No.547907

【DIABOLIKLOVERS】 月のない夜に

りえぞーさん

シュウ、レイジ、ユイがキッチンで紅茶飲んでお菓子食べてるだけの話です。妄想と捏造だけで書きましたが、広げた風呂敷は畳みましたのでご容赦下さい。■りんごの焼き菓子を作った女の子にクリーム舐めさせたり、ミルク飲ませたりと何て分かりやすいメタファーなんでしょう。

2013-02-23 22:15:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:11333   閲覧ユーザー数:11331

――――月のない夜に、少しだけ秘密の話しをする事がある。

 

彼らの通う学園への編入をすませ、(シュウ君が全部やってくれたらしい)

ようやく夜型の生活にも慣れてきた頃だったと思う。

試験勉強をしていた私は、レイジ君の管理する食事だけでは耐えきれず

キッチンへと向かっていた。

とにかく、甘いものが食べたかった。

 

そっとキッチンのドアを開けると、ボンヤリと灯る明かりが漏れてきて、

そこにいつも以上に気怠く生気のない彼が、その光りをボンヤリと眺めていた。

 

「シュウ‥‥‥君‥‥‥?」

 

 

彼は蜜蝋で温めたミルクしか飲まない。

古い小さなストーブスタンドの下に、一回分を温める蜜蝋を詰めた容器を置き、

そこへ古いアルマイトのミルクパンを乗せてゆっくり、ゆっくりとミルクを温める。

それをまたちまちまと、元の温度に戻ってしまう時間を掛けて飲んでいた。

 

初めて見てしまった時は正直どうしていいか分からず途惑ってしまったのだけれど、

特に怒ったり吃驚する様子もなく、私が見ているのにそれすら気にも掛けずに

ミルクを飲み終えると、慣れた手つきで道具を片付け、自分の棚に戻して鍵を掛ける。

その所作は、何かの儀式の様にも見えた。

 

いつもと違う気怠さは、月のない夜は吸血鬼としての力が全く出ないからと

彼は言っていたけれど(本当かどうかは知らない)この日だけは、傍目には年相応の、

綺麗で憂鬱な少年にしか見えなかった。

 

「‥‥‥」

「あ‥‥。誰か、居ると思わなかったから」

 

アップルクランブルを作りたかったけど、甘いものが大嫌いなシュウ君が

先客だったのでその場で諦めて、カナト君が隠している飴を一つだけ

貰って帰ろうとしたら、意外な返事が帰ってきた。

 

「今日はあんたの休戦日で、ここは中立地帯。‥‥‥勝手にしろ」

「‥そうなの」

 

我ながら間抜けな返事をしてしまった。

 

逆巻家がここへ越してきてから作られたルールらしいけど、

何でもこのレイジ君の徹底的に管理された食事に辟易してるのは私だけではなく、

彼以外の全員であった時は正直ホっとした。

 

シュウ君が言うにはその時は、家族会議という名の兄弟殺し合いにまで

発展しかかったけど、キッチンを中立地帯にする事と、

食事には一切毒を入れない事で合意したらしい。

 

なので、十畳以上はありそうなキッチンとしては広めな部屋なのに、

各自好き勝手に棚を置いているので、見た目よりは狭い空間だった。

さらにシュウ君はここへ、ダイニングテーブルも持ち込んでいた。

 

「シュウ君、シナモンの匂いは‥‥‥もしダメだったら言ってね」

 

彼の方を見ながら聞いてみる。

返事は当然というか無くて、アルマイトの容器に指を突っ込んで温度を確認していた。

思わずその指を凝視してしまったけど、どうしてここまで彼の指が好きなのか、

未だに自分でも判らない。

 

買い物当番だったので、勝手に追加して買っておいた

オートミールと紅玉を袋から取り出す。

後で咎められそうだったけど、この日は各自兄弟達の嗜好品や

お菓子の購入も頼まれてたので、全部チャラにできそうだった。

 

りんごは思いっきり甘く煮付けようと思っていたけど、

少し考えてからやっぱりレシピ通りにする事にした。

勝手にしろとは言われても、やっぱり先客の彼にはお裾分けと称して

食べて欲しかった。

 

「はぁ‥‥‥」

 

クラムの材料を混ぜながら思わずため息が出る。

試験勉強の逃避行動とは言え、少し量が多すぎたかもしれない。

 

「‥‥それ、一人で食うの?」

 

さっきまで気配がなかった彼が真後ろに立っていて、私の肩越しに

ティーカップを取り出しながら言った。

 

「レイジにどやしつけられる前に処分しろよ」

「誰に、ですって?」

「――――!!」

 

低くてよく通る声がキッチンのドアから聞こえた。

 

「失礼。――――貴方たち、でしたか」

「だったらどうした」

「いえ別に。――――私も試験勉強の息抜きをしに来ただけです」

 

そう言うと、私達二人には目もくれずに自分の棚へ向かい、

ティーセットと紅茶の缶を取り出した。

そして浄水器付きの水道から紅茶用のケトルに水を入れて火に掛ける。

 

「クラムが溶けますよ」

「あ‥‥」

 

肌寒い夜だったのでクラムを素手て混ぜていたのだけれど、それが災いの元だった。

シュウ君が私の肩に両腕を絡めたまま離してくれない。

無理矢理引き剥がそうとしたけど当然無理で、この日はあんまり

言いたくなかったけど、言うしかなかった。

 

「シュウ君、離して」

 

あっさり離してくれたけど、いつも以上に感情とか気配が無いので、

この反応は少し怖かった。

でもこのやりとりは、傍目にはただのバカップルにしか見えないだろうと思っていたら、

案の定レイジ君は、冷ややかなバカを見る目つきで私達を見ていた。

 

一呼吸置いてから、いつもの顔つきに戻って、

 

「そんなに私の作る食事に不満がありますか?」

「その棚見りゃ分かんだろ」

「貴方には聞いてませんよ。ユイさん、貴女はどう思っていますか?」

「‥え、あ、たまに食べる分には美味しいと思うけど、いつもだとちょっと‥‥」

「ちょっと、なんですか」

「インスタントラーメンが食べたい気分‥かな」

「成る程。でも貴女の血の事を考えると今が最上なので、我慢して下さい」

「‥‥」

 

にべもない。

途中だったアップルクランブルを仕上げて、予熱しておいたオーブンに入れた。

あとは焼き上がり待つだけなので、罪滅ぼし的に持ってきた英単語カードをめくる。

目の前の二人が掛けているダイニングテーブルには近寄りづらかったので、

シンクに寄りかかってパラパラとカードをめくっていると、突然指で遮られた。

 

「ここ、スペルが間違っていますね」

「!!‥‥‥」

「ミルクティーでいいですか?」

「あ、‥私の?」

「貴女の分ですよ」

 

そう言いながら邪魔そうに私の前を跨いで通り過ぎ、火を消す。

とにかくこのダイニングテーブルがキッチンを占拠しているので

折角の広さと機能性が台無しにされ、導線が狂っていた。

 

「‥‥‥座れば?」

「うん‥‥」

 

促されるままに一枚板の椅子に座る。

視線だけを蜜蝋の炎に移すと、小さくなってしまった火が頼りなさげに

蝋を溶かし続けていて、ゆらゆらと揺れている。

もうじき、彼のミルクが出来上がりそうだった。

 

「これ、あんた‥‥‥」

「え?」

 

最後の方は聞き取れなかった。何を言いたかったんだろう。

聞いてみたかったけど、焼き上がりを告げる無機質なオーブンの電子音に遮られてしまう。

レイジ君の紅茶も蒸らし終わったようで、人数分のカップに紅茶を淹れ始めた。

 

私もオーブンからアップルクランブルを取り出し、久々の焼き菓子の甘い香りを堪能した。

 

「嬉しそうですね」

「‥それは」

「ホイップクリームはどうします?」

「いいの?」

 

即答していた。先日、買い食いの口止め料と称して、ふ菓子一本とか、

たこ焼き一個とか、きのこの山3粒等々を部屋で食べていたのがレイジ君にバレて

各自室での飲食が一切禁止になり、ここの棚が増えたばかりだった。(私の分だ)

 

「‥‥‥‥、エプロンを」

「あ、でも汚れてるから」

「別に構いませんよ。貴女は掛けていて下さい」

「はあ‥‥」

 

今からだとハンドミキサーでも紅茶が冷めてしまうなと思っていたら、

吸血鬼的な見事な手さばきで、あっという間にホイップクリームが出来上がった。

 

「味見をして下さい」

「え?」

 

私の鼻先に、クリームのついた泡立て器の先端があった。

 

「紅茶が冷めてしまうので、早く」

「‥‥‥‥‥」

 

口調は穏やかで丁寧だったけど、眼鏡の奥の眼光は鋭く冷たくて、

私を躾けるときの目つきをしていた。

そんな目を見ながら私は舌先を突き出し、クリームを舐める。

 

「貴女のそういう素直な所は‥‥、これは各自取り分けでいいですか」

「‥あ」

 

大きめのグラタン皿で作ったアップルクランブルを見ながら言った。

クセなのか、レイジ君が取り皿とフォークを取り出そうとしていたので

それを制してから、自分で取り皿とフォークを選ぶ。

 

「失礼‥‥」

「レイジ君のは一々上品すぎるんだよ」

「一人だったらそのまま食べるのですか?」

「いけない?」

「いけませんね」

 

私はミトンを下敷きにしてアップルクランブルの皿をテーブルの中央に置き、

適当に取った取り皿とフォークをそのまま並べ終えると、

 

「そういう完璧すぎる所も息苦しいかも」

「分かりました‥、気をつけますよ。今夜だけはね」

「‥‥」

 

だんだんと腹が立ってきていた。

 

「中立地帯で戦争おっ始めるとか‥」

「――何してるの‥‥シュウ君」

「鳥の餌だな」

「オートミールをそういう風に食べるのやめて」

 

シュウ君が出来上がったミルクをちびりちびりと飲みながら、

まるで酒の肴のようにオートミールをポリポリとかじっている。

 

それを見た私はすっかり気が抜けてしまって、シチュー用のスプーンで

アップルクランブルを自分の分だけ取り分けて、ホイップクリームを

ボウルから直接すくい取り、一人食べ始めた。

 

(ちょっと甘すぎたかも‥‥)

 

でも久々に自分好みで作ったお菓子は美味しくて、来月は何を作ろうかと

考えていると、

 

「貴女はすぐ顔に出ますね」

「女ってのはどうしてこう砂糖を小麦粉で固めたもんが好きなんだ?」

「‥‥」

 

二人にまじまじと顔を覗き込まれていた。

そんなに変な顔をしてたのかと思うと急に恥ずかしくなってきて、

思わず謝ってしまう。

 

「何謝ってんの?あんた」

「これ、頂いても?」

「‥あ、‥どうぞ‥‥」

 

私は座り直すと、レイジ君が淹れてくれたミルクティーを飲んだ。

着香ではない、ふんわりとしたいい香りがする茶葉で、でもシュウ君は

気に入らないだろうと思ったら案の定、カップにシナモンスティックを

放り込んで放置していた。

レイジ君はそんな事は織り込み済みとばかりに、静かに私の作った

アップルクランブルを食べている。

 

私はこの光景に既視感を覚えたのだけれど、何故だかは分からなかった。

リビングの柱時計が夜中の十二時を告げると同時に、一度だけ心臓が跳ねる。

レイジ君は私に二杯目の紅茶を淹れた後、自分の食器を下げ、食洗機に入れた。

 

「そろそろ部屋に戻ります。‥使い方は?」

「覚えました」

「では、後は頼みます。‥貴女のアップルクランブル美味しかったですよ。

また作ってください」

「え、はい‥」

 

お世辞でも本気でも、真正面から言われる言葉というのは

何だかくすぐったくて、凄く嬉しかった。

 

 

「あれ‥?」

 

いつの間にか二杯目の紅茶がミルクティーになっていた。

犯人は分かっているのにキョロキョロしてしまう。

 

「‥これシュウ君の‥‥?」

「見りゃ分かんだろ」

 

どうして儀式みたいな方法で作ったミルクを私に分けてくれるのか、

皆目見当がつかなくて、暫くミルクティーと睨めっこをしていると、

 

「さっさと飲めよ」

「‥‥うん」

 

グラタン皿からアップルクランブルを直でついばむようにして

食べている彼を見つつ、紅茶を一口飲んだら少し落ち着いてきたので、

思い切って訊いてみる事にする。

 

「ねえ‥、いつからこうやって飲んでるの?」

「‥覚えてねえな」

「じゃあ、今日これを私に分けてくれたのは何で?」

「あんた、うるさい」

 

そう言うと、ミルクパンの底に残っていた最後の一滴を私のカップに落とした。

その時私の目は、まるでハイスピードカメラみたいになっていて、

落ちた滴を完璧に捉えたミルククラウンを、瞼の裏に焼き写していた。

 

 

おわり

 

 

 

 

 


 
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