No.543045

魔法少女リリカルなのは -九番目の熾天使-

第二十話『忍び寄る影』

2013-02-11 20:34:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:7387   閲覧ユーザー数:4590

 

 

 

 翌日、俺達は蒐集を中止した。理由ははやての容態の急変だ。

 

 突然胸を押さえるように苦しみだして倒れたのだ。

 

「はやて!?」

 

「う……うぅ……ぅ……」

 

 ヴィータは涙目ではやての名前を呼び続け、シグナム達は救急車を呼んだ。

 

 そして今現在、はやては病院のベッドで寝ている。ヴィータははやての病室で見守り、俺とシグナムとシャマルは石田先生に事情を話している。

 

 因みに、リィンは外でザフィーラと共に待機している。

 

「……思ったより闇の書の浸食が早いわ」

 

「もう形振り構っていられない、ということか……」

 

 はやてを病院に入院させ、家に帰るとシャマルとシグナムが重い表情で言った。

 

「急ぐか……」

 

 兎に角、闇の書を完成させないといけない。ならば、俺達は蒐集をするだけだ。

 

「これからは私も戦闘に参加しよう」

 

 しかし、俺達には新しい家族がいる。蒐集速度はかなり上がるだろう。これならクリスマスには間に合う。流石にイブまで間に合わせたかったが、仕方ない。

 

 今年のクリスマスは、はやてに家族と共に過ごさせてやる。それが俺からのプレゼントだ。

 

 

 

 時は流れて12月22日。

 

 闇の書の蒐集は606ページにまで集まり、もうすぐで完成する。

 

 はやてはまだ入院しているが、毎日お見舞いに行っていので、多少は寂しさが紛らわせていると思いたい。

 

 だが、こんな生活はもうすぐ終わる。はやての病は治り、新しい家族と共に過ごすのだ。

 

 さて、そんなこんなで今現在、俺はいつもの公園で一休みしている。

 

 何か考え事するときはやはりここが一番良い。

 

 俺がそう思って目を瞑ると、こっちに向かっている人の声が聞こえた。

 

「……。……しょ?」

 

「さ……? で…………」

 

 数は二人。声の高さからして子供。男子と女子だ。だが、2人共聞いたことがある声だった。

 

 そう、あれは確か…………

 

「あ、煉!」

 

「……え? 煉……君?」

 

 俺が片目を開けて見ると、側に立っていたのは王騎と高町だった。

 

「またここで昼寝か?」

 

「ああ、ここは気持ち良いからな」

 

 王騎とはちょくちょく話をしたりしているので、割と仲が良くなった。何度か相談も聞いたことがある。

 

「煉君! 覚えてる? 私だよ、高町なのはだよ!」

 

 高町が興奮して俺に詰め寄ってくる。そう言えばこうして話すのは半年ぶりじゃないだろうか?

 

「久しぶりだな、高町」

 

「うん! すっごく久しぶりだよ! だって煉君、あれから店にずっと来ないもん!」

 

「ああ、そういえばそうだったな」

 

 またあんな風に勧誘を喰らったら、行く気も失せるってものだ。ま、()は家があるがね。

 

「なのは、知り合いだったのか?」

 

「うん! 半年前にお店で知り合ったの!」

 

「へぇ、そうんなんだ。でも、なんでずっと店に行かなかったんだ?」

 

「正直言うと忘れてた、ははっ」

 

 基本、理由の殆どは忘れていたんだけどね。だって、ここ最近それどころじゃなかったもん!

 

「一度くらいお店に来てもいいのに……あっ、そうだ! 煉君、今から家のお店に来ない? 王騎君も一緒に」

 

「ああ、いいねそれ。俺は賛成だよ」

 

「高町の? まあ別に構わないが?」

 

 幸い、財布は持ってきている。あの美味いケーキやシュークリームを食べてみたいな。

 

「それじゃ、早く行こ!」

 

 そんなこんなで俺達は翠屋に向かった。そう言えばここ最近、神崎を見ないが何処に行ったのだろうか? ま、鬱陶しいからいないほうが助かるが。

 

「いらっしゃい……あら、なのはに王騎君、それに……煉君じゃない! 久しぶりね!」

 

 翠屋にやって来た俺達を出迎えたのは高町美由紀さんだった。

 

「「お邪魔します」」

 

「席はあっちのテーブルでいいかな?」

 

「ええ、構いません」

 

「うふふ、それじゃあごゆっくり」

 

 俺達をテーブル席に案内し、仕事に戻る美由紀さんだったが、去り際に高町に何か囁いていた。その後高町は酷く狼狽えていたようだが、一体何をいったのだろうか?

 

「やあ煉君に王騎君、いらっしゃい。……煉君は久しぶりだね」

 

 カウンターから声を掛けられたのでそちらを向くと、マスターが立っていた。だが、微妙な感じなのは仕方ない事だろう。

 

「……ええ」

 

 ま、向こうも敵意は無いから心配は無いだろう。ちょっと警戒心を向けられるのは仕方の無いことだ。

 

「煉君と王騎君は何がいいかな?」

 

「俺はアールグレイにレアチーズケーキ」

 

「俺はシュークリームとオレンジジュースだな」

 

「うん、分かった。お姉ちゃーん!」

 

「はいはーい。今行くよー」

 

 注文から待つこと五分、俺達はそれぞれ頼んだ物を味わっていた。

 

「相変わらず美味いな」 

 

「ああ、本当に美味い。紅茶も中々の物だ」

 

「でしょでしょ?」

 

 高町は少し嬉しそうだった。自分の家の商品を褒められて嬉しいのだろう。

 

 そして少し雑談した後に高町が急に話題を振ってきた。

 

「そう言えば煉君、今は何処に住んでるの? まだ野宿なの?」

 

「ん? 煉って家が無いのか?」

 

 そういえば王騎は知らなかったな。

 

「ああ。だが今は知り合いの家に居候しているんだ」

 

「え? そうなの? いつから?」

 

「半年前かな?」

 

「ええー! それなら何で家に来なかったの!?」

 

 いやだってさ…………普通は嫌だろ? まあ、はやての時も嫌だったが、正直言うと家で過ごしたかったんだよなぁ。だから良い機会だと思って居候している。高町の時は……間が悪かったということで。

 

「へぇ。お前も結構大変なんだな」

 

「そうでもないよ。少なくともお前よりかは悩んでないよ思うけどな……くくっ」

 

「あ、おまっ!?」

 

 俺はニヤけながら王騎を見た。

 

「え? 王騎君、何か悩んでたの?」

 

「ああ。王騎は数ヶ月前、俺にt「ま、待て煉! それを言うな!」くくっ、だそうだぞ、高町。詳しい事は本人から聞くんだな?」

 

 俺がネタを披露とすると王騎は激しく動揺しながら言わせまいとする。そんなに恥ずかしがらなくてもいいんだけどな?

 

「てめっ、よくも裏切ったな!?」

 

「裏切っちゃいないさ。俺はあの事で制約を受けた訳じゃないし。それに、話すなとは言われてない」

 

「うぐっ」

 

 うん、ちょっと楽しい。

 

「ねえねえ王騎君、何を悩んでたの?」

 

「な、なのは!? い、いや、これは……そ、そう! もう解決したからいいんだ!」

 

「えぇー! なのはだけ仲間外れなんてズルイよ王騎君、煉君! なのはにも教えてよー!」

 

「だ、だから、な? その……あーもう! 煉、何とかしろよ!」

 

「嫌」

 

「即答!?」

 

「教えてよ王騎君!」

 

「くくくっ、精々頑張れ」

 

「ねえ、何の話か教えてよー!」

 

「う、裏切り者ぉおおおーー!」

 

 こうして俺は王騎の反応を見ながら楽しんでいた。コイツ、弄ると結構面白いな。

 

 俺はこの一時を楽しんだ。

 

 ……だが、この数日後に起こる事を俺は予想もしていなかった……。

 

 

 

 

 

 

 地球付近の次元空間内 管理局次元航行艦『メンレム』内 艦橋

 

 

 

「カラレス提督。第97管理外惑星『地球』付近に到着しました」

 

「うむ……。速度落とせ!」

 

「了解。速度を落とします」

 

 カラレス提督と呼ばれた壮年の男は満足げに頷き、速度を落とすように命令する。

 

 何故、管理局である彼等がこんな辺鄙な次元世界に来たか……。それはとあるロストロギアが関係していた。

 

 『闇の書』……彼等の狙いはそれである。

 

「これより闇の書の主を捜索する! 地球に全サーチャーを送り込み、闇の書の主を全力で探し出せ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 彼は命令を下した後、艦長席に深く座り直してモニターに浮かんだ映像を見る。

 

 そこに移っていたのは赤毛の少女で騎士のような服装をしていた。そして、彼女の手に持つ本……剣十字の紋章が刻まれた魔道書、闇の書だった。

 

「俺は運が良い。今年は憑いているぞ」

 

 彼がその映像を見つけたのは偶然だった。この最新鋭の次元航行艦『メンレム』の巡回任務の際、偶然近くを通った無人世界でこの映像を映したのだ。

 

 彼は野心家だった。捜索指定ロストロギアである闇の書を見つけたとき、彼は笑みを浮かべたのだ。

 

 ―――これでまた昇進できる、と。

 

 カラレス提督はすぐさま報告し、この件を自分の手で解決して昇進を狙っていた。だが、リンディ提督という者に先を越されていた。

 

 ここからはもう想像できるだろう。

 

 彼は管理局の命令を無視し、この地までやって来て闇の書を葬り去る事で昇進を狙っていたのだ。命令を無視しても結果を出せたなら多少の事なら不問に出来る、そう思って。

 

 いや、確かに結果を出せば多少の違反くらいは不問にされる。

 

 そういう管理局の仕組みがあるが為に彼のような人が生み出されたのだ。

 

「これでまた昇進できる。いや、これは勲章ものだぞ?……くくく、くははははははは!!」

 

 彼は大いに笑った。

 

 自分に富と名声が転がり込んできた事に……。

 

 

 

 


 
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