに迎えに来たUH-1J改に担架で運ばれ乗せられた。
機内には他の負傷兵と共に担架に乗せられた五十嵐中尉が先に乗っているのが分かった。
「生き残ったな。」
五十嵐中尉はただそれだけを口にして眠りに着いてしまった。
ソウルの軍病院で何ヶ月ものリハビリをしている間、戦況は劇的に変わった。
なんとロシアと中国が参戦したんだ。
それを聞いた軍病院に入院していた兵士達は戦争が速く終わると口々に言った。
「この地獄から開放される。」それだけで俺達は舞い上がった。
だが年が明けて一月、吉林市攻略作戦に参加することが決まってしまった。
【後書き】
後もう少しで日韓戦争編も終わります。
ここで次の予告をしておきます。
『少年達の挽歌 革命編』
小野寺達“臨時兵”は戦争が終わり、日常生活に帰ることが出来たが本当の地獄はここからだった。
冷遇する政府、周囲からの冷たい目、毎日のように見る戦場の夢が彼らを待っていた。
だがある士官の発案で世界に自分達の存在を知らしめ、対等な立場を得る方法が発案された。
彼らは人生の後輩達に同じ経験させない為にもこの作戦に参加して、蜂起した。
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IS二次小説『学園の守護者』のサブストーリー。
少年達が虐げられるISの世界で彼らは様々な理由で戦争に赴く。
小野寺魁人の配属された部隊『第六小銃分隊』を通してISの世界の戦争、日本の社会を映し出していく。