No.54480

東方騒園義 えくすとら1

藤杜錬さん

『東方騒園義』は私がサイトで展開している東方Projectの二次創作小説です。
現代の高校を舞台にした異世界パラレル物の小説となっています。
これは騒園義の番外編の短編です。

2009-01-27 01:00:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1683   閲覧ユーザー数:1577

 

東方騒園義 えくすとら1

『一人ではない聖夜』

 

 

 クリスマスキャロルが町中に流れる12月。

 四季映姫は今にも雪でも降り出しそうな薄曇りの空の下、駅前で一人たたずんでいた。

「まったく、鈴仙ったらまた遅れて……。 やって来たら文句の一つでも言わないと……」

 首に巻いたマフラーを直しながら、待ち合わせた筈の時間を過ぎても一向に姿を現さない鈴仙優曇華院に対して一人文句を言った。

 ポケットから懐中時計を取り出した映姫の頬に冷たい物が触れる。

 映姫は驚いて空を見上げるといつの間にか空から白い粉雪がゆっくりと舞い降りはじめていたのだった。

 「……そう言えば、あの時もこんな天気で、やっぱり一人だったな……」

 手に持った懐中時計をみて幼い頃のクリスマスのことを映姫は思い出す。

 口元に小さく微笑みを浮かべ、映姫はその懐かしく暖かい思い出を思い出したのだった。

 

 

 カーテンを閉め部屋の電気もつけてない暗い閉め切った部屋の中、一人の少女が呟きを漏らす。

「はぁ、今日も一人のクリスマス、かぁ……」

 親が共働きで外に出ている上に、一人っ子で取りたてて仲の良い友達も殆どいない映姫にとってはクリスマスはいつも一人で過ごすものであった。

 母が通信販売で購入してきたクリスマスケーキを一人食べながら、誰もいない部屋でテレビをつける。

 スイッチを入れたテレビからはクリスマス定番のラブソングが流れて来た。

 学校から帰って来ると既にあったクリスマスプレゼントの箱も開ける気にはなれずそのままテーブルに置かれたままであった。

 しばらくぼーっとテレビを眺めていた映姫だったが、急にどうでもよくなったのか、ゆっくりと立ち上がる。

 そのままふらふらと歩いていき、ベッドへと体を投げ出す。

 テレビからは相変わらず、楽しげな声が響き渡るが、映姫は既にまったく興味がないのかその声にはまったく耳を貸さずに天井を見上げながらゆっくりとその手をかざした。

 ベッドの横にあるカーテンを閉めた窓から漏れてくる隣の家の明かりは、楽しげにゆらゆらと光を移すのが映姫にはとても羨ましかった。

「私一人のクリスマスなんてケーキがあってもプレゼントがあっても全然楽しくないよ……」

 その口から漏れたその声は、どこか鳴き声のようにか細かった。

 

 そうしてどれだけ時間が過ぎた事だろうか、唐突に静寂が終わりを告げ玄関のベルが鳴り響いたのだった。

「……誰……だろう?」

 映姫は物憂げに体を起こすと、そのまま玄関へと歩を進めた。

「どなたですか……?」

 玄関の明かりをつけゆっくりその扉を開ける。

「メリークリスマス!!」

 扉が開くと、そのかけ声と共に楽しそうなクラッカーの音が鳴り響いた。

「な……」

 予想もしなかった事に映姫は言葉を失う。

「クリスマスパーティへ誘いに来たよ、映姫ちゃん」

 そう言って姿を見せたのはサンタ帽をかぶり、クラッカーを手にして微笑んでいる優曇華院であった。

「お父さんもお母さんも働きに出ているって言っていたし、一人じゃクリスマスも楽しくないだろうからパーティに誘っても良いよっておかあさんが言ってくれたんだ」

 そう言って微笑みながら優曇華院はそっと映姫に手をさしのべる。

「あ……あ……」

 突然の事に言葉が出てこない映姫に優曇華院は難しい顔を浮かべる。

「映姫ちゃんは私の家のクリスマスパーティじゃ嫌なの?」

 優曇華院のその言葉に映姫は違う違うという風に首を横に振った。

「本当に……私も行って良いの?」

「うん、でなきゃ誘いに来ないよ」

 しばらく逡巡したが、その優曇華院の差し出された手を映姫はゆっくりと取る。

「ありがとう……」

 そう小さく呟いた映姫は優曇華院に微笑みを返す。

 その取った優曇華院の手は映姫にとって何物にも代え難くとても暖く感じられたのだった。

 映姫には優曇華院のその言葉と行動が、まるでたった一人残されていた暗闇の中に通じた一筋の光明のように映姫には感じられたのだった。

 

 

 そんな昔の事をふと映姫は思い出していた。

「わざと私を驚かそうと思って、内緒にしていたんだったね……」

 そんな事まで思い出していると、向こうから走ってくる見慣れた影が見えた。

「映姫ちゃん遅くなってごめん、待った?」

 そんな子供の時のクリスマスも、そして成長した今でも自分の支えになってくれている優曇華院の姿が映姫にはとても暖かく、そして大切な物に感じられた。

「ええ、待ちました。 こんな寒空の中待たせるなんてどういう……」

「あ、いやごめん……。 ついプレゼントを……」

 そこまで言いかけて優曇華院は慌てて言葉を切った。

「プレゼント……?」

 いぶかしげに声を上げる映姫に優曇華院は慌てて何でもないというようなジェスチャーをしてごまかす。

「な、何でもないよ。 だから気にしないで。 今日は私が遅れたから『伊吹』で映姫ちゃんの好きな物何でも驕るから許して、ね?」

 そう言って手まで合わせられると映姫はこれ以上追求する事も出来なかった。

「判りました、今日の所は聞かなかった事にしてあげます」

「さすが、映姫ちゃんっ!?」

「まったくあなたは……」

 指をパチンと鳴らして喜ぶ優曇華院を見て、映姫はしょうがないというように小さくため息をついた。

「それじゃ早く行こうよ。 此処にいつまでもいたら私達風邪引いちゃう」

「まったくそれは誰のせいだと思ってるんですか」

「だから謝ってるじゃないー」

 そんなくだらない、しかしとても大切なことを喋りながら、少女達は駆け足でその場を去る。

 空から降る雪はゆっくりとその量をまし、少女達の姿を白い世界の中へと隠していくのだった……。

 

 

   A

    Happy

     Happy

      Christmas!!

 

 

Fin

 

Written by RenFujimori 2008.December.

Copyrightc 上海アリス幻樂団様&藤杜錬

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択