第16魔 内通者
アスナSide
戦闘に勝利したわたし達が一斉に武器を突きつけたサラマンダーの
「誰の命令か、どんな理由でここに来たのか、吐いてもらうわよ!」
「だ、誰が言うもんか! 殺るならさっさと殺りやがれ!」
リーファちゃんが厳しい口調で言ったけれど、メイジの青年は汗を流しながらも首を横に振った。
すると男の子達が武器を下ろしたので、わたしとリーファちゃんも疑問に思いながら武器を下げた。
「中々良い戦いだったよ、相手が俺達じゃなければやられていたかもな」
「へっ?」
「「ハ、ハクヤ君(さん)?」」
ハクヤ君が親しげな口調で青年に話しかけたので、青年はそれに戸惑い、わたしとリーファちゃんも戸惑った。
「実は僕達、貴方と交渉がしたいんですよ」
「な、なんだよ?」
ヴァル君までもが笑みを浮かべて話しかけ、青年は未だに警戒している。
「……私達が今の戦闘で入手した
「………マジで?」
さらにハジメ君もそんなことを言いだした。
青年は周囲を見渡して、仲間の残滓が消滅しているのを確認してから聞いてきた。
「大マジっすよ」
「乗った!」
ルナリオ君の笑みを浮かべた表情に青年は笑顔で即決した。それに応じてハクヤ君達も笑みを浮かべた。
「はぁ、男って…」
「みもふたもないですね…」
「まぁまぁ、これも等価交換ということで…」
溜め息を吐きながら呆れて言ったリーファちゃんとそれに賛成するユイちゃんに、
わたしはSAOでキリトくんがやったのを思い返して、仕方がないと思った。
サラマンダーの青年に話しを聞いてみると、取引内容の良さに饒舌に喋り出した。
彼は夕方頃に、先程のメイジ部隊のリーダーであるジータクスに携帯で強制召集され、
今回のわたし達の討伐に駆り出されたとのこと。
昨日わたしが乱入した際にルナリオ君が逃亡を許可したランス部隊の隊長であるカゲムネを倒したという、
わたし、ルナリオ君、リーファちゃんを警戒して、あの数で討伐しにきたらしい。
ちなみにハクヤ君達の強さは想定外だったという。
誰からの命令かは彼は知らず、けれど上層部からの指示なのは間違いないと言った。
だが今日入った時に、かなりの数の軍隊が北に向かって行ったのを見かけたそうだ。
それらを踏まえてか、リーファちゃんが何かを考えて問いかけた。
「世界樹に挑戦するつもりなの?」
しかしその質問にも彼は否と答えた。なんでも最高レベルの装備を全軍に揃えなければまず挑むことはないと言った。
「まぁ下っ端の俺が知ってるのはこんなところ……それよりも、さっきの話しだけど…」
「あぁ、ありがとう。それじゃあ皆、彼にさっきの戦闘でもらったユルドとアイテムを…」
青年は話し終えると条件のことを持ち出してきたので、
ハクヤ君がそれに応じ、わたし達も先程の戦闘で手に入れたものを青年に渡した。
「いや~悪いな~♪」
「無問題っすよ。取引っつぅのはこういうもんすから」
嬉々としながらアイテムトレードを済ませて言った青年にルナリオ君は笑いながら答える。
彼の意地の悪そうな笑顔は、どこかキリトくんを彷彿させたのは間違いではないと思う。
そして青年はほとぼりが冷めるまで数日かけて領地に帰ると言って、元の道を引き返して行った。
アスナSide Out
リーファSide
「ふぅ~……」
「リーファ、疲れたっすか?」
「う~ん、精神的に、ね…。あんな戦闘は初めてだったから…」
溜め息を吐くとルナ君が気を遣ってくれた。
どうにも地上でのあそこまでの戦闘は初体験だったのでかなり緊張したのと、ハラハラしたのがあった。
「アスナ、良い指揮だったよ」
「久しぶりだったからちょっと緊張したけどね」
「……まさか
「それはやめて!?」
ハクヤさんが褒めるとアスナさんは言ったけれど、ハジメさんの言葉には叫んで答えた。
「ママ、カッコよかったですよ!」
「えへへ、そうかな///?」
ユイちゃんに言われると今度は照れている。
確かに、戦闘が始まる前からのアスナさんは凛としていてカッコよかったと思う。
戦闘中も的確な動きを行っていた、それも『神霆流』の皆についていけるくらいに…。
「でも、今回は運が良かったですね」
「え、運が、良かった…?」
ヴァル君がそう言ったのであたしは思わず聞き返してしまった。何故、運が良かったのだろう?
「考えてみるっすよ、リーファ。今回の戦い、確かに空に飛べず戦い難かったかもしれないっす。
だけどそれはリーファを含めて相手も同じ、しかもボク達にとっては有利な方に傾いたんす。
ボク達は地上戦に向いているっすからね」
「あ、そっか…」
ルナ君の説明に合点がいった。今回の地上戦はあたしは当然ながら、相手にとっても不慣れなもの。
それに対してみんなはSAOで地上戦になれており、しかも集団戦での心得もあったようだ。
遠距離攻撃にも縁があったのだろう、それらの回避もバッチリだった。
本当にこの人達は別格だと、改めて思う。
「さて、それじゃあそろそろルグルーに入ろう?」
アスナさんがそう言ったので、あたし達は都市の中に向けて歩き出した。
都市に入ってみるとNPC楽団の陽気な音楽が流れてきた。
現在の時刻は深夜0時に近い、MMOではこれからの時間が一番の盛り上がりを見せるらしいけど、
普段のあたしは中学生ということもあるのでいつもならばここでやめているところ。
しかし、今回は兄の救出ということもあるので、一度ログアウトして母に話しをつけることをみんなに伝えた。
「そうだね、翠さんにも概容だけは伝えた方がいいかもしれないし…」
「全部はマズイから、やらないといけないことがあるとかで誤魔化せないっすかね?」
「一応それで聞いてみるよ。ちょっと失礼しますね」
あたしはみんなにそう言ってからベンチに座り、一度ログアウトした。
リーファSide Out
直葉Side
「ん、んぅ~……」
体をほぐすように伸びをしていると、携帯端末から着信音楽が入った。
見てみると長田君からであった。こんな時間になんだろうと思い、電話を通話にした。
「もしもし、長田君?」
「あ、良かった、ようやく出てくれた! 12回も電話したんだよ~!」
「そ、そんなに!? い、一体何があったのよ?」
電話に出てみると焦った様子の長田君の声が聞こえてから何回も掛けていたことに驚いた。
焦りと急ぎの様子から聞き出してみると…。
「シグルドが僕達を、領主のサクヤさん…いや、シルフを売りやがったんだ!」
「えっ……ど、どういうことなの!?」
彼の言葉に思わず耳を疑った、シグルドがシルフを売った……つまり、裏切ったということ?
そして長田君は話してくれた。
前々からシグルドの動きが怪しいと踏んでいた彼は、調査を続けてくれていた。
シグルドらしからぬ囮という行動を取ったこと、
あたし達と別れたあとに奴の行動を探る為にスキルで後を付けたところ、
奴がサラマンダーと密会していたこと、そのサラマンダー達はまず手に入らない通行証を身に着けていたこと、
奴らの密会であたしにトレーサーをつけたこと、
今日極秘裏にシルフ領主のサクヤとケットシーの領主とが正式に同盟を結ぶ調印式を行う為に中立域に出ていること、
そしてそこをシグルドがサラマンダーの部隊に襲わせることを聞いた。
なお、彼はサクヤに報せる為にすぐに場を離れようとしたが見つかってしまい、アバターが捕まったそうだ。
なんとドジな…。
「仕方がないわね、会談の場所は分かる?」
「詳しい座標は分からないけど、山脈の内側の『蝶の谷』を抜けた辺りって」
「分かったわ、いまから行ってみるから」
「が、頑張って!」
彼から場所を聞き出して、あたしはすぐさまアミュスフィアを被ってログインした。
直葉Side Out
To be continued……
後書きです。
交渉を終えて、そのあと内通者が発覚!
良くやった長田少年b
そして直葉はアミュスフィアを被って、現地へと向かう。
それでは次回で・・・。
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第16魔です。
戦闘が終了して、アスナ達は・・・。
ではどうぞ・・・。