まえがき コメントありがとうございます。月たちの亡命作戦も無事に終わり、今回は閑話ということで現代での北郷家の日常をお送りします。改めて思うと出てくるのはほとんどは私が考えた人物ですね。オリジナルを書く気分で書かせてもらいます。それではごゆっくりしていってください。
皆様はじめまして。北郷鞘香と申します。聖フランチェスカ1年生で女子寮通いでただ今登校中です。本当はお兄ちゃんと毎日登校する予定だったのになぁ。私が入学してから二月経ったら鹿児島のお婆ちゃんの家に滞在しちゃうし、それで一度鹿児島に行ったらお婆ちゃんの知り合いのとこに修行に行っちゃったってお婆ちゃんに言われたからなぁ・・・。
「私に一言くらい連絡入れてくれたっていいじゃない・・・。」
かれこれ二ヶ月は会ってないし声も聞いてない!愚痴の一つも出るよ・・・。これじゃあ私が聖フランチェスカに来た意味がないもの。全てはお兄ちゃんと少しでも一緒にいるため。それと、お兄ちゃんと肩を並べられるようになること。けど、一番重要な問題は・・・
「私のお兄ちゃん分が枯渇するうううううぅぅぅぅぅ!!!」
お兄ちゃんの香りがない!声が聞きたい!姿を見たい!手作りの料理が食べたい!言いだしたらキリがないけど・・・。戻ってきたらうんと怒って甘えるんだから!私が怒ってもお兄ちゃんは、
「ごめんごめん。」
って頬を描きながらサラッと流されるだけなのも分かっているんだけどね。
「鞘香ちゃん、そないに大声で叫ぶと目立つで~?」
「あ、及川先輩。おはようございます。」
「おはようさん。」
この人はお兄ちゃんのクラスメイトの及川さん。お兄ちゃんが言うに悪友の間柄らしい。私は入学してからお兄ちゃんと一緒に通学してたから結構お話しているし、たまに食堂で一緒にご飯を食べたりしてる。流暢な大阪弁が特徴的な人だ。
「いや~、あまりにお兄ちゃんが戻ってこないわ連絡を寄越さないわでストレス溜まりまくりなんですよ。」
「そういやカズピー、公欠とってから全然学校来とらんな。どこに行っとるん?」
「それは私も分からないです。むしろ私が知りたいくらいです。」
「そうなんやなぁ。じゃあ知っとるんは鞘香ちゃんとこのオトンとオカンっちゅうわけか?」
「はい。ですが二人とも教えてくれないんです。とりあえずお兄ちゃんは元気にしてるからって言伝をお婆ちゃんから貰うことはできたのですが、私はこの耳でお兄ちゃんの声を聞きたいんです!」
「携帯使えばいいんちゃう?」
「はぁ・・・及川さん、私がそんなことも考えつかないほど頭が弱い女の子と思っていたのですか?それは心外です。」
ジト目でわいを見てくる鞘香ちゃん。この視線は毎度ながら辛いわ~。負い目はないはずやのに冷や汗がだらだらと垂れてきよる・・・。
「せ、せやな、鞘香ちゃんがこんなこと試さないなんてありえんしな。」
うちの学校で学年首席に君臨する鞘香ちゃん。わいが頭で勝てるような相手やないのは重々承知しとるからな。こういう時は経験上、潔く引くのが得策や。ちなみに、カズピーはうちの学年首席。この兄妹にいろんな意味で勝てるやつなんてうちにおらんやろうな~。
「お兄ちゃんの携帯なんですが、いつ掛けても電源が入っていないか電波の届かない所にあるあるって返事が戻ってくるんですよ。その返事がお兄ちゃんボイスなら何度でもコールするんですがねぇ・・・。」
「あ、あははは。」
流石のわいにもこればっかりは苦笑いしか出んかったで。鞘香ちゃんはカズピーのこととなると若干暴走するキライがあるんやけどなぁ・・・カズピーがおらんとストッパーがおらんからわいがどうにかせなあかんな!
・・・
「さやちゃんおはよ~。」
「おはよ~。」
私はいつもどおり友達に挨拶して自分の席に座る。う~ん、お兄ちゃんがいない学校生活ってどこか物足りないんだよね~。勉強の方は何度も見たことあるのばかりだし、体育もお兄ちゃんと模擬戦をやるときほどの高揚感は味わえない。強いて言って面白いのといえば家庭科くらいだもの・・・。
「さやちゃん、またお兄さんのこと考えてるでしょ?」
「うん。」
「さーちゃんってホント北郷先輩のこと好きだね~。」
「私の脳内の90%以上はお兄ちゃんのことで埋まってるの!というか、あのお兄ちゃんだよ!好きになって当然でしょ!」
「い、いや~、あれは好きっていうか憧れだよね。文武両道に料理上手、気遣いもしっかりしてるし顔も良い。」
「陰ながらファンクラブもあるくらいだしね~。」
「お兄ちゃんは私の目標だからね。いろんなことにおいて。料理にしても剣道においても。」
というか、今思うに私以外の家族の人達のスペックが高すぎると思うの。お兄ちゃんやお父さん、お爺ちゃんはそれなりに分かるけどお母さんにお婆ちゃんがあんなに強いのはなんで?結構自信あるのにお母さんにまで負けるし・・・。
「それにしても最近は北郷先輩を見ないね。公欠とってるって聞いたけど、実際は何してるの?家庭の事情?」
「お母さんたちが教えてくれないの。」
「つまり、鞘香ちゃんも知らないっと。」
「うん。」
お婆ちゃんはお兄ちゃんと会って、元気にしてるから心配しないで。って言ってたから大丈夫なんだろうけど・・・顔を直接見たいなぁ。そんなことを考えているうちにチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくると同時に朝のホームルームが始まった。
・・・
鞘香が退屈そうにホームルームを受けている頃、鹿児島の北郷本家では、美桜と影刀が訓練場での鍛錬を終え、美桜が料理を作り影刀が新聞を読んでいるところだ。
「それにしても、儂と美桜だけじゃとこの家は広すぎる。少し小さくしても良いのではないか?」
「一刀が連れの子と外史から戻ってきた時のことを考えてこのくらいで良いのよ。それに、連れが一人とは限らないから。」
「一夫多妻ということか?」
「そうなる可能性もあるということよ。あの子は小さい頃からいろんなものに好かれやすい体質を持っているから。」
「人間だったり動物だったり時の運だったり・・・か。」
「私は動物にだけは好かれなかったものね。それが原因でヴリトラを使役出来なかった。あれが悔い残りだわ・・・。」
「竜を使役しようという考えに何故到達するのか分からんがの。あの頃はお前に儂に貂蝉、卑弥呼、管轤がおったのじゃ。戦力的にはあれ以上は不可能と思える程の布陣じゃったはずじゃが。指揮は范増がとっておったし、龍且に季布、鍾離昧と三人の猛将がおった。どこに不満がある?」
「龍を使役するなんて浪漫の塊じゃない!」
「・・・。」
我が妻ながらこういうことには目がない。普段は滅多に見せないような事を突然行ってきたり行動に移そうとするから困る。ヴリトラの件だってそうじゃ。どこで噂を嗅ぎつけたのかは知らんが、あの時もこやつの面白そうだから行こうの一言から朝一で五台山の頂上付近を目指し、質の悪いことに実際におったときは腰が抜けるかと思ったほどじゃ。
「そもそも、以前のお前は親しい者以外に厳しすぎた面があったからの。ヴリトラもそこらへんを察知しておったんじゃろ。」
「・・・そうね。けど、その面で言うなら一刀だったら・・・私が成し得なかったことを出来るかもしれないわ。」
「そうだな。」
あやつにヴリトラが認めるほどの器があるかどうかじゃが・・・。まぁ、今わし達が考えても仕方のないことか。
「とりあえず、美桜。早く飯を作ってくれ。」
「あっ・・・。」
・・・
美桜が大急ぎで朝食を作りを再開した頃、東京都内の北郷家アパートでは菊璃、霧刀が朝食を食べ終わりティータイムへと洒落こんでいた。
「ふぅ、やはりこういう休日の朝はブラックを飲みながらのんびりするに限るね。」
「そうですね。まぁ、私は家事が仕事ですのでいつもこうですが。」
菊璃は薄紅色の髪を揺らしながらカフェオレに口をつける。こういう仕草はいつ見ても絵になるな。会ってもうすぐ二十年になるがそういう清楚な雰囲気は昔と変わらないと言っても過言ではないだろう。惚れた影響は少なからずあると思うがね。
「ほんの三年前は休日は私と霧刀さん、一刀に鞘香の四人でティータイムを過ごしていたのに、早いものですね。」
「そうだな。昔は一刀の後ろをずっと鞘香がついて行って何でも真似しようとしていたな。一刀がブラックを飲み始めて鞘香も飲んだらあまりの苦さに顔を顰めたのは今でも覚えている。くくっ、あれは傑作だったな。」
「ふふっ、そうですね。あとは、鞘香が始めて作った料理には正直参りました。私に似たのでしょうか・・・。」
「確かに。あの料理にはどこか見覚えがあったもんな。菊璃の手料理を食べて私が一週間寝込んだのは今でも鮮明に覚えているぞ。」
「は、早く忘れてください!//」
「あはは。」
そうなのだ。今でこそプロの料理人が舌を巻くほどの腕前だったが、作り始めた頃の腕前といえば私も毎日どうやって言い訳をしようか考えていたほどだ。どうすればあのような毒々しい色の料理が出てくるのか心底頭を抱えた。そして、それは見事鞘香に遺伝したのは言うまでもない。
「まぁ、鞘香の料理の毒見役はいつも一刀だったからな。あいつの苦々しい表情は共感できたのは複雑だが、それとは別にあの子もいずれ菊璃のように上達するのだろうと思っていたよ。」
「あの行動本質は一刀が中心でしたから。それは今でも変わりませんが。」
「鞘香も早く一刀離れ出来ればいいんだが・・・。」
「それはないでしょうね。一刀離れをさせたいならば一刀が外史にいる今が好機ではありませんか。」
「それも一理あるが、逆に離れすぎて戻ってきた時に拍車がかかり酷くなる可能性もあるぞ。」
「それもそうですねぇ。」
これからも私たちの悩みは絶えないようだ。しかし、子の心配が出来るだけでも親として嬉しいことだ。
「菊璃、おかわりを貰えるかな?」
「はい。お砂糖とミルクはどうしますか?」
「・・・私がブラックしか飲まないと知っているだろう。」
「えぇ、わざとですから♪」
全く、妻の茶目っ気も相変わらずのようだ。それを可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みというやつだろうな。
・・・
授業が終わり、お昼休み。今日は友人二人と教室で昼食をとることにした。
「さやちゃん、今日のお弁当は?」
「今日のはしその炒飯と鳥の唐揚げ、それとシーザーサラダだよ。」
「相変わらずお弁当凝ってるね~。ねぇ、私のお嫁さんに来ない?そしたら三食ご飯付きだよ?」
「そのご飯は私が作るんだよね。」
「勿論♪」
「・・・私に得がない。」
「私とお風呂に入れて私と一緒に寝れるよ!」
「それならお泊りでいいじゃない。」
「えぇ~。」
「まぁまぁ。それにしても、いつもお弁当美味しそうだな~。そんなにバリエーションがあるとお料理楽しいでしょ?」
「そうだね。けど、それはあくまで一般人視線からの意見。うちではプロの料理人が舌を巻くレベルの人たちが三人はいるから・・・。」
「三人?」
「お婆ちゃん、お母さん、お兄ちゃん。」
「さやちゃんも結構なものだと思うんだけどなぁ。」
「いや、妥協は出来ないよ。というか妹より料理が上手い兄って・・・はぁ。」
さやちゃん家って今思うと凄い人たちばっかりだなぁ。いろんな意味で。前にさやちゃん家にお邪魔させてもらったんだけど・・・おじ様もおば様も凄い美男美女!うちの両親
と年が近いってぜっんぜん思えないもん!まぁ、あの親あってさやちゃんありとは思うけどね。
「さやちゃんって目標が凄く高いんだね。」
「そうなの。剣道も全国学年1じゃダメなの。正直、私以外の家族だけで世界征服できそうで怖いわ・・・。」
「・・・。」
凄く真剣な顔付きで言わなくても・・・。目指してるものがあまりに遠すぎるよ。
・・・
午後の授業も終わり、二人は部活に行くと言って私は一人で下校中。私も部活なんだけど、うちの学校に相手になる人がいないから行くかどうかは任意でいい。あっ、お兄ちゃんは除くけどね。
「PiPiPi・・・PiPiPi・・・」
ん?携帯が鳴ってる・・・。
「もしもし。」
「あ、鞘香?今大丈夫?」
お母さんだった。なんだろ?
「うん、大丈夫だよ。」
「たまにはうちにも帰ってきなさい。ほら、今度三連休があるじゃない?」
「そうだね。」
「その時にお爺ちゃんとお婆ちゃんもこっちに来るって言ってたから。」
「・・・お兄ちゃんは?」
お爺ちゃんたちが帰ってくるのは嬉しいけど・・・お兄ちゃんがいないと私が何のために頑張ってるのか分からなくなるの・・・。
「まだ帰ってこないわ。」
「じゃあ、私が帰る意味ないもん・・・。」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんが鞘香の鍛錬に付き合ってくれるって言ってたわよ?それでうんと強くなって、一刀を見返すのもいいと思わない?」
「お兄ちゃんを見返す・・・。」
お兄ちゃんを見返す・・・か。そんなこと考えたこともなかったなぁ。私はお兄ちゃんに追いつこうとしか考えてなかったから。
「・・・うん。家に戻るよ。私、頑張るからね!」
「分かったわ。鞘香が帰ってきたならお父さんも喜ぶわね。じゃあ、楽しみに待っとくわ。」
「じゃあね。」
ぷちっ。電話を切ると私の中でやる気がこみ上げてきた。
「よーし、やるぞーーー!!」
待ってね、お兄ちゃん!私、今よりもうんと強くなってみせるんだから!!
あとがき 読んでいただきありがとうございます。鞘香の一日の日常にスポットを当ててみました。北郷家の男は妻が家事をしてくれるので相当楽できます。一刀は主夫ですので嫁が脳筋だろうが軍師だろうが未亡人だろうが関係ないのです!あ、漢女は無理ですよwそれでは次回 第五節:華佗、大忙し。突然の遠征 でお会いしましょう。
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何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。